Galaxy TabのDocomoの価格

NTTドコモから発売されるGalaxy Tabの価格について、まだ正式発表はありませんが、NTTドコモの山田社長からコメントがありました。

毎日.jpより

 山田社長は「Sは、世界で500万台販売されている。どこからみても高精細で、2機種ともスマートフォン新時代にふさわしいモデルだ」と語った。価格は「S」が新規、2年契約で3万円弱、「Tab」が同条件で4万円超の見込み。

さて、専用のデータプランの価格がまだ発表されていませんので、iPadとの比較は簡単ではありません。しかしドコモは通常、ソフトバンクのように分割支払金を割り引くようなことはやりませんので、Galaxy Tabの場合もそうなると予想します。

iPadの場合、3G, 16Gモデルでデータ定額プランを申し込むと、分割支払金は ¥2,430です。そしてデータ定額プランは毎月 ¥4,410ですが、iPadで新規加入から24ヶ月間は¥1,500の割引があります。したがって、分割支払金は実質 ¥930。そして24ヶ月となると¥930 x 24 = ¥22,320ということになります。(XperiaとiPhoneの料金比較の資料ですが、料金システムの違いを理解するのに参考にしました)

つまりiPad 3G, 16Gをソフトバンクのデータプランと合わせて購入した場合、ハードを購入するための実質負担金は¥22,320となります。

これだと山田社長が言っていたGalaxy Tabの4万円はずいぶんと高い感じになってしまいます。倍近い価格です。

最終的なGalaxy Tabの価格が発表されれば、うんと詳しい評論家が解説してくれるでしょうが、とりあえずいまのところの感覚からすると、日本でもGalaxy TabはiPadよりもずいぶんと高価になってしまいそうです。

ちなみにイギリスやオーストラリアでは一部のサイトでGalaxy Tabの価格が漏れていますが、同様にiPadよりも高価になってしまっています。ドコモだから高いということでは無さそうです。

アップデート

sak’s Android Avenueより

電話もできるようで料金プランも通常のスマートフォント同様ということらしいですが、通話はいらないので2台目用途のデータ通信端末専用の安価な料金プランを設定してもらいたいところです。

本体価格を下げるには料金プランを高くしないといけないので、だれも使わなくてもこれを付けなければならなかったのでしょう。

“Can anybody beat the iPad?” だって

Can anybody beat the iPad?というのが CNNMoney.comのウェブサイトにアップされていました。

まぁアナリストの言っていることなのであまり真に受ける必要もないのですが、僕もそうだと思います。

というか今年の1月30日には既に明白だったと思います。(「iPadのこわさは、他のどの会社も真似できないものを作ったこと」

iPadの競合品が価格で勝てなさそうで、どうなってしまうんだろう

アップデート
Amazon.co.ukにSamsung Galaxy Tabの価格が出ていました。3G, 16GBモデルで£599.99でした。本文で紹介したショッピングサイトの£616.88よりは安くなっていますが、iPadの£529.00にはやはり勝てないようです。

iPadに対抗するデバイスとして、SamsungとかDELLなど各社が新しいタブレットの販売を計画していますが、どうも価格的に勝てなさそうな感じになってきました。

プロモーションビデオでは非常に魅力的に見えるSamsung Tabの場合、まだ正式な価格の発表がありませんが、例えばオーストラリアではSamsung Tabが$999 AUDに対して、同等のiPadが$799 AUDだそうです。またイギリスでもVAT込みでSamsung Tabが£616.88に対して、iPadが£529.00となっています。

画面が小さいことを除けば、Samsung Tabの方がスペック的には若干有利にも見えますが、いずれしても遅れて市場に参入する挑戦者が大幅に高い値段をつけているのは、かなり不安材料です。しかもiPadは利益率が高いと言われていてその気になれば価格を下げる用意があるとも報じられています。

要するに、iPadの方がずいぶんと安く作れるみたいです。Samsungを持ってしても、またオープンソースのAndroid OSを使っても、iPadより安くは作れなかったようです。HTCもだめだそうです(
HTC価格 32G $790iPad 3G 32G $729.00)。

こうなるとSamsungやHTCとしては、携帯電話キャリアとの契約とバンドルさせてハードの価格を下げるか、あるいは何かしらソフトをバンドルして安くするかなどしか選択肢がなくなります。

