メルマガはタイトルが重要

新しい情報を顧客に伝えるためにメールマガジンを利用しているメーカーが多いと思いです。

でもメールマガジンにはいくつか欠点があります;

  • いろいろなメーカーに登録していると、しょっちゅうメールが送られてきて、だんだんとうっとうしくなります。
  • メールの受信箱というのは重要なメールが入ってくるところでもあります。ごちゃごちゃと余計なメールが混ざり込ると、重要なメールを見落としそうで心配になります。
  • メールマガジンに登録する際に個人情報の提供を要求されること多くあり、ついつい登録を避けてしまいます。

実際にメールマガジンを購読している人も、興味なさそうなものは読まずに即座に削除する人も多いのではないでしょうか?あるいは読まずにずっと受信箱に置いておいて、画面の端から次第に消えていくのを待っているのではないでしょうか?

インターネットコムとgooリサーチが行った「メールマガジンに関する調査」があります。それによると、メールマガジンを読んでいると答えているユーザは多いものの、「気になったタイトルのものだけ読んでいる」と答えているユーザが77%を占めていました。

メールマガジンにとって、タイトルが如何に大事かということです。

そこで一歩下がって考えたいと思います。

「メールマガジンってタイトルを強く主張するのに適した媒体なのだろうか?」
タイトルを強く主張するのが大切なら、メールマガジンで配信するのがベストだろうか?

僕は「違う」と思います。

メーカーが主張したいことがだいたい毎月10件あったとして、すべてをしっかりとPRしたいと思ったら、それぞれタイトルが異なるメールマガジンを10回配信しないといけません。そんなにたくさんメールが来たら、ユーザとしては相当にうっとうしいはずです。そうなると、10件あったものをうんと減らして、だいたい週に1回となるように4件に絞るしかないのです。残りの6件は優先順位を下げて、タイトルには表示しないけど、おまけとしてメールにつける感じになります。

これではメールマガジンは目的とした役割を果たせません。インターネットでの情報配信の利点はコストの低さなのに、結局週に1件しか配信できないというボトルネックがあることになります。

僕はこの問題の解消をRSSに期待しています。RSSの詳しい解説はここではしませんが、この技術は大量のタイトルを取り扱うのにうってつけです。しかもメールの受信箱を汚さないし、個人情報も必要ありません。僕はいまRSSリーダーのNetNewsWireを使って、100以上のRSSフィードに登録しています。送られてくるタイトルも毎日100近くになります。でもRSSだとタイトルをさっと眺めることがすごく簡単で、効率がいいのです。

まだまだRSSフィードをしっかり提供しているバイオのウェブサイトは少ないので、その点を改善しないといけませんが、間違いなくメールマガジンの代わりにRSSフィードが使われるようになると確信しています。そして、皆さんがもっともっと便利にインターネットを使えるようになることを。

ちなみに完全に脱線ですが、僕は会社で管理職をやっていたとき、多いときで100以上のメールが飛んできていました。普通でも30-40通は来ていて、しかもその多くは読む必要のないメール(僕がアリバイメールと呼んでいるCc:メール)。普段はなんとか処理できますが、数日間出張すると半日はつぶれます。こういうのは思い切ってRSS化してしまえば、受信トレイがオーバーフローを起こすこともないし、社員全体のストレスレベルが下がると思うのですが。

そういえば前の会社でイントラネットがある程度出来上がって、人事部が人事発表をイントラに出すようになると、よくこんな感じのメールが飛んできました。

*6月の人事異動*
人事異動を人事のイントラに掲載しましたので、ご覧ください。
(リンク)

メールのタイトルをクリックしてイントラのページに移動するのなら、こんなメール開けないんですけどね。でもメールという仕組み上、タイトルはリンクにならないのです。RSSならなります。

新聞広告ってどうなっているの

新聞というのは収入のかなりの部分が広告です。慶応大学の講義スライドによると、収入の実に34.5%が広告費です。その広告がどのようになっているのかを見てみると、インターネット広告の参考になるのではないかと思います。

広告の位置

全面広告を除くと、ほとんどの広告は一番下に位置しています。広告は完全に「従」の位置に置かれ、あくまでも新聞記事が「主」です。例外は1面と裏面に数カ所置かれている小さな広告だけです。

広告の内容

全面広告を除くとほぼテキスト広告と言っていいものです。文字の大きさなどの工夫はありますが、絵柄で目立たせるということはありません。

広告主

全面広告を除くと、単行本、雑誌が多いです。なお、朝日新聞の会社案内に広告主をまとめたグラフがあります。

全面広告は派手

全面広告はとにかく派手です。スペースもふんだんにあり、大部分はカラーです。

インターネット広告への示唆

インターネット広告では一般的なバナーの効果が薄いこと、それに対してテキスト広告の効果が高いことが言われています。新聞でテキスト広告が多いことと似ているような気がします。

雑誌の広告で目立つのは、目次そのものを載せているものです。非常に字数が多くなっています。また書籍の広告でもかなりの文章が書き込まれています。完全に読ませる広告です。特に雑誌の広告は、読む方も結構楽しみにしてしまいます。その雑誌は買わないとしても、最近のゴシップを知るために習慣として読んでいる人も多いのではないでしょうか。

