GALAPGOSがガラパゴスにもなれない理由:追記

前に書いたブログに対していくつか捕捉したい点があります。

やはり「進化」の視点で。

GALAPAGOSの独自機能は強みにならないか?

GALAPAGOSにはいくつか優れた特徴があります。例えば画面の解像度がiPadよりも高いとか、あるいはXMDF規格が日本語の扱いに優れている点です。

しかし、優れた機能を持っているということと強みがあるというのは全く別の話です。なぜならばGALAPAGOSはAndroidなどの標準規格を多用しているからです。

少なくともGALAPAGOS程度の特徴であれば、標準的なAndroidタブレット(まだ販売されていませんが、近いうちに登場するでしょう)やiPadに搭載することが簡単です。XMDFについてはビューアソフトを作ればいいだけです。画面解像度の問題についてはAppleはiPhone 4で大幅に改善していますので、iPadの次期バージョンでも解像度が良くなるのはかなり確度が高いです。

つまりGALAPAGOSは「隔絶」の度合いが極端に少ないため、独自機能を進化させても、すぐに真似られます。ですから独自の進化を積み重ねることが出来ず、ガラパゴス的進化はできません。

機能を限定することにより、独自のセグメントが築けるか?

大西宏さんが言っているのが恐らくこの議論です。

大西さんも言っていますが、価格をぐっと抑えられればこの可能性はあります。価格を大きく開けることにより「隔絶」したマーケットセグメントが狙えるからです。しかし既に発表されているAndroidタブレットを見ると、価格はiPadより安いどころか、むしろ高くなりそうです。新しい抱き合わせ(例えばオンライン新聞購読とのセット販売)をしない限り、GALAPAGOSの値段も抑えられないでしょう。

そうなるとこの議論は無理になってしまいます。

僕の意見

GALAPAGOSという名前、「社員レベルでは反対の声が多かったのは確か。しかし、上層部に行くほど、このブランドに対する賛成の声が増えていった」そうです(ソース)。

マーケティングと生物の進化は共通するところは多いと思います。ガラパゴス進化なんてまさに生物学的に言うニッチですし、マーケティングのニッチ市場も言葉が同じだけでなく考え方も同じだと思います。その意味で技術のガラパゴス進化は非常に興味深い話題です。

でもシャープ上層部はガラパゴス進化を理解していないのでしょうね。

“Can anybody beat the iPad?” だって

Can anybody beat the iPad?というのが CNNMoney.comのウェブサイトにアップされていました。

まぁアナリストの言っていることなのであまり真に受ける必要もないのですが、僕もそうだと思います。

というか今年の1月30日には既に明白だったと思います。(「iPadのこわさは、他のどの会社も真似できないものを作ったこと」

GALAPGOSがガラパゴスにもなれない理由

GALAPAGOSという名前のメディアタブレット端末がシャープから発表されました。その発表会の中で、GALAPAGOSという奇抜なネーミングの理由をこう説明したそうです。

当日行なわれた発表会でシャープ オンリーワン商品・デザイン本部長の岡田圭子氏は、「GALAPAGOS(ガラパゴス)」は、世界基準とかけ離れた日本の特異な進化と揶揄される言葉として否定的にとらえるのではなく、世界のデファクト技術をベースに日本ならではのきめ細やかなモノづくりのノウハウと高いテクノロジーを融合させ世界に通用するオンリーワンの体験を創出したいとした。

galapagos_sharp.pngしかしどう考えても、この製品はガラパゴスにもなれないでしょう。

世界基準とかけ離れた日本の特異な進化も果たせずに、瞬く間に絶滅するだけでしょう。なぜならガラパゴス的進化をするための条件が整っていないからです。

ガラパゴス的進化をするための条件

ガラパゴス的進化をするには、世界基準とかけ離れたスタンダードを作れば良いというものではありません。例えば独自のスタンダードを作ったものとして、ソニーがiPodに対抗しようとしたときのATRAC規格が記憶に新しいです。ATRAC規格はすぐさまに絶滅しました。日本国内だけを見てもすぐに絶滅しました。日本だけで生き残るガラパゴス進化もできなかったのです。

