たぶん全然違うけど -> 『誰も言いたがらない「Sony が Apple になれなかった本当の理由」』

アップデート
小飼弾さんのブログでは的確な議論をしています。そして「誰を主たる顧客にするかを決めること」が大切だと結んでいます。これにはかなり強く同意するとともに、Geoffrey Moore氏の”Crossing the Chasm”を思い出しました。

ブログが割とよく読まれているソフトウェアエンジニア、Satoshi Nakajima氏が『誰も言いたがらない「Sony が Apple になれなかった本当の理由」』のブログ記事の中で日本の家電メーカーの問題点を述べています。

僕は過去に「なぜ日本にリーダーがいないと言われるのか、ちゃんと論理的に議論しようよ」と題して、日本の問題点を議論するときにしばしば目にするめちゃくちゃな論理について紹介しましたが、Nakajima氏のは残念ながらそれのまさに好例のような記事です。

Nakajima氏はSonyの問題点として以下の点をあげています。

  1. 「何を自分で作り何をアウトソースするか」が最適化できない企業は世界で戦えない。
  2. ハードウェア技術者よりもソフトウェア技術者が重要なのであれば、不要なハードウェア技術者は解雇し、優秀なソフトウェア技術者を雇うのは当然である。
  3. 日本の家電メーカーは、未だに終身雇用制の呪縛に縛られているため、工場の閉鎖も簡単にはできないし、技術者の入れ替えもままならない。

要するに日本の雇用慣行(終身雇用および労働法的なもの)が「Sony が Apple になれなかった本当の理由」という論点です。

僕の以前の記事の着眼点で言うと、この論理展開には以下の問題があります。

  1. Steve Jobs(Apple)のような特異点と比較することがそもそもおかしい。
  2. 日本は今よりももっと明確な終身雇用のもと(少なくとも大企業においては)、1970-80年代の絶頂を迎えたのであり、単に終身雇用を問題視することはできない。やるならば30-40年前と今のグローバル環境の違いを明確にし、どうして昔は終身雇用が有効で、どうして今は弊害となるのかを説明しないといけない。

特にわかりやすいのは最初の論点。つまりAppleと比較するのがそもそもおかしいという点です。

米国でパーソナルコンピュータを売っている(いた)会社はAppleだけではありません。Hewlet Packard(旧Compaqを含む)が依然としていわゆるPCでは世界のトップシェアですし、Dellもあります。PCから撤退したIBMもあります。そして後数ヶ月で破産しそうになっていた1996年のAppleもあります。そういえばGatewayという会社もありました。

どっちも普通の米国の会社ですし、すぐにリストラしたり社員をクビにしたりします。いずれも終身雇用の呪縛などには縛られていません。しかし今でも米国企業として残っている会社の業績はAppleよりもSonyの方に近く、まぁ全然ぱっとしないわけです。

仮にSonyがリストラをじゃんじゃんやり米国流になったところで、Appleに近くなるという保証など全くなく、Hewlet Packardになるかもしれませんし、Dellになるかもしれません。もしかしたら破産寸前だった90年代のAppleになるかもしれません。

もし本気で「Sony が Apple になれなかった本当の理由」を考えたいのであれば、以下のことを考えないといけません。

  1. Appleになれた会社は一つだけです。Appleだけに固有のことに着目しなければなりません。
  2. 逆に言うと、AppleにもHewlet PackardにもDellにもIBMにもGatewayにも共通して見られることに着眼するのはかなりバカバカしい。

業界で異例の垂直統合などを含め、Appleに固有のことはかなりの数があるので、そういうことに着目した方が良いと思います。

RocheがIlluminaに買収を仕掛けてることについて思うこと

RocheがIlluminaに対して買収を仕掛けていて、敵対的買収も辞さない姿勢を見せています。これはWebを賑わせている話題ですので、すでにご存じの方も多いと思います。

Rocheの狙いが何なのか、Illuminaが買収に抵抗したとしてもRocheはどこまでやり通す気でいるのか、僕なりに思うことを紹介したいと思います。なおこの件については、僕は詳しくフォローしているわけでもないし、またインサイダー情報も一切ありません。一般的に知られていることを組み合わせて議論したいと思います。