変な話だけど、週刊誌の新聞広告にこそ、インターネット広告の未来が隠されているような気がします。

誰も見ていないインターネット広告

先日、叔父とバイオの買物.comの話をしていたら、いつものあれが飛び出しました。

「ネット広告は全然見ないよね!」と、とても純粋な声で言われてしまいました。

実際、ネット広告はよく見ているという人に僕はおおよそ会ったことがありません。妻に聞いてもそうですし、僕自身もネット広告をクリックした記憶は数えるほどしかありません。GoogleのAdwordsなら割とクリックしますが。

でも僕はインターネットでウェブサイトを立ち上げ、広告収入で食べていこうとしているわけです。ですから、この問題に正面からあたらなければなりません。

みんながネット広告と言うときには、ほとんど間違いなくバナー広告のことを指しています。そこで参考になるのは視線追跡調査の記事です。
バナーは目に入らないのか?
ビデオクリップ(僕のマックでは見られませんでしたが)もあるので、参考にするといいと思います。何をやっているかというと、ユーザにウェブサイトを見てもらいながら、その視線の動きを追跡して分析しています。そこからわかることは;

  • ネット広告部分に視線がいくことはゼロに近かった。ユーザがざっと拾い読みをする場合でも、また全文にしっかりと目を通す場合でも。
  • 検索結果が表示されるページに掲載されるテキスト広告、つまりGoogleのAdwordsのような広告は、そこそこユーザの目に入っている。(参考

MarketingSherpaのレポートでは;

  • スクロールしなくても良い位置にある広告であっても、見るのは60%のユーザのみ。
  • スクロールしなければならない位置の場合は、見るのは25%のみ。

Nielsenの調査では;

  • インターネット広告は新聞やテレビ、雑誌と比べると、顧客からの信頼が薄い。
  • 信頼度の低さはかなり深刻で、調査した媒体のうち、携帯電話へのメールに次いで下から2番目に信頼が薄かった。

また、Starcom, ComscoreとTacodaがスポンサーした調査によると;

  • 広告をよくクリックするユーザは全ユーザの6%であるが、総クリック数の50%を占めている。
  • 広告をよくクリックするユーザは25-44歳、$40,000ドル以下の収入の人が多い。
  • 広告をよくクリックするユーザはその他のユーザに比べて4倍もの時間をインターネットに費やすものの、ネットでの購入金額はこれと対応しない。またオークション、ギャンブル、就職斡旋サイトを好んで訪問する。

バナー広告に効果があるのかないのか。
僕は叔父と意見が同じです。バナー広告は見ませんし、僕らが対象としている顧客もまたバナー広告は見ないと思います。無理に見せようと思えば、何が起こるかというとバイオの買物.comの利用者が離れていくだけでしょう。

でも、メーカーは良い広告媒体が欲しくてたまりません。ブランド力はなくても優れている製品を、広く告知したいとみんな思っています。使い道に困っている広告宣伝費というのはかなりの金額存在しているのです。

ネット広告が思いの他に効果が上がらないという事実を直視して、新しい形態を真剣に模索しないといけません。もちろんアイデアはありませすが。

何ができるかではなく、何をやりたいかを突き詰める

僕は何ができるかという議論の仕方が嫌いです。

そうではなく、何がやりたいか、何をやるべきかに遡って考えることが好きです。

何をやりたいかを突き詰めて、成功している例を挙げます

山中教授のiPS細胞

再生医療の究極的な研究です。この成果を受けて、クローン羊・ドリーの生みの親のイギリスのイアン・ウィルムット博士(Ian Wilmut)が「自分の研究の方向を断念した」とまで言ったと報道されています。
ES細胞の倫理的な問題をどうやってクレアするか、骨髄幹細胞をどうやって増殖させるかといった、解決策が一見近そうな問題に取り組むのではなく、もっとも究極的なものは何かを突き詰めて行った研究だと僕は解釈しています。この技術を持ってすれば、倫理的な問題、ドナーの問題はすべて一気に吹き飛んでしまいます。

iPhone

まだ日本では発売されていないので製品そのものはよく知りませんが、iPhoneおよびiPhone用のソフトを作るデベロッパーキットは、共に「何ができるか」を超えて「何をやりたいか」をとことん突き詰めた結果でしょう。だって、MacOS XがiPhoneに載っているんですよ!しかもLeopardが!それは滑らかな3Dアニメーションがユーザインタフェースのあちらこちらに使われているのを見れば納得です。そしてユーザインタフェースはマルチタッチ。そしてSafariというフルブラウザが大部分使える。

既存の携帯電話やスマートフォンを見て、「これに何を追加できるか」という発想をしたのではなく、「ポケットに携帯するデバイスは何ができると面白いか」のイメージを膨らまして、そしてかなりの技術的困難を乗り越えて実現してしまったものだと思います。

蛋白質のフォールディング

蛋白質がフォールディングするというのは、確率論的にいうとすごくむちゃくちゃなことなんですよね。蛋白質がとりうる立体構造の膨大さを考えると、うまくフォールディングするというのは神業に近いんです。