それではガラパゴス的進化をするための条件とはいったいなんでしょうか?僕は以下の2つが重要ではないかと考えています。

  1. 外部から隔絶されていること:ガラパゴス諸島の島々は海によって大陸から隔てられているため、独自の進化をすることができました。同様にテクノロジーがガラパゴス的進化をするためには、世界基準から隔絶される必要があります。
  2. 生き残ること:進化というのは、子孫が徐々に変化していって環境に適応していく過程です。子孫が生き延びないといけないのです。いきなり死んではガラパゴス的進化は起こりません。でもそのためには強力な外敵や競争相手がいないことが大切です。
  3. 独自に進化(変化)すること:ガラパゴス進化をするためには変化をするあります。生物学的には、他種と交配しても子孫が育たないレベルまで進化することです。こうすることによって外部との隔絶をより強固にできます。テクノロジーで言えば、世界規格ではもはや代替が不可能というレベルまでに独自規格が新機能を発展させなければなりません。

NewImage.jpg例えばガラパゴス携帯電話の場合、外部からの隔絶は強固でした。通信規格が違うことがまず最初のハードルでした。世界で広く使われているGSMではなくPDC方式が採用されていました。そして各社が3Gに移行するまで、これが主流の通信規格でした。世界標準規格を用いた3Gへの移行は2006年ごろまでかかりました。しかしこの頃までにはiMode等、これまた日本独自の規格が普及しており、この機に海外メーカーが入り込むことは困難でした。つまり1.の要件によってガラパゴス進化が始まり、2.の生存をしているうちに、3.の進化(変化)が行われ、隔絶が強力になったのです。

まだこの隔絶は残っていますが、iPhoneなどの出現によって携帯電話のガラパゴス的進化が終焉を迎えそうです。ただ逆に言うと、iPhoneぐらいに強力なイノベーションがない限り、ガラパゴス携帯の強固な隔絶は続いたでしょう。

ところがシャープのGALAPAGOSは、全然この要件を満たすことができていません。

GALAPAGOSは世界基準にどっぷり浸かっている

通信はWiFi(IEEE802.11b/g)、OSはAndroidと完全な世界基準です。独自なのはXMDFという電子書籍のフォーマットだけのようです。

XMDFの利用は有償ということですが、どこかがXMDFを読めるビューアをAndroidやiOS用に開発することだって十分考えられます。

コンテンツにしても、出版社はXMDFだけを使う必要がありません。シャープはPDF、Word、Excelなどの世界基準をXMDF形式に変換するツールを提供するということなので、XMDFは「隔絶」をほとんど提供することができません。

この点を考えると、GALAPAGOSは世界基準にどっぷり浸かりすぎていて、隔絶の要件を満たしてないことがわかります。

またXMDFコンテンツを作る際に利用されるのは、恐らくはAdobe InDesignなど世界基準の出版ソフトでしょう。まずこれで作っておいて、最後に変換ソフトを使ってXMDFを作ることになりそうです。こうなるとXMDFを変化させることが難しくなります。仮にXMDFに独自の機能をつけても、Adobe InDesignなどが対応してくれないとその機能が活かされません。ですから「独自の進化(変化)」の要件も満たせません。

なお、これはAppleがFlashで作ったソフトを禁止しようとしたときに使った理屈の一つです。AppleはFlashでオーサリングされると、iOSの進化が阻害されると言ったのです。

GALAPAGOSは生き延びれるか

GALAPAGOSの取り囲む環境は競争相手だらけです。日本での活動は遅れていますが、AmazonのKindleAppleのiPad/iBooksなど強力なライバルがすでに日本にも浸透し始めています。

機能にしても価格にしてもGALAPAGOSがこれらのライバルに勝つのは至難の業です。何より販売スケールが違いますので、部品の調達コストが違うはずです。アセンブリにしても米国メーカーは中国等安い国で製造しますので、最終製品の価格競争力は相当なものです。