なお、このBusinessWeekの記事がいろいろの人の意見があって面白いです。

当のRocheの社長はなんと言っているか

以下のビデオでRocheの社長であるSeverin Schwanが説明をしています

私なりに話の要点をまとめてると;

  1. Illuminaは主に米国を中心に展開しています。それに対してRocheであれば、より小さな国にも入り込める販売網を持っています。
  2. DNAシーケンスは、将来の診断において中心的な技術になると考えています。
  3. 以前のDNAシーケンスは非常に高価でしたが、これだけ技術が発展してくると、今がまさにルーチンの臨床診断への応用を考えるべきタイミングと言えます。
  4. ルーチンの臨床診断への応用は非常に困難です。研究の世界から、レギュレーションが多い臨床の世界に持ってくるのは多くのノウハウが必要です。Rocheはそれを持っています。
  5. 以上のことを考えると、RocheがIlluminaを買収すると言うことは双方にとってメリットのある話です。

どんな買収の時も、経営者は「シナジー」という言葉を口にします。多くの場合「シナジー」が本当に生まれることはまれで、 1 + 1 < 2 という結果になることがほとんどです。

しかし今回は非常に納得性の高い「シナジー」です。一つ一つのポイントが具体的で、的確です。本当に 1 + 1 > 2 となる予感があります。

$5.7 billionという金額はRocheにとってどんな金額か

RocheはGenentechを買収したときは $46.8 billionで買っています。Ventanaを買収したときは $3.4 billion

次世代シーケンサーで最大のシェアを持つIlluminaを$5.7 billionで買収できるのであれば、Rocheにとってはそんなに高い買い物ではありません。Rocheが2007年に454 Biosciencesを買収したときは $152 millionだったということなので、これに比べれば桁違いに大きな金額になりますが、次世代シーケンサーの発展と臨床への応用の可能性を考えれば、それは妥当な線ではないかと思います。

Illuminaの研究者が逃げたらどうするのか

買収があるときに良くある話です。454 Life Sciencesを創設したRothbergが後にIon Torrentを創設して、良く似た原理で454シーケンサーの発展形を作ったという話などがそうです。

でもそろそろ関係なくなってきました。$1,000ゲノムの実現が目の前に迫り、そしてゴールテープを切ってももうしばらく価格が下がる状態が容易に想像できます。現在の技術だけでも例えば$500とか$200ぐらいに落ち着いてくるでしょう。そうなるとゲノムをシーケンスすること自身は診断コストを決定する要因ではなくなります(化学者にとっては律速段階と言った方がわかりやすいかも)。

まだまだ技術の発展の可能性はありますが、臨床応用をすることに限って言えばコストは十分に下がってきています。$500からさらに一桁二桁価格が安くなったとしても、最終的な診断コストが大きく変わることはありません。そういう意味で、仮にIlluminaの買収によって頭脳流出があっても、Rocheにとってはあまり悩む話ではなさそうです。

イノベーションの次の段階

Clayton Christensen氏のコンセプトの中に “Law of conservation of attractive profits”というものがあります。バリューチェーンの中の要素(この場合はDNAシーケンサー)の技術が進化し、結果としてもう十分すぎるぐらいの性能が出るようになったとき、そこには”attractive profits”は蓄積されなくなります(つまりIlluminaの技術の価値が下がります)。その代わりその要素の前後、バリューチェーンの他の要素に”attractive profits”が蓄積されるようになります。そしてそこにイノベーションが生まれていきます。

ゲノムシーケンスの場合は、それはサンプルの調整であったり、データの解析であったりするはずです。また臨床応用にはレギュレーションという大きなハードルがありますので、これを突破できる会社(例えばRoche)に”attractive profits”が蓄積されていくという状態になります。

研究者はデータの解析に目が行ってしまうと思います。しかし実際にはレギュレーションをクリアしていくことの方が遙かに人間のリソースが必要で、ノウハウやコネクションが重要で、参入障壁も高くなっています。”attractive profits”はまさにここに蓄積されていくでしょう。

