「果たしてWindows Phoneに勝ち目はあるのか?」
多くの評論家はAndroidとiPhoneが市場を独占していることを挙げ、もはやWindows Phoneが入り込むスキはないと考えています。だからこそWindows Phoneの今後の展開に興味が尽きません。Windows Phoneがもし成功すれば、このような評論家がそもそもイノベーションや市場の展開を理解できていないという根拠になるからです。
私自身がイノベーションや市場を理解しているかどうか。私自身の理論を検証するためにはWindows Phoneの展開を予想をしてみることが重要なのです。
まずは私が考えている理論を解説します。Clayton Christensen氏の理論に強く影響された考え方です。
- Android (というよりはSamsung)とiPhoneが市場を独占しているのは間違いありません。いくらMicrosoftが強大とはいえ、正面から市場に入っていっても勝てません。
- Windows Phoneの強みはMicrosoftが作ったOS、MS-Officeの歴史的遺産、企業におけるMicrosoftの浸透度、Nokiaの製品料・デザイン力、そしてNokiaのマーケティング・流通力です。資産はたくさんあるので、それをどれだけ動員できるかがポイントです。
- 後から市場に入り込む場合はローエンドから入るのが一般的です。Christensen氏のいうlow-end disruptionです。ただし単に利幅を犠牲にするのではなく、ローエンドでの強みを持っていることが必要です。ローエンドから入る場合、ハイエンドユーザが要求するような高スペックを満たす必要がありません。
- トップブランドはlow-end disruptionに対して抵抗力がありますが、中堅ブランドはlow-end disruptionに弱い傾向があります。なぜなら中堅ブランドは今まで差別化戦略ではなく低価格戦略で勝負してきているからです。
以上を元に、Windows Phoneに勝ち目がある戦略を考えます。
Low-end disruption戦略
Windows Phoneが低スペックなローエンド機に強みを持っているのはLumina 520で照明されています。定価で170 USD(もちろんSIMロックフリー)のこのデバイスはスペック的にはRAMが512MBしかなく、CPUはDual-core 1GHzと低スペックです。それにも関わらずUIがヌルサクと評判です(1, 2)。もちろん最新のWindows Phone 8が搭載されています。ちなみにこのスペックはAndroidだったら普通、Android 4.0を搭載できないスペックです。したがってWindows PhoneはAndroidよりもローエンド機に向いているのは間違いなさそうです。(Android 4.4 KitKatも512MB RAMで動くように改良されていますが、実際に試したというレビューがまだないので、何とも言えません)
スマートフォンのローエンド戦略は途上国をターゲットすることになります。途上国ではNokiaのブランドと流通チャンネルが大きな強みです。Windows Phoneはこれに乗ることができますので強みがあります。
Windows Phoneの最大の弱みはアプリが少ないといわれている点です。しかしローエンドでは主要なアプリさえあれば十分なはずです。そしてそれはおおむね実現できていそうです。TwitterもFacebookもLinkedInもTumblrもAmazonもAmazon KindleもEvernoteもWhatsAppもあります。地図アプリもあります。LINEもあります。もちろん完全ではありませんが、主要アプリはかなりカバーできています。
こう見るとWindows Phoneはlow-end disruption戦略を実行するのに十分な準備ができているように思えます。実際大きく販売が伸び、ヨーロッパの主要国ではシェアが10%を超え、USでは5%に近づいてきているというKantarの報告があります。
Low-end disruptionが今後も継続できるかどうかを見るには以下のことがポイントになります;
- 原則としてブランド力も流通力もないMoto Gが売れるとは考えにくいのですが、万が一売れるとなればLumina 520の勢いをとめる力にはなります。
- Lumina 520の真の対抗馬が出るかどうかはSamsungの今後の新機種にかかっています。Samsungの現行製品ではLumina 520の価格帯のものはGalaxy Y (3インチ画面、800MHz CPU、180MB RAM、Android 2.3)とかGalaxy Ace(3.5インチ画面、800MHz CPU、158MB RAM、Android 2.3)です。あるいはちょっと高くなるとGalaxy S (4インチ画面、1GHz CPU、768MB RAM、Android 4.0)があります。Lumina 520に対抗できないのもうなずけます。今後KitKat 4.4を搭載したSamsungの低価格機がどれぐらいの値段で発売され、どれぐらいのヌルサク感が出るかがポイントです。
- Samsungの新KitKat機が十分な性能を出せないとなると、Androidがそもそも低スペック機に向かないのではないかということになります。Googleが今後改良を続けても解消できないことも考えられます。こうなるとローエンドでの勢いは止められなくなります。
ローエンド機を売ることから出発し、徐々にミッドレンジに入り込むというのがlow-end disruptionの展開です。そのためには、Windows Phoneが徐々に力を付けていくことが必要です。そしてその力というのはおそらくはアプリの数と品質でしょう。アプリの数と品質がそこそこのレベルに達するとミッドレンジに力強く攻め込めるようになります。
アプリの数を見ていけば、将来的にdisruptionまで到達するかどうかが見えてきます。
企業での強み、MS-Officeの強みを活かす戦略
現時点ではこの戦略は可能性としてあるものの、具体的には見えてきていません。スマートフォンよりはタブレットの方で先にこの戦略は展開されるだろうと思います。