隔絶の要件が満たされず、競争相手がうようよいる環境に放り込まれたGALAPAGOSは恐らくはあった言う間に絶滅してしまうでしょう。

そして生き延びることが出来なければ、進化(変化)することもできません。

iTunesとガラパゴス

NewImage.jpg昔からのAppleユーザでなければ知らないと思いますが、iTunes Music Storeは(意図的な)ガラパゴス進化から生まれました。

iTunes Music Storeが生まれたのは2003年4月28日。このときはまだMac版のiTunesしかありませんでした。

iTunes Music Storeを実現するためには、音楽レーベルが楽曲を提供する必要がありましたが、Napsterなどで痛い目にあっていた音楽レーベルはインターネット配信に消極的でした。最終的にAppleは音楽レーベルを口説き落とす訳ですが、そのときにMacユーザが全パソコンユーザの5%に満たなかったことが有利だったと言われました。つまり音楽レーベルは実験ができたのです。仮にiTunes Music Storeが失敗で、おかげで音楽レーベルが違法コピー等で被害を受けることになったとしても、被害は全パソコンユーザの5%以内に限定されるという理屈です。

つまりMacユーザ限定というガラパゴス的に隔絶された実験環境の中からiTunes Music Storeが生まれることができたのです。

幸いにもiTunes Music Storeは成功し、Windows版のiTunesもまもなく発売されました。そうやってガラパゴスがメジャーになったのです。

GALAPAGOSの進化の(少ない)可能性

シャープのGALAPAGOSは果たして同じように発展することができるでしょうか。まぁ出版社が実験的なものとしてGALAPAGOSを見てくれる可能性はそれなりにあるとは思います。しかし全PCユーザの5%以下とはいえMacユーザは膨大に存在していて、iTunesを利用する人も多かったため、iTunesはすでに準備万端な実験環境でした。しかしシャープはこれから実験環境を構築するので難しいです。

さらにシャープはそのあとが続きません。AppleがWindows版のiTunesを作ったときは、Windows対応のiPodがすでに好調に売れていました。したがってWindows版のiTunesを作るだけですぐにiTunes Music Storeのユーザ層を急拡大できたのです。しかもWindows対応のiPodで資金回収ができるという仕掛けがありました。

その上シャープの場合、実験が成功したときに何が起こるでしょうか。ボリュームアップを狙うにはシャープはXMDFをライセンスし、AndroidやiPhoneにも対応したビューアを売るしかありません。GALAPAGOSだけだと販売台数が稼げないからです。ユーザ層を拡大できない限り出版社は離れて、AmazonやAppleにもコンテンツを配信するようになってしまうので、XMDF規格を生き残らせるには選択肢はありません。

シャープのようなハードのメーカーとしては、いずれにしてもつらいと思います。

リンク

  1. 外観とUIを速攻チェック――写真で見る「GALAPAGOS」端末
  2. シャープ、電子ブックリーダー「ガラパゴス」を発表

アップデート

ネットでいろいろ見ていると、「売れるか売れないか」関連の話題ばかりが多く、”GALAPAGOS”という名前が持つ「進化」という意味合いに言及するものを見かけませんでした。

「売れるか売れないか」についてはまぁ売れないとは思うのですが、仮にそこそこ売れたとしてもそれは「ガラパゴス進化」の要件を一つ満たした(2.の項)に過ぎず、それ以外の要件は満たしていないというのが僕の言いたいことです。ネットで「進化」が話題にならないのもうなずけます。

ただ、漫画については日本はコンテンツ制作に相当に強みを持っていますので、コンテンツ制作ツールにおける「隔絶」の要件がそろい易く、「ガラパゴス進化」の可能性は残っていると思います。

アップデート2

追加したいことがいくつかあったので、追加のブログを書きました。

尖閣諸島に関する意見の面白い関係

2010年9月26日(日)付けの朝日新聞を読んでいたら、尖閣諸島問題関連の記事がかなり興味深かったです。特に海外識者の意見と、その眼力の確かさを証明するような「天声人語」の関連が期せずして見事にはまっていました。

まずは米戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員のボニー・グレイサーさんの記事。

中国指導部は権力移行の準備段階に入り、国内世論の圧力にもろくなっている。このため、領土が絡む問題で柔軟な態度を示せない。軍部の発言力もより強まっているうえ、国力も自信が出てきた。歴史的にも他国、とりわけ日本から受けた屈辱を晴らすときが来たと感じる人たちもいるだろう
(太字は僕が付けました)

そしてロシア極東研究所主任研究員のアレクサンドル・ラーリンさんの記事。

もっと早く釈放していれば、せめて面子は保つことができた。

日本の強硬な姿勢は、北方領土問題を抱えるロシアに対しても悪いイメージを与えた。ロシアは1960年代には武力衝突にまで発展した中国との領土問題を、係争地を2等分する方法で2004年に解決した。ノルウェーとの間では今年、豊富な地下資源が埋蔵されていると見られる大陸棚の強化画定問題を、やはり2等分することで解決した。

