先日のApple vs Samsungの訴訟を受け、またそれに対するいろいろなリアクションを見ながら、スマートフォン市場の特殊性について考えてみました。
以下、メモ;
- iPhoneは一夜にして携帯電話市場をがらりと変えました。携帯のデザインを一変させたばかりではなく、携帯にできること、ウェブを見ること、メールを読むこと、アプリを買うことの状況を一変させました。ユーザインタフェースを一変させました。当時はAndroidですらキーボード中心のBlackberryのような製品を想定したOSでしたが、iPhone後は方向を180度変えてタッチインタフェースを真似ました。
- 他の会社が注力していなかったタッチインタフェースを早い段階から研究開発していたAppleが、数多くの特許を独占できたのは自然なことです。タッチインタフェースを発明したのはAppleではないのですが、それを実際に製品に応用していくところの特許は圧倒的にAppleが保有していて、独占状況に近いです。こうなったのはひとえに他社が注目していない頃にタッチインタフェースを突き詰めたからです。
- それまでの携帯電話はパソコンと比較して大きく見劣りしていました。性能はもちろんのこと、ソフトウェア面でも圧倒的に単純なものでした。iPhoneはその状況を一変させます。iPhoneのOSであるiOSは、土台がMacOS Xと同じです。そしてMacOS Xで初めて導入された数多くの先進的な技術が含まれています。例えばグラフィックスやアニメーションの描写などがそれです。iPhoneは初代Macintoshから数えて20年余の技術の上に立つ製品です。パソコンで蓄積された技術を携帯に持ち込んだ製品です。しかしパソコンの世界では一般消費者向けのオペレーティングシステム技術はたった2つの会社しか持っていませんでした。AppleとMicrosoftだけです。このことが何を意味するかというと、iPhoneにまともに対抗できる製品を作れるのは基本的にMicrosoftしかなかったということです。GoogleがAndroidを開発できたのはJavaをハイジャックしたりiPhoneを真似たからであり、自社技術を積み重ねてつくることはできなかったのです。かなり近道をしているので、特許を数多く侵害したのは自然なことです。
- NokiaはAndroidの携帯を開発しませんでした。そうではなくWindows Phoneに賭けました。なぜかというとAndroidでは差別化は不可能と考えたからです。これについてはCNETの記事で紹介されています。実際に現時点でのAndroidの状況を見ると、Androidスマートフォンで儲かっているのはSamsungだけで、他のメーカーは差別化に苦労し、高い価格で製品が売れずに儲かっていません。(もちろん一番儲かっているのはAppleですが)
- SamsungだけがなぜAndroid陣営の中で儲けることができているか?もちろん社内に高い技術力を持っているのは有利だとは思いますが、むしろ大きいのは、ハードもソフトもiPhoneに似せたからではないかと思われます(SamsungはAndroidを改変して、よりiPhoneに似せました)。つまりスマートフォン市場の中では、ほぼiPhoneに似ているか似ていないかだけが差別化につながっていると言えます。
以上をまとめると、a) 知的所有権ではマーケットリーダー1社が圧倒的な有利な状況があります、 b) スマートフォン市場での差別化ポイントは、現時点ではマーケットリーダーの製品に似ているか似ていないかの1点に絞られています。これがこの市場の特殊性です。
MicrosoftのWindows Phoneが売れていけば、a)の問題は解決されます。Microsoftはパソコン関連の知的所有権をたくさん保有していますし、その一部はiPhoneでも使われているでしょう。MicrosoftはAppleとクロスライセンス契約をしていると言われていますので、Windows PhoneはAppleに訴えられる可能性がぐっと少ないです。
b)の差別化についてははっきりわかりません。NokiaはMicrosoftと早い段階からパートナーになることによって、他社のWindows Phoneでは得られないような差別化ポイントを手に入れようとしています。パートナー契約の内容に依存しますが、確かにそうなるかも知れません。Windows PhoneはiPhoneとはかなり違うユーザインタフェースなので、現在の差別化ポイントの一極集中は解消していくでしょう。
そうなればスマートフォン市場も多少はまともなものになっていくかも知れません。