「イノベーション」という言葉はかなり意味が広くて、乱用されています。「イノベーション」という言葉は非常にイメージが良いので、ビジネスのロンダリングにも使われます。つまり本当は道徳的に問題のあるビジネスであっても、「イノベーション」という言葉を使えば良く聞こえます。ですから一年前にブログの中でGoogle、Amazon、Appleの「イノベーション」を簡単に区別し、分類しました。
一年経ってまた読み直してみると、方向性は同じももの、違いがより極端になったと感じます。
Googleのイノベーション
前回のブログでは、現在のGoogleのイノベーションはかなりつまらなくなっていて、他の企業が成功させたビジネスを真似て、無償で配ることだと紹介しました。GMail, Google Apps, Androidを例に出しました。
2012年で変わったのは、「無償」では足りなくなってしまったことです。2011年の間に、「無償」だけではiPhone, iPadに対抗できないことがわかってきました。そこで2012年の後半からは「赤字で売る」ということをGoogleは始めました。Nexus 7を赤字で売って、何とかタブレット市場にAndroidを浸透させようとしています。
その一方でAndroidで直接利益が出せているのはSamsungだけという不思議な関係が生まれています。(GoogleもMotorola買収によるハードを作るようになりましたが、赤字)
Amazonのイノベーション
AmazonのイノベーションもGoogleと同じように「赤字で売る」ことにかなり注力するようになってきました。もともと超薄利多売で、会社規模の割にはほとんど利益が出ない会社ですが、それがどんどん顕著になってきています。
2012年はGoogleもAmazonも「赤字で売る」ことに懸命になっていた一年でした。
Appleのイノベーション
Appleのイノベーションは、今まで存在しなかったものを作り上げ、分かりやすく一般消費者に浸透させることです。もちろん毎年iPhone, iPadのような画期的な製品は作れませんが、驚異的に薄いiMacを発表したりするなど、今までのやり方を継承しているように見えます。また競合が「赤字」に懸命になっていても、引き続き良い製品を作ることに集中しているように思います。
本当にイノベーション?
赤字で売るというビジネスモデルは昔からあり、悪用されてきた歴史も有り、不正競争防止法などで規制の対象になっています。ハイテク分野だからGoogleやAmazonのやっていることはイノベーションと呼ばれることがありますが、かなり微妙だ思います。競合の排除をしているだけで、全体にプラスにならない可能性があります。
ポストPCについて思うこと
これだけスマートフォンやタブレットが話題になってくると、ポストPCという話題が当然出てきます。でもポストPCという言葉の定義ははっきりしていないし、「イノベーション」と同様に乱用されている言葉です。
同じような枠組みでポストPCを少し考えたいと思います。
既存の製品を代替するだけのポストPC
大半の評論家のイマジネーションはここでまでしかありません。ポストPC時代というのを、タブレットがラップトップPCに変わるものととらえています。あるいはもっとイマジネーションに乏しい人は、タブレットでメールをやったり、Facebookやったり、映画を見たりすることをポストPC時代と考えています。
でもこんなのメチャクチャつまらなくて価値のない考えです。既存のものに入れ替わるだけでは全然面白くありません。こういう評論家が考えていることは、スマートフォンもしくはラップトップで既に実現していることばかりです。ポストPC時代になれば、安価にそれを楽しむことができたり、あるいは歩きながらできたりするということだけが新しい価値です。
でもたぶんこういうことを考えているのは評論家だけではなく、Apple以外のどの会社もそうだろうと思います。どんな業界でもそうですが、独創性豊かなトップ企業と二番煎じ企業の間にはそれぐらい大きなギャップがあります。バイオの業界で言えば、ABIとRoche, Promega, Bio-Rad, Takaraらなどのギャップと同じような感じです。トップ企業がヒトゲノムをどう読むかを考えているときに、二番手以下はどうやったら価格でくぐれるかを考えています。
コンピュータの世界に戻ると、2013年はAppleが真剣にポストPCを模索し、GoogleとAmazonは「赤字販売」をどうやって継続するかを工夫していくのだろうなと思ったりしています。たぶんAppleが出していく考えは多くの人が考えているポストPCとは全く違うのだろうなと思います。