またレギュレーションのことを考えると、機器をレギュレーションにマッチするように作っていくことも大切です。仮にDNAシーケンスの研究用のハードウェアの価格下落が激しかったとしても、診断向けのものはしばらく後まで高い利益を確保できる可能性が残ります。

つまりDNAシーケンスの次のイノベーション・フロンティアは、今となってはレギュレーションをどうやってクリアしていくかになってきました。個人情報管理や診断で得られた様々な知見をどのように患者に伝えていくか、まだまだクリアされていない課題は山ほどあります。ボールはシーケンス技術の世界から、レギュレーションの世界に投げ込まれました。

Mixiのアクセスデータからスマートフォンへのシフトを眺める

「Mixiの現状をグラフ化してみる(2011年12月末時点)」というブログ記事があったので、興味深く読みました。

こんなことが書いてありました。

(Mixi側は)ページビューの減少傾向、月間ログインユーザー数の成長鈍化についてリリースでは、直接的には「1ページの情報量が多いスマートフォンへのユーザー移行が増えた」「スマートフォンでは一部アプリの利用において、ページビューに反映されない」「ユーザー利便性を優先したインターフェイスの変更で、(誤操作や迷いのための別ページ視聴が起きにくく)ページビューが減退している」と説明している。

….

「スマートフォンの利用拡大という現実を踏まえ、適切な収益を挙げられる商品の開発(利益面でも「スマートフォンへの利用のシフトにより、モバイル広告売上が落ち込み」と言及されており、現状のスタイルでは効果的な収益が上げにくいことをうかがわせている)」の二つが、資料からはうかがえる。

要するにガラケー中心の広告収入モデルを、スマートフォン用のものに切り替えるのが遅れているようです。

僕は以前にこのブログで「ミクシィのケータイへのシフトを読み解く」という書き込みを2009年2月1日にしました。その中で僕は以下のように述べています。

個人的には日本のインターネット産業が携帯電話にシフトしていくことに危機感を感じています。理由は以下のものです。

  1. 日本だけの閉じた産業・技術で終わってしまい、日本のインターネット産業の国際競争力育成につながらない
  2. iPhoneなどに見られるように、携帯電話の進歩は凄まじく、パソコンと同様のことができるようになる日は近い。パソコンでのビジネスモデルから携帯電話のビジネスモデルにシフトしてお金を儲けようとしても、携帯電話そのものがパソコン化してしまうだろう

日本のインターネット産業には、安易に携帯電話にシフトするのではなく、パソコンでのビジネスモデルをどのように発展させていくかということをもっと真剣にやってもらいたいと思っています。確かに今は携帯電話ビジネスの方が儲かるかもしれません。でも、技術革新のスピードを考えると、携帯電話が独自のビジネス空間を形成していられるのはせいぜい5年だと思います。iPhoneや携帯性に優れたNetbookにより、携帯電話独自のビジネスはあっという間に浸食されてしまうのは間違いのないことでしょう。

すでに2008年7月11日に日本でiPhoneが発売されていましたので、その時点ですでにほぼ読めたことです。

ただ、まぁMixiは完全に後手後手の感がありますね。

こういうのはドラッカー風に言えば「すでに起こった未来」

iBooks AuthorのウィジェットがePub3じゃなくて良かったという話 – Booki.sh Blogより

先日「iBooks Authorは電子書籍ではなくブックアプリを作るソフト。だからePub3じゃない。」という書き込みの中で、iBooks AuthorがePub3を採用しなかった最大の理由はデジタルの可能性を最大限に追求したいからだろうと推論しました。

その書き込みをしたときから気になっていたことがあります。ePub3ではJavascriptが使えます。そしてJavascriptを使えば、もしかしてiBooks Authorと同じようなインタラクティブなウィジェットが作れるかもしれません。つまり、iBooks Authorと同じ機能をePub3で実現することが不可能とは断言できないのです。

それにもかかわらずiBooks AuthorがウィジェットにePub3を採用しなかった理由は何だろうと考えました。以前の書き込みをした当時は、ePub3やJavascriptのような業界スタンダードに縛られてしまって、イノベーションのスピードが落ちるのを危惧したのではないかと考えていました。

