ライフサイエンス研究支援の試薬や機器を日本で買うと、米国より2-3倍高いというのは割と一般的に言われています。実際には製品やメーカーによる違いが大きく、ものによっては米国より安い値段で売っていたりするのですが、古くからある製品についてはおおむねその通りです。
どうしてこうなってしまうのでしょうか?
日本と米国の流通システムの大きな違いは代理店の存在です。日本では顧客である研究者とメーカーの間にほぼ必ず代理店が入っています。代理店は研究者からの注文を受け、メーカーに発注し、製品が届いたら研究室に届けにいきます。それに対して米国では研究者は直接メーカーに発注し、メーカーから直接製品が届けられます。
日本と米国の違いは代理店の存在だから、代理店のマージンの分だけ価格が2-3倍になっているに違いない。そう思っている研究者も多いと思います。
しかし実際には代理店は平均で高々10%ぐらいしかマージンを取っていないと思います(希望小売価格に対しては20%以上のマージンが設定されていても、値引きしたりすると10%も残らないことが多いと思います)。特に大都市圏の研究施設であれば複数の代理店がしのぎを削っていますので、競争の結果マージンはかなり薄くなっています。製薬企業の場合は購買部ががんばっていることが多く、代理店が赤字すれすれでやっているケースも珍しくありません。
ようするに代理店が間にあるのは確かに日米の大きな違いですが、日米価格差の大きな要因にはなっていないということです。どちらかというと無視してよいぐらいの要因だと思います。
それでは内外価格差を生んでいる原因はどこでしょう?
そのヒントを得るために例えばコスモ・バイオ株式会社が株主に公開している財務のデータを見て見ましょう。平成22年12月期第1四半期決算短信の7ページ目を見ると、売上高18.57億円に対して原価が10.55億円となっています。コスモ・バイオ株式会社は試薬の輸入販売が主ですから、原価というのは海外メーカーから試薬を仕入れるときの仕入れ値+輸送費と考えることができます。それに対して18.57 / 10.55 – 1 = 76%を上乗せして販売している訳です。代理店には20%以上のマージンを持たせる感じで希望小売価格を設定しているでしょうから、例えば 10,000円の試薬であれば 10,000 * 1.76 * (100 / 80) = 22,000 円になってしまいます。
つまり内外価格差が生じた大元の原因は、日本で分子生物学が盛んになった1980年代後半から1990年代にかけてはほとんどの製品がコスモ・バイオ株式会社のような輸入商社を経由していて、商社のマージンのために高い価格を設定されたからと考えることができます。そして1990年代後半からは海外メーカーの日本支社が設立されて商社から独立していくことが多くなったものの、これらのメーカーが価格を据え置きました。通常は輸入商社を使うのをやめればメーカーは定価を下げるのですが、ライフサイエンスの分野ではそれが起きませんでした。つまりは内外価格差は輸入商社が間に入っていた時代に生まれ、そしてメーカーが直接販売するようになって固定化してしまったのです。
以上、僕の個人的な考察です。裏付けとなる情報はあまり持っていません。全体を見た中での自分が感じた雰囲気です。
ただハッキリ述べておきたいのは以下の点です。
何かと中間業者、この分野だったら代理店を悪者にしてしまいがちですが、少なくともライフサイエンスの分野においてはそれは全くの検討はずれである可能性があります。代理店はどちらかというと過当競争の中でがんばっていますので、この分野においてはあまり儲けていないはずです。もう少し視野を広げて、中間業者だけでなく大元のメーカーも含めて、いったいどこに原因があるかを考える必要があると思います。
あと、誤解があってはいけないのでハッキリ言いますが、私はコスモ・バイオ株式会社のような商社が悪いとは思っていません。またメーカーの日本支社が価格の適正化をしないでいる理由もよくわかっているつもりです。どちらも資本主義経済の中で、合理的な選択をしたまでの話です。ただ日本がライフサイエンス研究に投じている巨額の税金が無駄にされないためには、どこかにメスを入れないといけません。そして多分ここのあたりがメスの入れどころだと思います。
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