「iPhoneが中国で組み立てられているのは中国人労働者の賃金が安いからだ。」
そう思っている人が多いと思います。
しかしThe New York Timesの記事 “How the U.S. Lost Out on iPhone Work”では違う視点を紹介しています。
すばり工場の大きさ、柔軟さ、勤勉さ、そしてスキルのいずれを考えてもアメリカ国内でiPhoneを組み立てることは実現不可能であり、中国にしか作れなかったというのです。
昔の日本もそうでしたよね。
最初は労働力が安いのが日本製品の特徴であり、安かろう悪かろうでした。”Made in Japan”というのは劣悪品の象徴だった時代もあります。そこから徐々に日本が力をつけていって、技術者の勤勉さとスキル、ロボット化された最新の工場設備、カンバン方式などの現場の工夫による柔軟性によって、”Made in Japan”は世界最高の品質をリーズナブルな価格で提供する代名詞となったのです。1970年代ぐらいの話です。
中国は急速にこの1970年代の日本に近づいているのかもしれません。
それはさておき、この記事からいくつか引用して翻訳(意訳)しますが、是非全文を読むことをおすすめします。
思うのは、日本の技術力を支え、そして今の中国を支えているのは工業高校なのかなということです。うちの祖父もそうでした。そういう人がいなくなると、円高のことを考えに入れなくても、日本国内で工業を稼働させていくことが困難になっていくのではないでしょうか。
日本の大学は猫も杓子も大学院に行かせて博士号をとらせようと考えず、工場で働く人をどうやって育てるかを考える必要があります。あるいはもう日本の大学の数をうんと絞って、大学進学率を思いっきり下げて、その代わりに専門学校や工業高校に行かせるか。そういうのがいいのかもしれません。
日本の技術力が危機に瀕しているかもしれないと言うとき、理系を増やせだとか、博士をもっと育てろだとか、大学にもっとお金をよこせだとか、スパコンを作らせととか、そういう話がたくさん出てきます。このNew York Timesの記事もそうですが、それだけを見ていたらまったくだめだよと僕は強く思います。
機械メーカーに行った友人もよく言いますよね。会社の技術力を支えているのは現場の高卒のおっさんだって。
In 2007, a little over a month before the iPhone was scheduled to appear in stores, Mr. Jobs beckoned a handful of lieutenants into an office. For weeks, he had been carrying a prototype of the device in his pocket.
2007年、iPhoneが発売される予定の日まで一月あまりの時、Jobs氏は経営陣をオフィスに招きました。彼は数週間、iPhoneのプロトタイプをポケットに入れていました。
Mr. Jobs angrily held up his iPhone, angling it so everyone could see the dozens of tiny scratches marring its plastic screen, according to someone who attended the meeting. He then pulled his keys from his jeans.
Jobs氏は怒りを込めてiPhoneを持ち上げて見せました。プラスティックのスクリーンに数十もの傷があるのをすべての人が見られるようにしました。そしてジーンズの中から鍵を取り出しました。
People will carry this phone in their pocket, he said. People also carry their keys in their pocket. “I won’t sell a product that gets scratched,” he said tensely. The only solution was using unscratchable glass instead. “I want a glass screen, and I want it perfect in six weeks.”
「お客はiPhoneをポケットに入れて持ち歩くでしょう。そしてポケットには鍵も入っているでしょう。傷がつくような製品を私は売らない」と簡潔に述べました。唯一の解決策は傷がつかないガラスと使うことでした。「ガラススクリーンが欲しい。6週間で完璧にしろ。」
After one executive left that meeting, he booked a flight to Shenzhen, China. If Mr. Jobs wanted perfect, there was nowhere else to go.
「一人の役員はミーティングが終了すると、中国の深圳市行きの飛行機を予約しました。Jobs氏が完璧が欲しいと言うときは、ここに行くしかありません。」
Another critical advantage for Apple was that China provided engineers at a scale the United States could not match. Apple’s executives had estimated that about 8,700 industrial engineers were needed to oversee and guide the 200,000 assembly-line workers eventually involved in manufacturing iPhones. The company’s analysts had forecast it would take as long as nine months to find that many qualified engineers in the United States.
In China, it took 15 days.
もう一つアップルにとって決定的な利点は、米国では技術者を数多く集めるのが困難なのに対して、中国ではそれが可能だったと言うことです。iPhoneの組み立てに必要な200,000人の工員を監督するためには8,700人の工業エンジニアが必要だとアップルは見積もっていました。それだけの技術者をアメリカで探そうとすると9ヶ月かかると社内のアナリストは分析していました。
中国では15日間で技術者が集まりました。
Companies like Apple “say the challenge in setting up U.S. plants is finding a technical work force,” said Martin Schmidt, associate provost at the Massachusetts Institute of Technology. In particular, companies say they need engineers with more than high school, but not necessarily a bachelor’s degree. Americans at that skill level are hard to find, executives contend. “They’re good jobs, but the country doesn’t have enough to feed the demand,” Mr. Schmidt said.
MITのMartin Schmidtによると、アップルなどにとって米国で工場を用意する際の最大の問題は、技術労働者を探すことだそうです。特に高校以上で、ただ大学学位はなくても可能というレベルのエンジニアが必要だとメーカーは語っています。このレベルの技術者をアメリカで探すのは難しいと各メーカーは語ります。Schmidt氏曰く「いい仕事なんだけど、需要を満たすだけの技術者がアメリカにはいない。」
2 thoughts on “iPhoneが中国で作られる本当の理由:日本もこうして成長した”