しかし Booki.sh Blogの“A favor from Goliath”という記事を読んで、考えが変わりました(ちなみにBooki.shはebookをブラウザで読むためのプラットフォーム)。

Booki.sh Blogが言っているのは要約すると次のことです;

  1. ebookの中にJavascriptを埋め込んでインタラクティブなウィジェットを実現するやり方はセキュリティー上の問題があるし、ユーザインタフェースとしても良くなりません。(詳細はこっち
  2. iBooks Authorのやり方は、ebookファイルにはどのようなインタラクティブな機能を実現するべきかを記載するに留め、それを動作させるための実際のプログラムはebookファイルに記載していません。ebookファイルに記載された通りの動作を実現するためのプログラムはiBooks 2の中に置いています。
  3. インタラクティブなウィジェットのプログラムをebookファイルの中に(Javascriptで)埋め込んでしまうと、ebookファイルそのものを書き直さない限り、ユーザインタフェースを改善したり、バグを直したりできません。それに対してウィジェットのプログラムがebookリーダーの中にあれば、ebookリーダーをアップデートするだけですべてのebookのウィジェットのユーザインタフェースが改善できます。

言われてみるとなるほどと思うものばかりですが、プログラミングをあまりやったことがない人だとわかりにくいかもしれませんので、以下に自分なりに解説してみたいと思います。 Continue reading “iBooks AuthorのウィジェットがePub3じゃなくて良かったという話 – Booki.sh Blogより”

ソニーとキャノンの小型カメラビジネスがスマートフォンに食われている件

決算報告とかを見ているわけではないのですが、Daring FireballのJohn Gruber氏によるとソニーもキャノンも小型カメラビジネスがスマートフォンに食われてしまって、売り上げが落ちてしまっているらしいです。

John Gruber氏が参照しているリンクは以下の通り;

  1. Imaging Resource – “Canon sales slip, president to step down”
  2. Gadgetbox – “Sony debuts 3 new Cyber-shot cameras”

それぞれ以下のことが書かれています。

キャノンについて;

The company reported growing demand for single-lens reflex cameras globally in 2011, but demand for compact cameras was said to have been sluggish in all but emerging markets.

ソニーについて;

Sony’s Kate Dugan admitted that despite the natural disasters in Japan that affected production and shipment of its digital cameras, “true decline” has set in for digital cameras, in which sales are down 20 percent, the first time losses have hit in the double digits. The exodus is most pronounced amongst entry level users, who have turned to their phones as their all-in-one must-have gadget.

Dugan said that meant Sony has to focus on things phones can’t achieve, such as “high optical zoom, low light shooting, full HD video.” The way the company sees it, phones are fine to shoot food on the fly, but “important moments should go to cameras.”

この状況に対してJohn Gruber氏はAppleのiPod戦略との比較をしています。

Compare and contrast Sony’s approach to dealing with the decline in point-and-shoot camera sales with Apple’s approach to the decline in iPod sales. Apple is skating to where the puck is heading; Sony is skating to where the puck is at the moment. Apple executives have long been on the record that the company is OK with iPod sales being cannibalized by smartphones — so long as they are Apple’s own smartphones. That’s worked out well for Apple, because the iPhone is now far more popular and profitable than the iPod ever was. They didn’t hesitate in 2007 to make the first iPhone, in Steve Jobs’s own words, “the best iPod ever” too.

Clayton Christensen氏のイノベーション論の言葉を借りて言うと、

  1. Appleは社内で自らiPodに対する破壊的イノベーションを仕掛けました。
  2. ソニーはハイエンドに逃れることによって、ローエンドからの破壊的イノベーションから逃げようとしています。ただChristensen氏の理論によると、これは時間稼ぎにしかならず、長期的にはやられてしまう戦略です。

キャノンはもっとひどい状況にいるかもしれません。

iPadによって(ようやく)社内での無駄なコピーが減っていけば、複写機ビジネスの売り上げは落ちます。プリンタももうさすがに成長の可能性が見えません。加えてソニー同様にスマートフォンの進歩によってコンパクトカメラ、コンパクトビデオカメラのビジネスが縮小していきます。

