東芝のルンバもどき(スマーボ)はなんであんなに高いんだ?

アップデート
少しGoogleで調べたら、iRobotは特許を積極的につかって競合をかなり牽制しているようです。
東芝がこれだけセンサーを使ったりしているのは、恐らくは特許回避のためでしょう。
iRobot Settles Patent and Copyright Infringement Lawsuit to Protect Roomba Floor Vacuuming Robot

Ah robo東芝が2つのCPU、38個のセンサー、カメラなどを搭載したロボット掃除機(名前は「スマーボ」。要するに「ルンバ」もどき)を10月1日に発売するそうです。実売予想価格は9万円前後。月次販売目標は5,000台だそうです(正確な数字はわかりませんが、それに対してルンバはおそらく2010年で年間10万台を販売)。

この掃除機、何がすごいかというと価格がすごい。これでルンバの半分ぐらい売れるかもという販売予想の大胆さもすごい。

Amazonで”roomba”を検索してみるとわかりますが、ルンバは¥34,780のルンバ530から¥82,800のルンバ780まであります。新しい東芝のロボット掃除機スマーボは、後発でありながら最上位機種よりも高い9万円のモデルだけを用意します。

数年経った後の後発メーカーなのに、うんと高い。常識では考えられないマーケティング戦略です。常識的に考えれば売り上げ目標は大幅未達で終わるでしょう(だから半年ぐらい待てば、在庫処分の大安売りがあるかも)。

何でこうなってしまったのでしょうか。 Continue reading “東芝のルンバもどき(スマーボ)はなんであんなに高いんだ?”

HPがPCビジネスを分離(売却)を検討するという話で思うこと

HPがPCビジネス分離を検討しているということで、いろいろ思うことをリストアップします。調査はまだあまりしていないのですが、懸念はたくさんあります。

そもそも何のためにHPはCompaqを買収したのだろうか

  1. HPは2002年にCompaqを買収したおかげで世界一のパソコンメーカーになりました。でも利益率は低く、こうして10年もしないうちに売却を検討されてしまうようになりました。HPはいったい何が目的でCompaqを買収したのでしょうか。その目的は果たせたのでしょうか。
  2. 2002年のCompaq買収を強引に押し進めたのは当時のCEOのCarly Fiorina氏。HPを退職した後はいろいろなところで取締役をやって、いまは共和党政権で政治活動をしています。僕自身も何回か転職をして思いましたが、採用で重視されるのはもっぱら経験の有無であって、やったことが成功したか否かは不問に近いです。その傾向は幹部になればなるほど強いのでCarly Fiorina氏はまだ元気ばりばりです。

HPのPCビジネスを買うのは誰か

  1. PC市場は先進国では停滞しているので、買収する企業は発展途上国市場へのアクセスが強いところに限定されるでしょう。LenovoがIBMのPCビジネスを買収したのと同じ構図です。
  2. IBMがPCビジネスを2004年に売却したのも今回と理由は同じで、PCビジネスは利益率が低く、今後の大きな成長が見込めないと考えたからです。そのときの額は12億5千万ドルだったそうです。2004年の時にも既にPost-PCは言われていませんでしたが、脅威となる具体的な製品はまだ見えていませんでした。それから7年間。iPhoneが登場し、Netbookも一時的に流行し、そしてiPadが爆発的に売れました。12億5千万ドルだって決して高額ではありませんが(例えばGoogleはMotorolaを10倍の125億ドルで買収しました)、それよりもかなり安い価格でPCビジネスが売却されるでしょう。

HPの戦略は何だろう

  1. HPは表向きにはITサービスはソフト事業の強化を挙げて、今回のPCビジネス売却検討の理由としています。しかしプリンタ事業はしっかり残すようです。つまり今回の話は、本当の意味での戦略的な選択と集中ではなく、単に利益率が低いビジネスを切り捨てるというものです。もちろん株主としては合理的なやり方ですが、ビジョンを持ったやり方だとは思えません。
  2. そもそもなんでプリンタ事業は儲かるのでしょうか。2000年頃はいろいろなイノベーションがあってインクジェット式のプリンタが登場してきましたが、あれ以来、新しい話はほとんど聞きません。有名な話ですが、キャノン共々、特許で新規参入を徹底的に排除し、そして高額なインクを売って儲けているのがプリンタ市場です。消費者から利益を搾り取っているだけのビジネス、早くiPadなどでPaperless化が進んでくれたり、みんなが年賀状を出さなくなったりしてくれればイチコロのはずですが。。。

