オフライン(ローカル)で使えるWebサイトって何を指すのか?

HTML5にはアプリケーションキャッシュストレージなど、オフラインアプリケーションを実現するための機能が用意されていますが、そもそもオフラインアプリケーションって何なんだろうって考えてみたいと思います。なぜかというと、オフラインアプリケーションと一言で言っても、どこまで「オフライン」である必要があるのかに差があるからです。

まずWebサイトを分類したいと思います。

  1. 閲覧をメインとしたサイト: WikipediaAsahi.comなどの新聞サイトがこれに該当します。
  2. 個人用にカスタマイズしたコンテンツをメインにしたサイト: Facebook, Twitter, LinkedInなどがこれに該当します。
  3. データ入力や加工をメインにしたサイト: GmailGoogle Docsがこれに相当します。

以下、それぞれについて考えていきます。

閲覧をメインにしたサイト

1の閲覧をメインにしたサイトについてはオフラインへのアプローチは2通り考えられます。一つはサーバから帰ってくるHTMLをそのままキャッシュすることです。もう一つはAPIでデータをJSONなどの形式でダウンロードし、これをキャッシュすることです。そして画面に表示するときはJSONデータからDOMを作ります。

どっちを選択するかに関わらず、このようなサイトに共通しているのは、ブラウザ側ではModelを持つ必要が無いということです。保存する内容はページの内容だけですので、ModelはせいぜいPage一つです。わざわざクライアントサイドのMVCフレームワークを用意する必要がありません。

このようなサイトで一番大きな問題はデータ量ではないでしょうか。Wikipediaであればすべてをローカルに保存するわけにはいかず、一部だけをダウンロードすることになります。それでも数千ページを保存すれば相当な容量になります。このデータを効率的にサーバから出力し、ブラウザ側で処理し、ローカルに保存していくかは簡単ではありません。

個人用にカスタマイズしたコンテンツをメインにしたサイト

実際問題、こういうサイトではオフラインの閲覧はほとんど実現できていません。例えばHTML5をやめてnative Appを開発していくということで話題になったFacebookのiPhone用アプリですが、オフラインで見られるのは以前に閲覧した内容のキャッシュです。先読みしてローカルにページを保存することはしません。したがってオフラインでやれるのは見直しだけです。

Twitter, LinkedInのiPhone用Nativeアプリも同じです。

ただ「いいね!」などはオフラインでも押すことができて、オンラインになるとその変更がサーバに送られることを期待しましたが、テストしてみたところ反映されていませんでした。

もともとこのようなソーシャルネットワークアプリはタイムラインを中心としたUIなので、タイムラインさえキャッシュすればほとんど用が足りると発想をしているのだと思われます。いずれにしてもオフラインではたいして使えないのが現状です。

このようなサイトを実現する方法は「閲覧をメインにしたサイト」とよく似ています。サーバから帰ってきた内容をキャッシュすれば良いのです。ただし内容が変更されることが頻繁にあるので、ネットワーク接続があれば積極的にデータを更新することになります。

データ入力や加工をメインにしたサイト

GmailやGoogle DocsはもともとデスクトップのemailクライアントやMS Officeをウェブ用に作り替えた製品であり、完全にオフラインで動作するようにGoogleがかなり開発をしてきた製品です。

これらの特徴は、様々に加工した後に作られるドキュメントが非常に独立していることです。デスクトップのアプリであればドキュメントはファイルシステム上のファイルであり、属性としてはタイムスタンプやフォルダー名、ファイル名、そして権限ぐらいです。Facebookの書き込み、コメント、いいねと違い、複雑なリレーションがありません。

このようなWebサイトはデータを加工するのには複雑なJavascriptを使う必要がありますが、一方でサーバとやりとりするデータはかなり境界がはっきりしていて単純です。この際に便利なのがクライアントサイドのJavascript MVCフレームワークです。ブラウザの中で複雑な処理が行われデータが加工されていきます。上述の「閲覧をメインにしたサイト」「個人用にカスタマイズしたコンテンツをメインにしたサイト」と異なり、ブラウザはデータに対して受け身ではなく、積極的にデータを作り、改変します。ブラウザ内での処理が複雑になりますので、MVCフレームワークの必要が出てきます。

このように、どのようなWebサイトでオフライン閲覧を実現しようとしているかによって、どこまでやるべきか、どこまでやれるかがかなり分かれます。

さて私が考えているのはソーシャル機能を持ったオンライン抄録集ですので、1, 2の機能を併せ持ったものになります。それを実現するために何が必要かを考えていきます。

ソーシャル機能を持ったオンライン抄録集ではブラウザ側のMVCは必要ない

オンライン抄録集は根本的には「閲覧をメインにしたサイト」ですので、各ページのデータをローカルに保管すれば十分です。ソーシャル機能については「個人用にカスタマイズしたコンテンツをメインにしたサイト」と同じように考えますので、普通に考えればオフラインでソーシャル機能を提供する必要はありません。したがってサーバのレスポンスをキャッシュするアプローチで十分です。

もし一歩先を行って、「いいね!」などをオフラインでも可能にしようと思うと、ブラウザの中にModelを作っていく必要が出てきます。しかしModelの数は少なくて済むと思われますので、全面的にクライアントサイドMVCを導入するのは無駄だと考えられます。

残念ながら適当なフレームワークがない

残念ながらこういう目的のJavaScriptフレームワークは存在しないのが現状です。Sencha Touchはローカルにデータを保存することができますが、完全なクライアントサイドMVCフレームワークなので今回の目的に合いません。

jQuery Mobile, jqMobiなどはサーバ側にHTMLの生成を任せているフレームワークで、クライアントサイドにModelを持つ必要の無いものです。しかし主眼はNativeアプリと似たようなUIをブラウザ内で実現することであり、ページをローカルにキャッシュする機能はありません。

オフラインでも使えるwebサイトを作るために

現在取りかかっているプロジェクトと関連しますので、ローカル(オフライン)でも使えるWebサイトを作るためのポイントをまとめてみました。

データをため込むにはHTML5のアプリケーションキャッシュとストレージを使う

ローカルで使えるWebサイトを作るには、データをローカルに保管することが必須です。HTML5では保管方法がいくつか用意されていて、大別するとアプリケーションキャッシュストレージになります。

静的なファイルはアプリケーションキャッシュで

完全にローカルで使えるWebサイトを作るためには、HTML5のアプリケーションキャッシュを使う必要があります。最初に問い合わせるURLはこのアプリケーションキャッシュに入れます。これをやらないと、URLを入力した時点でブラウザはサーバに問い合わせをし、ネットワークが繋がらなければエラーになります。

アプリケーションキャッシュは便利ですが、例えば1ページでも更新されるとキャッシュ全体をクリアしなければならないなど、頻繁に更新される内容には不向きです。あくまでも静的なファイルに使用します。

