Qiagen 2008年第一四半期業績

Qiagenの2008年第一四半期業績が発表されましたので、以下にまとめます。詳細なスライドもあります。

売上は62%成長($207.1 million 215億円)。ただしDigene社とeGene社の合併がありましたので、それを差し引くと10%の成長(ドル安の影響を除いて)。利益については79%の成長と報告しています。合併とドル安の影響を差し引いた後の10%の成長は、競合他社と比べてよい成績です。

成長の内訳として、既存製品の売り上げ数量増加で4%成長、価格増加で2%成長、さらに新製品により4%の売上成長を達成したと報告しています。為替の影響は9%としています。

Digene社はDNAとRNAによる診断製品を持った会社で、2006年に$178 millionの売上、$15.3 millionの利益を出し、32.5%の成長をしています。eGene社はキャピラリー電気泳動で核酸を分離・解析する技術を持った会社で、年間で$7-$9 millionの売上を期待されています。それぞれ$1,600 millionと$34 millionでQiagenが2007年に買収しました。Digene社の合併により、2008年には分子診断の売上が総売上の半分近くに達する見込みのようです。

粗利率は$152.3 millionで73%、営業利益は$58.7 millionで総売上の28%、純利益も$36.9 millionで総売上の18%で、合併後も相変わらず非常に良い利益率を維持しています。

日本国内の売上は$12.6 millionと報告されていますが、これは2007年の$10.0 millionと比べて26%の増加となっています。このうちドル安の影響がどれだけあるか、Digene社の日本国内での売上がどれだけあるかはわかりませんので、日本国内での売上がどれだけ成長したかはわかりませんが、世界での売上成長の様子を見るとかなり好調だったと予想されます。

Digene製品の影響を差し引いても、日本国内で円建てで5%程度の成長はしたのではないかと推測します。

BioRad 2008年第一四半期業績

BioRadは2008年第一四半期(1月-3月)で31%の売上増を報告しました。

2007第一四半期の$322.5 millionと比較して、2008年第一四半期は$422.2 million (424億円)で、30.9%の増加でした。ドル安の影響を差し引くと、23.9%の増加とのことです。DiaMed Holding AGの合併により$62.7 millionの売り上げ増加がありましたが、それを差し引くと既存ビジネスで11.5%の増加でした。ドル安の影響を差し引くと4.5%の増加とのことです。

ちなみにDiaMedは2007年10月に477 million Swiss Francsで手に入れた会社で血液関連の診断製品のある会社です。

ライフサイエンス部門については売上は$154.6 millionで、9.2%の増加。ドル安の影響を差し引くと2.3%の増加にとどまりました。全体的に市場は軟調だったとコメントしています。

診断部門の売上は$263.7 millionで、DiaMedの合併を差し引いても13.1%の売り上げ増加、ドル安の影響を差し引いて6.0%の増加でした。

2007年度は年間で6.9%、ドル安を差し引いて2.7%の成長をしたということが報告されているいますので、引き続きそのままの状態ということのようです。

バイオ部門は競合他社と比べて成長が弱いですね。日本での売上は個別に出していませんのであくまでも類推ですが、日本の市場の弱さを考えると、日本でのバイオ部門は3%ぐらいのマイナスでは無いでしょうか。

BioRadは売上だけはライフサイエンス部門と診断部門に分けていますが、利益についてはまとめて報告しています。2007年度の数字しかありませんが、粗利が総売上の56%、営業利益は総売上の8.1%となっています。R&Dは総売上の10.1%です。

参入障壁の幻想と、顧客が嫌がることに走る企業

散文的に長々と書いてあって読みにくいのですが、Michael Porterが昔に説いたFive Forcesを現代のハイテク業界に当てはめ、顧客が嫌がることを積極的に行ってしまっている企業の愚について紹介している文章がありましたので紹介します。

この文章(The Five Forces Circles of Hell)について、僕なりにまとめまてみました。

 

