オープンであることの意味 : “The Meaning of Open”の和訳

2009年末、”The Official Google Blog”に掲載された Jonathan Rosenberg, Senior Vice President, Product Managementの記事、“The meaning of open”を和訳しましたので、以下に紹介いたします。

この内容に賛同するかしないかは別として(私も部分的には賛同していません)、非常に示唆に富んだ文章であることは間違いないと思います。

もし何かに利用したいということであれば、引用、転載、修正は全く自由ですので、よろしくお使い下さい。

なお、この翻訳はGoogle翻訳者ツールキット (http://translate.google.com/toolkit)を使って行いました。

—– 以下翻訳 —-

オープンであることの意味

2009年12月21日3時17分00秒午後

インターネット、グーグル社、そして我々の利用者にとって「オープン」であること意味について、先週、社内にメールを送りました。オープンの精神に則り、グーグル社外にもこの考えを共有したいと思いました。

グーグル社では、オープンシステムが勝つと信じています。オープンシステムはより多くのイノベーションを生み、価値を創造し、消費者の選択の自由を拡大します。そしてより活発でより収益性があり、より競争が行われるビジネス環境を作り出します。他の多くの会社も似たようなことを言っています。自社もオープンだと宣言することがブランドの向上に貢献し、同時にリスクがないことを知っているからです。そもそも我々の業界にはオープンであることの意味が明確に定義されていません。これはいってみれば「羅生門」的な言葉です。非常に主観的でありながら、極めて重要なのです。

グーグル社内でオープンが話題になることが最近多くなっているようです。製品の議論をしているミーティングに参加しているときなどにも、我々はもっとオープンであるべきだという意見が出ます。しかしそのあと議論を続けていると、会議室のほとんどの人はオープンが良いと信じてはいるものの、具体的にそれが何を意味しているかについては必ずしも意見を共有していないことが分かります。

このような議論はかなり頻繁になってきています。そこでそろそろ全員が理解し、支持できるような形でオープンを明確に定義しなければいけないと私は思います。以下に紹介するのは私自身の経験と数人の同僚の意見を元に作成した、そのような定義です。私たちが会社を運営し、製品の判断を行う際は、ここに紹介する原則に従っています。ですからこの文章を注意深く読み、振り返り、そして議論してほしいと思います。そしてこの定義を自分のものとし、自分の仕事に活かしてください。これは複雑なトピックなので必ず議論があるはずです。議論はオープンで行ってください!自由にコメントをしてください。

我々のオープンの定義は2つの要素からなっています。それはオープンな技術とオープンな情報です。オープンな技術というのはオープンソースソフトウェアとオープンスタンダードを含みます。オープンソースを含むという意味は、我々はインターネットを成長させるソフトウェアを公開し、積極的にサポートしますということです。オープンスタンダードを含むという意味は、我々は公認のスタンダードに従い、スタンダードがない場合は(グーグル社だけでなく)インターネット全体の利益となるようなスタンダードを作り出すということです。オープンな情報というのは、我々がユーザに関する情報を持っているときは、これを利用者に有用な価値を創造するために使用し、どのような個人情報を持っているかについて透明性を持たせ、かつその情報をコントロールする権限を利用者に全面的に与えるということです。我々がやらなければならないのはこの2つのことです。多くの場合、我々はまだこれが達成できていません。しかしこのメールを出発点に、現実と理想のギャップを埋め始められることを期待しています。

我々がオープンを一貫して実践できれば(そしてできると信じています)、我々は行動を通して模範を示すことになります。そして他の会社や産業が同じくオープンを実践することを奨励できるでしょう。他の会社や産業もオープンになれば、世の中はより良くなります。

オープンシステムは勝利します
我々の立場をより詳細に説明するために、オープンシステムが勝利するということをまず強調したいと思います。伝統的な訓練を受けたMBAは、クローズドなシステムを作り、それを普及させることによって持続可能な競争的優位を築き、そしてプロダクトライフサイクルに沿って利益を搾り取ることを教育されています。したがって彼らにとっては、オープンシステムが勝利するというのは直感に反します。伝統的な考え方では、会社は顧客を囲い込むことによって競合他社を閉め出すべきです。戦術的にはいくつかの異なるアプローチがあります。カミソリの会社はカミソリのホルダーを安く売り、刃は高く売ります。昔のIBMはメインフレームを高くし、ソフトウェアも…高くしていました。いずれにしても正しく運営されたクローズドシステムは多くの利益をもたらします。また短期的には良くデザインされた製品を生み出しますが(誰でも分かる例としてはiPodとiPhone)、クローズドシステムにおけるイノベーションはいずれ小さな前進しか生まなくなります(4つ刃のあるカミソリは3つ刃のカミソリよりそんなに良くなっていますか?)。なぜなら現状を維持することが目的だからです。クローズドシステムは常に慢心を生みます。顧客の維持が楽にできるようになってしまえば、楽をしてしまうのです。

オープンシステムはこの逆です。競争が激しく、もっと変化が早いです。オープンシステムでの競合優位は顧客の囲い込みから生まれるのではありません。変化の激しいシステムを誰よりもよく理解し、より良い、よりイノベーティブな製品をつくることによって競合優位が生まれるのです。オープンシステムで成功する会社はイノベーションが早く、同時に思想面でもリーダーです。これは簡単なことではありません。とても大変なことです。しかし行動の素早い会社は何も恐れることはありません。そして成功すれば、大きな株主価値を生むことができます。

オープンシステムは新しい産業を生み出すことができます。オープンシステムでは一般大衆の知性がときはな、各会社はビジネス戦術だけでなく製品の優劣に基づいて競争し、イノベーションし、勝敗を付けるようにしむけられます。ヒトゲノムの解読はその一例です。

Wikinomicsという本でDon TapscottとAnthony Williamsは1990年代の半ばに私企業がDNA配列データをたくさん発見しては特許出願し、その情報を誰がいくら払ってアクセスできるかをコントロールしていたことを紹介しています。ゲノム情報を私企業が所有することによってコストがかさみ、創薬の効率が落ちました。そして1995年にはメルク社とワシントン大学のゲノムシーケンスセンターはMerck Gene Indexというオープンなイニシアティブを作り、ゲームのルールそのものを変えました。わずか3年間で800,000の遺伝子がパブリックドメインに公開され、まもなく同様な行動的なイニシアティブが生まれました。この業界では初期のR&Dはクローズドな研究室で行うのが伝統的であり、メルク社のオープンなアプローチは業界全体のカルチャーを変えただけでなく、医薬開発のスピードを速めました。この成果により世界のどこの研究者であっても、オープンな遺伝情報に制限なくアクセスできるようになりました。

またオープンシステムはすべてのレベル(OSレベルからアプリケーションレベルまで)でのイノベーションを可能にします。それに対してクローズドシステムでは一番上のレベルでしかイノベーションできません。ですからある会社が製品を出荷する際、もう一つ別の会社の善意に頼る必要がないのです。例えば私が使用しているGNU Cコンパイラにバグがあれば、オープンソースなので自分で修正することができます。バグレポートを送って、修正がタイムリーに行われることを祈らなくていいのです。

したがって、可能な限り産業を大きくしたいのであれば、オープンシステムはクローズドシステムに勝ります。我々がインターネットでやろうとしているのはまさにこれです。我々がオープンシステムにコミットするのは、利他主義だからではないのです。ビジネス上、オープンシステムの方が賢明だからです。オープンなインターネットは安定してイノベーションを生み出し、ユーザの増大とユーザの活発な利用を促し、産業全体を成長させるからです。Hal Varianの"Information Rules"という著書には、これに当てはまる数式があります:

