スマートフォン市場、特にビジネス向け市場で圧倒的な優勢を誇っていたResearch in Motion (RIM)のBlackberryですが、最近AppleのiPhoneがそのシェアを越えたということが話題になっています。
それに対するResearch in MotionのCEO Jim Balsillieが反論というか強がりを言っている記事がありました。
RIM CEO Jim Balsillie To Steve Jobs: ” You Don’t Need An App For The Web”
この中で、iPhoneの大きな強みがApp Storeにある膨大な数のアプリであることに対抗して、RIMのアプローチはすべてをブラウザでやることだと主張しています。
Balsillie went on to contrast the Blackberry approach to Apple’s when it comes to web apps. There may be 300,000 apps for the iPhone and iPad, but the only app you really need is the browser. “You don’t need an app for the Web,” he says, and that is equally true for the mobile Web. The debate over mobile apps versus the mobile Web. Blackberry is betting on the Web, much like Google.
近々発売される予定のPlayBook Blackberry Tabletにしても、アプリはないかも知れないけれどもWebブラウザがすごく早いよと自慢しています。
でもBlackberryのブラウザはAppleが開発したWebkitベース
しかしJim Balsillieが自慢しているWebブラウザは実はAppleが開発し、Safariにも使われているWebkitがベースです。
WebkitはAppleが中心に開発しているオープンソースのブラウザ基盤技術で、Nokiaブラウザ、Google Chrome、Palm WebOSにも使われています。次世代スマートフォンの中では圧倒的なシェアを誇っているどころか、現時点ではデファクトスタンダードの感すらあります。
Jim Balsillieが自慢しているWebブラウザの良さって、ほとんどがAppleが開発した技術に由来するのです。なんか変ですよね。RIMだけでなく、iPhoneに対抗しようという製品もすべてAppleの技術を中心にしています。
こんな状況なので、スマートフォンでイノベーションを起こしているのはAppleだけで、Googleを含めた他社は単に追随しているだけというのも仕方がないように思います。
イノベーションは「今」を犠牲にしてでも、土台が大切
AppleがWebkitに取りかかったのは2002年。Mac OS X用の新しいブラウザ、Safariを開発するのが目的でした。オープンソースだったKHTMLをベースに始まりました。
当時はMozillaのGeckoエンジンの方がはるかに成熟していて、そっちをベースにすれば多くのウェブサイトを問題なく表示できるブラウザがすぐに作れるのにと思ったものです。KHTMLをベースにしたため、初期のSafariは多くのウェブサイトで問題を起こし、しばしばFirefoxを立ち上げなければなりませんでした。それでもAppleがKHTMLを選択した理由は以下のメールに記されています。
Greetings from the Safari team at Apple Computer
The number one goal for developing Safari was to create the fastest web
browser on Mac OS X. When we were evaluating technologies over a year
ago, KHTML and KJS stood out. Not only were they the basis of an
excellent modern and standards compliant web browser, they were also
less than 140,000 lines of code. The size of your code and ease of
development within that code made it a better choice for us than other
open source projects. Your clean design was also a plus.
ユーザからすると最初の頃のSafariは確かにスピードは良かったのですが、バグが多くて必ずしも実用的ではありませんでした。Webkitのバグがなくなり、ほとんどのウェブページを問題なくレンダリング出来るようになるまでは何年もかかりました。その間はKHTMLを選択したのは本当に正しかったのか、ユーザとしては疑問に思うことも少なくありませんでした。当時のKHTMLはまだ完成度が低く、完成させるまでにはたくさんの開発が必要だったのでしょう。
しかし今にして思えば、Appleは最高の判断をしました。コンパクトで効率的なWebkitがあるおかげでiPhoneにフルブラウザを搭載できました。他の技術で代用が可能だったか(例えばGeckoをベースに)と言えば、他メーカーもこぞってWebkitを使っていることから判断すると、それはあまり現実的ではなかったとも思えます。
Webkitがここまで成功した理由を考えると、以下に要約できると思います。
- Geckoという完成した技術を使わず、土台がきれいでしっかりしているという将来性を見込んでKHTMLを選択しました
- その際、はっきりと「今」を犠牲にして、「未来」を選択しました
- そしてその「未来」を実現するべく、2002年から継続して開発を行いました
かなり勇気のいる決断をしています。
でもそれがイノベーションの肝なのだと思います。