Grouponの割引を見て、バイオ業界のキャンペーンを考える

Grouponという会社やそのビジネスモデルが最近非常に話題になっているらしく(ただそういう僕もつい最近知ったのですが)、確かに面白いと思うのですが、その割引率が結構すごいんです。

Grouponについてはこのブログがたくさん書いていて、リンクした記事以外にも多くの記事があります。

それで実際にGrouponのウェブサイト(シカゴ)に行ってみると、何に驚くかというと割引率のすごさに驚きます。50%引きはまさに当たり前で、それより少ない割引率はほとんどありません。Grouponの日本法人のサイトを見てもやはり割引率はすごくて割引率は50-90%の間。多いのは50%強の割引のようです。

groupon.pngバイオの業界でも結構大きな割引が横行しているのですが、さすがにここまではなかなか割り引きません。少なくとも公に行う割引キャンペーンは50%までです。

Grouponのような大幅な割引を行うことの危険性についてはOPEN Forumの“To Groupon or Not to Groupon: The Cost of Offering Deep Discounts”という記事がありました。この記事ではRice Universityが行った調査を引用していて、Grouponを利用した1/3の企業にとっては利益面ではプラスにならなかったと紹介しています。

それでGrouponをうまく活用するためのアドバイスが紹介されていて、例えば

  1. リピート顧客が取れるようにキャンペーンをデザインしなさい
  2. 新規の顧客層が狙えるようにしなさい
  3. 新規顧客に限定しなさい
  4. 空いている時間やリソースを埋めるように使いなさい

個人的にはあまり賛同しないアドバイスもありますが、50%以上の割引をするときは確かにいろいろな注意が必要でしょうね。

バイオの業界で割引キャンペーンを担当していた僕としては常に意識していたものばかりではあるのですが、よくまとまった記事だと思います。バイオの業界で割引キャンペーンをやってうまくいくと通常より2-3倍ぐらいは売れるのですが、この程度では利益面ではプラスになりません。というか、確かにバイオの試薬は粗利が多いのが一般的ですが、それでも30%引きして利益が増えるほどではありません。

僕なんかが割引キャンペーンを割と盛んにやっていたのは、どちらかというと広告宣伝費という気持ちからです。バイオの業界は広告宣伝が未発達で、効果がしっかり出そうな広告媒体はありません。しかもほとんどが代理店を介して研究者と接しますので、分かりやすい割引キャンペーンでもやってチラシを用意しておかないと、代理店の担当者はメーカーのことを紹介してくれないのではないかと心配してしまいます。新製品はまだいいのですが、古いけど良く売れている製品は影が薄くなりそうなのです。

また財布の問題もあります。広告を打つときは、年初に割り当てられた広告宣伝費を使うことになります。これはしばしば削減の対象になってしまいますので、あまり余裕のないところです。それに対して割引キャンペーンを実施するときの損失分(利益を失った分)は、最終的な利益にならないというだけの話ですので、年初に予算化されて固定された上限がある訳ではありません。それぞれの会社の考え方や予算管理の仕方、目標設定の仕方にもよると思いますが、少なくとも僕がいたところだと同じ金額を消費するにしても、広告宣伝を行うよりも割引キャンペーンを実施する方がよほど簡単でした。そういうこともあって、本来ならば値引きせずにバラエティーのある活動を行って製品をPRしたかったのですが、経費として使えるお金がないので仕方なく割引キャンペーンを良くやりました。

まとめ

確かに割引キャンペーンは一時的に有効なことが多いのですが、割引率を大きくしないと注目してもらえなかったり、利益が下がったり、リピート顧客が獲得できなかったり等といった問題をたくさんはらんでいます。紹介した記事にはいくつかアドバイスはありますが、それに沿うぐらいでは解決できない問題もたくさん残っています。

それでもバイオの業界でキャンペーンが多いのは、ひとことで言えばメーカーの無策なのですが、実際にはそうせざるを得ない業界構造や社内の構造(これは日本だけでなく世界的に)があって、メーカーがそれに流されているだけという側面があります。

