Samsung Apps StoreとGoogleばなれ

Androidのバリューチェーンの中でSamsungがどんどんと力を付け、Googleよりも力を付けつつある点について何回かブログをしました (1, 2)。またAndroidで儲かっているのはSamsung1社という状態になっているため、他のメーカーもGoogleに頼らない、Androidに頼らないマーケティング戦略を打ち出さざるを得ない状況も生まれています(3)。

Samsung Appsのキャンペーン

どうやらこの動きは加速しているようです。

Samsungはモバイル用ゲームを作っているElectronic ArtsのChillingo部と提携し、“100% Indie”というキャンペーンを開始するそうです。

以下抜粋

“100% Indie” allows developers to tap into the phenomenal growth that Samsung is experiencing. – See more at: http://news.ea.com/press-release/mobile-and-social/chillingo-and-samsungs-100-indie-developer-program-offers-best-reven#sthash.S9vu3ir6.dpuf

Developers will receive 100% revenue from March 4, 2013 – September 3, 2013, 90% revenue share from September 4, 2013 – March 3, 2014, 80% revenue share from March 4, 2014 – March 3, 2015, and after March 4, 2015 on Samsung Apps, developers will receive 70% revenue share.

Kevin Tofel氏が解説していますが、Google PlayやAmazonのAppstoreでは開発者は売り上げの70%を手にします。しかし100% Indieのキャンペーンでは、まず最初の6ヶ月間は売り上げの100%が開発者に行きます。そして6ヶ月ごとにこの比率は10%ずつ下がり、2015年の3月からはGoogleやAmazonと同様の売り上げの70%になります。ゲームに限定されているようですが、新しいゲームに限定されているという記載はなく、既にGoogle Playなどで販売されているゲームでも大丈夫そうです。

目的は明白で、Samsung Appsの開発者向けプロモーションです。つまりGoogle PlayやAmazonのAppstoreでソフトを販売するよりも、Samsung Appsで売った方が儲かりますよと開発者に持ちかけ、開発者がSamsung Appsでの販売を選択するようにさせたいのです。

Kevin Tofel氏が指摘するように、Gartner Researchの調査結果によるとAndroidスマートフォンの実に42.5%がSamsung製です。Androidタブレットの世界でも、45%がSamsung製だとするデータもあります。つまりSamsung Appsの潜在的なリーチはGoogle Playには及ばないものの、脅威を与えるのに十分です。

Samsungが仕掛けられる展開

Samsungの戦略はわかりませんが、Androidの世界での圧倒的なシェアを活かせばいろいろなことができます。

  1. Google Playよりも安い値段でアプリを販売。これはAmazonと同じ戦略ですが、Amazonはタブレットしか販売していないので、マーケットがまだ小さいです。同じことをSamsungスマートフォンでやればGoogle Playばなれは加速します。
  2. 開発者の優遇。Google Playは売値の70%を開発者に還元しています。Samsung Appsは100% Indieキャンペーンでは期間限定で還元率を高くしていますが、同じような戦略を拡大することができます。

Samsungはスマートフォンで莫大な利益を得ており、Samsungのモバイル事業だけでもGoogleの全事業より儲かっています。またSamsungの携帯電話の売り上げはAmazon全体の売り上げをしのいでいます(Amazonは超薄利多売のため、ほとんど利益がありません)。Samsung Appsで仮に赤字になったとしても、その分スマートフォンが売れるのであれば、赤字分は容易に回収できます。

もしSamsungがSamsung Appsを積極的に展開し、開発者優遇策を通して独占的なタイトルを集め、かつ売値をGoogle Playよりも低くすれば、Google PlayもAmazon Appstoreも窮地に立たされます。GoogleもAmazonも自らのマージンを減らすことで対抗しようとするでしょうが、Samsungのような強力な赤字回収メカニズムがないので、まともに戦えません。

