RocheがIlluminaに買収を仕掛けてることについて思うこと

RocheがIlluminaに対して買収を仕掛けていて、敵対的買収も辞さない姿勢を見せています。これはWebを賑わせている話題ですので、すでにご存じの方も多いと思います。

Rocheの狙いが何なのか、Illuminaが買収に抵抗したとしてもRocheはどこまでやり通す気でいるのか、僕なりに思うことを紹介したいと思います。なおこの件については、僕は詳しくフォローしているわけでもないし、またインサイダー情報も一切ありません。一般的に知られていることを組み合わせて議論したいと思います。

なお、このBusinessWeekの記事がいろいろの人の意見があって面白いです。

当のRocheの社長はなんと言っているか

以下のビデオでRocheの社長であるSeverin Schwanが説明をしています

私なりに話の要点をまとめてると;

  1. Illuminaは主に米国を中心に展開しています。それに対してRocheであれば、より小さな国にも入り込める販売網を持っています。
  2. DNAシーケンスは、将来の診断において中心的な技術になると考えています。
  3. 以前のDNAシーケンスは非常に高価でしたが、これだけ技術が発展してくると、今がまさにルーチンの臨床診断への応用を考えるべきタイミングと言えます。
  4. ルーチンの臨床診断への応用は非常に困難です。研究の世界から、レギュレーションが多い臨床の世界に持ってくるのは多くのノウハウが必要です。Rocheはそれを持っています。
  5. 以上のことを考えると、RocheがIlluminaを買収すると言うことは双方にとってメリットのある話です。

どんな買収の時も、経営者は「シナジー」という言葉を口にします。多くの場合「シナジー」が本当に生まれることはまれで、 1 + 1 < 2 という結果になることがほとんどです。

しかし今回は非常に納得性の高い「シナジー」です。一つ一つのポイントが具体的で、的確です。本当に 1 + 1 > 2 となる予感があります。

$5.7 billionという金額はRocheにとってどんな金額か

RocheはGenentechを買収したときは $46.8 billionで買っています。Ventanaを買収したときは $3.4 billion

次世代シーケンサーで最大のシェアを持つIlluminaを$5.7 billionで買収できるのであれば、Rocheにとってはそんなに高い買い物ではありません。Rocheが2007年に454 Biosciencesを買収したときは $152 millionだったということなので、これに比べれば桁違いに大きな金額になりますが、次世代シーケンサーの発展と臨床への応用の可能性を考えれば、それは妥当な線ではないかと思います。

Illuminaの研究者が逃げたらどうするのか

買収があるときに良くある話です。454 Life Sciencesを創設したRothbergが後にIon Torrentを創設して、良く似た原理で454シーケンサーの発展形を作ったという話などがそうです。

でもそろそろ関係なくなってきました。$1,000ゲノムの実現が目の前に迫り、そしてゴールテープを切ってももうしばらく価格が下がる状態が容易に想像できます。現在の技術だけでも例えば$500とか$200ぐらいに落ち着いてくるでしょう。そうなるとゲノムをシーケンスすること自身は診断コストを決定する要因ではなくなります(化学者にとっては律速段階と言った方がわかりやすいかも)。

まだまだ技術の発展の可能性はありますが、臨床応用をすることに限って言えばコストは十分に下がってきています。$500からさらに一桁二桁価格が安くなったとしても、最終的な診断コストが大きく変わることはありません。そういう意味で、仮にIlluminaの買収によって頭脳流出があっても、Rocheにとってはあまり悩む話ではなさそうです。

イノベーションの次の段階

Clayton Christensen氏のコンセプトの中に “Law of conservation of attractive profits”というものがあります。バリューチェーンの中の要素(この場合はDNAシーケンサー)の技術が進化し、結果としてもう十分すぎるぐらいの性能が出るようになったとき、そこには”attractive profits”は蓄積されなくなります(つまりIlluminaの技術の価値が下がります)。その代わりその要素の前後、バリューチェーンの他の要素に”attractive profits”が蓄積されるようになります。そしてそこにイノベーションが生まれていきます。

