2012年に予想外に売れたモバイルデバイスといえばPhabletです。Phabletは5インチから6インチ程度のディスプレイを持ち、なおかつスマートフォンのようの電話ができるものです。2012年にSamsungがGalaxy Noteシリーズでこのカテゴリーを開拓しました。
大きすぎて電話として使えないという意見がある一方、絶賛する意見も多く、両極端に割れている製品です。毎月100万台売れているという推測もあり、ヒット製品なのは間違いありません。
Phabletが本当に新しいカテゴリーなのか、今後本当にヒットを続けるのかは不明です。私が一番気になるのは、売れている理由がイマイチはっきりしないことです。
Phabletの売りは画面サイズではない?
例えば価格.comのレビューを見る限り、一番のメリットは電池の持ちの良さという意見が多いです。次いでスピードが多く、画面のサイズはさほど多くない印象です。
画面の大きさは実質的な差になっていない
実際、画面が大きいとは言え、タブレットのようにPC向けのウェブサイトをストレスなく見られるほどには画面は大きくありません。頻繁にズームする必要があるのはスマートフォンと変わりません。またアプリはタブレット用のものではなく、スマートフォン用のものを使います。同じレイアウトの画面が引き伸ばされて表示されます。大画面のメリットはそれほど大きくないのではないかとも言えます。
以下はiPhone 5 (4インチ), Galaxy Nexus (4.65インチ), Galaxy Note 2 (5.5インチ)で同じウェブサイトを見たスクリーンショットです(寸法を合わせています)。Galaxy Note 2では確かに文字が大きく見えますが、小さい文字が読めないのは同じで、結局ズームする必要があります。
アプリの方がさらに差がありません。Galaxy Note 2はGalaxy Nexusの画面をそのまま拡大しただけです。フォントは大きくなっているので老眼の人には優しいのですが、表示されるメール件数もほとんど差はありません。iPhone 5と比べても差が無いと言えます。
電池の持ちは良い
LTE対応スマートフォンの電池の持ちの悪さはかなり厳しく言われており、Galaxy Note 2などのPhabletの電池の持ちが大きなセールスポイントになるのはうなずけます。
例えば電池の持ちが非常に悪いということで評判の悪かった富士通のArrows X LTEは電池容量が1460mAhです。画面サイズは4.3インチ。それに対して、画面サイズが4.5インチのGalaxy S II LTEが1850mAh。画面サイズが4.8インチのGalaxy S IIIは2100mAh、5.3インチのGalaxy Noteで2500mAhとなっています。
また連続待ち受け時間についてはこの記事にまとめがありますが、待ち受け時間はGalaxy SII LTEが250時間、Galaxy SIIIで270時間、Galaxy Noteで310時間と改善されています。
価格.comのレビューを見る限り、この電池容量の違いは大きな違いとなっているようです。
UIのスピード
UIのスピードが遅いのは長らくAndroid機の大きな悩みでした。最新のAndroid機はこれはOSのバージョンアップとCPUのマルチコア化でこれを解消してきています。Galaxy Note IIは4つのCPUコアを持ち、またGalaxy SIIIの最新モデルも4つのコアを持っています。UIは大きな改善をしています。
上記より、phabletカテゴリーは画面サイズで規定されていますが、訴求点は画面サイズではない可能性が高いと私は考えています。
これはネットブックと同じ状況
ネットブックの時も、売れている原因とネットブックの定義が合いませんでした。
ネットブックの定義はAtomなどの低パワーCPUを心臓とし、画面サイズが10インチ以下のラップトップでした。これは人工的に押し付けられた制限であり、このスペックに収めない限り、Windowsを低価格で搭載することができませんでした。またインテルも制限を課していて、画面サイズが10.2インチ以下でないとそもそも低価格のAtom CPUが搭載できませんでした。