Appleはなぜ成功しているのだろうか

  1. HPがPCビジネスから撤退すれば、米国メーカーはDELLとAppleだけになります。特にAppleは絶好調で、Macは先進国でもぐんぐん売り上げを伸ばしています。いったいAppleの何が良かったのだろうか、考えさせられます。
  2. そのApple。大変な業績不振で1997年頃には破産の危機が迫っていました。アナリストはほぼ全員、Appleのビジネスモデルが間違っていると断じ、Wintel連合のようになるべきだと主張していました。つまりAppleはOSとハードウェアを切り離し、ハードウェア専業メーカーの活力を活かすべきだとしていました。Appleは結局その正反対のことをやり、クローンメーカーを排除し、ソフトとハードの垂直統合を強めていきました。全員が言っていたことの正反対をやったら大成功したというのは、非常に大きな意味があります。

他の業界への示唆

  1. 製造業がアジアにシフトしていくのはPC業界だけではなく、他のいろいろな市場でも起こっています。ですからここで起こっていることを他の業界に当てはめることはできそうです。
  2. PCを含めたIT業界について言えば、製造は既にアジアにシフトしていました。Appleの製品(少なくとも日本市場向け)はずいぶん前からシンガポールや中国などで製造されていましたし、DELLやHPにしても同様でしょう。HPがPCビジネスから撤退するのは、人件費が安いアジアに製造業が移るのとは全く話が違いします。
  3. むしろPCビジネスがアジアにシフトするのは、成長率の高い市場がアジアに集中しているからです。メディアで話題になりやすいのは人件費の問題です。しかし実際には、業界による程度の差こそあれ、製造業がアジアにシフトしているのはアジア諸国の購買力が牽引しているからです。
  4. AppleのMacが元気なのは、先進国市場で魅力のある製品が作れているからです。家には古いパソコンがあるけれども、新しいMacを買ってみたい。そういう気持ちにさせる製品を作っているからです。
  5. それに対してHPやIBMなどが作っていたWindows PCは先進国で買う人がなくなってしまいました。家に古いパソコンがあるし、新しいWindows PCと大差なくインターネットにつながるみたいだから買うのはやめておこう。Windows PCはそういう製品が多くなってしまいました。
  6. 一方で発展途上国の人はいままでパソコンを持っていない人が主な顧客です。インターネットにつながりたいからパソコンを買うのであって、それさえできれば安いものがいいのです。
  7. 総括すると、最低限のこと(インターネットにつなげること)以上の魅力を見せているのがMac。それができていないのがWindowsです。だからMacは先進国でも売れ、Windowsは発展途上国でしか成長できないのです。(もちろん先進国でもインターネットさえできればいいという人はたくさんいますのでWindowsは売れます。しかしもう成長しないのです。)
  8. 他の業界でも同じです。テレビでも車でも何でもそうだと思います。製造業が先進国に残るためには、先進国での市場が拡大し続けるか、あるいは古い製品を超えた魅力を常に提供し続けることが必要です。要するにイノベーション。

GoogleのMotorola Mobility買収と絡んで

  1. Motorola Mobilityの事業も将来はこうやって売却されるのねって思ってしまいました。

GoogleがMotorola Mobilityを買収したことで思うこと

GoogleがMotorola Mobilityを買収する計画を発表し、いろいろな考えがウェブで交錯しているようです。

僕自身はまだ十分に考えをまとめている訳ではありません。しかしこの買収、あまりGoogle社内で熟慮されていないように感じられるのが非常に気になります。

気になることをとりあえずリストアップしておきます。

Motorolaを買収してもAndroidの知的所有権の問題が解決されない可能性がある

  1. Google CEOのLarry Pageは声明の中で、Androidを知的所有権関連の訴訟から守ることが大きな役割であるとしています。
  2. しかし本当にMotorolaを買収することよってAndroidに対する訴訟で有利になるのでしょうか?どうも不透明な気がします。僕が最も参考にしているFoss Patents Blogでも、訴訟で有利にならないという立場をとっています($2.5 billion Google-Motorola break-up fee reflects sellers’ concern and buyer’s desperation, First reaction to Google/Motorola announcement, Oracle v. Google update: summary judgment pressure and Motorola Java license fallacy)。