バイオの買物.comのようなサイトがそういう業界構造を変革し、より幅広いPR活動が行われるようになればいいなと考えています。まだまだ先の話ですが。

カニバリゼーションという考え方はもう捨てよう

いま最も成功している、最もイノベーティブな会社の一つとなったApple社はカニバリゼーションを全く気にしていません。

このことは以前にもiPod Touchに関してこのブログで紹介しましたが、先日発表された新しいMacBook AirとiPadのカニバリゼーションの可能性についても同じ立場をApple社は取っています。

New York Timesの記事より;

Analysts said that the new computers were so light and priced so aggressively that they could compete with the iPad for the same customers.

In a conversation after the announcement, Mr. Cook said he was unconcerned by that risk. “If one cannibalizes the other, then so be it,” he said. He said it was better for Apple to cannibalize its own business than for another company to do so.

カニバリゼーションを全く気にしないのは、新しいMacBook Airと既存のMacBookやMacBook Proとのカニバリゼーションの可能性にも及んでいます。

PRスローガンでは明確に “The next generation of MacBooks” としています。本当に既存のMacBookと入れ替わるような存在になるかどうかは今後の製品展開を見ていかなければなりませんが、iPhone/iPadで新しい製品カテゴリーの開拓に自信をつけたAppleはかなり本気だと思います。

MBA.png

Galaxy TabのUS価格(Verizon)

アップデート 10/22
Verizonが発表した価格について、インターネット上でいろいろな議論が起こってきました。
Googleで”galaxy tab price”と検索すると出てくるのが以下のページです。

  1. Verizon tries to justify crazy $600 Galaxy Tab price
  2. Verizon Backs Up $600 Galaxy Tab Price, But Is It A Lost Cause?
    (A smaller, less well-known iPad for the same price as an iPad?)
  3. Galaxy Tab price too high

ドコモがGalaxy Tab単独では売らずに、2年契約とひも付け手しか売らない理由がよくわかりますね。

Steve Jobs氏も先日語っていて、私もこのブログで何回も話してきましたが、

… our potential competitors are having a tough time coming close to iPad’s pricing, even with their far smaller, far less expensive screens.

これががそろそろみんなにも理解してもらえそうです。

Samsung Galaxy TabのUSでの正式価格が出ました。Verizonから発売されるもので、Verizonとの契約を必要としないバージョンです(つまりキャリアからの補填がない)。

この状態でSamsung Galaxy Tabは$600になるそうです。

iPadのWi-Fi + 3G, 16GBが$629なので、ギリギリこれを下回ることができました。UK海外からの輸入の情報を見る限り、かなりがんばったと言っていいのではないかと思います。

画面の面積が半分な上、Wi-Fiのみのバージョンはやはりありません。がんばったとはいえ、この程度の価格差でそもそもiPadと勝負になるかどうかはなんとも言えないですね。

Appleの企業文化はiPhoneに不利か

New York Timesの記事に“Will Apple’s Culture Hurt the iPhone?”というのがありました。

割とバランスが取れた記事です。MacintoshがWindows PCに追いやられたのと同じように、iPhoneがAndroidに追いやられるかどうかについて議論しています。

Openが必ずしも勝利するかどうか分からないと言ったことだとか、Appleにスケールメリットがあることとかに言及しています。

ただ非常に大きなポイントを忘れています。

iPhoneがAT&Tのネットワークにしか載っていないこと。そして最初からiPhoneがVerizonに載っていれば、Androidの躍進はかなり抑制されただろうということ。つまりオープンとかクローズドが問題ではなく、Appleとキャリアの権力闘争が一番の背景にあることがこの記事からすっかり忘れられています。

みんな、オープンvsクローズドが好きなんですよね。

Steve Jobs が喋る!

