タブレットとパソコンの棲み分け

近いうちにタブレットの売り上げ台数がPCを抜くという予想があり、ポストPC時代の到来も近いのではないかという憶測があります。

それに対して、先日の私の書き込みでは、タブレットとPCは棲み分けしているのではないかというデータを紹介しました。具体的にはタブレットは家庭での娯楽として使われることが多く、それに対してPCは職場で使われることが多いことを示すウェブ使用統計を紹介しました。

先日のデータは週末と平日を比べてデータですが、同様に職場にいる時間帯(昼間)と家にいる時間帯(早朝と夕方以降)を比較したデータがありましたので紹介します。

データはウェブ使用統計でChitikiaが出したものです。タブレットの使用率が高い北米のデータです。

“Hour-by-Hour Examination: Smartphone, Tablet, and Desktop Usage Rates”

タブレットの利用時間帯

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パソコンの利用時間帯

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考察

非常にはっきりしているのは、タブレットの利用が昼間に大幅に落ちることです。パソコンの場合は、昼間も利用が落ち込みません。

パソコンは職場で使われているものの、タブレットは仕事では使われていないことを如実に表しています。

このことから、少なくとも現時点のタブレットは家庭での娯楽として利用が主だというのがわかります。仕事用にタブレットを使うのはかなりの少数派です。職場でのパソコンを果たしてタブレットが代替しうるかはまだまだ未知数です。

本当にポストPC時代に突入したのかどうかはまだよくわからない

8月5日に、タブレットの出荷台数が落ち込んだという調査が発表されました。データは下記の通り(単位は100万台)。

Test

Appleが新製品をまだ発表していないという大きな理由はあるにせよ、まだまだ始まったばかりのタブレット市場でこのような販売台数減少が見られるのは驚きです。特に1Q13から2Q13にかけての落ち込みはAppleだけではなく、SamsungもAsusもそうなったというのは業界全体のトレンドを示唆しています。

まだまだポストPC時代に突入したと断じるのは時期尚早ではないか?もしかしたらタブレットはPCと入れ替わるほどには売れないのではないかと思わせます。

個人的には私はまだまだPC (というかMacBook AirとiMac)がメインの仕事道具ですし、デスクワークを中心としている人はほとんどがそうだと思います。私にとってタブレットは家に帰ってくつろいでいるときのためのデバイスです。

したがってタブレットは必需品ではなく、娯楽のデバイスです。タブレットとPCははっきりした使い分けがあります。市場の大きさを考えても、仕事のためにPCを使う市場と比べれば、娯楽のためにタブレットを使う市場はどう考えても小さそうです。

私だけでなく、多くの人がタブレットを娯楽中心で使っているというデータはStatCounterのウェブ利用統計から得られます。

Top 7 Operating Systems in the US from 28 July to 26 Aug 2013 StatCounter Global Stats

上に示しているのはPCとタブレットのウェブ利用統計です。以下のことがわかります。

  1. Windows 7, Windows XPは週末に利用が落ち込んできます。
  2. iOS (iPad)は週末に利用が増えています。
  3. Windows VistaおよびWindows 8は若干週末に利用が増えていますが、iOSほどは顕著ではありません。

週末に利用が増えるというのは家庭で娯楽に使われていることを示唆しています。

以上のように、現時点ではタブレットはPCと入れ替わるように成長しているのではなく、PCとは別の市場を形成しているように思えます。その市場は、家庭の中で娯楽としてインターネットやゲームなどを楽しむ市場だろうと思います。PCの市場の大きさははっきりわかりますが、タブレットが形成しているこの新しい市場の大きさはまだ不明です。ある程度飽和している可能性も否定できません。

Steve Ballmer氏とMicrosoftについて

“the stupid manager theory”

Microsoft CEOのSteve Ballmer氏が近いうちにCEO職を退くと報道され、いろいろなことがあっちこっちのブログに書かれています。特にMicrosoftが1990年代から2000年代の頃の絶好調な時期とは対照的に、今ではタブレットPCやスマートフォンの流行に完全に取り残されてしまっているため、Steve Ballmer氏が失敗した原因は何だったのかという議論をしている人が目立ちます。

しかしClayton Christensen氏のInnovator’s Dilemmaの考え方をしっかり理解している人はそういう議論をしません。Christensen氏自身は、いわゆる正攻法で企業を経営していけば、いずれ必ずジレンマにぶつかり、そして衰退するのがイノベーションを興した企業の運命だと述べています。つまりどんなに優秀なCEOであったとしても、正攻法の経営をしている限りは衰退します。Steve Ballmer氏の能力は問題ではなく、正攻法そのものの問題だということです。

Christensen氏によれば、このジレンマを脱出する方法は一つで、つまり自分自身で自分を破壊していくことだとしています。「破壊」は運命なので、問題はそれを自分でやるか、他社にやられるかだけという考えです。もちろんこれは正攻法と呼べるものではありません。

Christensen氏の理論に基づいて現在のIT業界を分析しているHorace Dediu氏は、昨日“Steve Ballmer and The Innovator’s Curse”という記事を書きました。以下に引用します。

The most common, almost universally accepted reason for company failure is “the stupid manager theory”. It’s the corollary to “the smart manager theory” which is used to describe almost all company successes. The only problem with this theory is that it is usually the same managers who run the company while it’s successful as when it’s not. Therefore for the theory to be valid then the smart manager must have turned stupid at a specific moment in time, and as most companies in an industry fail in unison, then the stupidity bit must have been flipped in more than one individual at the same time in some massive conspiracy to fail simultaneously.

…..

It’s all nonsense of course.

「企業が失敗したのは、経営者が間違いを犯したからだ」という考え方では、現実を説明し得ないとしています。これはChristensen氏の考え方と同じです。

Steve Ballmer’s only failing was delivering sustaining growth (from $20 to over $70 billion in sales.) He did exactly what all managers are incentivized to do and avoided all the wasteful cannibalization for which they are punished.