ただし、Webサイトのトップページはしばしば動的なページです。更新情報やお知らせなどを掲載することが一般的です。そうなると最初に問い合わせるURLは静的ではなくなります。

この問題を解決するためには、最初に問い合わせるURLではウェブページのフレームワークだけを返し、更新情報などはストレージから読み込むんで、Javascriptで埋め込むことになります。

HTML5 History APIは使わない

Javascriptを使ってページ内容を更新する場合、backボタンやブックマークを正常に動作させるためにURLを書き換える必要があります。その方法はURLのハッシュフラグメントを書き換える方法と、HTML5のHistory API (pushStateなど)を使う方法があります。

pushStateを使うとハッシュフラグメントではなく、URLの本体を変更します。この方が従来のWebと親和性が高いという理由などから、現在ではHistory APIを使った方法が推奨されています。

しかしこれはローカルWebアプリには使えません。最大の理由はアプリケーションキャッシュがうまく使えないからです。

例えばhttp://my_server.com/をアプリケーションキャッシュに保管しいても、http://my_server.com/path_to_page_1, http://my_server.com/path_to_page_2というURLにアクセスしようとするとアプリケーションキャッシュのページは使われません。通常通り、http://my_server.com/path_to_page_1, http://my_server.com/path_to_page_2をサーバに要求します。

それに対してhttp://my_server.com/#!path_to_page_1, http://my_server.com/#!path_to_page_2のようなURLになっていれば、まず最初にアプリケーションキャッシュのhttp://my_server.com/が呼び出されます。そのあとpath_to_page_1path_to_page_2のコンテンツはストレージから読み込むか、あるいはAJAXでサーバに問い合わせることができます。

その他、Androida 4.0のデフォルトブラウザがHistory APIをしっかりサポートしていないという問題もあります。

ストレージの選択

ストレージはいくつもAPIが用意されていますが、ブラウザのサポートを考慮すると実際に使えるものは限られています。

一番広くサポートされているのはwebStorageです。これは非常に単純なkey/value型のストレージです。IE8でさえサポートされています。しかしwebStorageの大きな問題は容量の少なさです。Safariだと5Mbyteが上限です。これでは日本分子生物学会の抄録などは収まりません。経験的に数百演題の学会であればwebStorageでも十分ですが、1000を超えたらwebStorageでは不十分です。

次にサポートされているのはWeb SQL Databaseです。50M byte以上のデータをため込むこともできます。またSQLでクエリが書けるので、いろいろな使い方ができます。ただしWeb SQLは今後は規格を更新しないことが決まっています。Web SQLの大きなポイントは、FirefoxやIEなどのデスクトップ用ブラウザではサポートされていないものの、スマートフォンのブラウザで広くサポートされている点です。

最も期待されるのはWeb SQLに変わるIndexed DBですが、こっちはまだサポートするブラウザが少なく、特にスマートフォン用ブラウザではサポートされていません。

上記を考えると、ストレージとしては第1にWeb SQL Databaseを優先させ、サポートしたいブラウザや保管したいデータ量を考慮してIndexedDBもしくはwebStorageをサポートするのが妥当な選択だと言えます。

まとめ

完全にローカルなWebサイトを作るために必要なコンポーネント、どのHTML5テクノロジーを使うかの話をしました。特に重要なのは、一般的に推奨されている History APIは使えないということだと思います。

もちろんコンポーネントを選定しただけではまだまだ話は始まったばかりです。解決しなければならない問題はたくさんあります。これについてはこれから少しずつ紹介していきます。

解決しなければならない問題のリスト

  1. ハッシュフラグメントのフォーマット
  2. out-of-dateになったページをどうやって更新するか
  3. データの同期をどうやって行うか

statCounterの統計 201301

statCounterという、ウェブ使用統計が簡単にわかるサイトがあります。この統計をちょっと見てきます。

米国PC用ブラウザ(含むタブレット)の統計

StatCounter US browser 2013 01 06 17 24

  1. クリスマスになるとIEの使用率が減ってChromeの使用率が上がります。
  2. それに対してFirefoxの使用率は目立った変化はありません。
  3. iPadの使用率はクリスマスで大幅に上昇。1月になっても継続しています。
  4. Androidの使用率は大幅に上昇。しかしベースが非常に低い。

米国モバイル用ブラウザ(スマートフォンやフィーチャーフォン)の統計

StatCounter mobile browser 20130106

  1. 米国ではAndroidが2012年を通して使用率が減少する傾向。対してiPhoneの使用率が上昇する傾向。
  2. 2012年のクリスマス期はその傾向が特に強く出ました。

iPad専用にデザインするということはどういうことか

iPad miniの登場でタブレットに最適化されたウェブサイトが必要になってきました

スマートフォンとiPadなどのタブレットが急速に普及したため、同じコンテンツを異なるスクリーンサイズに合わせてデザインする必要が出てきました。その中でもスマートフォンは先に普及し、またスクリーンサイズがPCと大きく異なるため、スマートフォン専用のサイトを用意したり、あるいはスマートフォン専用のアプリを用意することが多くなりました。

一方でiPadなどのタブレットでは事情が複雑です。

iPadのSafariは横幅が980pxのウェブサイトであれば縦向きの画面に納められるようにデザインされています(実際のピクセル数は768pxしかないのですが、980pxのサイトを768pxに圧縮します)。しかしこれだとリンクが非常に小さくなるので、リンクをタップするときにかなり神経を使います。AppleのiOS Human Interface Guidelinesではボタンのサイズを44px x 44px以上にすることが推奨されていますが、それよりもずっと小さくなります。

今までの10インチのiPadであれば、それでも何とかなりました。神経を使えばリンクをクリックすることができました。しかし7.9インチのiPad miniになるとさすがに難しくなります。画面の拡大縮小をしないとPCウェブサイトのリンクはクリックできません。

そろそろタブレットに最適化されたウェブサイトが必要になってきたのではないでしょうか。

タブレット専用のサイトを作るべきか、それともPC用のウェブサイトを作り替えるべきか

国内のスマートフォンの普及率はまだ50%以下です。したがってすべてのユーザをカバーするようなウェブサイトを作るためには、1) PC用, 2) スマートフォン用, 3) フィーチャーフォン用のウェブサイトが最低でも必要になります。さらにタブレット専用のウェブサイトを作るとなると4種類のウェブサイトを作ることになり、かなりつらくなってきます。

やはりタブレット専用のウェブサイトを作るよりは、PC用ウェブサイトと共用のものが作れれば楽です。そうなると7.9インチのiPad miniでも快適に見られるようなPC用ウェブサイトを追求することになります。

PC用のウェブサイトは無駄だらけ?