Appleの記録的な売上げと利益を報告したアナリストとの電話会議にスティーブジョブズ氏が参加し、いろいろな思いをぶちまけたことがウェブで話題になっています。文章に起こしたものはここで読めます。

スディーブジョブズ氏が考えるイノベーションについて、いろいろなヒントがありましたので、僕が面白いと思った箇所を取り上げたいと思います。

In reality, we think the open versus closed argument is just a smokescreen to try and hide the real issue, which is, “What’s best for the customer – fragmented versus integrated?” We think Android is very, very fragmented, and becoming more fragmented by the day. And as you know, Apple strives for the integrated model so that the user isn’t forced to be the systems integrator. We see tremendous value at having Apple, rather than our users, be the systems integrator. We think this a huge strength of our approach compared to Google’s: when selling the users who want their devices to just work, we believe that integrated will trump fragmented every time.

And we also think that our developers could be more innovative if they can target a singular platform, rather than a hundred variants. They can put their time into innovative new features, rather than testing on hundreds of different handsets. So we are very committed to the integrated approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “closed.” And we are confident that it will triumph over Google’s fragmented approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “open.”

Googleは自らオープンを戦略の柱にしていると語っています。それに対してスティーブジョブズ氏はオープンとかクローズドかというのはあまり意味がないと反論しています。そうではなく、最終顧客にとって何が一番良いか、そしてアプリを開発してくれるソフトウェアデベロッパーにとって何が一番良いか。それだけが問題だと考えているようです。

そして何が一番良いかの一つの結論として、Appleは製品ラインアップを減らし、重複する機能を削減し、常に整理整頓されたポートフォリオを持つようにしています。MacでもiPodでもそしてiPhoneでも。

(iPadとその競合について)And sixth and last, our potential competitors are having a tough time coming close to iPad’s pricing, even with their far smaller, far less expensive screens. The iPad incorporates everything we’ve learned about building high-value products, from iPhones, iPods and Macs. We create our own A4 chip, our own software, our own battery chemistry, our own enclosure, our own everything. And this results in an incredible product at a great price.

垂直統合の結果として、iPadは非常に製造コストを安くできているという話です。一般的な定説では垂直統合は高コストの製品につながります。しかしこのブログでも紹介していますように、特にイノベーションが盛んに行われている市場のステージでは垂直統合によってむしろ価格は安く抑えられます(議論が十分に練れていなくて申し訳ありませんが)。

The reason we wouldn’t make a seven-inch tablet isn’t because we don’t want to hit a price point, it’s because we don’t think you can make a great tablet with a seven-inch screen. We think it’s too small to express the software that people want to put on these things. And we think, as a software-driven company, we think about the software strategies first. And we know that software developers aren’t going to deal real well with all these different sized products, when they have to re-do their software every time a screen size changes, and they’re not going to deal well with products where they can’t put enough elements on the screen to build the kind of apps they want to build.

まず、Appleは自分たちを”software-driven company”と考えていて、何よりも最初にソフトウェアの戦略を立てているというのが面白いです。考えてみると当たり前なのですが、改めて言われるとなるほどと思ってしまいます。

そしてスティーブジョブズ氏いわく、7インチのタブレットでは有用なソフトを作成するにはサイズが足りないとのことです。興味深いことに、7インチタブレットを発売する予定のメーカーにしても、7インチのサイズを高く評価している評論家にしても、ソフトウェアの使い心地についてはほとんど語っていないように思います。そうではなくて、大きさとか重さとか持ち運びのしやすさ等を議論しています。Appleは自分たちを”software-driven company”としていますが、競合は逆にまだ”hardware-driven company”であって、評論家たちもまだ”hardware-driven critics”のように感じられます。別に”hardware-driven”であること自体には何の問題もないのですが、ただAppleやその競合を批評するときにはこの視点を忘れてはいけないと思います。