Steve Ballmer氏の唯一の失敗は、売り上げを$20 billionから$70 billionに成長させたことだとしています。つまり企業の成長を最適化させる戦略を採用したことがSteve Ballmer氏の失敗であり、Microsoftが難局に直面している理由だとしています。

私も同意見です。

以下では私になり、Steve Ballmer氏のMicrosoft (Bill Gates時代もかぶりますが)がどのように成功し、失敗したかを考えてみたいと思います。

時代がCloudに移行したことが原因か?

時代の主役がパソコンからCloudに移り、それに乗り遅れたからMicrosoftが失敗したと述べている人々がいます。

この議論は全く根拠がありません。

Microsoftの強みはデスクトップのWindowsおよびその上で動作するMS Officeアプリです。Cloudがこれを脅かしたというのであれば、a) Cloudを中心としたOSがWindowsを脅かしている事実、b) Cloudを中心としたOfficeアプリがMS Officeを脅かしている事実、を例示する必要があります。

そのようなデータが無い限り、証拠はないことになります。

a)のCloudを中心としたOSについては、1990年代のthin clientなど歴史が古いです。また2007年頃から登場したLinux搭載Netbookは、「どうせブラウザしか使わないんだったらLinuxで十分でしょう?」という割り切りをした製品でした。そして最近で言えばGoogleのChrome OSがCloudを中心としたOSです。

Microsoftはthin clientの脅威を軽く跳ね返し、Netbookについては廉価版のWin XP, Win 7を提供することで懐柔し、LinuxベースのNetbookを埋没させました。そしてChrome OSについては、話題性こそあるものの、ウェブアクセスログ分析によると非常に利用率は低いままです。

「Cloudを中心としたOSがMicrosoftを脅かしている」という事実はないことになります。

b)のCloudを中心としたOffice アプリとしては、GoogleのGoogle Docsを考えることになります。
しかしMS Officeは2013年時点で80-96%の市場シェアを誇り、CloudベースのOffice 365も準備しています。Google Docsの利用が増えているのはMicrosoftにとっては注視すべき事態ではありますが、脅威というレベルではありません。まだまだ十分に時間はあり、また対策も的確に打っています。

「Cloudを中心としたOfficeアプリがMicrosoftを脅かしている」というのは相当な誇張であると言えます。

モバイルの重要性を認識していなかったのか?

MicrosoftはAppleやGoogleなどよりもずっと以前からモバイルコンピューティングの分野に関わっていました。Windows CEは1996年に発表され、その後にWindows Mobileに発展し、Windows Phoneに至っています。

Steve Ballmer氏およびMicrosoftはモバイルの重要性を認識していなかったのではなく、むしろをモバイルで先駆的な役割を担ってきました。とはいえ、先頭を切っていたのは常にMicrosoftではなく、PalmであったりBlackberryだったりしました。

タブレットについては、Microsoftが常に先頭を走っていました。2002年にタブレット用のWindows XPを提供し、以後もずっとタブレット用のWindowsおよびMS Officeを提供してきました。問題は唯一、タブレットPCが余り売れなかったことです。そしてiPadが2010年に発表され、爆発的に売れると、タブレットの主役はAppleに移ります。

このようにMicrosoftがモバイルの重要性を認識していなかったというのは誤りです。むしろMicrosoftこそが最もモバイルの重要性を認識しており、一貫して開発を続けてきたと言えます。

Nokia, Blackberryの失敗も考える

Microsoftと同じように窮地に立たされているのはNokiaとBlackberryです。時代の主役を担ってきた複数の企業が、ほぼ同じ時期に大きなピンチを迎えているのは偶然ではありません。

Microsoft, Nokia, Blackberryの経営者が同時の同じような過ちを犯したのでしょうか?それはさすがに考えられません。そうではなく、今まで主役がそろってこけるような大きな外的要因が存在したと考えるべきです。

NokiaやBlackberryはMicrosoft以上にモバイルのフォーカスした会社です。両社もそろってコケていることを考えると、外的要因は単純にモバイルへのシフトだけでもないようです。

NewImage思考実験

一つの思考実験をしてみます。

iPhoneが登場する前までは、AndroidはBlackberryのクローンを目指して開発されていました。

もしもiPhoneが発売されず、Googleがこのままの形でAndriodを発表し、Samsungなどがこのような端末を販売していたら何が起こったでしょうか?

果たしてAndroidがBlackberryやNokiaを駆逐し、強大な市場シェアを獲得できたでしょうか。ちなみにBlackberryだけでなく、PalmやWindows用にも良く似た端末が発売されていたことを思い出してください。

そもそもAndroidを採用したメーカーはいたでしょうか?機能的に差が無いのであれば、出たばかりのAndroidよりもWindows Mobileを採用した方が賢明です。

iPhoneをつくるか、iPhoneの真似をするか

AndroidがBlackberryやNokiaを一気に出し抜くことができたのは、いち早くiPhoneに似た(そっくりな)ものを作ったためです。それだけです。

Microsoft, Nokia, Blackberryを飲み込んだい大きな外的要因はiPhoneの登場であって、Cloudやモバイルへのシフトではなかったのです。

もしもSamsungやLG、HTCなどのメーカーがBlackberryタイプのスマートフォンを開発しようと思えば、第一候補はWindows Mobileでした。顧客がBlackberryタイプのスマートフォンを購入しようと思えば、BlackberryからNokia、Windows Mobileに至るまで、既に選択肢は豊富でした。Google Androidが入り込む隙はありませんでした。

それに対してiPhoneのそっくりさんを作ったのはGoogleだけでした。プライドも何もなかったGoogleは、AndroidをiPhoneそっくりに作り替えることに躊躇しませんでした。しかもEric Schmidt氏はAppleの取締役でしたので、iPhoneの発表前からインサイダー情報を入手していました。ですから迅速に開発することができました。

iPhoneの大成功のため、各メーカーは何とかiPhoneタイプの製品を開発したいと思っていました。それを可能にしてくれたのが唯一Androidでした。ですからメーカーは一気にAndroidに群がりました。iPhoneのそっくりさんを提供できないMicrosoftから一気に離れました。