しかも蛋白質がフォールディングするときは本来の構造とは大きく異なる局所的な低エネルギー状態にはまることがあって、抜け出せなくなるんです。つまり、連続的にだんだんフォールディングしているだけでは、すぐにどこかにはまって、うまく行かなくなってしまう。

そこで活躍するのがシャペロン蛋白質たちなんですけど、フォールディングできずに苦労している蛋白質があきらめてしまわないように、一旦フォールディングを戻して、構造を緩めてあげて、全く新しい構造にチャレンジできるようにしてあげるんですよね。シャペロン蛋白質たちは、決してフォールディングを誘導しているのではありません。そうではなくて、正しい立体構造をあきらめかけている蛋白質たちに勇気を与えて、気持ちを楽にさせてあげて、展望を広げてあげて、そして再チャレンジさせてあげているんです。

人間も同じように、「この先何ができるか」を考えすぎると、本来の姿と異なる局所的な低エネルギー状態にはまってしまいます。

ときどきねじを緩めて、リラックスして、山の向こうにある究極の姿を求めて再出発するのが大切なのです。

パレートの法則 拡大解釈する人が多すぎる

パレートの法則というものがあります。80:20の法則とも呼ばれます。もともとはイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレート(Vilfredo Federico Damaso Pareto)が発見したもので、所得分布を解析したものです。国や時代の制度と無関係に、社会全体の所得の多くは一部の高額所得者が占めていると主張したものです。

現象としてはまさにその通りのことが多く、上にリンクした記事では、自然現象、品質管理、在庫管理、売上管理、マーケティングにも当てはまると記しています。品質管理であれば、品質問題の優先順位を理解し、どれから解決すればいいかの指標に使われます。在庫管理であれば、在庫するべき製品と、在庫しないで取り寄せにするべき製品の区別に使用します。マーケティングであれば、ターゲットするべき顧客と、悪く言えば無視するべき顧客の区別に使用します。

しかし、パレートの法則を安易に解釈してビジネスに応用してしまうと、非常におかしなことになってしまいます。以下は実際に僕が職場で見たり聞いたりした例です。

  • 20%の施設で売上の80%を稼いでいる。だから営業資源をその20%の施設に集中しよう。
  • 20%の製品で売上の80%を稼いでいる。だから残りの80%の製品は在庫せずに、海外からの取り寄せにしよう。

さて、このようなことをやると何が起こるかをちょっと考えてみます。

売上の80%を稼いでいるという20%の少数の施設というのは、だいたいどの会社でも大のお得意さんです。どこの会社もそこで売上を稼いでいるので、営業資源をたくさん投入しています。そのため過当競争になっています。したがってよほどの投資をしない限り、顧客側から見たときの営業の存在は、その他大勢になってしまいます。つまりせっかく多くの営業投資をしていても、顧客から見れば無視しても良い存在になってしまいます。

見方を変えるとわかりやすいと思います。メーカーにとってみれば、その施設は売上の80%を稼ぎだす重要施設です。でも顧客にとってみれば、そのメーカーというのは「その他大勢」にあたります。顧客にとっての20%の価値しかない、80%のメーカーの一部にすぎないのです。

それに対して、売上の20%しか稼いでいない「その他大勢」の顧客に対して営業資源を投入したとします。そうするとその顧客から見たとき、あなたの会社は80%の価値を生む、上位20%のメーカーの一つになるのです。

在庫についても同じです。よく売れる製品というのはだいたいどのメーカーも同じです。ですからよく売れる20%の製品だけ在庫して、のこり80%の製品を在庫しなければ、結局は顧客の心の中で「その他大勢」に分類されてしまいます。

このようにパレートの法則は「効率化」を生む部分と「その他大勢化」を生む部分があるので、非常に気をつけてビジネスに当てはめなければいけません。

効果が非常にはっきりわかる指標があり、役者が少ないときは、パレートの法則的な考え方は非常に有効です。例えばコンピュータソフトウェアでもパレートの法則が成り立ちます。開発中のソフトウェアについて、いったいどの処理が遅くなっているかを細かく分析するツールも精力的に開発されていて、非常に局所的にスピードアップしている手法が採られています。逆に、十分な分析なしに闇雲に効率化することは、ソフトウェア開発では強く戒められています。

パレートの法則は、闇雲に使うと会社をめちゃめちゃにしてしまいます。でもうまく使うと大きな効果を生みます。残念ながら世の中には中途半端にしか勉強していない人が多いので、間違った使われ方をしている場合が多いのではないでしょうか。

パレートの法則を使ってつもりが、逆に使われてしまった。無駄な80%のユーザを切り捨てたつもりが、逆に自社がユーザから無駄な80%と烙印を押されてしまった。そんなことにならないように、数歩先を読んでから使いましょう。

チラシと郵便物によるマーケティング(時代遅れ?)

