タブレット市場の成長は?新型Nexus 7, Kindle Fire HDXが売れていないという話

情報筋としてはずいぶん怪しいのですが、新型Nexus 7とKindle Fire HDXの売り上げがどうやら前モデルよりも落ち込みそうだという話が出てきています。

情報元はDigitimesとアナリストのMing-Chi Kuoです。

普段であればこのような情報筋の話は議論しないのですが、a) トレンドとして納得ができること b) 世間では余り話題になっていない ので、今回は取り上げたいと思います。

まず噂の内容を要約すると;

  1. 月間出荷台数が前モデルよりも落ち込んでいる。
  2. Nexus 7は2012年には最大で月間100万台弱を出荷した。2012年には500万台を出荷した模様。
  3. 2013年は350-400万台にとどまる可能性がある。

またトレンドとしてはBenedict Evans氏がまとめたグラフがあります。季節性は考慮しないといけませんが、Nexus 7の売り上げに成長の気配は見られません。

NewImage

考察はいろいろ可能なので、現時点ではどうしてこうなったかを断言することはできません。しかし悪い兆候がいろいろあったのも事実です。

  1. 初代Nexus 7は時間が経つにつれ性能の劣化が著しかったそうです。そうなると初代Nexus 7購入者は新型を買おうとは思わないでしょう。
  2. 初代Nexus 7の訴求点は高性能で安価なタブレットでした。安価すぎて、Googleが赤字で売っていると言われたほどでした。しかし競合の登場により、もはやNexus 7は特に安価と言えなくなりました。
  3. 初代モデルの品質問題でブランドを傷つけ、かつ安価ではなくなってしまうと、売れる理由がなくなります。
  4. タブレット市場そのものの成長が鈍化している可能性があります。
  5. Googleは他にもNexusをいろいろ出していますが、どれもさほど売れていません。Googleの販売力の弱さが露呈しています。

一方でiPad Airが非常によく売れているという話があり、iPadと中堅Androidタブレットの差が大きく開く可能性も考えられます。

さて、どうなるでしょうか。

Nexus 7が今までどれぐらい売れたのかを再確認する

7月24日のGoogle Press Eventで、新型のNexus 7が発表され、その中で以前のモデルがどれだけ売れたかについて紹介されていました。

それを少し検証してみようと思います。まずはGoogle Press EventでのSundar Pichaiの言葉から。

  1. Global Annual Salesで2012年において、おおよそ110 millionのTabletが売れたというデータを紹介しています。
  2. Total Android Tablet Activationsが70 Millionとなったそうです(最新データ)。グラフを読むと、2012年末時点では50 million程度のActivationがあり、2011年末時点では13 million程度のActivationがあったことになります。すなわち2012年の間に行われたActivation数は37 million程度です。Google Nexus 7は2012年の7月に発売されていて、その時点ではので25 million程度。したがってGoogle Nexus 7が発売されてから現在までのActivation数は45 million程度です。
  3. Google Nexus 7は発売以来、Androidタブレットの10%強の販売シェア。
  4. 日本でNexus 7が一番売れた時期があったことが紹介していますが、これはおそらくBCNランキングのデータで、BCNのデータはApple StoreもAmazonも大手電気店も含まないことを知っている日本人はそんなデータは信用できないことがわかっています。

GoogleはNexusの販売台数を一切公開しません。しかしNexusを製造しているAsusはTabletの販売台数を公開しています。そのデータをBenedict Evans氏が分析しています。そして得た結論は、2012年のNexus 7の販売台数は4.5mから4.6mの間で、4.8m以下としています。

同様にBenedict Evans氏はGoogleのスクリーンサイズシェアデータを分析して、Nexus 7のスクリーンサイズが全Androidの1%であることに着眼しています。そのことから[2013年の4月時点で、Nexus 7の使用台数は6.8m](http://ben-evans.com/benedictevans/2013/4/17/nexus-tablet-sales-not-many)であるとしています。

さて最初のSundar Pichai氏がNexus 7の販売台数に言及しているのは「Androidタブレットの10%強のシェア」というところです。Android Tablet全体の販売台数に関する言及は2012年7月以来の45 millionのactivationだけですので、単純に45 millionの10%を取ると2012年7月以来の販売台数は4.5 millionとなります。これはBenedict Evans氏の推測(2012年内で4.8m, 2013年4月で6.8m)を大幅に下回っています。

