Androidが失速した後に何が起こるか

昨年末、2010/12/14に私はブログでAndroidが特許によって沈められるだろうとブログに書きました。そのことがいよいよ現実になろうとしています。

この件については“FOSS Patents”というブログを運営しているFlorian Muellerが一番の権威で、米国の一般紙でも彼のコメントが誰よりも多く引用されています。

FOSS Patentsが現時点で解説していることの要点は以下の通りです;

  1. Android関連の訴訟は49個にのぼり、異常に多くなっています
  2. Androidの開発に当たり、GoogleはOracleの特許を故意に侵害した可能性が高く、その結果として数千億円程度の賠償金を支払うことになる可能性が高いです
  3. AndroidがMicrosoftの特許を侵害しているとして、HTCはすでにMicrosoftに対して電話機一台あたり5 USDを支払っていると報じられています。MicrosoftはSamsungにも同様な使用料を求めています。結果として既にAndroidはフリーとは言えなくないどころか、高くつく可能性もあります
  4. Androidが特許を侵害しているとしてAppleはHTCを訴えています。その結果として、HTC製のAndroidスマートフォンが米国で売れなくなる可能性が高いです。同様の特許侵害はHTCに限らず、Androidスマートフォン一般に当てはまるため、他のメーカーも訴えられる可能性が高くなっています
  5. Lodsysがモバイルソフトを開発しているいくつかの会社を特許侵害で訴えています。Appleはこれらのソフト会社を守ると一応の見解を出していますが、Googleはまったく何の見解も発表していません。Lodsysの訴訟により、中小のソフト会社は大きな危機に立たされています

さて、これらの訴訟がどのように展開するかは正確には予想できません。しかしはっきりしているのは、Androidが知的所有権がらみで非常に大きな弱みがあること、そしてAndroidを採用したメーカーは最低でも特許所有者に相当のライセンス料を支払わなければならないことです(最悪の場合は売れなくなる)。しかも今後ますますリスクが増大することが予想されますので、メーカーとしては一体どれだけライセンス料を払えば良いのか、どれだけ損害賠償を支払わないといけないのかが分かりません。

携帯電話メーカーにとっては非常に厄介な状態です。

この状況の中で、2011/2012年のスマートフォン/タブレット市場がどうなるか、簡単に予想してみます。

  1. Androidの採用をやめるメーカーが続出するでしょう。Windows Phone 7に関してはMicrosoftが知的所有権の問題をカバーしてくれますので、大部分はこっちに流れるでしょう。
  2. Googleが知的所有権の面倒を全く見てくれないということで、アプリを開発しているソフト会社がAndroidから離れて行くでしょう。その代わり、iOSやWindows Phone 7に流れて行くでしょう。
  3. お金を損するばかりなので、Google社内でもAndroidの開発の勢いが低下するでしょう。ただし中断することまでは出来ないでしょう。
  4. 結果としてAndroidは徐々に失速し、代わりにWindows Phone 7が出てくるでしょう。この間Appleがより多くのキャリアと契約することによって、iPhoneがシェアをますます拡大させるでしょう。
  5. タブレットについてはAppleの独走が続くでしょう。Androidタブレットは現時点で売上げが伸びず、対応アプリも増えていません。特許侵害問題があるうちは各メーカーもなかなか積極的になれないでしょう。またMicrosoftはタブレット用OSとしてWindows 8を用意していますが、これが果たしてどのようなものか全く未知数です。しばらくはAppleの独走を止められそうにありません。
  6. 最終的にはPCの時と同じように、MicrosoftとAppleがスマートフォン/タブレット市場を2分するでしょう。ただしPCの時とは逆にAppleの優位は揺るがないでしょう。Microsoftのタブレット用OSが遅れれば遅れるほど、MicrosoftとAppleの差は開きます。Microsoftにとってのタイムリミットは、企業にiPadが多く採用される前にタブレット用OSを完成させることです。
  7. Appleの最大のリスクは独占企業になってしまうことです。独占企業になると行動が厳しく監視され、イノベーションが制限される可能性があります。Microsoftが早く立ち直ってくれないとこうなってしまう危険性があります。
  8. Googleのブランドは大きく傷つきます。特にハードウェアメーカーを巻き込んだプロジェクト、例えばGoogle TVやChrome OSなどはもはやどこもついて来なくなるでしょう。大切なのは、Googleがコアビジネスに集中できるかどうかです。Android問題でAppleと険悪になったことで、コアビジネスのサーチとインターネット広告に悪影響はでます。引き続き技術革新を続けないと、Bingなどに追いつかれる可能性だってあります。