以下に示すのはasahi.com用のiPadアプリの一面です。

Skitch

以下はPC用ウェブサイトのトップページです(赤枠は私が付けました)。 Skitch

内容を比較するとiPadアプリの一面の内容はPC用ウェブサイトの赤枠だけです。ざっと見たところ、PC用ブラウザの画面の1割程度だけがiPadアプリの一面に使われています。PC用ウェブサイトの赤枠以外は、iPadアプリではすべて省かれているのです。

なぜiPadアプリではPC用ウェブサイトのコンテンツの9割を省くことができたのでしょうか。PC用ウェブサイトのトップページコンテンツの9割は無駄なのでしょうか。

PC用ウェブサイトはナビゲーション用リンクが異常に多い

先ほどのPC用ウェブサイトのトップページを内容ごとに色分けしました。

赤がiPadアプリの一面にもあった、いわゆる「新聞の一面記事」です。青はナビゲーションです。カテゴライズしたナビゲーションではなく、「もしかしたらこんなことに興味があるんじゃないかな?」ということでリストアップされたものです(カテゴライズしたナビゲーションはトップメニューにあります)。そして緑が広告です。さらに黄色は他のページ(この場合は社会欄)の抜粋リンクです。

2012 12 30 18 24 asahi com PC web

こうしてみると青のナビゲーションリンクが異常に多いことがわかります。また下にスクロールしていくと、黄色の他ページ抜粋リンクが延々と続きます。

青のナビゲーションリンクの目的は、人気記事を前面に出すことです。少しでも読者におもしろがってもらえる内容を早めに見せておくためのリンクです。

黄色の他ページ抜粋リンクは、トップメニューを経由しなくても、下にスクロールするだけで他ページの内容が見られるようにした工夫です。クリックするよりもスクロールした方がユーザは楽だろうという配慮です。これもナビゲーションリンクの一種です。

iPadアプリにはこういう青と黄色のリンクに相当するものがほとんどありません。

PC用ウェブサイトもナビゲーションリンクを減らせば簡単にiPad向けになる

PC用ウェブサイトのナビゲーションリンクを省き(青と黄色のリンク)、そのページ固有のコンテンツに絞ればフォントサイズを大きくすることができ、iPad miniでも簡単に操作できるものになります。そのためには以下のことを考慮すれば良いはずです。

  1. トップナビゲーションメニューを経由したページ切り替えを楽にし、黄色の他ページ抜粋リンクを不要にする。
  2. 青色のリンク(ランキングなど)は別のページにまとめ、これもトップナビゲーションメニューから簡単に移動できるようにする。

トップナビゲーションは必要か

実はトップナビゲーションメニューも不要かもしれません。Asahi.comのiPadアプリではトップナビゲーションメニューは前面に出さず、実際の新聞の紙面のページを送る間隔で、1ページずつ、すべてのページを切り替えていくのがメインのナビゲーション形式です。ページ切り替えは素ワイプジェスチャーで行います。

このナビゲーションは全体を眺めることに重点を置いています。ナビゲーションメニューの中から特定のカテゴリーを選んで、そのページに移動するのではなく、すべてのページをざっと眺めながら興味を引いたコンテンツを見るのに向いています。このナビゲーションをうまく実装できればメリットは明確です。いままでコンテンツをつまみ食いしていたユーザが、全体を眺めてくれるようになるのです。

トップナビゲーションを無くしたインタフェースを実現するためには、2つのことが必要です。

  1. 素早くて滑らかなページ切り替え
  2. 大きくて目立つ見出し

このうち2番目の大きな見出しについては、各ページの余計なコンテンツ(主にナビゲーションリンク)を減らせば実現できます。しかし1番目は現在のウェブサイトの作り方では難しいところがあります。今のウェブサイトはロードするのに時間がかかりすぎるからです。逆に言うとページのロード時間を十分に減らすことができれば、トップナビゲーションを無くしたウェブサイトのデザインは実現可能になってくるかも知れません。

現在のウェブページのロードを早くするためには

iPadアプリはまず最初にすべてのコンテンツをダウンロードするので、ページ内容はすべてローカルに保存できます。だからページの切り替えが非常に素早くできます。HTML5にはブラウザ内のデータをため込むための方法がいくつか用意されていますので、これを使うとページ切り替えがかなり早くできます。

またページをロードするのにかかる時間の大部分は、実はコンテンツではなく、JavascriptやCSSだったりします。このあたりも要改善です。

直感的なページ切り替えの操作

今までのウェブサイトはページを続けてざっと眺めるのに適したUIを用意してきませんでした。ページ切り替え用のボタンを用意するものはありましたが、ボタンは小さく、マウスを移動させてクリックするのは面倒でした。それに対して、iPadアプリで使われるスワイプジェスチャーは非常に直感的で、簡単にできます。同じぐらい簡単な操作をPCでも実現できればトップナビゲーション不要なUIが作れるかもしれません。

まとめ

以上、いろいろな話をしました。まとめると以下の通りです。

  1. iPad miniの登場で、PC用のウェブサイトであってもiPad miniに最適化する必要が出てきました。
  2. iPad miniに最適化するときに重要なのは、無駄なナビゲーションリンクを減らすこと。
  3. ナビゲーションリンクを減らす中で、トップナビゲーションメニューの役割すら再検討するべきです。
  4. ナビゲーションリンクを減らすことと、ページロードのスピードを上げることは密接に関わっています。必要に応じてHTML5のデータ保存機能を活用しながら、ページロードスピードの向上に努める必要があります。

Androidバリューチェーンの力の関係: DoCoMoがSamsungと組んでTizen搭載スマートフォンを販売する話を聞いて

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読売新聞がDoCoMo、Samsungと組んでTizen搭載スマートフォンの2013年リリースを目指すと報じているそうです(TechCrunch)。

いろんな意味でこれはAndroidのバリューチェーンの中で、Samsungが如何に重要な位置を占めているかを表しています。

Androidエコシステムの中で一番力があるのはSamsung

Asymcoブログで、Google vs. Samsungの利益が紹介されています。Androidエコシステムの中でSamsungの一人勝ち状態であること、そしてSamsungの利益がGoogleを既に超え、その差が加速しつつあることが示されています。

Androidを開発したのがGoogleであり、オープンソースではありつつもいろいろな形でメーカーにGoogleが制限を課していることから、Androidエコシステムの中で一番力があるのは上流のGoogleではないかと考えがちです。しかし金銭的な利益で見る限り、Androidバリューチェーンの中でのSamsungの付加価値はGoogleを圧倒していると言えます。

これは一見すると矛盾しています。Samsungの携帯が売れているのはAndroid OSが構想ので普及したこと + Samsungのハードウェア技術に起因していると考えると矛盾です。Samsungの成功の主要な要因がAndroid OSであると考える限り、例えばSamsungだけが圧倒的に一人勝ちしている状況は説明できないのです。

