J-Castニュースに『朝日新聞「アサヒコム」終了、来年初めに「有料版」に一本化有力』という記事が掲載されました。(興味深いことにJ-Cast自身は「1.5時情報」というコンセプトのニュースサイトで、基本的には自社で取材はせず、新聞などをベースにコメントを追加するサイトのようです。)
さて、無料の「アサヒコム」を終了することによって購読者数がどうなるか、今後存続していけるのかどうかという様々な憶測がウェブで流れていますが、僕は僕なりの考えを紹介します。
- 新聞が提供する情報は民主主義に不可欠だった: 民主主義が成功するための前提条件として、民衆が世間の情勢を知らなくてはなりません。正しい情報を持たない人が、リーダーを選ぶ際に正しい判断ができるはずもないからです。したがって新聞が存続できるかどうか、あるいは同等の役割を果たすメディアが出てくるかどうかは民主主義のためにはとても重要な問題です。Steve Jobs氏もAll Things DigitalのD8のインタービューでまさにこのことに言及しています。
- 取材などのニュース収集は広告収入だけで可能か: 広告収入だけに頼ってニュースを配信する試みは別に新しいことではなく、テレビの民放がずっとやってきたビジネスモデルです。残念ながらそのクオリティーは下がる一方で、近年ではまさに目を覆いたくなるような報道番組ばかりになってしまっています。もちろん新聞の取材力も高いとは言えません。しかしテレビの報道はそれよりも格段にひどい状況です。少なくとも民放テレビという過去の例で見る限り、広告収入に頼った報道に民主主義の未来を託す気にはなれません。
- ネットの情報は無料が多いのは、情報に価値が無いからではない。: スマートフォンを使っている人は、毎月6-7千円を支払っています。光ファイバーでインターネットに接続している人は毎月おおよそ5千円を支払っています。テレビ(衛生を含む)を持っている世帯は、毎月NHKに3千円支払っています。こう見ると、我々は情報を得たり、コミュニケーションするためのハードウェアやネットワークに毎月かなり多くのお金を支払っています。ハードにこれだけのお金を払いつつ、コンテンツが無料であることを期待するのはあべこべな話です。インターネットに接続したときに我々が欲しいのは情報であって、情報がなければインターネットに接続する価値はありません。我々はハードが欲しいのではなく、ソフトが欲しいのです。だから情報にも毎月数千円のお金を支払う状態こそがバランスのとれたものであるともいえます。
- ネットは課金システムが未熟: Steve Jobs氏の巨大な業績の一つはiTunes Music Storeです。当時Napsterなどの違法音楽ダウンロードサイトが隆盛を極め、音楽レーベルは戦々恐々としていました。そのときSteve Jobs氏は違法音楽ダウンロードサイトが使われるのは、利用者がみんな無料で音楽を手に入れたいからではないことを見抜きました。問題なのは利用者が音楽にお金を払いたくないからではなく、売る仕組みがないからだと考えました。だからiTunes Music Storeを作って、音楽のデジタル版が適正な金額で簡単に入手できる仕組みを築き、爆発的な成功を収めたのです。Steve Jobs氏は新聞でもiTunes Music Storeと同じことをやるべく、iPadでNewsstandを提供しています。まだ成功と言える状態ではありませんが、Steve Jobs氏の着眼は一貫しています。僕もインターネットは課金システムが未熟だと考えています。
以上の理由から、僕は朝日新聞の判断を応援します(朝日デジタルも購読しています)。非常に難しい局面であり、試行錯誤しながら何とか乗り越えてもらいたいと思っています。
ただし本当に必要なのは、報道のイノベーションです。印刷や配達が不必要になり、参入障壁がなくなった分、本来ならば新しい一次報道のメディアが参入してきてもおかしくありません。ただ既存企業が無料だと、low-endからの破壊的イノベーションは困難です。既存の新聞がネット版を有料化することによって、ようやくそのチャンスが巡ってきたかもしれません。