ちなみに7インチタブレットで最も話題性のあるSamsung Galaxy Tabの紹介ビデオを見る限り、掲載されているソフトのUIはsmartphone用のものを大きくしただけのように見えてしまいます。iPadのアプリの多くは画面を複数の領域に分けて、一度に多くの情報を表示するようにしています。それに対してGalaxy Tabのソフトはsmartphoneと同じように、一度に一つの情報だけを表示し、あとは画面を切り替えていくというアプローチを取っているようです。スティーブジョブズ氏の言わんとしていることはこの辺りだと思います。

バイオ業界との関連で思うこと

メーカーが販売しているキット製品を評して、「若い人は原理も解らずに使うから困る」とか「中身が解らないからトラブルシューティングができない」とかよく言われます。クローズドな製品であることに対する不満です。

僕も近いうちに、キット製品におけるオープンとクローズドについて考えてみたいと思います。

それと”software-driven company”ということと関連して、各メーカーおよび代理店は自分たちが何-drivenかをよく考えたら良いと思います。それは製造プロセスかも知れないし、物流システムかもしれません。新技術を発見し育てる能力かも知れないし、マーケティングや営業力かもしれません。問題解決力や製品サポート力かもしれません。何となく市場を見ていると、自社の本当の強みを理解できずに変なことに手を出しているメーカーが多いような気がしています。

小売りマージンの考え方とバイオ業界について勉強

自分自身がメーカーに勤務していた以外は、時間を取って流通について勉強したことがありませんでしたが、ちょっと気になって調べました。

一般的な小売りのマージンはどれぐらいだろうか

平成19年商業統計確報というのが経済産業省のウェブサイトにあります。卸売業と小売業のいろいろな統計を紹介しています。この中のV.商業企業の年間商品仕入額、年間商品販売額、電子商取引の状にマージンの統計があります。

バイオ業界における代理店(池田理科とか、岩井化学とか)が小売りなのか、それとも卸売りなのか、ケースバイケースでちょっと曖昧なので両方のデータを貼っておきました。

distributor margins.png

retail margins.png

卸売り業界全体で18.6%のマージン、小売業界全体で27.6%のマージンがあるということです。

バイオ業界の代理店ではこんなに大きなマージンはありません。希望小売価格に対する卸値で見ればマージンは大きいように見えますが、代理店が研究室に製品を販売するときは希望小売価格では納入することはほとんどないと思います。必ず割引しています。平均するとどれぐらいのマージンになっているかは僕も資料がないので分かりませんが、経済産業省の統計のような20%弱(卸)から30%弱(小売)の水準ではないと思います。

就業者一人当たりの年間売上げ

これはこっちの資料になります。

distributor per head.png

retail per head.png

卸売業界では1.17億円、小売業界では2,022万円を売り上げているとのことです。

これに対してバイオの代理店では例えば岩井化学池田理科を見ると、従業員一人当たりおおよそ1億円を売り上げています。

医薬品の流通問題に関する資料

厚生労働省の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」の資料がありました。

その中でもこの資料にあった下記の図がバイオの業界を良く表しているように感じました。

sales-distribution-channel.png

バイオの業界に通じそうな問題も多そうなので、要勉強です。

USのVerizonネットワークにiPhoneが載るというWall Street Journalの記事

アップデート

New York Timesでも同様の記事がありました。Wall Street Journalの記事を引用しているのではなく、NY Times独自に情報を入手したような書き方になっています。


VerizonのモバイルネットワークにAppleのiPhoneが来年Q1から載るようになるという話がWall Street Journalに掲載されました。

噂はずっと前からあり、そしてAppleがCDMA通信プロトコルで動くiPhoneのバージョンを製造中である話も報道されていました。しかし信憑性の高いニューズメディアがはっきりとVerizonのネットワークに載ると報道したのは今回が初めてです。

NewImage.jpgいままで米国においては、iPhoneはAT&Tのモバイルネットワークでしか動作しませんでした。しかしVerizonこそが米国で最大のキャリアです。AT&Tでは電波が弱かったり届かなかったりする箇所が多いという苦情がウェブで非常に多くありました。Androidがここまで米国で売れているのも、ひとえにVerizonに載っていないからとも言えます。