Googleは退路を断った

  1. GoogleがAndroidを捨て、検索と広告に再度集中する戦略はいままでは合理的な選択肢の一つでした。しかしMotorolaの買収により、Googleはもはや後戻りができなくなりました。多数の特許紛争を抱えるAndroidが大コケする可能性は決して少なくありませんが、そのAndroidと運命をともにする決断をGoogleの経営陣は下しました。これはGoogleの根幹である検索と広告のビジネスを危険にさらす覚悟があるということです。
  2. PCの世界ではMicrosoftとAppleだけがOSを作っています(Linuxは除く)。それでもGoogleはPCからの広告収入に全く困っていません。同様に考えると、GoogleはAndroidがなくてもモバイルから多くの広告収入が得られそうです。ここまでして退路を断ち、根幹のビジネスを危険のさらす必要が本当にあるのか、かなり疑問に感じます。
  3. GoogleはMotorolaを買収したことによって、Android Phoneの売り上げに直接責任を持つようになりました。いままではAndroid Phoneが売れようが、iPhoneが売れようが、あるいはWindows Phoneが売れようが、ブラウザがある限りGoogleの売り上げにはプラスでした。しかし今度はAndroid Phoneが売れない限り、Motorolaの売り上げは落ち込みます。つまり今までのGoogleの売り上げはAndroidの成功失敗とは直接連動していなくて、Androidが大コケをしたところでGoogleの売り上げには響きませんでした。しかしMotorolaを持っていることで、GoogleはAndroidの浮沈に直接影響を受けます。
  4. Motorolaにしても、今までは仮にAndroidが失敗してもWindows Phoneに乗り換えれば良かっただけです。Androidがコケても、大きな問題ではなかったのです。実際にWindows Phoneの検討を始める動きも見せていました。しかしGoogleに買収されたことによってMotorolaはこのようなリスク分散ができなくなりました。MotorolaもまたAndroidに集中することを余儀なくされ、退路を断たれた格好になりました。
  5. 結果としてAndroidの浮沈に直接影響を受けていなかったGoogleとMotorolaの両社が、今後はAndroidと運命をともにすることになります。

Samsung, HTCなどのAndroid離れが加速され、Windows Phoneへの移行を真剣に検討することはほぼ確実となった

  1. 今の特許紛争を考えれば、SamsungとHTCがAndroid以外にWindows Phoneを取り入れることはどっちみち必然ではありました。それでもまだまだAndroidを主力と位置づけるだろうと思われました。しかし今回の買収によって、Android離れが加速することは確実です。
  2. Motorolaの持っている特許によってAndroid陣営の立場が強くなり、AppleやMicrosoft, Oracleなどからの訴えに対抗できるようになるという議論はあります。ただこれで各パートナーメーカーが安心するかは甚だ疑問です。
  3. 結果としてAndroidの成長は今年までではないかと思います(少なくとも先進国では)。各メーカーはWindows Phoneに本腰を入れていくでしょう。

どうしてGoogleはパートナーメーカーが嫌がるの承知の上でMotorola買収に踏み切ったのか

  1. 知的所有権に関する訴訟の問題で、Googleがワラをも掴む思いだった可能性。Androidが販売差し止めにされてしまっては、パートナーメーカーもへったくれもありません。それぐらいの思いでGoogleがMotorolaの買収に踏み切った可能性があります。
  2. Appleのような垂直統合が必要だと考えた可能性。しかしAndroidのマーケットシェアだけ考えると、水平分業でもうまくやっていけそうに思えます。これだけ大きな賭けをしてまで買収に踏み切るほどの理由にはなりません。

Motorolaはどうなるか

  1. 今までのMotorolaの経営陣が優秀だったとは思いませんが、このような形で買収が行われると、Motorolaは数年間リーダー不在の状態になると予想されます。
  2. まずMotorolaでリーダーシップを持っていた人間が社外に逃げる可能性が高いこと。それと残ったリーダーもGoogleの様子をうかがいながら判断をしていくことになるので、明確な決断を下しにくいこと。Motorola社内でこの2つのことが起こるでしょう。これが事実上のリーダー不在な状況を作り出します。一寸先が読めないモバイルのビジネスではリーダー不在は致命的です。
  3. リーダー不在な状況を作り出さないために、Motorolaの現在の経営陣に代わるリーダーシップチームをGoogleは遅くとも半年までの間に整えなければなりません。新しいリーダーシップチームはMotorolaの新しい戦略を明確に描いていないといけません。Googleがこのようなチームを短期間で作れるかどうか如何で、Motorolaビジネスの浮沈がかかっています。危惧するのは、Googleはそれどころではないことです。訴訟への対応に追われ、Motorolaの戦略はおざなりになる可能性が非常に高いと感じています。
  4. 結果として、Motorolaのビジネスは来年から大きく売り上げを落とすでしょう。SamsungやHTCにどんどんシェアを持っていかれそうです。