ゲノムシーケンスの場合は、それはサンプルの調整であったり、データの解析であったりするはずです。また臨床応用にはレギュレーションという大きなハードルがありますので、これを突破できる会社(例えばRoche)に”attractive profits”が蓄積されていくという状態になります。

研究者はデータの解析に目が行ってしまうと思います。しかし実際にはレギュレーションをクリアしていくことの方が遙かに人間のリソースが必要で、ノウハウやコネクションが重要で、参入障壁も高くなっています。”attractive profits”はまさにここに蓄積されていくでしょう。

またレギュレーションのことを考えると、機器をレギュレーションにマッチするように作っていくことも大切です。仮にDNAシーケンスの研究用のハードウェアの価格下落が激しかったとしても、診断向けのものはしばらく後まで高い利益を確保できる可能性が残ります。

つまりDNAシーケンスの次のイノベーション・フロンティアは、今となってはレギュレーションをどうやってクリアしていくかになってきました。個人情報管理や診断で得られた様々な知見をどのように患者に伝えていくか、まだまだクリアされていない課題は山ほどあります。ボールはシーケンス技術の世界から、レギュレーションの世界に投げ込まれました。

iBooks Authorをバイオのメーカーはどう活用できるか

「iBooks Authorをバイオのメーカーはどう活用できるか」というブログをバイオの買物.com公式ブログにアップいたしました。

iBooks Authorはデジタル教科書の制作で注目されていますが、いろいろなマルチメディアコンテンツの制作もできます。とても使いやすく、できあがったものは非常に魅力的です。

メーカーならば製品プロトコルだと季刊誌などに活用できると思います。是非ブログを読んでみてください。

Steve Wozniak on Siri “search engines should be replaced by answer engines”

Siri heroSteve Jobsと共同でアップル社を創設したSteve Wozniak氏が好んでLos Gatos, CaliforniaのApple storeの前に並び、徹夜でiPhone 4Sの発売を待ったそうです。

ただでもらえるのに、いつまでも子供心を忘れないとても素敵な人です。

彼が最も引かれているのは”Siri”。並んでいるときに受けたインタビューで以下のように答えています(3:40頃)。

To Siri I could say what are the prime numbers greater than 87. Google doesn’t understand “greater than”, but Wolfram Alpha does. So I would get the right answer. And that’s what I really want in life. I don’t want all these, you know, get me to the way to the answer, to the books that have the answer, get me to a web page that has the answer. I don’t want that. I say search engines should be replace by answer engines.

私がバイオの買物.comで目指しているのも同じことです。

Googleのおかげで検索エンジンが劇的に良くなったとはいえ、ライフサイエンスの研究用製品を探したり調べたり比較したりする方法としてはGoogleは全く不十分です。

単純な検索機能だけを提供しているいろいろな研究用製品ポータルは同じかもっとレベルが低いです。検索しか無いと言うのは、少なくとも研究用製品に関してほとんど役に立たないと同義です。

Siriのような人工知能は必要ないと思っていますが、人間がキュレーションしたデータセットはSiriと同様に必須です。データセットをがんばって作り、そして自然言語解析は無理だとしても、非常に工夫されたインタフェースで答えを提供していくこと。バイオの買物.comはそういうことを目指しています。

Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由

昨日、「AmazonのAndroidタブレット Kindle のビジネスモデルは甘いんじゃない?」という題で、「ハードで赤字を出してソフトで儲ける」という戦略はKindle Fireには適応できないという議論をしました。したがって短期的にKindle Fireの売り上げは伸び、いったんは成功したように見えたとして、長期的には成功しないと判断しました。

昨日、AsymcoのHorace Dediu氏がブログを更新し、別の角度からKindleがタブレット市場に破壊的イノベーションをもたらさない理由を紹介しました(“The case against the Kindle as a low end tablet disruption“)。要点は以下の通りです。

  1. 破壊的イノベーションが起こるためには製品が継続的に改良されていく必要があります。しかしKindle Fireは赤字で販売され、ソフトの利益でそれを埋め合わせています。したがってKindle Fireの改良に投資するインセンティブは低く、継続的な改良は望めません。
  2. Kindle Fireを赤字で売る戦略が成功する要件は、タブレット市場が成熟し、”good enough”の状態になっていることです。タブレット市場が製品ライフサイクルの後期にいることです。しかし少なくともAppleはその正反対に捉えていて、タブレットのイノベーションは始まったばかりだとしています。Appleがイノベーションを続けることができれば、Kindle Fireが破壊的イノベーションを起こすことはありません。