ネットブックの定義は画面の小ささとCPUスペックの低さでしたが、訴求点はこれではなく価格の安さでした。ネットブックの定義は低価格を実現するための手段に過ぎず、あべこべな状態でした。
Phabletも訴求点と定義があべこべ
Android携帯がiPhoneに追いつくためにまず必要だったのは、UIの滑らかさでした。AndroidはCPUパワーの使用効率が悪いため、iPhoneと同じ滑らかさを実現するためには強力なCPUが必要でした。しかしそのためには消費電力が犠牲になりました。それを補うために電池容量を拡大し、それを納めるために電話全体のサイズを大きくしました。
またLTEが登場しAndroid機はいち早くこれを採用しましたが、LTEは3Gよりも消費電力が大きくなります。消費電力増大を補うために各メーカーは電池を巨大化する必要があり、スマートフォンのさらなる巨大化でそれを補いました。
なおiPhoneの場合は、消費電力増大および電池容量増大を嫌って、LTEの消費電力がより少なくなる部品が供給されるようになるまでは採用せず、一年間見送りました。
このようにAndroidスマートフォンの巨大化は電池容量の問題と密接に関係しており、Phabletもその延長線上にあると考えることができます。そうなるとPhabletの真の訴求点と、Phabletカテゴリーの定義があべこべになっていると言えます。
カテゴリーの定義と訴求点がひっくり返っていることの危うさ
カテゴリーの定義と訴求点があべこべですと、ちょっとした技術革新でカテゴリーが消滅する可能性があります。例えばAndroidスマートフォンの電池の持ちを改善する技術が生まれると、Phabletカテゴリーが急速に魅力を失う可能性があります。これがあべこべな状態の危うさです。
ネットブックの場合、画面の小ささは一つの魅力でしたが、最大の魅力は低価格でした。しかし今販売されているノートパソコンを見ると、今ではネットブックと価格差がありません。Atomと1GB RAM, Windows 7 Starterのネットブックを買わなくても、5,000円追加するだけでWindows 8を搭載したAMD CPUのラップトップが買えますし、2万円を追加すればCore i3, i5と4GB RAM, Windows 8を搭載した機種が変えます。人工的な制限があるネットブックには全く魅力がなくなっています。
Phabletも同様です。画面サイズの大きさは、本当にあるニーズを満たすものではなく、電池容量を稼ぐために「人工的」に追加された機能と考えることができます。
本当の必要なのは電池容量です。
小さくても十分な電池容量の機種は近いうちに登場するか
Androidは常にiPhoneを追いかけています。そしてUIの滑らかさなど、最新の機種では追いつきつつあります。しかしCPUパワーの使用効率は明確に悪く、Galaxy SIII αの場合は4コアCPUを1.4GHzで動かしています。それに対してiPhone 5は2コアCPUを1GHzで動かしています(参考資料:ただしCPUのクロック数は可変のため一概に比較が難しい)。電池容量はGalaxy SIIIが2,100mAhに対してiPhone 5が1,440 mAhですが、電池の持ちのテストでは拮抗しています。
このように、AndroidでiPhoneと同様のUIの滑らかさを実現するためには、まだまだ大きな電池が必要なようです。
しかししばらくすれば、十分なCPUパワーを低消費電力で引き出せる製品はでてきます(ムーアの法則により)。したがってより多くのCPUパワーを必要とするような技術革新が起きない限り、低消費電力化は自然と進みます。ただ電池容量の問題はまだまだ大きいので、それを補うだけの電力消費改善はしばらく時間がかかるかも知れません。
裏技
本当に必要なのが大画面化でなく、電池の持ちであるならば、別の裏技が生まれる可能性があります。HTC miniはその一つの可能性を提示しているように思います。
電池を持たせることが主で、大画面が従であるならば、本体を大きくしつつ、手元の子機を小さくする発想が生まれます。無駄に大画面の電源を入れる必要も無く、電池の持ちはより一層長くなります。
今後、もっと割り切ったような製品も登場してくるかも知れません。
それもある意味、楽しみです。