パソコン用Chromeは20%弱 – 45%の使用率
パソコンではChromeの人気はかなり高いです。
Chromeブラウザの人気はウェブ使用率の統計で見ます。ブラウザ毎のウェブ使用率を発表しているところは主に2つあって(NetMarketShareとStatCounter)、それぞれ結果が大きく異なるのですが、いずれにしてもパソコン用Chromeのウェブ使用率はそこそこあります。NetMarketShareは20%弱だとしていて、StatCounterは45%程度だとしています。
Android用Chromeは14%弱の使用率
これがAndroid用Chromeになると話が違います。NetMarketShareを見ると、Androidユーザの3.75%/(3.75% + 20.58%) = 15.4%がChromeを使っていると推測できます(ただしiOS Chromeユーザを無視した場合。iOS Chromeユーザを含めた場合は、より少ない割合になります)。ただしより細かく見ていくと、Chromeユーザとなっている利用者のうち、実はGalaxy 4Sなどの標準ブラウザーユーザも含まれていますので、実際には (3.75% – 1.70%)/(3.75% + 20.58%) = 8.4%がGoogle Playからダウンロードした純正のChromeを使っていることになります。
なおChrome for AndroidはAndroid 4.0以上でしか使用できませんが、AndroidのDeveloper Dashboardを見る限り、現時点でのAndroid 4.0以上のシェアは (23.3% + 32.3% + 5.6%) = 61.2% となっています。つまりChrome for Androidが使用できる環境にあるAndroidユーザに限定すると、Chromeの使用率は 8.4% / 61.2 % = 13.7% になります。
StatCounterの場合はGalaxy 4Sなどの標準ブラウザーを切り分けるためのデータが公開されていないため、Google Play純正Chromeの使用割合が計算できません。しかし合わせたChromeの使用利はNetMarketShareと似ているので(3.75%)、同じような結果になっているのではないかと想像できます。
いったんまとめると、パソコン用Chromeのブラウザ使用率は20%弱 – 45%ですが、それに対してAndroid用Chromeのブラウザ使用率は13.7%にとどまっています。
ちょっと古いデータですが、Androidからのアクセスの91%は標準ブラウザからだったという報告もあります。
いずれにしても圧倒的に標準ブラウザの人気が高く、パソコンのようにChromeもしくはFirefoxの人気が高いという現象は起きていないようです。
なぜパソコン用Chromeの使用率は高いのか
上記の結果は二つの見方ができます。つまりパソコン用Chromeの使用率が高いという見方、それとAndroid用Chromeの使用率が低いという見方です。
私は今回、前者のパソコン用Chromeの使用率が高いという立場をとります。つまり、本来ならば標準ブラウザの使用率が圧倒的に高いのが当たり前なのに、パソコン用ブラウザの世界では特殊事情によりChromeやFirefoxの使用率が高くなっているという立場です。
そしてその特殊要因というのはWindows XPであり、Windows XPで稼働する一番新しいInternet Explorer 8がかなりボロいブラウザであることが原因で、FirefoxやChromeに入り込むスキが生まれたとする考えです。
実際にデータを見ていきます。
国ごとのWindows XP使用率とChrome/Firefox使用率、IE使用率の関係
私の仮説はこうです。
- 多くの国(特に比較的貧しい国)では未だに古いパソコンが使われており、その上でWindows XPをOSとして使用しています。
- Windows XPではInternet Explorer 8までしか動きませんが、IE 8は動作が遅く、バグも多いため、ブラウザとしては劣悪です。
- それに対して最新のFirefoxやChromeはWindows XPでも動作します。そこでWindows XPを使っているユーザの多くはInternet Explorerを捨て、FirefoxやChromeに移ったと考えられます。
- 逆にWindows 7を使っているユーザはIE 9もしくはIE 10が使用できます。IE9, IE10はそれより前のバージョンより大幅に改善されていて、特にIE10はChrome以上に高速なところがあります。したがってWindows 7ユーザは標準のInternet ExplorerからFirefoxやChromeに移るインセンティブが少なく、Internet Explorerを使い続けていると考えられます。