最近、ちょっと話題になっているのはデフォルト検索エンジンを変える話です。

例えばVerisonから発売されるSamsung FascinateというAndroid Phoneではデフォルトの検索エンジンがMicrosoft Bingになっていて、これをGoogleに戻す方法がないと報じられています。このようになった理由はVerisonとMicrosoftが5年契約を結んでいるためだそうです。VerisonがAndorid Phoneを安くしてくれる分、VerisonがMicrosoftからお金をもらうというのはまぁ納得のいく話です。

ただGoogleとしては非常に面白くない話です。そもそもAndroidはオープンソースなので、GoogleとしてはAndroidの利用が広がっても収入はほとんどないはずです。GoogleがAndroidプロジェクトから収入を得るためにはスマートフォンが普及し、モバイル広告収入が増えないと行けません。しかし検索エンジンとしてMicrosoft Bingを使われてしまうと、広告収入がMicrosoftに横取りされてしまいます。

SamsungやHTCとしては、iPadと価格で対等な戦いをしつつ、利益を確保しなければなりません。もし製造原価をiPadより安くできていれば、ガチンコで勝負できたかもしれません。しかしふたを開けてみると製造原価が高いので、遅かれ早かれVerisonと同じような奥の手に出ると予想されます。つまりAndroid OSを使いつつ、GoogleではなくBingなり他のモバイル広告システムをデフォルトにしてしまうでしょう。

そうなったときにAndroid開発元のGoogleはどうするか。Googleはちょっとしたジレンマを抱えるでしょう。

HPがタブレットPCをプリンタにバンドルするという、嘘のような本当の話

Businessweekのこの記事(“HP’s New Tablet Could Be an iPad Spoiler: Hewlett-Packard is bundling a tablet with a $399 printer”)から。

簡単にいうと、HPはプリンタのインクで儲けているので、顧客がそれなりに印刷をしてくれれば、$399のプリンタにタブレットPCをバンドルしてもペイするという話。Samsungなどから出てくる予定のAndroidタブレットは、キャリアとの契約付きでも$400、無い場合は$700を越えそうなので、これは相当の激安になります。ちなみにHPはプリンタ事業での営業利益が17%であるのに対して、PC事業はたったの5%だそうです。

この記事の中で特に面白いのは、調査会社のIDCのRichard Shim氏のコメント;

各社はこのような(タブレット)デバイスの市場機会を把握しようとしている。他のビジネスをカニバライズしないようなメディアタブレットのポジショニングはいったいどうすれば良いのか、その答えを探そうとしている。

対照的なのはAppleのiPadに対するスタンス。

Steve Jobs氏はD8のインタビューでiPadがPCを代替するかという質問をされたとき、PCをトラックに例えて答えました。

PCはトラックみたいになるだろう。今後もずっと残るだろうし、相当に重要であり続けるだろう。しかしX人のうちの1人に利用される感じになるだろう。….次のステップがiPadかどうかは分からない….でも我々はこの方向に進んでいると思う。

つまりAppleがiPadで狙っているのは、一般的なコンシューマにとってのPCの代替です。まさに自社のPCビジネスをカニバライズしても良いと考えているのです。それはiPadを発表した2010/1/28のイベントでもはっきりしていました。プレゼンテーションの中では、iPadで見るインターネットは、PCで見るよりもずっと良いと繰り返していました。

自社のビジネスをカニバライズすることは全くいとわない。むしろ最高の製品を顧客に送り続け、常に製品を進化させようと思えば、自社製品をカニバライズするのは当たり前だとAppleは思っているようです。

IDCのRichard Shim氏が言う通り、他社は既存のPCビジネスがカニバライズされるのが怖いのでしょう。でもこれがまさにAppleとの違いであり、Appleに勝てない理由ではないかと思います。

iPadのこわさは、他のどの会社も真似できないものを作ったこと

アップデート

John Gruberのブログを読んだら、実際にiPadを触った多くの人の感想を知ることができました。特にすごかったのはスピードだったそうです。会場のみんながとにかくスピードをたたえていたそうです。
iPadのCPUは何でしょうか?Apple社が独自に設計/製造したA4というCPUです。他社はこのCPUを使うことはできないのです。これも、他社がiPadを真似できない理由となるでしょうね。大きな理由に。

iPadが発表されてそろそろ丸一日が経ちますが、いろいろな記事も出てきました。Twitter上でも話題になっています。高いとか安いとか、パソコンの変わりになるとかならないとか、Kindleに勝てるとかどうか。それぞれの面白い話題ですけど、僕はかなり別の角度からとても興味を持っています。それは前のブログにも書きましたが、アップル社の垂直統合モデルのすごさを見せつけられたという点です。そしてしばらくはどこのメーカーも同様な製品が作れないだろうという点です。