共に長年の懸案だったが、問題解決の強い願いがあったから、双方が政治的決断と譲歩ができた。今回の問題は、日本の政治家にはそうした熱意や交渉の意欲がなく、原則を押し通そうとするものだとの先入観を与えてしまった

「歴史的事実」を振りかざしても、領土問題は解決しない。今回の失敗で、日本も対話で実益を得ることの重要さを理解すると思う。
(太字は僕が付けました)

最後に「天声人語」

政治経済ばかりか、この国は司法までもが外圧で動く。
….
法治ならぬ人治の国、しかも一党独裁で思うがままだから始末が悪い。下手に出れば増長する。

多分「天声人語」のコラムが多くの日本人の気持ちを代弁していると思います。少なくともTwitterの僕のTLを見ていると、また新聞の報道を見ているとそう感じます(意外とテレビに出てくる有識者は冷静な意見が多いのがちょっと面白い)。

そして「天声人語」のコラムの気持ちがまさにアレクサンドル・ラーリンさんが言う日本人は「原則を押し通そうとする」ことを強烈に裏付けています。日本の政治家も中国の政治家同様、世論を無視することはできません。日本の世論が「原則を押し通そうとする」結果として、日本の政治家も問題解決への「熱意や交渉への意欲」が出せず、「原則を押し通す」ことしかできないのだと思います。

それと少なくともボニー・グレイサーさんは、中国が「一党独裁で思うがまま」(天声人語)だとは思っていないようです。中国も日本や米国と同様に「国内世論の圧力にもろい」く、やはりその世論の影響で日本と同様に「領土が絡む問題で柔軟な態度を示せない」とホニーさんは考えているようです。

構図としてはこうです。

アレクサンドルさん日本の「原則を押し通す」ような柔軟性のない態度では問題は解決していないとしています。ボニーさんは中国サイドの話として、中国の柔軟性のなさは世論の圧力の結果であると書いています。そして「天声人語」は日本サイドの世論にも柔軟性のかけらもないことを証明しています。

僕はアレクサンドル・ラーリンさんの意見に賛成ですね。日本人は概して実利よりも「原則を押し通す」のが好きな国民だと僕は感じてきました。日本の外交が下手な大きな要因は、実は世論に共通するこの考え方だと思います。

日本ってなんで今日の多数の問題を抱えているかを考えてみる

今流行の官僚バッシングとか政治バッシングをするのではなく、

諸行無常
盛者必衰

の観点から考えたいと思います。

つまり日本が多数の問題を抱えているのは決して官僚とか政治家が大バカな判断をしたからではなく、自然と「たけき者も遂には滅びぬ」ことになる力学が存在するという観点から見てみます。

なお、これは僕が好きなChristensen氏の考え方に通じます。Christensen氏は企業や市場においてInnovator’s Dilemmaがあって、正しい経営を続けていても「遂には滅びぬ」と解説しています。

さて本題です。今の日本が抱えている問題は日本固有の問題ではなく、自然と起こる問題なのかどうかを見て行きます。とりあえずは少子化問題と景気の問題を見ます。

少子化問題

日本が抱えている多数の問題の中でも、これが最も根源的なものだと僕は思っています。

さて現代の先進国が少子化問題を抱えやすいというのは、だいたいどこの国を見ても確かです。ヨーロッパ、そして韓国等のアジアの先進国がそうです。したがって少子化問題が起こっていること自体は「必衰」と言えると思います。なんでそうなってしまうのかは諸説あると思いますが。

出生率
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不景気

今の日本が不景気だという前に、そもそも何で日本は経済発展できたんだろうかを考えてみたいと思います。別の見方をすれば、日本が経済成長した頃の原動力は何だったんだろうかということです。

日本が経済成長できたのは勤勉だったからだとか、学力があったからだとか、技術力があったからだとか、モノ作りが得意だったからだとか、いろいろなことを言う人がいます。総合すると日本が経済成長できたのは日本国民が優秀だったからということです。でもこの考え方はただの下等なナショナリズムで、完全に間違っていると思います。