Googleが怖がっているのはもっともなことです。

戦略的な話をすると

より高いレベルの戦略論で言えば、

  1. GoogleもAmazonもハードおよびOSに対する戦略は同じです。つまりハードウェアおよびOSをコモディティー化し、誰でも入手できるようにします。そしてネット広告もしくはネットでのコンテンツ販売で儲けるという戦略です。
  2. しかしGoogleやAmazonの戦略とは裏腹に、ハードウェア、OS、販売チャンネル、マーケティングの力がバリューチェーンで最大の位置を占める展開となり、それに強いAppleとSamsungだけが勝っています。
  3. 一方でコンテンツ販売に関しては、AmazonにしてもGoogleにしても優位性が出せていません。物流が重要な世界と異なり、デジタルコンテンツの販売ではAmazonですら優位性がなく、参入障壁が低くなっています。むしろハードで勝っているところがデジタルコンテンツ販売でも勝つという展開になる可能性があります。
  4. なぜそうなるかというと、スマートフォンもタブレットもまだ”Good Enough”に達していないからです。Appleが新製品のiPhoneを出したり、Samsungが新しいGalaxyを出せば飛ぶように売れます。まだまだ顧客は新しくて高機能なハードを求めているのです。これが逆に「もう古いやつでいいや」となればハードがコモディティー化していきます。
  5. ハードやOSでの差別化がバリューチェーンで大きな位置を占める限り、GoogleやAmazonが優位に立つのは難しくなります。

GoogleもAmazonも戦術レベルではなく、戦略のレベルで苦戦しており、なかなか出口が見えません。大きな転換がない限り、Apple, Samsungの優位は続くと予想され、かりにHTCが復活しても2強が3強になるだけで、Googleにとってはますます頭痛の種が増えるでしょう。

Google社内でSamsungの強さを危惧している?

タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状という書き込みをしたばかりですが、The Wall Street Journalに“Samsung Sparks Anxiety at Google”という記事が掲載されましたので紹介します。

Google executives worry that Samsung has become so big—the South Korean company sells about 40% of the gadgets that use Google’s Android software—that it could flex its muscle to renegotiate their arrangement and eat into Google’s lucrative mobile-ad business, people familiar with the matter said.

But Mr. Rubin also said Samsung could become a threat if it gains more ground among mobile-device makers that use Android, the person said. Mr. Rubin said Google’s recent acquisition of Motorola Mobility, which makes Android-based smartphones and tablets, served as a kind of insurance policy against a manufacturer such as Samsung gaining too much power over Android, the person said.

Several people familiar with the relationship between the companies said Google fears that Samsung will demand a greater share of the online-advertising revenue that Google generates from its Web-search engine.

Samsung in the past has received more than 10% of such revenue, one of the people said. Samsung has signaled to Google that it might want more, especially as Google begins to produce more revenue from apps such as Google Maps and YouTube, another person familiar with the matter said.

Samsungが具体的にどのような要求をAndroidに押しつけてくるかはまだ見えてきていません。しかし特にGalaxy Noteシリーズではマルチウィンドウやスタイラスなどの独自機能をかなり前面に出しており、Google
が提供するAndroidだけではタブレット市場で勝つには不十分だと考えていることが強く示唆されています。

FireFox OSも予想以上にメーカーやキャリアからの協力を取り付けている印象で、思いの外にAndroidに対するメーカー、キャリアの不満があるのではないかという気もします。2013年はその姿が少しずつ見えてきそうな気配があります。

大切なことは、マーケットシェア的にはAndroidとiOSが市場を二分しているとはいえ、新規参入の余地がまだあるということです。新規参入の余地は、既存の製品に顧客がどれぐらいの不満を持っているかによって決まるのであって、マーケットシェアによるのではありません。スマートフォンの場合、キャリアは通信料の増大に不満を持っているし、ユーザは電池の持ちに大きな不満があります。両者ともに、今までよりも良いものを求めています。SamsungがGalaxy Sを売り出してスマートフォンのシェア拡大を開始したのはまだ2年ちょっと前です。まだまだいろいろなことが変化し得ます。

タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状

iPadが圧倒的に強いタブレット市場において、それでも徐々にAndroid陣営は勢力を伸ばしつつあります。とはいえ、状況はGoogleにとってかなりまずいように思えます。なぜならAndroidを前面に出して売れている気配が全くありません。

iOS vs. Android

という構図ではなく、

Apple vs. Amazon

もしくは

Apple vs. Samsung

という状況になっています。テクノロジーブロガーはGoogleに注目しています。しかし実際の販売状況および利用状況を見る限り、Googleは「蚊帳の外」感すら漂っています。

以下データを見ていきます。

Millennial Mediaというモバイルの広告事業を展開している会社が発表したデータをまず紹介します(Apple Insider経由)。ここで見ている数字は広告がどれぐらい多く閲覧されたかを示すもので、広告はアプリなどに埋め込まれて表示されます。

まずはスマートフォンを含むデータ。Appleが2012年にシェアを25.36%から31.20%に伸ばしている結果となっています。Samsungも同様に16.80%から22.32%に伸ばしています。

