Microsoftはモバイルの脅威に対応しなかったのではなく、過剰反応したのかもしれない

Windows 8がスタートメニューを無くすなど、大胆なUIの変更を行いました。そして失敗しました。

Windows 8.1ではスタートボタンを復活させると言われています。

一方でAppleがiOS 7を紹介しているプレゼンテーションを見ると、彼らが大胆なデザイン変更の中にも継続性を非常に重視していることがうかがえます。

例えばiOS 7の紹介ビデオの3:28を見ると、Jonathan Ive氏は以下のように語っています。

While iOS 7 is completely new, it was important to us to make it instantly familiar. We wanted to take an experience that people know very well, and actually add to it. To make it more useful. To make it more enjoyable.

大きなデザイン変更をしつつ、使い勝手は継承する。

当たり前のことです。

ではどうしてWindows 8では大胆な使い勝手の変更を敢行したのか?

スタートボタンだけではありません。タイルUIも今までのWindowsには無いものでした。Windows 95以来職場でWindowsを使っていた私でも、スタートボタンとタイルUIは全く理解できていません。Windows 8は“Instantly Familiar”では全くなかったのです。Microsoftはどうしてここまでやらなければならなかったのか?

もちろん真相はわかりません。Microsoft社内でどのような議論が重ねられたかを知らなければ、答えはわかりません。それを理解した上で、少しだけ議論してみます。

Metro UI誕生の仮説

私は以下のように考えています。

  1. MicrosoftはiPhone, iPad, Androidの脅威を非常に感じただろうと思います。一部の評論家はMicrosoftがモバイル対応が遅れたと論じていますが、過去のMicrosoftの行動や古くからWindows CE, Windows Mobileを開発した歴史を考えると、それは決してないだろうと思います。MicrosoftはNetscapeの脅威に対しても、Linux搭載Netbookに対しても、迅速に正面から対応した過去があります。したがってMicrosoftが悠然と構えていたと考えるよりは、Microsoftは迅速に対応しようとしたと考える方が正しいだろうと思います。
  2. Microsoftはむしろ過剰反応をしたのではないかと思います。10年も前からタブレット用のOSを作っていたMicrosoftは、すべてのパソコンがタブレットになる時代を誰よりも早く描いていました。Microsoftにとって、タブレットはパソコンそのものだったのです。したがってタブレット用のOSを別個に作ることは全く考えずに、パソコンのOSをタブレット用に作り替えようとしたのです。AppleのiOS Lionよりも遙かに大胆に、世の中のパソコンを一気にタブレットにしようと考えたのだろうと思います。
  3. 普通のパソコン用のOSでさえタブレット用にしようとしたため、最初に述べた継続性をMicrosoftは軽視してしまったのです。

こう考えると、Windows 8の失敗はタブレットの成功に対する過剰反応だったと言えます。

同時に、脅威に対しては素早く正面から戦うというMicrosoftのファイティングスピリッツは失われていないのだろうと思います。

Windows 8の失敗はMicrosoftがおかしくなったからではなく、MicrosoftがMicrosoftであったが故にやってしまったものだろうと私は考えています。

そうそう、程度の差こそあるものの、Microsoft OfficeにリボンUIを導入したときも、かなりの拒絶反応はありました。それでも敢行したのがMicrosoft流です。

Androidがいつ64bit対応するかでGoogleの戦略が見えてくる

iPhone 5sの64bit対応

iPhone 5sの新機能の一つは64bit化したCPUです。AppleはこれでCPU性能が2倍になるとしています。

これに合わせて、iOS 7も64bitに対応し、開発ツールのXCodeも簡単に64bit、32bit両対応のアプリが開発できるようにバージョンアップされます。

64bit対応は結構大変

64bit化の大きな特徴は、ソフトを書き換える必要があることです。Appleはハード、OS、そしてソフト開発環境のすべてをコントロールしているため、比較的簡単に64bitへの移行ができるはずです。実際、Macを64bit化する際も、非常にスムーズに移行できました。それに対して、ハードやデバイスドライバをコントロールしていなかったMicrosoft Windowsの場合は簡単ではありませんでした(参考に32bitから64bitへの以降に関するFAQをリンクしておきます)。

Samsungはいち早く、自分たちも64bitのスマートフォンを準備していると公表しました。しかし現時点ではAndroidはまだ32bitであり、64bit対応への言及はありません。