一方で顧客はiPhoneのそっくりさんを欲しがっていました。Nokia, Blackberryはそれを提供することができませんでした。そして顧客はNokia, Blackberryから離れていきました。

MicrosoftがiPhoneを作れなかった(真似られなかった)理由

ここまで考えるとポイントがずいぶんとはっきり見えてきます。

Microsoftが失敗した理由はCloudへの対応が遅れたからであるとか、モバイルへのシフトに乗れなかったからではありません。

理由は以下の通りです;

  1. モバイルに注力しながらも、タッチUIを前面に出し、キーボードを排除したiPhoneのような端末を開発できなかったから。
  2. iPhoneが登場したとき、Googleほど迅速にiPhoneの真似ができなかったから。

考えなければならないのは、どうしてタッチUIを前面に出せなかったか、そしてiPhoneの真似ができなかったかです。

iPhoneの真似が迅速にできなかった理由は簡単です。Windows Mobileを開発してきたことがありますので、それをすぐに捨てるのは簡単ではありません。また以前のAppleとの特許の和解の時、AppleのUIをソックリ真似ないという条項が入っていた可能性があります。

実際Microsoftが最終的に作ったWindows Phoneは、iOSとは見かけが大きく変わったものになっています。Windows 95 vs. Mac OSと比較してもWindows Phone vs. iPhoneのUIの差は大きく、Microsoftが意図的にiPhoneとは異なるUIを開発したことがうかがえます。

問題は1の方です。長年にわたり、多額の投資をしながら、MicrosoftはどうしてiPhoneのように爆発的に売れる次世代タッチUIを開発できなかったのか。

タッチUI開発はどうして難しかったか?

MicrosoftがなぜiPhoneのように爆発的に売れるタッチUIを開発できなかったか?これは非常に難しい問題です。簡単に結論が出るような話ではありません。

細かい事例をいくつも列挙することは簡単です。

例えばAppleは垂直統合モデルを採用しているのに対してMicrosoftは水平分業になっています。だからAppleが有利だったと言えます。あるいはAppleにはプラットフォームへの依存度が低いMac OS Xがあり、x86との関係が強いWindowsよりもスマートフォン用に作りやすかったことなども挙げられます。会社の中心にビジョンを持った強いリーダーがいたかどうかを問題に挙げることも可能です。

しかし自分の議論をサポートする事例をいくら並べても意味がありません。なぜならば、反対方向の議論、つまりMicrosoftの方こそ有利だったという議論も同じようにできるからです。

事例をたくさん並べることは、結局は結果論にしかなりません。

イノベーションのスタイル

こういうとき、私はマクロレベルの議論をするようにしています。そしてマクロレベルの議論は主にそれぞれの会社のイノベーションの歴史とスタイルです。

GoogleやAmazonのイノベーションスタイルについては、このブログで以前に議論しています。

Googleは最初の検索エンジンは別として、それ以外では既存の製品・サービスを無償化することが圧倒的に多くなっています。GMail, Google Docs, Androidのいずれも、通常は有償なもの(あるいは無償だけど限定的なもの)を無償化しました。Googleは競合他社と同等の値段であっても売れるような機能的に優れた製品を開発したことはありません。

Amazonは物理的な店舗を電子化したのでイノベーションです。それによって今までは不可能だった物流などの効率化が可能になりました。Kindleなどにしても、紙のものを電子的に流通させるイノベーションです。Amazonは販売しているコンテンツそのもののイノベーションに投資したことはありません。あくまでも流通です。

GoogleにしてもAmazonにしても、イノベーションのスタイルは驚くほど一貫しています。

それに対して、Appleは常に製品のイノベーションに投資してきました。競合他社と同等の値段であったとしても、あるいは競合他社より圧倒的に効果であったとしても売れる製品を目指してきました。これもまた一貫しています。そしてタッチUIなど、製品そのものに関わるイノベーションがAppleから生まれるのは納得がいきます。

Microsoftはどうでしょうか。MicrosoftのイノベーションはCP/MをMS-DOSとしてIBMに売ったこと、Macintoshを参考にWindowsを作り上げたこと、Microsoft OfficeでLotus 1-2-3やWordPerfectに打ち勝ったこと、Internet ExplorerでNetscapeに打ち勝ったことなどです。Xboxでゲーム市場に食い込んだこともMicrosoftらしいやり方です。既存の製品を参考にプラスアルファを加え、忍耐強く戦うのがMicrosoftの姿勢です。このスタイルも非常に一貫しています。

このようにそれぞれの企業のイノベーションスタイルはかなり一貫していますし、おのおののスタイルの限界の中でのみイノベーションできています。MicrosoftがどうしてiPhoneに匹敵するタッチUIを開発できなかったかは、細かい理由はわからないものの、そのスタイルを考えると納得できることです。決してCEOのせいではありません。

Microsoftは今後どうする?

