高校生の携帯電話の使い方2

昨日の「高校生の携帯電話の使い方」のポストを受けた、第二弾。

今後のあり方について、思いつくことをいくつか書き留めておきます。

携帯電話はパワフルなパソコンだと理解するべし

携帯電話のパワー、記憶容量、グラフィックスは日進月歩です。僕が最初に使っていた富士通のFM-7という8-bitパソコンの処理能力はもちろん、僕が大学生だった頃に流行っていた16-bitパソコンのNEC PC-9800シリーズと比べると、今の携帯電話は信じられないほどの高性能です。Macintoshなど初期の32-bitパソコンと比較しても、今の携帯電話の方が遥かに処理能力があるでしょう(クロック数だけで言ったらiPhone 412MHz vs. Mac Plus 8MHz)。しかも携帯のネットワーク速度は遅いと言っても、インターネット初期の2400bpsモデムに比べれば遥かに速いです。

しかも携帯電話はiPhoneやBlackBerryなどのスマートフォンの普及で、さらに携帯電話は進歩しようとしています。

携帯電話は単なる「電話」や短いメールをやり取りするものではなくなく、高度なインターネットデバイスになろうとしているのです。一見すると、パソコン同様に、勉強にポジティブに活用できるはずです。

携帯電話で勉強しにくい環境が作られてしまった

近年の日本の携帯電話は音楽やワンセグチューナー、さらにお財布携帯、モバイルゲームなど、言ってみれば「遊び」の部分で発達してきました。ですから、中学生や高校生に携帯を持たせても、それはおもちゃを持たせているようなものだと思われてしまいます。

しかし携帯電話というのは、インターネット黎明期の10年前の高機能パソコン以上の性能を持っています。その気になれば勉強に非常に役立つ使い方ができるはずです。しかし残念ながら、そのような使われ方はあまりされていないようです。それがなぜかを考えてみます。

Wikipediaを携帯で見られるようにしている無料サイトは複数あります。しかしこのように情報系サイトが無料で使えるのは、携帯電話の世界ではレアケースです。例えば新聞社のサイトは今でも携帯版は有料です(インターネット版は無料なのに)。雑誌系のサイトも同様です。

携帯電話はちょっと暇な時間、例えば通勤電車の中で見られるというのが大きな特徴ですが、中高生の勉強になりそうな情報は残念ながらほとんどが有料なのです。僕も何回も経験がありますが、役に立つ情報系サイトが見られないので、仕方なくそんなに面白くもなく、時間の無駄にしかならないモバイルゲームをやってしまいます。

せっかくの携帯電話を勉強に利用してもらうのであれば、勉強に有用なコンテンツをインターネット同様に無料化していくか、あるいはインターネットサイトのアクセス料がパケット放題の料金の中に含まれるようにしないといけないでしょう。iPhoneの登場でまさにインターネットサイト閲覧がパケット放題に料金に含まれるようになりましたので、しだいに携帯電話が勉強に利用されていくのではないかと期待しています。

結論

今までの日本の携帯は、スペック的には非常に優れていて、勉強用に活用する上では問題はなかったはずです。しかし勉強に有用な情報系サイトがほとんど有料だったりするなど、環境がそろっていませんでした。しかもワンセグなど勉強を阻害する方向でばかり進歩してしまったために、携帯は遊びの道具というイメージが定着してしまったように感じます。

言ってみれば、日本の携帯電話はパソコンのインターネットとは大きく異なる進化をしましたが、それが結果として「遊び」専用(少なくとも中高生にとっては)の携帯電話の形を生んでしまったように思います。

iPhoneなどの登場で、インターネットの無料の情報系サイトをフルブラウザで閲覧することが一般化すれば、勉強に役立つ使い方がかなりできるようになってきます。これを機会に、携帯を中高で禁止するのではなく、逆に勉強に役立てる機運が高まることを期待します。