この仮説を検証するために、以下のデータを集めました。
- 様々な国のWindows XP使用率及び各ブラウザの使用率のデータをとりました。データはStatCounterからとりました。国はCIAが公開している各国のインターネットユーザ数のデータから上位の30国を選択しました。
- Windows XP使用率と各ブラウザの使用率の相関関係を確認しました。
そのデータは以下の通りです。



Windows XP vs. Chrome + Firefox
横軸が各国のWindows XP使用率、縦軸がChromeとFirefoxの使用率の合算です。このグラフから明らかなように、Windows XP使用率とChrome、Firefox使用率には明確な正の相関があります。Windows XPのユーザは、IE以外のブラウザ(ChromeもしくはFirefox)を選択する傾向が強いようです。
なお緑の×で表したのは左が韓国、右が中国です。これらは外れ値として扱いました。韓国は国家政策の結果、Active Xの使用が半ば義務づけられ、異常にInternet Explorerの使用率が高いために除外しています。また中国はいろいろややこしいことがあり、StatCounter統計の信用度が低いと考えられます。実際に中国でのChromeのバージョンごとの使用率を見ると、古いバージョンが多く、新しいバージョンの使用率が少ない結果になっています。しかしChromeは自動アップデートがあるため、他の国ではほぼ例外なく最新ブラウザの使用率が圧倒的です。したがって中国のChrome使用率のデータはかなり怪しいです。
Windows XP vs. Chrome
先ほどのデータをChrome + Firefoxではなく、Chrome単独で見たときの結果です。相関がずいぶんと悪くなっています。これは国ごとにChromeに人気があるか、Firefoxに人気があるかがバラバラだということを表しています。
Windows XP vs. IE
これはWindows XPの使用率とIEの使用率の相関を見ています。Windows XPの使用率が高い国ではIEの使用率が下がっていることがわかります。Windows XPのユーザは、IE以外のブラウザを選択する傾向が強いようです。
考察
以上のように、Windows XPの使用率が高い国ではIEの使用率が下がり、ChromeやFirefoxの使用率が上がっています。これは上記の仮説を裏付けるものです。
もし私の仮説が正しいのならば、以下のことが言えそうです。
- Windows XPの使用率が高い国は、古いパソコンを使い続ける発展途上国である傾向があります。それに対してWindows 7やWindows 8の使用率が高い国は、裕福な先進国である傾向があります。したがってどのブラウザが広告媒体としての価値が高いか、あるいは電子商取引で多額のお金が使われているかという視点に立つと、IEが有利でChromeやFirefoxは不利でしょう。
- パソコンの買い換えによりXPの使用率が下がっていくにしたがって、ChromeやFirefoxの使用率が減少していくでしょう。
- MicrosoftはXPのサポート終了を宣言していますので可能性は極めて低いのですが、もしMicrosoftがWindows XP用のIE10もしくはIE11を開発すれば、ChromeやFirefoxの使用率はがくっと減るでしょう。
最後に
先日のGoogleのPress Eventでも、Googleの幹部はChromeが世界で一番多く使われているブラウザであることを誇っていました。
しかしこれはMicrosoftのWindowsおよびInternet Explorer戦略の失敗に起因するものです。MicrosoftはIE10からは高性能なブラウザを開発するようになっているので、失敗から十分に学んでいるようです。そこでここ数年先、Windows XPの使用者が減るのにしたがってChromeやFirefoxの使用率が下がっていく可能性が高いと言えます。
もちろんGoogleはAndroid用Chromeを提供していて、パソコン用のChromeはこれとタブがシンクロしたりするなど相乗効果があります。しかしAndroid用Chromeの人気自体が余り高くないため、相乗効果はまだ限定的です。
こう考えると、Chromeの人気も数年先まで保証されたものではないと言えます。GoogleはChromeを主要なプラットフォームと位置づけていますが、私はこの基盤は相当に弱いと考えています。