Webのフォントサイズについて

iPadのSafariはPC用のWebサイトがストレス無く閲覧できるようにデザインされていて、実際問題としてかなりその通りになっています。しかしiPad miniの登場で状況はかなり変わりました。iPadよりも画面サイズがかなり小さくなっていますので、現存のPC用のWebサイトは見づらくなっているのです。iPadだったら画面の拡大縮小をしなくても無理なく見られたものが、iPad miniだと拡大縮小が必要になってきたのです。

こうなると、PC用のWebサイトであってもフォントサイズを大きくし、PCからiPad, iPad miniのどれで見てもストレス無く閲覧できるようにした方が良さそうな気がしてきます。これについて、いくつかのポイントを挙げておきます。

  • iPadは縦向きで使った時が一番感動的に良いです。PCの画面は横長ですが、印刷された本は縦長です。目の動きの負担を考えると、各行の横幅は比較的狭い方が楽で、縦長の方がやはり読みやすいと思います。したがってiPad向きなデザインを考えるとき、特別な事情がない限り、縦向きでの使用を一番重視することになります。
  • iPad2, iPad miniの画面の縦向きの時の横幅は768pxです。一番大切な文字を読むことに関してはフォントは自動にスケールするので、実際のピクセル数はそれほど気にしなくて良いかも知れません。しかし768pxがどういう数字かはある程度考えた方が良いと思います。またiPad Safariは最大で980pxのWebサイトを自動的に縮小して768pxの実画面に納めます。最近のWebサイトは横幅が1000px以上のスクリーンを想定していますが、これらはまず第一にiPad Safariで見ると横にスクロールする必要があります。自動縮小無しiPad Safariでページを表示するためには、横幅を768pxにする必要があります。
  • Retina Displayによってフォントが鮮明になり、小さいフォントでも読みやすくなります。しかし人間の指は小さくなりません。リンクやボタンはretina displayであっても大きくしておかないといけません。
  • ボタンを快適に押すことができるサイズはAppleのiOS Human Interface Guidelinesによると44px x 44pxだそうです。例えばiPad non-retinaの実験 (横幅768px)。これはかなり大きくて、Webページのリンクは通常はテキストのフォントサイズ程度なので、前後の行間があることを考慮してもフォントサイズは15pxは最低欲しいということになります。しかし多くのWebサイトでは12px程度のサイズを使っているので、ボタンは快適に押せません。さらに横幅は1000px程度なので、これよりも20%程度画面は縮小されています。つまり既存のWebサイトのデザインでは拡大縮小しない状態ではリンクは快適に押せないのです。
  • PCの画面も最近は高解像度化が進み、画面サイズが小さくなっています。例えばMacBook Airの11インチは1366px x 768pxの解像度です。2001年から発売された白いiBookは12インチのディスプレイで1024px x 768pxだったので、同じpxサイズの文字が25%程度小さく表示されていることになります。やっぱり字が小さくなった分、読みにくくなっています。

こういう現状を考えたとき、PCのウェブデザインを考え直していった方が良いのでは無いかと思います。高解像度のノートPC画面に合わせる意味でも、iPad(特にmini)に合わせる意味でもフォントサイズを大きくしてリンクを大きくし、ボタンも大きくしていく必要があるでしょう。画面に一度に表示できる内容は少なくなりますが、現状のWebサイトの大部分はナビゲーションや広告をたくさん表示しているだけなので、工夫次第で対策が可能なはずです。

スマートフォンの売り上げ:いろいろな数字

スマートフォンって非常に成長が著しい市場で規模も大きいので、調査会社がいろいろな分析をしています。でもそれはかなり怪しいよという話をいくつかここにまとめます。

アメリカの携帯キャリアが報告している数字

以下はアメリカの携帯電話ネットワークキャリア(AT&T, Verizon, Sprint, T-Mobile)が報告している数字です(Benedict Evans氏のブログから引用)。Apple以外のスマートフォン製造会社はどれも売り上げ台数を報告しないので、調査会社が推測した数字じゃなくて、実際に販売している会社が報告している確固たる数字はこれぐらいしかありません。

