僕らは人生の中で、どのようなリーダーを見て育っているのでしょうか。
小学生や中学生のときにリーダーはスポーツが得意な人が多く、球技大会でクラスのチームをまとめるのもこのような人たちです。学級委員長も、勉強な得意な人よりはスポーツが得意な人がやることが多いと思います。子供の頃からリーダーシップを学ぶのはこの人たちです。僕なんかはスポーツもそれほど得意ではなく小学校の頃は勉強もできなかったので、リーダーになることは夢のまた夢だったのですが、それでもこういうリーダーに憧れ、いつかは自分もそうなってやろうと思っていました。
中学校と高校の頃は、プロ野球を良く見ました。埼玉県に接している東京都練馬区に中学校があり、当時は西武ライオンズの黄金時代だったので、西武が巨人などセ・リーグの人気球団を次から次へと粉砕していくのが痛快でした。プロ野球を見ていると、実に多くのリーダーの姿を知ることができます。管理野球を徹底した西武ライオンズの広岡監督とそれを引き継いだ森監督。全然うまくいかなかった巨人監督時代の王監督。野茂とイチローを初め、数多くの大リーガーを輩出した近鉄とオリックスに在籍した仰木監督。ID野球で弱小ヤクルトを日本一に導き、さらに楽天イーグルズでそれを今にも再現しようとしている野村監督。徹底的に選手とファンを誉めて持ち上げて、弱小でしかも人気のなかったチームを、全く正反対の強力で人気のあるチームにしたロッテマリーンズのバレンタイン監督と日本ハムファイターズのヒルマン監督。
このように、僕らは子供や学生時代に、スポーツをやることやスポーツを見ることを通してリーダーシップを学んでいるのです。でも面白いことに、社会人になると今度は勉強が出来るか出来ないかでリーダーが決まっていくことが多くなります。
もちろんすべてではないのですが、勉強ができて、いい大学に入ったり、あるいはMBAをとったりする人というのは、どちらかというと小学校や中学校時代に球技大会でクラスをまとめていたような人ではありません。どちらかというとスポーツはそこそこにして、勉強を中心にやっていた人たちです。そしてプロ野球のテレビ放送を熱心に見ていたり、授業中に日本シリーズ中継をラジオで聞いていたというよりは、その間に問題集を解いていたりした人たちです。
別に何がいいとか何が悪いというつもりは無いのですが、子供時代に多くのリーダー経験を持ったり、あるいは多くのリーダーを観察したりした人というのは、大人になって仕事でリーダーとなる人と逆になっていませんか?リーダーとしてのトレーニングを若いうちに受けた人ではなく、全くトレーニングされていない人が優先的にリーダーになってしまっていませんか?
それが僕が感じている疑問です。
その傾向が最も顕著に現れるのはMBAにおいてです。MBAというのは、場合によっては勉強しただけで人に「リーダー資格」を与えてしまう結果になります。若い頃に全くリーダーについて学ばず、自分の狭い世界に閉じこもって勉強ばかりしていたような人であっても、一生懸命勉強すればMBA資格は取れてしまいます。MBAというのは、リーダーとしての能力が全くない人間であっても、急に上級管理職にしてしまうことがある、極めて危ない学位ではないでしょうか?
例えば”MBA リーダー”でグーグル検索をすると、MBAホルダーであるだけでビジネスリーダーの仲間入りだと言わんばかりのヒットが大部分です。でも繰り返しますが、MBAホルダーというのはどちらかというと学生時代にリーダーの訓練をしてこなかった人たちが多いのではないでしょうか?僕はここに大きな矛盾を感じます。
MBAの問題点を記した著名な経営学者、Henry Mintzbergの書物「MBAが会社を滅ぼす」というのがあります。Nikkei BPに紹介記事がありますし、英文ですけど、Amazonではしっかりしたレビューがあります。僕はこの本をちゃんと読んでいませんが、こんなところがポイントのようです;
- Conventional MBA programs train the wrong people in the wrong ways with the wrong consequences: 一般的なMBAプログラムは、間違った人に間違った方法でものを教え、間違った結果を導いています Amazon
- According to Mintzberg, management education is really business education, offering specialized training in the functions of business rather than general education in the practice of managing: Mintzbergによると、マネージメント教育として行っているものは本当はビジネス教育でしかない。マネージメントを実践するための全般的な教育ではなく、ビジネスの個別の機能のための専門的なトレーニングを提供しているにすぎない。Business Book Review
- Whatever you do, don’t confuse an MBA with a license to manage. どんなことがあっても、MBAを持っているということと、マネージャーとしての資格があるということを混同してはならない。MIT World
僕自身は協和発酵工業で働いている30歳ちょっとすぎのときに、非常に良いリーダー教育を受けたと思っています。その教育とは、仕事とは全く関係のないレクリエーション行事の幹事をやらされたことです。30歳は会社ではまだひよこに近い訳ですから、仕事の上ではマネージャー的なことはなかなかやらしてもらえません。かといってレクリエーション行事は遊びかというとそういう訳ではなく、200人の社員をエンターテインする責任がある訳ですから、考えようによっては仕事なんかよりもよほどプレッシャーは強いです。そのプレッシャーの中で10数人をまとめて、一つの行事を成功させるというのは非常に良い経験でした。
僕自身はその中で、ビジョンを明確に伝えることの大切さと、その明確のビジョンの上に各人が自発的にそれを膨らましていくように促すことの大切さ、そして緩い管理の中で知らず知らずにそれが自分の思っているよりも数倍のものに仕上がっていくプロセスを知ることが出来ました。
最近の日本企業では、このようなレクリエーション行事を減らしていく方向にあると聞いています。協和発酵ではまた、労働組合役員を若い人に経験させて、やはり若いうちにリーダーを経験させる仕組みもありましたが、労働組合もやはり最近の日本企業では重視されなくなってきています。その一方で高齢少子化の影響で、部下のある管理職になるのはかなり歳になってからになってしまっています。つまり、リーダー教育を受ける機会が日本社会でますます減ってしまっているように思います。
その一方で日本人の間のMBA信奉は相変わらず強い訳ですから、日本はますますこの「最もリーダーになってはならない人がリーダーになってしまう仕組み」が強化されていくのではと心配になってしまう訳です。
ちなみに、僕がこの考えを強く持つようになったのは、一応MBAは持っていたものの、それ以外の人間的資質においては全くリーダーに不向きだったという人を上司に持った経験からです。小学生の間にリーダーになれなかったどころの騒ぎではなく、嫌みなやつということで、きっとぼこぼこにされていたのではないかという人でした。でもMBAだから、上級管理職になってしまっていたんですよね。まさにMintzbergの本の題名「MBAが会社を滅ぼす」のような人でした。
もしかして、車会社から来られた方ですかね・・・
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>匿名さん
コメントありがとうございます。でもまぁ、僕も敢えて言っていない訳ですから、これ以上言わせないでくださいな。
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時間の問題ですよ。そんな人が消滅するのは・・・
現に目に見える形で制裁を加えられ、自身もアクションしましたけどね。
アシストしたつもりですが、ぽしゃったようです。
アーメン
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>匿名さん、
コメントありがとうございます。
一人の問題ある個人が消滅するのは時間の問題と言えば時間の問題だと思います。
でも、僕がブログを通して言いたかったのは、このような人が次から次へとゾンビのように現れてきては、上級管理職になっていくというメカニズムが存在するということです。
そしてさらに深刻なのは、MBA信仰であるとか、社内の生え抜きを育てない風土、さらには業務外のレクレーション活動の縮小などが、そのメカニズムの増強に働いてしまっていると思われることです。
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