iPad miniは高すぎるのか?

USでのiPad miniの価格は$329から。Google Nexus 7やAmazon Kindle Fireは$199から。

よってiPad miniは高すぎるのではないか?

歴史を振り返ってみましょう。iPadはどうしてNetbookに勝つことができたのか。

Netbookとは

Netbookについてまず振り返りましょう。Wikipediaより。

  1. Netbookの始まりはAsusのEee PC (2007年)。価格は$260から
  2. 典型的なNetbookは1.2-4kg, $3-400, 7-12インチの画面。
  3. 最大でラップトップ市場の20%に達し、2010年にiPadが出るとマーケットシェアを落とし始めます。
  4. 2012年になるとNetbookは年間で25%売り上げを落とし、一方でiPadの販売台数がNetbookを超えます。

iPadは一番安いモデルで$499でした。

Windowsアプリがほぼ使えるNetbookと異なり、iPadは専用のアプリも非常に少ない状況でした (iPhoneアプリなら使えましたが)。Adobe Flashも使えなかったので、ウェブでも問題がありました (PC World)。キーボードもあるので、入力は(原理的には)Netbookの方が楽です。

iPadがNetbookに勝ったのは、「使える」から

どうしてiPadが勝ったのでしょうか?

なぞ?

おそらく答えはこうです。

  1. 誰が使えるか?: iPadはすごく簡単で、幼児にも老人にも使えます。家庭でパソコンを使う人の大半は設定の仕方とかそういうのが全然わかりません。操作法もよくわかりません。iPadはそういう人にも使えるものでした。そう、iPhoneと同じように。
  2. どこで使うか?: iPadはトイレやベッドの中でも使いやすいし、ソファーでゆったりしながら使うのに最適です。タブレットを一番使うのはテレビを見ているときという調査結果もあります。Netbookだとこういう使い方ができません。また立ちながら使うのだったらタブレットしか考えられません。
  3. 何に使うか?: みんながやりたかったのはウェブを見ることとメールを確認することでした。デフラグとかしていないWindows XPでInternet Explorerを使うのに比べて、iPadは非力なCPUながら、圧倒的にウェブの表示が速かったのです。しかもスリープから起きるのが瞬間的なので、思い立ったときにすぐにウェブが見られます。

つまりiPadが勝った理由は、1) ユーザ層を拡大したから、2) 使用する場所を増やしたから、3) ウェブとメールをより快適にしたから。一言でいうと「使える」を増やしたからです。

価格はネガティブ要素でしたが、ほとんど影響がありませんでした。価格ってそんなに重要じゃないのです。それよりは「使える」ことが重要です。

iPad miniは「使える」から$329、Android 7インチタブレットは「使えない」から$199

さてiPad miniに話を戻します。

Google Nexus 7やAndroid Kindle Fireって「使う」ことをあまり考えないで作られた製品です。安くすると買う人がたくさんいたから開発された製品です。HPが当初$400で販売していたTouchPadを店じまいの大売り出しのつもりで$99, $149で販売しだしたら馬鹿売れしたので、もしかしたら低価格タブレット市場があるのかも知れないとGoogleやAmazonは思ったのです。

7インチAndroidタブレットの使い勝手の悪さについてはPhil Schillerが2012年10月のiPad mini発表会で長々と語りました。YouTube

低価格7インチタブレットが本当に使われていないのは、前のブログでも紹介したChitikaのネットアクセス統計でわかります。

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このグラフの縦軸は、iPadのインプレッション100回に対してどうかという数字です。つまりGoogle Nexus 7は約0.8%のインプレッションシェア、Kindle Fireは0.6%のインプレッションシェアということになります。市場アナリストが言うようにこれらの製品が本当に売れているのであれば、全然使われていないということになります。

簡単な話、誰も使わないタブレットを売るためには$199の価格をつける必要があります。逆にどんなに使えない役立たずの製品でも、$199を切っていて、プロモーションがしっかりしていればかなりのは数が売れます。これはNetbookと同じ価格帯です。

iPadのように「使える」タブレットを売るのであれば$300以上しても大丈夫です。

これから成功するタブレット

昨日のブログ“Androidタブレットの現状についての考察”でAndroidの7インチタブレットはマーケットシェアこそ高いと推測されているものの、実際にはあまり使われていないことを紹介しました。どうやら購入直後だけ使われて、数ヶ月でほこりをかぶるようです。

推測になりますが、タブレットの主要用途であるウェブを見ること、メールをすることにおいて、7インチタブレットは使い勝手が悪く、その結果として使われなくなるようです。

それではちゃんと売れて、そして使われるタブレットの条件はなんでしょうか。そのようなタブレットの代表がiPadですので、iPadのマーケティングコンセプトに立ち返りながら考えてみます。

