サンフランシスコのApple World Wide Developers ConferenceでiPhone 3Gが発表されました。
日本の価格が確定したのかどうかわかりませんが、USの価格はとても安い。しかも機能というか、ソフトウェアとソフト開発環境がすごいです。
Appleのホームページにも紹介がありますし、キーノートを解説した記事もありますので、詳細はそちらを見てください(ケータイWatch, NikkeiBP。
僕がここでお話ししたいのは、以下の2つとイノベーション一般への示唆です。
その1:AppStore
iPhoneは7月11日よりソフトウェアがversion 2.0になります。これは新しいiPhone 3Gだけでなく、既存のiPhoneユーザも無償でアップグレードできます。そしていままではサードパーティーがiPhone用のソフトが作れなかったのが、このversion 2.0からはどんどん作れます。
ここまでは一般的なパソコンと同じモデルです。Palmでもそうでしたし、スマートフォンでも同じです。iPhoneが違うのは、サードパーティーがソフトを販売する場合、必ずAppleが運営しているApp Storeから買わなければならない点です。つまり、iPhone用のソフトを発売できる小売業者はAppleだけであり、Amazonにしてもヨドバシカメラにしても楽天にしても、iPhone用のソフトを一切取り扱えないのです。無償のソフトもすべてApp Storeから販売されます。
これはとても閉鎖的に見えますが、元はウィルスなどによるセキュリティーの問題を回避する手段として講じられたのだろうと思われます。でも結果として、小さいソフトメーカーでもPRチャンネルと販路が確保できますし、Appleは売値の70%をソフトメーカーに還元してクレジットカード手数料やサーバホスティング費用はすべて負担しますので、悪い話ではないはずです。自分たちの販路を確保しているソフトメーカーとしてはうれしくないかもしれませんが、小さいメーカーにとってはとてもいい話のはずです。そして顧客としては、バージョンアップが確実にできるので、とてもらくちんです。
インターネット時代の新しいソフトウェア流通経路の完成です。日本の携帯電話市場でも類似したシステムになっていたと思いますが、より徹底したアプローチをAppleはとったと言えると思います。そのアプローチを採らざるを得なかった理由はセキュリティーという、どちらかという後ろ向きのものですが、そのアプローチの可能性をしっかり考え尽くすことによって、ユーザとソフト開発者の双方にとって非常に魅力的なシステムになったと思います。
その2:Mobile Me
Mobile MeはMac.comに変わる新しいウェブサービスで、大きな特徴はプッシュ型のメール、カレンダーとアドレス帳です。インターネットのメールは通常はプル型で、パソコンのメールソフトがサーバに問い合わせを数分おきに実行することによって、新しいメールを受け取っています。それに対してプッシュ型というのは、サーバに新しいメールが届いたら瞬時にサーバからパソコン側に連絡が来て、そしてパソコンにメールが届けられる仕組みです。実用上のプル型とプッシュ型の大きな違いは、プル型では最新メールを受け取れるまで数分かかること、それに対してプッシュ型は瞬時に最新メールが受け取れることです。
このプッシュ型のサービスは、パソコンであればMicrosoft Exchangeをメールサーバとして使用していれば10年以上前から実現していました。しかし、それ以外にプッシュ型のパソコンメールというのはほとんどありませんでした。一方で、携帯電話ではプッシュ型のサービスは一般的で、いまの携帯電話のメールはすべてプッシュ型です。
GoogleのGMailとかYahooのメールとかもプッシュ型ではないので、Mac.comとしては敢えてプッシュ型にする必要はありませんでした。どこもみんなプル型でしたので。しかしAppleが携帯電話市場に参入した結果、どうしてもプッシュ型のシステムを用意しなければいけなくなったのです。そしてそのシステムを用意している以上、携帯電話だけでなく、パソコンでも使わないとおかしい。ということで、こうしてMobile Meのプッシュ型メール、カレンダー、アドレス帳が生まれたのでしょう。
インターネットのパソコンだけを相手にしていたらやらなかったプッシュ型のメールを、Appleは携帯電話に参入するために開発したのでしょう。Microsoftが企業内向けだけに用意していたプッシュ型メールを、誰でも利用できる環境にしたのは、Appleのように妥協を許さないパソコンメーカーが携帯に参入したおかげと言えると思います。(BlackberryはMicrosoftのプッシュ型メールを受け取る仕組みまでは作りましたが、サーバとかメールサービスを自ら作ることはしませんでした。)
最後に
この2つの例を見ていると、イノベーションってどこからくるのか、そのヒントが見えてくるように思います。そのヒントとは、
- ネガティブで後ろ向きに見えることであっても、徹底して考え抜けばきっとポジティブにできるという超前向きな姿勢
- 異なる分野に参入するだけなら誰でもやっていますが、新しい分野と既存の分野を妥協の無い、高いレベルで統合させるぞという姿勢
イノベーションというのは、他人がいままでやらなかったことを成功させることです。そして他人がいままでそれをやらなかった理由は、1) できないと思ったから、2) できてもあまり価値が無いと思ったから、3) 気づかなかったから がほとんどのケースだと思います。上述したAppleの姿勢が、1)-3)を乗り越える力になったのだと思います。