64bit対応はハイエンド向け

一方で64bit化のメリットは限定的だという意見もあります。メモリを大量に消費するアプリや大量の計算処理を行う場合は効果があるものの、通常使用ではほとんどさが出ないという考えです。これについてはベンチマークテストを見るまでは結論が言えませんが、いずれにしても64bitはハイエンド向けであるのは間違いなさそうです。

Googleは64bit化を急がない可能性がある

さて、私はこのブログでAndroidがローエンド戦略に舵を切っているようだと推測しています。

Googleの一般的な戦略はローエンドの顧客を含め、なるべく多くの人間を取り込むことです。Chrome BrowserがWindows XPで動作すること、さらに米国の一部の田舎で高速インターネットを提供し始めているのもこの戦略に沿ったプロジェクトです。Andy Rubin時代のAndroidを除いて、Googleは元来ハイエンドにフォーカスしてきませんでした。次期バージョンのAndroid KitKatも低スペックのハードで動作するように最適化されているといわれています。

もし本当にそうであれば、Googleはわざわざ64bit化を急がないだろうと推測できます。作業的には大変だし、ユーザと開発者に負担をかける割にはハイエンドユーザにしか利点がなく、戦略に会わないためです。

ということは、Googleの64bit対応の優劣とタイミングから、本当にローエンドに絞っているのか、あるいは引き続きハイエンドに注力して行くのかが分かるということです。

注視していきたいと思います。

Microsoftはまだまだ巻き返す時間はあるよ、Post-PC時代はまだ当分先だよという話

タブレットの売り上げ台数がパソコンを超えるというIDCの報告がありました。問題はこれをもってポストPC時代の到来、そしてMicrosoft時代の終焉を宣言して良いのかどうかです。

Deloitteという会社が将来のトレンド予想として“The PC is not dead: it’s about usage not units”という記事を書いています。

この中で以下のことを述べています。

  1. 発売台数ではタブレットはパソコンをしのぎましたが、市場に出回っている台数ではまだまだパソコンの方が圧倒的に多い(タブレットは全体の13.5%程度)。
  2. インターネットの使用においては、2013年はまだアクセスの80%がパソコンからで、残りの20%がスマートフォンとタブレットから来るでしょう。
  3. 発展途上国において安価なタブレットが普及すると思われがちだが、結果はむしろ逆。
  4. 若い人を対象にした調査でも、若い人ほどパソコンを主に使用しているという結果になった。

この報告を読む限り、パソコン時代の終焉はまだまだ先のようです。特にAndroidのタブレットはコンテンツの消費や娯楽にのみ注力していて、コンテンツ作成や長いEmailの作成などを全く重視していません。つまり進化の方向そのものがパソコンの代替に向かっていない可能性があり、このままでは永遠に代替できない可能性があります。

Appleはこの問題をおそらく強く認識していて、iOS用のiWork(ワープロ、スプレッドシート、プレゼンソフト)を無料化したのはこのためでしょう。10インチのタブレットに力を注いでいるのも、コンテンツ作成を重視しているためでしょう。

コンテンツ作成、特に事務的なコンテンツ作成に注力しているのはMicrosoftのSurfaceシリーズです。タブレットでのコンテンツ作成に注目が集まれば、Surfaceが人気を集める可能性はまだまだあります。

まとめ

タブレットの売り上げ台数がパソコンを超えたとは言え、タブレットがパソコンを代替し、市場から追い出すという状態には全くなっていない可能性があります。

理由はタブレットがまだまだパソコンに代わるだけのものになっていないからです。

「パソコンにどれだけ近いか」という軸で市場を眺めると、以下のようになります。

Android 7インチ < iPad mini 8インチ < iPad 10インチ < Surface RT < Surface Proその他のタブレットPC

現在のタブレット市場はこの軸の左側に注目が集まっていますが、徐々に右側に移行していく可能性があり、そうしないとタブレットがパソコンを代替するようにはならないでしょう。

なおムーアの法則により半導体の処理能力が上がると、Surfaceなどの価格が下がり、市場の中心が右側にシフトするように動くでしょう。一方でパソコンの処理能力が上がっても、画面サイズの制限により、7インチがパソコンを代替する方向には進化しないでしょう。