Microsoftが今後どうするかも、そのスタイルから予想することができます。Microsoftのスタイルとは、当初は遅れをとっても忍耐強く戦い続け、チャンスをつかむまで粘るものです。

Windows 1.0は1985年11月、Macintoshが発売されて2年弱で登場しました。当初は全く成功しませんでしたが、5年後の1990年にWindows 3.0が発売されると人気が出てきます。そして1995年のWindows 95の登場で大流行します。

Microsoft Officeを構成するWordおよびExcelはいずれも歴史が古く、1984年からWindowsが成功するまでの間は主にMac用の製品として知られていました。MS-DOS上でWordPerfectやLotus 1-2-3に勝つことはなく、Windowsが普及するのに伴ってやっとトップシェアを獲得するようになりました。

Internet Explorerも先行するNetscapeを追いかけ、追い越した製品です。本格的にNetscapeを脅かすようになったのはバージョン3以降と言われており、Netscapeのβ版が公開されてから3年後のことです。Internet Explorerがトップシェアを獲得するのはInternet Explorer 5.0の頃です。

したがって、Steve Ballmer氏の後任が変なことをしない限り、Microsoftは今までのスタイルを継承するでしょう。再び忍耐強くスマートフォンマーケットに食い込もうと努力し、タブレットマーケットでも努力を続けるでしょう。時間もまだまだあります。タブレットの売れ行きが好調とは言え、パソコンの出荷台数もまだまだ多く、そしてMicrosoftの利益はAppleには遠く及ばないものの、依然としてGoogleをしのいでいます。

MicrosoftはAppleと違い、新しい製品カテゴリーを築き上げる力はありません。Microsoftの底力は他社の成功した製品を改良し、凌駕することです。Microsoftは多大な研究開発投資にもかかわらず、タブレットPCで成功を収めることができませんでした。これは別にMicrosoftの研究開発力が落ちたからではなく、真似るべき製品がなかったからです。今は真似るべき製品があります。真似るべきはiPhoneでありiPadです。したがってMicrosoftの研究開発力が発揮しやすい状況にあります。

最終的にMicrosoftがスマートフォンとタブレットの市場で勝てるかどうかは未知数です。しかし過去の例から見ても、Microsoftは数年間は努力を続け、バージョンを数回重ねてやっと勝利をつかむことが多いです。今回が例外だと考える理由は特にないと思います。

iモードがiPhoneに敗北した原因はiモード ブラウザか?

「iモードがiPhoneに敗北した理由は製品にこだわらなかったから」という書き込みを先ほどしました。その中で特にiモード ブラウザを取り上げて、ドコモが製品の改良を怠ったのが主因だとしました。そしてドコモが製品改良を優先していれば、もしかすると先にiPhoneに似た端末を開発できたかも知れないと述べました。

ただし、ドコモが製品の改良を全然してこなかったかというとそういうわけではありません。ワンセグやおサイフ携帯など、世界で初めての機能をいくつも取り入れていました。問題はこれらの機能が余り重要ではなかったことです。

ワンセグもおサイフ携帯もiPhoneには搭載されていません。それでもiPhoneは日本で非常に人気があります。

ここでは、iモードの主な敗因(iPhoneの勝因)がブラウザにあったことを示す情報と、iモードのブラウザの状況が惨憺たるものであったことを示す情報を紹介したいと思います。

iPhoneと特徴はパソコンと同等のネット閲覧ができることだった

Steve Jobs氏がiPhoneを発表したとき、iPhoneを“An iPod, a Phone, and an Internet Communicator”と紹介し、“Internet Communicator”というのはSafariブラウザのアイコンを使って紹介しています。それまでに携帯電話とiPodを融合した製品は存在していましたので、iPhoneの新しかった点はまさに“Internet Communicator”の部分、つまりSafariブラウザの部分であったことがわかります。

なおかつ初代のiPhone OSではサードパーティーのアプリはインストールできませんでした。アプリはHTML, CSS, Javascriptを使って開発し、Safariブラウザ上で動作させなさいというのがメッセージでした。ここでもSafariブラウザが中心です。

App Storeがまだできていなかった当初は、iPhoneはSafariをどうさせるためにこそ存在する端末とも言える存在でした。iPhoneで新しいのはSafari。そしてイノベーションはパソコンと同等のネット閲覧を携帯電話で実現したことでした。

スマートフォン購入の主な同期はパソコンと同等のネット閲覧ができること

まずは総務省が公開した平成24年版 情報通信白書です。この中の「スマートフォン・エコノミー」~スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化~の中で以下のように書かれています。

ウェブ調査結果に示すとおり、スマートフォンがパソコンとほぼ同等のウェブ閲覧機能等を有していることが、スマートフォン購入の重要な動機となっていると考えられる。

この根拠となるデータは「スマートフォン・エコノミー」~スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化~に紹介されています。
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まず、①当てはまるもの全てに係る回答については、「パソコンと同じ画面で閲覧ができるから」との回答が57.4%(1位)に達し、「画面が大きくて見やすいから」との回答(2位、46.4%)が続き、パソコンと同等環境でのメールの使用(4位、37.2%)も上位を占めている。次に②最も決め手になった項目を1つ選択する回答についても、パソコンと同じ画面での閲覧が1位(22%)となっている。この結果を踏まえれば、スマートフォンがパソコンとほぼ同等のウェブ閲覧機能等を有していることが、スマートフォン移行の重要な動機となっていると考えられ、上記の重視度に関する分析とも符合していることがわかる。

iモードのブラウザは完全に時代遅れでした

NTT Docomoのiモードブラウザのウェブページに行くと、iモードブラウザ1.0とiモードブラウザ2.0以降の技術情報が紹介されています。

iモードブラウザ1.0は「主に2009年3月までに発売となった、ブラウザキャッシュ100KBまでのサイズに対応した機種をiモードブラウザ1.0と規定します。」となっています。

つまりiモードブラウザはiモード誕生の1999年から2009年3月までに一回も大きなバージョンアップが無かったのです。IT業界で10年というのはあまりにも長い年月です。

2009年に誕生したiモードブラウザ2.0はiPhoneの躍進に対抗して、やっとDocomoがバージョンアップを行ったものです。しかしiPhoneが搭載し、パソコン用のウェブサイトも閲覧できるSafariと比べて圧倒的に性能は低いものでした。主な特徴はブラウザのキャッシュサイズが500KBになったこと、UTF-8に対応したこと、BMPやPNGフォーマットの画像に対応したこと、Cookieに対応したこと、Javascript, CSSに限定的に対応したことだけです。これらの機能はiPhoneならずとも、AUやSoftbankの携帯電話で既に実現されていたものばかりです。