もしかすると「10%強のシェア」のとき、Sundar Pichai氏は「Androidタブレット」の範疇の中にAmazonのKindle Fireや中国で売られている安いTablet (Google Playに接続できない)を含めていたのかも知れません。そうしないと「10%強のシェア」というのはとても自慢できるような数字ではありません。

そこで北アメリカ限定のデータですが、Chitikaがタブレットのウェブ使用シェアのデータを公開していますので、これを確認します。ここではiPadが全体の84.3%となっていますので、仮にiPad以外のタブレットがすべてAndroidだとして15.7%がAndroidタブレット(Amazon Kindle Fireを含む)のウェブ使用シェアになります。それに対して、Google Nexusは1.2%の使用シェアですので、Google Nexus/Androidタブレット(+ Kindle Fire) = 1.2/15.7 = 7.6%となります。一方Amazonを外すと 1.2/(15.7 – 5.7) = 10.2%となります。この数字が世界の他の地域を代表することはないでしょうが、Sundar Pichai氏の言葉とぴったり合うのは興味深いです。

またIDCの推測によると、3Q12-1Q13でiPad, Amazon以外のタブレット(大部分はAndroid)は62.8 million売れたことになっています。Google Nexus 7がその10%となると6.3 millionになりますのでBenedict Evans氏の数字と合ってきます。

なおAppleは3Q12-1Q13に54 millionのiPadを売っています。Appleのデータは実際に四半期ごとに公開しているデータですので、推測する必要がありません。

まとめ

Nexus 7が2012年7月の発売以来に売れた台数はおそらく6-7millionの間と推測されますが、先日のGoogle Sundar Pichai氏が紹介したactivation数を見る限り、もっと少ない可能性もあります。

おそらくNexusシリーズの中で一番成功したのはNexus 7です。スマートフォンのGalaxy NexusもNexus 4も大して話題になりませんでした、ましてやNexus 10は…。それがこの程度というのはあんまり良い状態ではありません。

Sundar Pichai氏が「Androidタブレットの中で10%今日のシェアを獲得した」をどうして誇らしげに紹介したのか。本来なら隠したくなるような数字ではないか。そのあたりが気になります。

GoogleのNexusが売れていない

GoogleのNexus 7を中心に、GoogleのNexus戦略はあまりうまくいっていなさそうだという話をこのブログで何回かしています。要するに話題性とは裏腹に、Nexus 7はあまり売れていなさそう(使われていなさそう)なのです。

  1. 北米における2013年2月のタブレットの使用統計
  2. タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状

さらにそれを裏付けるデータが、Googleが公開しているデータの分析から明らかになりました。

Nexus tablet sales: not many

もうかなり間違いないです。Nexusはあまり売れていません。

北米における2013年2月のタブレットの使用統計

Chitikaより北米における2月のタブレットの使用統計が発表されました。

Chitika February 2013

特に今回は2012年12月、2013年1月のデータを並べて、ここ3ヶ月の傾向を見ています。

Chitika 2013 trends february

私が思うところでは、ポイントは以下の通り;

  1. Kindle Fire, Samsung Galaxy, Google NexusおよびBarnes & NobleのNookはいずれも年末商戦で大きく使用率が向上しました。しかし、どれをとっても2月には微増または微減となっています。Androidのタブレットはなぜ年末商戦でしか売れないのか?が気になります。
  2. Google NexusはKindle Fire, Samsung Galaxyから遠く離されたままで、その差を埋める様子は特にありません。評論家からあれだけ絶賛され、Googleが赤字で売っているとも言われている機種が、どうして販売が伸びないのかが不思議です。

仮説としては以下のことが考えられます;

  1. Androidのタブレットは贈呈用には人気ではあるが、自分のために買う人はあまりいない可能性。
  2. 何かを買うとき、通常は「必要かどうか」を考えて買います。しかしクリスマス商戦というのは、「必要かどうか」または「欲しい」ではなく、「何かをプレゼントしなければならない」という状況下における購買活動です。「必要かどうか」という基準ではAndroidは弱い可能性があります。
  3. Google Nexusのブランドは評論家に絶賛されることが多く、これはNexus 7のみならず、Nexus 4についても言えます。しかし実際の購買になると、Kindle FireやGalaxy Tabに負けています。Kindle Fireはamazon.comのトップページにずっと表示されていますし、すべてのページの右上にKindle Fireの広告があります。逆に言うと、それぐらいのことをやらないとAndroidタブレットは売れないとも言えます。
    Amazon top bar 2
  4. Samsung Galaxy Tabの強みはおそらくはマーケティングとチャンネル管理の強力さだと思われます。

長期的視点では以下のことが気になります;

  1. プレゼントとして買われたものが、どれぐらいの顧客満足度を維持できるのか?
  2. 顧客満足度が高ければ、自分用に買う人が増え、年間を通して売れるようになるはずです。果たしてそうなるのか?

タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状

iPadが圧倒的に強いタブレット市場において、それでも徐々にAndroid陣営は勢力を伸ばしつつあります。とはいえ、状況はGoogleにとってかなりまずいように思えます。なぜならAndroidを前面に出して売れている気配が全くありません。

iOS vs. Android

という構図ではなく、

Apple vs. Amazon

もしくは

Apple vs. Samsung

という状況になっています。テクノロジーブロガーはGoogleに注目しています。しかし実際の販売状況および利用状況を見る限り、Googleは「蚊帳の外」感すら漂っています。

以下データを見ていきます。

Millennial Mediaというモバイルの広告事業を展開している会社が発表したデータをまず紹介します(Apple Insider経由)。ここで見ている数字は広告がどれぐらい多く閲覧されたかを示すもので、広告はアプリなどに埋め込まれて表示されます。

まずはスマートフォンを含むデータ。Appleが2012年にシェアを25.36%から31.20%に伸ばしている結果となっています。Samsungも同様に16.80%から22.32%に伸ばしています。

NewImage

タブレットに限ったのが以下のデータです。Androidがシェアの41%を握るまでに成長しているものの、その原動力は圧倒的にSamsungによるものであり、次いでAmazonとなっています。GoogleがブランディングしているNexus 7はAsusのシェアに含まれていますが、Androidのうちのわずか5%です。

NewImage

AmazonのKindle Fireは、OSとしてはGoogleのAndroidを使っていますが、激しくカスタマイズされていてAndroidの存在感を消しています。それどころか、メーカー保証を損なうような改造を行わない限りGoogle PlayストアなどのGoogleのサービスを利用することができなくなっています。

SamsungはAndroidをそこまで改造しておらず、普通のGoogle Playを使うことができます。しかしスマートフォンでもタブレットでも圧倒的に強いSamsungはAndroidを脅かす動きが顕著に出てきています。独自のモバイル用OS Tizenを2013年中に発表予定していることもそうですが、スタイラスによるペン入力やマルチウィンドウの独自ソフトを組み込んで、Samsungだけの機能を強化しようとしている点も見逃せません。

Nexus 7はアメリカでの発売が7月で販売期間が短いという問題がありますが、機能の割には圧倒的に安い価格で提供していて、なおかつ評論家の間では非常に好評だったにもかかわらず、Samsungの遙か後方に位置しています。販売チャンネルをしっかり管理しているSamsung、独自の強力な販売チャンネルを持っているAmazonとの差がくっきり出ているように感じます。

なお同じような結果は同業者のChitikaからも発表されています。Chitikaのデータの違いは2ヶ月ごとに更新されている点で、そのため年末商戦に強いAmazonのシェアが高くなっています。

Chitika January Tablet Graphs 1 2

推察

GoogleはAndroid OS自身からは利益を取らず、Android OSを使っている利用者からの広告収入やオンラインストアで利益を得ようとしています。そのためにはAndroidがどう使われているかをある程度コントロールする必要があります。

しかしAmazonのKindle FireユーザはAmazonのオンラインストアに囲い込まれているため、Googleのストアが入り込むことができません。Kindle FireのブラウザもAmazon製ですので、Googleがコントロールできません。

SamsungはGoogleを排除していません。しかしGoogleのタブレット戦略はNexus 7後もほぼSamsung1社に依存しています。力関係は圧倒的にSamsungに傾いています。特筆するべきは、ちゃんと粗利を稼げるAndroidタブレットはSamsungしか作れていない点です。

Androidはタブレットのシェアを伸ばしました。しかしその犠牲として、Googleは市場をコントロールする力を失いました。価格崩壊も起きていて、混沌としています。2013年がどうなるか、予測不能です。