高校生の携帯電話の使い方

正月に姪に携帯電話をどのように使っているかを、ちょっとしつこく聞いてきました。彼女は高校1年生で、一日に150通ぐらいメールをやり取りしているらしいです。

  1. 高校生はパケット放題に入っている
    ウェブをそれなりに使うということのようです。メインはメールらしいのですが。
  2. メールは一文程度のごく短いもの。
    要するにTwitterみたいな感じなのか。
  3. 自分専用のパソコンがあっても、面倒だから使わない。
    何が面倒なのか、よくわからないけど、逆に携帯には不満は無いとと解釈しました。
  4. 携帯の広告はパソコンの広告よりもウザイ。しかも間違えてクリックしてしまうことが多い。
    日本のウェブ企業の多くはモバイルへの注力を強調していますが、これは利用者が多いだけでなく、広告がウザイ、つまり良く目に入る ということだけかもしれません。だから携帯広告の方が効果が高いのか?と思ってしまいました。逆にiPhoneなどの新世代携帯電話により広告がウザくなくなるということがあれば、モバイルが企業にとっておいしくなくなるかも知れません。
  5. メールはほとんどが親友同士。
    ということはぼくらがTwitterするのとは全く感覚が違うのでしょう。短い文章を頻繁に打ち込んでいても、多くの人に情報を発信するのが目的ではない。そういう意味ではFacebookやmixiとも全然意図が異なるようです。
  6. 親が一番心配しているのは、個人情報が漏れてしまうこと。
    こんなのはアクセスを友人のみに限定できるSNSで解決できそうな気がするのですが、どうなっているのでしょうか。
  7. 勉強に使えるサイトはないのか、使っていないのか。
    パソコンのサイトだったら子供の勉強になるものがいくつもあると聞くし、良きにつけ悪きにつけインターネットは勉強に利用されていますが、携帯サイトではそれが無いのは残念のような気がします。

それを受けて、僕が思ったこと。
なお、ぼくは32歳で初めて携帯電話を持つようになったような人で、妻とのメールや電話、仕事の電話以外はほとんど使ったことがありません。そういう意味ではあまりコメントする資格は本当は無いのかもしれませんが、それでも気になることがあるので書きました。

  1. パケット放題に入っているということで、高校生がかなり高い費用を携帯に使っていることがわかります。収入が少ない家庭だとこれはかなりの経済的負担でしょう。格差がここにも現れているのか。
  2. 日本のインターネット企業はモバイルに注力しているという話をよく聞きますが、iPhoneなどが搭載している使いやすいフルブラウザによって、モバイル広告のうまみは減っていくかもしれません。
  3. 中学生、高校生の携帯電話の使用を制限するのばかりではなく、ここまで利用が進んでいるのなら、中高生により効果的に携帯電話を使ってもらう方法を模索した方がいいと思います。勉強に利用できるサイトの立ち上げを奨励したり、そういうサイトを授業で活用してみたり、あるいは授業の中で携帯用サイトを作成する実習をしたりなど。
  4. 携帯のみのサービスだと、日本人同士のコミュニケーションには問題はないのでしょうが、外国の存在が見えにくくなります。特に日本人は外国の人よりもプライバシーを重視すると言われていますので、日本人同士といっても狭い付き合いで終わってしまうでしょう。一方パソコンであれば、いやでも外国のサイトが見えますし、また外国の友人を作るようなSNSもたくさんあります。国際社会で通用する日本人を育成する観点から、携帯だけでなく、パソコンも利用が進むようにしたいですね。

あきらめるな!死ななければ金持ちになれる

Paul Grahamという有名なハッカー/ベンチャー投資家が、支援している起業家を集めたパーティーで話した内容 “How Not to Die” を紹介します。

WikipediaのPaul Grahamの記事を見た初めて知ったのですが、和訳をしてくれている人もいました。全文はそちらで確認してください。

僕が感じたポイントは以下のものです。

  1. ただ死を免れることができれば金持ちになれる

  2. スタートアップが死ぬときには、公式の理由はいつも資金切れか、主要な創業者が抜けたためとされる。両方同時に起こる場合も多い。しかしその背後にある理由は、彼らがやる気をなくしたためだと私は考えている。