というのは、韓国にしても台湾にしてもシンガポールの成長を見ても、日本の高度経済成長期ぐらいのことはできているからです。少なくとも東アジア文化圏の国の大半は、日本国民と同じぐらいには優秀そうです。

日本が1950年代から1980年代にかけて経済成長できたのは、恐らくは韓国、台湾が経済成長できたのと同じ理由、そして今の中国が経済成長をしているとの同じ理由ではないかと思います。ひとことで言えば、安い人件費と強い上昇志向の組み合わせによって、先進国で売れる製品が安く作れたからです。1960年代までは日本製品は今の中国製品と同様、おおむね「安かろう悪かろう」だったことを忘れてはいけません。

日本が1970年頃から先進国の仲間入りをすると、だんだん今までのやり方が通用しなくなりました。それから20年間は価格勝負ではなく、とことん品質と性能を高め、差別化することによって成長を続けました。しかしChristensen氏がInnovator’s Dilemmaで解説しているように、この戦略で成功し続けられる時間は限られています。遅かれ早かれ、技術の発展により過剰品質になり、そして低価格製品に席巻されてしまいます。これが今の日本の経済問題の根源だと僕は考えています。

「おごれる人も久しからず 」そのままです。先進国の仲間入りを果たしたばかりの日本が、新興の先進国に国家のビジネスモデルを真似られ、凌駕されるのは時間の問題でした。国家として何か別のビジネスモデルを編み出せなければ。

解決の糸口

またしてもChristensen氏の話をします。彼はThe Innovator’s Dilemmaにおいて、経営判断を正しく行ったとしても、会社はいずれ衰退すると説いています。その運命から脱却する方法についてはThe Innovator’s Solutionで議論しています。もちろん企業の話をしていますが、国家の運営にも通じると思います。

そしてChristensen氏が言うのは、とにかく古いものや古いシステムにとらわれず、新しいものを生み出せるようにしなさいということです。

新しいものは古いシステムとうまく波長が合わないものです。生まれたてほやほやの新しいシステムは、既存のシステムよりどうしても見劣りします。ですから古いシステムの影響があると、新しいものは役立たずと断じられ、芽が摘まれてしまいます。新しいものは独立させなさいというのは、そういう意味です。新しいシステムは今は頼りなく見えるかもしれませんが、古いシステムはいずれは必ず取って代わられます。通常の経営判断とは別に、信念に基づいて新しいものをインキュベートしないといけないのです。

日本は平家物語を生んだ国ですから、諸行無常を理解し、盛者必衰を理解し、既存のものが今はどんなに優れていても、信念を持って新しいものに投資することができても良さそうな気がします。

でもできないんですよね。いつまでも古いものにしがみついてしまっています。

新しい世代への投資を積極的に行わない。新しい産業に投資を行わない。

代わりいつまでも古い産業(建設だけでなく、自動車や家電を含む)に国費を投じ、その分、医療や福祉や教育は後回し。

ちょっと悲しい。

Google CEOにとって、競合はAppleでもFacebookでもなく、Bingだ

Google CEOのEric Schmidt氏がWall Street Journalのインタビューで語ったことです。

さすがです。Googleのコアビジネスが何かをちゃんと理解し、そこにフォーカスをし続けているようです。

多くのCEOは新しい話題のことばかりを気にして、その会社の屋台骨となっている事業に注力することをしばしば忘れていますが、Eric Schmidt氏は違うようです。

「もうサーチはGoogleで決まりなんじゃないの?」と思う人が多いかもしれませんが、僕はまだまだサーチは始まったばかりだと思っています。Googleはまだ人間と同じようにウェブサイトの意味を理解することができませんし、情報を整理してまとめることができません。人間がやるよりは遥かにスピードは速いのですが、でも人間よりは精度は圧倒的に落ちます。ですから新しいテクノロジーのブレークスルーがあれば、Googleの立場がどうなるかはまだまだ分かりません。

Googleがサーチに最大限に注力してくれれば新しいイノベーションも生まれやすいので、ユーザにとっても素晴らしいと思います。Netscapeを駆逐した後にIEをアップデートしなくなったMicrosoftの例もあるので、ああならないでくれれば大助かりです。