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ポイントは

  1. 2012年Q3でiPhoneが9.3 million、その他のスマートフォンが8.7 million販売されました。
  2. スマートフォンは携帯電話全体の販売台数の80%。

調査会社などの調べでは世界全体の市場ではAndroidは75%としていて、この数字自体がかなり推測を含んでいますが、USに限って言えばiPhoneがスマートフォン市場の50%以上を握っています。

Benedict Evans氏のブログによると、Comscoreなどの調査会社の調べではiPhoneの利用者はスマートフォン全体の30%しかないという調査結果があり、それも怪しいねという話です。

アップル vs. サムスンの法廷資料で出てきた数字

調査委会社のIDCなどは2012年のQ2にサムスンが50.2 millionのスマートフォンを出荷したとしています。しかしこれもかなり推測を含む数字です。サムスンはスマートフォンの出荷台数を近年報告していません。

しかしアップル vs. サムスンの裁判の中で、適切な損害賠償の額を算出するためにアップルもサムスンも実際の販売台数を報告する義務が発生しました。USでの販売台数しか出てきませんでしたが、メーカー自身が報告した正確な数字としては貴重なものです。以下、Horace Dediu氏がまとめたものを紹介します。

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以上のグラフはサムスンが世界全体で出荷したと推測されるスマートフォン台数全体(IDC調べ)と法廷で損害賠償の対象となっているサムスン製スマートフォンの実際の販売台数を比べたものです。ただしサムスンの実際の販売台数はUSのみです。また2012年の4月に販売開始されたGalaxy Nexus, 2012年7月に販売開始されたGalaxy SIII, 2012年2月に販売開始されたGalaxy Noteは含みません。

IDCの調査結果がUSでの販売傾向を全く反映していないことは一目瞭然です。

ウェブブラウジングの使用率を見た数字

Statcounterがウェブを閲覧したユーザのデータを公開しているので、ここから分析することもできます。まずはUSのデータ。

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USのデータを見るとUSのキャリアが報告している販売台数と良く似た数字になっています。iPhoneの方がAndroidよりも上で、iPhoneの方が不くるから販売されていることを加味すれば、実際の販売シェアよりもウェブアクセスのシェアでiPhoneが上に来るのは納得できます。

Statcounterを世界全体で見ると以下のようになります。

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Androidの方がiPhoneよりも多くなっています。またAndroidが強いのは一人あたりGDPがあまり多くない国が多く、ネットワーク環境が整備されておらず、ネットアクセスが不自由である国が多いと考えられますので、Androidからのウェブアクセス以上にAndroid端末は世界で売れていると考えることができます。世界全体でAndroidが75%の販売シェアを持っていることは、この数字を見る限り十分可能だと考えられます。

ちなみにStatCounterの数字を日本で見ると、iPhoneとAndroidが拮抗しています。iPhoneの方が強いUSとは違います。これはDoCoMoがiPhoneを売っていないのが最大の理由でしょう。

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Androidが強い国って何処だろう

StatCounterの国別の数字を、各国の一人あたりGDPでプロットしました(まだすべての国をプロットしていませんが主要な国は含んでいます)。

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なおSymbianもSeries 40もNokiaのOSです。

はっきりわかるのは

  1. 一人あたりGDPが高い、裕福な国ではiOS (iPhone)が強く好まれている。しかし一人あたりGDPが50位以下の国では弱い。
  2. Androidは裕福な国ではそこそこ使われているが、iOSとの決定的な違いはGDPが40位以下の国で強いこと。GDPが40位以下の国というのは、ロシアやアルゼンチン、マレーシア、メキシコ、ブラジル、タイ、中国などを含みます。
  3. NokiaのOSは一人あたりGDPが低い、貧しい国でよく使われている。

iPad miniは高すぎるのか?