  3. しがみついてさえいれば金持ちになれるというのに、こうも多くのスタートアップがやる気をなくして失敗するのは、スタートアップをやるというのがすごく滅入るものになりうるということだ。これは確かにその通りだ。

  4. もうひとつ不安に思えるけどスタートアップにおいては正常なことに、自分のやっていることが機能していないように感じられるというのがある。そんな風に感じられる理由は、君たちのやることがたぶん機能しないからだ。スタートアップがものごとを最初から正しくやるということはほとんどない。それよりずっとありそうなのは、何かをローンチするが、誰も注意を払わないということだ。そうなったとしても、失敗したと思わないことだ。スタートアップではそれが普通のことなのだ。しかし何もせずにぶらぶらしていてはいけない。繰り返す ことだ。

  5. Y Combinatorの仕事をやってきて見つけた興味深いことは、創業者たちは何百万ドルも手に入るかもしれないという望みよりは、みっともなく見えることへの恐れにより強く動機づけられるということだ。だから何百万ドルというお金を手にしたければ、失敗が公然として恥ずかしいものになるような位置に自分を置くことだ。

  6. だから今言っておこう。これからひどいことが起こる。それはスタートアップの常なのだ。ローンチしてからIPOや買収が行われるまでに何らかの災難に見舞われないようなスタートアップは1000に1つというものだ。だからそれでやる気をなくしたりしないことだ。災難に見舞われたら、こう考えることだ。ああ、これがポールの言っていたやつか。どうしろと言ってたっけな? ああ、そうだ、 「あきらめるな」だ。

バイオの買物.comを作っているCastle104以外に、ライフサイエンスの分野でインターネットベンチャーを立ち上げている日本の会社が数社あります。でもまだ成功しているといえる企業は少ないというか、たぶん一般の研究者の目から見れば、まだ全然ないと感じているでしょう。

Paul Grahamの言葉は、僕を含め、同じようなことをやっているいくつかのベンチャー企業に対するエールに聞こえました。

みんな、なんとかがんばって、2009年を生き抜こう!!

追記
ベンチャー企業を立ち上げることがどれだけ精神的につらいかを、自分の経験に基づいて紹介しているこのブログもあります。この人はPaul Grahamと違って、ベンチャーで成功したのではなく、まだその途中です。でもPaul Grahamと同じようなことを話しています。

2008年の振り返り

以前に勤めていた会社を退社し、バイオの買物.comの仕事を始めたのは2007年12月です。ですから、2008年はバイオの買物.comの1年目でした。それがどんな一年だったか、どういうことを学んだかを振り返りたいと思います。

ライフサイエンス業界でインターネット広告だけで食っていけるか

バイオの買物.comを始めるにあたって、目指したのは価格.comのライフサイエンス版でした。一方でライフサイエンスの製品比較サイトとしては米国のBioCompareというものがありますが、これは参考にはするけれども目標にはしませんでした。

この2つのサイトの何が違うかといいますと、一件似ているようで、ビジネスモデルが全く異なります。

価格.comの方は自社の責任において可能な限りすべての製品の情報を掲載しています。少なくとも当初は製品のメーカーあるいは製品を販売している小売りとは全く関係なく、自社で独自に製品情報および価格情報を掲載していました。そして画面にはいくつかバナーを用意して、そのバナーを掲載するのに広告費をもらっていました(価格.COM 賢者の買い物
)。広告費をもらっているか否かに関わらず、「絶対に最低価格を掲載してやる」という使命感で製品および販売店情報を記載していたそうです。収入を得ることよりも、顧客にとって有用な情報を提供することを優先しているのです。

それに対してBioCompare社は、広告費をもらったメーカーの製品しか掲載していません。それが最も顕著に問題になっているのはDNA精製キットのカテゴリーに、業界断然トップのQIAGENの製品がない点です。BioCompare社は顧客にとって有用な情報を提供することよりも、収入を得ることを優先しているのです。

さてバイオの買物.comでは価格.com的なビジネスモデルを採用していますので、掲載料としてスポンサーからいちいち収入を得ることはしません。収入源としてはバナーなどの広告収入になります。問題はこれだけでビジネスが成立するかどうかです。支出をなるべく少なくした従業員一人だけのビジネスであっても、年間1000万円近くの売り上げがないと成立しません。