新しいカテゴリーは両挟みのカテゴリーを超えなければならない

AppleがiPadをアナウンスしたとき、Steve JobsおよびApple経営陣が強調したのは、スマートフォンよりも、そしてラップトップよりも優れたものを作らなければならないということでしました。ウェブを見るのにラップトップよりも優れたデバイス。同様にメールや写真、ビデオを見るにも、そして音楽を聞くにも、ゲームをやるにしても、eBookを読みにしても、このすべてのタスクにおいてスマートフォンよりもそしてラップトップよりも優れたものを作らなければ、新しいカテゴリーは生み出せないというのがSteve Jobsの論点でした。そしてiPadはこの非常に高い基準を満たしているという主張でした(以下のビデオの7:00前後)。

普通に考えるとタブレットはスマートフォンとラップトップの中間に位置するカテゴリーです。少なくとも物理的サイズはそうです。したがってスマートフォンの特徴である持ち運びのしやすさと、ラップトップの特徴である画面の大きさや高い処理能力を併せ持つもの、しかしそれぞれを個別に取り出したときにはスマートフォンにもラップトップにも劣るものを作りがちです。持ち運びのしやすさはスマートフォンとタブレットの中間、そして画面の大きさも中間、処理能力も中間のものを作りがちです。物理的にそうせざるを得ないのです。しかしSteve Jobsが言うのは、これでは新しいカテゴリーとして成功しないということです。

Steve Jobsは、仮に物理的な処理能力が劣ったとしても、タブレットはラップトップよりもウェブを見るのが便利にならなければならないし、メールをやるのが便利にならなければならないと考えていました。そしてそれを実現しました。実際にiPadでウェブを見るとすごく快適です。ウェブページを表示する速さにしても一見するとラップトップに引けをとりません。Flashなど余計なものを外したおかげで、そして様々な最適化をすることで、非力なCPUでも高速にウェブページを表示できるようになっています。

またiPadの画面サイズはどうしてもラップトップにはかないません。しかしダブルタップするとウェブページの特定の部分を簡単にズームできるなどのソフトウェアの工夫をすることによって、画面サイズのハンディを乗り越える対策が随所にあります。

このようにiPadが成功したのは、中間的なカテゴリーだったからではありません。スマートフォンとラップトップの両市場の真ん中に大きな穴が開いていて、そこを埋めたからではありません。そんな穴はなかったんです。iPadが成功したのは、一般の人がラップトップを使う大部分の用途においてラップトップを超えたからです。

メディアタブレットの市場は存在しない

7インチタブレットはメディアタブレットであると考える人たちがいます。Amazonなどで販売しているビデオやeBookを読むのに適したものであれば、スマートフォンとラップトップを所有している人であってもメディアタブレットを購入するだろうという考え方です。

確かに一部のマニアはそうするでしょう。でも一般の人はメディア消費専用のタブレットは望んでいません。タブレットはウェブを見たり、メールをやるためのデバイスです。タブレットで映画を見る人はわずかしかいません。

繰り返しになりますが、スマートフォンとラップトップ市場の間に未開拓の新しいカテゴリーは存在しません。メディアタブレットは幻想です。

考えてみてください。スマートフォン + タブレット + ラップトップを持ち歩く人は、普通の人の視線から見れば変態です。

タブレットが成功するにはラップトップの代替になるしかない

タブレットがスマートフォンになることは物理的に不可能です。タブレットはポケットに入りませんから。耳に当てるのは馬鹿馬鹿しいから。

そして新大陸のような第三のカテゴリーは、水平線上の蜃気楼でしかありません。

したがってタブレットはラップトップの代替になるしかありません。ラップトップのパワーと大画面を持ちながら、同時に使いやすく、持ち運びしやすく、電池が持つものでなければなりません。ラップトップの機能の80%を持ちながら、ラップトップを超える便利さを持たなければなりません。それができなければ売れません。

こう考えると今後売れるタブレットの予想は簡単です。

成功するタブレットの条件

  1. ウェブを見ること、メールを読むことなどの主要タスクにおいて、ラップトップをほぼ完全に代替できること
  2. ラップトップユーザが無理なく、徐々にタブレットに移行できること
  3. 画面が小さいにもかかわらず、ズームが優秀だったり、スペースが無駄なく利用されているために、不便さがないこと
  4. CPUパワーがないにもかかわらず、写真やビデオ、ゲーム、音楽の管理などCPUパワーが必要な処理が可能であること
  5. 上記のいずれかにおいて、マーケットリーダーのiPadよりも明確に優れていること

マイクロソフトがWindows 8とSurfaceタブレットで狙っているのはこのリストの2番目です。ラップトップユーザは依然としてWindowsユーザが圧倒的に多くいます。ですからリストの2番目では、特に企業においてiPadを凌駕できる可能性が十分にあります。

Android? 提案できる新しい価値が何もないときは価格を下げるしかありません。Netbook戦略です。

iPad mini? 新しいカテゴリーではありません。あれはiPadです。13インチ MacBook Airと11インチ MacBook Airの関係です。

Steve Jobs in 2003

2003年、iPhoneを販売する前、iPadを販売する前、しかしおそらく頭の中にはiPadを描き始めていた頃、Steve Jobsはインタビューの中でタブレットのコンセプトをディスります(下のビデオの7:30以降)。