日本の状況と似ています。日本はソフトバンクがiPhoneを独占していますが、NTTドコモに比べればエリアは狭いです。ただもしからしたら日本の国土(少なくとも人口のほとんどが住んでいる箇所に関して言えば)が狭いために、AT&Tほどの苦情はウェブで見られません。

iPhoneがVerizonに載るようになれば、いよいよiPhoneとAndroid携帯はキャリアの優劣ではなく、お互いの実力で勝負することになります。iPhoneがどこまでもらい返すか、そしてAndroidがどこまで踏ん張れるかが見物です。

Samsung Galaxy Tab 海外版の価格

Expansysのウェブサイトに、Samsung Galaxy Tabの価格が載っていました。

ドコモから発売されるものは4万円強になると言われていますので、Expansysの¥73,990よりずいぶんと安いと感じられます。しかしドコモのスマートフォンプラン2年間の縛り付きで、SIMロックもあると予想されます。Expansysの製品は香港からの輸入品ですので、SIMロック無し。その分だけ価格が高くなっているのでしょう。

galaxy tab expansys.png

同じようなスペックのiPad 3G 16GBを見ますと、Expansysのからは¥57,888で、Samsung Galaxy Tabより大幅に安くなっています。ipad expansys.png

iPad 3G 16GBはソフトバンクから実質負担金¥22,320で提供されていて、それに対してドコモからGalaxy Tabが4万円強で提供される訳ですが、この価格差はSIMロックフリーのものの価格がそのまま反映されている感じがします(SIMロックの有り無しで、互いに¥35,000ほど安くなっている)。

iPad vs Galaxy Tabの料金プラン

アップデート

ドコモが言っている2年契約で4万円強について、情報源等を追記します。
2年契約と言っているのは例えばPC Onlineの記事で確認できます。またこの場合、ドコモのスマートフォン割引価格と同様のものが適応されてはじめて4万円強の価格になるだろうとぼくは考えています。


ドコモから発売されるGalaxy Tabの本体価格も料金プランもまだ正式には発表されていませんが、本体価格がだいたい4万円強になるということ、それと料金プランがドコモの他のスマートフォンのプランに準ずること(通話料金も必要そうだということも)が言われています。

そこで予備的ではありますが、iPadとの料金プラン比較をしてみました。iPadもGalaxy Tabの2年縛りがあるので、24ヶ月使った場合の料金を比較しています。

ipad galaxy tab plans.png

なおSamsung Galaxy Tabの本体価格は¥40,000として計算し、月々の支払いはこれを単純に24等分しました。またスマートフォンの料金プランはドコモのスマートフォン料金プランイメージを使いました。3G タブレットとしての通常の使い方を想定して、パケ放題ダブルの上限価格を使いました。Galaxy Tabでは通話料金を払う必要があるという話がウェブで散見されているので、スマートフォン料金プランイメージに記載のタイプSSバリュープランを使いました。

またiPadの料金はiPad販売価格一覧表iPad専用データ定額プランを使いました。

結論

ドコモのサービスとソフトバンクのサービスは単純に比較できないのは周知のことですが、それでも2年間でそれぞれ¥214,720と¥135,720ですので、ずいぶん差があると言えます。これがiPhoneとXperiaの差とかなり似た水準だというのも興味深いです。

少なくともここの勉強不足の記者が言っているように「価格で(Galaxyタブに)軍配」とは到底、言えません。

このブログで繰り返し紹介していますよう(1, 2, 3, 4)に、世界的に見てもGalaxyタブはiPadより高くなってしまいそうで、そもそもの製造原価が高いと想像されます。

ドコモから公式の価格と料金プランが発表されたとき、高くて愕然とする人がたくさん出てくると思うのですが、どうなるでしょうか。シャープのガラパゴスも然りです。

オープンの方が高い理由

「オープンな規格にして、競争を促進した方が安くなるはずだ!」

多くの人がこのことを信じています。

でもこれはかなり間違っているのではないでしょうか。

確かにオープンで競争が激しかったものが「たまたま」安かったというケースはあります。しかしオープンであることと競争が激しいこと、そして価格が安いことは実際にはかなり独立した事柄であって、オープンであることの結果として競争が激しくなる訳でもなければ、オープンであることによって価格が安くなる訳でもありません。逆にクローズドであれば価格が高くなる訳でもなく、競争が阻害される訳でもありません。

タブレットはApple iPadが安い?