一年間やってわかったことは、これがなんとか成立しそうだということです。バイオの買物.comを始める前からおおよその試算はしていました。日本のライフサイエンス業界は市場規模が2,000億円程度と見積もられていて、大雑把にその5%が広告宣伝費に回ると計算すると100億円になります。そのうち大半は印刷物と学会に回りますが、それでもインターネット広告に10億円程度は回ってきてもおかしくありません。

そう思ってバイオの買物.comを始めましたが、実際にやってみて、確かに市場ポテンシャルはそれぐらいはあると感じました。現状ではネット広告を掲載するべきウェブサイトそのものが不足していますので、10億円規模には全く届いていません。でも広告を集めるに値するウェブサイトが増えれば、間違いなく10億円、おそらくは50億円ぐらいまでにインターネット広告の市場は膨らむだろうと思います。

GoogleのAdSenseだけで食っていくのは無理

日本のライフサイエンス業界でもインターネット広告で食っていくことは可能だと確認しましたが、ただしGoogleのAdSenseのようなものだけでは苦しそうだということもわかりました。

バイオの買物.comを一年間やった上で推計すると、年間1,000万円の収入をGoogle AdSenseだけで得るためには毎日50,000のセッションが必要そうです。これだけのセッションを集められているライフサイエンス系のウェブサイトはおそらく日本にはないと思います。例えばメーカーの広告を募集していて、30万ページビュー(毎日1万ページビュー計算)が得られていると言っているライフサイエンスのウェブサイトはいくつありますが、ロボットの関係で実際には毎日500セッションしか集めていないことが大部分だと思います。そのことを考えると、絶望的な100倍の差があります。大手のメーカーでも毎日5,000セッション程度だと思いますので、これと比較しても10倍の差です。とても無理な数字です。

インターネット広告だけで食っていくことは可能ではあると思いますが、GoogleのAdSenseを利用するだけでなく、独自に広告のシステムを提供しなければいけなさそうです。バイオの買物.comでは夏頃から独自にPPC (Pay Per Click)の広告システムを作成していますが、これはこのためです。

広告媒体は広告代理店とITの役割も担うべき

ライフサイエンスのウェブサイト、特に日本語ウェブサイトのボリュームと品質は、メーカーごとにかなりのばらつきがあります。一方では印刷版のカタログなどは総じてがんばって日本語化しています。一見すると、一部のメーカーはインターネットを軽視しているのではないかと疑ってしまいます。

一年間活動してみて、そうではないことを僕は感じました。メーカーは決してインターネットを軽視しているのではなく、優れたウェブサイトを作り上げて運営していくためのリソースが不足しているようです。したがってインターネットマーケティングが日本のライフサイエンス業界で浸透していくためには、リソース不足による問題をカバーしてくれる存在が必要そうです。

一般の消費財を販売しているような企業であれば、広告代理店を活用して、インターネットマーケティング戦略の策定と運用をコンサルティングしてもらえます。自社の中にインターネットやITに詳しい人は不必要で、基本的には自社製品の特性を良く理解していれば十分です。しかしライフサイエンスは専門性が高く、この分野を理解できる広告代理店がそもそも存在しません。またあったとしても、メーカーの日本支社は規模が小さいことが多いので、その広告代理店を雇うことがありません。かといって、自社にノウハウがある訳ではないので、結果として何もできなくなってしまうのです。

バイオの買物.comでは、当初からウェブコンサルティングとITサービスの提供をパッケージの一部と考え、インターネット広告掲載までのトータルサポートを目指していました。メーカーのマーケティング部にウェブマーケティングやインターネット広告の面白さを伝え、さらにIT面でもお手伝いをしています。またあらかじめインターネット広告の実際の効果が確認していただくために、無償のデモを提供しています。その反応がかなり良かったです。