Horace Dediu氏の分析はClayton Christensen氏のイノベーション論に基づいていますが、非常に的確であると思います。Kindle Fireが破壊的イノベーションとしてiPadの脅威になるとは思えません。

僕はさらに一歩踏み込んで、Kindle FireがAndroidのイノベーションを大きく阻害する危険性が高いことを以下に論じます。その一方でAppleはiPadのイノベーションを阻害することは考えにくいので、iOSとAndroidの差がますます広がるだろうと考えています。 Continue reading “Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由”

AmazonのAndroidタブレット Kindle のビジネスモデルは甘いんじゃない?

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アップデート
関連する新しい記事「Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由」もご覧ください。

Amazon CEO Jeff Bezos 氏は、Android ベースのタブレット「Kindle」を驚異的な低価格で発売すると発表したそうです。

最も安い読書専用の端末の価格はわずか79ドル。その他のモデルも思い切った低価格に設定されている。Kindle Touch は99ドル、Kindle Touch 3G が149ドル。最上位モデルのKindle Fire でさえたったの199ドルだ。これは、Apple iPad 2 の最も安いモデルより、さらに290ドル安い。

しかしAmazonの狙いはハードを赤字で売ってソフト(電子書籍や映画などAmazon.com サイトからダウンロードするコンテンツ)で儲けることだという指摘があります。

古典的な手法です。

有名なのは安全剃刀(ホルダーを安く売って、替え刃で儲ける)、コピー機(コピー機を安く売って、トナーで儲ける)、プリンタ(プリンタを安く売って、インクで儲ける)、プレステ(ハードを安く売って、ソフトで儲ける)などです。

でもうまく行くとは限りません。残念ながらマーケティングの本で紹介されるのは成功例ばかりで失敗例が少なく、あまり有名な失敗例はありません。

でも例えばリアルタイムPCR装置等はその例と言えるでしょう。価格競争が激しい為に価格はどんどん下がって、ハード単体では利益がほとんどでないところまで値段が下がってきています。そこを試薬の利益でカバーしようとしましたが、賢い顧客はABIやロシュの試薬を買わずにキアゲンやタカラバイオの安くて高品質な試薬にどんどん切り替えました。

以下では、成功例と失敗例を分けるのは何か、この仕組みが成功するための条件は何かを考えます。そしてAmazon Kindle Fireが成功するかどうかを予想してみようと思います。 Continue reading “AmazonのAndroidタブレット Kindle のビジネスモデルは甘いんじゃない?”

学会にソーシャルをどうやったら持ち込めるか

久しぶりに分子生物学会に一般会員として参加することになり、思い出したのが昔の重たい要旨集。昔はあれをそのまま担いだり、あるいは人によっては一部を切り取ったりして歩き回っていました。聞きたいフォーラムや見たいポスターのところはポストイットを貼って、それでもすぐには確認したいものが見つからずに苦労していました。

「今はどうなっているのだろうか?」「オンラインになって便利になったのだろうか?」

そういうことを思いながらいろいろ調べみました。その中で面白いと思ったのは「マイスケジュール」とか「Myスケジュール」とか呼ばれるものがここ数年で普及し始めていることです。医者向けの学会を中心に、基礎系の学会でも昨年頃から取り入れられているようです。

  1. SESAのシステムのデモ
  2. 2010年日本外科学会のもの(誰でも登録可能)
  3. 学会支援システム東海大学医学部小見山准教授、コンベンション静岡、株式会社トライテックが共同開発したiPhone, iPad用システムです
  4. 日本霊長類学会のiPhone, iPad版上の学会支援システムを利用

また2010年の分子生物学会・生物化学学会の合同大会でも「マイスケジュール」システムが導入され(現在はオンラインになっていません)、学会アンケートの自由回答欄(「スケジュール」や「schedule」の語句を探してください)でも概ね好評だったようです。まだ改善するべき点はたくさんあるようですが。

