Innovator’s Dilemmaとバイオの製品

Charlie Woodのブログに、iPhoneがなぜ ‘The Innovator’s Dilemma’に陥らないかを分析しています。

‘The Innovator’s Dilemma’(イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき)というのはClayton Christensenが著した本で、イノベーションを続ける優良企業が、それにも関わらずどうして新興企業に市場を乗っ取られ、しまいには独占されるかを分析しています。僕もこの著者の本を2冊ほど読んでいますが、非常に論理的な議論をしつつ、直感とは全く異なる結論を証明していっているところに感動しました。またこの本は単なる分析に終わらず、将来を予測するためのフレームワークも提供しているところも特徴です。

簡単にChristensenの数冊の本の主張を紹介しますと

  • イノベーションを繰り返していくと、’Good Enough’(十分な性能)に到達します。’Good Enough’に到達すると、それ以上いくら性能を上げても、顧客にとっては役に立たなくなってきます。これがコモディティーとよく言われる状態です。
  • ‘Good Enough’の状態に達すると、安値販売で勢力を伸ばそうとする企業が参入してきます。
  • 安値販売する企業が参入しても、優良企業は安売り合戦には参加しないことがあります。そうではなくてイノベーションを繰り返し、よりハイエンドの顧客をターゲットに絞って製品開発を進めていきます。安売り市場は捨てて、ハイエンドに向かっていきます。
  • ただし優良企業が安売り合戦への参入を見送るかはケースバイケースで、その産業構造に依存します。安売り合戦をすれば既存の企業は必ず収益を悪化させますので、なるべくならハイエンドに逃れます。ただ産業構造的に直接対決が避けられない場合は全面対決をし、収益は悪化させますが最終的に生き残ることが出来ます。
  • 安値販売する企業は次第に力をつけて、次第にハイエンド製品を製造する能力を身につけます。そうすると既存の優良企業はさらにイノベーションをエスカレートさせ、ますますハイエンドに絞り込んでいきます。でもこれは必ず限界があるので、最後には安値販売する企業に市場を乗っ取られてしまいます。この安値販売する企業の参入を可能にするイノベーション、これをChristensenは’Distruptive Innovation’(破壊的イノベーション)と呼んでいます。
  • ハイエンドに逃れるのでもなく、そして安売り競争に入るのでもなく、高収益を持続させていく方法はあります。それは’non-consumer’(いままで対象にならなかった顧客)を顧客にするようなイノベーションをすることです。

iPhoneに関してのCharlie Woodの分析では、Appleがデザインを重視していているために、Innovator’s Dilemmaが当てはまらないとしています。つまり、’Good Enough’なデザインというものは無いとしています。

それに対して数多くのコメントが寄せられています。例えば、単純に今のデザインの水準が’Good Enough’とはほど遠いのではないかというもの。つまり今までの製品のデザインは、特に使いやすさという意味ではひどかったと。ただ、消費者はそれにまだ気づいていなかったという論点です。

また別のコメントの中で、AppleがDisruptive Innovationを仕掛けていると論じているものもあります。

iPhoneについてはCharlie Woodのブログに任せるとして、僕はバイオの話をします。

バイオで’Good Enough’状態に達している研究用製品

山ほどあります。

制限酵素、PCR酵素、バッファー、フェノールなどん単純試薬、チューブ、プレート、培養フラスコなんていうのはわりと当たり前に思いつきます。

その他、安売り競争が起きてしまっているものも’Good Enough’なコモディティーになっていると考えていいでしょう。リアルタイムPCRの試薬と機器、受託合成DNA、DNAシークエンス。siRNAなんかもこれに近くなっているように思います。

面白いことにその技術が新しいかどうか、あるいはその技術が革新的だったかは全く関係ありません。’Good Enough’なものが、他社でもどれだけ簡単に作れるかがコモディティーになるかならないかを決定しています。

バイオの業界で面白いのは、安売り企業が参入してきても、既存企業が割と応戦していることだと思います。ハイエンドに逃れようというメーカーはほとんどないと思います。例えばリアルタイムPCRでは、ABIはちゃんとローエンド機器を売り出しました。PCR酵素に関して言えば、Invitrogenも特許に引っかからない激安Taqを発売しています。そしてほとんどのメーカーはがんばって割引をしてくれますし、安売りキャンペーンを盛んにやってくれます。