結論

今から振り返って分析すれば、答えは簡単です。

ユーザは潜在的にパソコンと同等にネット閲覧ができる携帯電話を望んでいました。

これを理解し、数々の技術革新をしながら実現したのがAppleのiPhoneでした。

ドコモはブラウザの重要性を認識していませんでした。10年前と同じ技術を使っていても問題は無いと考えていました。ドコモはiモードのブラウザを更新せず、iモードブラウザの開発を滞らせてもお財布携帯やワンセグの方を優先しました。そして10年間、iモードブラウザを大きくバージョンアップしませんでした。

iモードがなぜ敗北したかを理解するために必要なこと

上述でiモードの敗因はiモード ブラウザの開発を怠ったことだと結論しました。

次の問題は、どうしてiモード ブラウザの開発を怠ったかです。

これには技術力の問題そして既存のビジネスモデルの問題があるだろうと推測しています。また別の機会に考えたいと思います。

iモードがiPhoneに敗北した理由は製品にこだわらなかったから

i-mode(ガラケー一般)がiPhoneとそれを真似て登場したAndroidに敗北した理由はいろいろ言われていて、どちらかというと旧態依然とした組織や業界構造、ぬるま湯体質に目が向けられています(例えば日経新聞の特集)。

しかし私にはそれが釈然としませんでした。なぜならばこういう組織構造や業界体質は1990年代の半ば、i-modeが誕生し、そして躍進した時代と同じだからです。大成功から敗北という大きな変化を、固定された変数で説明することはできません。日本の組織構造や業界体質を理由に、ビジネスのダイナミックな変化を説明することはできないのです。

i-modeは技術的に停滞していた

私はi-mode用のウェブサイトを開発している経験から、i-modeの技術がiPhoneのみならず、AUやSoftbankの携帯と比べても抑制されていると感じていました。「抑制されている」というのは、ハードウェアやソフトウェアの進歩がi-mode規格に活かされていないという意味です。そしてこの状況は1990年代半ばのMac OSの状況、あるいは2010年頃のInternet Explorer 6の状況と良く似ていると感じていました。

この技術的な停滞こそがi-modeの敗北の原因ではないかと感じていました。

IT業界の変革は、ムーアの法則と古い製品の間の活断層で生まれる

ITの世界のダイナミズムの源泉はムーアの法則です。ICが誕生して以来、コンピュータの処理能力は毎年劇的なスピードで進歩しています。そしてその進歩に合わせてハードウェアが進化し、ソフトウェアが進化し、インターネットが進化し、サービスが進化しています。ムーアの法則があるため、ITの業界では立ち止まることが許されません。仮にビジネスの中心がサービスに傾きかけていても、あるいは独占的な立場を築き上げていても、ハードやソフトの進化を止めてしまうと、後ろから来る大きな波に埋もれてしまいます。

i-modeの場合は明らかにソフトが停滞していました。それはi-modeブラウザが一番はっきりしていました。携帯電話にフルブラウザが搭載できるぐらいにハードが進歩しても、i-modeブラウザでは相変わらずCSSやJavascript、Cookieが使えませんでした。i-modeははっきりと立ち止まっていました。

ムーアの法則により新しいことが可能になっているのに、既存の製品が停滞したままだと、そこに大きなギャップが生まれます。IT業界の変革は、その間を埋めるように、活断層で地震となるように起こります。

どうしてi-modeは進歩が停滞したのか

i-modeがどうして停滞したかを考える上で、中心的な立場にいた夏野剛氏の存在が非常に気になりました。彼がビジネススクール出身で、技術よりもビジネスに感心があること、そしてITの将来を議論するにも極めてボヤボヤしていることが気になりました。そこを手がかりに調べていったところ、夏野氏がどうしてi-modeの技術的進歩を止めたのがが簡単にわかりました。

2008年にASCIIに掲載された「夏野剛氏が退社のワケを告白」を参考に議論します。

技術軽視

その後のNTTドコモの強さは周知の通り。他社が追いつきたくても太刀打ちできない「ドコモ一人勝ち」の状態が長くつづいた。iモードが強かった秘訣は、「技術」ではなく「ビジネス」に徹底的にこだわったという点にある。

「iモードはビジネス的な見地から考えてきた。社内でも、ずっとこれは技術ではないと言い続けていた。IT革命の本質は技術のコモディティ化。技術を使うことが目標になっていては最悪。何かをするために技術を持ってくるのが本筋でしょう」

「何かをするために技術を持ってくるのが本筋でしょう」というのはもっともな意見です。Appleも技術を前面に出さず、何ができるかや使い勝手、使ったときのエモーションを大切にします。

ただしAppleの場合は、裏側では相当に技術を発達させています。「IT革命の本質は技術のコモディティ化」などとは決して考えていません。例えばiPhone用のSafariブラウザはAndroid用のどのブラウザと比べてもスピードが速く、なめらかです。GoogleはiPhoneの動きのなめらかさを真似ようと相当に努力をしていますが、未だに追いつきません。加えて様々なHTMLやCSS規格をモバイルブラウザに搭載すること(バグ無しで)に関しても、Safariは常にAndroidをリードしてきました。

「高度な技術は持っているけれども表に出さない」のがAppleで、「コモディティ化した技術を発展させなかった」のがi-modeだったのではないでしょうか。

技術を発展させなかったツケ

「MNP導入以降、何がドコモの強みなのかをはっきりしないまま、料金競争に巻き込まれている。そんなドコモを見ていると、すごく心が痛み、もっといろいろなやり方があるのになあ、という悔しさがある。最近の状況は正直辛い」と

ムーアの法則のため、一時は技術的に優位に立っていても、立ち止まってしまうとすぐに追いつかれます。

なおかつ夏野氏の考える「ビジネス」、つまりコンテンツやサービスを提供するプロバイダはそもそもがi-modeだけをターゲットしているのではなく、AUやSoftbankを使っているユーザもターゲットしたいと考えています。プロバイダにとってはi-modeの差別化、ドコモの強みはどうでもよく、どちらかというと他のキャリアと区別の無い状態を望んでいるのです。