何か新しい情報を顧客に伝えたいとき、バイオ研究用製品のマーケティングでは、未だにチラシと郵便物が主流です。

雑誌広告やインターネット広告というやり方もありますし、例えばNatureのメールアドレスなどを利用した電子メールによる告知というやり方も行われていますが、主流という訳ではありません。これらはどちらかというと時と場合によって使われるもので、主流は未だにチラシと郵送物です。

メーカーとして体感する効果が違うのです。チラシとか郵便物の場合は、それを見たと言ってくれる顧客からの問い合わせが入ってきます。今まで認知度が低い製品であれば、売り上げも確実に伸びます。それに対して、雑誌広告を見たという顧客が問い合わせてきた記憶というのはほとんどありません。インターネット広告に至っては皆無です。ですからチラシと郵送物を使うのです。

チラシを配布するときのコストというのは、単独でそれだけを配布するのであれば40-50万円あたりでしょうか。だいたい2万部から3万部を刷りますが、カラーで印刷であれば30万円程度、そして郵送代も馬鹿にならないのでだいたい上述の金額になります。印刷物の場合は印刷会社と校正を重ねないといけないので、だいたい1月のリードタイムが必要になります。結構馬鹿にならない金額ですが、雑誌広告も1月で掲載料が20-30万円とられます。効果を考えるとチラシの方がずいぶんとよく見えます。

ただチラシを誰が配布するかという問題があります。ある程度確立したメーカーであれば、代理店との付き合いがある程度固まっているので、代理店にチラシを配ればだいたい配ってくれます(とメーカーは信じています)。代理店は日本中の研究室に網を張っているので、だいたいの研究者にチラシが配られてくれているかなとメーカーは期待しています。現実はもう少しややこしくて、代理店だって特定のメーカーに肩を入れることがありますので、場合によっては自分が作ったチラシは積極的に配ってくれないかもしれません。

郵便物はダイレクトに顧客に届きます。大きいメーカーはだいたい季刊誌というのがあって、これは代理店から配布するかダイレクトに郵送します。この季刊誌は通常フルカラーで、やはり2万から3万部を刷ります。印刷のお金とこれを郵送するお金をあわせると、一回つくって配布するのに200万円から300万円はかかっていると思います。でも結構学術的なことも書いてあって、顧客が喜ぶ内容なので、メーカー側は効果は大きいと信じています。ブランドイメージの維持にも重要と位置づけられています。ちなみに製品カタログもだいたい3万部を用意していることが多いと思いますが、フルカラーの会社が多いこと、さらに週百ページになることがあるので、これは1回出すのに2000-3000万円かかっています。

もう一つ参考として、分子生物学会などのランチョンセミナー。あれは会場のむちゃくちゃ高い弁当を買わされるということもあって、全体で200万円弱になると思います。自分で会場を借りてセミナーをするとずいぶんとこれよりは安くなります。最近はやってくれるメーカーが少なくなってきているようで、学会企画側が苦労しているとか。

さて本題に戻ります。

チラシと季刊誌にかなり多くのお金が使われていることを紹介しました。でも、そんなにお金をかけた時代遅れのことをしないと顧客である研究者に情報が伝わらないのでしょうか。しかも先ほどもお話ししたように、チラシというのだ代理店経由での配布であり、代理店の思惑が入ってしまいます。もっとストレートなやり方は無いのでしょうか。

他の業界であれば、新聞の折り込み広告、リクルートのようなところが作っている雑誌、価格.com。。。

正直、メーカーでマーケティングを担当していたものとして言えば、いい媒体が無いんですよね。誰か作ってほしいーーー、って思って、いま、自分でそういうのを作ろうとしています。

Innovator’s Dilemmaとバイオの製品

Charlie Woodのブログに、iPhoneがなぜ ‘The Innovator’s Dilemma’に陥らないかを分析しています。

‘The Innovator’s Dilemma’(イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき)というのはClayton Christensenが著した本で、イノベーションを続ける優良企業が、それにも関わらずどうして新興企業に市場を乗っ取られ、しまいには独占されるかを分析しています。僕もこの著者の本を2冊ほど読んでいますが、非常に論理的な議論をしつつ、直感とは全く異なる結論を証明していっているところに感動しました。またこの本は単なる分析に終わらず、将来を予測するためのフレームワークも提供しているところも特徴です。

簡単にChristensenの数冊の本の主張を紹介しますと

  • イノベーションを繰り返していくと、’Good Enough’(十分な性能)に到達します。’Good Enough’に到達すると、それ以上いくら性能を上げても、顧客にとっては役に立たなくなってきます。これがコモディティーとよく言われる状態です。
  • ‘Good Enough’の状態に達すると、安値販売で勢力を伸ばそうとする企業が参入してきます。
  • 安値販売する企業が参入しても、優良企業は安売り合戦には参加しないことがあります。そうではなくてイノベーションを繰り返し、よりハイエンドの顧客をターゲットに絞って製品開発を進めていきます。安売り市場は捨てて、ハイエンドに向かっていきます。
  • ただし優良企業が安売り合戦への参入を見送るかはケースバイケースで、その産業構造に依存します。安売り合戦をすれば既存の企業は必ず収益を悪化させますので、なるべくならハイエンドに逃れます。ただ産業構造的に直接対決が避けられない場合は全面対決をし、収益は悪化させますが最終的に生き残ることが出来ます。
  • 安値販売する企業は次第に力をつけて、次第にハイエンド製品を製造する能力を身につけます。そうすると既存の優良企業はさらにイノベーションをエスカレートさせ、ますますハイエンドに絞り込んでいきます。でもこれは必ず限界があるので、最後には安値販売する企業に市場を乗っ取られてしまいます。この安値販売する企業の参入を可能にするイノベーション、これをChristensenは’Distruptive Innovation’(破壊的イノベーション)と呼んでいます。
  • ハイエンドに逃れるのでもなく、そして安売り競争に入るのでもなく、高収益を持続させていく方法はあります。それは’non-consumer’(いままで対象にならなかった顧客)を顧客にするようなイノベーションをすることです。