僕はまだ「マイスケジュール」を本格的に使ったことが無く、今回の分子生物学会が初めてになります。とても便利そうなので楽しみです。

それはそれとして、今回のブログではより一歩先を考えたいと思います。

インターネットのソーシャルメディアを活用した学会の将来像です。 Continue reading “学会にソーシャルをどうやったら持ち込めるか”

AndroidがEUで意匠権侵害で販売仮差し止めになって思うこと

GoogleのモバイルOS Androidが特許を侵害しているとして非常に多くの訴訟に巻き込まれ、またSamsungがGalaxy TabおよびGalaxy S IIで意匠権を侵害しているとして販売差し止めの訴えをAppleより起こされていることは、このブログで何回も取り上げています。

8月9日にはEUでSamsung Galaxy Tab 10.1がEUで販売仮差し止めになったということが報じられ、8月1日には同様の判断がオーストラリアでもくだされましたヨーロッパではMotorola Xoomも同じく意匠権で販売差し止めの訴えを起こされているようです。

一方でGoogleはこのような特許訴訟がイノベーションを阻害しているとブログで訴えています。ただGoogle自身が強力な特許に守られながら大きくなった会社であることや、特許以外の知的所有権に対するGoogleの姿勢にも甚だ疑問があることなどをあげて、Googleは単に自分に都合の良いことを言っているだけではないかという意見もあります。

携帯電話やソフトウェアに関する特許は確かに複雑なようで、各製品には多数の特許が含まれ、メーカーは互いに複雑なクロスライセンスをしているという現状はあるようです。そもそもソフトウェアには特許を与えるべきではないという議論もあるようです(私自身はその根拠が理解できませんが)。

さて私自身は製薬企業にいるときに、間接的に出はありますが、1990年代の半ばの遺伝子特許の問題を見てきました。この時代はシーケンス技術の発達のおかげでヒトゲノムプロジェクトなどが本格的に開始された時期です。それまでの時代と大きく変わったのは、A) 生命現象があって、それからその原因となっている遺伝子を特定するという研究のやり方に変わって、B) まずはシーケンスを闇雲にやり、遺伝子を片っ端から解読し、配列から有望そうだと推定されたものについて生命現象との関係を探っているというやり方が台頭してきたことです。いわゆる逆遺伝学(reverse genetics)と呼ばれる手法です。

しかしB)のreverse geneticsを行う際に、最後まで遺伝子と生命現象との関係を見つけるのは意外に困難です。1990年代半ばはRNAiもまだ知られていませんでしたので、ほ乳動物の細胞で遺伝子を欠損させるにはノックアウトマウスを作るしかなかった時代です。したがって現実的にせいぜいできることは、細胞に遺伝子を強制発現させることぐらいでした。遺伝子はいくらでも見つかるのに、その機能がわからないというものが山ほど出てきました。

それでも製薬企業にいる以上、見つかった遺伝子の特許が早く取りたいのです。でも特許は「有用性」が言えないといけません。そこで遺伝子配列からバイオインフォマティックスで導かれた推定機能だけで特許を申請してしまう企業も多く現れました。

果たしてそんないい加減な特許(つまり「有用性」がしっかり書かれていない特許)が成立してしまうのか。法律の世界は簡単に白黒がつくものばかりではないので、企業としては非常に不安でした。多分成立しないと思うけど、成立したら大変なことになってしまう。関係者はそんなことを案じていました。

なぜそんなに不安になるかというと、遺伝子配列そのもので特許を取られてしまうと、特許を所有している企業が非常に有利になると考えられていたからです。特許を申請するときは可能な限り多くの権利(クレーム)を書くことが当たり前のことですが、当時の遺伝子特許には i) その遺伝子配列から生産されたタンパク質はもちろんのこと、ii) そのタンパク質に結合する他のタンパク質を免疫沈降などで発見する実験、iii) そのタンパク質と結合する化合物(医薬品候補)をスクリーニングする実験さえもクリームされていました。したがって遺伝子配列の特許を持っていれば、他の製薬企業がそのタンパク質に作用する医薬品を発見したとしても(それがどんな方法で見つけたにせよ)、ほぼ特許侵害で訴えることができる訳です。