唯一ハイエンドに逃れる気配を見せるのは、バイオをサイドビジネス的に考えてしまっている複合的な巨大企業ではないでしょうか。ちなみにこのような会社の社内事情は、重力が反対向きに働くような異次元空間に入ったかのようで、本当に面白いです。

‘Non-consumer’にアプローチしてDilemmaを逃れる方法

パソコンやスマートフォンを必要としていなかった、もしくは使いたかったけどハードルを感じていた人に対して、それを使わせてしまうだけのデザイン性と使いやすさのある製品を提供する。これが一貫したAppleのやり方のように思います。これは初代のMacに始まり、iPhone, iMac, iTunes, iPod, iPhoto, iMovieなどにも引き継がれている考え方です。

バイオの世界でよく似た例がABIのStepOneだと思います。

  • オールインワン:パソコンをつなげなくてよい。LCDタッチスクリーンとUSBドライブでセットアップと解析が行える。
  • 専用ホームページとソフトウェアでセットアップをサポート。試薬の注文も可能(アメリカ)
  • 初心者が使うことを想定したシステム

このコンセプトはすごくいいと思います。他社が安売りしても、このような使いやすさで’non-consumer’を相手に出来るのであれば、心配することは無いように思います。

自分が研究しているときは、新しい機械の操作方法を覚えるのがおっくうでした。ほとんどの機械は操作がわかりにくいし、壊してしまったらまずいと思って心配だし。サンプルも無駄になっちゃうし。だから、結局は新しい機械を使わずに、今までの方法ですませてしまったりするんですよね。面倒な方法でも。

Appleと同じだことだと思います。機械とソフトウェアの使いやすく、ウェブサイトが充実、カスタマーサポートによる対応も迅速で適切というメーカーがあれば、今までそういう実験を避けていた顧客も使ってくれるようになるはずです。

それが出来ないメーカーはInnovator’s Dilemmaにはまって、安売り競争と開発競争に深く深く沈んでいくだけでしょう。

Henry Mintzbergのウェブサイト

リーダーについてのブログ記事Henry Mintzbergを取り上げたので、Googleを使ってもう少し調べてみました。僕がMintzbergと出会ったのは29歳ぐらいのときで、会社に入ってしばらくして、あれれと感じていた頃でした。“Mintzberg on Management”という本でしたが、会社に対する幻想をまだ持っていた僕は目から鱗が落ちる思いでこの本を読んだ記憶があります。

いずれにしても、Henry Mintzberg自身のウェブサイトが見つかって、この中に面白い論文がいくつかあったので、とりあえず簡単に紹介しておきます。また機会があったら、より深く論じてみたいと思っています。

  • Leadership Beyond the Bush MBA: まず、僕も始めて知ったことなんですが、あのブッシュが実はMBAを持った始めてのアメリカ大統領だということが紹介されています。しかも権威あるHarvard Business Schoolの。これは初めて知りました。Harvardは恥ずかしくて隠していたのでしょうか?この論文ではBush政権の行動パターンのいくつかが、Harvard Business Schoolでの教育にルーツをたどることが出来るとしています。a) 状況がわからなくても素早い決断をすること、b) 実践能力は軽視されていること、c) ビジネスの基本をいくつか学ぶだけで、全般的なマネージメントまでわかってしまった気になること(ビジネス的ダウンサイジングをイラク戦争に適応したことなど) などが紹介されています。
  • How Productivity Killed American Enterprise: アメリカの企業が株主を優先して短期的利益を追求した結果、製品とサービスおよび顧客を犠牲にしたしまったことを論じています。具体的に何が行われ、何が犠牲になってしまったかを論じています。面白い論点がいくつもあります。a) 短期的な利益を最大化するには、すべての人をクビにして、在庫にあるものだけ売れば良い。極端に聞こえるけど、実際にはこれに近いことが行われた。b) 「株主利益」を最大化するために、アナリストを騙すような活動をすることが重要。例えばアナリスト用プレゼンへの注力、ブランドの統廃合、顧客から最大限の利益を吸取ること、それと合併を繰り返すこと。そしてa)に非常に近いのですが、ダウンサイジングをすること。