僕にとって面白いのは”open”という言葉というか信念を繰り返して強調していることです。僕が翻訳した”The Official Google Blog”にあった“The meaning of open”というポストでは、オープンであることがどういうことか、そしてそれがどうしてGoogleに利益をもたらすかを書いています。

そのポストの中で

可能な限り産業を大きくしたいのであれば、オープンシステムはクローズドシステムに勝ります。我々がインターネットでやろうとしているのはまさにこれです。我々がオープンシステムにコミットするのは、利他主義だからではないのです。ビジネス上、オープンシステムの方が賢明だからです。オープンなインターネットは安定してイノベーションを生み出し、ユーザの増大とユーザの活発な利用を促し、産業全体を成長させるからです。

というのがあります。

GoogleはiPhoneを利用できない人(例えばSoftbankの電波が届かないところに住んでいる人)でもスマートフォンが利用できるようにしたいと思っているだけかもしれません。Androidそのものがどれだけのシェアを獲得するかではなく、誰もがスマートフォンが利用できるかを重視しているのかもしれません。だとすれば、iPhoneとAndroidのどちらが勝つかではなく、スマートフォンの市場全体がどれだけ拡大するかを重視することになります。

こう考えると、僕としては非常に納得がいきます。

iPadの競合品が価格で勝てなさそうで、どうなってしまうんだろう

アップデート
Amazon.co.ukにSamsung Galaxy Tabの価格が出ていました。3G, 16GBモデルで£599.99でした。本文で紹介したショッピングサイトの£616.88よりは安くなっていますが、iPadの£529.00にはやはり勝てないようです。

iPadに対抗するデバイスとして、SamsungとかDELLなど各社が新しいタブレットの販売を計画していますが、どうも価格的に勝てなさそうな感じになってきました。

プロモーションビデオでは非常に魅力的に見えるSamsung Tabの場合、まだ正式な価格の発表がありませんが、例えばオーストラリアではSamsung Tabが$999 AUDに対して、同等のiPadが$799 AUDだそうです。またイギリスでもVAT込みでSamsung Tabが£616.88に対して、iPadが£529.00となっています。

画面が小さいことを除けば、Samsung Tabの方がスペック的には若干有利にも見えますが、いずれしても遅れて市場に参入する挑戦者が大幅に高い値段をつけているのは、かなり不安材料です。しかもiPadは利益率が高いと言われていてその気になれば価格を下げる用意があるとも報じられています。

要するに、iPadの方がずいぶんと安く作れるみたいです。Samsungを持ってしても、またオープンソースのAndroid OSを使っても、iPadより安くは作れなかったようです。HTCもだめだそうです(
HTC価格 32G $790iPad 3G 32G $729.00)。

こうなるとSamsungやHTCとしては、携帯電話キャリアとの契約とバンドルさせてハードの価格を下げるか、あるいは何かしらソフトをバンドルして安くするかなどしか選択肢がなくなります。

最近、ちょっと話題になっているのはデフォルト検索エンジンを変える話です。

例えばVerisonから発売されるSamsung FascinateというAndroid Phoneではデフォルトの検索エンジンがMicrosoft Bingになっていて、これをGoogleに戻す方法がないと報じられています。このようになった理由はVerisonとMicrosoftが5年契約を結んでいるためだそうです。VerisonがAndorid Phoneを安くしてくれる分、VerisonがMicrosoftからお金をもらうというのはまぁ納得のいく話です。

ただGoogleとしては非常に面白くない話です。そもそもAndroidはオープンソースなので、GoogleとしてはAndroidの利用が広がっても収入はほとんどないはずです。GoogleがAndroidプロジェクトから収入を得るためにはスマートフォンが普及し、モバイル広告収入が増えないと行けません。しかし検索エンジンとしてMicrosoft Bingを使われてしまうと、広告収入がMicrosoftに横取りされてしまいます。

SamsungやHTCとしては、iPadと価格で対等な戦いをしつつ、利益を確保しなければなりません。もし製造原価をiPadより安くできていれば、ガチンコで勝負できたかもしれません。しかしふたを開けてみると製造原価が高いので、遅かれ早かれVerisonと同じような奥の手に出ると予想されます。つまりAndroid OSを使いつつ、GoogleではなくBingなり他のモバイル広告システムをデフォルトにしてしまうでしょう。