USでのiPad miniの価格は$329から。Google Nexus 7やAmazon Kindle Fireは$199から。

よってiPad miniは高すぎるのではないか?

歴史を振り返ってみましょう。iPadはどうしてNetbookに勝つことができたのか。

Netbookとは

Netbookについてまず振り返りましょう。Wikipediaより。

  1. Netbookの始まりはAsusのEee PC (2007年)。価格は$260から
  2. 典型的なNetbookは1.2-4kg, $3-400, 7-12インチの画面。
  3. 最大でラップトップ市場の20%に達し、2010年にiPadが出るとマーケットシェアを落とし始めます。
  4. 2012年になるとNetbookは年間で25%売り上げを落とし、一方でiPadの販売台数がNetbookを超えます。

iPadは一番安いモデルで$499でした。

Windowsアプリがほぼ使えるNetbookと異なり、iPadは専用のアプリも非常に少ない状況でした (iPhoneアプリなら使えましたが)。Adobe Flashも使えなかったので、ウェブでも問題がありました (PC World)。キーボードもあるので、入力は(原理的には)Netbookの方が楽です。

iPadがNetbookに勝ったのは、「使える」から

どうしてiPadが勝ったのでしょうか?

なぞ?

おそらく答えはこうです。

  1. 誰が使えるか?: iPadはすごく簡単で、幼児にも老人にも使えます。家庭でパソコンを使う人の大半は設定の仕方とかそういうのが全然わかりません。操作法もよくわかりません。iPadはそういう人にも使えるものでした。そう、iPhoneと同じように。
  2. どこで使うか?: iPadはトイレやベッドの中でも使いやすいし、ソファーでゆったりしながら使うのに最適です。タブレットを一番使うのはテレビを見ているときという調査結果もあります。Netbookだとこういう使い方ができません。また立ちながら使うのだったらタブレットしか考えられません。
  3. 何に使うか?: みんながやりたかったのはウェブを見ることとメールを確認することでした。デフラグとかしていないWindows XPでInternet Explorerを使うのに比べて、iPadは非力なCPUながら、圧倒的にウェブの表示が速かったのです。しかもスリープから起きるのが瞬間的なので、思い立ったときにすぐにウェブが見られます。

つまりiPadが勝った理由は、1) ユーザ層を拡大したから、2) 使用する場所を増やしたから、3) ウェブとメールをより快適にしたから。一言でいうと「使える」を増やしたからです。

価格はネガティブ要素でしたが、ほとんど影響がありませんでした。価格ってそんなに重要じゃないのです。それよりは「使える」ことが重要です。

iPad miniは「使える」から$329、Android 7インチタブレットは「使えない」から$199

さてiPad miniに話を戻します。

Google Nexus 7やAndroid Kindle Fireって「使う」ことをあまり考えないで作られた製品です。安くすると買う人がたくさんいたから開発された製品です。HPが当初$400で販売していたTouchPadを店じまいの大売り出しのつもりで$99, $149で販売しだしたら馬鹿売れしたので、もしかしたら低価格タブレット市場があるのかも知れないとGoogleやAmazonは思ったのです。

7インチAndroidタブレットの使い勝手の悪さについてはPhil Schillerが2012年10月のiPad mini発表会で長々と語りました。YouTube

低価格7インチタブレットが本当に使われていないのは、前のブログでも紹介したChitikaのネットアクセス統計でわかります。

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このグラフの縦軸は、iPadのインプレッション100回に対してどうかという数字です。つまりGoogle Nexus 7は約0.8%のインプレッションシェア、Kindle Fireは0.6%のインプレッションシェアということになります。市場アナリストが言うようにこれらの製品が本当に売れているのであれば、全然使われていないということになります。