この中でiPadの製品コンセプトに関わる話がいくつか出てきます。メディアタブレットというコンセプト(ここではコンテンツを消費するためのタブレット。9:25ごろから)についても言及します。

教訓:中間的なカテゴリーは難しい

中間的なカテゴリーは製品を作るのは簡単です。両挟みのものを超えようと思わなければ。世の中はそういう製品であふれています。

マーケティング部門は、新しい製品アイデアが思いつかないと、すぐに中間的なカテゴリーを作り出します。

でも売るのは難しいのです。すごく難しいのです。両挟みのもので足りているから。

Androidタブレットの現状についての考察

かなり前からiPadのマーケットシェアに関するデータが気になっています。

iPadのマーケットシェアは68%?

2012年9月のAppleのプレゼンでiPadのタブレッド市場のマーケットシェアが68%だったというデータが紹介されていました。タブレット市場のマーケットシェアに関する情報は複数の調査会社が公開していて、おそらくそのどれかを使ったのだと思います。ただしタブレットの売り上げ台数を公開しているメーカーはAppleだけで、例えばSamsungはスマートフォンもタブレットも売り上げ台数は公開していないので、この市場調査委資料はかなり推測が含まれています。

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iPadの使用台数シェアは91%?

それに対して実際にインターネットにアクセスしたタブレットの数、つまり実際に使用されているタブレットのシェアを見ると全く様子が違います。91%がiPadであるというデータが出ています。これはおそらくはChitikaというネット広告会社が出しているデータを元にしているのだろうと思います。これも方法論的に難しいことがあるので、100%正しい数字ではなく、ある程度のバイアスがある数字だと考えることができます。

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いずれにしてもこの2つのデータの違いは相当に大きくて、いずれもそこそこ正しいと仮定するならば以下の結論しか合理的にあり得ません。

「Androidのタブレットを購入した人は、その後ほとんど使っていない」

以下、一部データを補足しながら、どうしてAndroidのタブレットは余り使われず、それに対してiPadは多く使われるのだろうかについて考察したいと思います。 Continue reading “Androidタブレットの現状についての考察”

分子生物学会の新しい抄録集システムの開発をしました

昨年の12月の分子生物学会に参加して、ITインフラをさんざんディスり、提案をしました。

  1. 学会にソーシャルをどうやったら持ち込めるか
  2. 学会の要旨集システムをゼロから考え直そう
  3. ソーシャルな要旨集システム:素案

そして今週あのときのブログ記事の思いを現実にするために半年間がんばった成果が日の目を見ました。

日本分子生物学会 第35回 年会 オンラインプログラムサイト(学会後しばらくしたら消えます)

まだβ版で、バグをとったり、修正したり、機能追加したりなどで仕事がたくさん残っているので詳しくは話しませんが、簡単に機能と技術について…

  1. 学会プログラムとしては世界で初めて、Facebook的な「いいね!」があります
  2. 学会プログラムとしては世界で初めて、著者名ごとにデータを整理しています
  3. PC版、スマホ版、ガラケー版の3つのサイトを完全に同調して作っています
  4. 学会プログラムとしては世界で初めて、コメントが書き込めます。著者自身も書き込めるので、例えば直前の変更とか、研究室ウェブページへのリンクはここにはれます
  5. まだ完全にスイッチオンしていませんが、ウェブサイトでありながら、オフラインでの閲覧を実現します
  6. 「夜ゼミ」という電子掲示板で、飲み会の参加募集ができます

結構、12月時点にブログで考えていたことが実現できました。

技術的には以下のことをやっています。

  1. 名寄せ支援システム:学会のデータは著者名ごとにIDなんて振っていないので、名寄せをしなければなりません。原則としてはマニュアルな作業ですが、それを支援するシステムを用意しています。
  2. モバイルおよびデスクトップを兼ねたJavascript framework, Kamishibai.js:スマートフォン向けのJavascript frameworkはいくつかありますが、オフラインでの閲覧をしっかりサポートしたものは皆無です。特に日本分子生物学会のように数千の演題があって、データが膨大なウェブサイトをサポートしたものはありません。1) 万以上のページがあっても平気、2) 部分的にオフラインでの閲覧が可能、3) Javascriptはあまり書かなくていい、4) メチャクチャ小さいのでレスポンスがいい、というJavascript frameworkです。ゼロから作りました。ページをスライドさせるイメージでKamishibai.jsと名付けています。

この2つの技術はいずれもバイオの買物.comを運営する上で重要でしたので、そこがうまく応用できました。

一番低く見積もっても世界一のことができました。

後は気を抜かず、完成させて、学会そのものがちゃんと成功するように注力します(あまりブログ書かないで)。