この矛盾に対する答えはやはりAsymcoブログの中にあり、The cost of selling Galaxiesの中でHorace DediuはSamsungのマーケティング及び販促費が桁違い多いことを紹介しています。つまりSamsungが一人勝ちしている最大の要因は力任せのセールス&マーケティングであると考えられるのです。そうなると以下の論理が成立します。

Androidが売れているのはSamsungの携帯が売れているから

これはSamsungが一人勝ちしていることから言えます。

Samsungの携帯が売れているのはSamsungのセールス&マーケティングが強力だから

これはSamsungの経費から推測できます。

そして上記の2題が成立するならば

Androidが売れているのはSamsungのセールス&マーケティングが強力だから

が成り立つのです。

別の言い方をすれば、AndroidのマーケットシェアがiOSに迫り、追い越した理由はGoogleのおかげではなく、Samsungのセールス&マーケティングが強力だからということになります。

GoogleよりもSamsungの力が強いとTizenの開発にどう影響するか

AndroidがAppleの特許を侵害したため、Samsungは巨額の賠償金、そして販売停止の可能性に直面しています。GoogleがJavaの知的所有権を侵害したのではないかという訴訟も続いています。Androidがあれだけ早く開発できたのはもちろん優秀な技術者のおかげもありますが、それに加えてAppleやSunの知的所有権をかなり盗んだことも効いています。

今度はSamsungがAndroidを真似る番です。iOSよりもAndroidを真似るでしょう。なぜならばオープンソースであることに加え、GoogleにとってはSamsungは無くてはならないパートナーであり、Googleに弱みがあるからです。加えてGoogleのスマートフォン関連の知的所有権が弱いということもあります。

AndroidがiOSに迫るまでには4年かかりました。TizenがAndroidに技術面で追いつくのは多くて2年と見積もって良い気がします。

DoCoMoとSamsungの力関係

読売新聞の記事では

グーグルのOS「アンドロイド」のスマートフォンや、アップルのiPhone(アイフォーン)=OSは「iOS」=は、それぞれの仕様に合わせた応用ソフト(アプリ)が使いやすくなっている半面、ドコモの通信販売事業のように携帯電話会社が独自サービスを提供したり、独自に安全性を高めたりするのが難しい。  これに対し、タイゼンは基本技術が公開されていることに加え、携帯電話会社による独自サービスの提供を前提に開発が進められているのが特徴だ。

と解説されています。

つまりDoCoMoの強みとされている「独自サービス」を活かすためにTizen OSに投資するのだという説明です。

しかしこの代償として、DoCoMoはSamsungに大きな力を与えることになります。巨大とは言え、数ある中の一つの供給元に過ぎなかったSamsungだったのが、Tizenを通して「独自サービス」を供給できる唯一の供給元になる可能性があるからです。

DoCoMoが意識しているか意識していないかははっきりわかりませんが、展開次第では力関係は大きくSamsungに傾いてしまう可能性があります(既にかなり傾いているのに加え)。かなり危険な賭です。

そしてTizenは売れるのか?

スマートフォン市場で将来を予想するのは難しいのですが、2013年以降大きな傾向は一つ出てきます。つまり、今までのスマートフォン市場は主にearly majorityを対象にしていたのに対して、これからはlate majorityを相手にしなければならない点です。テクノロジーに詳しい顧客ではなく、これからはテクノロジーのことがよくわからない顧客がますます増えるのです。こういう顧客は事前に調査することがあまりできないので、店頭で販売員に聞きながら機種を選定することが多くなります。そしてSamsungの強みである巨額の販売促進費用が凄く効くのです。

SamsungもiPhoneを追いかけなければならないので、最初からハイエンドをTizenで攻めることはないでしょうが、テクノロジーに詳しくない顧客を起点に徐々にTizenを普及させていくのが王道だろうと思います。

思いの外に成功するのではないかと私は予想しています。

Webのフォントサイズについて

iPadのSafariはPC用のWebサイトがストレス無く閲覧できるようにデザインされていて、実際問題としてかなりその通りになっています。しかしiPad miniの登場で状況はかなり変わりました。iPadよりも画面サイズがかなり小さくなっていますので、現存のPC用のWebサイトは見づらくなっているのです。iPadだったら画面の拡大縮小をしなくても無理なく見られたものが、iPad miniだと拡大縮小が必要になってきたのです。

こうなると、PC用のWebサイトであってもフォントサイズを大きくし、PCからiPad, iPad miniのどれで見てもストレス無く閲覧できるようにした方が良さそうな気がしてきます。これについて、いくつかのポイントを挙げておきます。

  • iPadは縦向きで使った時が一番感動的に良いです。PCの画面は横長ですが、印刷された本は縦長です。目の動きの負担を考えると、各行の横幅は比較的狭い方が楽で、縦長の方がやはり読みやすいと思います。したがってiPad向きなデザインを考えるとき、特別な事情がない限り、縦向きでの使用を一番重視することになります。
  • iPad2, iPad miniの画面の縦向きの時の横幅は768pxです。一番大切な文字を読むことに関してはフォントは自動にスケールするので、実際のピクセル数はそれほど気にしなくて良いかも知れません。しかし768pxがどういう数字かはある程度考えた方が良いと思います。またiPad Safariは最大で980pxのWebサイトを自動的に縮小して768pxの実画面に納めます。最近のWebサイトは横幅が1000px以上のスクリーンを想定していますが、これらはまず第一にiPad Safariで見ると横にスクロールする必要があります。自動縮小無しiPad Safariでページを表示するためには、横幅を768pxにする必要があります。
  • Retina Displayによってフォントが鮮明になり、小さいフォントでも読みやすくなります。しかし人間の指は小さくなりません。リンクやボタンはretina displayであっても大きくしておかないといけません。
  • ボタンを快適に押すことができるサイズはAppleのiOS Human Interface Guidelinesによると44px x 44pxだそうです。例えばiPad non-retinaの実験 (横幅768px)。これはかなり大きくて、Webページのリンクは通常はテキストのフォントサイズ程度なので、前後の行間があることを考慮してもフォントサイズは15pxは最低欲しいということになります。しかし多くのWebサイトでは12px程度のサイズを使っているので、ボタンは快適に押せません。さらに横幅は1000px程度なので、これよりも20%程度画面は縮小されています。つまり既存のWebサイトのデザインでは拡大縮小しない状態ではリンクは快適に押せないのです。
  • PCの画面も最近は高解像度化が進み、画面サイズが小さくなっています。例えばMacBook Airの11インチは1366px x 768pxの解像度です。2001年から発売された白いiBookは12インチのディスプレイで1024px x 768pxだったので、同じpxサイズの文字が25%程度小さく表示されていることになります。やっぱり字が小さくなった分、読みにくくなっています。

こういう現状を考えたとき、PCのウェブデザインを考え直していった方が良いのでは無いかと思います。高解像度のノートPC画面に合わせる意味でも、iPad(特にmini)に合わせる意味でもフォントサイズを大きくしてリンクを大きくし、ボタンも大きくしていく必要があるでしょう。画面に一度に表示できる内容は少なくなりますが、現状のWebサイトの大部分はナビゲーションや広告をたくさん表示しているだけなので、工夫次第で対策が可能なはずです。

学会抄録システムの作り方:コンセプト編

学会の抄録をスマートフォンのアプリにするのが流行っています。どこでもアプリを開発して提供するようになりました。でもそれで本当に学会は良くなるのでしょうか?それともこれはただのトレンドでしょうか?