アップル社の垂直統合というのは、CPUからハードの組み立てからOSからアプリケーションソフトからオンラインショップまでのすべてをアップル社が持っているということです。そしてiPadにおいてはこのすべてのアップル社製になっています。アプリケーションソフトは確かに3rdパーティーが作ったものが非常に多いのですが、その流通チャンネルをアップル社が完全に握っているという意味ではやはり垂直統合モデルの一部と考えても良いと思います。

そしてこの垂直統合モデルのおかげで、イノベーションが非常に加速されています。iWorkというオフィススイートはiPad用に書き直されましたが、おかげで9.7インチスクリーンとマルチタッチに最適化されたユーザインタフェースになっています。ビデオを見ると分かりますが、感動的です。マック版のiWorkを使っている僕としてはとても悔しくなるぐらい、iPad版のiWorkは機能と操作性が充実していそうです。メールや写真を管理するアプリも非常に高度にiPadの仕様に合わせて最適化されています。こういうことはハードとOSとアプリケーションソフトを一社で作っているアップル社ならではのことです。

例えば話題のネットブックですが、AsusやAcerなどの台湾メーカーはハードを非常にがんばって作っています。どんどん性能の高いものを、安い価格で販売し、市場シェアを拡大しようと画策しています。彼らは既存メーカーのHPやDELLから市場シェアを奪いたいので、非常に積極的です。

しかしCPUを作っているIntelとOSを作っているMicrosoftはネットブックの台頭を喜んでいません。それぞれに非常に細かいルールを決めて、既存のラップトップと競合するような高性能のネットブックが登場しないように規制しているのです。例えば10インチのスクリーンサイズを越えるもの、あるいはRAMが1G byteを越えるものについてはAtomを供給しなかったり低価格のWindows XPを提供しなかったりという戦略で、ネットブックがCore 2 DuoやWindows Vista / 7の売上げをカニバライズしないように制限したのです。このようにネットブックに関しては、PC組み立て屋さんとパーツ屋さんとでは完全に同床異夢の状態だったのです。

アップル社以外のすべてのPCメーカーは水平統合のバリューチェーンを組んでいます。しかし水平統合をしていると、関連企業の思惑の不一致によりイノベーションが阻害されてしまうことがあります。ネットブックがまさにその好例なのです。

そこで問題になるのは、アップル社以外のパソコンメーカーがすべて水平統合のバリューチェーンしか持たない今、垂直統合モデルによって作り上げられたiPadの競合となりうる製品が果たして生まれるのか、そして生まれるとしたらそれは何年かかるのかということです。

特に問題なのはワードプロセサーと表計算ソフト、プレゼンテーションソフトのいわゆるオフィス系ソフトです。いまのところWindowsの世界で使われているオフィス系ソフトはほとんどマイクロソフトオフィスだけです。Google Appsという選択肢はありますが、まだまだ一般化している状態ではありません。そしてフリーのOpen Officeなどもありますが、無料だという以外には魅力のない製品です。ですからiPadに十分に対抗できるような製品(iWorkが使えるという意味で)を作るには、やはりマイクロソフトオフィスを載せることが、少なくともここ数年のスパンで見たときには必要になります。

その一方でiPadに対抗する製品に載せるべきOSはどれかといえば、いまのところ最有力なのはAndroidではないでしょうか。Androidはスマートフォン向けのOSとして開発されていますので、タッチインタフェースに最適化されていますし、小さい画面にも向いています。電力消費にも気を使っているはずです。iPadがMac OS XではなくiPhone OSを採用していることからも分かりますように、iPadライクな製品にはスマートフォン向けのOSが適しているのです。

しかし、マイクロソフトがAndroidで動くようなマイクロソフトオフィスを果たして開発してくれるでしょうか。答えは明白です。絶対に作ってくれるはずはありません。Android OSをベースとしたiPadが発売されるとしたらば、オフィスアプリは間違いなくGoogle Appsです。そうするとクラウド型のソフトであるGoogle Appsがどれぐらい早く成熟するか、デスクトップアプリケーションとおなじ安心感を与える存在になるかがポイントです。Googleはこれをやってのけるかもしれません。でもかなり未確定です。