報酬 = (市場に提供されるすべての付加価値) * (我社の付加価値のシェア)

他の条件を同一と見なしたとき、10%のシェア増大と10%の市場全体の拡大は同じ結果を生みます。しかし我々の市場では市場全体の10%の拡大の方がより多くの報酬を生みます。なぜなら産業全体にスケールメリットをもたらし、生産性を向上させ、すべての競争相手のコストを下げるからです。我々が安定してすばらしい製品を提供し続ける限り、我々は市場全体とともに繁栄します。シェアは小さくなるかもしれませんが、パイは大きくなるのです。

別の言い方をすれば、グーグル社の将来はインターネットがオープンであり続けることに依存しています。そして我々がオープンを推し進めることよって、グーグル社を含めたすべての人が恩恵を受ける形でウェブが拡大するでしょう。

オープンな技術
オープンの定義をするためには、インターネットの土台となった技術:オープンスタンダードとオープンソースソフトウェアの話から始めなければいけません。

オープンスタンダード
ネットワークが繁栄するためにはいつの時代もスタンダードが必要でした。19世紀の初めにアメリカに鉄道網が敷かれ始めたとき、線路幅の規格は異なるものが7つありました。当初はネットワークが繁栄することはありませんでした。それぞれ異なる鉄道会社が標準幅の4フィート8.5インチに同意して始めて、鉄道網が繁栄し西に拡大することができたのです。(この場合、規格戦争は本物の戦争でした:アメリカ内戦で南部連合国が合衆国に負けると、南部の鉄道会社は11,000マイルの鉄道を強制的に変更させられたのです)

1974年にVint Cerfと同僚らがアメリカ合衆国のいくつかのコンピュータネットワークを接続する際、(後にTCP/IPとなった)オープンスタンダードの使用を提案しましたが、これはこのような前例のあることでした。どれだけの数のネットワークが存在するかははっきり分からなかったので、"Internet"(これはVintが名付けたのもだが)はオープンでなければなりませんでした。どんなネットワークであってもTCP/IPを使って接続することができました。そしてその時の判断の結果、現在ではインターネット上に6億8100万ほどのホストが存在しています。

利用者の選択の自由を確保する上では相互互換性が必須ですので、開発社向け製品については我々はオープンスタンダードで作ります。したがって、グーグル社のプロダクトマネージャーと技術者は可能な限りオープンスタンダードを使用するべきです。オープンスタンダードがまだ無い分野に挑戦しているときは、オープンスタンダードを作りなさい。オープンスタンダードがまだ十分でない場合は、それを改善し、改善点をなるべくシンプルにし、ドキュメンテーションも可能な限り充実させなさい。我々のグーグル社だけでなく、利用者および産業全体を常に優先させるべきです。あなたたちはスタンダード策定団体と協力し、我々が行った改善点が公認スタンダードの一部となるように努力するべきです。

我々は以前からこれを実践しています。Google Data Protocol(XML/Atomに基づく我々の標準APIプロトコール)を作っていたころ、我々はIETF Atom Protocol Working Groupと協力し、Atomの仕様策定を共に行いました。また最近ではW3Cと協力して、ブラウザ上で位置情報を利用したアプリケーションが簡単に作れるように、標準の位置情報APIを作成しました。このスタンダードは我々だけでなく、すべての人の役に立ちます。そしてとても面白いアプリケーションが何千もの開発者によって作られ、利用者の手にわたることでしょう。

オープンソース
先に述べたアプリケーションの大部分はオープンソースソフトウェアで作られるでしょう。オープンソースソフトウェアはここ15年間のウェブの爆発的な成長の原動力です。ここにも前例はあります。「オープンソース」という言葉が生まれたのは1990年代の終わりですが、産業を活性化するために重要な情報を共有しようという発想はインターネットのずっと前から存在していました。1900年代の初め頃、アメリカ合衆国の自動車産業は特許のクロスライセンス協定を結び、メーカー間で特許がオープンにかつ自由に共有されました。この協定以前は、ツーサイクルガソリンエンジンの特許の保持者たちが産業全体を事実上閉じ込めてしまっていました。

今日のオープンソースは昔の自動車メーカーの「パテントプール」よりも大幅に発展し、グーグル社を支えているLinux, Apache, SSHなどの高度なソフトウェアコンポーネントの開発につながりました。実際、我々の製品を運用する上で、何千万行ものオープンソースコードが使用されています。また我々はオープンソースにこの恩を返しています。我々は世界最大のオープンソースソフトウェア提供者です。合計2000万行のコードに達する、800以上のプロジェクトを提供しています。Chrome, Android, Chrome OSとGoogle Web Toolkitの4つはそれぞれ100万行以上のコードです。またMozillaとApacheをサポートするチームもありますし、250,000以上のプロジェクトをホスティングしているプロジェクトホスティングサービスも提供しています(code.google.com/hosting)。これらの活動によって社外の人間が我々のプロジェクトに協力し、我々がより良い製品を提供できるだけではありません。もし我々が十分にイノベーションできなければ、社外の人間が我々のソフトウェアを土台に自らの製品を作ることもできるのです。

我々がコードをオープンソースするときはApache 2.0ライセンスを使用します。つまり我々はそのコードをコントロールしないということです。他人がそのオープンソースコードを入手し、修正し、閉じ込め、自分のものかのように出荷することもできます。Androidはこの典型例です。複数のOEMはこのコードを入手し、すばらしいものを作り上げています。このアプローチにはリスクもあります。ソフトがお互いに互換性の無い、複数の系統に分かれることがあるからです(ワークステーション用のUnixがApollo, Sun, HPなどに分岐したのを思い出してください)。Androidではこうならないように努力しています。

開発者用のツールをオープンソース化することには努力を惜しみませんが、すべてのグーグル製品がオープンソースだという訳ではありません。我々の目標はインターネットをオープンにしておくことです。これによって選択の自由と競争を奨励し、利用者や開発者が囲い込まれてしまうのを防ぎます。多くの場合、特に検索や広告関連製品などでは、オープンソース化はこの目標の実現に役立ちませんし、むしろ利用者に害をもたらします。検索と広告関連市場は既に競争が激しく、利用者も広告主も選択の幅が広いですし、囲い込まれてもいません。これらのシステムを公開してしまえば、アルゴリズムをだまし、検索結果や広告品質ランキングを人為的に操作することが可能になり、すべての人にとっての品質を低下させてしまうのは言うまでもありません。

ですからあなたたちが製品を作ったり新しい機能を付け足しているとき、いったん立ち止まって考えてみてください。「このコードをオープンソース化することによって、インターネットはよりオープンになるでしょうか。利用者、広告主および協力者の選択の自由を拡大してくれるでしょうか。競争やイノベーションの拡大に貢献するでしょうか。」そうであればオープンソース化するべきです。そしてオープンソース化するときはちゃんとやってください。単にそれを公にして、忘れてしまうということはしないでください。コードを管理して、他の開発者を取り込めるだけのリソースがあることも確認してください。我々がオープンに開発して、公開されたバグトラッカーとソース管理システムを使用したGoogle Web Toolkitはこの好例です。

オープンな情報
オープンスタンダードとオープンソースの基盤によって、今日のウェブ上には膨大な量の個人情報があふれています。写真、連絡先、近況アップデートなどが頻繁にアップロードされています。情報量が膨大であることおよびそれが永久に保存されうることによって、今まで考える必要も無かった課題が生じました。すなわち、この情報をどう扱えばいいのかということです。