キャノンは1990年代に日本でのアップルの販売代理店をしたり、Macintoshプロジェクトを立ち上げたジェフ・ラスキン氏が開発したキャノン・キャットを売ったり、スティーブ・ジョブズがアップルを追い出されて作ったNeXTの販売代理店をしたりしていました。ペーパーレス時代の到来を予測して、IT分野への多角化を考えていたのでしょう(これはXerox社がPARC研究所を作った経緯と似ていると思います)。キャノンはAppleのiPhone, iPadによる挟み撃ちを受けている感がありますね。

Appleのイノベーションが勝つ時代と負ける時代

アップデート
書き込みをした後に読み返していてたら、ずいぶんと説明不足な点があることに気づきました。特に気になったのが「市場のイノベーションをゼロから一社でも盛り上げてしまう」が一体どうやってできるのかということ。それと「自分自身を捨てる勇気」がどうつながるのかということです。

これについては以前のブログ書き込み「iPadを見て思った、垂直統合によるイノベーションのすごさとアップルの宿命」でも紹介していますが、近いうちに改めて説明しようと思います。基本的にはChristensen氏の著書を参考に、パーソナルコンピュータの歴史の一部を紹介しながら説明しようと思っています。

ウェブアプリのフレームワークとして、今最もホットなRuby on Railsの開発者David Heinemeier Hansson (DHH)がブログに“Watching Apple win the world”をブログに書き込んでいました。

長い書き込みですが自分なりに一言でまとめると、「世界で一番優れた製品を作り、しっかり利益が出るように価格を設定すれば世界を勝ち取れる」、そしてそれをAppleが証明してくれたということだと思います。

僕も1994年からのマックユーザですので、気持ちは同じです。

ただ「世界で一番優れた製品を作る」戦略がうまくいかないことがあります。DHHも述べていますように、Windowsが全盛の頃もMacの方が優れているのではないかという話はありました。しかし多くの人は「そんなの関係ない。一番優れた製品が売れるのではない。売れているものが優れているのだ。」と言わんばかりのことを言っていました。

あるときは「世界で一番優れた製品を作」っている会社が勝ち、そしてあるときはMicrosoft Windows 95のように、極論するとコピー商品と言えるものが勝つ。どうしてでしょう。

どうして時代によって全く違う戦略が勝者となるのでしょうか。

私がClayton Christensen氏の理論を元に考えていることは、ちょうどiPadが発売された直後に書いたブログ記事に紹介しています。

iPadを見て思った、垂直統合によるイノベーションのすごさとアップルの宿命

自分の結論を言うとイノベーションが盛んに起こっている市場ではAppleのやり方が勝ちます。そしてイノベーションが衰退した市場ではWindows 95が勝ちます。

Appleのすごいのは、市場のイノベーションをゼロから一社でも盛り上げてしまうことです。そうやってApple自身が繁栄しやすい環境を自ら作っています。そのためには自社製品をカニバライズすることを恐れず、大胆に新しい製品を作っていく必要があります。古い自分自身を捨てる覚悟で、新しい自分を常に創造しないといけないのです。

Appleがイノベーションを起こせなくなったとき、自分自身を捨てる勇気がなくなったときが、Appleがまた衰退するときです。なぜならAppleは自社の主力製品をも潰しかねない破壊的イノベーションを続けることで、Christensen氏の言うInnovator’s Dillemaを辛うじて逃れているだけだからです。

Appleが絶頂を迎えている今だからこそ、瀕死だった時代を改めて思い起こす必要があると思います。

社会系の議論に対する根本的な思い – 自然科学をもっと見習って欲しい

先日「なぜ日本にリーダーがいないと言われるのか、ちゃんと論理的に議論しようよ」という書き込みをこのブログにして、はてぶなどに拾われて、サーバが2回もダウンするぐらいに多くに人に見ていただきました。

その後Wordpressにキャッシュのプラグインを入れて、サーバダウンの対策を施しました。

コメント欄にはあまり書き込みはなかったのですが、Twitterなどでいろいろな人が意見を述べていました。Twitterやはてなブックマークの意見をまとめてくれているのが以下のリンクです。是非ご覧ください。

