2010年9月26日(日)付けの朝日新聞を読んでいたら、尖閣諸島問題関連の記事がかなり興味深かったです。特に海外識者の意見と、その眼力の確かさを証明するような「天声人語」の関連が期せずして見事にはまっていました。
まずは米戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員のボニー・グレイサーさんの記事。
中国指導部は権力移行の準備段階に入り、国内世論の圧力にもろくなっている。このため、領土が絡む問題で柔軟な態度を示せない。軍部の発言力もより強まっているうえ、国力も自信が出てきた。歴史的にも他国、とりわけ日本から受けた屈辱を晴らすときが来たと感じる人たちもいるだろう。
(太字は僕が付けました)
そしてロシア極東研究所主任研究員のアレクサンドル・ラーリンさんの記事。
もっと早く釈放していれば、せめて面子は保つことができた。
…
日本の強硬な姿勢は、北方領土問題を抱えるロシアに対しても悪いイメージを与えた。ロシアは1960年代には武力衝突にまで発展した中国との領土問題を、係争地を2等分する方法で2004年に解決した。ノルウェーとの間では今年、豊富な地下資源が埋蔵されていると見られる大陸棚の強化画定問題を、やはり2等分することで解決した。共に長年の懸案だったが、問題解決の強い願いがあったから、双方が政治的決断と譲歩ができた。今回の問題は、日本の政治家にはそうした熱意や交渉の意欲がなく、原則を押し通そうとするものだとの先入観を与えてしまった。
「歴史的事実」を振りかざしても、領土問題は解決しない。今回の失敗で、日本も対話で実益を得ることの重要さを理解すると思う。
(太字は僕が付けました)
最後に「天声人語」
政治経済ばかりか、この国は司法までもが外圧で動く。
….
法治ならぬ人治の国、しかも一党独裁で思うがままだから始末が悪い。下手に出れば増長する。
多分「天声人語」のコラムが多くの日本人の気持ちを代弁していると思います。少なくともTwitterの僕のTLを見ていると、また新聞の報道を見ているとそう感じます(意外とテレビに出てくる有識者は冷静な意見が多いのがちょっと面白い)。
そして「天声人語」のコラムの気持ちがまさにアレクサンドル・ラーリンさんが言う日本人は「原則を押し通そうとする」ことを強烈に裏付けています。日本の政治家も中国の政治家同様、世論を無視することはできません。日本の世論が「原則を押し通そうとする」結果として、日本の政治家も問題解決への「熱意や交渉への意欲」が出せず、「原則を押し通す」ことしかできないのだと思います。
それと少なくともボニー・グレイサーさんは、中国が「一党独裁で思うがまま」(天声人語)だとは思っていないようです。中国も日本や米国と同様に「国内世論の圧力にもろい」く、やはりその世論の影響で日本と同様に「領土が絡む問題で柔軟な態度を示せない」とホニーさんは考えているようです。
構図としてはこうです。
アレクサンドルさん日本の「原則を押し通す」ような柔軟性のない態度では問題は解決していないとしています。ボニーさんは中国サイドの話として、中国の柔軟性のなさは世論の圧力の結果であると書いています。そして「天声人語」は日本サイドの世論にも柔軟性のかけらもないことを証明しています。
僕はアレクサンドル・ラーリンさんの意見に賛成ですね。日本人は概して実利よりも「原則を押し通す」のが好きな国民だと僕は感じてきました。日本の外交が下手な大きな要因は、実は世論に共通するこの考え方だと思います。