マーケティングにおける製品のカニバリゼーション

マーケティングではカニバリゼーションという用語があります。マーケティングという職業をやっている人に中には、自社製品間のカニバリゼーションはなるべく避けるべきだと考える人がいるようです。

例えばGoogleするとこんな感じ;

  1. http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_262.html
  2. http://mbasolution.com/onepointmba/lesson60.htm

詳細はお話しできませんが、前職でも新製品発売時にカニバリゼーションが話題になりました。その新製品が旧製品の売上を奪ってしまうのは問題だというのです。だから新製品の用途をマーケティング的に制限して(いわゆるセグメント分けとか差別化とかいうやつです)、旧製品の売上を守ろうという議論がありました。

もっとひどいのは、それができないのならば、今までのお客様には新製品のことはなるべく黙っていようという話がまことしなやかに行われていたことです。

でも誰が見ても、大部分の人にとってあらゆる用途で新製品の方がいいのです。なのにどうして新製品のことを黙っていようというのか。マーケティングを中途半端にしか勉強していない人の理屈というのは、ときとして摩訶不思議な結論を導いてしまうようです。

マーケティングをもっとしっかり勉強すると、別の見方ができるようになります。ということで、Apple社のSteve Jobsはどう考えているかを紹介します。USA Todayとのインタビューでの言葉です。

 Q: The iPod Touch is very similar to the iPhone — all that’s missing is the phone and built-in camera. Are you concerned about cannibalization?

A: If anybody is going to cannibalize us, I want it to be us. I don’t want it to be a competitor.

和訳すると;

Q(記者): iPod TouchはiPhoneと非常に似ているように思います。電話機能とカメラが無いだけです。自社製品間のカニバリゼーションは気になりませんか?

A(Jobs): もしどこかの製品がiPhoneとカニバリゼーションするのなら、それはうちであった方がいい。競合他社にカニバリゼーションされて欲しくはない。

 

ちなみに上記の前職での新製品ですが、日本だけはカニバリゼーションを気にしないという戦略をたててやったこともあってか、他国と比べてもすごく良く売れました。

もう一つ、カニバリゼーションを防ぐ戦略をとると、マーケティングと営業の意思疎通が難しくなります。カニバリゼーション防止戦略のもとでは、回りくどい差別化ポイントを説明しないといけないし、訪問する顧客もうまく選ばないといけません。それに対してカニバリゼーションを無視すれば、「とにかく多くのお客様が望むものを提供しよう」という単純な戦略を採ることができますし、単純なメッセージをなるべく多くの人に伝えればいいだけになります。戦略が単純になるので、マーケティングと営業が一体となって活動しやすくなります。

これを何回説明しても、わかってくれない人はわかってくれないんですけどね。中途半端なマーケティングの知識がいかに有害か、その良い例だと思います。

ABI 2008 第3四半期(1月-3月) 業績報告

Applied Biosystemの2008年第3四半期(2008年1月-3月)の業績が報告されましたので、簡単に紹介します。詳しくはNews Releaseをご覧ください。

  • 売上は$552.5 million (569億円)。これは2007年の$529.9 million (549億円)と比べて4%の成長。ただしドル安によるポジティブな影響も4%であったので、現地通貨でみればほぼフラットだと思われます。
  • リアルタイムPCRが好調 (10%成長、$200.9 million)、DNAシークエンスはまぁまぁ (4%成長、146.4 million)、そしてマススペックは苦しかった (1%成長、128.5 million)とのこと。(英語がかなりぼやけた表現になっています)。単純PCRやDNA合成関連は意外と好調 (6%成長、49.5 million)
  • 営業利益は$102.5 million (売上比18.6%、106億円)でこれは前年の$91.2 million (売上比17.2%、94億円)と比較して12.3%増加。
  • 機器の売り上げは$214.4 millionで1%の減少、試薬の売上は$237.3 millionで7%の増加。サービスやサポート、ロイヤルティーなどで$100.9 millionと8%の増加。
  • 地域ごとの売上は、USでは4%の減少 ($217.2 million)、ヨーロッパで7% (ただし為替の影響で+6%、$196.0 million)、日本で7%の増加 (ただし為替の影響で+10%、$62.2 million)、その他のアジアパシフィックで24%の増加 (ただし為替の影響で+4%、$49.3 million)
  • 粗利は総売上の56.9%で、これは前年の56.4%と比較して微増。主に為替の影響による。
  • 営業,マーケティングや総務的な費用が総売上の28.9%で、これは前年の28.3%と比べて若干上昇。
  • R&Dは$48.6 millionで総売上の8.8%。前年の$54.4 million、総売上比10.3%と比べて減少。主にUS防衛省とのプロジェクトの打ち切りによる減少。