GoogleやAmazonが採用しているビジネスモデルの問題点

AmazonのKindle Fire、そしてGoogleのNexus 7およびNexus 4はハードウェアを赤字覚悟の値段で売って、そしてコンテンツもしくは広告で利益を確保するという戦略です。これは古くからあるビジネスモデルであり、たまには成功例があるものの、うまくいかないことも多く、またイノベーションを阻害する可能性があることをこのブログでも以前から解説しています。

ハードウェアを赤字で売って、コンテンツで儲けようというやり方はゲーム機の世界で盛んに行われています。そのゲーム機の新製品サイクルは7年のようです。

ソニーがPS4を年末に投入すると発表されました。前のPS3が2006年11月に発売されたものですので、ちょうど7年前になります。2006年と言えば、AppleがPowerPCプラットフォームを離れ、Intelに移行開始した年。この頃に発売されたマシンは当然ながら最新OSのMountain Lionが動きません。大不評だったWindows Vistaがリリースされたのもこの頃です。またiPhoneはまだ初代ですら発売されておらず、日本はまだまだガラケー全盛時代です。GoogleはまだBlackberryタイプの携帯電話を開発していました。

7年というのはITの世界では記憶がかすむほどの大昔です。でもゲーム機の世界ではPS3のライバルのXbox 360が2005年の発売、任天堂のWiiも初代WiiからWii Uまで6年間空きました。

AmazonとGoogleが採っているビジネスモデルというのはそういうものです。ただしビジネスモデルが異なるAppleが業界を牽引しているため、イノベーションを緩めることができないのです。もしもAppleが何らかの理由でイノベーションを緩めてしまったら、AmazonもGoogleも緩めるでしょう。そうしないとコストの回収ができません。

低価格のタブレットは破壊的イノベーションになるか

ドコモからも9,975円のタブレットが発表されたように、相変わらず赤字でタブレットを売るのが流行っています。タブレットを赤字で売る代わりに電子書籍やビデオ、アプリなどのコンテンツで儲けを出そうというのが戦略です。問題は終着点として最終的にiPadに勝てるようになるのか、それともAppleの絶対的な立場は揺るがず、別の市場でコンテンツ消費に特化したタブレットが生き残るのかどうかです(今の電子辞書のように)。

破壊的イノベーションによってマーケットの覇者が入れ替わる仕組みはClayton Christensen氏が”Innovator’s Dilemma”で理論的に解説していて、イノベーションにおけるスタンダードな理論になってきています。こに理論に即して話しますが、この理論をどう適用するかは人によってまちまちなので、あくまでも一つの解釈ということになります。

前提は技術水準がニーズを飛び越していること

Innovator’s Dilemma が起こるには前提があるとChristensen氏は述べています。それは技術水準が進化した結果、かなりの部分の消費者のニーズを飛び越してしまっているということです。つまりもっと性能が限定的なものでも十分に顧客が満足できるという状態に達していることが必要です。

どうしてこれが必要かというと、破壊的イノベーションはまず既存の主力企業が最初は脅威を感じないことから始まるからです。主力企業が「ローエンドは他企業に任せてよい」と思うことから破壊的イノベーションは始まります。そういうローエンド市場がそもそも存在することが必要です。

iPadが発表される前にネットブックがPC市場で爆発的に売れましたが、ネットブックはローエンドPCでした。これが爆発的に売れたということはPC市場全体が顧客のニーズを飛び越していたことを強く示唆していました。CPUパワーが大幅に落ちるタブレットにPC市場が飲み込まれつつあるのは、その延長線上のことです。

AmazonのKindle FireやGoogle Nexus 7の場合は性能的にiPadを目標にしています。iPadと同等以上の性能をプロモーションしています(スペック上では確かに超える部分もあります)。そうしないと顧客は買ってくれないのです。つまりまだまだタブレット市場では顧客ニーズを飛び越す技術水準には到達していません。少なくとも先進国市場ではローエンド市場は存在しません。Kindle FireもNexus 7もローエンド製品ではなく、ハイエンド製品を赤字でもいいから安く売ろうという試みです。

ローエンド市場が存在しないということは、Appleは決してハイエンド市場に逃げないし、市場で何ら譲歩しないことを意味しています。

マーケットリーダーが対抗できないような戦略が必要

マーケットリーダーに勝つためには、マーケットリーダーが対抗できないような戦略を採用する必要があります。マーケットリーダーは力が強く資源も豊富なので、そに気になれば新規参入企業を一蹴できます。それをさせないというのが破壊的イノベーションの妙です。