実際に遺伝子特許問題がどのように収束したかは、私もほどなくしてその分野から去ってしまいましたので詳しくは知りません。まだいろいろな問題が残っているという印象は受けています。

ただそういう問題を見てきた人間として感じるのは、ソフトウェア特許以外にも特許制度は非常に難しい問題を抱えているということです。もちろん独創的な発見やイノベーションを行った個人や企業は多いに奨励されるべきですし、特許のような強力な独占権を与えることも場合によって必要だとは思います。しかし科学技術の発展が速いだけに、また様々な利害関係が対立するだけに、法律が時代に追いつくのは難しいのです。そういう状況を考えれば、特許制度は決してベストが実現可能ではなく、「無いよりかなりマシ」ぐらいの存在であるような気もします。

遺伝子特許を議論していた印象からすると、Googleがやった行為が問題になるのはきわめて当たり前ですし、もしあれが許されるのであれば製薬企業やベンチャーが基礎研究をする価値はほとんど失われてしまうとさえ思えます。ベンチャーにとっての最大の資産が特許ということも珍しくないでしょうから、特許侵害まがいの行動が許されてしまったら、製薬産業のイノベーションの構造が覆されるでしょう。

私はそういう目でAndroidの訴訟を見ていますので、どうしてもAppleだとかMicrosoft, Oracleの側に立ちます。

抗体検索サイトのリストと評価

バイオの買物.com まとめて抗体検索

僕が作っているサイトです。相当にいろいろなことを考えて作っていて、はっきり言って世界最高を狙っています。他のサイトにもいろいろな機能はありますが、そのどの機能も取り入れつつ、より優れたものに改変しているつもりです。

目標が達成されているかどうか、それはこのページを見ているご自身で判断ください。Twitterの @naofumi もしくは @BioKaimono に感想をいただければうれしいです。

Exact Antigen 改め Labome.jp

ここは遺伝子名を入力すると、抗体だとかsiRNAだとかタンパク質だとかが検索できるシステムになっています。日本語のは動作が安定していませんが(2011/8/3現在)、英語版のlabome.comは一応動作しています。ロボットでメーカーサイトから自動的に情報をとったり、あるいはスポンサーから情報をもらったりしていると聞いています。
labome.jpは一応日本語を使っていますが、製品の価格は全部USドルですので、日本のサイトとしては役に立ちません。

Biocompare

ページのトップからAntibody Searchを探して抗体検索のページに移動します。

Biocompareは知名度があるだけにメジャーブランドも小さいブランドも含め、非常に多くのメーカーの製品をのせています。残念なのは価格がほとんど敬さされていないこと。US価格すら載っていません。

また検索システムは昔ながらもので、最初にドロップダウンメニューから検索条件を入れていきます。ただ検索に少し時間がかかりますので、たくさんの絞り込みをするのは疲れます。

検索システムで特徴的なのは蛍光色素の選択の仕方です。同じ蛍光波長のものでも、メーカーによって使用する蛍光色素は大きく異なります。特に緑や赤の領域は同じような蛍光色素がたくさんあります。そこでBiocompareでは蛍光波長によってグループ分けし、Blue, Green, Yellow, Orange…などと選択できるようにしています。これは非常に便利です。

海外サイトですので、製品が見つかったとしても価格や果たして日本で売っているのかどうか輸入販売店を探すまではわかりません。

Antibodies-online.com

ここは小さな抗体メーカー(140社)をたくさん集めて、オンラインでの販売も行っているウェブサイトです。大手のメーカーは登録されていません。代金の請求や物流も小さいメーカーに変わってやってくれるそうです。インターネット上の輸入代理店(フナコシ、コスモ)みたいなものでしょうか。

検索システムはファセットナビゲーションは取り入れていますので、絞り込みはしやすいです。

あとメーカーによっては実験データ(ウェスタンとは組織染色の画像)が表示されます。

海外サイトですので、製品が見つかったとしても価格や果たして日本で売っているのかどうか輸入販売店を探すまではわかりません。

コスモバイオ

輸入商社大手のコスモバイオの抗体検索システムです。

製品は非常に多いので、その点は良いです。しかし検索システムはすべてのキーワードをユーザが自分で考えないといけないため、ちょっとドキドキしながら博打を打つような検索体験になります。その他、この検索システムはいろいろと問題があります。一例を「抗体検索の絞り込み条件は『選択式』が正しい」のブログに詳しく書いてあります。