僕が予想するシナリオ

今後どのような展開になるのか、勝手に予想してみます。

  1. Googleは当初発表した声明どおり、Motorolaを特別扱いすること無く、パートナーメーカーを大切にした立場を取るでしょう。一方でMotorolaはリーダー不在の状況に陥り、SamsungやHTCに対抗し得るヒット商品が出せず、一気に売り上げが落ちるでしょう。
  2. GoogleはMotorolaの知的所有権を引き継いだものの、Apple, Oracleとの訴訟では劣勢が続くでしょう。いくつかの国や地域でMotorolaの製品そのものが販売できない状況が生まれるでしょう。
  3. Googleはこの状況を受けてAndroidを捨てるものの、携帯電話用OSの開発をあきらめることができないでしょう。そこでChromeOS的なモバイルOSの開発をはじめるでしょう。ちょうどMozilla Foundationが発表したBack to Geckoのようなプロジェクトのなりそうです。ただその頃にはWindows Phoneも普及し始めているでしょうから、この新しいOSは全くメーカーに採用してもらえないでしょう。
  4. SamsungやHTCなど、Smartphoneの大手メーカーは単純にWindows Phoneに移行するでしょう。iPadに対抗するタブレットの開発も行うでしょうが規模は縮小され、本腰を入れるのは自社のOS(例えばSamsungのBada)を待つか、あるいはWindows 8を待つことになるでしょう。現時点でiPadに対抗するのは無理だという判断を下すと思います。
  5. Googleにとって最も危険なのは、ビジネスの根幹である検索と広告を脅かされることです。Androidビジネスが経営資源を検索&広告から奪っているとしたら、これは大問題です。ただGoogle + Motorolaという会社では、社員の大半がAndroidに関わる可能性だってあります。未だに有力な対抗馬は見えませんが、Googleが検索と広告でのリーダーシップを失う危険性は現実味を増してきていると感じています。

AndroidがEUで意匠権侵害で販売仮差し止めになって思うこと

GoogleのモバイルOS Androidが特許を侵害しているとして非常に多くの訴訟に巻き込まれ、またSamsungがGalaxy TabおよびGalaxy S IIで意匠権を侵害しているとして販売差し止めの訴えをAppleより起こされていることは、このブログで何回も取り上げています。

8月9日にはEUでSamsung Galaxy Tab 10.1がEUで販売仮差し止めになったということが報じられ、8月1日には同様の判断がオーストラリアでもくだされましたヨーロッパではMotorola Xoomも同じく意匠権で販売差し止めの訴えを起こされているようです。

一方でGoogleはこのような特許訴訟がイノベーションを阻害しているとブログで訴えています。ただGoogle自身が強力な特許に守られながら大きくなった会社であることや、特許以外の知的所有権に対するGoogleの姿勢にも甚だ疑問があることなどをあげて、Googleは単に自分に都合の良いことを言っているだけではないかという意見もあります。

携帯電話やソフトウェアに関する特許は確かに複雑なようで、各製品には多数の特許が含まれ、メーカーは互いに複雑なクロスライセンスをしているという現状はあるようです。そもそもソフトウェアには特許を与えるべきではないという議論もあるようです(私自身はその根拠が理解できませんが)。

さて私自身は製薬企業にいるときに、間接的に出はありますが、1990年代の半ばの遺伝子特許の問題を見てきました。この時代はシーケンス技術の発達のおかげでヒトゲノムプロジェクトなどが本格的に開始された時期です。それまでの時代と大きく変わったのは、A) 生命現象があって、それからその原因となっている遺伝子を特定するという研究のやり方に変わって、B) まずはシーケンスを闇雲にやり、遺伝子を片っ端から解読し、配列から有望そうだと推定されたものについて生命現象との関係を探っているというやり方が台頭してきたことです。いわゆる逆遺伝学(reverse genetics)と呼ばれる手法です。