感想

上記の数字から計算し、日本での円建ての売上は-3%程度の減少と予測されます。

アジアパシフィックの成長は凄まじく、来年にはアジアパシフィック全体の売上が日本を追い抜くでしょう(他社では既に抜かれてしまっているケースも多い)。外資系中心のバイオ業界では、いままでも日本の研究者の意見はなかなか製品開発に反映されませんでしたが、日本市場の相対的重要性が低下することにより、この傾向が強まる可能性があります。日本としては、今後、単なる売上以上の存在感を世界に示していかないといけないでしょう。

またこれだけリアルタイムPCR市場の競争が激しくなり、一見成熟してきたように見えても、それでもリアルタイムPCRで10%の成長をしているというのはさすがです。

Invitrogenの2008 第1四半期業績 

Invitrogen社の2008年第1四半期(1月から3月)までの業績が報告されましたのでポイントを紹介します。詳しくはPress Releaseを参照してください。

  • 売上は2008年Q1 $350 million (362億円)。これは2007年Q1の$309 millionと比較して13.5%の成長。ドル安になったことを差し引いて考えても7%の成長。これは価格と売上量が共に上昇したことが原因。製品群や地域を問わず、成長が見られました。
  • 粗利率は67.8%となりました。これは利益の高い製品が売れたこと、血清の利益率が改善したこと、それと為替の影響です。営業利益率は過去最大の28.7%に達しました。R&Dは売上対比で8.4%、営業マーケティングは19.6%。
  • 地域ごとで見ますと、アメリカ大陸で6%成長、ヨーロッパで21%成長、アジアパシフィックで19%の成長が見られました。インド、中国と韓国は共に二桁の成長を示し、それに対して日本はわずかに成長しました。
  • 電子商取引による売上はアメリカ大陸の売上の61%に達し、世界で見ても48%となりました。ちなみに2007年度の業績発表ではIT投資が年間で$83 million(85億円)と発表されていて、売上の6.5%をITに投じている計算になります。

感想

日本での売上のデータはありませんが、これだけドルに対して円高になっている訳ですから、「日本はわずかに成長」というのは円建てではフラットもしくは微減かもしれません。

それにしてもすべての製品が成長しているというのは世界市場全体の力強い成長を顕著に示しています。特にヨーロッパの成長は驚異的ですね。日本だけが取り残されてしまっている感じがあります。なお、Invitrogenは2007年業績も好調で、売上は11%成長させています。いま日本は世界に対して毎年10%弱ずつ取り残されています。これはInvitrogenだけでなく、バイオ全体の話です。

そして電子商取引がアメリカで61%にも達していることも驚異的です。ブログでも以前に話しているように、代理店そのものはうまくやると価値はあると思いますが、日本で何かが起こらないと、世界の流れに単純に飲み込まれてしまいそうな勢いです。単純に飲み込まれるというのは、代理店を無くして、研究施設がダイレクトにメーカーと取引をする形を強制されるということです。

用語解説

売上数字を見慣れていない人のための解説です。

粗利益
売上から製造原価を差し引いたもの。製造原価というのは、原材料や工場で働いている人間、工場維持費などの費用です。おおざっぱな考え方としては、原価は製造数量に比例するとします。ですから売れれば売れるほど儲かる部分です。

 

営業利益
最終的な利益に近い数字です。粗利益は製造原価だけを差し引いていますが、営業利益を計算するときはR&Dの費用、営業やマーケティングの費用、IT費用や総務的な費用も差し引きます。
粗利益、営業利益の水準
業界によって違いますが、例えば武田薬品の2007年3月期は粗利率が78.8%、営業利益率は35.1%、トヨタの平成15年度は粗利率が18.5%、営業利益率が9.6%、ソニーは2007年度はエレクトロニクスで営業利益が8.0%、ゲームで2.2%、映画で5.9%となっています。例えば国内製薬業界上位13社の平成18年3月期で見ると、粗利は平均で68.6%、営業利益は平均で28.8%となります。