簡単な話、誰も使わないタブレットを売るためには$199の価格をつける必要があります。逆にどんなに使えない役立たずの製品でも、$199を切っていて、プロモーションがしっかりしていればかなりのは数が売れます。これはNetbookと同じ価格帯です。

iPadのように「使える」タブレットを売るのであれば$300以上しても大丈夫です。

これから成功するタブレット

昨日のブログ“Androidタブレットの現状についての考察”でAndroidの7インチタブレットはマーケットシェアこそ高いと推測されているものの、実際にはあまり使われていないことを紹介しました。どうやら購入直後だけ使われて、数ヶ月でほこりをかぶるようです。

推測になりますが、タブレットの主要用途であるウェブを見ること、メールをすることにおいて、7インチタブレットは使い勝手が悪く、その結果として使われなくなるようです。

それではちゃんと売れて、そして使われるタブレットの条件はなんでしょうか。そのようなタブレットの代表がiPadですので、iPadのマーケティングコンセプトに立ち返りながら考えてみます。

新しいカテゴリーは両挟みのカテゴリーを超えなければならない

AppleがiPadをアナウンスしたとき、Steve JobsおよびApple経営陣が強調したのは、スマートフォンよりも、そしてラップトップよりも優れたものを作らなければならないということでしました。ウェブを見るのにラップトップよりも優れたデバイス。同様にメールや写真、ビデオを見るにも、そして音楽を聞くにも、ゲームをやるにしても、eBookを読みにしても、このすべてのタスクにおいてスマートフォンよりもそしてラップトップよりも優れたものを作らなければ、新しいカテゴリーは生み出せないというのがSteve Jobsの論点でした。そしてiPadはこの非常に高い基準を満たしているという主張でした(以下のビデオの7:00前後)。

普通に考えるとタブレットはスマートフォンとラップトップの中間に位置するカテゴリーです。少なくとも物理的サイズはそうです。したがってスマートフォンの特徴である持ち運びのしやすさと、ラップトップの特徴である画面の大きさや高い処理能力を併せ持つもの、しかしそれぞれを個別に取り出したときにはスマートフォンにもラップトップにも劣るものを作りがちです。持ち運びのしやすさはスマートフォンとタブレットの中間、そして画面の大きさも中間、処理能力も中間のものを作りがちです。物理的にそうせざるを得ないのです。しかしSteve Jobsが言うのは、これでは新しいカテゴリーとして成功しないということです。

Steve Jobsは、仮に物理的な処理能力が劣ったとしても、タブレットはラップトップよりもウェブを見るのが便利にならなければならないし、メールをやるのが便利にならなければならないと考えていました。そしてそれを実現しました。実際にiPadでウェブを見るとすごく快適です。ウェブページを表示する速さにしても一見するとラップトップに引けをとりません。Flashなど余計なものを外したおかげで、そして様々な最適化をすることで、非力なCPUでも高速にウェブページを表示できるようになっています。

またiPadの画面サイズはどうしてもラップトップにはかないません。しかしダブルタップするとウェブページの特定の部分を簡単にズームできるなどのソフトウェアの工夫をすることによって、画面サイズのハンディを乗り越える対策が随所にあります。

このようにiPadが成功したのは、中間的なカテゴリーだったからではありません。スマートフォンとラップトップの両市場の真ん中に大きな穴が開いていて、そこを埋めたからではありません。そんな穴はなかったんです。iPadが成功したのは、一般の人がラップトップを使う大部分の用途においてラップトップを超えたからです。

メディアタブレットの市場は存在しない

7インチタブレットはメディアタブレットであると考える人たちがいます。Amazonなどで販売しているビデオやeBookを読むのに適したものであれば、スマートフォンとラップトップを所有している人であってもメディアタブレットを購入するだろうという考え方です。

確かに一部のマニアはそうするでしょう。でも一般の人はメディア消費専用のタブレットは望んでいません。タブレットはウェブを見たり、メールをやるためのデバイスです。タブレットで映画を見る人はわずかしかいません。