そうなると、なんだかいつもの話に戻ってしまうのですが、iPad対抗製品に載せるOSはWindows系しかあり得なくなってしまいます。しかしタッチインタフェースと10インチ以下のスクリーンサイズということになると、それはWindows 7ではなく、いまのところ姿がはっきりしないWindows Mobile 7となるでしょう。Windows Mobile 7は2月15日から始まるMobile World Congressで披露されるという噂もあるみたいですが、まぁ実際のところどうなるか分かりません。はっきり言えることは、ぱっとした実績のないWindows Mobileシリーズに賭けなければならない状況というのは、実に危ういということです。

考えてみれば、2年半前に発売されたiPhoneに対抗できる製品を開発するまでにGoogleでも2年遅れました(アンドロイド社を買収したのは実際には2005年なので、開発には相当な年月がかかっています)。マイクロソフトはまだiPhoneに対抗できるOSを開発できていませんし、Windows Mobile 7は全面的な書き直しだという話もあるのでうまくいくかどうかはっきりしません。それに加え、iPadはiWorkの書き換えを含みますが、マイクロソフトがオフィスを書き直すのに必要な時間も相当にかかるでしょう。Mobile Office 2010という製品は開発途中でβ版も無料でダウンロードできるようですが、ビデオを見る限りあくまでも小さい画面のスマートフォン向けのものであり、とてもとてもiPadのiWorkに相当するものではありません。

そういう状況の中、結局はWindows 7とタブレットPCという、既にある組み合わせしかないという気もしてきますが、タブレットPCというのは大きさにしても価格にしても既存のラップトップPCです。必要なときにタブレットとしても使えますというだけのことです。iPadの価格はこれらの1/4。重さも半分かそれ以下です。これもダメです。

だらだらと書きましたが、要するにiPadと対抗できる製品を確実に作れるメーカーは、パソコン業界広しといえども見当たらないということです。iPadのすごいのは、アイデアがすごいのではなく、アップル社以外に作れないのがすごいのです。もしすべてがうまくいったらGoogleもしくはMicrosoftが数年間のうちにiPodに対抗する製品を作れるかもしれません。でも現時点はあまりにも不確実です。普通に考えたら、iPadと対等な製品を開発するのに5年はかかるのではないでしょうか。そのときはもちろんiPadも進化しているはずです。

iPadがどれだけ売れるかはまだ分かりません。でもかなり売れる可能性もあります。売れるとしたら、その市場セグメントはしばらくアップルが何年間も独占します。iPhoneがスマートフォンを席巻しているよりもさらに激しく、そのセグメントを独占してしまうでしょう。そういう大きな構造変化を起こしてしまう危険性を、iPadは持っていると思います。

iPadを見て思った、垂直統合によるイノベーションのすごさとアップルの宿命

iPadが発表されました。売れるかどうかは別としても、いろいろ考えさせられる製品であることは間違いないと思います。今思っていることをメモ程度に書き留めておきます。

垂直統合だからこそ可能なイノベーションのすごさ

iPadに見せつけられたのは垂直統合によるイノベーションのすごさだと思います。今回、アップルはCPU周りも作っているそうです(A4というらしい)。そうなるとアップルはCPUからハードの組み立て、OSからアプリケーションソフト、小売店からオンラインストアまで、バリューチェーンのほぼすべての要素を自社に統合していることになります。同じ市場にいるどの会社を見ても、このうちの数分の一しかカバーしていません。アップルの垂直統合の度合いは圧倒的に突出しています。

製品の性能がまだ未成熟な、市場の発展段階においては垂直統合が優れています。これはイノベーションの研究で知られているChristensen氏が述べていることです。どうして垂直統合が重要かと言いますと、最終製品の性能を可能な限り引き出すために、お互いのパーツを絡めたチューニングが必要だからです。例えばiPadの場合は電池の持ちが重要な課題になりますが、そのためにはハードとOS、アプリケーションソフトウェアのすべてが、パワーを消費しないように設計されている必要があります。

またマルチタッチを使った操作についても、ハードとOS、そしてアプリケーションが最適な操作性を確保するためにデザインされている必要があります。iPad用に開発されたiWorkのデモを見ると、このすごさが分かります。PC用のものを単純に移植したのではなく、マルチタッチ用にとことん最適化されたインタフェースはやはり桁違いに素晴らしそうです。