最近で言えばAndroidタブレットとして発表されたSamsung Galaxy Tabの例があります。まだ日本でのGalaxy Tabの価格は正式に発表されておらず、情報があるのはイギリスだけですが、iPadの方がSamsung Galaxy Tabより高くなってしまっているのです。

Samsungが使用しているAndroid OSはオープンソースであり、無償で使うことができます。Samsungは独自のOSを開発しなくてすんだのです。しかもiPadが発売されたのは一年近く前なので、後発として成功するためには積極的な価格戦略が重要です。しかもAppleはブランド力が強く、多少高くても製品が売れます。AppleのiPadはクローズドなシステムであり、競合他社からある程度遮蔽されています。その上Appleは利益幅を大切にしますので、無理な価格設定はしません。

以上を踏まえ、「オープンな方が安くなるはずだ」という考え方に立つと、どう考えてもSamsungの方が安くてしかるべきです。Android OSはオープン、それもパソコンにおけるマイクロソフトのWindowsよりもさらにオープンです。相変わらずクローズド戦略をとるAppleより当然安くならなければなりません。

でもそうなっていないのです。逆にApple iPadの方が安いのです。

どうして理屈通りにいかないのでしょうか。どうしてオープンなのに安くならないのでしょうか。

理由は簡単です。

理屈が間違っているのです。

価格はどうやって決まるの?

詳しいことを抜きにして、常識的な話だけをします。

価格を決める要因は大きく

  1. 競合価格
  2. 製造コスト要因
  3. 戦略的要因

です。

この中でも1.の競合価格は常に非常に意識されます。別名、市場価格です。末端顧客にとっては非常に分かりやすいのが競合価格ですので、価格設定のときはまず最初にこれを意識するのが一般的です。よほど明確な差別化ができていない限り、あるいは競合のブランド力が弱くない限り、競合価格を無視するということはあり得ません。逆に競合価格だけで価格設定をすることは珍しくありません。

製造コストはもちろん大きな要因です。しかし通常は「守り」的な意味を持ちます。価格は基本的には競合を元に考えるのですが、ここで設定した価格で本当に利益が出るかどうかを確認するときに製造コストを確認することになります。特に日本のように伝統的に製造現場が強く、マーケティングが弱い場合は、製造コストは最後に確認しがちです。

最近のちゃんとしている企業であれば、製造コストを元に最終的な価格を設定するのではなく、逆に最終的な価格を最初に決めて、そしてその価格で十分な利益が出るように製造方法を組みます。つまり製造コストが価格を決定するのではなく、価格と製造コストが先に決まっていて、それから製造方法が決めます。AppleがiPadの開発を行ったときはこの方法をとったと語っていました。

戦略的価格というのは、「今は仕方ないから赤字でも我慢しよう」という状態の別名です。顧客を囲い込んで、後で別の方法で利益を改修できる見込みがあるときにとられる価格戦略です。携帯電話の本体を安く売って、後で通信費でその分を回収する場合等にとる価格設定戦略です。

さてGalaxy Tabの場合は1.の競合価格を強く意識したはずです。しかし2.の製造コストが十分に下げられず、泣く泣くiPadよりも高い価格にせざるを得なかったと推測されます。Galaxy Tabは後発であり、Apple iPadとは大して差別化できていないので、これ以外は考えられません。

もちろん戦略的価格戦略も考えられます。しかしAndroidは完全にオープンなので、顧客の囲い込みは困難です。ですからSamsungはこの戦略をとることはできませんでした。