製品が多いし、日本価格も表示されていますので製品が見つかれば良いのですが、見つけるまではかなりがんばることになりそうです。

フナコシ

輸入商社大手のフナコシの抗体検索システムです。

Biocompareの検索システムとよく似ていて、可もなく不可もなくと言ったところです。コスモバイオのものと異なり、例えば標識物はキーワードを入力するのではなく、リストの中から選択する形になります。

しかし残念ながらBiocompareのように蛍光波長でグループ分けせず、蛍光色素のブランドでグループ分けしています。例えば “Alexa Fluor”とか”Cy”とかいうグループ分けです。正直、これじゃ何の色が選ばれるのか全くわかりません。

取扱商品はコスモバイオとそれほど重ならないので、製品を探すときは両方使うことになると思いますが、ウェブサイトとしてどっちが好きかと言えば圧倒的にフナコシの方が好きです。

試薬.com

このウェブサイトは名前がメーカー横断検索サイトのようですが、和光純薬が輸入販売している製品が検索できるだけです。その製品数も限られていますので、横断検索サイトとしてはあまりお勧めできません。

検索システム自体は可もなく不可もなく。Biocompareやフナコシと良く似たシステムです。

バイオ百科

ここは横断検索サイトでコスモバイオの製品もフナコシの製品も、そしてシグマアルドリッチやアブカムの製品までも取り入れていますので、母数としては巨大です。在庫がわかるのも良いです。

ただし検索システムはかなり不思議なものです。

使い勝手が悪いというか、どうもスポンサーに遠慮しているのではないかという気がします。またシステム自体がこれほど多くの抗体を想定した作りになっていませんので、かなり検索が遅くなってしまっています。検索条件を入力するインタフェースはそのものはBiocompare的なもので、可もなく不可もないものです。

このサイトの不思議さについてはブログで紹介してます。

  1. 収益モデルがウェブサイトの使い勝手を決める例:バイオ百科
  2. バイオ百科で抗体検索:僕が使いにくいと感じるところ

最後に

僕が作っている新「まとめて抗体検索」はシステムとしてはダントツに良いとは思います。取り扱いメーカーの拡充もしていく予定です。

それ以外で良さそうなものと言えば、Biocompareではないでしょうか。ただ日本の輸入代理店を探すのが大変なので、Biocompareで見つけた後はフナコシ、コスモバイオ、あるいはバイオ百科で検索しないといけません。バイオ百科はキーワード検索は不思議なことが起こりますが、カタログ番号検索なら問題なくやってくれるので、ここでカタログ番号検索をするのが一番楽かもしれません。

なお、まだこの表には大手抗体メーカーの抗体検索システムを掲載していませんが、徐々に掲載していく予定です。はっきり言って、大手抗体メーカーの方がずっと先を行っているケースが多いです(輸入商社や比較サイトはうちを除いて停滞気味?)。

生き物の本質的難しさ

私は生物とプログラミングが同じ課題を抱えていて、お互いに似たような進化をしてきたのではないかという仮説を持っていますが、関連する記事をウェブで見つけました。

“現代的プロトタイピングのすすめ~古くて新しい可視化手法”

この記事は100%ソフトウェアについて書いてあるものですが、その中で1987年のFrederic P.Brooks, Jr.による著書「銀の弾丸はない:ソフトウェア工学の本質と課題」が紹介されています。

面白いのはその中の図表です。「ソフトウェア」を「生き物」と置き換えてもほとんどそのまま通じるように思いますが、いかがでしょうか。

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「生物の本質って何だろう」っていう疑問はよく聞く話で、例えば自己複製できることであるとか、エネルギーの流れ(代謝)であるとか言っている人がいます。それぞれに着眼点は素晴らしいと思います。でも私にとってはどの見解もあまりおもしろみを感じません。「生物」という存在と、現代人が築き上げた「技術」をつなげるような考えではないからです。