今回の学会抄録システムをデザインするにあたり、かなり根本的なことを考えました。結果として現在のはやりとは逆に、スマートフォンアプリを作るという選択肢は採用しませんでした。その理由について、まだまとまりのないメモ程度ですが、以下に書いていきます。

スマートフォンユーザはどれぐらいいるのか

スマートフォンの売れ行きは絶好調で、どのキャリアも既存のフィーチャーフォン(ガラパゴス携帯)を前面に出して売ることがなくなりました。しかし我々が興味があるのはどれぐらいスマートフォンが売れているかではなく、スマートフォン使用者の割合です。

端的に言うと、学会参加者の中でスマートフォン利用者が7割を超えていなければ、スマートフォンアプリを前面に出してはいけないと思います。

古いデータになってしまいますが、2012年2月時点での調査によると全国のスマートフォン所有率はまだ2割台です。もちろん急速に増えてはいますが、それでも2012年12月の分子生物学会開催時においても4割弱にとどまるのではないかと思います。学会に参加するような人はスマートフォン所有率が高めだとは思いますが、それでもスマートフォン所有率が6割を超えるとは考えにくいです。

こう考えると、スマートフォンに特化した企画を前面に出すことはかなり問題があると思えます。

iPadユーザはどれぐらいいるのか

世界的にiPadの売り上げ台数はiPhoneの約半分です。iPhoneの売り上げ台数は全スマートフォンの売り上げ台数の半分です。したがって極めておおざっぱな見積もりですが、学会参加者中のiPad所有率はたかだか2割だと思います。したがってスマートフォンに特化した企画以上にiPadに特化した企画はバカバカしいのです。

ならばどのようなデバイスをターゲットしたIT企画にするべきか

ターゲットするべきデバイスを考える基準はすごく単純で、現時点で何が使われているかを基準に考えます。そうすると以下のようになります。

  1. ラップトップPC: 学会参加者、特に発表者は必ずラップトップPCを持っていて、多くの場合は学会会場にまで持ってきています。昨年の学会を見ても、会場の廊下で多くの参加者がPCで抄録を確認したりメールを確認したりしていました。したがってターゲットするべきデバイスの第一位はラップトップPCです。
  2. 紙 (PDF): 次に多くに人が利用するのが紙です。抄録集のPDF版を紙に印刷して、その紙を会場で持ち歩きます。またPCの画面を印刷する人もいるでしょう。紙はなんといっても特別にデバイスを買う必要が無くて安価で、また枚数が極端に多くなければ軽いです。メモも簡単にとれます。ターゲットするべき第二位は紙です。
  3. スマートフォン: スマートフォンはウェブを閲覧することもできますし、PDFを見ることもできます。持ち運びはすごく便利ですし、利用者が急増していますので、ターゲットするべきデバイスの第三位はスマートフォンです。
  4. iPadなどのタブレット: iPadは学会用デバイスとしては究極的な存在です。持ち運びは便利で立ちながら使うことが出来、ウェブもPDFも見るのに非常に適しています。メモ書きもそれほど苦労せずにできます。またプロジェクターにつないでスライドを上映することだってできます。しかしiPadの最大の欠点は利用者がまだ少ないことです。したがってターゲットするべきデバイスとしては第四位の存在です。

このリストを見てはっきりわかるのは、最近話題になっているスマートフォン用アプリは第三位と第四位の優先順位のデバイスをターゲットしているだけであるということです。学会全体の魅力を高めるという意味においては周辺を攻めているだけで、本当に重要なところには全然突っ込んでいないのです。

もしもラップトップPCと紙媒体向けのオンライン抄録が満足のいくものであれば、それはそれで良いのかも知れません。第一位と第二位に対しては既存のもので十分に満足してもらえているのであれば、第三位と第四位に注力するのは納得できます。しかし現状は違います。ラップトップPC向けのウェブサイトにしても、紙媒体向けのPDFにしても全く満足な出来ではないのです。

結果として何をどのようにターゲットしたか

いろいろな紆余曲折がありましたが、最終的には以下のデバイスをサポートすることになりました。現状の技術水準を考えたとき、ぎりぎりいっぱいのサポートができたのではないかと思います。

  1. ラップトップPC: HTML5などの最新ウェブテクノロジーを駆使し、見やすさを高める工夫も凝らしたオンライン抄録集をウェブサイトとして用意。
  2. 紙媒体: 読みやすくデザインされたPDFを提供するとともに、各セッション毎に細かくファイルを分割(計800ファイル弱)。興味のあるところだけを印刷しやすいように工夫しました。
  3. スマートフォン: ラップトップPC用のウェブサイトをベースに、スマートフォン用にデザインしなおしたウェブサイトを用意。HTML5を使い、ネットワークアクセスの負担を減らし、ある程度オフラインでも閲覧できるようにしました。
  4. フィーチャーフォン: スマートフォンの利用者は学会時点でもまだ5割程度となる見込みで、まだフィーチャーフォンを使っている人が5割ほどいるはずです。そこでスマートフォン用のウェブサイトを簡略的なデザインに変更することで、iMode用のウェブサイトを用意しました。
  5. iPad: iPadの画面サイズは768 x 1024ピクセルです。一世代前のウェブデザインでは横幅を800px以下にすることが推奨されていたため、768px用のウェブサイトを作るのは簡単なことです。そこでラップトップPC用のウェブサイトを最初から768pxでもOKなようにデザインすることで、そのままiPadに対応しました。スマートフォン用ウェブサイトと同様にHTML5を駆使し、ネットワークアクセスの負担を減らし、ある程度オフラインでも閲覧できるようにしました。