料金競争に巻き込まれたのはごく当たり前のことです。

もしi-modeがフルブラウザ志向であったならば

以降は私の推測になります。

夏野氏の方針によってi-modeの技術発展は停滞しました。しかし日本のモバイルインターネットの事実上の標準はi-modeでした。その標準が停滞したのです。

仮にSoftbankやAUが自身のブラウザに新しい機能をつけても、i-modeにその機能が無ければコンテンツプロバイダは活用しません。i-modeユーザが一番多いからです。

もし夏野氏がビジネス志向ではなく、Appleのような技術志向であったならば、i-modeをより発展させ、フルブラウザとして発展させたでしょう。CHTMLに留めることなく、パソコンと同じようなHTML, CSSが使えるように技術開発に努めたでしょう。フルブラウザは2004年に既に日本でも登場していましたし、それより以前から海外では使われ始めていましたので、i-modeがフルブラウザ化していくことは技術的には十分に可能でした。

もしi-modeのフルブラウザかを阻害している要因があったとするならば、それは夏野氏の言う「ビジネス」(つまりコンテンツやサービス)でした。

i-modeがフルブラウザ志向であったならば、ガラケーの進化の道は大きく変わったはずです。

フルブラウザはCPUパワーを消費しますし、大きな画面でこと使い勝手が良くなります。必然的に現在のスマートフォンのようなデザインを必要とします。そして矢印キーによるナビゲーションでは限界があるので、タッチも採用したことでしょう。

思い返してみると、初代のiPhoneをSteve Jobs氏が発表したとき、彼はiPhoneを“An iPod, a Phone, and an Internet Communicator”と紹介しました。iPhoneの開発目標は第一に“Internet Communicator”だったのです(当初はサードパーティアプリ開発は準備されていなかったので)。

もしi-modeがフルブラウザ志向であり、それにとことんこだわっていたならば、かなりiPhoneに近いものができたはずです。

最後に

IT業界で技術にこだわらないと敗北します。ビジネスに過度に傾き、技術革新を怠ると、ムーアの法則が定期的に生み出す大きな変化の波にのまれます。

i-modeの敗北はおそらくはこれだけで説明できます。開発当初こそは技術的に優位に立っていましたが、しばらくしたらAUやSoftbankに真似られます。そして最後には徹底した製品志向のApple iPhoneの波にのまれます。

それだけです。

i-modeがiPhoneに化ける可能性はありました。しかしそれを阻害したのは他でもなく、夏野氏自身のビジネス志向だったのではないでしょうか。

私はそう思います。

Android Google Playの収益の危険な地域性(その3)

Android用のアプリを配布・販売しているGoogle Playの地域性が日本と韓国に極端に偏っており、相当に異常だと以前にもこのブログで紹介しています()。そのときに使用したのはAppAnnieのデータでしたが、先日Distimoからも同様のデータが出てきたので紹介します。

地域性のグラフは以下のものです。データは2013年7月のものです。

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このグラフからわかることは以下の通りです;

  1. 以前のブログにも紹介したとおり、App Storeの収益性は各国の人口や経済力(GDP)を考えれば納得できます。細かい順位は別として、米国が1位で、日本が2位、そして日本の半分以下で英国、オーストラリア、ドイツなどが続くのは納得がいきます。
  2. それに対してGoogle Playの収益性は日本と韓国に極端に偏っています。
  3. 日本は先進国の中でiPadの利用率がかなり低い。

以上を踏まえた上で今後のGoogle Playの収益性について考えてみます。

  1. Google Playの収益が最近6ヶ月で67%と増加したからと言って、この成長が持続する根拠はかなり薄弱です。もしGoogle Playの成長がまんべんなく起こっていて、各国でまだ伸びしろがあるのならば、成長が持続する可能性はあります。また経済成長が著しい途上国で起こっているのであれば、それもまた持続する可能性があります。しかし現実には、既に先進国の仲間入りをしている日本と韓国で、両市場をほぼ飽和するような勢いで成長したのです。日韓は急速に飽和に達する可能性が高く、増加が持続するためには日韓と同じようなことが徐々に他の先進国にも波及していく必要があります。しかしその傾向は特に見られません。
  2. 日本はドコモがiPhoneを販売していないのにもかかわらず、iPhoneのシェアが高くなっています。したがってドコモが仮にiPhoneを販売し始めれば、日本のiPhoneのシェアが激増し、Androidのシェアが激減する可能性があります。これは日本内でのGoogle Playの収益が激減することを意味します。日本の寄与が大きいだけに、日本一国での収益減少により、Google Playの全世界での収益性が減少に転じる可能性があります。
  3. Androidのシェアが高いのは、GDPが中位ぐらいの途上国です。これらの国では有料アプリは余り売れていません。Androidのシェアが高いからいずれGoogle Playのコンテンツが売れると考えるのは大きな誤りです。

i-modeとChristensen氏のlaw of conservation of attractive profits

i-modeの敗北についていろいろ調べている中で、池田信夫氏の「iモードの成功と失敗」が(結論は別として)興味深かったです。

何が興味深いかというと、私が以前にも言及したClayton Christensen氏の“law of conservation of attractive profits”との関連性が見えるのです。

池田信夫氏によるとi-mode創世記にはいろいろなことが起こりました。

WAPが携帯端末の限られた能力で普通のウェブサイトなみの機能を実現しようとしてデータを圧縮し、携帯端末用に最適化した言語WMLを開発したのに対し、iモードはドコモ独自のパケットで伝送し、中央のゲートウェイでTCP/IPに変換して、HTTPやHTMLなどのインターネット標準をそのまま使う方式だ。これはドコモの電話網でインターネットのエミュレーション(模擬動作)をやっているので伝送効率は低く、機能も限られている。