しかしB)のreverse geneticsを行う際に、最後まで遺伝子と生命現象との関係を見つけるのは意外に困難です。1990年代半ばはRNAiもまだ知られていませんでしたので、ほ乳動物の細胞で遺伝子を欠損させるにはノックアウトマウスを作るしかなかった時代です。したがって現実的にせいぜいできることは、細胞に遺伝子を強制発現させることぐらいでした。遺伝子はいくらでも見つかるのに、その機能がわからないというものが山ほど出てきました。

それでも製薬企業にいる以上、見つかった遺伝子の特許が早く取りたいのです。でも特許は「有用性」が言えないといけません。そこで遺伝子配列からバイオインフォマティックスで導かれた推定機能だけで特許を申請してしまう企業も多く現れました。

果たしてそんないい加減な特許(つまり「有用性」がしっかり書かれていない特許)が成立してしまうのか。法律の世界は簡単に白黒がつくものばかりではないので、企業としては非常に不安でした。多分成立しないと思うけど、成立したら大変なことになってしまう。関係者はそんなことを案じていました。

なぜそんなに不安になるかというと、遺伝子配列そのもので特許を取られてしまうと、特許を所有している企業が非常に有利になると考えられていたからです。特許を申請するときは可能な限り多くの権利(クレーム)を書くことが当たり前のことですが、当時の遺伝子特許には i) その遺伝子配列から生産されたタンパク質はもちろんのこと、ii) そのタンパク質に結合する他のタンパク質を免疫沈降などで発見する実験、iii) そのタンパク質と結合する化合物(医薬品候補)をスクリーニングする実験さえもクリームされていました。したがって遺伝子配列の特許を持っていれば、他の製薬企業がそのタンパク質に作用する医薬品を発見したとしても(それがどんな方法で見つけたにせよ)、ほぼ特許侵害で訴えることができる訳です。

実際に遺伝子特許問題がどのように収束したかは、私もほどなくしてその分野から去ってしまいましたので詳しくは知りません。まだいろいろな問題が残っているという印象は受けています。

ただそういう問題を見てきた人間として感じるのは、ソフトウェア特許以外にも特許制度は非常に難しい問題を抱えているということです。もちろん独創的な発見やイノベーションを行った個人や企業は多いに奨励されるべきですし、特許のような強力な独占権を与えることも場合によって必要だとは思います。しかし科学技術の発展が速いだけに、また様々な利害関係が対立するだけに、法律が時代に追いつくのは難しいのです。そういう状況を考えれば、特許制度は決してベストが実現可能ではなく、「無いよりかなりマシ」ぐらいの存在であるような気もします。

遺伝子特許を議論していた印象からすると、Googleがやった行為が問題になるのはきわめて当たり前ですし、もしあれが許されるのであれば製薬企業やベンチャーが基礎研究をする価値はほとんど失われてしまうとさえ思えます。ベンチャーにとっての最大の資産が特許ということも珍しくないでしょうから、特許侵害まがいの行動が許されてしまったら、製薬産業のイノベーションの構造が覆されるでしょう。

私はそういう目でAndroidの訴訟を見ていますので、どうしてもAppleだとかMicrosoft, Oracleの側に立ちます。

Androidタブレットの終わりの始まり

Androidタブレットの中でも最も評論家の評判が良かったGalaxy Tab 10.1。Appleとの特許訴訟を背景にGalaxy Tab 10.1のオーストラリアでの販売が中断されました

同様の訴訟は9つの国で11の裁判所で起こされていて(東京の裁判所も含まれています)、一番注目される北カリフォルニアのものは10月中旬に結論が出る予定だそうです。Samsungが立場を逆転させる可能性はゼロではないのでしょうが、かなりSamsungは弱気そうだというのが専門家のFlorian Muellerの見解のようです。

何しろ市場規模が大きいので多くの人が注目していますが、ライフサイエンスの研究用製品の世界でもこのようなことは米国で割とあります。販売中止とか輸入禁止とか、一見すると極端な結末ですが、そういうことは十分にあり得ますし、今回はそのレベルにまでエスカレートしている印象です。