イノベーションを宿命づけられたアップル

一方製品の性能が成熟してしまうと、重要なのは最終製品の性能ではなくなり、同じ製品を如何に安く作るかになります。こうなると各パーツを高度にチューニングする必要は無くなりますので、各部品メーカーから納入されたものを単純に組み合わせれば良いだけになってしまいます。チューニングはコストを押し上げる要因になり、排除されます。組み立てを行うメーカーは利益が出にくく、変わりにパーツを作っているメーカーに利益が回りやすくなります。ウィンドウズパソコンの状態がまさにこれで、DELLとかNECには全然利益が行かず、マイクロソフトとインテルだけが潤うという構図です。

Christensen氏はPC産業もいずれは成熟するだろうから、早晩アップルの垂直統合モデルもうまくいかなくなり、そしていずれ過去と同じような衰退期を迎えると考えているようです(そんなことを言っているビデオがネットにありました)。ただ恐らくSteve Jobs氏は誰よりもこのことがわかっていて、古い製品をいち早く捨て(売上げの絶頂期であっても)、新しい製品にカニバライズさせたりしています。iPodとiPhoneの関係などはこの好例です。

その一方で、誰もが成熟してしまったと思っている産業に新しい息を吹き込むこともアップルはやってきています。例えばiPhoneが参入する前の携帯電話産業(特に日本)は成熟期にさしかかっているように見えました。ワンセグとかお財布携帯とかの機能を付けたり、いろいろなデザインに走ったり、確かに新製品は出ていました。しかし電話の本来の機能である「コミュニケーションのためのデバイス」としての役割については、新しいアイデアが出ていなかったように思います。iPhoneはこの停滞した雰囲気を全く変えてしまったのではないでしょうか。

また2000年代の初め、Windows 95の熱が冷め、インターネットも一通り普及し終わった頃、もうパソコンはいらないという空気が流れていました。DELLが安売りPCで絶頂を極めていた頃です。もう産業としては成熟し切ったので、後は製造コストを安くできるメーカーが勝ち残るという産業構造です。そのとき、Steve Jobsは”Digital Hub”戦略を発表しました( YouTube このビデオは必見)。パソコンの黎明期を作ったSteve Jobsだからこその素晴らしい歴史観です。その戦略に基づいてiTunesやiPod、iPhotoが開発され、そしてパソコン産業はデジタルメディアを管理するプラットフォームとして生まれ変わったのです。新しい成長が生まれたのです。”We don’t think that the PC is dying. We think that it’s evolving.”

Christensen氏は半分正しいのです。PC産業が成熟すればアップルのような垂直統合モデルは立ち行かなくなります。それをさせないためにアップルは次から次へと新しいビジョンとイノベーションを生まなければなりません。これができないと、Jobs氏がいなかった 1985年から1996年のころのアップルと同じ状態になってしまいます。その一方で垂直統合モデルはビジョンとイノベーションを生むのに適しています。ですからなんとか成り立ちます。アップルは垂直統合モデルが可能にする非常に早いイノベーションをし続けることによって、かろうじてInnovator’s Dilemmaを逃れているのです。

iPadのプレゼンテーション( apple.com, iTunes Music Storeのポッドキャストもあります) の中で、Steve JobsもScott Forestallも「ウェブを見るならPCよりiPadが断然良い」と繰り返しています。iPadのウェブサイトでは、「ウェブ、メール、写真、ビデオを体験する最高の方法。何の迷いもありません。」という見出しまで出ています。マックをカニバライズするよという公然としたメッセージです。普通にパソコンを使うのなら、もうマックを買わなくていいよ。半分の値段のiPadを買った方が断然良いよ。値段も安いけど、使い勝手もiPadの方が良いよ。CEOがそう言っているのです。これほどのカニバリゼーションを平然と行うこと、これがイノベーションをし続けなければならないアップルの宿命なのです。

アップデート

  • Christensen氏の研究をうまく紹介しているサイトがありました。ここ。でも本当はなるべく多くの人に彼の著書を読んでほしいです。
  • 日本のメーカーがどうして問題に直面しているかを考える上でも参考になると思います。日本のメーカーは垂直統合の構造になっているにもかかわらず、イノベーションで勝てなくなっています。ビジョンだけでなく勇気が必要です。構造が似ていますので、悲しいまでにイノベーションを続けるアップルを参考にするしかありません。
  • ちなみに国内スパコンの議論も、Steve Jobsのいなかったアップルを彷彿させますね。価値を生んでいない垂直統合という意味で。