歴史的に、新しい情報技術は新しい商売の形を可能にしてきました。地中海の商人が紀元前3千年頃に印鑑(bullae)を発明し、出荷した製品が途中で開けられることなく目的地まで届けられるように保証しました。この結果、商売はローカルなものから遠距離なものに変わりました。同様の革新は書き言葉の到来や最近ではコンピュータによってもたらされました。約束の遵守を保証する新しいタイプの情報野のおかげで、商取引のすべてのステップにおいて、トランザクション、すなわち関係各団体が何らかの価値を得る双方同意が促進されたのです。

ウェブ上では新しい商売の形というのは、何らかの価値と引き換えに個人情報を提供することです。この取引には毎日何百万人もの人が参加しています。そして潜在的には非常に大きなメリットがあります。数年前にはなかったGPS追跡技術から得られる情報により、自動車保険業者は顧客の運転技術をリアルタイムで確認し、安全運転に対しては割引(そしてスピードの出し過ぎには超過料金)を与えることができるかもしれません。これは比較的簡単な取引です。以下ではもっと注意を要するシナリオも考えます。

例えばあなたの子供がいくつかの薬に対してアレルギーがあるとします。コンピュータが埋め込まれた注射器がその子のカルテを自動的に読み取り、看護婦が誤って薬を投与してしまわないようなシステムをあなたは承認しますか。私なら承認しますが、手首に金属のブレスレットをつけるだけで十分とあなたは考えるかもしれません。それでいいのです。人はそれぞれ異なる判断をしますし、個人情報について言えば、我々はそれぞれの判断を同様に尊重しなければいけません。

より多くの個人情報をオンライン化するのはすべての人にとって有用ではあると思います。しかしその情報の利用に際しては、産業の変化とともに成長でき、責任ある、スケールアップできるような柔軟性をもった原則にしたがって、これを行わなければなりません。オープンな技術についての我々の目的はインターネットの生態系を拡大することでしたが、オープンな情報へのアプローチはこれと異なり、インターネット生態系と関わる個人(利用者、パートナーと顧客)との信頼関係を築くことが目的です。オンラインで最も重要な通貨は信頼であり、これを築くためにはオープンな情報の三原則に沿わないといけません。すなわち、価値と透明性とコントロールです。

価値
まず第一に、我々は利用者にとって価値のある製品を作る必要があります。多くの場合、利用者についての情報があればあるほど良い製品が作れます。しかし利用者が提供する情報の対価として、我々がどのような価値を提供するのかを理解してもらわないと、プライバシーの問題が生じます。そのような場合、その価値を説明してあげれば彼らは情報提供に同意してくれるでしょう。例えば、どのようなものを購入したかの履歴を何百万もの人がクレジットカード会社に提供していますが、これは現金を持ち歩く煩わしさから解放されるという利便性の対価として同意されたものです。

我々が3月に関心ベースの広告(IBA)を提供開始したとき、これはうまく出来ました。IBA広告によって、広告はより的確で有用なものになります。これは我々が収集する情報によって創造される付加価値です。また利用者のための設定管理ツールも含まれていまして、設定ツールの中では利用者にどのような価値が提供されるかが説明されています。また設定を変更したり利用を中止したりすることもできます。設定管理ツールを利用した大部分の人は、利用を中止せず、設定を変更しました。彼らは自分の興味に合わせてカスタマイズされた広告を受け取ることの価値を理解してくれたからです。

これが私たちのデフォルトのアプローチであるべきです:我々は利用者に対して、どのような情報を知り得たか、そして我々がそれを知っていることがどうして利用者にとっても有用かを、分かりやすい簡潔な言葉で説明しなければいけません。わざわざ利用者に説明するまでもなく、自分が作り上げた製品の価値は自明であるとお考えですか。それは多分間違っています。

透明性
次にすべての製品について、我々がどのような情報を収集し保存しているかを、利用者が簡単に調べられるようにしなければなりません。我々は最近、Googleダッシュボードでこれに向けて大きな前進をしました。Googleダッシュボードは、各Google製品(Gmail, YouTubeとSearchを含めた20以上の製品)にどのような個人情報が保管されているかを一カ所に集め、個人設定を変更できるものです。我々が知る限り、このようなサービスを提供しているインターネット企業は我々だけです。これが標準になることを期待しています。もう一つの良い例は当社のプライバシーポリシーです。弁護士だけでなく、一般の人間にも分かるように書いています。

これにとどまること無く、もっと透明性を高めるよう努力するべきです。あなたが個人向けの製品を管理していて、利用者の情報を集めているのであれば、その製品をGoogleダッシュボードに含めるべきです。すでにダッシュボードに掲載していたとしても、それで満足してはいけません。新しい機能を追加するたびに、バージョンを更新するたびに、ダッシュボードに追加できるような新しい情報(他のサイトに公開されている個人情報を含めて)があるかどうかを自分に問い直してください。

自分の製品の中での透明性を高められないかも考えてみてください。例えばAndroidのアプリケーションをダウンロードしたとします。そのアプリケーションがどのような個人情報もしくは携帯電話の情報にアクセスできるかをAndroidは教えてくれます。その情報を元にインストールを続けるか、中断するかを判断できます。あなたのどのような情報が暴露されるかを調べるのに探しまわる必要はありません。Androidはまず利用者にそのことを知らせ、判断を仰ぎます。あなたの製品もそうしていますか。どうやれば、透明性を高め、利用者をより魅了することができますか。

コントロール
最後に、私たちは常に利用者にコントロール権限を与えなければなりません。IBAの場合のように我々が利用者の情報を持っているのであれば、利用者自身がその情報を削除し、利用を中止することが簡単にできなければいけません。利用者が我々の製品を使い、我々のサーバにコンテンツを保管してくれている場合、それは利用者のコンテンツであって、我々のものではありません。利用者はいつ何時でもそのコンテンツをエキスポートしたり削除したりできなければいけません。それも無料で、なるべく簡単にです。Gmailは非常に良い例です。我々はどんなEmailアドレスへの転送も無料で提供しています。ブランドスイッチできるというのは必須の機能です。自分たちの製品の周りに壁を作るのではなく、橋を作りなさい。利用者には、真に意味のある選択肢を提供しなさい。

利用者のデータを取り扱うための既存のスタンダードがあれば、それに従いなさい。スタンダードが存在しない場合は、ウェブ全体の利益となるようなオープンスタンダードを作るように努めなさい。クローズドスタンダードの方が我々にとって利益があるように思えても、実際にはそうではないことを思い出しなさい。同時に、利用者がなるべく簡単にGoogle製品から離れられるよう、可能な手を尽くさなければなりません。GoogleはEaglesの歌の中のホテルカリフォルニアでは無いのです – いつでもチェックアウトできますし、ちゃんとその場を去ることができるのです!