iPhoneに関してのCharlie Woodの分析では、Appleがデザインを重視していているために、Innovator’s Dilemmaが当てはまらないとしています。つまり、’Good Enough’なデザインというものは無いとしています。

それに対して数多くのコメントが寄せられています。例えば、単純に今のデザインの水準が’Good Enough’とはほど遠いのではないかというもの。つまり今までの製品のデザインは、特に使いやすさという意味ではひどかったと。ただ、消費者はそれにまだ気づいていなかったという論点です。

また別のコメントの中で、AppleがDisruptive Innovationを仕掛けていると論じているものもあります。

iPhoneについてはCharlie Woodのブログに任せるとして、僕はバイオの話をします。

バイオで’Good Enough’状態に達している研究用製品

山ほどあります。

制限酵素、PCR酵素、バッファー、フェノールなどん単純試薬、チューブ、プレート、培養フラスコなんていうのはわりと当たり前に思いつきます。

その他、安売り競争が起きてしまっているものも’Good Enough’なコモディティーになっていると考えていいでしょう。リアルタイムPCRの試薬と機器、受託合成DNA、DNAシークエンス。siRNAなんかもこれに近くなっているように思います。

面白いことにその技術が新しいかどうか、あるいはその技術が革新的だったかは全く関係ありません。’Good Enough’なものが、他社でもどれだけ簡単に作れるかがコモディティーになるかならないかを決定しています。

バイオの業界で面白いのは、安売り企業が参入してきても、既存企業が割と応戦していることだと思います。ハイエンドに逃れようというメーカーはほとんどないと思います。例えばリアルタイムPCRでは、ABIはちゃんとローエンド機器を売り出しました。PCR酵素に関して言えば、Invitrogenも特許に引っかからない激安Taqを発売しています。そしてほとんどのメーカーはがんばって割引をしてくれますし、安売りキャンペーンを盛んにやってくれます。

唯一ハイエンドに逃れる気配を見せるのは、バイオをサイドビジネス的に考えてしまっている複合的な巨大企業ではないでしょうか。ちなみにこのような会社の社内事情は、重力が反対向きに働くような異次元空間に入ったかのようで、本当に面白いです。

‘Non-consumer’にアプローチしてDilemmaを逃れる方法

パソコンやスマートフォンを必要としていなかった、もしくは使いたかったけどハードルを感じていた人に対して、それを使わせてしまうだけのデザイン性と使いやすさのある製品を提供する。これが一貫したAppleのやり方のように思います。これは初代のMacに始まり、iPhone, iMac, iTunes, iPod, iPhoto, iMovieなどにも引き継がれている考え方です。

バイオの世界でよく似た例がABIのStepOneだと思います。

  • オールインワン:パソコンをつなげなくてよい。LCDタッチスクリーンとUSBドライブでセットアップと解析が行える。
  • 専用ホームページとソフトウェアでセットアップをサポート。試薬の注文も可能(アメリカ)
  • 初心者が使うことを想定したシステム

このコンセプトはすごくいいと思います。他社が安売りしても、このような使いやすさで’non-consumer’を相手に出来るのであれば、心配することは無いように思います。

自分が研究しているときは、新しい機械の操作方法を覚えるのがおっくうでした。ほとんどの機械は操作がわかりにくいし、壊してしまったらまずいと思って心配だし。サンプルも無駄になっちゃうし。だから、結局は新しい機械を使わずに、今までの方法ですませてしまったりするんですよね。面倒な方法でも。

Appleと同じだことだと思います。機械とソフトウェアの使いやすく、ウェブサイトが充実、カスタマーサポートによる対応も迅速で適切というメーカーがあれば、今までそういう実験を避けていた顧客も使ってくれるようになるはずです。

それが出来ないメーカーはInnovator’s Dilemmaにはまって、安売り競争と開発競争に深く深く沈んでいくだけでしょう。

Henry Mintzbergのウェブサイト

リーダーについてのブログ記事Henry Mintzbergを取り上げたので、Googleを使ってもう少し調べてみました。僕がMintzbergと出会ったのは29歳ぐらいのときで、会社に入ってしばらくして、あれれと感じていた頃でした。“Mintzberg on Management”という本でしたが、会社に対する幻想をまだ持っていた僕は目から鱗が落ちる思いでこの本を読んだ記憶があります。

いずれにしても、Henry Mintzberg自身のウェブサイトが見つかって、この中に面白い論文がいくつかあったので、とりあえず簡単に紹介しておきます。また機会があったら、より深く論じてみたいと思っています。