ソフトウェアとしては以下のようなコンポーネントになります。

  1. ウェブサイト: マスターデータベースを兼ねたウェブサイトです。一つのデータベースからPC用、スマートフォン用、フィーチャーフォン用のデータが自動的に作成されます。PDF作成用のXMLファイルもこのデータベースからエキスポートします。ウェブアプリ開発でよく使われるMVC (Model-View-Controller)のデザインパターンを使っているため、PC用、スマートフォン用、フィーチャーフォン用のウェブサイトは大部分のコードが共通で、Viewコードだけを個別に用意しています。
  2. PDFファイル作成: PDFファイルはAdobe IndesignへのXML流し込みで作成しています。そこでInDesign用のテンプレートファイルおよび自動流し込みのためのAppleScriptを用意しています。
  3. Javascriptフレームワーク: ウェブサイトの一部ですが、別個に取り上げるだけの大仕事でした。学会のように大勢が集まる場所でのWiFi環境はズタズタのことが多く、せっかくウェブサイトを用意してもそれに接続できないという問題が起こります。HTML5ではWebStorage APIやWeb SQL APIなどがあり、ローカルでデータを保管できるようになっています。しかしサーバへのリクエスト、レスポンスをローカルへキャッシュ、キャッシュからの読み出し、キャッシュのinvalidationなど一連の作業を管理してくれるフレームワークはほとんどありません。そこで独自に新しいフレームワークを作る羽目になりました。

まとめ的な話

雑多な話をしているのでまとめと言いながらあまりまとめっぽくないのですが、言いたいことをここでずばり解き放つとこんな感じ。

「ろくなPC用ウェブサイトも作らずにスマートフォン用アプリを開発しているやつらは何もわかっていない。」

スマートフォンの売り上げ:いろいろな数字

スマートフォンって非常に成長が著しい市場で規模も大きいので、調査会社がいろいろな分析をしています。でもそれはかなり怪しいよという話をいくつかここにまとめます。

アメリカの携帯キャリアが報告している数字

以下はアメリカの携帯電話ネットワークキャリア(AT&T, Verizon, Sprint, T-Mobile)が報告している数字です(Benedict Evans氏のブログから引用)。Apple以外のスマートフォン製造会社はどれも売り上げ台数を報告しないので、調査会社が推測した数字じゃなくて、実際に販売している会社が報告している確固たる数字はこれぐらいしかありません。

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ポイントは

  1. 2012年Q3でiPhoneが9.3 million、その他のスマートフォンが8.7 million販売されました。
  2. スマートフォンは携帯電話全体の販売台数の80%。

調査会社などの調べでは世界全体の市場ではAndroidは75%としていて、この数字自体がかなり推測を含んでいますが、USに限って言えばiPhoneがスマートフォン市場の50%以上を握っています。

Benedict Evans氏のブログによると、Comscoreなどの調査会社の調べではiPhoneの利用者はスマートフォン全体の30%しかないという調査結果があり、それも怪しいねという話です。

アップル vs. サムスンの法廷資料で出てきた数字

調査委会社のIDCなどは2012年のQ2にサムスンが50.2 millionのスマートフォンを出荷したとしています。しかしこれもかなり推測を含む数字です。サムスンはスマートフォンの出荷台数を近年報告していません。

しかしアップル vs. サムスンの裁判の中で、適切な損害賠償の額を算出するためにアップルもサムスンも実際の販売台数を報告する義務が発生しました。USでの販売台数しか出てきませんでしたが、メーカー自身が報告した正確な数字としては貴重なものです。以下、Horace Dediu氏がまとめたものを紹介します。

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以上のグラフはサムスンが世界全体で出荷したと推測されるスマートフォン台数全体(IDC調べ)と法廷で損害賠償の対象となっているサムスン製スマートフォンの実際の販売台数を比べたものです。ただしサムスンの実際の販売台数はUSのみです。また2012年の4月に販売開始されたGalaxy Nexus, 2012年7月に販売開始されたGalaxy SIII, 2012年2月に販売開始されたGalaxy Noteは含みません。

IDCの調査結果がUSでの販売傾向を全く反映していないことは一目瞭然です。

ウェブブラウジングの使用率を見た数字

Statcounterがウェブを閲覧したユーザのデータを公開しているので、ここから分析することもできます。まずはUSのデータ。

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USのデータを見るとUSのキャリアが報告している販売台数と良く似た数字になっています。iPhoneの方がAndroidよりも上で、iPhoneの方が不くるから販売されていることを加味すれば、実際の販売シェアよりもウェブアクセスのシェアでiPhoneが上に来るのは納得できます。

Statcounterを世界全体で見ると以下のようになります。

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Androidの方がiPhoneよりも多くなっています。またAndroidが強いのは一人あたりGDPがあまり多くない国が多く、ネットワーク環境が整備されておらず、ネットアクセスが不自由である国が多いと考えられますので、Androidからのウェブアクセス以上にAndroid端末は世界で売れていると考えることができます。世界全体でAndroidが75%の販売シェアを持っていることは、この数字を見る限り十分可能だと考えられます。

ちなみにStatCounterの数字を日本で見ると、iPhoneとAndroidが拮抗しています。iPhoneの方が強いUSとは違います。これはDoCoMoがiPhoneを売っていないのが最大の理由でしょう。

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Androidが強い国って何処だろう

StatCounterの国別の数字を、各国の一人あたりGDPでプロットしました(まだすべての国をプロットしていませんが主要な国は含んでいます)。

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なおSymbianもSeries 40もNokiaのOSです。

はっきりわかるのは

  1. 一人あたりGDPが高い、裕福な国ではiOS (iPhone)が強く好まれている。しかし一人あたりGDPが50位以下の国では弱い。
  2. Androidは裕福な国ではそこそこ使われているが、iOSとの決定的な違いはGDPが40位以下の国で強いこと。GDPが40位以下の国というのは、ロシアやアルゼンチン、マレーシア、メキシコ、ブラジル、タイ、中国などを含みます。
  3. NokiaのOSは一人あたりGDPが低い、貧しい国でよく使われている。

アップルがTVを売るとしたらどんなものか & 今のテレビ産業のまずさ

昨日、両親のテレビを選ぶために5年ぶりに家電量販店のテレビ売り場を見に行きました。

がっかりしました。価格競争の末路とはこうなるのかと。

もちろんアジアの新興国が液晶テレビに参入し、技術も成熟すれば液晶パネルの価格が下落し、液晶テレビの価格が下がるのはわかっています。グローバルな価格競争に巻き込まれ、安い製品しか売れなくなるという理論は少なくとも半分はその通りなのです。

しかしパソコンの世界ではAppleのMacがここ数年間か絶好調で、他のメーカーがほとんど$1,000以下の製品が売れ筋であるのに対して、Macだけは$1,000以上の製品が主力で売れています。

