タイトルは僕のMacBook Proの裏面に書いてある文言。
「カリフォルニア州のアップル社でデザイン。組み立ては中国。」
考えてみれば当たり前のことです。先進国の人間は高い給料をもらうのだから、付加価値の高い仕事をしなければなりません。組み立て作業というのはその付加価値の高い作業ではないのです。ですからその付加価値相応の低い給料で働いてくれる中国本土の中国人に作らせないと、採算が合いません。
日本が国内でのモノ作りに固執し、付加価値の低い組み立て等の作業も日本で日本人がやるべきだとか考えると大きく方向を間違えます。あるいは日本企業は中国の企業と競争しないといけないので、雇用の自由化を推進し、より安い給料、もしくはより悪い労働条件で働いてくれる日本人が雇用しやすいようにしてあげるべきだという議論も危ういです。
日本企業の活力を取り戻させるべく、企業が抱える様々なコストを低減させてあげて、人件費が安い発展途上の国と戦えるようにしよう。例えば法人税減税をしてあげましょう。税収が減った分は公務員の人件費を減らしましょう。企業が無駄なコストを抱え込まないように、いつでも首が切れる派遣社員を主力にしましょう。多くの経済人が述べている成長戦略を要約すると、こう言っているように感じます。
これでは絶対に勝ち目のない戦いを挑んでいるだけです。無駄な特攻を仕掛けているだけです。
逆立ちしたって平均年収が39万円の中国人とは同じ土俵では戦えません。日本の社員の方が若干は品質に対する意識が高かったりするかもしれませんが、それでも10倍近いギャップを埋めるとなると、どう考えたって無理です。
日本の経済人は、人件費が1/10の発展途上国とどうやって戦うかをみんな考えています。
これは間違いです。
例えば孫氏の兵法でも読むことをお勧めします。
どうやって戦わないで済むか、を考えないといけないのです。
考えるフレームワークの一つがポーターのファイブフォース分析です。
- 買い手の交渉力 : ここで考えるのは、グローバル市場、特に発展途上国市場で戦うべきか、国内市場で戦うべきかです。分かりやすいのは買い手の価格感応度。発展途上国は給料が安いので、価格に敏感になります。価格感応度が高く、買い手の交渉力は強くなります。競合と比較してコストに強みがない限り、魅力的な市場とは言えません。
- 供給企業の交渉力 : 基本的に発展途上国と先進国ともこの点に関しては条件が同じと考えられるので、特に議論しません。
- 新規参入業者の脅威 : グローバル市場では常に発展途上国が参入してくる可能性があります。各国で独自の規格(公式なものじゃなくても)が定まっている場合を除いて、基本的にはモノはどこに行っても同じです。ですからモノは新規参入を受けやすいです。日本が発展途上だった頃、つまり新規参入する側、攻める側だった頃は、これは日本に有利に働きました。ドランジスタラジオはどこに行ってもトランジスタラジオだし、日本独自のものがあったり、米国独自のものがあった訳ではありません。逆に今度は日本が先進国になってしまうと守る側になるので、新規参入を受けやすいモノ作りへの固執はリスキーです。
- 代替品の脅威 : ここでは発展途上国製品に切り替える精神的な負担について考えたいと思います。基本的にモノではこの負担は小さいです。一方でサービスは高くなります。例えば家具の椅子が中国で作られていようが、日本で作られていようが、あまり違いはありません。しかし学校の担任の先生が中国人になったら抵抗を感じる日本人は多いはずです。看護婦についても、程度の差はあるけど同様でしょう。日本vs発展途上国で考えた場合、モノ作りだと代替品は大きな脅威になります。しかしサービス、それも密なサービスであればあるほど、日本人が有利になります。中国人に代替されにくくなります。
- 競争企業間の敵対関係 : ここでは議論しません。
僕がこういう考えから導く結論はこうです。
- 発展途上国に日本企業が進出することには何ら問題はないと思います。しかし日本の工場で作ったものを発展途上国に売ろうというのは、まぁあまり大々的には成功しないでしょう。一部の高級品ではうまくいくとは思いますが。発展途上国市場を狙うのなら、発展途上国の工場で製品を作るしかありません。日本の工場で作ろうとすると日本人が不幸になるだけです。日本で作ったものをアジアで売ろう!という成長戦略は一部を除いて幻想でしかありません。
- モノ作りは新規参入を受けやすいし、代替されやすいので、慎重になるべきです。よほど高付加価値の製品を作るのならば話は別ですが、そうじゃないモノ作りは諦めるべきです。一方、顧客との密な接触が重要なサービス産業であれば、日本人は発展途上国に代替されることが減ります。
「世界で戦う!」というのは簡単ですが、10倍の人件費を跳ね返すのは至難の業です。
モノ作りで人件費10倍を跳ね返すには、戦うのではなく分業が必要です。高付加価値のデザイン等は日本で行い、製造は発展途上国で行う。そのためには高付加価値の仕事ができる独創的な人材を育てることが必要です。日本の教育はどちらかというとまぁまぁな人材を一定の品質で大量に供給するように設計されていて、日本が発展途上国だったころはこれが非常に有効でした。しかしモノ作りに限って言えば、今必要なのは、製造・組み立てをする人材ではなく、デザインをする人材です。日本の教育は残念ながらこれにはあまり適していません。
ただしどんなに教育を充実させても、日本人のみんなデザインができるようになって、中国人より10倍の付加価値が生めるようになるはずはありません。
こういう日本人は日本国内市場でのサービス産業に従事すれば、世界と競争をする必要がなくなります。武士精神が過剰で、何かと世界と競争できなければいけないと考える人もいますが、そんなことはありません。市場・産業を選べば、世界と競争する必要なないし、こういう市場でぬくぬくとやるのは、それ相応の理由(この場合は日本語および日本の風習等の壁)があるならば問題がないはずです。そういう市場を成長させて、日本人全体の幸せ度アップを目指せばいいのです。
話が複雑なので、うまく説明できていない気がしますが、一番言いたいことを最後に繰り返して終わりにします。
日本がモノ作りで世界と戦えたのは、昔は発展途上国で、今の中国と同じで単純に人件費が安かったからです。同じ土俵で中国と戦おうと思ったら、みんな不幸せになるだけです。中国と戦わずに共存できる立ち位置はどこかを考え、そこを目指さなければいけません。そしてそれは多くの経済人が言っているのとは、大きく異なる場所です。