  • Leadership Beyond the Bush MBA: まず、僕も始めて知ったことなんですが、あのブッシュが実はMBAを持った始めてのアメリカ大統領だということが紹介されています。しかも権威あるHarvard Business Schoolの。これは初めて知りました。Harvardは恥ずかしくて隠していたのでしょうか?この論文ではBush政権の行動パターンのいくつかが、Harvard Business Schoolでの教育にルーツをたどることが出来るとしています。a) 状況がわからなくても素早い決断をすること、b) 実践能力は軽視されていること、c) ビジネスの基本をいくつか学ぶだけで、全般的なマネージメントまでわかってしまった気になること(ビジネス的ダウンサイジングをイラク戦争に適応したことなど) などが紹介されています。
  • How Productivity Killed American Enterprise: アメリカの企業が株主を優先して短期的利益を追求した結果、製品とサービスおよび顧客を犠牲にしたしまったことを論じています。具体的に何が行われ、何が犠牲になってしまったかを論じています。面白い論点がいくつもあります。a) 短期的な利益を最大化するには、すべての人をクビにして、在庫にあるものだけ売れば良い。極端に聞こえるけど、実際にはこれに近いことが行われた。b) 「株主利益」を最大化するために、アナリストを騙すような活動をすることが重要。例えばアナリスト用プレゼンへの注力、ブランドの統廃合、顧客から最大限の利益を吸取ること、それと合併を繰り返すこと。そしてa)に非常に近いのですが、ダウンサイジングをすること。

最もリーダーになってはならない人がリーダーになってしまう仕組み

僕らは人生の中で、どのようなリーダーを見て育っているのでしょうか。

小学生や中学生のときにリーダーはスポーツが得意な人が多く、球技大会でクラスのチームをまとめるのもこのような人たちです。学級委員長も、勉強な得意な人よりはスポーツが得意な人がやることが多いと思います。子供の頃からリーダーシップを学ぶのはこの人たちです。僕なんかはスポーツもそれほど得意ではなく小学校の頃は勉強もできなかったので、リーダーになることは夢のまた夢だったのですが、それでもこういうリーダーに憧れ、いつかは自分もそうなってやろうと思っていました。

中学校と高校の頃は、プロ野球を良く見ました。埼玉県に接している東京都練馬区に中学校があり、当時は西武ライオンズの黄金時代だったので、西武が巨人などセ・リーグの人気球団を次から次へと粉砕していくのが痛快でした。プロ野球を見ていると、実に多くのリーダーの姿を知ることができます。管理野球を徹底した西武ライオンズの広岡監督とそれを引き継いだ森監督。全然うまくいかなかった巨人監督時代の王監督。野茂とイチローを初め、数多くの大リーガーを輩出した近鉄とオリックスに在籍した仰木監督。ID野球で弱小ヤクルトを日本一に導き、さらに楽天イーグルズでそれを今にも再現しようとしている野村監督。徹底的に選手とファンを誉めて持ち上げて、弱小でしかも人気のなかったチームを、全く正反対の強力で人気のあるチームにしたロッテマリーンズのバレンタイン監督と日本ハムファイターズのヒルマン監督。

このように、僕らは子供や学生時代に、スポーツをやることやスポーツを見ることを通してリーダーシップを学んでいるのです。でも面白いことに、社会人になると今度は勉強が出来るか出来ないかでリーダーが決まっていくことが多くなります。

もちろんすべてではないのですが、勉強ができて、いい大学に入ったり、あるいはMBAをとったりする人というのは、どちらかというと小学校や中学校時代に球技大会でクラスをまとめていたような人ではありません。どちらかというとスポーツはそこそこにして、勉強を中心にやっていた人たちです。そしてプロ野球のテレビ放送を熱心に見ていたり、授業中に日本シリーズ中継をラジオで聞いていたというよりは、その間に問題集を解いていたりした人たちです。

別に何がいいとか何が悪いというつもりは無いのですが、子供時代に多くのリーダー経験を持ったり、あるいは多くのリーダーを観察したりした人というのは、大人になって仕事でリーダーとなる人と逆になっていませんか?リーダーとしてのトレーニングを若いうちに受けた人ではなく、全くトレーニングされていない人が優先的にリーダーになってしまっていませんか?

それが僕が感じている疑問です。

その傾向が最も顕著に現れるのはMBAにおいてです。MBAというのは、場合によっては勉強しただけで人に「リーダー資格」を与えてしまう結果になります。若い頃に全くリーダーについて学ばず、自分の狭い世界に閉じこもって勉強ばかりしていたような人であっても、一生懸命勉強すればMBA資格は取れてしまいます。MBAというのは、リーダーとしての能力が全くない人間であっても、急に上級管理職にしてしまうことがある、極めて危ない学位ではないでしょうか?