そこでAppleだったらどんなテレビをデザインするかなとちょっと考えてみました。

製品群を絞る

NewImageSteve Jobs氏がAppleに復帰して、すぐに行ったのは製品の絞り込みです。Performa6260, 5200, 5300とかPower Macintosh9600, 8600とかのような意味不明の製品型番を廃止し、一般消費者向けのiMacとiBookそしてプロフェッショナル向けのPower MacとPower Bookに製品に絞り込みました。そして各製品カテゴリーには”Good”, “Better”, “Best”という数種類のコンフィギュレーションを用意するものの、これらの違いはほぼCPUのスピードやRAM容量の大小に限定しました。数多くの製品を、たった4つに絞ったのです。

このコンセプトを発表したときにSteve Jobsが語っていたのは、「こんなに製品が多いと、社長の自分だってどれを買って良いかわからない」ということ。つまり何を買えば良いかを分かりやすくするための絞り込みだったのです。もちろん会社の限られた資源を少数の製品に投入できるメリットもあります。

さてテレビの状況を見てみましょう。昨日見たのはシャープのAQUOSでしたので、それで紹介します。下記は今日時点のシャープのウェブサイトからとりました。

製品カテゴリーは大きく分けて「クアトロン」「フリースタイル」「LEDバックライト」。どのキーワードもなじみが無いものばかりで、何の意味だかわかりません。そして各カテゴリーを合わせて実に19の製品があります。各製品紹介の一文には「スタイリッシュ」「スマート」「プレミアム」「スリム」「スタンダード」「オールインワン」「ベーシック」「カンタン」とかいろいろ書いてありますが、何を言いたいのかよくわかりません。

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例えばAppleの場合、

  1. すべての製品が「スタイリッシュ」で「スマート」で「プレミアム」で「スリム」で「カンタン」で「シンプル」です。”Mac”というブランドはこれらの言葉をすべて内包しています。Appleの場合、各製品の違いを紹介するのに使う言葉ではありません。Appleと競合他社の違いを説明するのに使う言葉です。
  2. Appleは製品カテゴリーを分ける基準として可搬性(ラップトップ、デスクトップ)、そして必要なパワー(一般消費者、プロフェッショナル)だけを選択しました。それに対してシャープは使用している技術(クアトロン、LEDバックライト)でカテゴリーを分けました。シャープの選択には非常に大きな問題があります。テクノロジー分野は技術がすぐに変わってしまうので、技術ごとにカテゴリーを分けるとすぐに陳腐化してしまいます。あるときは「LEDバックライト」はハイスペック製品を指していたかも知れませんが、数年後にはロースペック製品を指すことになります。例えば今年いっぱい「クアトロン」の良さを紹介するために広告宣伝費を何億と使っても、数年後にはそれはすべて無駄になってしまいます。それに対してAppleの場合は”MacBook”とか”iPad”という製品ブランドをプロモーションの中心に持って行き、そのブランドを顧客に覚えてもらうようにしているので、何年経っても投入した広告費は生き続けます。
  3. Macintoshに限定すれば、2012年時点 Macbook Air, Macbook Pro, Mac mini, iMac, Mac Proの5製品しかありません。シャープのテレビラインアップの1/4です。ポストPCデバイスのiPadおよびiPad miniは同じ製品の別サイズとみても良いので、iPadを入れても6製品しかないと言えます。

さてAppleがテレビを売るとしたら、どんな製品ラインアップを用意するでしょうか?

私の予想はこうです。

  1. 製品はたったの1種類。
  2. その製品は「スタイリッシュ」で「スマート」で「プレミアム」で「スリム」で「カンタン」で「シンプル」な製品。さらにシャープが持っている一番高い技術である「クアトロン」はもちろん搭載しています。
  3. 画面サイズは52 or 55, 40, 32インチの常識的なサイズのみ。アメリカでも60インチ以上のものが特に売れているわけではなさそうなので、60インチオーバーはラインアップに加えないだろうと思います。
  4. もちろん「オールインワン」。つまり録画機能(HDを含めて)はテレビに組み込み済み。ただしBluRayは衰退していく技術だとAppleは判断していますので、BluRayは入らないでしょう。

デザインを良くする

例えば「スタイリッシュ」と書かれているシャープのXL9シリーズを見ると、PRポイントは「画面の大きさと映像が映える、アルミフレームデザインを採用」です。でもこれってパッとしないですよね。確かに他のテレビはプラスチックの安っぽいフレームを採用しているので、それと比べればましではありますが、ぐっとくるような魅力はありません。

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これに対して今のApple iMacのデザインのポイントを見てみましょう。

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iMacの場合はそもそもフレームを無くして、端から端までガラスを張っています。iMacは2006年までのプラスチックを使った筐体から2007年にアルミに切り替え、その時からフレームをほとんど目立たせないデザインを採用しています。2009年からはこれを進化させ、フレームのないデザインを採用しています。

実際に店舗に行くとわかりますし、Amazonのウェブサイトでもある程度わかりますが、今売られている液晶テレビは安いものから高いものまで、ほとんどすべてが同じような光沢のある黒い枠がついています。内部でどんなに高度が技術が使われていようとも、あるいは3Dに対応していようとも、それがデザインからではわからなくなっています。

これってすごくまずいです。ベンツとカローラのデザインが同じという状態です。

高級品を買う人ってすべてが技術が好きだというわけではなく、虚栄心で高級品を買っていることが良くあります。ベンツなどはその典型です。であればその虚栄心を満足するべく、一見して高級品だとわかるようにデザインを工夫しなければなりません。低価格品とは明確に区別されるような、高級ブランドのメッセージが伝わらなければなりません。ベンツの場合はそれはエンブレムでしょうし、BMWであればそれはフロントグリルになります。Appleであれば、細部までデザインにこだわっていること自身がブランドメッセージです。

もしアルミフレームというものが「高級感」を連想させるデザインになるのであればシャープのやり方でも良いのですが、かなり弱いと感じます。これだけでは誰も驚かないし、センスも感じませんし、シャープの技術力の高さやイノベーションを感じません。

Appleがテレビをデザインすれば、それは間違いなくiMacのデザインを踏襲するでしょう。iMacを薄くするために培った技術力を活かして極限までにテレビを薄くし、そしてそれが際立つようにフレームのないデザインを採用するでしょう。こうすれば誰が見ても「あっ、あのテレビは何かが違うぞ!」となるし、家にお客を招いた場合は必ず「このテレビ、すごい!」という話題になります。

最後に

Appleはパーソナルコンピュータを売っている会社だから、Appleがテレビを作るのであればインターネットに接続したりiPhoneと連動したりとか、そういうことを考える人はたくさんいます。しかし実際の量販店のテレビ売り場に行くと、それ以前の問題がたくさんあることに気づきます。

