アップデート
2013/4/14: 破壊的イノベーションとの関連についての考察を追加しました。
3月の初旬に、最新のAndroidがローエンドマシンに向かないという話をしました。そして今では古いバージョンのAndroidで満たされているローエンドマシンの市場にFirefox OSなどが食い込む余地があることを紹介しました。
特に「Firefox OSって破壊的イノベーションになるかもと思う理由」の書き込みでは、AndroidチームのリーダーであったAndy Rubin氏の次の言葉を引用しました。
There are places where Android can’t go,” he said, referring to memory and other hardware requirements. Firefox can help reach those. “For certain markets, it makes sense.
そしてこれをもとに私はこう結論しました。
つまりFirefox OSはローエンド市場にとって魅力のある製品であり、なおかつAndroidは(このままだったら)このローエンド市場に入り込む予定がなさそうです。
完璧に破壊的イノベーションの要件、a) ローエンド市場から入ること、b) 既存のプレイヤーが危機を感じていないこと、が満たされています。
しかし3月13日にAndy Rubin氏がGoogleの人事異動で事実上降格され、Androidの開発を離れることになりました(1, 2)。
問題はこの人事異動の結果、Androidはどのような方向に向かうのか、そしてFirefox OSなどの新規参入OSはどうなるのかです。またiPhoneとの関係についても気になります。それについて考えたいと思います。
Andy Rubin氏が降格された理由についてのアップデート
Andy Rubin氏が降格された理由についていろいろな憶測がありますが、現状ではNicholas Carlson氏によるこの書き込みが一番正しいように感じます。
What we heard is that Larry Page doesn’t mind employing gruff types … so long as they serve his purpose.
Page must have decided that the way Rubin was running Android no longer served his purpose, and that an Android run by Sundar Pichai would.
….
Rubin’s comments indicated a view of Android as something to preserve and protect.
Our source believes that Larry Page isn’t nearly so worried about Android itself. This source says that Page views it as a means to an end.
He says Page views Google as “a cloud services company,” built on cornerstone products like Search, Maps, Mail, and YouTube.
He says Page views Android as a way for Google to partner with hardware-makers to make these services more available to consumers.
自分なりに解釈すると、Andy Rubin氏にとってはAndroidそのものが大切で、これを発展させて守ることが一番重要でした。
それに対してGoogle CEOのLarry Page氏はAndroidそのものはあまり感心がなく、Androidは単なる手段としか考えていません。Larry Page氏はGoogleをSearch, Maps, Mail, YouTubeなどのクラウドサービス会社と位置づけていて、これをなるべく多くの人に利用してもらうための手段の一つとしてAndroidがあると考えているようです。もしAndroidではなくSamsung OSを介してGoogleのサービスを利用するユーザが多くても、それはそれで結構と。
あくまでもAndroidを発展させ、守っていきたいと考えるAndy Rubin氏と、Androidを一手段としか考えないLarry Page氏との間で埋めがたい溝があったと考えるべきでしょう。
Androidを一手段とか考えないというのはどういうことか
Androidを一手段としか考えないということは、おそらく以下のことを意味しています。
- Androidのマーケットシェアは重要ではない。
- GoogleがAndroid陣営を強くコントロールする必要はない。
- iPhone, Firefox OS, TizenなどのOSが勢力を伸ばすのは問題ない。ただしGoogleのサービスを載せてもらうことが大切。
- Androidが一番魅力的なOSである必要はない。
- なるべく多くの人にスマートフォンを利用してもらうことが新しいAndroidの使命。
Andy Rubin氏の元では、Androidを如何にiPhoneと同等にしていくか、如何にiPhoneに追いついて、追い越そうかが開発の主眼でした。しかしAndroidを一手段として考えると、iPhoneがカバーしているハイエンド市場はiPhoneに任せても良いのではないかという判断が可能です。あるいはSamsungが独自開発するのに任せることもできます。その代わりGoogleとしては、まだまだ未開拓なローエンド市場に目を向けるべきではないかという考えになってきます。
どんなことが予想されるか
AndroidとChrome OSの統合はもちろん重要な柱ですが、それ以外のことをここでは話します。
ネイティブアプリからHTML5にシフト
まずAndroidが一番魅力的なOSである必要はないと考えれば、ネイティブアプリへのこだわりが捨てやすくなります。ネイティブアプリの最大の特徴は滑らかで豊かなUIですが、ネイティブアプリじゃなくてもGoogleのサービスは十分に使えます。Android上でも徐々にネイティブアプリを奨励しない方向が出てくると予想されます。
Apple特許の利用を減らす
Googleのサービスを広く利用してもらうことについていえば、Appleとの競争関係はマイナスに働いています。お互いにとって、法廷争いを続けることは利益になりません。
Appleがこだわっているのはユーザインタフェースの重要な部分を真似られたからです。例えば米国で行われ、アップルの勝訴の判決が出た裁判では、”bounce-back effect”、”tap to zoom”, “home button, rounded corners and tapered edges”, “on screen icons”などの特許が争われました。このうち、スマートフォンの動作に必要不可欠なものは何一つありません。iPhoneよりも多少劣るもので良ければ、これらのAppleの特許を侵害することなくスマートフォンが作れます。
Appleの特許はまだ審査中のものもたくさんあり、これからも出てきます。しかし今後のAndroidのスタンスはおそらくAppleの特許を避け、結果としてUIが多少劣ったとしてもそれはそれでしかたないというものになるでしょう。現状でもSamsungに比べ、Googleの方がApple特許に対して慎重な姿勢を見せていますが、今後はますますそうなるでしょう。
ローエンドマシン
より低いスペックのスマートフォンでも十分に動作するように工夫をしていくでしょう。Android 4は高いハードウェアスペックを要求するため、未だにローエンド機はAndroid 2.3を搭載して販売されています。ローエンド市場を積極的に開拓していくために、スペックの低い機種でも十分に動作する新しいAndroidが開発されると予想されます。
以上が現時点での私の予想です。大きくまとめると、今後のAndroidはiPhone, iPadと対抗することを主眼とせず、市場を広げることに注力していくだろうと思います。フォーカスを切り替えた結果、Androidはローエンドからの破壊的イノベーションに対抗できるようになります。逆にFirefox OSが成功する可能性が低くなります。