繰り返しになりますが、スマートフォンとラップトップ市場の間に未開拓の新しいカテゴリーは存在しません。メディアタブレットは幻想です。

考えてみてください。スマートフォン + タブレット + ラップトップを持ち歩く人は、普通の人の視線から見れば変態です。

タブレットが成功するにはラップトップの代替になるしかない

タブレットがスマートフォンになることは物理的に不可能です。タブレットはポケットに入りませんから。耳に当てるのは馬鹿馬鹿しいから。

そして新大陸のような第三のカテゴリーは、水平線上の蜃気楼でしかありません。

したがってタブレットはラップトップの代替になるしかありません。ラップトップのパワーと大画面を持ちながら、同時に使いやすく、持ち運びしやすく、電池が持つものでなければなりません。ラップトップの機能の80%を持ちながら、ラップトップを超える便利さを持たなければなりません。それができなければ売れません。

こう考えると今後売れるタブレットの予想は簡単です。

成功するタブレットの条件

  1. ウェブを見ること、メールを読むことなどの主要タスクにおいて、ラップトップをほぼ完全に代替できること
  2. ラップトップユーザが無理なく、徐々にタブレットに移行できること
  3. 画面が小さいにもかかわらず、ズームが優秀だったり、スペースが無駄なく利用されているために、不便さがないこと
  4. CPUパワーがないにもかかわらず、写真やビデオ、ゲーム、音楽の管理などCPUパワーが必要な処理が可能であること
  5. 上記のいずれかにおいて、マーケットリーダーのiPadよりも明確に優れていること

マイクロソフトがWindows 8とSurfaceタブレットで狙っているのはこのリストの2番目です。ラップトップユーザは依然としてWindowsユーザが圧倒的に多くいます。ですからリストの2番目では、特に企業においてiPadを凌駕できる可能性が十分にあります。

Android? 提案できる新しい価値が何もないときは価格を下げるしかありません。Netbook戦略です。

iPad mini? 新しいカテゴリーではありません。あれはiPadです。13インチ MacBook Airと11インチ MacBook Airの関係です。

Steve Jobs in 2003

2003年、iPhoneを販売する前、iPadを販売する前、しかしおそらく頭の中にはiPadを描き始めていた頃、Steve Jobsはインタビューの中でタブレットのコンセプトをディスります(下のビデオの7:30以降)。

この中でiPadの製品コンセプトに関わる話がいくつか出てきます。メディアタブレットというコンセプト(ここではコンテンツを消費するためのタブレット。9:25ごろから)についても言及します。

教訓:中間的なカテゴリーは難しい

中間的なカテゴリーは製品を作るのは簡単です。両挟みのものを超えようと思わなければ。世の中はそういう製品であふれています。

マーケティング部門は、新しい製品アイデアが思いつかないと、すぐに中間的なカテゴリーを作り出します。

でも売るのは難しいのです。すごく難しいのです。両挟みのもので足りているから。

コンテンツの消費をビジネスにするAmazon、コンテンツ制作をビジネスにするApple

Amazonの新しいKindle Fire HDの発表を見て、AppleとAmazonが今後覇権を争うようなことを言っている評論家がインターネット上にたくさんいましたが、僕はあまりそう思いませんでした。

確かにAppleとAmazonはかぶるところが多いのですが、両者のイノベーションの方向が根本的に違うのです。

AppleはIT技術を通して、コンテンツを制作するツールをプロ及び大衆に提供する会社です。これは昔ではDTP、そして最近ではiLife, iBooks Authorなどで見ることができます。iPod発売前にiTuneが出た当初も宣伝コピーは”Rip, Mix, Burn”であり、単に音楽をPCで消費するのではなく、Mixという創作活動に大きなウェイトが置かれていました。

AmazonはタブレットPCをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置づけていて、その意味においては確かにコンテンツを握っていることが市場で非常に大きな力になります。

AppleはiPadをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置ていません。近い将来にはPCに代わるデバイスとして位置づけています。iPhotoやiMovieで音楽やビデオを編集することができますし、Garage Bandで音楽を作ることができます。スケッチをしたりするためのアプリケーションもサードパーティーからたくさん提供されていますし、Pagesをはじめとして文章を書くためのアプリも充実しています。