現代の高度な機械技術ことが人類の「バビルの塔」であり、人間が神に一歩ずつ近づこうとしている中間点だと私は思っています。そして神が築き上げた最高傑作こそが「生き物」。科学の究極的な目標が神の設計図を読み解き、理解し、模倣することであるとするのならば、「生命の本質」に関する議論もまた、どうやったら人工的に生命が作れるかに結びつかなければならないと思います。

この視点に立つと、人類が既に築き上げた技術力の中で、生物に最も近いものは何かを考えたくなります。

もし「生物の本質」を「複雑性」だと考えるならば、それは間違いなくプログラミングだと思います。私がここに着眼しているのはそのためです。

なお生物とプログラミングを比べてみることについて、私はこのブログでも過去に紹介していますので、ご覧下さい。(オブジェクト指向プログラミングと生物システムの類似性(作成中)オブジェクト指向プログラミングと生物学

金融業界の適正なサイズを人体の血液量と比較してみる

今では金融業界は学生にとってはかなり魅了のある業界で、給料もいいし、エキサイティングだと考えられています。

でも私が小学生だった1970年代は、金融業界と言えば銀行であって、お堅い仕事で給料はいいけど、エキサイティングなイメージはありませんでした。他人のお金を使ってリスクの高い投資をしたり、そういうことはしていませんでしたし、M&Aなども多くありませんでした。

このように金融業界が変質してしまったことを危惧し、これこそが金融危機の遠因であるとPaul Krugmanなどは語っています。

例えば米国において、60年前の金融業界の大きさはGDP比で2.3%だったの対して、2005年には7.7%と3倍近くふくれあがっています。給料も高く、エキサイティングなので、優秀な学生がこぞって金融業界に就職しています。(The Equilibrium Size of the Financial Sector)

Financial sector growth

日本では金融業界も同じように膨らんでいるようです。日本の金融業界は2010年時点で 41兆円の規模ですが、日本のGDPは480兆円弱なので、金融業界の規模はGDP比で8.5%です。

でもちょっと待って考えてみましょう。そもそも金融業はどうして存在するのでしょうか。製造業やサービス業は具体的な形で我々の生活を豊かにしてくれますが、金融業がどのように我々の生活に貢献しているのかはあまり明確ではありません。

例えば全国銀行協会のホームページではこう書いてあります;

お金は経済社会の血液

お金はよく私たちの社会生活における血液に例えられます。ある時は企業から個人へ、ある時は個人から企業へ、またある時は個人・企業から国・地方公共団体へと、ちょうど人間の体の中を血液が循環するように流れ動いて、経済社会に活力を与えているのです。こうしたお金の流れのことをマネー・フロー(資金循環)といいます。

さて問題は、「血液」の役割を果たす金融業界が全GDPの2%であるべきなのか、それとも8%であるべきなのかです。

人間の全血量は体重の約8%だそうです。そして1/3を出血で失うと生命が危機にさらされるそうです(健康管理の栄養学)。

へぇー現代の金融業界と同じレベルかなとも思う一方で、血液は金融だけでなく運送の役割も果たしていることも考慮しなければなりません。その規模がどれぐらいかというと、物流だけでおおよそ20兆円、旅客業界は数字が見つかりませんでしたが、恐らく20兆円ぐらいではないかと想像してみます。合わせて運送で40兆円ぐらいと想像してみます。

それで金融業界と運送業界を足し合わせると81兆円となり、GDP比で16.8%。人体の全血量よりもずいぶんと多くなってしまいます。

どうも現代の国の経済構造は、人体と比べると血液的な役割が2倍ぐらいに大きくなってしまっているようです。全GDPの1/6ぐらいを血液的なものに回しているみたいです。

まぁ血液量と金融業界のサイズを比べることの意味はそんなにないかもしれませんが、そもそも適正な金融業界のサイズが経済学的に分かっていないことを考えるとやっても良い比較だとは思います。そしてその結論は、金融業界が大きすぎるといういうものです。

私は今の金融業界は白血病だと思っていますけどね。経済全体に貢献することを忘れ、自分自身の拡大のために金融業界が働いているという意味で。