すべてのコミュニケーションが失敗する仕組み。偶然に成功する場合を除いて。

Jukka Korpelaがコミュニケーション学者のOsmo A. WiioWiio’s lawsについてコメントしている記事が面白かったので、抜粋して日本語に翻訳しました。

以下Wiioの法則

1. コミュニケーションはたいてい失敗します。偶然に成功するとき以外は

これは人間の間のコミュニケーションを指すのであって、コンピュータ間のコミュニケーションを指すものではありません。人間のコミュニケーションは抽象的かつ漠然と定義されたシンボルを使用しています。そして抽象的なシンボルを使用しているがために、コミュニケーションは誤解されやすく、さらに困ったことに誤解されても確認する方法がありません。

自分の考えを言葉に表現し、さらにそれを聞き手が受けて考えを再構築する行程は何ステップもあるので、たいていどこかで失敗が起こります。

1.1 コミュニケーションが失敗する可能性があるのなら、必ず失敗します

1.2 コミュニケーションの失敗のしようがないときでも、やはりほとんど失敗します

1.3 思い通りにコミュニケーションが成功したと思える場合は、何か誤解があります

1.4 自分の発しているメッセージに満足している場合は、コミュニケーションは必ず失敗します。

2. あるメッセージの解釈の仕方が何通りかある場合、最もダメージの大きい解釈のされ方をされるでしょう

3. あなた自身が云わんとしていることを、あなた以上によく知っている人が必ずいます

あなたの言っていることを理解したつもりになっている人は本当に迷惑です。彼らは自分の言いたいことを、あたかもあなたが言ったかのように広めてしまいます。

4. コミュニケーションをすればするほど、コミュニケーションの成功率は下がります

4.1 コミュニケーションをすればするほど、誤解の伝搬は速くなります

コミュニケーションの成功率は非常に低いので、繰り返しても大して良くなりません。むしろ間違った解釈を繰り返すことによって、誤解されたメッセージが増強されてしまうということです。

5. マスコミュニケーションで重要なのは、事実そのものではなく、事実がどう見えるかです

6. イベントの重要性は、距離の二乗に反比例します

どのようなメッセージを伝えようとも、それを受け取る人は自分自身の枠組みの中でそのメッセージを解釈し、プライオリティーを与えるということです。

7. 状況が重大であれば重大であるほど、ちょっと前のやはり重要なことを忘れてしまっている可能性が高いでしょう

 

そしてJukka Korpela氏のまとめの言葉をいくつか;

コミュニケーションは対話を通して成功させることができます。あなたのメッセージの一部を理解した人でも、必ず他の部分は理解できていません。ですからフィードバックというのはコミュニケーションに必須なのです。それが非難めいたコメントかどうかはその人の教養と礼儀正しさの問題だけであって、重要なことではありません。

コミュニケーションを成功させることはできません。できることは上記の問題点を良く理解した上で、偶然の成功が起こる確率を高めることです。

フィードバックが得られない環境であれば、受け手が自分自身の理解度を練習問題を通して確認できるようにしてあげることです。

イギリスのインターネット広告は’09にテレビ広告を抜く

Advertising Ageの記事、”U.K. Online Spending to Surpass TV in ’09“。

Pricewaterhouse CoopersWorld Advertising Research Centreと合同で作成されたInternet Advertising Bureauのレポートによると、景気悪化の影響でインターネット広告にお金が流れているとのことです。

2007にインターネット広告売上は38%上昇して5.6兆ドルに達し、2008, 9年と引き続き伸びて、テレビ広告売上の8兆ドルを超える見通しであるとのことです。

このようにインターネット広告が伸びているというレポートは決して珍しいことではないのですが、面白いのはInternet Advertising Bureau CEOのGuy Phillipsonの以下のコメント;

“Online budgets are pretty much ring-fenced. Marketers can see exactly where their money is going, and it’s the last medium to have budgets cut. Given a choice between traditional and online media, you’d maintain your online spend.”

