オバマ大統領の広島・長崎訪問を要請することについて

プラハの演説で「核兵器の無い世界」を現実的に可能な目標として掲げたオバマ大統領が登場しました。それを受けて非核運動が多いに盛り上がり、広島・長崎への訪問を要請しようという流れになっています。

それはそれで大変結構なことなんですが、オバマ大統領の苦労ももう少し日本はわかってあげないといけないと思います。広島・長崎への原爆投下のおかげで戦争を早く終わらせることができ、無駄な戦死者を出さずに済んだとアメリカ人は思っています。また広島・長崎訪問が「謝罪」のように受け止められてしまうことには、当然抵抗があります。米国の実業率が10%に迫る勢いで、なおかつオバマ大統領が大目標に掲げていた医療保険改革もなかなか進まず、対イラン政策も進まず、支持率だって若干下がってしまっているオバマ大統領が、ここで原爆投下を「謝罪」したと米国民に受け止められてしまったら大きな痛手です。「核兵器の無い世界」の最大の理解者が、身動きが取れなくなってしまうかも知れないのです。

オバマ大統領に広島・長崎訪問を強く要請するばかりではなく、大切なのはそのオバマ大統領をどうやって支援するかだと思います。例えば米国の大統領でも、オバマ大統領だけでは何もできないのです。そういう意味で、NHKなどに報道されているような、漫画家たちが自分たちの戦争体験を語り始めている動きこそが大切です。いままであえて語ることが少なかった多くの被爆者たちが、オバマ大統領の演説に勇気づけられて、自分たちの体験を語り始めていることこそが大切です。例えばデザイナーの三宅一生さんやプロ野球選手の張本勲さんなどです。広島の原爆体験を元に制作された「はだしのゲン」の英語訳などもそうです。

繰り返しますが、日本がやらなければならないのはオバマ大統領にプレッシャーをかけることではありません。オバマ大統領の「核兵器の無い世界」という考え方が、米国で受け入れられるように地味な努力を重ねることが大切です。

あくまでも Yes I Canではなく、Yes We Canなのです。

ビジネスプランって必要?

昨日テレビ(どの局か忘れました)で室町時代式のウェディングを提供するビジネスを始めている女性が紹介されていました。室町時代のウェディングを提供するビジネスプランは、とあるコンテストでも優勝したのですが、実際にふたを開けてみると年間に6件程度ということでなかなかうまく行かないようでした。

そのテレビはすぐに切ってしまったのでその結末はわからなかったのですが、そういえば他にもビジネスプランコンテストで入賞したにもかかわらず、なかなかビジネスがうまくいかない人の話は聞くなぁと思って、ちょっと調べることにしました。

ビジネスプランのコンテストは日本に限らず、欧米でもかなり盛んなようです。ただし少なくとも米国ではMBAなどのコースの中で行われている雰囲気で、日本のように誰でも参加自由ではないことがあるみたいです。よく調べていないので、間違っているかもしれませんが。

一方でビジネスプランコンテストの入賞者が実際にどれぐらいの確率でビジネスを成功させたかという情報はあまり見ませんでした。どちらかというと、ビジネスがうまく立ち上がるか上がらないかに関わらず、「いい勉強になる」「いい人脈に出会える」という評価が多いように感じました。でも「いい勉強になる」「いい人脈に出会える」といったコメントって、失敗のときに誰もが弁解代わりに言い古されているものなので、僕はネガティブに受け止めました。

その中で一つ、多少なりとも学術的に調査されたような文献が見つかりましたので紹介します。

Pre-Startup Formal Business Plans and Post-Startup Performance: A Study of 116 New Ventures(事業開始前の公式ビジネスプランと事業成績の相関関係:116の新規ベンチャーの調査から)

結論

The analysis revealed that there was no difference between the performance of new businesses launched with or without written business plans. The findings suggest that unless a would-be entrepreneur needs to raise substantial startup capital from institutional investors or business angels, there is no compelling reason to write a detailed business plan before opening a new business.

分析の結果、文書化されたビジネスプランの有り無しと新しいビジネスの成績には相関が見られませんでした。したがって投資家やエンジェルから相当額の資本金を集めなければならない場合を除き、事業開始前に詳細なビジネスプランを書く必要は特に無いと示唆されます。

他文献の紹介の中から

only a minority of entrepreneurs, including even MBAs from a preeminent business school, started
their ventures with a formal written business plan.

有名ビジネススクールMBAであっても、公式なビジネスプランを持ってベンチャーを起こした起業家はごく少数派(10-30%)に過ぎない。

調査の方法

1985 – 2003年の間にBabson大学を卒業した学部生とMBAを調査。起業家個人の情報、ビジネス内容、ビジネスプラン、ビジネスモデル、ビジネスモデルの変更内容、初期の資本、事業成績などをアンケートで調査し、330の回答を得た。

会社の収入、利益、従業員数を目的変数(成功の目安)とした。

また説明変数としては教育、業界経験、企業経験、創業者数、性別、創業年数、投資を受け入れた年(バブルの影響排除のため)、創業12ヶ月未満での投資受入額、内部・外部資本の割合としています。

これを元に回帰分析を行っています。

説明変数を個別に見たときの相関(単変量解析)

事業開始前のビジネスプラン

事業開始前にビジネスプランを用意している会社の方が収入、利益、従業員、資金受け入れ、創業年数とも多かったものの、ビジネスプランを持たなかったところとの差はわずかでした。統計的な有意があったのは従業員数だけで、それも0.1だけでした(つまりこの差は単なる偶然の可能性も高い)。

性別

収入、利益、従業員とも、男性起業家の方が女性起業家よりも多くなっていました。統計的な有意性は0.01。

教育

学部卒業起業家は収入、利益、従業員数のいずれの指標で見ても、MBA卒起業家をしのいでいました。統計的有意性は0.05。

創業者数

創業者数は収入、利益、従業員数のいずれとも強く相関し、有意性は0.001。

外部からの資金調達

外部肩調達した資金の割合は収入、利益、従業員数のいずれとも強く相関し、有意性は0.05。

重回帰分析

それぞれ収入、利益、従業員数を説明する3つのモデルを作った場合、そのいずれにおいてもビジネスプランによる効果は見られませんでした。

これらのモデルでは創業年数の説明変数が収入、利益、従業員数共に有意性0.01で寄与。その他の寄与はあまりなし。

考察の抜粋

It seems to us that university business plan competitions are being overdone. If we must have new venture competitions, the emphasis should be on business implementation. After all, do university athletics departments run play-book competitions? No, of course not. They reward the actual winners of the contest on the field of play. Entrepreneurship, just like football, is a contact sport not a classroom intellectual exercise.

どうやら大学のビジネスプランコンテストは行われすぎているようです。ベンチャーコンテストをやるとしても、ビジネスの実施に重きを置くべきです。大学の体育会では作戦ノートに基づいた競技会をやりますか?もちろんそんなことはやりません。グラウンドでの勝者が表彰されるのです。起業はアメリカンフットボールと同じです。お互いにぶつかり合うコンタクトスポーツです。教室でやる知的鍛錬ではないのです

これなら納得。僕もそう思います。