ところが、iモードはドコモだけで規格が決められるため、どんどんサービスを始めたのに対して、WAPの標準化が遅れたため、ドコモ以外の各社はそれぞれ独自の「WAPもどき」の方式でサービスを始めざるをえなかった。その結果、国際標準であるはずのWAPがかえってばらばらになり、標準化をほとんど考えない「NTT規格」だったiモードが事実上の国内標準となった。2001年に発表されたWAP2.0はiモード互換となり、実質的にドコモの規格が国際標準となった。

この明暗を分けた決定的な要因は、iモードをサポートする「勝手サイト」が大量に出現したことだ。WAPで読めるようにするには、WMLで書き、特殊なWAPサーバを使わなければならなかったのに対して、iモードのコンテンツはコンパクトHTML(簡略化したHTML)で書いて普通のウェブサイトに置くだけでよいため、だれでも自分のホームページから情報を発信でき、勝手サイトは爆発的に増えた。

Christensen氏の理論に従って上述の経緯を解釈すると以下のようになるのではないかと思います。

  1. WAP技術は携帯端末に最適化された新規格だったのに対して、iモードはインターネット標準をそのまま使うものでした。そして少なくともDoCoMoのキャリアネットワークでは、強いて携帯端末に最適化された新規格を採用しなくても、インターネット標準で十分でした。つまりWAP技術はそもそもがモバイルデータ通信をする上でのポイントを外していて、“attractive profits”が得られるポイントではありませんでした。iモードのインターネット標準で”good enough”だったのです。
  2. むしろモバイルデータ通信を普及させる上でのボトルネック(“not good enough”)はコンテンツを整備する環境でした。iPhoneのようにPCサイトをフルブラウザで見られるような時代ではなかったため、モバイル専用に書かれたウェブサイトが不可欠でした。WAPの場合はWMLという新しい書式でページを書く必要があり、なおかつウェブサーバも別個の設定が必要でした(WAPサーバが必要と池田氏は述べていますが、これは誤りでしょう)。WAPのコンテンツを作るのは簡単ではなかったようです。一方i-modeはコンテンツ作りを楽にしてくれたので、i-modeに“attractive profits”が集中したのだろうと考えられます。
  3. i-modeが全盛を極めている間は、携帯端末は“good enough”でした。i-mode自身が規格上「軽い」ウェブサイトしか受け付けなかったので、高性能な携帯端末は機能をもてあましました。その結果“attractive profits”は携帯端末メーカーに蓄積せず、キャリアの御用聞きに成り下がらざるを得ませんでした。
  4. 時代が変わってiPhoneが登場すると、ボトルネックはコンテンツ整備ではなくなります。なぜならパソコン用のウェブサイトがiPhoneのフルブラウザで十分に見られるようになったためです。“not good enough”はむしろスマートフォンの性能や電池の持ちに移ります。そして優れたスマートフォンを開発できる少数のメーカーに“attractive profits”が集中するようになります。なおキャリアの御用聞きに成り下がっていた国内のメーカーには、iPhoneやSamsungに対抗するだけの資金力も技術力も蓄積されていなかったと思われます。

こう考えるとi-modeの栄枯盛衰の原因はかなりわかりやすくて、「携帯端末専用の規格が必要な時代だったか否か」だけで決まっているように思えます。

WAP規格が生まれた頃は「携帯端末用の特殊な規格が必要」だと思われていたのに、実際にはi-modeの「インターネット標準」で十分でした。i-modeの強みはコンテンツの作りやすさで、それ故に最高の「携帯端末専用規格」となりました。そしてi-modeをコントロールしていたドコモに“attractive profits”が集中しました。

しかしハードウェアとソフトウェアの進歩により「携帯端末専用規格」が不要になりました。i-modeが不要になりました。それだけです。

もしi-modeが海外進出を果たしていたとしても、Nokiaの代わりになっただけでしょう。iPhoneやAndroidに駆逐されるのを防いではくれなかったでしょう。Nokiaの惨状を見れば、海外進出などを議論するのはほとんど意味が無いと思えます。

問題があるとすれば、それはi-modeが不要になる未来を描けなかった(未だに描けない)ドコモにあるのではないでしょうか。逆説的ではありますが、自らi-modeを潰し、i-modeが不要になる未来をたぐり寄せるぐらいのことをしなければ、ドコモはi-modeを救うことはできなかったでしょう。

i-modeがどうしてあっさりとiPhone, Androidにやられてしまったかを考える

今作っているPonzuウェブシステム(デモ解説)ではPC版、スマートフォン版、そしてi-mode版を用意しています。

開発中はi-modeの規格とかなり格闘しましたが、一つ強く感じたことがあります。

それはi-modeが項もあっさりとiPhoneやAndroidに追いやられ、ほぼ全面敗北の状況になった理由は、決してマーケティングや海外展開力、キャリアとメーカーの利権関係、あるいはガラパゴス化の問題ではなく、単純に製品が悪かったらからではないかということです。

製品が悪かったというのは、第一にi-modeブラウザのことです。i-modeブラウザは2009年にブラウザが2.0となりましたが、その特徴を一部抜粋しました(ここから);

  1. Cookieに対応。以前のi-modeブラウザは非対応でした。
  2. BMP, PNGの画像表示が可能になりました。以前はGIF, JPEGのみ対応。
  3. Javascriptに対応になりました。以前は非対応。
  4. 外部CSSに対応になりました。以前は外部CSSに対応していませんでした。
  5. 準CSS2対応になりました。以前は対応していないCSSが多くありました。
  6. VGA描写モード(480×640)に対応。以前はQVGA描写(240×320)のみ。

各項目の詳細は省きますが、特筆するべきことはこれらの機能が2009年、つまりiPhoneが発表されてから2年間も経ってようやく搭載されたという事実です。

例えばCookieやCSS、PNGへの対応はi-modeが圧倒的に遅く、auやSoftbankの携帯では以前から普通に使えていました。ガラケーの世界だけを見ても、i-modeブラウザは機能的に遅れていました。