Ericが2009年の戦略メモに記したように「我々は利用者を囲い込みません。簡単に競合にうつれるようにしてあげるのです。」この政策は、飛行機の非常口に似ています – パイロットでもあるCEOはこの比喩を喜んでくれるでしょう。それを使わなければならない日が決して来ないことを望んでいますが、それがあることで利用者は安心し、無ければ利用者は激怒します。

我々が – データ解放軍 (Data Liberation Front : dataliberation.org) – という、「チェックアウト」を簡単にすることが任務のチームを社内に持っているのは、このためです。データ解放軍の最近の仕事としてはBloggerとDocsがあげられます。Bloggerを去って他社のサービスを利用したい人は、自分のコンテンツを簡単に持っていくことができます。Docsの利用者は、自分の書類、プレゼンテーション、スプレッドシートをすべてZIPファイルに集めて、ダウンロードできます。データ解放軍が作業しやすいように、あなたたちの製品を作りなさい。一つの方法は利用者のデータをすべて解放する優れた公的APIを用意することです。バージョン2とかバージョン3まで待ってはいけません。製品計画会議の早い段階からこの議論をし、スタート時点からある機能にしなさい。

英国大手新聞のガーディアンデータ解放軍の仕事を取材したとき、「今までの企業間の戦いにおけるロックインという考え方に慣れた」人にとっては「直感に反する」と伝えました。確かにその通りです。古いMBA的な発想で凝り固まった人にとっては直感に反します。しかし我々がちゃんと仕事をやり遂げれば、直感に反しない日が来ます。私たちの目標は、オープンがデフォルトとなるようにすることです。人々はオープンに自然に引きつけられていくでしょう。そしてそれを期待し、要求し、手に入らないときは激怒するようになるでしょう。オープンが直感的になる日が、我々が成功を収めた日となるのです。

大きければ大きいほどよい理由
クローズドシステムは良く知られていて利益があがります。ただし、それをコントロールする人だけの利益です。オープンなシステムは混沌としていて利益があがります。ただし、そのシステムを理解し、誰よりも早く行動できる人だけの利益です。クローズドシステムは早く成長します。それに対してオープンシステムはゆっくり成長します。ですからオープンシステムに賭けるには、長期的展望に立つために必要な楽観的精神、意思、そして手段が必要です。幸いなことに、Googleではこの三つがそろっています。

我々にはリーチの広さ、技術のノウハウ、大規模プロジェクトへの渇望がありますので、大きな投資と必要とし、かつ短期的な明確なリターンが無いような大プロジェクトに挑戦できるのです。我々が世界中の道路を撮影しているおかげで、千マイル遠くは慣れた地点からでも、引っ越しを検討しているマンションの近隣を調べることができます。我々は何百万もの本をスキャンし、広くアクセスすることが可能にしています(出版社と著者の権利に配慮しながら)。他のサービスでは数百メガバイトしか提供していないのに、我々は1ギガバイト(今では7ギガバイト)の容量を無償で提供するメールシステムを作り上げることができます。我々は51の言語で書かれたウェブページを瞬時に翻訳することができます。我々は検索データを分析し、公的衛生機関がインフルエンザの発生をより早く探知できるのを手助けできます。我々はより高速ブラウザ(Chrome)、より優れたモバイルオペレーティングシステム(Android)、そして全く新しいコミュニケーションプラットフォーム(Wave)を作り上げ、そして世界の誰もがそれを土台とし、カスタマイズし、そして改良できるようにオープンにできるのです。

これらのことができるのは、それが情報についての課題であり、我々はその課題を解決するのに必要なコンピュータ科学者、技術、そして計算処理能力を持っているからです。そして我々がこれらの課題を解決すると、さまざまなプラットフォーム – ビデオ、地図、モバイル、PC、音声、エンタープライズ – がより良くなり、競争が激しくなり、イノベーティブになります。我々はしばしば大きすぎると非難されることがあります。しかし大きいからこそ、我々は不可能に挑戦することができるのです。

しかし我々がオープンであることに失敗すれば、すべてが無駄です。ですから、常にオープンになるように自分たちに言い聞かせなくてはなりません。我々は業界に役立つようなオープンスタンダードに貢献していますか。我々が自社のコードをオープンソース化できない理由は何ですか。我々は利用者に価値と透明性とコントロールを提供していますか。なるべく頻繁に、なるべく多くをオープンにしなさい。そしてその是非を問う者がいたら、オープンにすることのメリットを説明してあげるだけでなく、オープンにすることが最善であることを説明してあげなさい。オープンというのはまだ始まったばかりの21世紀のビジネスとコマースを変革するアプローチです。そして我々がオープンを広めることに成功すれば、これから数十年間のMBAのカリキュラムが書き直されるでしょう。

オープンなインターネットは世界中の人々の暮らしを変えます。すべての人の手元に世界中の情報を届け、すべての人に言論の自由を与える可能性を持っています。以前にインターネットの将来に関する私のビジョンをメールで送りましたが(そして後にブログにも掲載しました)、その中にもこの予想が含まれていました。しかし今はビジョンの話をしているのではありません。アクションについて話しています。オープンなインターネットを阻害する抵抗勢力を忘れてはいけません。アクセスを管理する政府、自分の利益のために現状を維持しようとする企業などです。彼らは強力です。もし彼らが勝ってしまえば、インターネットは断片化され、停滞し、価格は高く、そして競争が少なくなるでしょう。

我々のスキルとカルチャーを持ってすれば、こうなってしまうのを防ぐことができますし、防ぐ責任があります。技術は情報を提供する力があると信じています。情報は、善を施す力があると信じています。そしてこの善がなるべく多くの人の生活に影響を与えるためには、オープン以外に道はないと信じています。我々は技術の可能性を楽観視しており、オープンによって生じる混沌は、すべての人に利益をもたらすと信じています。そして機会があれば、オープンを押し進めるように戦います。

オープンは勝利します。まずインターネットで勝利し、次に生活の多くの方面に広がっていくでしょう。例えば政治の未来は透明性です。商取引の未来は情報の対称的な行き来です。文化の未来の自由さです。科学と医学の未来はコラボレーションです。エンターテイメントの未来は参画です。ここに紹介した未来の姿は、いずれもオープンなインターネットが前提です。

グーグル社のプロダクトマネージャーとして、我々が死んでも存続し続けるものをあなたたちは作っています。また我々の誰一人として、グーグル社がどれほどに成長し、人々の生活にどれだけ影響を与えるかを想像し尽くせる人はいません。そう考えると、どれだけのネットワークが「インターネット」に加わるかを正確に把握できず、デフォルトをオープンとした盟友、Vint Cerfと我々は同じです。Vintは誰が見ても正しかったのです。我々もきっと正しいと信じています。

iPadを見て思った、垂直統合によるイノベーションのすごさとアップルの宿命

iPadが発表されました。売れるかどうかは別としても、いろいろ考えさせられる製品であることは間違いないと思います。今思っていることをメモ程度に書き留めておきます。

垂直統合だからこそ可能なイノベーションのすごさ

iPadに見せつけられたのは垂直統合によるイノベーションのすごさだと思います。今回、アップルはCPU周りも作っているそうです(A4というらしい)。そうなるとアップルはCPUからハードの組み立て、OSからアプリケーションソフト、小売店からオンラインストアまで、バリューチェーンのほぼすべての要素を自社に統合していることになります。同じ市場にいるどの会社を見ても、このうちの数分の一しかカバーしていません。アップルの垂直統合の度合いは圧倒的に突出しています。

製品の性能がまだ未成熟な、市場の発展段階においては垂直統合が優れています。これはイノベーションの研究で知られているChristensen氏が述べていることです。どうして垂直統合が重要かと言いますと、最終製品の性能を可能な限り引き出すために、お互いのパーツを絡めたチューニングが必要だからです。例えばiPadの場合は電池の持ちが重要な課題になりますが、そのためにはハードとOS、アプリケーションソフトウェアのすべてが、パワーを消費しないように設計されている必要があります。

またマルチタッチを使った操作についても、ハードとOS、そしてアプリケーションが最適な操作性を確保するためにデザインされている必要があります。iPad用に開発されたiWorkのデモを見ると、このすごさが分かります。PC用のものを単純に移植したのではなく、マルチタッチ用にとことん最適化されたインタフェースはやはり桁違いに素晴らしそうです。