一方でメーカー横断的な抗体検索サービスを提供しているウェブサイトとしてはバイオ百科があります。あちらのサービスを利用するためには、各メーカーは自社の抗体データを指定のフォーマットに変換しなければいけません。その作業はメーカーにとってかなりの負担だったようです。バイオの買物.comではこのフォーマット変換を含めてすべて無償でやってあげているのですが、これがやはり好評です。広告を掲載するウェブサイトを用意するだけでなく、ITやウェブコンサルティングを含めたトータルサポートが重要だと感じました。

どれだけの収入が得られたか、得られそうか

上述しましたように、バイオの買物.comでは当初はGoogle AdSenseのような収入だけでどこまでいけるかを検討していましたので、2008年前半の売り上げは微々たるものでした。それこそ何回か外食をすればなくなってしまう程度でした。

2008年後半からは抗体検索を中心に、直接メーカーから広告収入を得ることに注力を行い、それを高いレベルで実施するために独自の広告システムを作るなどをしました。こっちの方はかなりニーズが高く、またクリックスルーが得やすいので、それなりの収入になりそうです。スポンサーあたり、通常は年間百万円程度になりますので決して安価なサービスではないのですが、これをやりたいというスポンサーが近いうちにそれなりの数になりそうです。

2008年はまだまだ積極的なPRというのは行っていません。新しい顧客を開拓することよりも、既存顧客に100%満足してもらうことが先決だと考えているからです。既存顧客を維持することができれば、2009年にある程度の収入が得られる目処がつきましたので、この既存顧客重視の方針は堅持しようと考えています。既存顧客に100%満足してもらえるだけのものができたと思えた時点で、初めて積極的なPRを展開する予定です。

なお、何かが間違って予想以上に収入が得られそうであれば、広告の料金を値下げしようと考えています。金持ちになるのが目標ではありませんし、より多くのメーカーにインターネットを活用したマーケティングを行っていただくことが、何よりも大切だとぼくは考えていますので。

プログラミングの勉強

バイオの買物.comを始めるにあたって、僕が非常に楽しみにしていたことがいくつかあります。ライフサイエンス業界全体と関われること、生まれたばかりの娘の世話ができることなどもありますが、最も大きな楽しみだったのはプログラミングに時間が割けるということでした。

僕が初めて見たパソコンはNECのPC-8001で、僕自身はFM-7などを買ってもらってBASICのプログラムを作成したり、当時発売されていたTHE BASIC MAGAZINEや I/O といった雑誌に掲載されていたBASICのソースコードを手入力していました。プログラミングって面白いなって思いながら、それ以後はあまりやる機会がなく、仕事で本格的に活かすのは2001年頃にバイオインフォマティックスに手を染めたときからです。この頃はPerlで遺伝子配列をBLASTからPrimer3やEMBOSSのパッケージに持っていったりしていました。でも仕事のメインになることはずっとなく、どちらかというと外部に頼むお金がないから自分でやってしまう状態が続いていました。

その一方で、プログラミングと生物学、そして自分が関わりつつあった会社経営やマネージメントの共通性を強く感じるようになっていました。このことについてはこのブログでも何回か取り上げています。僕が注目しているのは、どれもが多数の役者からなる複雑なシステムを取り扱っており、そのシステムをどのように構築し、運用すれば、そのシステムが永く繁栄し得るかを中心的なテーマとしていることです。

生物は極めて複雑なシステムを経験則だけで作り上げました。一方プログラミングは多数の優秀な研究者のおかげでソフトウェア危機を乗り越え、複雑なシステムを効率良く構築するための方法論がいくつか確立されています(構造化プログラミングやオブジェクト指向プログラミングなど)。とても残念なのは、マネージメントがまだ孫氏の兵法や孔子の論語の時代から進歩していないように見えることです。

前置きが長くなってしまいましたが、いずれにしてもプログラミングは僕が人生の中で絶対にもっと深く勉強しておきたいと思っていたものです。

バイオの買物.comのウェブサイトを作成するにあたって、一人でなるべく多くのことをこなしたいと思っていましたので、僕は最も先進的で話題になっているRuby On Rails フレームワークを採用しました。この判断は大正解でした。Ruby On Railsはまず驚異的に生産性を高めてくれました。バイオの買物.comはデータ入力のためのインタフェースがかなり複雑ですが、PHPでこれを構築していたのではとてもじゃないけどやっていられませんでした。それだけでなく、Rubyというそれ自身非常に優れたプログラミング言語が土台となっていますので、先進的なプログラミング技法の勉強になりました。