良い製品をそこそこの値段で売るための条件が整っていないのです。あの状況なら価格競争は必然的に起こるという状況しかないのです。

Steve JobsがAppleに戻った頃、Appleは勝ち目のない価格競争の巻き込まれていました。初代iMacは技術的にはたいしたものはありませんでしたが、価格競争から抜け出すための大きな手がかりとなりました。DELLなどによる熾烈な価格競争の中、マスコミに敗北者の烙印を押されたブランドであっても、いろいろ工夫すれば差別化路線がとれるし、ちゃんとした利益を確保できることをiMacは教えてくれました。

今テレビ業界に必要なのは技術的なことじゃなくて、何かこういうものだろうと思います。

追記

大事なことを忘れました。Appleだったら3Dテレビは出さないだろうなと思います。人気が出ない3D技術は思い切って早々と捨てるでしょう。理由はいろいろありますが、まず量販店の3Dテレビ置き場におかれてしまうのはかえって不利ではないかと思いました。それぐらいに3Dテレビの関心が低い可能性が十分にあります。むしろ普通のテレビのところに配置してもらって、普通の40インチを買おうかなと思っていた顧客を引きつけた方が良い気がしました。

Appleはハイスペック製品を買う人を追いかけることはあまりしません。あくまでも普通の顧客を中心に置きます。Appleは、普通の顧客とバーゲンハンターは違うと考えています。普通の顧客にマッチした最高の製品をつくれば、リーズナブルな価格で買ってくれるだろうと考えています。ですから3Dのようなギミック的なものは追求せず、普通の顧客に高い付加価値を提供する道を選ぶはずです。

それとソニーが「モノリシックデザイン」のテレビを出していて、デザイン的にかなり魅力的です。意識して実物を見ませんでしたので、どれだけ差別化につながるデザインかはわかりませんが、良い方向だという印象を受けます。しかし大きな問題があります。ソニーにはダメな製品が多すぎるのです。

ナイキの社長にSteve Jobsがアドバイスしたとき、「ナイキは世界で最高の製品をいくつも作っている。しかしクソみたいなものもたくさんある。クソみたいな製品を捨てて、良い製品に集中しろ」と語ったことは有名です。

もしソニーにアドバイスするとしたらSteve Jobsはきっと同じことを言ったでしょう。「モノリシックデザイン」はとても魅力的でよく売れているようです。しかしソニーはクソみたいな安い製品もたくさん売っています。Appleであれば「モノリシックデザイン」のような優れた製品を1つだけ売り、高級志向のユーザに対しても普通のユーザに対しても同じデザインの製品を提供するでしょう。

優れたデザインの製品を売っている会社ならApple以外にもたくさんあります。しかし優れたデザインの製品だけを売り、なおかつそれで普通のユーザまでカバーしている会社としてはAppleはかなりユニークです。そういうことに挑戦する会社がテレビ業界にも出てくれば、価格競争から抜け出す突破口が見えてくると思います。

iPad miniは高すぎるのか?

USでのiPad miniの価格は$329から。Google Nexus 7やAmazon Kindle Fireは$199から。

よってiPad miniは高すぎるのではないか?

歴史を振り返ってみましょう。iPadはどうしてNetbookに勝つことができたのか。

Netbookとは

Netbookについてまず振り返りましょう。Wikipediaより。

  1. Netbookの始まりはAsusのEee PC (2007年)。価格は$260から
  2. 典型的なNetbookは1.2-4kg, $3-400, 7-12インチの画面。
  3. 最大でラップトップ市場の20%に達し、2010年にiPadが出るとマーケットシェアを落とし始めます。
  4. 2012年になるとNetbookは年間で25%売り上げを落とし、一方でiPadの販売台数がNetbookを超えます。

iPadは一番安いモデルで$499でした。

Windowsアプリがほぼ使えるNetbookと異なり、iPadは専用のアプリも非常に少ない状況でした (iPhoneアプリなら使えましたが)。Adobe Flashも使えなかったので、ウェブでも問題がありました (PC World)。キーボードもあるので、入力は(原理的には)Netbookの方が楽です。

iPadがNetbookに勝ったのは、「使える」から

どうしてiPadが勝ったのでしょうか?

なぞ?

おそらく答えはこうです。

  1. 誰が使えるか?: iPadはすごく簡単で、幼児にも老人にも使えます。家庭でパソコンを使う人の大半は設定の仕方とかそういうのが全然わかりません。操作法もよくわかりません。iPadはそういう人にも使えるものでした。そう、iPhoneと同じように。
  2. どこで使うか?: iPadはトイレやベッドの中でも使いやすいし、ソファーでゆったりしながら使うのに最適です。タブレットを一番使うのはテレビを見ているときという調査結果もあります。Netbookだとこういう使い方ができません。また立ちながら使うのだったらタブレットしか考えられません。
  3. 何に使うか?: みんながやりたかったのはウェブを見ることとメールを確認することでした。デフラグとかしていないWindows XPでInternet Explorerを使うのに比べて、iPadは非力なCPUながら、圧倒的にウェブの表示が速かったのです。しかもスリープから起きるのが瞬間的なので、思い立ったときにすぐにウェブが見られます。

つまりiPadが勝った理由は、1) ユーザ層を拡大したから、2) 使用する場所を増やしたから、3) ウェブとメールをより快適にしたから。一言でいうと「使える」を増やしたからです。

価格はネガティブ要素でしたが、ほとんど影響がありませんでした。価格ってそんなに重要じゃないのです。それよりは「使える」ことが重要です。

iPad miniは「使える」から$329、Android 7インチタブレットは「使えない」から$199

さてiPad miniに話を戻します。

Google Nexus 7やAndroid Kindle Fireって「使う」ことをあまり考えないで作られた製品です。安くすると買う人がたくさんいたから開発された製品です。HPが当初$400で販売していたTouchPadを店じまいの大売り出しのつもりで$99, $149で販売しだしたら馬鹿売れしたので、もしかしたら低価格タブレット市場があるのかも知れないとGoogleやAmazonは思ったのです。

7インチAndroidタブレットの使い勝手の悪さについてはPhil Schillerが2012年10月のiPad mini発表会で長々と語りました。YouTube

低価格7インチタブレットが本当に使われていないのは、前のブログでも紹介したChitikaのネットアクセス統計でわかります。

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このグラフの縦軸は、iPadのインプレッション100回に対してどうかという数字です。つまりGoogle Nexus 7は約0.8%のインプレッションシェア、Kindle Fireは0.6%のインプレッションシェアということになります。市場アナリストが言うようにこれらの製品が本当に売れているのであれば、全然使われていないということになります。

簡単な話、誰も使わないタブレットを売るためには$199の価格をつける必要があります。逆にどんなに使えない役立たずの製品でも、$199を切っていて、プロモーションがしっかりしていればかなりのは数が売れます。これはNetbookと同じ価格帯です。

iPadのように「使える」タブレットを売るのであれば$300以上しても大丈夫です。