つまりMicrosoftにまだまだチャンスがありそうだということです。

Androidのフラグメンテーション

Chris Lacy氏がAndroidのフラグメンテーションについてGoogle+で語っています。

要点は以下の通り;

  1. フラグメンテーションは無い方が良い。
  2. しかし、フラグメンテーションを受け入れる代わりに、柔軟性と自由と巨大なシェアを獲得できたのである。
  3. 柔軟性と自由と巨大なシェアに比べれば、フラグメンテーションは大きな問題ではない。
  4. 実際、ウェブはめちゃくちゃにフラグメンテーションしている。しかしすごく広がっているし、発展している。

Chris Lacy氏のコメントはもっともです。

ただし一つだけ制限があります。

フラグメンテーションが問題になるのは、最先端のぎりぎりのすごいことをやるときです。例えばウェブで言えば、ブラウザサポートが不十分な最先端のHTML5, CSS3を使うときはフラグメンテーションが大きな問題になります。一方でInternet Explorer 8でもサポートしているような普通のHTMLとCSSだけを使うのであれば、フラグメンテーションは問題になりません。

また細部にこだわったデザインを行うときもしかりです。ウェブで言えば、デザイン性に非常にこだわったウェブサイトは固定幅でデザインされていることが多く、レスポンシブ・ウェブ・デザインはしていません。ブラウザウィンドウのサイズそのものは変更できませんが、ページの大きさそのものを固定して、レイアウトが崩れないようにしています。

実際のどれだけの開発者がここまでこだわったアプリ作りやウェブサイト作りをしているかはわかりませんが、Appleの方針はこだわる人をサポートすることです。可能な限り最高のアプリケーションを開発しようという人、iOSデバイスの新しい可能性をとことん追求しようという人をサポートすることです。理由は簡単です。

Because the ones that are crazy enough to think they can change the world, are the ones who do.

もっと具体的にいえば、Appleが大切にしたい開発者というのは、iOSの限界にチャレンジし、圧倒的に優れたアプリをiOSのためだけに開発し、iOSプラットフォームの差別化に寄与してくれる人たちです。ですから彼らの挑戦をAppleは大切にしています。

普通の開発者にとってはフラグメンテーションは問題にならないかも知れませんが、こだわりのある開発者にとっては問題になるのです。

ドコモのiPhone発売報道を受けて

ドコモがiPhoneを発売することになりそうだという報道が出て、やっとドコモがあきらめたかと思いました。いずれiPhoneを発売するしかないだろうというのは数年前からきわめてはっきりしていて、ようやく「ツートップ戦略」の空回りを受けてあきらめたのかなと思います。

さてドコモがiPhoneを売れば、国内市場がiPhoneだらけになるのはかなり明白です。そして国内の携帯メーカーが大きな打撃を受けることも間違いありません。それはそれで、誰もが予想できることなのであまり話すことは無いと思います。

興味があるのは、今回のことがどれぐらい世界の携帯電話事情に影響を与えるかです。

スマートフォンは今や先進国だけでなく、中国やインド、インドネシアなど、人口が多い途上国でも浸透してきています。ドコモがiPhoneを売るようになっても、世界のスマートフォン シェア争いには大きな影響はありません。

しかしスマートフォンアプリの市場、特に有料アプリの市場は未だに先進国で占められていて、発展途上国はあまり有料アプリを購入していません。しかも有料アプリ市場は、おそらくオンラインゲームの人気により、日本が世界で一番大きいのです。したがってドコモがiPhoneを発売することで、有料アプリ市場の大きなシフトがおこる可能性があります。

この辺りは以前の書き込み、「Android Google Playの収益の危険な地域性(その3)」でも紹介しました。

日本はドコモがiPhoneを販売していないのにもかかわらず、iPhoneのシェアが高くなっています。したがってドコモが仮にiPhoneを販売し始めれば、日本のiPhoneのシェアが激増し、Androidのシェアが激減する可能性があります。これは日本内でのGoogle Playの収益が激減することを意味します。日本の寄与が大きいだけに、日本一国での収益減少により、Google Playの全世界での収益性が減少に転じる可能性があります。

携帯電話は24ヶ月縛りがありますので、実際に数字に影響が出てくるのはこれから1年後ぐらいからだろうと思いますが、Google Playが大きく失速し、結果としてAndroidプラットフォームの将来性を疑問視する声が大きくなる可能性があります。