「オンライン広告の予算はかなりリスクフリーです。広告主はオンライン広告のお金がどこに使われているかが正確に把握できるので、予算削減の対象とはなりにくいのです。従来の広告媒体とインターネットのどちらの予算を削減するかを判断するとしたら、インターネット広告予算は維持して従来のものを削減するでしょう。」

教訓: 景気が悪化している局面において、広告予算をどこに投じるかの判断は「宣伝効果」の大小によって決まるのではなく、「リスク」の大小によって決まります。透明性が高く、「リスク」が少ないのがインターネット広告です。

 

さてバイオ業界に話を転じます。

日本でのバイオ業界は景気が悪化しています。したがって広告宣伝などの予算は、より効果が見えやすいものに流れようとしています。しかし、インターネット広告には流れていません。どちらかというと、今までの広告宣伝費は営業人員の増加に使われています。どうしてそうなってしまっているか、自分なりの意見をあげます。

  1. 透明性の高いインターネット広告をやってくれるインターネット媒体が未発達: ネイチャーや羊土社などはインターネット広告を募集していますが、クリック数すら教えてくれません。これではインターネット広告の良さが活かされません。
  2. インターネット上で製品のディスカッションがない: 例えば家電製品やパソコンであれば、各製品の善し悪しがインターネット上で盛んに議論されています。価格コムの口コミやアマゾンのレビュー、さらに個人のブログなどで使用体験などが多く掲載されています。その一方でバイオ研究用の製品のディスカッションはほとんど行われていません。したがって広告を貼るべきウェブサイトそのものが少ないです。
バイオ業界のインターネット広告が広まっていかないというのは結構重大な問題で、儲かるか儲からないかですむ話ではありません。例えば民放のテレビは主に広告で収入を得ていますし、多くの雑誌と新聞も広告収入なしでは成り立ちません。Google, mixi, Yahoo, Gmailなどのインターネットサービスも収入のほとんどは広告です。インターネット広告が盛んになってくれないと、ネット上の民間のバイオ関連サービスが立ち上がりません。
もちろん国家予算や大学の研究の成果として、NCBIのような学術的なウェブは出来上がりますし、いいものができてくるでしょう。
しかし、国家主導の研究だけでは先端的な研究は進まないのです。一番身近な例はヒトゲノムプロジェクト。ABI無しでヒトゲノムプロジェクトはあり得なかったのと同じように、民間のインターネットサイトが広がっていかないとバイオでのインターネット活用は尻すぼみになってしまうと思います。
今の状態をなんとか変えて、バイオ業界でのインターネット広告を盛んにしていきたいですね。

史上最悪のアメリカ大統領

“Worst. President. Ever.”というブログ記事に、アメリカ歴史学者がブッシュ大統領をどのように思っているかがまとめてありました。

「ひどい」大統領だというのは、少なくともアメリカ以外の国のほとんどの人間は思っているでしょうが、果たして史上最悪かどうかはアメリカ史を勉強していない日本人としては何ともいえませんでした。でもこれで納得。やっぱり史上最悪ということなんですね。

その一方で安倍晋三などの日本の首相を引き合いに出してしまうと、「んっ、もしかしてブッシュ大統領の方がマシかな」って気がしてしまうのも、非常に情けないのですが。

それでこの記事の最後の方に、歴史学者のコメントが引用されていて非常に気になりました。

“When future historians look back to identify the moment at which the United States began to lose its position of world leadership, they will point—rightly—to the Bush presidency. Thanks to his policies, it is now easy to see America losing out to its competitors in any number of areas: China is rapidly becoming the manufacturing powerhouse of the next century, India the high tech and services leader, and Europe the region with the best quality of life.”

「未来の歴史学者が過去を振り返り、アメリカが世界の頂点から転げ落ちたのはいつかを見いだそうとするとき、彼らはブッシュ政権を転機として挙げるでしょう。ブッシュ大統領が採ってきた政策の影響で、将来的にアメリカが多くの点で他国に劣ってしまうことは容易に想像できます。中国は次世紀の製造業のパワーハウスになるでしょう。インドはハイテクとサービスの世界リーダー。そしてヨーロッパはクオリティーオブライフが、もっとも高い地域になるでしょう。」

僕の感想;

で、日本はどうなるの?