例えば”MBA リーダー”でグーグル検索をすると、MBAホルダーであるだけでビジネスリーダーの仲間入りだと言わんばかりのヒットが大部分です。でも繰り返しますが、MBAホルダーというのはどちらかというと学生時代にリーダーの訓練をしてこなかった人たちが多いのではないでしょうか?僕はここに大きな矛盾を感じます。

MBAの問題点を記した著名な経営学者、Henry Mintzbergの書物「MBAが会社を滅ぼす」というのがあります。Nikkei BPに紹介記事がありますし、英文ですけど、Amazonではしっかりしたレビューがあります。僕はこの本をちゃんと読んでいませんが、こんなところがポイントのようです;

  • Conventional MBA programs train the wrong people in the wrong ways with the wrong consequences: 一般的なMBAプログラムは、間違った人に間違った方法でものを教え、間違った結果を導いています Amazon
  • According to Mintzberg, management education is really business education, offering specialized training in the functions of business rather than general education in the practice of managing: Mintzbergによると、マネージメント教育として行っているものは本当はビジネス教育でしかない。マネージメントを実践するための全般的な教育ではなく、ビジネスの個別の機能のための専門的なトレーニングを提供しているにすぎない。Business Book Review
  • Whatever you do, don’t confuse an MBA with a license to manage. どんなことがあっても、MBAを持っているということと、マネージャーとしての資格があるということを混同してはならない。MIT World

僕自身は協和発酵工業で働いている30歳ちょっとすぎのときに、非常に良いリーダー教育を受けたと思っています。その教育とは、仕事とは全く関係のないレクリエーション行事の幹事をやらされたことです。30歳は会社ではまだひよこに近い訳ですから、仕事の上ではマネージャー的なことはなかなかやらしてもらえません。かといってレクリエーション行事は遊びかというとそういう訳ではなく、200人の社員をエンターテインする責任がある訳ですから、考えようによっては仕事なんかよりもよほどプレッシャーは強いです。そのプレッシャーの中で10数人をまとめて、一つの行事を成功させるというのは非常に良い経験でした。

僕自身はその中で、ビジョンを明確に伝えることの大切さと、その明確のビジョンの上に各人が自発的にそれを膨らましていくように促すことの大切さ、そして緩い管理の中で知らず知らずにそれが自分の思っているよりも数倍のものに仕上がっていくプロセスを知ることが出来ました。

最近の日本企業では、このようなレクリエーション行事を減らしていく方向にあると聞いています。協和発酵ではまた、労働組合役員を若い人に経験させて、やはり若いうちにリーダーを経験させる仕組みもありましたが、労働組合もやはり最近の日本企業では重視されなくなってきています。その一方で高齢少子化の影響で、部下のある管理職になるのはかなり歳になってからになってしまっています。つまり、リーダー教育を受ける機会が日本社会でますます減ってしまっているように思います。

その一方で日本人の間のMBA信奉は相変わらず強い訳ですから、日本はますますこの「最もリーダーになってはならない人がリーダーになってしまう仕組み」が強化されていくのではと心配になってしまう訳です。

ちなみに、僕がこの考えを強く持つようになったのは、一応MBAは持っていたものの、それ以外の人間的資質においては全くリーダーに不向きだったという人を上司に持った経験からです。小学生の間にリーダーになれなかったどころの騒ぎではなく、嫌みなやつということで、きっとぼこぼこにされていたのではないかという人でした。でもMBAだから、上級管理職になってしまっていたんですよね。まさにMintzbergの本の題名「MBAが会社を滅ぼす」のような人でした。

イノベーションを育む方法:PixarのBrad Birdとのインタビュー

PixarのBrad Birdがイノベーションを育む方法について、McKinseyの報告をまとめた記事がありましたので紹介します。

まず、Brad BirdがPixarに入社した経緯について;

Pixarが3回の成功(Toy Story, A Bug’s Life, Toy Story 2)を収めたために、かえってイノベーションが困難になってしまうことをSteve Jobsは心配していました。Steve JobsがBrad Birdを採用したのはそれが理由でした。JobsがBrad Birdに言ったのは「僕らが心配しているのは自己満足による安心感だ。すべてのやり方はもうわかったと思ってしまうこと。君にはPixarをかき回してほしいのだ。」

そしてMcKinseyの報告に書かれた10個のキーポイント

その1:厄介者を探せ

Brad Bird : 僕は言ったんだ。「厄介者を探しだせ。僕はイライラしたアーティストが欲しいんだ。他の人とは違いやり方をしていて、全体から相手にされていない人だ。会社を辞めようと思っているやつだ」。会社に不満を持っている多くの人は、いままでと違うやり方を知っていたけど、それを試す機会がないからイライラしていたんだ。試す機会がなかったのはそれまでの方法が非常にうまくいっていたからなんだけど。そこで厄介者が自説の正しさを証明する機会を与え、その結果、数多くのもののやり方を変えたんだ。

その2:完璧はイノベーションの敵だ

Brad Bird:彼らの中の完璧主義を払拭しなければならなかった。画面上に何かを表現するためには、安っぽくて汚いやり方だってやりかねないことを僕はやりかねないと知らしめて、彼らを脅したんだ。例えば「水をコンピュータシミュレーションしなくたっていいんだ。プールの水しぶきをフィルムに収めて、その中に水を合成するだけでいいんだ」って言ってね。実際にはプールの水しぶきを撮影はしなかってけど、このような考え方を浸透させて、すべての面から完璧な方法をやらなくてもいいんだということを理解させた。すべての場面は同じじゃないんだ。いくつかの場面は完璧でなければならない。かなり完成度の高い場面も必要だ。でも、全体の雰囲気を壊さなければOKという場面もあるんだ。