それもi-mode用サイトを作る開発者側にとっては、かなり痛いところが遅れています。例えばPonzuウェブシステムを例にとると、Cookieに対応してくれないとログインシステムが使えません。また外部CSSが使えないと、開発効率が大幅に低下します。CSS2に対応してくれないと表現力が大幅に低下します。i-modeブラウザはかなり本質的なところが遅れていました。

ドコモがi-modeブラウザの開発に真剣に取り組んでいなかったのはかなり明白です。Internet Explorerの開発を滞らせてしまったMicrosoftと完全にダブります。

i-modeがiPhone, Androidに駆逐された原因はいろいろ議論されています。議論の状況はクローデン葉子氏が良くまとめています。また小飼弾氏は良く言われるガラパゴス化の影響について、非常にわかりやすく否定しています

それぞれの議論には当たっている点もあると思いますが、不思議なことにいずれもi-modeの製品自体のクオリティーについては言及していません。あたかもクオリティーには問題は無く、戦略等に問題があったというような議論ばかりです。

でも確実にクオリティーの問題はあったのです。製品力が落ちていたのです。その点に目をつぶって議論するのは大きな間違いじゃないかって思います。

凄いアイデアが凄い製品に至るまでの職人芸

ここ数日間、朝日新聞に「IT!おまえはどこへ」というシリーズがあって、ソニーでプレイステーションに関わった久多良木健 氏や、ドコモでiModeに関わった夏野剛 氏がインタビューに応じています。(

これからも日本のITで大きな存在の人間が登場するのでしょうが、今までのところかなりいまいちな印象です。

なぜかというと久多良木氏も夏野氏も単にSFのような世界観を述べているだからです。単なる「アイデア」、つまりこうなったら面白いなということ、もしくは「現代のトレンドはこうだな」というのを述べているにすぎません。

彼らはスティーブ・ジョブズ氏よりはジョン・スカリー氏っぽい気がします。スカリー氏は1987年にKnowledge Navigatorというコンセプトを打ち出し、いくつものコンセプトビデオを制作しました。両氏にはスカリー氏の雰囲気があります。

その一方でスティーブ・ジョブズ氏のいろいろなインタビューを聞いても、10年先の世界の話はまずしません。そんな先のことはわからないというスタンスをとります。

インタビューでのスティーブ・ジョブズ氏が言うのはむしろこうです;

You know, one of the things that really hurt Apple was after I left John Sculley got a very serious disease. It’s the disease of thinking that a really great idea is 90% of the work. And if you just tell all these other people “here’s this great idea,” then of course they can go off and make it happen.

And the problem with that is that there’s just a tremendous amount of craftsmanship in between a great idea and a great product. And as you evolve that great idea, it changes and grows. It never comes out like it starts because you learn a lot more as you get into the subtleties of it. And you also find there are tremendous tradeoffs that you have to make. There are just certain things you can’t make electrons do. There are certain things you can’t make plastic do. Or glass do. Or factories do. Or robots do.

Designing a product is keeping five thousand things in your brain and fitting them all together in new and different ways to get what you want. And every day you discover something new that is a new problem or a new opportunity to fit these things together a little differently.

And it’s that process that is the magic.

スティーブ・ジョブズ氏が言うのは、実際に製品を作っていくと、最初の「凄いアイデア」は様々に形を変え、最初のものとは大きく形を変えるということです。デザインの過程で様々な制限にぶつかり、問題を克服したり、新しい可能性が見えたりするからです。

そしてこのように具体的に製品をデザインしていく過程こそが“Magic”だとスティーブ・ジョブズ氏は語っています。この過程を表現するのに使っている言葉は“Craftsmanship”、つまり「職人の技能」「職人芸」です。

将来を見通すヴィジョンを持つと礼賛されるスティーブ・ジョブズ氏ですが、その本人はヴィジョンに偏るのをdiseaseと形容しています。そしてより重要なのは職人が生み出す“Magic”だとしています。

その意味を我々はよくよく考えなければなりません。

GoogleはやはりAndroidに注力しなくなっているかも知れない

一月弱前に、「Androidの次期バージョン 4.3 から示唆されること」という書き込みで、GoogleがAndroidの開発スピードを落としている可能性に言及しました。

そしてこれが戦略的に意図して行っているものと考えました。その戦略は

  1. Androidが一番魅力的なOSである必要はない
  2. Androidの役割は「まだスマートフォンを買っていないユーザ、高くて買えないユーザを狙う」こと

ただしこれを実行したとしても、Googleが期待する広告収入の増大は簡単ではないと解説しました。

今日、7月24日のGoogleのPress Eventを聞いた後に書かれ、“Understanding Google”と題されたBen Thompson氏の記事を読みました。その中で以下のように彼はこのように述べています。

  1. Google isn’t that interested in phones anymore.
  2. Google is worried about the iPad dominating tablets.
  3. Chromecast is an obvious product.

スマートフォンについては私とほとんど同じ視点です。Androidに残されているのはローエンド機への対応だけです。

タブレットについては確かにGoogleは努力を継続しています。うまくいかないからです。

そしてChromecastのような製品はGoogleが無視できない市場です。Androidスマートフォンの成長ポテンシャルは主に途上国市場ですが、そこからは大きな収益が見込めないからです。Googleは途上国だけでなく先進国でも成長したいのですが、そのためにはスマートフォン以外のデバイスもカバーしないといけません。Chromecastはそういう製品です。

こうやってGoogleのAndroid、Chromeの戦略がはっきりしてきています。Andy Rubin氏がAndroidを担当していたときは戦略の一貫性が感じられませんでしたが、Sundar Pichai氏に代わってからは一貫性があります。

Google自身はこの戦略で問題はないと思うのですが、課題はSamsung、HTC、ソニーなどでしょう。iOSがiOS 7の登場で加速しつつあるいま、GoogleなしでSamsungらはハイエンドでAppleに追いつけるのか。かなり厳しい感じです。