マーケットリーダーが新規参入企業を許してしまう理由は利益構造だったり、要求水準が非常に高い代わりに利益も良い顧客を重視しすぎたりすることだったりします。いろいろありますが、とにかく対抗できない必然的な理由があります。

問題はAppleがGoogleやAmazonに対抗する気になれるか、そして効果的に対抗できるかです。つまり電子書籍配信やビデオ配信、音楽配信など、GoogleやAmazonが利益に源泉にしようとしているサービスをAppleも立ち上げ、そして対抗できるかです。答えは簡単。Appleはもうこれらをずっと前からやっていて、音楽配信に関しては大成功しています。Amazonは電子書籍では成功していますが、それ以外ではまだまだです。GoogleはYouTubeなどの無料サービス以外ではこれといった成功はなく、基本的にはまだお金を払ってもらうのを苦手としています。

つまりGoogleやAmazonのような戦略はAppleも十分に採れて、その気になればAppleの方がうまくできる可能性だってあります。Appleが対抗的にiTunes storeのコンテンツの価格を下げれば、GoogleもAmazonも対抗値下げを余儀無くされ、コンテンツで回収するというビジネスモデルが立ち行かなくなります。

Kindle Fireはどうなって行くのか

この日経BPの記事がすべてをまとめているような気がします。待ちわびたKindle Fire HDはちょっと残念な端末だった

  1. サイズも重さもイマイチで、開発投資が不十分。
  2. アプリはAndroidと同じものであっても再度Amazonから買わないといけない。

Kindle FireでAmazonが狙っているのはiPadの代替ではないし、Nexus 7の代替でもなさそうです。破壊的イノベーションはおろか、タブレットとして成功することすら狙っていない感じがします。でもそうなるとまだまだ値段が高すぎます。おそらくはiPadが進化する傍で、ひたすら価格を下げて行くのではないでしょうか。機能の差がどんどん広がって行っても。そうやって電子書籍やポータブルDVDプレイヤーのような製品になって行くのだろうと思います。

Google Nexus 7はどうなって行くのでしょうか

Google Nexus 7の場合は違う使命があります。Googleとしては本当はハードウェアがやりたいのではなく、自分たちが損をかぶらないとiPadにいつまで経っても追いつかないからハードを作ったという経緯があります。本当はハードはメーカーに任せるつもりだったはずです。

したがって、Google Nexus 7は性能的に優れている使命があります。そして現時点では赤字で売らないとiPadに対抗できないので、赤字をかぶり続けるはずです。Amazonの場合はタブレットの性能を犠牲にして価格を下げるという戦略が採れますがGoogleはそれができません。Nexus 7は常にiPadを目指さなければならず、ローエンドからの破壊的イノベーションは仕掛けられない使命を持っているのです。

Nexus 7のような赤字で売る製品は、Googleとしてはなるべく早くやめたいはずです。Androidタブレットを各メーカーが自力で売れるようになれば、やめようと思っているはずです。でもその芽はまだありません。ズルズルと可能な限りの最高の製品を赤字で販売し続けるのだろうと思います。

iPad miniは高すぎるのか?

USでのiPad miniの価格は$329から。Google Nexus 7やAmazon Kindle Fireは$199から。

よってiPad miniは高すぎるのではないか?

歴史を振り返ってみましょう。iPadはどうしてNetbookに勝つことができたのか。

Netbookとは

Netbookについてまず振り返りましょう。Wikipediaより。

  1. Netbookの始まりはAsusのEee PC (2007年)。価格は$260から
  2. 典型的なNetbookは1.2-4kg, $3-400, 7-12インチの画面。
  3. 最大でラップトップ市場の20%に達し、2010年にiPadが出るとマーケットシェアを落とし始めます。
  4. 2012年になるとNetbookは年間で25%売り上げを落とし、一方でiPadの販売台数がNetbookを超えます。

iPadは一番安いモデルで$499でした。

Windowsアプリがほぼ使えるNetbookと異なり、iPadは専用のアプリも非常に少ない状況でした (iPhoneアプリなら使えましたが)。Adobe Flashも使えなかったので、ウェブでも問題がありました (PC World)。キーボードもあるので、入力は(原理的には)Netbookの方が楽です。

iPadがNetbookに勝ったのは、「使える」から

どうしてiPadが勝ったのでしょうか?

なぞ?