はてなブックマーク

また自身のブログにいろいろ書いたり付け足したりしている方もいました。
「リーダーシップを妄信しすぎる日本国民」

もちろん短いコメントだけでは何とも言えないことが多いのですが、皆さんがそれぞれに考えているので、しばらく何回か眺めながら、自分も考えを巡らしたいなと思います(あの書き込みへのレスポンスが出てからというもの、正直仕事には支障が出ています。ハイ)。

そこで今回は、あの記事の裏にある僕の根本的な思いについて、簡単に紹介したいと思います。

社会科学系の学問に対する一般的な批判です。 Continue reading “社会系の議論に対する根本的な思い – 自然科学をもっと見習って欲しい”

AppleとGoogle, Amazonのイノベーションのおさらい

「iBooks Authorは電子書籍ではなくブックアプリを作るソフト。だからePub3じゃない。」というエントリの補足の意味で、AppleのイノベーションDNAの特殊性について簡単にメモをします。

Googleのイノベーション

インターネットの検索を劇的に改良したというのがGoogleの最初のイノベーションでした。その後、インターネット広告を使いやすくし、無料で情報を公開していても収入が入る仕組みを作りました。

今まで全く不十分だったネット検索の完成度を高め、インターネットの使い勝手をよくし、無料コンテンツが増える仕組みを作ったのがGoogleです。

ただその後に出してきているGMail, Google Apps, Androidなどを見ると、Googleのイノベーションの形は変化しています。

すでに十分な性能を持っていた他社の製品をまねて、無料で公開し、そして広告で収入を得ていくモデルです。GMailは、それまでは有料でメールアカウントを購入していたのを無料にしたものです(もちろんいろいろと使い勝手はいいのですが、GMailの最大の売りは無料で容量が大きいことです)。Google Appsはマイクロソフト・オフィスを無料にしたものです。そしてAndroidはiPhoneのOSを無料にしたものです。

初期のGoogleは「不十分」なものを改良していくイノベーションをしていました。

現在のGoogleは「十分」なものを無償化するというイノベーションをしています。

Amazonのイノベーション

Amazonのイノベーションは、店舗をインターネットに持っていったことです。インターネットに持って行くことによって、エンドユーザに与えたベネフィットは、家に居ながらにして本が買えるという利便性だとか、在庫している本の種類が多いことだとかだったと思います。あと物流のスケールメリットを活かして、価格を安く抑えたりできているのだと思います。

あとKindleでは、紙媒体の本を電子端末で閲覧できるようにしています。これもイノベーションです。

Amazonのイノベーションの特徴は、物理的な店舗あるいは物理的な書物を電子化しているということです。

Appleのイノベーション

Appleのイノベーションの特徴は、それまで一般消費者が全く見たこともない技術を、わかりやすいパッケージで一般の人向けに販売していくことです。

カラーパソコンの走りだったApple IIに始まり、Macintosh、iPod、iPhone、iPadのいずれをとっても、一般人が想像もしていなかったものを、いきなりわかりやすいパッケージで出したというのがAppleです(「一般人」を強調しているのは、Appleがその技術を発明しているとは限らないからです)。

今のGoogleそしてAmazonは、すでにあるものをほぼそのままにインターネットに持って行ったり、価格を下げたり(無料にしたり)しています。それが可能なだけのビジネスモデルを裏で持っているからそれができるのです。

Appleはビジネスモデル云々ではありません。価格云々でもありません。少なくとも一般人から見ると、どこからともなく画期的な製品が沸いてくるというのがAppleのイノベーションです。

AppleのイノベーションDNAからすると、ePub3のスペックに則って、紙媒体の書籍を電子化するだけというのは許されません。そういうのはAmazon流のイノベーションです。AppleのイノベーションDNAはiBooks Authorを作るDNAなのです。

iBooks Authorは電子書籍ではなくブックアプリを作るソフト。だからePub3じゃない。

アップデート
ePub3にJavascriptを埋め込んで、ePub3でインタラクティブなウィジェットを実現する方法についての考えを新しい書き込みにしました。iBooks AuthorのウィジェットがePub3じゃなくて良かったという話 – Booki.sh Blogより