Amazonは世の中の見る価値のあるコンテンツは市場で発売されているものであり、それはAmazonを通して買ってもらいたいと思っています。

対してAppleは、創造力は誰にでもあり、誰でも高品質なコンテンツが作れるようにすることを一貫して会社の使命と考えています。

Appleもコンテンツを消費するためのツールはあり、そこはAmazonとかぶります。iTunes, iPodとApple TVです。iPadは違います。

個人的にはAppleのようにメディアの可能性をとことん追求して、新しいチャレンジをどんどんしてくれる会社がうれしいです。メディアの可能性はたくさん残っています。Amazonにように既存コンテンツの消費方法だけに注力するのは、世の中全体としては実にもったいない話です。

スマートフォン市場の異常さ

先日のApple vs Samsungの訴訟を受け、またそれに対するいろいろなリアクションを見ながら、スマートフォン市場の特殊性について考えてみました。

以下、メモ;

  1. iPhoneは一夜にして携帯電話市場をがらりと変えました。携帯のデザインを一変させたばかりではなく、携帯にできること、ウェブを見ること、メールを読むこと、アプリを買うことの状況を一変させました。ユーザインタフェースを一変させました。当時はAndroidですらキーボード中心のBlackberryのような製品を想定したOSでしたが、iPhone後は方向を180度変えてタッチインタフェースを真似ました。
  2. 他の会社が注力していなかったタッチインタフェースを早い段階から研究開発していたAppleが、数多くの特許を独占できたのは自然なことです。タッチインタフェースを発明したのはAppleではないのですが、それを実際に製品に応用していくところの特許は圧倒的にAppleが保有していて、独占状況に近いです。こうなったのはひとえに他社が注目していない頃にタッチインタフェースを突き詰めたからです。
  3. それまでの携帯電話はパソコンと比較して大きく見劣りしていました。性能はもちろんのこと、ソフトウェア面でも圧倒的に単純なものでした。iPhoneはその状況を一変させます。iPhoneのOSであるiOSは、土台がMacOS Xと同じです。そしてMacOS Xで初めて導入された数多くの先進的な技術が含まれています。例えばグラフィックスやアニメーションの描写などがそれです。iPhoneは初代Macintoshから数えて20年余の技術の上に立つ製品です。パソコンで蓄積された技術を携帯に持ち込んだ製品です。しかしパソコンの世界では一般消費者向けのオペレーティングシステム技術はたった2つの会社しか持っていませんでした。AppleとMicrosoftだけです。このことが何を意味するかというと、iPhoneにまともに対抗できる製品を作れるのは基本的にMicrosoftしかなかったということです。GoogleがAndroidを開発できたのはJavaをハイジャックしたりiPhoneを真似たからであり、自社技術を積み重ねてつくることはできなかったのです。かなり近道をしているので、特許を数多く侵害したのは自然なことです。
  4. NokiaはAndroidの携帯を開発しませんでした。そうではなくWindows Phoneに賭けました。なぜかというとAndroidでは差別化は不可能と考えたからです。これについてはCNETの記事で紹介されています。実際に現時点でのAndroidの状況を見ると、Androidスマートフォンで儲かっているのはSamsungだけで、他のメーカーは差別化に苦労し、高い価格で製品が売れずに儲かっていません。(もちろん一番儲かっているのはAppleですが)
  5. SamsungだけがなぜAndroid陣営の中で儲けることができているか?もちろん社内に高い技術力を持っているのは有利だとは思いますが、むしろ大きいのは、ハードもソフトもiPhoneに似せたからではないかと思われます(SamsungはAndroidを改変して、よりiPhoneに似せました)。つまりスマートフォン市場の中では、ほぼiPhoneに似ているか似ていないかだけが差別化につながっていると言えます。