そうなったときにAndroid開発元のGoogleはどうするか。Googleはちょっとしたジレンマを抱えるでしょう。

AppleのApp Storeとバイオの買物.com

バイオの買物.comって、一見すると価格.comと同じように思われてしまって、メーカーの価格競争を促すだけに見えてしまいがちです。

でもそれは正しくないと思っています。まず第一に、バイオの業界では末端の小売価格(代理店の販売価格)が不透明なので、バイオの買物.comでは希望小売価格しか載せていません。ですからバイオの買物.comの掲載されている情報だけでは最安値は見つからないのです。

もっと重要な違いは、価格.comを見る人の最大の興味は価格であるのに対して、バイオの買物.comに来る人の興味は製品の有り無しであるという点です。

logo200.pngバイオの世界は何百万と製品があります、非常な勢いで新製品が登場します。一昔前は無かったような製品がどんどん販売されています。この結果、せっかく秀逸な製品があっても、研究者がそれを見つけられないという事態が発生します。特にその製品がトップブランドから発売されたものではなく、中堅以下の会社から売られているものの場合は困難です。あまりにも製品が多く、会社も多いので、研究者はなかなかトップブランド以外、もしくは参考にしている論文に記載されているブランド以外を探すことはできないのです。

バイオの買物.comはこの問題を解決したいと考えています。こうすることによって「“Dwarfs standing on the shoulders of giants”を手伝う仕事」を実現したいと思っています。

app store icon.pngそのときに参考になるのがAppleのApp Storeです。iPhoneやiPadを持っている人には馴染みのサービスですが、ひとことで言えばiPhone, iPad用のソフトをすべて取り揃えているオンラインストアです。すべてのソフトはここで発売されていて、逆にここ以外では発売されていません。

エンドユーザにとっての利便性は、ソフトを買うときはApp Storeに行きさえすれば良いということです。Googleで検索し、あっちこっちのウェブサイトを見比べつつ、何かを見落としているのではないかと心配すること無く、簡単に目的の製品を探すことができます。しかもアップデートがあれば一括してApp Store経由でアップデートが行われますので、非常に便利です。

まさにバイオの買物.comが目指している形に似ています。

そしてソフト開発者にとってのメリットとして言われているのは、小企業であってもマーケティングや代金請求のことに頭を悩ます必要がなく、とにかくソフト開発とサポートに集中できることです。小企業・大企業の区別なく、App Storeに表示されるときは平等です。魅力的な製品であり、適正な価格を付けてあれば、ブランド力のある大企業の製品に勝つことができます。

魅力的な製品を作って、サポートもしっかりやっていれば、大企業にとってもApp Storeは魅力的なシステムです。しかしブランド力やマーケティング力だけで劣悪な製品を売っている場合は、痛い目に遭うでしょう。

これもバイオの買物.comの目指しているところです。

App Storeの成功もあって、Android, Palm, Microsoftのプラットフォームなども同じようなシステムを準備しました。よく考えてみると、Amazonもこれに良く似た面があります。レコメンド等のPRはAmazonが勝手にやってくれるのですから。

まだまだそこまでは全然行っていませんが、App Storeを目指してがんばります。

HPがタブレットPCをプリンタにバンドルするという、嘘のような本当の話

Businessweekのこの記事(“HP’s New Tablet Could Be an iPad Spoiler: Hewlett-Packard is bundling a tablet with a $399 printer”)から。

簡単にいうと、HPはプリンタのインクで儲けているので、顧客がそれなりに印刷をしてくれれば、$399のプリンタにタブレットPCをバンドルしてもペイするという話。Samsungなどから出てくる予定のAndroidタブレットは、キャリアとの契約付きでも$400、無い場合は$700を越えそうなので、これは相当の激安になります。ちなみにHPはプリンタ事業での営業利益が17%であるのに対して、PC事業はたったの5%だそうです。

この記事の中で特に面白いのは、調査会社のIDCのRichard Shim氏のコメント;

各社はこのような(タブレット)デバイスの市場機会を把握しようとしている。他のビジネスをカニバライズしないようなメディアタブレットのポジショニングはいったいどうすれば良いのか、その答えを探そうとしている。