イノベーションを宿命づけられたアップル

一方製品の性能が成熟してしまうと、重要なのは最終製品の性能ではなくなり、同じ製品を如何に安く作るかになります。こうなると各パーツを高度にチューニングする必要は無くなりますので、各部品メーカーから納入されたものを単純に組み合わせれば良いだけになってしまいます。チューニングはコストを押し上げる要因になり、排除されます。組み立てを行うメーカーは利益が出にくく、変わりにパーツを作っているメーカーに利益が回りやすくなります。ウィンドウズパソコンの状態がまさにこれで、DELLとかNECには全然利益が行かず、マイクロソフトとインテルだけが潤うという構図です。

Christensen氏はPC産業もいずれは成熟するだろうから、早晩アップルの垂直統合モデルもうまくいかなくなり、そしていずれ過去と同じような衰退期を迎えると考えているようです(そんなことを言っているビデオがネットにありました)。ただ恐らくSteve Jobs氏は誰よりもこのことがわかっていて、古い製品をいち早く捨て(売上げの絶頂期であっても)、新しい製品にカニバライズさせたりしています。iPodとiPhoneの関係などはこの好例です。

その一方で、誰もが成熟してしまったと思っている産業に新しい息を吹き込むこともアップルはやってきています。例えばiPhoneが参入する前の携帯電話産業(特に日本)は成熟期にさしかかっているように見えました。ワンセグとかお財布携帯とかの機能を付けたり、いろいろなデザインに走ったり、確かに新製品は出ていました。しかし電話の本来の機能である「コミュニケーションのためのデバイス」としての役割については、新しいアイデアが出ていなかったように思います。iPhoneはこの停滞した雰囲気を全く変えてしまったのではないでしょうか。

また2000年代の初め、Windows 95の熱が冷め、インターネットも一通り普及し終わった頃、もうパソコンはいらないという空気が流れていました。DELLが安売りPCで絶頂を極めていた頃です。もう産業としては成熟し切ったので、後は製造コストを安くできるメーカーが勝ち残るという産業構造です。そのとき、Steve Jobsは”Digital Hub”戦略を発表しました( YouTube このビデオは必見)。パソコンの黎明期を作ったSteve Jobsだからこその素晴らしい歴史観です。その戦略に基づいてiTunesやiPod、iPhotoが開発され、そしてパソコン産業はデジタルメディアを管理するプラットフォームとして生まれ変わったのです。新しい成長が生まれたのです。”We don’t think that the PC is dying. We think that it’s evolving.”

Christensen氏は半分正しいのです。PC産業が成熟すればアップルのような垂直統合モデルは立ち行かなくなります。それをさせないためにアップルは次から次へと新しいビジョンとイノベーションを生まなければなりません。これができないと、Jobs氏がいなかった 1985年から1996年のころのアップルと同じ状態になってしまいます。その一方で垂直統合モデルはビジョンとイノベーションを生むのに適しています。ですからなんとか成り立ちます。アップルは垂直統合モデルが可能にする非常に早いイノベーションをし続けることによって、かろうじてInnovator’s Dilemmaを逃れているのです。

iPadのプレゼンテーション( apple.com, iTunes Music Storeのポッドキャストもあります) の中で、Steve JobsもScott Forestallも「ウェブを見るならPCよりiPadが断然良い」と繰り返しています。iPadのウェブサイトでは、「ウェブ、メール、写真、ビデオを体験する最高の方法。何の迷いもありません。」という見出しまで出ています。マックをカニバライズするよという公然としたメッセージです。普通にパソコンを使うのなら、もうマックを買わなくていいよ。半分の値段のiPadを買った方が断然良いよ。値段も安いけど、使い勝手もiPadの方が良いよ。CEOがそう言っているのです。これほどのカニバリゼーションを平然と行うこと、これがイノベーションをし続けなければならないアップルの宿命なのです。

アップデート

  • Christensen氏の研究をうまく紹介しているサイトがありました。ここ。でも本当はなるべく多くの人に彼の著書を読んでほしいです。
  • 日本のメーカーがどうして問題に直面しているかを考える上でも参考になると思います。日本のメーカーは垂直統合の構造になっているにもかかわらず、イノベーションで勝てなくなっています。ビジョンだけでなく勇気が必要です。構造が似ていますので、悲しいまでにイノベーションを続けるアップルを参考にするしかありません。
  • ちなみに国内スパコンの議論も、Steve Jobsのいなかったアップルを彷彿させますね。価値を生んでいない垂直統合という意味で。

iPhoneがゲーム機として成功したら、ソニーの立場は?

The New York Timesの“Apple’s Shadow Hangs Over Game Console Makers”と題された記事で、iPhone / iPod Touchなどがゲーム機メーカーの立場を脅かしているとHIROKO TABUCHI氏は報告しています。

記事の内容はともかくとして、ソニーは携帯音楽プレイヤーに続いてゲーム機でもAppleにやられるかも知れない。これは確かに言えると思います。

ウォークマンというブランドを持っていたソニーが、どうしてiPodなどの携帯音楽プレイヤーでいち早く主導権をとれなかったか。その戦略の過ちについては数多くの人が議論しています。例えば音楽制作のビジネスも同一の会社内にあったため、著作権問題が絡むデジタルプレイヤーに積極的になれなかった。あるいは自社開発の音楽フォーマットにこだわったことなどが失敗の原因としてあげられています。

もしゲーム機でもソニーがAppleにやられてしまったらば、今度はどのような原因が指摘されるのでしょうか。携帯電話でもゲーム機でも代表的なブランドを持っていたにもかかわらず、これらを融合した製品開発に遅れをとった理由はどのように説明されるのでしょうか。

とても興味があります。

僕自身の勝手な想像ですが、ソニーは映像や音の高品質化の方向に向かい過ぎてしまったのではないでしょうか。新興国の低価格品との差別化を図るためにひたすらデザイン性と高品質化に傾倒した結果、安易な品質レベルでの技術の融合ができなくなってしまったのではないでしょうか。そんな気がしてなりません。

ビジネスプランって必要?

昨日テレビ(どの局か忘れました)で室町時代式のウェディングを提供するビジネスを始めている女性が紹介されていました。室町時代のウェディングを提供するビジネスプランは、とあるコンテストでも優勝したのですが、実際にふたを開けてみると年間に6件程度ということでなかなかうまく行かないようでした。

そのテレビはすぐに切ってしまったのでその結末はわからなかったのですが、そういえば他にもビジネスプランコンテストで入賞したにもかかわらず、なかなかビジネスがうまくいかない人の話は聞くなぁと思って、ちょっと調べることにしました。

ビジネスプランのコンテストは日本に限らず、欧米でもかなり盛んなようです。ただし少なくとも米国ではMBAなどのコースの中で行われている雰囲気で、日本のように誰でも参加自由ではないことがあるみたいです。よく調べていないので、間違っているかもしれませんが。

一方でビジネスプランコンテストの入賞者が実際にどれぐらいの確率でビジネスを成功させたかという情報はあまり見ませんでした。どちらかというと、ビジネスがうまく立ち上がるか上がらないかに関わらず、「いい勉強になる」「いい人脈に出会える」という評価が多いように感じました。でも「いい勉強になる」「いい人脈に出会える」といったコメントって、失敗のときに誰もが弁解代わりに言い古されているものなので、僕はネガティブに受け止めました。

その中で一つ、多少なりとも学術的に調査されたような文献が見つかりましたので紹介します。

Pre-Startup Formal Business Plans and Post-Startup Performance: A Study of 116 New Ventures(事業開始前の公式ビジネスプランと事業成績の相関関係:116の新規ベンチャーの調査から)

結論

The analysis revealed that there was no difference between the performance of new businesses launched with or without written business plans. The findings suggest that unless a would-be entrepreneur needs to raise substantial startup capital from institutional investors or business angels, there is no compelling reason to write a detailed business plan before opening a new business.