以上をまとめると、a) 知的所有権ではマーケットリーダー1社が圧倒的な有利な状況があります、 b) スマートフォン市場での差別化ポイントは、現時点ではマーケットリーダーの製品に似ているか似ていないかの1点に絞られています。これがこの市場の特殊性です。

MicrosoftのWindows Phoneが売れていけば、a)の問題は解決されます。Microsoftはパソコン関連の知的所有権をたくさん保有していますし、その一部はiPhoneでも使われているでしょう。MicrosoftはAppleとクロスライセンス契約をしていると言われていますので、Windows PhoneはAppleに訴えられる可能性がぐっと少ないです。

b)の差別化についてははっきりわかりません。NokiaはMicrosoftと早い段階からパートナーになることによって、他社のWindows Phoneでは得られないような差別化ポイントを手に入れようとしています。パートナー契約の内容に依存しますが、確かにそうなるかも知れません。Windows PhoneはiPhoneとはかなり違うユーザインタフェースなので、現在の差別化ポイントの一極集中は解消していくでしょう。

そうなればスマートフォン市場も多少はまともなものになっていくかも知れません。

AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと

SamsungがiPhone, iPadのデザインを真似たとしてAppleがSamsungを訴えていたアメリカの裁判は、2012年8月24日に、Appleの勝訴でひとまず幕を閉じました。

その内容をカバーした記事はネットにあふれています。特に良いと思ったのはAllThingsDの特集でしたので、詳細を知りたい方は英語ですがご覧ください。

今回の裁判は一般人による陪審員裁判でしたので、特に興味深いのは判決の理由です。
陪審員の一人とのインタビューが紹介されていますので、ご覧ください。

陪審員の人が判決の中で一番重視した証拠を聞かれて、こう答えています;

The e-mails that went back and forth from Samsung execs about the Apple features that they should incorporate into their devices was pretty damning to me. And also, on the last day, [Apple] showed the pictures of the phones that Samsung made before the iPhone came out and ones that they made after the iPhone came out. Some of the Samsung executives they presented on video [testimony] from Korea — I thought they were dodging the questions. They didn’t answer one of them. They didn’t help their cause.

彼が言及しているのは以下の証拠と思われます。

  1. 「iPhoneとGalaxyを比較するとGalaxyのここがいけていない。よってiPhoneに似せるべし」というサムスンの内部資料。
  2. グーグルとのミーティングでグーグル側が「アップルとソックリすぎだからちょっと変えた方がいいんじゃないか?」と言ったというメール。

この判決に対する印象は様々ですが、私の印象は「相当に常識的な判断が下された」というものです。

この判決でAppleの力が強大になり、競合を閉め出し、結果としてイノベーションが停滞するのではないかという議論があります。特にネット関連の評論をしている記者やブロガーの多くがこの主張をしています。私は決してそうは思いませんが、彼らの言っていることは一理があることは否定はしません。

ただ陪審員が下した結論はもっと単純明快で

他の会社が何年もかけて苦労して開発した画期的な技術を、悪意を持って意図的に真似てはいけませんよ!

ということだと感じました。

良い判決だったと思います。

さて今後どうなるか。以下ではこっちの方を大胆に予想してみたいと思います。 Continue reading “AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと”

どうしてiBooks Authorのデジタル書籍はAndroidで動かないのかについて考えてみる

iBooks Authorのデジタル書籍はアップル独自のファイルフォーマットを使っていて、現時点ではAndroidなどでは動かせません。

理由はいくらでも考えられます。

  1. 競合のAndroidを助けたくないから。
  2. そもそもAndroidのタブレットなんて無視できるぐらいしか売れていないから。

などが普通の考える理由でしょう。

でももう一つ理由があります。

それはAndroidではうまく動かないからというものです。 Continue reading “どうしてiBooks Authorのデジタル書籍はAndroidで動かないのかについて考えてみる”