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タブレットに限ったのが以下のデータです。Androidがシェアの41%を握るまでに成長しているものの、その原動力は圧倒的にSamsungによるものであり、次いでAmazonとなっています。GoogleがブランディングしているNexus 7はAsusのシェアに含まれていますが、Androidのうちのわずか5%です。

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AmazonのKindle Fireは、OSとしてはGoogleのAndroidを使っていますが、激しくカスタマイズされていてAndroidの存在感を消しています。それどころか、メーカー保証を損なうような改造を行わない限りGoogle PlayストアなどのGoogleのサービスを利用することができなくなっています。

SamsungはAndroidをそこまで改造しておらず、普通のGoogle Playを使うことができます。しかしスマートフォンでもタブレットでも圧倒的に強いSamsungはAndroidを脅かす動きが顕著に出てきています。独自のモバイル用OS Tizenを2013年中に発表予定していることもそうですが、スタイラスによるペン入力やマルチウィンドウの独自ソフトを組み込んで、Samsungだけの機能を強化しようとしている点も見逃せません。

Nexus 7はアメリカでの発売が7月で販売期間が短いという問題がありますが、機能の割には圧倒的に安い価格で提供していて、なおかつ評論家の間では非常に好評だったにもかかわらず、Samsungの遙か後方に位置しています。販売チャンネルをしっかり管理しているSamsung、独自の強力な販売チャンネルを持っているAmazonとの差がくっきり出ているように感じます。

なお同じような結果は同業者のChitikaからも発表されています。Chitikaのデータの違いは2ヶ月ごとに更新されている点で、そのため年末商戦に強いAmazonのシェアが高くなっています。

Chitika January Tablet Graphs 1 2

推察

GoogleはAndroid OS自身からは利益を取らず、Android OSを使っている利用者からの広告収入やオンラインストアで利益を得ようとしています。そのためにはAndroidがどう使われているかをある程度コントロールする必要があります。

しかしAmazonのKindle FireユーザはAmazonのオンラインストアに囲い込まれているため、Googleのストアが入り込むことができません。Kindle FireのブラウザもAmazon製ですので、Googleがコントロールできません。

SamsungはGoogleを排除していません。しかしGoogleのタブレット戦略はNexus 7後もほぼSamsung1社に依存しています。力関係は圧倒的にSamsungに傾いています。特筆するべきは、ちゃんと粗利を稼げるAndroidタブレットはSamsungしか作れていない点です。

Androidはタブレットのシェアを伸ばしました。しかしその犠牲として、Googleは市場をコントロールする力を失いました。価格崩壊も起きていて、混沌としています。2013年がどうなるか、予測不能です。

Androidばなれ

以前にSamsungがDoCoMoとTizen搭載スマートフォンを販売するという話に関連して、Android搭載スマートフォンが売れているのはGoogleの製品開発のおかげではなく、むしろSamsungのマーケティングに起因する可能性が高いこと、そして既にSamsungの方がGoogleよりも強い立場になってきているかもしれないという話をしました。

実はHTCも同じ考え方をしているかも知れないという情報が出てきました。

これは何かというと、HTC Oneの製品発表会でAndroidのことが一切語られなかったという話です。もちろんAndroidは搭載しているのですが、Androidに言及することはマーケティング上なんの利益にもならず、むしろ害があると判断したようです。

2013年はSamsung以外のAndroidメーカーが利益を確保しようと、あの手この手を使ってくるはずです。その中でAndroidのことを敢えて語らないというやり方は他のメーカーも採用するでしょう。

GoogleやAmazonが採用しているビジネスモデルの問題点

AmazonのKindle Fire、そしてGoogleのNexus 7およびNexus 4はハードウェアを赤字覚悟の値段で売って、そしてコンテンツもしくは広告で利益を確保するという戦略です。これは古くからあるビジネスモデルであり、たまには成功例があるものの、うまくいかないことも多く、またイノベーションを阻害する可能性があることをこのブログでも以前から解説しています。

ハードウェアを赤字で売って、コンテンツで儲けようというやり方はゲーム機の世界で盛んに行われています。そのゲーム機の新製品サイクルは7年のようです。

ソニーがPS4を年末に投入すると発表されました。前のPS3が2006年11月に発売されたものですので、ちょうど7年前になります。2006年と言えば、AppleがPowerPCプラットフォームを離れ、Intelに移行開始した年。この頃に発売されたマシンは当然ながら最新OSのMountain Lionが動きません。大不評だったWindows Vistaがリリースされたのもこの頃です。またiPhoneはまだ初代ですら発売されておらず、日本はまだまだガラケー全盛時代です。GoogleはまだBlackberryタイプの携帯電話を開発していました。