分析の結果、文書化されたビジネスプランの有り無しと新しいビジネスの成績には相関が見られませんでした。したがって投資家やエンジェルから相当額の資本金を集めなければならない場合を除き、事業開始前に詳細なビジネスプランを書く必要は特に無いと示唆されます。

他文献の紹介の中から

only a minority of entrepreneurs, including even MBAs from a preeminent business school, started
their ventures with a formal written business plan.

有名ビジネススクールMBAであっても、公式なビジネスプランを持ってベンチャーを起こした起業家はごく少数派(10-30%)に過ぎない。

調査の方法

1985 – 2003年の間にBabson大学を卒業した学部生とMBAを調査。起業家個人の情報、ビジネス内容、ビジネスプラン、ビジネスモデル、ビジネスモデルの変更内容、初期の資本、事業成績などをアンケートで調査し、330の回答を得た。

会社の収入、利益、従業員数を目的変数(成功の目安)とした。

また説明変数としては教育、業界経験、企業経験、創業者数、性別、創業年数、投資を受け入れた年(バブルの影響排除のため)、創業12ヶ月未満での投資受入額、内部・外部資本の割合としています。

これを元に回帰分析を行っています。

説明変数を個別に見たときの相関(単変量解析)

事業開始前のビジネスプラン

事業開始前にビジネスプランを用意している会社の方が収入、利益、従業員、資金受け入れ、創業年数とも多かったものの、ビジネスプランを持たなかったところとの差はわずかでした。統計的な有意があったのは従業員数だけで、それも0.1だけでした(つまりこの差は単なる偶然の可能性も高い)。

性別

収入、利益、従業員とも、男性起業家の方が女性起業家よりも多くなっていました。統計的な有意性は0.01。

教育

学部卒業起業家は収入、利益、従業員数のいずれの指標で見ても、MBA卒起業家をしのいでいました。統計的有意性は0.05。

創業者数

創業者数は収入、利益、従業員数のいずれとも強く相関し、有意性は0.001。

外部からの資金調達

外部肩調達した資金の割合は収入、利益、従業員数のいずれとも強く相関し、有意性は0.05。

重回帰分析

それぞれ収入、利益、従業員数を説明する3つのモデルを作った場合、そのいずれにおいてもビジネスプランによる効果は見られませんでした。

これらのモデルでは創業年数の説明変数が収入、利益、従業員数共に有意性0.01で寄与。その他の寄与はあまりなし。

考察の抜粋

It seems to us that university business plan competitions are being overdone. If we must have new venture competitions, the emphasis should be on business implementation. After all, do university athletics departments run play-book competitions? No, of course not. They reward the actual winners of the contest on the field of play. Entrepreneurship, just like football, is a contact sport not a classroom intellectual exercise.

どうやら大学のビジネスプランコンテストは行われすぎているようです。ベンチャーコンテストをやるとしても、ビジネスの実施に重きを置くべきです。大学の体育会では作戦ノートに基づいた競技会をやりますか?もちろんそんなことはやりません。グラウンドでの勝者が表彰されるのです。起業はアメリカンフットボールと同じです。お互いにぶつかり合うコンタクトスポーツです。教室でやる知的鍛錬ではないのです

これなら納得。僕もそう思います。

ラーメン代分の儲け

伝説的起業家でベンチャーキャピタリストのPaul Graham (Wikipedia)が”Ramen Profitable“というエッセイを書いていました(和訳)。

「バイオの買物.com」のビジネスをやる上で僕が気をつけていること、僕がどうして資金調達などをしないのかなどが良く説明されています。

バイオでインターネットを使ってビジネスをやろうという会社はいくつかあります。いずれもまだ本格的に立ち上がっていませんが、資金調達に奔走したり、もしくはウェブサイト開発外注などを主な収入源としているところも中にはあります。そういうところはこのエッセイを見て、ちょっと考えを巡らしてみることをお勧めします。このエッセイが必ずしも正しいとは言いませんが。

“Ramen Profitable”というのは、創業間もないベンチャー企業が、創業者の生活費をギリギリまかなうだけの収入を得ている状態を意味する言葉で、アメリカでは徐々に普及してきているようです。ちなみに”Ramen”はインスタントラーメンを指し、めちゃくちゃ食費が安いという状態を指しています。

“Ramen Profitable”になれば、1)すぐにお金が必要ではないので投資家から有利な条件が引き出せる、2)投資家にとっても会社が魅力的になる、3)士気が高まる、4)資金調達のことを考えなくてすむようになるということで、とっても重要だとPaulは述べています。

この中でも特に 
 4)資金調達のことを考えなくてすむようになる ー> 製品のことに集中できる 
が重要だと紹介しています。

The fourth advantage of ramen profitability is the least obvious but may be the most important. If you don’t need to raise money, you don’t have to interrupt working on the company to do it.

4番目に紹介する”Ramen Profitability”の利点は、最もわかりにくいのですが、一番重要かも知れません。どういうことかと言いますと、資金を調達する必要があると、会社の仕事を中断してまでもこれを実施しないといけません。必要がなければ会社の仕事は中断しなくていいのです。

Raising money is terribly distracting. You’re lucky if your productivity is a third of what it was before. And it can last for months.

資金調達というのはもの、本業にとってはすごく邪魔です。生産性が1/3程度まで減少する程度であればましな方です。しかもこの状態は何ヶ月も続きます。

I didn’t understand (or rather, remember) precisely why raising money was so distracting till earlier this year. I’d noticed that startups we funded would usually grind to a halt when they switched to raising money, but I didn’t remember exactly why till YC raised money itself. We had a comparatively easy time of it; the first people I asked said yes; but it took months to work out the details, and during that time I got hardly any real work done. Why? Because I thought about it all the time.

私自身も今年になって初めて、資金調達がどうしてこんなに邪魔かを理解しました(というか忘れていました)。私たちが投資したベンチャー企業は、資金調達を始めたとたんに本業が止まってしまうのは今までも見てきていましたが、YCombinator(Paul Grahamのベンチャーキャピタル会社)自身が資金調達をするまでその原因が思い出せませんでした。そんなに難しい方ではありませんでした。最初に訪ねた人たちは賛同してくれましたが、細かい部分を詰めるのに何ヶ月もかかってしまいました。その間は本業はほとんど進みませんでした。なぜかというと、ずっと資金調達のことを考えていたからです。

At any given time there tends to be one problem that’s the most urgent for a startup. This is what you think about as you fall asleep at night and when you take a shower in the morning. And when you start raising money, that becomes the problem you think about. You only take one shower in the morning, and if you’re thinking about investors during it, then you’re not thinking about the product.

ベンチャー企業にとって、一時に集中できる重要課題は一つだけです。寝る前に考え、朝シャワーを浴びるときにも考えている課題です。資金調達を始めると、資金調達がこの重要課題になってしまいます。朝に一回しかシャワーは浴びないわけですから、このときに投資家のことを考えているということは、製品について考える時間がなくなっているということです。

一方で、”Ramen Profitable”に執着するあまり、コンサルタント会社(アメリカでは外注も「コンサルタント」と呼びます)になってしまってはもはやベンチャー企業ではありませんよと警告しています。

Is there a downside to ramen profitability? Probably the biggest danger is that it might turn you into a consulting firm. Startups have to be product companies, in the sense of making a single thing that everyone uses. The defining quality of startups is that they grow fast, and consulting just can’t scale the way a product can. [3] But it’s pretty easy to make $3000 a month consulting; in fact, that would be a low rate for contract programming. So there could be a temptation to slide into consulting, and telling yourselves you’re a ramen profitable startup, when in fact you’re not a startup at all.