その3:熱い人を捜せ

Brad Bird: 物事に深く関わろうとする人がよりイノベーションを起こす。物事に深く関わる人は物静かであったり、うるさかったり、あるいはその中間だったりするけど、でもみんなが共通して持っているのは、飽くなき探究心だ。「問題の核心を知りたい。僕には何かやれることがある」。赤外線カメラで温度を視覚化できたら、彼らの頭のてっぺんから熱が上がっているのが見えるよ。

その4:イノベーションは真空状態では起きない

Brad Bird: 僕はすべての人を一つの部屋に集めたんだ。前任者とはこれが大きく違った。彼は仕事内容を自室でレビューし、メモを書いて、担当者に送っていた。僕は言ったんだ。「ほら、このチームはみんな若い。個々のアニメーターとしてはそれぞれ異なる強みと弱みを持っている。でも強みをお互いにつなげることができれば、全体として世界最強のアニメーターになれる。だからみんなには発言をして、考えていることを全部言ってほしいんだ。あなたの描いているシーンを全員で見るんだ。みんながお互いに恥をさらし合い、そして勇気づけられるようにするんだ。」

その5:士気が高ければ創造性は安く手に入る

Brad Bird: 僕の経験上、映画の制作費に最も影響を与えつつ、帳簿上全く現れないものが士気なんだ。士気が低ければ、経費$1に対して、$0.25程度の価値しか得られない。でも士気が高ければ、$1に対して$3の価値が得られる。会社は士気にもっともっと気を使わなければならない。

その6:成功を保証してはならない

Brad Bird: 不可能を達成するための最初のステップは、不可能だと思っていたことが本当は実現可能であると信じ込むことだ。

安全策をとっては駄目なんだ。自分でも怖いこと、自分の能力の限界のこと、失敗するかもしれないことをやらないといけないんだ。

その7:Steve Jobsが言うには「相互交流 = イノベーション」

Brad Bird: Pixarのビルのアニメーション階に行くと、ドアヒンジが無いんだ。自分たちのオフィスのエントランスはどのように飾ってもいいんだ。ウェスタン映画のようなエントランスにしてもいいし、ハワイのようなものにしてもいい。John Lasseter は、自由な雰囲気があれば創造性が高められると考えているんだ。

ビル全体もそうだ。ビルはSteve Jobsが事実上デザインした。真ん中に大きなアトリウムを作って、一見するとこれは場所の無駄のように見える。それでJobsがどうしてこれを作ったかなんだけど、みんな個別のとこで仕事をするよね。ソフトウェアを開発している人はある場所。アニメーターは別のところ。そしてデザインをしている人はまた別のところ。そこでJobsはメールボックス、会議室、カフェテリア、そして狡猾にもトイレまでもすべて真ん中に置いたんだ。そうすると、自然といろいろな人に会ってしまう。Jobsの考えでは、人が人とすれ違いアイコンタクトをするとき、何かが起こる。だから会社の全員と必ずすれ違う仕組みにしたんだ。

その8:異なる分野の学習の奨励

Brad Bird: PixarにはPixar University (PU)がある。証明の仕事をしているけれどもアニメーションの作り方を勉強したいのなら、アニメーションのクラスがある。ストーリーの構成、Photoshopの使い方などはもちろん、イスラエルの格闘技 Krav Magaのクラスもある。Pixarでは自分の専門分野以外の学習を奨励していて、社員がより’完全’でもより創造的になるようにしているんだ。

その9:創造性を阻害する要因を排除しろ

Brad Bird: イノベーションを邪魔するのは、受け身でありながら攻撃的な人。グループになると自分の意見を言わないけど、裏で問題点を突っついて邪魔をする人。こういう人は毒みたいなものだ。このような人は割と簡単に見分けられるので、すぐに除いていく。

その10:お金儲けにフォーカスしてはいけない

Brad Bird: 僕がDisneyに入社したとき、まるで雨ざらしにされたキャデラックのよだった。Disneyの思考プロセスは「こんなにすごい機械があるんだ。すばらしいものを作るのに使えないか?この宇宙船があれば火星にだっていけるぞ。」というのではなく、「僕らにはWalt Disneyのことは理解できない。彼が何をやったかは理解できない。だから今あるものを壊さないようにしよう。この宇宙船をとにかく維持しよう。何か新しいことをすると、傷つけてしまうかもしれないから」になってしまっていた。

Walt Disneyが繰り返し言っていたのは「僕はお金を作るために映画を作っているのではない。映画を作るためにお金を作っているのだ」。Disneyの絶頂期とDisneyが駄目になっていたときの違いは、この言葉に凝縮されている。これはPixarにも当てはまるし、多くの他の会社にも当てはまる。直感とは違うかもしれないが、想像性がベースの会社が長い目で成功していくためには、お金儲けにフォーカスしてはいけないんだ。