おそらく答えはこうです。

  1. 誰が使えるか?: iPadはすごく簡単で、幼児にも老人にも使えます。家庭でパソコンを使う人の大半は設定の仕方とかそういうのが全然わかりません。操作法もよくわかりません。iPadはそういう人にも使えるものでした。そう、iPhoneと同じように。
  2. どこで使うか?: iPadはトイレやベッドの中でも使いやすいし、ソファーでゆったりしながら使うのに最適です。タブレットを一番使うのはテレビを見ているときという調査結果もあります。Netbookだとこういう使い方ができません。また立ちながら使うのだったらタブレットしか考えられません。
  3. 何に使うか?: みんながやりたかったのはウェブを見ることとメールを確認することでした。デフラグとかしていないWindows XPでInternet Explorerを使うのに比べて、iPadは非力なCPUながら、圧倒的にウェブの表示が速かったのです。しかもスリープから起きるのが瞬間的なので、思い立ったときにすぐにウェブが見られます。

つまりiPadが勝った理由は、1) ユーザ層を拡大したから、2) 使用する場所を増やしたから、3) ウェブとメールをより快適にしたから。一言でいうと「使える」を増やしたからです。

価格はネガティブ要素でしたが、ほとんど影響がありませんでした。価格ってそんなに重要じゃないのです。それよりは「使える」ことが重要です。

iPad miniは「使える」から$329、Android 7インチタブレットは「使えない」から$199

さてiPad miniに話を戻します。

Google Nexus 7やAndroid Kindle Fireって「使う」ことをあまり考えないで作られた製品です。安くすると買う人がたくさんいたから開発された製品です。HPが当初$400で販売していたTouchPadを店じまいの大売り出しのつもりで$99, $149で販売しだしたら馬鹿売れしたので、もしかしたら低価格タブレット市場があるのかも知れないとGoogleやAmazonは思ったのです。

7インチAndroidタブレットの使い勝手の悪さについてはPhil Schillerが2012年10月のiPad mini発表会で長々と語りました。YouTube

低価格7インチタブレットが本当に使われていないのは、前のブログでも紹介したChitikaのネットアクセス統計でわかります。

NewImage

このグラフの縦軸は、iPadのインプレッション100回に対してどうかという数字です。つまりGoogle Nexus 7は約0.8%のインプレッションシェア、Kindle Fireは0.6%のインプレッションシェアということになります。市場アナリストが言うようにこれらの製品が本当に売れているのであれば、全然使われていないということになります。

簡単な話、誰も使わないタブレットを売るためには$199の価格をつける必要があります。逆にどんなに使えない役立たずの製品でも、$199を切っていて、プロモーションがしっかりしていればかなりのは数が売れます。これはNetbookと同じ価格帯です。

iPadのように「使える」タブレットを売るのであれば$300以上しても大丈夫です。

Androidタブレットの現状についての考察

かなり前からiPadのマーケットシェアに関するデータが気になっています。

iPadのマーケットシェアは68%?

2012年9月のAppleのプレゼンでiPadのタブレッド市場のマーケットシェアが68%だったというデータが紹介されていました。タブレット市場のマーケットシェアに関する情報は複数の調査会社が公開していて、おそらくそのどれかを使ったのだと思います。ただしタブレットの売り上げ台数を公開しているメーカーはAppleだけで、例えばSamsungはスマートフォンもタブレットも売り上げ台数は公開していないので、この市場調査委資料はかなり推測が含まれています。

スクリーンショット 2012 10 28 13 23 44

iPadの使用台数シェアは91%?

それに対して実際にインターネットにアクセスしたタブレットの数、つまり実際に使用されているタブレットのシェアを見ると全く様子が違います。91%がiPadであるというデータが出ています。これはおそらくはChitikaというネット広告会社が出しているデータを元にしているのだろうと思います。これも方法論的に難しいことがあるので、100%正しい数字ではなく、ある程度のバイアスがある数字だと考えることができます。

スクリーンショット 2012 10 28 13 23 47

いずれにしてもこの2つのデータの違いは相当に大きくて、いずれもそこそこ正しいと仮定するならば以下の結論しか合理的にあり得ません。

「Androidのタブレットを購入した人は、その後ほとんど使っていない」

以下、一部データを補足しながら、どうしてAndroidのタブレットは余り使われず、それに対してiPadは多く使われるのだろうかについて考察したいと思います。 Continue reading “Androidタブレットの現状についての考察”