つまりAndroidタブレットの一番の人気モデルが、iPadにそっくりすぎるという理由で日本でも販売が中止になるかもしれません。それもかなり高い確率で。

そうなると表題の「Androidタブレットの終わりの始まり」です。

Androidが失速した後に何が起こるか

昨年末、2010/12/14に私はブログでAndroidが特許によって沈められるだろうとブログに書きました。そのことがいよいよ現実になろうとしています。

この件については“FOSS Patents”というブログを運営しているFlorian Muellerが一番の権威で、米国の一般紙でも彼のコメントが誰よりも多く引用されています。

FOSS Patentsが現時点で解説していることの要点は以下の通りです;

  1. Android関連の訴訟は49個にのぼり、異常に多くなっています
  2. Androidの開発に当たり、GoogleはOracleの特許を故意に侵害した可能性が高く、その結果として数千億円程度の賠償金を支払うことになる可能性が高いです
  3. AndroidがMicrosoftの特許を侵害しているとして、HTCはすでにMicrosoftに対して電話機一台あたり5 USDを支払っていると報じられています。MicrosoftはSamsungにも同様な使用料を求めています。結果として既にAndroidはフリーとは言えなくないどころか、高くつく可能性もあります
  4. Androidが特許を侵害しているとしてAppleはHTCを訴えています。その結果として、HTC製のAndroidスマートフォンが米国で売れなくなる可能性が高いです。同様の特許侵害はHTCに限らず、Androidスマートフォン一般に当てはまるため、他のメーカーも訴えられる可能性が高くなっています
  5. Lodsysがモバイルソフトを開発しているいくつかの会社を特許侵害で訴えています。Appleはこれらのソフト会社を守ると一応の見解を出していますが、Googleはまったく何の見解も発表していません。Lodsysの訴訟により、中小のソフト会社は大きな危機に立たされています

さて、これらの訴訟がどのように展開するかは正確には予想できません。しかしはっきりしているのは、Androidが知的所有権がらみで非常に大きな弱みがあること、そしてAndroidを採用したメーカーは最低でも特許所有者に相当のライセンス料を支払わなければならないことです(最悪の場合は売れなくなる)。しかも今後ますますリスクが増大することが予想されますので、メーカーとしては一体どれだけライセンス料を払えば良いのか、どれだけ損害賠償を支払わないといけないのかが分かりません。

携帯電話メーカーにとっては非常に厄介な状態です。

この状況の中で、2011/2012年のスマートフォン/タブレット市場がどうなるか、簡単に予想してみます。

  1. Androidの採用をやめるメーカーが続出するでしょう。Windows Phone 7に関してはMicrosoftが知的所有権の問題をカバーしてくれますので、大部分はこっちに流れるでしょう。
  2. Googleが知的所有権の面倒を全く見てくれないということで、アプリを開発しているソフト会社がAndroidから離れて行くでしょう。その代わり、iOSやWindows Phone 7に流れて行くでしょう。
  3. お金を損するばかりなので、Google社内でもAndroidの開発の勢いが低下するでしょう。ただし中断することまでは出来ないでしょう。
  4. 結果としてAndroidは徐々に失速し、代わりにWindows Phone 7が出てくるでしょう。この間Appleがより多くのキャリアと契約することによって、iPhoneがシェアをますます拡大させるでしょう。
  5. タブレットについてはAppleの独走が続くでしょう。Androidタブレットは現時点で売上げが伸びず、対応アプリも増えていません。特許侵害問題があるうちは各メーカーもなかなか積極的になれないでしょう。またMicrosoftはタブレット用OSとしてWindows 8を用意していますが、これが果たしてどのようなものか全く未知数です。しばらくはAppleの独走を止められそうにありません。
  6. 最終的にはPCの時と同じように、MicrosoftとAppleがスマートフォン/タブレット市場を2分するでしょう。ただしPCの時とは逆にAppleの優位は揺るがないでしょう。Microsoftのタブレット用OSが遅れれば遅れるほど、MicrosoftとAppleの差は開きます。Microsoftにとってのタイムリミットは、企業にiPadが多く採用される前にタブレット用OSを完成させることです。
  7. Appleの最大のリスクは独占企業になってしまうことです。独占企業になると行動が厳しく監視され、イノベーションが制限される可能性があります。Microsoftが早く立ち直ってくれないとこうなってしまう危険性があります。
  8. Googleのブランドは大きく傷つきます。特にハードウェアメーカーを巻き込んだプロジェクト、例えばGoogle TVやChrome OSなどはもはやどこもついて来なくなるでしょう。大切なのは、Googleがコアビジネスに集中できるかどうかです。Android問題でAppleと険悪になったことで、コアビジネスのサーチとインターネット広告に悪影響はでます。引き続き技術革新を続けないと、Bingなどに追いつかれる可能性だってあります。