7年というのはITの世界では記憶がかすむほどの大昔です。でもゲーム機の世界ではPS3のライバルのXbox 360が2005年の発売、任天堂のWiiも初代WiiからWii Uまで6年間空きました。

AmazonとGoogleが採っているビジネスモデルというのはそういうものです。ただしビジネスモデルが異なるAppleが業界を牽引しているため、イノベーションを緩めることができないのです。もしもAppleが何らかの理由でイノベーションを緩めてしまったら、AmazonもGoogleも緩めるでしょう。そうしないとコストの回収ができません。

タブレット市場ってどうなっているんだろうについて

IDCが10-12月の世界タブレット市場調査を発表していて、前年同期比75.3%の5250万台がメーカーから出荷されたというデータを出しています。ここまでは納得なのですが、意外なデータがたくさんありますので、これについて解説しながら、タブレットの市場の真の姿について考察してみたいと思います。

データは下のグラフの通りです。

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私が見ているポイントは以下の通り;

  1. SamsungがAppleについでシェアを獲得しています。なおかつ堅調にシェアを拡大しているのはSamsungだけです。しかしSamsungはこれといった話題になるようなタブレット製品を発表しておらず、どちらかというと注目されていません。Samsungが発表した話題商品はGalaxy Noteですが、これがタブレット出荷台数に入っている様子はありません。
  2. Amazonは出荷台数を伸ばしているように見えますが、実は2011Q4の時よりもシェアを落としています。2011Q4で大量に出荷した後、2012Q1, Q2で大幅に出荷台数を落としたためです。AmazonのKindle Fireについては、クリスマス商戦で非常に好調だったものの、それ以後は大幅に売り上げが落ちたことが言われています。通年で見るとiPadよりも成長率が低く、競争力を失っているように見えます。
  3. ASUSはNexus 7の数字が含まれています。価格が安い割には性能が良いと言われ、非常に評判だったNexus 7です。2012Q3にASUSの出荷台数が大幅に伸びているのはNexus 7効果だと思われますが、2012Q4には出荷台数を落としています。Nexus 7は販売が好調だったため、11月末まで米国で在庫切れとなっていたそうです。したがって2012Q4の出荷台数の低下はGoogleの需要予測ミスの可能性があります。Nexus 7の人気そのものが陰ったわけではないと考えられます。
  4. OthersもSamsungと同様に堅調にシェアを拡大しており、全体としてのシェアは20%と非常に高いです。

それぞれについて自分なりに考察してます;

  1. Samsungのタブレット販売数は以前から謎です。Samsungはタブレットの販売台数を発表していませんが、Appleとの裁判の中で米国での販売台数が公開されたことがあります。それによると、IDCの推測では2012Q2で2,391,000台が世界で出荷されたところ、米国では37,000台しか売られていなかったことがあります。もしIDCの推測が正しいのならば、ほとんどのSamsungタブレットは米国以外で売られたことになります。一方でタブレットの使用率は米国が圧倒的に高いというデータもあり、矛盾します。
  2. 2011年のクリスマス商戦語、Kindle Fireが急速に販売を落としたことについて、性能が悪かったことなどが言われています。それが真実だとすれば、性能が改善されたKindle Fire HDは2013年以降、大きく売り上げを落とさない可能性があります。経緯を見る必要があります。
  3. Nexus 7はKindle Fireと価格帯および製品のサイズが似ており、Kindle Fire同様の売り上げパターン(つまりクリスマス後に大幅に落ち込む)可能性が否定できません。これも経緯を見る必要があります。
  4. 中国では格安のタブレットが非常に好調に売れていると言われており、Othersの大部分はこれらだと私は想像しています。

まとめ

メディアで話題になっているKindle FireやNexus 7が思ったほどに売れていません。一方でSamsungとOthersが伸ばしています。いずれも西洋のメディアでは話題になっておらず、どうして売れているのかよくわかりません。IDCの推測がどれだけ当たっているかも含めて、タブレット市場の真の姿は見えていないのが現実ではないでしょうか。

現状ではタブレットの販売台数を発表しているのはAppleだけです。Appleの販売台数は劇的ではありませんが、出荷の伸び率が48%と高い状態を維持しています。他のメーカーはアナリストを煙に巻いていて、出荷台数も販売台数も都合の良いときにちらちら見せているだけです。この状態では何が起こっているかがわからないのも仕方ありません。