昨日のブログ“Androidタブレットの現状についての考察”でAndroidの7インチタブレットはマーケットシェアこそ高いと推測されているものの、実際にはあまり使われていないことを紹介しました。どうやら購入直後だけ使われて、数ヶ月でほこりをかぶるようです。
推測になりますが、タブレットの主要用途であるウェブを見ること、メールをすることにおいて、7インチタブレットは使い勝手が悪く、その結果として使われなくなるようです。
それではちゃんと売れて、そして使われるタブレットの条件はなんでしょうか。そのようなタブレットの代表がiPadですので、iPadのマーケティングコンセプトに立ち返りながら考えてみます。
新しいカテゴリーは両挟みのカテゴリーを超えなければならない
AppleがiPadをアナウンスしたとき、Steve JobsおよびApple経営陣が強調したのは、スマートフォンよりも、そしてラップトップよりも優れたものを作らなければならないということでしました。ウェブを見るのにラップトップよりも優れたデバイス。同様にメールや写真、ビデオを見るにも、そして音楽を聞くにも、ゲームをやるにしても、eBookを読みにしても、このすべてのタスクにおいてスマートフォンよりもそしてラップトップよりも優れたものを作らなければ、新しいカテゴリーは生み出せないというのがSteve Jobsの論点でした。そしてiPadはこの非常に高い基準を満たしているという主張でした(以下のビデオの7:00前後)。
普通に考えるとタブレットはスマートフォンとラップトップの中間に位置するカテゴリーです。少なくとも物理的サイズはそうです。したがってスマートフォンの特徴である持ち運びのしやすさと、ラップトップの特徴である画面の大きさや高い処理能力を併せ持つもの、しかしそれぞれを個別に取り出したときにはスマートフォンにもラップトップにも劣るものを作りがちです。持ち運びのしやすさはスマートフォンとタブレットの中間、そして画面の大きさも中間、処理能力も中間のものを作りがちです。物理的にそうせざるを得ないのです。しかしSteve Jobsが言うのは、これでは新しいカテゴリーとして成功しないということです。
Steve Jobsは、仮に物理的な処理能力が劣ったとしても、タブレットはラップトップよりもウェブを見るのが便利にならなければならないし、メールをやるのが便利にならなければならないと考えていました。そしてそれを実現しました。実際にiPadでウェブを見るとすごく快適です。ウェブページを表示する速さにしても一見するとラップトップに引けをとりません。Flashなど余計なものを外したおかげで、そして様々な最適化をすることで、非力なCPUでも高速にウェブページを表示できるようになっています。
またiPadの画面サイズはどうしてもラップトップにはかないません。しかしダブルタップするとウェブページの特定の部分を簡単にズームできるなどのソフトウェアの工夫をすることによって、画面サイズのハンディを乗り越える対策が随所にあります。
このようにiPadが成功したのは、中間的なカテゴリーだったからではありません。スマートフォンとラップトップの両市場の真ん中に大きな穴が開いていて、そこを埋めたからではありません。そんな穴はなかったんです。iPadが成功したのは、一般の人がラップトップを使う大部分の用途においてラップトップを超えたからです。
メディアタブレットの市場は存在しない
7インチタブレットはメディアタブレットであると考える人たちがいます。Amazonなどで販売しているビデオやeBookを読むのに適したものであれば、スマートフォンとラップトップを所有している人であってもメディアタブレットを購入するだろうという考え方です。
確かに一部のマニアはそうするでしょう。でも一般の人はメディア消費専用のタブレットは望んでいません。タブレットはウェブを見たり、メールをやるためのデバイスです。タブレットで映画を見る人はわずかしかいません。
繰り返しになりますが、スマートフォンとラップトップ市場の間に未開拓の新しいカテゴリーは存在しません。メディアタブレットは幻想です。
考えてみてください。スマートフォン + タブレット + ラップトップを持ち歩く人は、普通の人の視線から見れば変態です。
タブレットが成功するにはラップトップの代替になるしかない
タブレットがスマートフォンになることは物理的に不可能です。タブレットはポケットに入りませんから。耳に当てるのは馬鹿馬鹿しいから。
そして新大陸のような第三のカテゴリーは、水平線上の蜃気楼でしかありません。
したがってタブレットはラップトップの代替になるしかありません。ラップトップのパワーと大画面を持ちながら、同時に使いやすく、持ち運びしやすく、電池が持つものでなければなりません。ラップトップの機能の80%を持ちながら、ラップトップを超える便利さを持たなければなりません。それができなければ売れません。
こう考えると今後売れるタブレットの予想は簡単です。
成功するタブレットの条件
- ウェブを見ること、メールを読むことなどの主要タスクにおいて、ラップトップをほぼ完全に代替できること
- ラップトップユーザが無理なく、徐々にタブレットに移行できること
- 画面が小さいにもかかわらず、ズームが優秀だったり、スペースが無駄なく利用されているために、不便さがないこと
- CPUパワーがないにもかかわらず、写真やビデオ、ゲーム、音楽の管理などCPUパワーが必要な処理が可能であること
- 上記のいずれかにおいて、マーケットリーダーのiPadよりも明確に優れていること
マイクロソフトがWindows 8とSurfaceタブレットで狙っているのはこのリストの2番目です。ラップトップユーザは依然としてWindowsユーザが圧倒的に多くいます。ですからリストの2番目では、特に企業においてiPadを凌駕できる可能性が十分にあります。
Android? 提案できる新しい価値が何もないときは価格を下げるしかありません。Netbook戦略です。
iPad mini? 新しいカテゴリーではありません。あれはiPadです。13インチ MacBook Airと11インチ MacBook Airの関係です。
Steve Jobs in 2003
2003年、iPhoneを販売する前、iPadを販売する前、しかしおそらく頭の中にはiPadを描き始めていた頃、Steve Jobsはインタビューの中でタブレットのコンセプトをディスります(下のビデオの7:30以降)。
この中でiPadの製品コンセプトに関わる話がいくつか出てきます。メディアタブレットというコンセプト(ここではコンテンツを消費するためのタブレット。9:25ごろから)についても言及します。
教訓:中間的なカテゴリーは難しい
中間的なカテゴリーは製品を作るのは簡単です。両挟みのものを超えようと思わなければ。世の中はそういう製品であふれています。
マーケティング部門は、新しい製品アイデアが思いつかないと、すぐに中間的なカテゴリーを作り出します。
でも売るのは難しいのです。すごく難しいのです。両挟みのもので足りているから。