技術的なことで戦略を決定してはいけないという話

Horace Dediu氏がまたイノベーションと戦略について興味深い議論をしています。

“What Google can learn from John Sculley: How technology companies fail by placing their strategy burden on technology decisions”

私が見る限り、論点は以下の通り;

google-rainbow-apple.png

  1. Adobe FlashはH.264などのビデオコーデェックに比べて垂直統合されているため、コンポーネント技術を最適化しなければならないスマートフォンでは使い難くなっています。またFlashはそもそもがビデオ再生だけを考えると機能があり過ぎて、ギリギリでやっていかなければならない今のモバイルには向きません。
  2. Apple社はJohn Sculley氏がCEOだったとき、技術の優劣に基づいて、Intel社のCISC型PentiumよりもMotorola社のRISC型のPowerPCを採用しました。しかしその判断は誤りでした。そもそもCISC型とRISC型のどっちが優れているかを判断の根拠のするのが間違いでした。そうではなく、どの会社がより長い期間、CPU技術を改良し続けるのかで判断するべきでした。
  3. GoogleはWebMというビデオコーデックを開発し、自社のChromeブラウザにどの規格を採用するかを議論する等、”H.264 vs WebM”や”HTML5 vs. Flash”に労力を費やしています。しかしそういう技術的な問題が大切なのではなく、そもそもスマートフォンでブラウザが重要であり続けるかどうかが重要です。Steve Jobs氏も繰り返していますように、iPhoneユーザはPCユーザに比べるとブラウザで検索することが少なく、長い時間をアプリの中で使う傾向が強くなっています。ですからChromeがどのような規格を採用するかはあまり重要ではないということです。

社内にどっぷり浸かると技術的判断をしがち

これは私が自分の周りを見てずっと思ってきたことです。社内にどっぷり浸かって、技術についての理解が深まれば深まるほど、技術を中心に戦略的な判断をしたり、マーケティングのポジションを考えたりするようになってしまうことがほとんどです。特許の話が絡んでくるとなおさらです。

製薬企業でゲノム研究していた頃は、細胞の分子メカニズムや薬の作用メカニズムだとかにばかり目が行ってしまい、そもそもこの疾患を薬で直そうとするべきなのかであるとか、薬以外の他の療法との関係はどうなのかを十分に知ろうとはしませんでした。ゲノムに注目するべきなのかどうかという議論は言うに及ばずです。

またよくやってしまうのは、自社技術の強みを活かそうという考え方。これを判断の中心においたら、まず間違いなく失敗するでしょう。

マーケティングをやっていたときも常々感じていました。私がクロンテックにいた頃のDNAアレイに対する不思議な情熱はこれです。現時点での技術ではなく、必要なビジネスリソースと長期的な研究開発力の視点が欠けていたと思っています(クロンテック以外のほとんどのDNAアレイメーカーもそうでしたが)。技術に疎い経営幹部ですら、いつの間にか技術中心で戦略を判断することに慣れてしまうのです。

でもそうやっていると、次にやってくる技術のうねりが見えなくなってしまいます。次のうねりは今見ている技術ではなく、違うところから起こってきますので。

「技術(特に現時点の)を中心に戦略を判断してはいけない」

こう肝に銘じておけば、ずいぶんと幅広い視野で物事が見られるようになると思います。

参考:Steve Jobs on OpenDOC

Appleの競合製品は皆Safariベース:イノベーションは土台が大切

スマートフォン市場、特にビジネス向け市場で圧倒的な優勢を誇っていたResearch in Motion (RIM)のBlackberryですが、最近AppleのiPhoneがそのシェアを越えたということが話題になっています。

それに対するResearch in MotionのCEO Jim Balsillieが反論というか強がりを言っている記事がありました。

RIM CEO Jim Balsillie To Steve Jobs: ” You Don’t Need An App For The Web”

この中で、iPhoneの大きな強みがApp Storeにある膨大な数のアプリであることに対抗して、RIMのアプローチはすべてをブラウザでやることだと主張しています。

Balsillie went on to contrast the Blackberry approach to Apple’s when it comes to web apps. There may be 300,000 apps for the iPhone and iPad, but the only app you really need is the browser. “You don’t need an app for the Web,” he says, and that is equally true for the mobile Web. The debate over mobile apps versus the mobile Web. Blackberry is betting on the Web, much like Google.

