朝日新聞で安倍政権の成長戦略についての記事がありました。その中で規制改革会議で話題になっている柱について紹介されていました。
その中に「市販薬ネット販売の全面解禁」が入っていますが、これは入っていちゃいけません。
簡単に言うと、「薬がネットで買えるからといって、市場が拡大しますか?」、「薬がネットで買えるからといって、あなたはもっとたくさん薬を買うようになりますか?」ということです。
おそらくほとんどに人にとって薬は具体的なニーズ(病気だ)というのがあって初めて買うのであって、ネットで買えるからといってたくさん買うことはありません。ネットで薬が買えることで市場が拡大することはあまり考えらません。
むしろネットで買えるようになると、店舗型薬局の売り上げが低下し、店舗縮小につながり、働く人が減ります。つまり職を奪います。その分をネット薬局が雇うということは考えられません。
イノベーション論のエキスパートのClayton Christensen氏は最近「資本主義のジレンマ」を話題にしていて、薬のネット販売のようなイノベーションの問題点を指摘しています。
Christensen氏によると、イノベーションには3種類あります。
1. 人間の可能性を広げるイノベーション (Empowering innovations): これらは今まで複雑で高価だったものを大衆に広げるもの。このようなイノベーションは新規雇用を生み出しますし、新しい需要を掘り起こすので経済成長を促します。
2. 持続的イノベーション (Sustaining innovations): これらは既存の製品を新製品で入れ替えるものです。職はあまり増えませんし、経済成長にはプラスにもマイナスにもなりません。
3. 効率化イノベーション (Efficiency innovations): これらは製造、販売、物流のコストを下げるものです。これらのイノベーションは職を減らします。
「市販薬ネット販売の全面解禁」は誰がどう見ても3番目の効率化イノベーションです。経済を成長させません。
ちなみにChristensen氏が「資本主義のジレンマ」としてあげているのは、ビジネススクールなどでの教育が間違っていたために、世の中は効率化イノベーションにばかり投資するようになり、本当に必要なempowering innovationへの投資が減ったしまったことです。
それにしても成長戦略の柱はパッとしません。いろいろな有識者を集めて議論しているのでしょうが、この程度のアイデアしか出ないというのは病気です。探し方が悪いような気がします。
Christensen氏のEmpowering Innovationsの定義を見るともっとアイデアが出るはずです。Christensen氏は一貫してイノベーションを「技術」や「技術力」の問題とせず、市場の問題として位置づけています。適切な技術を市場に持ってくるためのビジネス上の問題を議論しています。今まで存在しなかったものがフッと湧いてくることを期待するのではなく、高価だったり使いにくかったりしたものが大衆向けに生まれ変わることをイノベーションとしています。
その視点が必要です。
One thought on “経済成長を鈍化させる政策が「成長戦略」に入っていることの不勉強”