どうしてSamsungは製造コストを下げられないのか

これもかなり単純だと予想しています。Appleの方がスケールが断然大きいのです。

iPadのOSはiPhone, iPod Touchと同じiOSで、CPUなどの部品も共通です。Apple
が出荷するであろうiPad + iPhone + iPod Touchの台数と、Samsungが今後出荷するであろうAndroid携帯 + Androidタブレットの数はどれぐらい違うでしょうか。想像するだけでも数倍は違うはずです。一桁違うかもしれません。(iPod Touchの販売台数はiPhoneと同レベルです。iPhone対Androidのシェアは情報源によってはかなり競っているというものもありますが、僕はNielsenのデータに信頼を置いています。もちろんAndroid携帯は複数メーカーから販売していますので、各メーカーのシェアはAndroid全体のシェアの数分の一です。)

これだけスケールが違うと、部品の調達力に大きな違いがあります。自然と大きな値引きが引き出せます。数年前の話ですが、SamsungがAppleにiPod用のflashメモリを50%程度値引きしているということで、競合のiRiverが抗議したということもありました。iPadについても同程度に調達コストを抑えられている可能性があります。

Androidのようなオープンな規格だと、どうしても市場が分断されます。独自のOSを開発するという参入障壁がないことにより、多数のメーカーが参入します。その結果として、各メーカーの取り分が小さくなり、部品を調達する際の交渉力が弱くなってしまいます。これはオープンであることによって却って価格が高くなってしまう例です。

他にも原因はたくさんあると思います。今回はこの一例だけ紹介しますが、オープンの方が価格は高くなり、一般の常識に反してクローズドの方が価格を下げやすいこともあるのを理解していただければと思います。

オープンによって価格が下がるのはどういうとき?

オープンにすることによって価格が下がる例はもちろんあります。パソコン等が良い例です。でもこうなるためには条件があります。

それはクローズド戦略をとっていた企業が、その立場にあぐらをかいて顧客から利益を搾り取っている場合です。先に書いた例でも紹介したように、クローズド戦略をとりつつ大きなマーケットシェアを獲得した企業は、本来は有利な価格戦略を展開しやすいはずです。低価格戦略に打って出る余裕はあるはずです。しかしマーケットシェアが大きくなると、ほとんどの経営者は顧客を搾取することを始めます。価格を下げる努力を忘れ、新技術の開発の手を緩め、取れるだけ利益をとろうとするのです。ほとんどの経営者は短気目標を重視し、長期目標を軽んじる傾向があるので、これはある意味合理的な判断ではあります。通常の方法で株主利益を最大化するのであれば、このやり方が正解です。マーケティングではこのような戦略をしばしば「milking」と言います。

これに対してオープンな市場であれば、企業は顧客を搾取することができません。価格競争が起きますので、各企業はがんばって価格を下げます。だからオープンな市場は価格が安くなるのです。

さてAppleがとっている戦略は、クローズド戦略でありながら、そして巨大なマーケットシェアをとりながらも、決して顧客を搾取しない戦略です。膨大な利益が出ても価格を下げる努力を続け、そして新しいイノベーションを忘れていません。利益を最大化することを考えるのではなく、どうやったらより多くのイノベーションを起こし、より多くの人の人生に好影響を与えられるか。Appleは株主利益ではなく、Steve Jobsの妄想によって駆り立てられている会社です。こういう会社のクローズド戦略に勝つのは簡単ではありません。

確かにマッキントッシュはウィンドウズに負けましたが、あれはクローズドvsオープンの戦いではなかったのです。最大限に顧客を搾取するため、昔のマッキントッシュはべらぼうに高価でしたし、そして新しいOSの開発がうまく出来ない等、イノベーションも起こせませんでした。いくら昔とはいえ、パソコン一台で167万円って信じられますか?。Jobsを追い出した後のAppleの経営者はそういう販売戦略をとったのです。単なるクローズド戦略ではなく、顧客を搾取するクローズド戦略をとったのです。そういうのはオープン戦略に簡単に負けます。