近々発売される予定のPlayBook Blackberry Tabletにしても、アプリはないかも知れないけれどもWebブラウザがすごく早いよと自慢しています。

でもBlackberryのブラウザはAppleが開発したWebkitベース

Safari.jpgしかしJim Balsillieが自慢しているWebブラウザは実はAppleが開発し、Safariにも使われているWebkitがベースです。

WebkitはAppleが中心に開発しているオープンソースのブラウザ基盤技術で、Nokiaブラウザ、Google Chrome、Palm WebOSにも使われています。次世代スマートフォンの中では圧倒的なシェアを誇っているどころか、現時点ではデファクトスタンダードの感すらあります。

Jim Balsillieが自慢しているWebブラウザの良さって、ほとんどがAppleが開発した技術に由来するのです。なんか変ですよね。RIMだけでなく、iPhoneに対抗しようという製品もすべてAppleの技術を中心にしています。

こんな状況なので、スマートフォンでイノベーションを起こしているのはAppleだけで、Googleを含めた他社は単に追随しているだけというのも仕方がないように思います。

イノベーションは「今」を犠牲にしてでも、土台が大切

AppleがWebkitに取りかかったのは2002年。Mac OS X用の新しいブラウザ、Safariを開発するのが目的でした。オープンソースだったKHTMLをベースに始まりました。

当時はMozillaのGeckoエンジンの方がはるかに成熟していて、そっちをベースにすれば多くのウェブサイトを問題なく表示できるブラウザがすぐに作れるのにと思ったものです。KHTMLをベースにしたため、初期のSafariは多くのウェブサイトで問題を起こし、しばしばFirefoxを立ち上げなければなりませんでした。それでもAppleがKHTMLを選択した理由は以下のメールに記されています。

Greetings from the Safari team at Apple Computer

The number one goal for developing Safari was to create the fastest web
browser on Mac OS X. When we were evaluating technologies over a year
ago, KHTML and KJS stood out. Not only were they the basis of an
excellent modern and standards compliant web browser, they were also
less than 140,000 lines of code. The size of your code and ease of
development within that code made it a better choice for us than other
open source projects. Your clean design was also a plus.

ユーザからすると最初の頃のSafariは確かにスピードは良かったのですが、バグが多くて必ずしも実用的ではありませんでした。Webkitのバグがなくなり、ほとんどのウェブページを問題なくレンダリング出来るようになるまでは何年もかかりました。その間はKHTMLを選択したのは本当に正しかったのか、ユーザとしては疑問に思うことも少なくありませんでした。当時のKHTMLはまだ完成度が低く、完成させるまでにはたくさんの開発が必要だったのでしょう。

しかし今にして思えば、Appleは最高の判断をしました。コンパクトで効率的なWebkitがあるおかげでiPhoneにフルブラウザを搭載できました。他の技術で代用が可能だったか(例えばGeckoをベースに)と言えば、他メーカーもこぞってWebkitを使っていることから判断すると、それはあまり現実的ではなかったとも思えます。

Webkitがここまで成功した理由を考えると、以下に要約できると思います。

  1. Geckoという完成した技術を使わず、土台がきれいでしっかりしているという将来性を見込んでKHTMLを選択しました
  2. その際、はっきりと「今」を犠牲にして、「未来」を選択しました
  3. そしてその「未来」を実現するべく、2002年から継続して開発を行いました

かなり勇気のいる決断をしています。

でもそれがイノベーションの肝なのだと思います。

Apple TVが今度こそ売れそうな気配

Apple TVが今度こそ売れそうな気配がしています。

僕のTwitterのTLでもApple TVを買って、ビデオレンタルを早速している人がいます。これは日本での話。

また一番はっきりしているのがついさっきからインターネット上で話題になっているニューズ。

Amazon.comの電子機器のカテゴリーにApple TVが12-13位で登場したという話題です。もちろん米国での売上げの話です。

まだまだ勝負はこれからですが、広告を全然流していない段階でこれなので、もっともっと期待できるのではないでしょうか。