対照的なのはAppleのiPadに対するスタンス。

Steve Jobs氏はD8のインタビューでiPadがPCを代替するかという質問をされたとき、PCをトラックに例えて答えました。

PCはトラックみたいになるだろう。今後もずっと残るだろうし、相当に重要であり続けるだろう。しかしX人のうちの1人に利用される感じになるだろう。….次のステップがiPadかどうかは分からない….でも我々はこの方向に進んでいると思う。

つまりAppleがiPadで狙っているのは、一般的なコンシューマにとってのPCの代替です。まさに自社のPCビジネスをカニバライズしても良いと考えているのです。それはiPadを発表した2010/1/28のイベントでもはっきりしていました。プレゼンテーションの中では、iPadで見るインターネットは、PCで見るよりもずっと良いと繰り返していました。

自社のビジネスをカニバライズすることは全くいとわない。むしろ最高の製品を顧客に送り続け、常に製品を進化させようと思えば、自社製品をカニバライズするのは当たり前だとAppleは思っているようです。

IDCのRichard Shim氏が言う通り、他社は既存のPCビジネスがカニバライズされるのが怖いのでしょう。でもこれがまさにAppleとの違いであり、Appleに勝てない理由ではないかと思います。

Asymco: 企業内アナリストは虚しいからブロガーになった

Asymcoというハイテクの動向を追いかけたブログが非常に秀逸で、急速に話題になっているみたいですが(僕はJohn GruberのDaring Fireball経由で知りました)、著者のHorace Dediuが「存在の理由」(“the existential theory”)というこれまた面白い記事を書いていました。

簡単に言うとこうです。

  1. 会社にいるときは、主にデータの収集とそれをプレゼンテーションすることを行っていました。聴衆は最小で一人、最大でも数十人。そしていったん発表が済むと、記憶としてはだいたい3日持ちません。ひと月もすれば完全に忘れ去られます。
  2. なぜこうなるかというと、企業内では情報の伝達と貯蔵、消費は制限されるからです。この結果、企業内アナリストの仕事は限りなく無駄になってしまいます。
  3. もう嫌になってしまったきっかけは、経営陣のミーティングで発表する分析に2週間費やしたのにも関わらず、スケジュールの関係で議題から外されたときです。そのときの分析は誰にも発表する機会がありませんでした。
  4. そのときに悟ったのは、自分の分析はミーティングに必須ではなかったということ。それは「経営陣のための余興」だったのです。だったらと思って、自分のエンターテインメントスキルを磨くことを決心しました。そしてなるべく大きな聴衆に向かってブログを書くようになったのです。

Horaceの気持ちは痛いほど分かります。

僕はアナリストではありませんでしたが、経営陣に対して発表をするというのは常に虚しさがありました。ただただ、自分のチームのやっている仕事を評価してもらい、僕らが生命科学に貢献できるようにリソースを分配して欲しいと思ったからがんばったまでです。そうでもなければ、バイオテクノロジーの知識が無いのはむろんのこと、研究に貢献する喜びを感じず、使命感も持たない人たちのために時間をかけてプレゼンテーションを準備することはありません。

しかもせっかく分析をしても、Horaceが言うように、それを部下やその他の社員に公開することは原則としてしません。経営上部に対するプレゼンテーションの場合は。

The Smithsの”Heaven Knows I’m Miserable Now”の歌詞に

In my life
Why do I give valuable time
To people who don’t care if I live or die ?

というのがあって、すごく好きなんですが、経営陣のミーティングにたくさん参加するとこういう気持ちになります。

PS.
そういえば僕が最初に入社した製薬企業では、研究報告書というのがあって、研究の切りがつくとそれを書くことになっているのですが、この管理の仕方がまたすごかったです。原本は地下の倉庫にしまわれて、研究管理室に鍵をもらいに行かないと取りに行けません。しかもコピーは厳禁でした。

その上、どのような研究報告書があるかを知りたくて検索をしようと思っても、許可をもらって上でITチームに依頼を出さなければなりません。ですから結果として、研究報告書の内容はもちろん、そういう報告書があったかどうかもすぐに忘れられてしまうのです。

僕は自分の研究にすごく重要な情報をMedlineで検索して、論文を見つけて、驚いたことに自分の研究所の人間が10年前にそれをやったということを知って、ITチームに検索を依頼して、そして初めて研究報告書の存在を知ったということがありました。

会社って時々とてもおかしなことになってしまいます。