GoogleはAndroidの開発スピードを落としていると考えられる
先日のGoogle I/Oで公開されることが期待されていたAndroid 4.3ですが、実際には公開されることがありませんでした。その代わりにGoogle Play MusicだとかGoogle Mapsの強化などについて発表されたようです。
Androidのバージョン履歴を見るとAndroid 4.2のSDK公開が2012年11月ということで、まだ半年ちょっとしか経っていないので特に間隔が空いているわけではないことがわかります。しかしAndroid 4.3はコードネームが4.2, 4.1 (2012年6月)に続いて”Jelly Bean”だと言われており、一年以上を同じコードネームで引っ張ったのはAndroidの歴史では異例と言えます。
しかもAndroid 4.3もまた”Jelly Bean”がコードネームだと言われています。そうなると”Jelly Bean”がもしかすると1年半ほど最新のAndroidであり続ける可能性があります。
継続して同じコードネームを使っていることからも想像されるとおり、Android 4.3の変更点はあまり多くないだろうと予想されています。
Andy Rubin氏の元では半年に一回は新しいコードネームのリリースがあったのに、彼がAndroidプロジェクトから外されたら開発スピードはどうも落としているように感じられます。
Androidの開発スピードを落とすのはGoogleの全体戦略である可能性
その意図はいったいなんでしょうか。少し考えてみます。
- Andy Rubin氏の頃のAndroidは、とにかくiPhoneに追いつくための必死の開発でした。それがJelly Beanでとりあえず追いついたとGoogleは考えたのかも知れません。もしそうならば、大幅に刷新されたiOS 7に追いつくためにも再度開発のスピードを上げていくかも知れません。
- Andy Rubin氏をAndroidから降ろし、代わりにSundar Pichai氏にAndroidも担当させるようにした背景にはAndroidの方向転換があるのではないかと私は以前に推測しています。その一つに「Androidが一番魅力的なOSである必要はない」が新しい方針の一つではないかと述べました。もしこれが事実ならば、Androidの開発スピードを落としたのは戦略的であり、なおかつiOS 7が登場しても開発スピードを上げない可能性があります。
- Android 4.3の先にあるAndroid 5.0にリソースを集中させているのかも知れません。しかしウワサを見る限りではAndroid 5.0もそれほど大きな刷新が予定されていないようです。むしろスマートフォン用のOSとしてではなく、腕時計とかそういうデバイスを狙っている可能性があります。
この中で私は2と3の可能性が高いと感じています。そして2と3が同時に起こっていると考えています。
つまりこうです。
- そもそもGoogleは、ウェブ検索とそれに連動している広告事業を収益の柱としていて、それ以外の事業ではインターネット利用者を増やすためのものでした。検索と広告を除いて、収益性を重視するのではなく、むしろ価格で競合を排除する戦略が一貫して取られています。
- その中で考えると、Android事業のそもそもの狙いはスマートフォンによるインターネットの利用を増やすことでした。そしてインターネットの中でも、Googleの広告が掲載されているウェブサイトが利用されるようにするのが狙いでした。
- スマートフォンによるインターネットの利用、特にGoogleのサイトの利用を拡大するのに必要なのはiPhoneに対抗することではなく、a) iPhoneユーザにGoogleのサービスを利用してもらうこと、b) iPhoneが買えない顧客セグメント向けのスマートフォンを提供すること、です。仮にAndroidがiPhoneに勝利しても、それでインターネットの利用が増えるわけではありません。
- Androidの目的を考えると、まだスマートフォンを買っていないユーザ、高くて買えないユーザを狙うのが正しい選択です。したがってローエンドにフォーカスするべきです。
- ただし大きな問題は、ローエンドのユーザはウェブ利用率が少ないことです。またコンテンツをあまり買わないということです。したがってローエンドを狙う戦略は収益力の限界があります。
- そうなると新しい市場を開拓して、比較的裕福な人を顧客にできるようにしないといけません。比較的裕福な人は既にインターネットにどっぷりつかっていますが、さらにどっぷりつかるようにさせたいというのがGoogleの狙いになります。だから車の中とか、腕時計とか、テレビとかをGoogleは狙います。
- しかしこういう新しいコンシューマ市場の開拓は簡単ではなく、特に末端顧客にお金を払ってもらうものに関してはGoogleはことごとく失敗しています(低価格で既存市場に入り込むのはそこそこ成功していますが)。
そもそもAndroidの新バージョンはちょっと虚しい
もう一つ大きな戦略よりもむしろ現実を直視した事実として、Androidの新しいOSを開発するのはかなりむなしいところがあります。せっかく新しいものを作っても、利用する人の割合が少ないからです。未だにAndroid 2.3が一番利用者が多いことからもわかるように、Androidの新しいOSが出てきてもインパクトは少ないのです。
それよりはChromeアプリとかGoogle Mapsとかを改良した方がマシです。少なくともAndroid 4.0以上の人には利用してもらえます。
近未来予想
以下のシナリオを考えます。私の中ではかなり可能性の高いシナリオです。
- Googleはスマートフォン用のAndroidをフォーカスから外し、開発スピードを落とします。
- それに代わって、自動車、テレビ、腕時計、ゲーム機などでAndroidが使われるように開発のフォーカスを移します。
- しかしGoogle TVの大失敗、Nexus Qの大失敗、そしてスマートフォンだってほとんどサムスンの一人勝ちになってしまったことなどを踏まえ、ハードウェアメーカーは以前ほどはGoogleと積極的に組まないでしょう。
- 結果として初期のモデルはあまり売れず、GoogleとしてはNexus戦略で腕時計、ゲーム機に参入するでしょう。しかし自動車、テレビはGoogleが持つノウハウでは入り込めず、あまり打つ手がないでしょう。
- そうこうしているうちにAppleはこのどれかで成功し、新規市場を開拓します。
- GoogleはまたAppleが創造した市場に入り込み、低価格路線で対抗していきます。
- もしGoogleがスマートフォン市場のフォーカスを永く欠く状態が続けば、Firefox OSなどが入り込むスキが生まれます。もちろんローエンドで。
- ただしGoogleとしてはローエンドスマートフォンの市場に侵入されても、特に強力に対抗するインセンティブは必ずしもありません。収益への影響が少ないからです。
ポイントはGoogleがAndroidの開発をフォーカスから外し、新しい市場に注力していく可能性です。そして今までの実績でいうと、新しい市場の開拓には失敗し続けていることです。
2 thoughts on “Androidの次期バージョン 4.3 から示唆されること”