Ramen Profitabilityの欠点はあるでしょうか。最大の落とし穴はコンサルタント会社になってしまうことでしょう。ベンチャー企業は製品を中心とした会社でなければなりません。すべての人が使う一つのものを作るという意味で。ベンチャー企業の最大の特徴は急速に成長することですが、コンサルティング会社は製品中心の会社のように規模拡大はできません。その一方でコンサルティング(2人ぐらいで)で$3000を稼ぐのは簡単です。むしろプログラミング外注としては安い方です。ですからコンサルティングをやろうという誘惑は強いものですし、それでRamen Profitabilityを達成した気になることは多々あります。しかし、そうなったらもはやベンチャー企業ではないのです。

経済危機と生物学の間

分子生物学の実験でPCRや細胞培養をやっていると、たった一つの指標で成果を選別することの危うさが身に染みます。

例えばPCRであれば、増幅しにくいあるいは量が少ない遺伝子をたった一つのプライマーセットで増幅しようとすると、非常に高い確率で目的以外の遺伝子がとれてしまいます。したがって、プライマーセットというたった一つの指標ではなく、シークエンス解析などをして上で、目的の遺伝子が増幅されたと最終的に確認しないといけません。

細胞培養であれば、遺伝子を導入して安定形質転換細胞を作り上げるときは、まずはハイグロマイシンなどの薬剤で選択を行います。しかし遺伝子が細胞増殖に悪影響がある場合は、ハイグロマイシン耐性細胞の多くは目的の遺伝子を発現していません。予想のつかない現象で薬剤耐性を獲得した、目的と全く異なる細胞がかなり多く生き残るのです。ここでもやはり薬剤耐性というたった一つの指標ではなく、ELISAなどの全く別の指標で最終確認を行う必要があります。

分子生物学ではこのようなことを踏まえて、たった一つの指標による判断が強く戒められています。学術論文にてある結論を導こうとするとき、その結論を裏付ける独立の実験を最低2つ、通常は3つぐらい行う必要があります。例えばある遺伝子の量的変化を証明したい場合は、DNAアレイ、リアルタイムPCR、ウェスタンブロットなどをやらないといけません。

一方でアメリカの金融業界の破綻の原因は、ルールを極力無くした上での利益追求と言われています。金融業界をコントロールするような規制を敷くのではなく、自由に利益の最大化を追求させれば、自ずと良質の企業が生き残るという、レーガン・サッチャー以来の考え方です。

同様に、ここ数年間は株主至上主義が日本の経済界に吹き荒れています。堀えもんやスチールパートナーズなど、株価や株主が非常にクローズアップされ、企業としての本当の社会貢献よりも、利益、株価、そして時価総額の方がクローズアップされました。

証券会社に長く勤めていた私の父は「それでも最終的には株式は企業の価値を正しく反映する」と信じて疑わないのですが、PCRや細胞培養の実験でさんざん苦しめられてきた私としては、とてもそうは思えません。

企業の価値を少数の数字的な指標で判断することはできないだろう。数字的なものよりも、もうちょっと感覚的な何かで裏付けられなければ、全く誤った判断をしてしまうということを、私の分子生物学の実験経験は訴えます。

そもそも生物学実験において、数字的に出てきたデータほど怪しいものはありません。例えばウェスタンブロットのバンドの濃さを数字化してデータを見せられても、実際のウェスタンブロットの画像を見ない限り、まともな研究者は全く信用してくれません。同じように企業活動を売上げだとか利益、そして株価という数字で抽象化した姿は、全くの虚像である可能性が高いと思います。

現在の経済危機の中、レーガン・サッチャー以来の自由主義が見直され、金融をより強く規制する流れになっています。また雇用が不安定化する中、企業の社会責任も強く言われ、利益追求よりも安定して雇用を守ることが要求されています。そして成果主義の見直しもあちらこちらで議論になっています。

今朝の朝日新聞には『「ノルマなし」が営業力に』という記事があり、ネッツトヨタ南国(高知市)で営業ノルマがなくなったことが紹介されています。その代わりに50項目からなる営業マンの売り方の「質」を評価する独自のシステムが構築されているようです。まさに、数値化しやすい「ノルマ」で評価するのではなく、数値化しにくい多数の視点で評価するやり方です。

僕はもう分子生物学の研究から離れて久しいのですが、その中から得たものの考え方に世の中の流れが向かっている気がしてなりません。

一方で、竹中平蔵元経済財政政策担当大臣などが「実験」をたくさんやっていれば、新自由主義グローバリズムの考え方がもう少し成熟したものになっていたのではないか、セーフティーネットはもっと早め早めに構築されていたのではないかと考えてしまいます。

やっぱり、必要なのは「実験」でしょう。
(ちなみに汚いシークエンスデータと格闘するバイオインフォマティシャンも、立派に手をドロドロにしているという意味では、実験科学者だと思います)

ミクシィのケータイへのシフトを読み解く

ミクシィに限らず、日本のインターネットビジネスの中でケータイの重要性が大きく増しています。(例えば 1, 2

実際に利用する人の利便性という意味ではパソコンを使ったインターネットの重要性はますます高まっているようにも思います。しかしいざ収益という点においては、パソコンは横ばい、それに対してケータイが成長しているという話が各社から聞かれます。

その中の一つ、ミクシィのケータイへのシフトについて述べている記事がありましたので、それを見ながら僕なりの考察を加えたいと思います。

ページビュー数ではすでに「パソコン1」対「ケータイ2」に

登録会員数の内訳は公開されていないので詳細は不明だが、パソコン・携帯電話それぞれのページビュー数では2007年8月に初めて携帯電話経由の値がパソコン経由のを上回り、以降ずっと「携帯電話経由のページビュー数が全体に占める割合を増やしつつある」傾向が見られる。

ちなみに2008年9月時点の数字はパソコン経由のページビューが49.9億なのに対し、携帯電話経由は97.8億。すでにパソコン対携帯電話の比率が1対2に迫っている。この比率がさらに携帯電話寄りになることは容易に想像がつく。

読み解くという意味では、ケータイからのページビュー数を過大評価しないように気をつけるべきだと思います。というのは、ケータイの方が画面が小さく、一度に多くの情報を載せられないため、ページビューが多くなる傾向にあるからです。ページビューというのはウェブサイトのナビゲーション構造に大きく影響されますので、異なるウェブサイト間でページビューを比較するのは、あまり意味が無いのです。

ただ広告を掲載する上では、このページビューは大きな意味を持ちます。ケータイ利用者が多くなるということは、訪問者あたりのページビューが増えることになりますので、広告収入を高める効果は非常に高いでしょう。

携帯電話の方が広告単価がパソコンより高い

携帯電話の方が(アクセス者のリアクションが良いことなどを理由に)広告単価がパソコンより高い

以前のブログ記事「高校生の携帯電話の使い方」で、携帯電話サイトの広告の方がウザイ上、間違えてクリックしやすいということを紹介しました。広告にとってはこのことが大きなプラスなのです。

つまり携帯電話の方がアクセス者のリアクションが良く、それだけ広告単価は高くなるのは事実ですが、それは利用者にとってポジティブなものではないということです。

SafariやFirefox、そしてInternet Explorerなどのブラウザでは、あまりにもウザイ広告は表示しない機能があります(ポップアップを表示しない)。いまのところケータイにサードパーティーのブラウザをインストールすることは一般的ではありませんが、それが可能になれば、ケータイのウザイ広告を表示しない機能が普及するかもしれません。