Google+ が成功するかどうかはその機能を見ても分からないよ

アップデート:
2ヶ月ぐらいでFacebookが反応したみたいです(Facebook revamped to combat Google+ threat)。

具体的な機能はまだ見ていませんが、上の記事でsocial media strategistのTiphererh Gloria氏は”With Facebook’s new share options, many of the privacy concerns reasons to leave Facebook for Google+ have been removed.”と語っています。FacebookをやめてGoogle+に移行する理由はなくなったと。

以前からFacebookはこの機能を用意していたと考えるのが順当ですが、Google+が成功しているのを見て反撃を早めたのではないかと想像されます。

Googleの新たなソーシャルネットワークサービス、Google+ (plus)が公開され、招待制であるにもかかわらず急速に利用者が増えているようです。

  1. GoogleがSNSに再挑戦するプロジェクト「Google+」が始動
  2. Google+の先週の訪問者は180万、283%の成長(Hitwise調べ)

新しいサービスが出てくることは一般の人にとってはありがたいことです。

一方でGoogleの狙いはもちろん打倒Facebookです。

Google+の方がかなり後発だし、Googleのエンジニアはとても優秀なので、Google+にあってFacebookに無い機能があるのは当たり前のことです。問題は、これらの機能のおかげでFacebookの脅威になりうるかどうかです。

ハッキリ言って、それは無理でしょう。

もしGoogle+の新機能の中で特に人気が高いものがあれば、Facebookは単にそれを真似れば良いのです。Facebookには十分なお金と優秀なエンジニアがいますので、真似るのは難しくないでしょう。

改めてイノベーション、特に業界をひっくり返すような破壊的なイノベーションについてのChristensen氏の著書を読むと明確に書いてあります。業界リーダーを引きずり降ろすようなイノベーションが起こるためには、業界リーダーがそのイノベーションを取り入れない何らかの障害が必要なのです。この場合、Google+の新機能をFacebookがあえて真似ない理由が必要です。

例えばFacebookを横目にTwitterが躍進した理由を考えてみましょう。Facebookはクローズドであり、自分が友人と認めた者にしか情報は発信されません。それに対してTwitterは誰にでもメッセージを送ることができ、また誰でもTweetを読むことができるオープンさがあります。FacebookとTwitterはこの意味では対極に位置していますので、FacebookがTwitterと直接対抗することは非常に困難でした。Twitterとの連携を計る以外に、Twitterの躍進に対抗する手段はありませんでした。Facebookにとって幸いだったのは、TwitterはFacebookを補完する存在だったということ、そしてそれぞれがお互いの領域で成長できたことです。

Google+の場合はFacebookと全面的に対抗しようとしています。アクセスをきっちり管理するという意味でFacebookと同じ領域で戦っています。しかしその結果、Google+の新機能はFacebookと親和性が高く、その気になればFacebookがいつでも真似られるものです。Google+のイノベーションを取り入れる上で、Facebookにとって障害になることはほとんどないのです。

技術力によるイノベーションをいくら繰り返しても、Googleがソーシャルネットワーク関連でFacebookで勝つのはほぼ無理です。ただ何か決定的な技術の特許がとれれば話は変わります(例えばPagerank等のような)。

それよりも必要なのはソーシャルネットワークの魅力を根底から考え直して、新たなソーシャルのニーズを掘り起こすことでしょう。それもFacebookと親和性が無いようなものを探さないといけません。

Google+がFriendFeed(機能的に優れていたけど一部の人しか使わなかったTwitterライクなサービス)化するような気がしてなりません。