Macworld誌のJason Snell氏が“Why iBooks Author is a big deal for publishers : Now creators can make interactive books without becoming app developers”という記事でiBooks Authorの位置づけを出版社の立場で紹介しています。

ポイントは以下の通り;

  1. iOSアプリの開発は難しく、高い。特に優れて開発者を探すのが難しいのです。
  2. iPad用の雑誌とか書籍タイプのアプリにはすごいものがあるけど、普通の出版社にはなかなかあれほどのものは作れません。
  3. iBooks Authorがすごいのは、Al GoreのOur Choice並みの書籍タイプのアプリが、iOSアプリ開発をしなくても作れてしまうことです。

iBooks AuthorがなぜePub3フォーマットを出力しないのかという議論がウェブで賑わっていますが、簡単に言うとiBooks Authorはいわゆる電子書籍を作るものじゃないからと言うのが一番良い答えではないかと思います。ePub3の主眼は、印刷された書籍のレイアウトの自由度を電子書籍に持つ込むかです。日本語のルビ対応や縦書き対応というのも、印刷された書籍を再現するという次元の話です。インタラクティブなマルチメディア体験をePub3でもある程度は作れるみたいですが、まだまだの印象です。

一方、アップルが目指しているのは紙媒体に代わる電子書籍を作ろうというものではないと思います。紙媒体ではとうてい実現できないマルチメディアのアプリを、プログラミングすることなく作れるようにすることが目標だったのではないでしょうか。

既存の書籍に変わろうというのがePub3。デジタルの可能性を思いっきり広げようというのがiBooks Author。全く違う考え方です。

iPhoneが中国で作られる本当の理由:日本もこうして成長した

「iPhoneが中国で組み立てられているのは中国人労働者の賃金が安いからだ。」

そう思っている人が多いと思います。

しかしThe New York Timesの記事 “How the U.S. Lost Out on iPhone Work”では違う視点を紹介しています。

すばり工場の大きさ、柔軟さ、勤勉さ、そしてスキルのいずれを考えてもアメリカ国内でiPhoneを組み立てることは実現不可能であり、中国にしか作れなかったというのです。

昔の日本もそうでしたよね。

最初は労働力が安いのが日本製品の特徴であり、安かろう悪かろうでした。”Made in Japan”というのは劣悪品の象徴だった時代もあります。そこから徐々に日本が力をつけていって、技術者の勤勉さとスキル、ロボット化された最新の工場設備、カンバン方式などの現場の工夫による柔軟性によって、”Made in Japan”は世界最高の品質をリーズナブルな価格で提供する代名詞となったのです。1970年代ぐらいの話です。

中国は急速にこの1970年代の日本に近づいているのかもしれません。

それはさておき、この記事からいくつか引用して翻訳(意訳)しますが、是非全文を読むことをおすすめします。

思うのは、日本の技術力を支え、そして今の中国を支えているのは工業高校なのかなということです。うちの祖父もそうでした。そういう人がいなくなると、円高のことを考えに入れなくても、日本国内で工業を稼働させていくことが困難になっていくのではないでしょうか。

日本の大学は猫も杓子も大学院に行かせて博士号をとらせようと考えず、工場で働く人をどうやって育てるかを考える必要があります。あるいはもう日本の大学の数をうんと絞って、大学進学率を思いっきり下げて、その代わりに専門学校や工業高校に行かせるか。そういうのがいいのかもしれません。

日本の技術力が危機に瀕しているかもしれないと言うとき、理系を増やせだとか、博士をもっと育てろだとか、大学にもっとお金をよこせだとか、スパコンを作らせととか、そういう話がたくさん出てきます。このNew York Timesの記事もそうですが、それだけを見ていたらまったくだめだよと僕は強く思います。

機械メーカーに行った友人もよく言いますよね。会社の技術力を支えているのは現場の高卒のおっさんだって。 Continue reading “iPhoneが中国で作られる本当の理由:日本もこうして成長した”