そういう意味で、「携帯電話の方がアクセス者のリアクションが良い」ことにあまり頼らないことが重要だと思います。

個人的な気持ち

個人的には日本のインターネット産業が携帯電話にシフトしていくことに危機感を感じています。理由は以下のものです。

  1. 日本だけの閉じた産業・技術で終わってしまい、日本のインターネット産業の国際競争力育成につながらない
  2. iPhoneなどに見られるように、携帯電話の進歩は凄まじく、パソコンと同様のことができるようになる日は近い。パソコンでのビジネスモデルから携帯電話のビジネスモデルにシフトしてお金を儲けようとしても、携帯電話そのものがパソコン化してしまうだろう

日本のインターネット産業には、安易に携帯電話にシフトするのではなく、パソコンでのビジネスモデルをどのように発展させていくかということをもっと真剣にやってもらいたいと思っています。確かに今は携帯電話ビジネスの方が儲かるかもしれません。でも、技術革新のスピードを考えると、携帯電話が独自のビジネス空間を形成していられるのはせいぜい5年だと思います。iPhoneや携帯性に優れたNetbookにより、携帯電話独自のビジネスはあっという間に浸食されてしまうのは間違いのないことでしょう。

ベンチャーキャピタルファンドの人

昨日、ベンチャーキャピタルの人と話をする機会がありました。このブログを読んで、僕のやっている事業を知り、話を聞きにきたとのことでした。

このブログを読んでらっしゃる方ならうすうす気づいていると思いますが、僕はベンチャーキャピタルからお金をもらうことにはかなり消極的です。お金儲けばかりを狙っていて、このビジネスの社会的役割を理解してくれない人に主導権を渡したくないからです。

そういう事情のため、ベンチャーキャピタルそのものの勉強不足が激しかったのです。それが今日、お話をして、驚きました。

今日のベンチャーキャピタルが運用しているファンドは償還までがおおよそ10年だそうです。ということは、ベンチャー企業に投資した資金は10年経ったら何らかの形で、投資家に返さないといけないのです。それはどういうことかというと、10年近く経ってきたら、ベンチャー企業がIPOを行うように促したり、他の会社に買収されるように促したりするということのようです。

ギョ!それは困る。会社に時限爆弾を取り付けられるのは嫌だ。

やはり残念ながら、僕の考え方に合わないですね。

もっと別のベンチャーキャピタルもあるのでしょうが。

トヨタ、顧客の声が届きやすい部門を中心に新計画を練る

このブログでも以前に取り上げていますが、朝日新聞のトヨタ自動車に関する報道が面白いです。

今日は「トヨタ、拡大一辺倒主義を反省 世界基本計画破棄」とその隣に書かれていた「現場重視回帰『創業家なら』」の記事から抜粋して紹介します。

トヨタ自動車は商品展開や販売・生産計画の指針となっている世界基本計画「グローバルマスタープラン」を実質的に破棄する方針を明らかにした。拡大偏重主義に走り、現在の苦境を招いた元凶と判断した。

グローバルマスタープランは、5年先までの商品ごとの販売・生産台数を記した計画。02年に登場した。

全社的に「プランを重視するあまり、仕事の進め方が計画達成のために向かい、販売や生産の現場の声を聞く姿勢が薄れる」(トヨタ幹部)状況が生まれた。

金融危機をきっかけに深刻な販売不振が起きると、必達主義は生産にブレーキをかけるのを遅らせる原因になり、09年3月期決算が戦後初の営業赤字に転落する見通しになるなど、現在の危機的状況をつくってしまった、とトヨタは分析している。

新計画は「マーケットビジョン」と名付け、15年を目標に北米や欧州、中国、日本など地域の特性に合わせて、顧客や地域に求められる車種構成を十分考えて定める

目標が独り歩きした従来計画の問題点を改めるため、顧客の声が届きやすい商品企画部門を中心につくる。(寺西和男)

(豊田)章男氏は、本社主導のグローバルマスタープランに代えて、現場の声を色濃く反映する「マーケットビジョン」を経営の柱に据える。短期的な利益は望まない不況下でも黒字を出せる本来のトヨタの姿を取り戻す狙いだ。

僕が特に好きなのは
目標が独り歩きした従来計画の問題点を改めるため、顧客の声が届きやすい商品企画部門を中心につくる

現場が一番良く物事をわかっているとは限りませんし、現場の声や顧客の声が絶対とも僕は決して思いません。顧客の声を鵜呑みにしてしまうことは、企業の衰退につながるというClayton Christensen氏の考え方に僕は賛同しています。

しかし企業の成長と利益の拡大ばかりを望む株主および株価ばかりを気にしている経営者と比較すれば、現場の方が何十倍も正しい。これだけは間違いありません。

採用面接の有効性(無効性)に関する学術論文

採用面接というのが如何に難しくて、そして思いの他に役に立っていないかを示している論文を紹介します。

The Validity and Utility of Selection Methods in Personnel Psychology: Practical and Theoretical Implications of 85 Years of Research Findings
Psychology Bulletin, 124-2 (1998), 262-274
Frank L. Schmidt (University of Iowa), John E. Hunter (Michigan State University)

これは様々な研究をまとめた総説です。

  1. 様々な調査を平均した結果、偏差値60以上の優秀な社員(正規分布で平均より1SD以上)は、スキルレベルが低い仕事で生産性が19%高く、スキルレベルの高い仕事で生産性が32%高く、管理職もしくはプロフェッショナルでは生産性が48%高いようです。
  2. 採用した人物が成功するかどうかを予測する最も有効な指標は、その人の知能や認知力です。これは管理職やプロフェッショナルな仕事ほど有効性が高いです。
  3. 試しに仕事を実際にしてもらうという試験も有効ですが、これは経験者にしか適応できず、また現実的ではないことが多いのが欠点です。
  4. その他、誠実さとまじめさが有効な指標です。
  5. 実際の仕事に合わせてしっかり準備・実施された面接は有効性が高いのですが、そうでない面接は効果がありません。
  6. 経験年数(その間の実績を問わない)は、採用した人物が成功するかどうかを予測する上では、ほとんど効果が認められません。ただし、5年未満であれば相関が見られます。(経験年数5年までは能力が直線的に向上しますが、それ以降は頭打ちになります)

大雑把な結論としては、知性の試験と誠実さやまじめさを計るか、あるいは知性の試験としっかりと準備された面接を行うことが良いとしています。

job candidate selection methods.gif

Predicting job performance: A comparison of expert opinion and research findings
International Journal of Forecasting, 5 (1989), 187-194
Stephen Dakin (University of Canterbury, Christchurch, New Zealand), J. Scott Armstrong (The Wharton School, University of Pennsylvania, Philladelphia, USA)

こっちの論文はニュージーランドの人材プロフェッショナルの意見と、上述の論文の研究結果を比較したものです。

上述の研究結果とは対照的に、人材プロフェッショナルは経験や面接(研究結果では無効とされたもの)に重きを置き、知性を軽視しているという結果になりました。

Job performance expert vs research.gif

今までの経験

最後に僕の経験を少しだけ。

ライフサイエンスのいろいろな会社やその他の会社を含めて、面接はそれなりにたくさんやってきました。ほとんどは途中入社のための面接です。

その中で後者の論文に書いてある通り、履歴書の他、準備がほとんどされていない面接、もしくは経験年数が採用に使われていました。面接の準備については、外人の方が努力していて、結構いい質問も多くもらいました。しかし、日本人による面接はいずれもいい加減なものでした。

日本人の気質的にもいろいろ詮索するようなことを聞きにくいでしょうから、なかなか難しいところです。

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