大統領を争っている3人の候補者を見ると、ブッシュの次のアメリカ大統領は少なくともブッシュよりはずいぶんとまともの人がなりそうです。でも日本の安倍さんの次は、さらに低い支持率を記録した「他人事」福田首相。うーん。

BioCompareの抗体検索が今日も遅い

BioCompareの抗体検索が、だいたい日本の10時半になるとめちゃくちゃ遅くなるようです。ここ平日2−3日使っているのですが、ずっとそんな感じです。

日本のウェブサイトだとコスモ・バイオの抗体検索も遅いし、よく落ちている気がします。

それにしても今の時間はアメリカでは西海岸で夜7時ぐらいで、東海岸だったら夜10時ぐらいのはずなんで、遅くなる理由がよくわかりません。中国が目覚めることと関係しているのだろうか。

 

オブジェクト指向プログラミングと生物学

僕は生化学・分子生物学の研究が専門で、2001年以降にプログラミングを始めています。そしてオブジェクト指向プログラミングをちゃんと勉強したのは2005年頃からです。

プログラミングを勉強しながら、オブジェクト指向プログラミングと多細胞生物の仕組みとのよく似ていることを強く感じました。オブジェクト指向プログラミングではオブジェクト同士がメッセージをやり取りできますが、メッセージをやり取りする以外にはお互いに直接干渉しないようになっています。また各オブジェクトは独立性が高く、作業をするためのメソッドとデータを共に内包しています。

同じように細胞は、仮にそれが人間などの多細胞生物の一部であったとしても、独立性が高く、お互いにサイトカインなどでメッセージをやり取りしています。そして受け取ったメッセージを処理するためのメカニズムはすべて個々の細胞が内包しています。その独立性を最も顕著に示しているのは癌化という現象で、癌化してしまった細胞はサイトカインなどのメッセージを無視して、独自に増殖をし、体の中を駆け回り、そして個体を死に至らしめます。それだけ細胞は独立性を本来持っているのです。

オブジェクト指向プログラミングが生まれた背景には、プログラムは大きくなるととてつもなく複雑になってしまうために、なるべくプログラムをわかりやすい単位に区切ろうという発想があります。同じように多細胞生物というのは、細胞数が50億(人間の場合)に達し、DNAに書き込まれている個体の設計図は3 Giga文字にもなるという非常に複雑なシステムです。

これは僕の勝手な憶測ですが、非常に複雑なプログラムの扱いに人間が困ったのと同じように、生物も進化の過程で同じ困難に直面し、そしてオブジェクト指向という同じ解答に収斂したのではないでしょうか。

細胞生物学とプログラミングの類似性というテーマは、僕がいつか時間をとってまじめに研究したいテーマの一つですが、最近インターネットを見ていたら、オブジェクト指向が実は細胞生物学からヒントを得て生まれたものであることを知りました。

いずれのリンクもAlan KaySmalltalkを作ったとき、大学で学んだ細胞生物学のコンセプトを頭に描いていたことを紹介しています。オブジェクト指向で言うinheritanceとencapsulationをそれぞれ細胞生物学の発生と細胞膜に対比させています。

ただ、細胞生物学とプログラミングの類似性はこれにとどまらず、非常に広い範囲に及ぶと僕は直感的に感じています。

例えば細胞は基本的にsingle inheritanceですが、有性生殖のときだけ例外的にmultiple inheritanceが行えるようになっています。プログラミングではmultiple inheritanceはオブジェクトの拡張が簡単に行えるということで柔軟性が高いものの、state(状態)によるバグが発生しやすくなります(Single Inheritance vs. Multiple Inheritance)。そこでJavaなど多くのオブジェクト指向言語ではsingle inheritanceのみが可能で、interfaceという別の非対称な方法によって柔軟にオブジェクトが作れるようになっています。生物の有性生殖におけるstate(状態)の管理というのはまだ研究が盛んに行われていて、どうなっているかはまだ十分に理解されていませんが、有性生殖によって生じる受精卵はstateがリセットされて状態に近いと考えられていて、したがってmultiple inheritanceが起こりにくい状態になっていると想像されます。ですからこのときだけはmultiple inheritanceが許容されるのかもしれません。そしてJavaのinterfaceのような非対称な継承というのは多細胞生物には無いのですが、大腸菌などの原核生物にはTransformationやConjugationという形であります。大腸菌のような原核生物は受精卵のようなstateのリセットされた状態をつくることが困難なので、非対称のinheritanceをするようになったのかもしれません。

いずれにしてもオブジェクト指向自身が細胞生物学を参考に設計されたということを知って、ますますプログラミングと生物学を対比する研究をしたくなりました。