  1. AppleがMacやiPhoneで非常に好調な理由は、他のパソコンメーカーや携帯電話メーカー・ネットワークプロバイダーが問題を抱えているからです。他の企業の問題とは、これらの企業は顧客を嫌っていて、顧客の要望を嫌っていて、顧客のニーズを嫌っていて、そしてノート型パソコンや携帯電話の定義をわざと限定しているからです。
  2. これはMichael Porterの”Five Forces”を学んだMBAたちが、閉鎖的なシステムやプラットフォームを躍起になって作っているからです。つまり参入障壁をうまく築いて、維持して、そして自社製品から顧客が逃げられないように囲い込み、利益を搾り取ろうとしているのです。
  3. Porterの”Five Forces”に習って、製品は良くないのに参入障壁を巧みに利用している例として
    1.  レンタルDVDのBlockbuster社。全国に数多くのレンタル店を展開。DVD供給会社と契約を結び、DVDの一般発売より先にレンタルはできるようにしていた。ブランド力、DVD配給会社に対する強い力、強力なレンタル店網のため、参入障壁を高く維持できていた。レンタル料金だとかサービスは至って普通です。
    2. SMS (携帯電話メールの世界スタンダード)はだいたい160文字で$0.10ですが、これは一般的な携帯電話データ通信量の100倍。でも世界でみんなが使っています。
    3. ADSL vs. SDSL。一般家庭用のADSLは上りデータ通信速度が下りよりも遅くなってますが、これは技術的にはもはや必要がないと議論しています。ビジネスユーザ用のSDSLから高い料金がとれるように、わざと一般家庭用のスペックを制限している議論しています(僕は詳しくわからないのでなんともいえませんが)。
  4. Appleはこの参入障壁と利益搾取の構造にとらわれず、顧客が本当に欲しいものを提供するようにつとめています。
    1. 音楽配信はもはやコモディティーと捉え、新しい配信モデルを作り出しました。iTunes Music Storeではアルバムを丸ごと買わなくても、シングルを個別にかえるようにしました。人工的な規制であるDRMの廃止にも積極的に動きました。
    2. 無線ネットワークが牛耳っている携帯電話業界に対して、iPhoneで風穴を開けました。今はAT&Tとの契約でいろいろな規制をしていますが、必死に規制しているようにも見えないと議論しています。おそらく携帯ネットワーク業者に対して今後より圧力をAppleは加えて、業界構造を変えようとするのではないかと議論しています。
さて、僕の意見です。
紹介した文章は本当に読みにくいのですが、言っていることはすごく正しいです。自分なりにまとめると
  1. 利益を確保するためには参入障壁を高くすることが重要と勘違いしている企業が多いです。そして一番の問題は、人工的な参入障壁を築くために、製品そのものの魅力を制限してしまっていることです。マーケティングの教科書にはこの考え方が実に良く紹介されていて、大きな弊害になっています。
  2. Appleがやっているのは、その逆です。まず、圧倒的に魅力的な製品を魅力的な価格で提供します。誰もその製品に追いつけないがために、それが結果として参入障壁となります。
  3. Appleは閉鎖的と思われる箇所はいくつかあります。例えばMacOSはAppleのパソコン以外では動きませんし、iTunes Music StoreのDRM付き音楽はiPodでしか再生できません。しかしこれはイノベーションのためには必須なインテグレーションと捉えた方が性格だと思います(クレイトン・クリステンセン, “イノベーションへの解 収益ある成長に向けて” 参照)。
  4. バイオの業界では「機器では損をしても試薬で儲けられる」という考え方があります。機器は赤字で売ってもいいから、その分を試薬で儲けようという発想です。しかしこの考え方は顧客にメリットはありません。
    1. たくさん実験をすればするほど、研究者は損をします。たくさん実験をする研究者にとっては、機器が高くても試薬が安い方がメリットがあります。
    2. 試薬のゾロ品メーカーを抑えるために、あの手この手の人工的なことをメーカーはやってしまいます。例えばゾロ品を使ったときのサポートや保証を制限したりします。
    3. 特許などでゾロ品メーカーを完全に抑えられている場合は、試薬の値段はずっと高いままにされてしまいます。一旦手に入れた顧客からなるべく利益を搾り取るためです。
  5. バイオの業界では流通の障壁も問題です。いくつかの理由で代理店をほぼ100%通すという商習慣になっていますが、これは大手メーカーに有利に働き、参入障壁になります。代理店に体する力が弱い小さいメーカーは、良い製品を作っていても販売が難しくなります。結果として、売っている商品は体したことが無くても、代理店とうまくつきあっている大手メーカーが有利になってしまいます。
  6. 各企業が本当にやらなければならないのは、マーケティングのテクニックで利益を守るのではなく、圧倒的に魅力的な製品やサービスを作り出すための努力を重ねることです。
  7. 研究者のサイドでは、業界構造をよく理解して、メリットの無い参入障壁の温床を無くしていく努力が必要です。

Millipore 2008年第一四半期業績

Milliporeが2008年1-3月の業績を発表しましたので簡単に紹介します。

売上は7%の増加で$395.2 million(411億円)。ただしドル安の影響が8%ありましたので、各国の通貨ベースでは1%の減少。Bioscience部門が6%の増加であったのに対して、Bioprocess部門が7%の減少でした(各国通貨ベースの数字で)。

営業利益は$57.6 million(対売上比14.5%)で、これは対前年($39.6 million)比で46%の増加。粗利率は52.5%で、前年の51.0%より若干改善。R&Dは対売上比で6.3%で、前年の7.4%より大幅に減少しています。営業マーケティング等の費用も対売上比31.7%で、前年の33.0%より減少しています。ただし金額ではR&Dは9%の減少で、営業マーケティング等は2.1%の増加になっています。R&Dを大幅に減らして利益を改善している感じがあります。

経営陣のコメントとして、Bioprocess部門での売り上げ減少は少数のアメリカのバイオテクノロジー企業の影響によるもので、その他のバイオテク企業は二桁成長しているとのこと。ということで、なかなか強気なコメントです。こういう理屈は小さいエリアを担当している営業担当者の言い訳としてはよく聞きますが、圧倒的な市場シェアを持っていて、なおかつ大きな世界市場を語っている経営陣がいうととてもおかしく聞こえます。本来なら経営陣としては、この動きを全体的なトレンドとして理解する勇気と力量が必要です。おそらくビジネス経験が貧弱だけど何かの間違いでトップになってしまった人が、営業部門の言い訳をそのままテープレコーダーのように繰り返しているのでしょう。言い訳を言い訳と見抜くだけの経験がなくて、なんとか自分の身を守ろうというパターンですね。僕もそういう人を見てきているので、ピンと来ます。

地域ごとに見ますとアメリカ大陸で10%の売り上げ減少($146.3 million)、ヨーロッパで17%の売上増加($171.3 million)、アジアパシフィックで25%の売り上げ増加($78.6 million)となっています。これはすべてドル建てで、ドル安の影響を受けた数字です。

ミリポアは水というどこでも必ず使う製品が主力の会社で、しかも圧倒的なシェアを持っていますので、市場の活気を正確に表すバロメータとなる会社の一つだと思います。

6%という各国通貨ベースでのBioscience部門の成長も、私が知っている世界の市場全体の伸びとほとんど一致しています。ミリポアが日本の数字を個別に出していないのは残念ですが。