HTCが侵害しているという特許は何の特許なのか

Appleが特許訴訟でHTCに限定的な勝利を収めたという話題にネットで流れています。でもその特許が何なのかをちゃんと紹介しているものはほとんどありません。

やっとしっかりしたものを見つけましたので、紹介します。

栗原潔 (テックバイザージェイピー)「Appleが特許戦争でHTCに限定的勝利」

要約した上で私の見解を補足します。

特許の対象と回避策

  1. 侵害はHTCに限らず、Androidを使っているすべての機器が対象。(問題となっているのはAndroidのLinkifyという機能。
  2. HTCの言う回避策というのは、Linkify機能を使わなくすること、削除することです。代替策を講じる訳ではなさそうです。
  3. 問題となっている特許は、メールテキストなどの内容のうち、電話番号、住所、ウェブサイトの内容を自動的にリンクに変換する技術をカバーしています。今日のメールソフトでは当たり前となっている機能です。(詳解はこちら

この特許の影響

この特許だけでも以下のようになると私は予測します。

  1. 代替案が見つからない限り(そして特許を見る限り代替は難しそうです)、Googleは少なくとも新OSではLinkifyを外すでしょう。侵害を知りながら配布し続けると、訴訟時の賠償額が3倍になるそうですし、携帯端末メーカーもこれを避けたがるでしょう。
  2. 結果として新しいAndroid端末からはLinkifyの機能は削除されます。
  3. Linkifyの機能はスペック表に現れるものではありませんので、短期のAndroid端末の売り上げには影響はありません。
  4. しかしLinkifyの機能は今日のメールソフトでは当たり前の機能です。ましてはパソコンよりもコピーペーストがやりづらいスマートフォンの場合は、より重要性が高い機能です。したがってほとんどのユーザは不便さを強く感じるでしょう。

なおAppleとMicrosoftは1997年に特許紛争の和解をしていて、そのときに広く特許のクロスライセンスをしました。今回の特許についてもMicrosoftにはライセンスがあるはずです。したがってWindows Phoneは訴訟の対象にはならないはずです。

ドコモのiPhone発売は必然だから、その先を考えてみる

ドコモからiPhoneが2012年の夏に発売されるという情報が報道されました。
ドコモ、来年夏にiPhone参入(日経ビジネス)

後にドコモがこれを公式に否定したようですが、大方の見方はやはりドコモがiPhoneを投入するだろうという考えのようです。

まぁ、それはそうでしょうという気もします。

10月半ばにKDDIが投入したiPhoneは好調です(ウレぴあ総研)。実際にSoftbankからKDDIに移るには多くの障害があるのですが、それでも良く売れています。SoftbankでiPhone 4を購入した利用者はまだ短くても一年弱の月賦を残しているはずですが、それでも販売数が競っているのは大変なことです。

MNPの転入についてはiPhone 4S販売が2週間分しかない10月の統計で、既にKDDIは転入超過首位になりました。11月がどうなるか、興味深いところです。

こうしてドコモがどこかの時点でAppleの条件を飲んでiPhoneを販売しないといけないのは、まぁ必然でした。

そういう当たり前のことを話してもしょうがないので、今後どうなるかを予想してみようと思います。

  1. Android販売数への悪影響:ドコモのユーザは当然Androidを買い控えするでしょう。
  2. iPhone販売数への悪影響:特にSoftbankユーザで電波に不満のある人の一部はauに移るのをパスして、ドコモを待つでしょう。月賦も残っているでしょうし。
  3. Android全体への悪影響:一年経ったら、もうAndroidを買う明確な理由がなくなる訳ですから、Androidそのものの将来性が不安視されるでしょう。
  4. Androidに悪影響があるということは、Android端末を販売しているメーカーにとって大きな打撃だということです。

ようするにドコモにしてもauにしてもSoftbankにしても、また日本の携帯メーカーにとっても、この報道は本当に困ったものです。もちろん消費者に取っては、事実ならプラスの報道ではありますが。

Steve Jobsがリークを非常に厳しく取り締まったワケもよくわかります。