まだまだ道半ばですが、プログラミングを身につけ、生物学やマネージメントの理解に活かそうという目標に少しだけでも近づいている気がしますので、とても気持ちが良いです。

バイオの買物.comの誕生と今後

バイオの買物.comは2007年の10月ごろからプログラミングを開始し、2008年の2月に一応のβ版の公開を開始しました。この頃は製品比較表に力点を置いていましたので、最初のβ版は製品比較表だけでした。

製品比較表を改良させつつ、アクセスアップや収入アップにつながりそうないろいろなことを試しました。各メーカーの新製品ニュースやキャンペーン情報をRSSで流してみたり、それを別にまとめてみたり、アマゾンの本の広告を掲載したりです。

そしてその中でも抗体検索は、抗体という比較的規格化された製品が非常に多数存在すること、抗体メーカーは一般に中小企業が多く、知名度を高めるのに苦労していることなどの条件が重なり、製品比較サイトとの相性が良いです。そこで友人からの連絡にも勇気づけられ、2008年の後半からはこちらの方に注力をしました。

2009年は年初に各種サービスの整理をしようと思っています。いろいろ試したものでうまくいかなかったもの、ユーザからの反応が良くないものは、今後作り替えるか無くしていく方向で考えています。アマゾンの本については何の意味もなさそうなので、無くしていきます。そして各メーカーの情報についてはRSSを強化し、さらにこのRSSを自動解析しようと思っています。これを使って、僕自身が手でまとめている新製品ニュースやキャンペーンに代えようと考えています。

ビジネスプランは変わるものだというのは起業家やベンチャー投資家のブログにはよく書かれています。バイオの買物.comの当初のビジネスプランは抗体以外の製品の比較表を中心に考えていました。ビジネスプランにはこだわらずに、そのときの状況に合わせて臨機応変にやろうとは思っていましたが、やはりそういう結果になりました。

そうはいっても、基本的な姿勢はまだ貫いています。それは冒頭で紹介しました価格.comとBioCompareの違いの点です。ユーザの視点に立って、スポンサーになっていないメーカーの製品情報を掲載しようというのはまだやれています。

そして2008年は抗体検索にかなり力を入れましたが、2009年はなるべくその他の製品の製品比較表に力を入れていきたいと思っています。これこそがBioCompareでもうまく出来ていないことなので、とてもチャレンジのしがいがあります。

子育て

昨年まで働いていた会社を辞め、自宅でバイオの買物.comを始めた大きな理由のひとつは、2007年に生まれた長女の世話をするためです。

The Smithsという英国のバンドの曲に“Heaven Knows I’m Miserable Now”というのがあります。

その歌詞の中でMorriseyは歌います。

I was looking for a job, and then I found a job
And heaven knows I’m miserable now

In my life,
why do I give valuable time
to people who don’t care if I live or die?

仕事を探していて、仕事を見つけた
それで今は猛烈に惨めなんだ

僕が生きようが死のうが気にとめないようなやつに
どうして人生の貴重な時間をあげなきゃいけないんだ

仕事では上司とウマが合いませんでした。そんなやつのために自分の時間を無駄にして、さらに娘との時間が減ってしまうのは我慢できませんでした。

そして一年間、自宅で仕事をして、娘との時間を増やすという目標は達成できました。それだけでなく、妻は次女も妊娠してくれました。もちろんバイオの買物.comの成功も大切ですが、子育てのことだけを取り上げても、2008年は良い年でした。

まとめ

2008年はバイオの買物.comの1年目で、かなり試行錯誤の中でやってきました。その1年目でいくつかのスポンサーから非常にポジティブな意見をいただき、そして実際に収入の目処も多少ついてきたというのはとても幸運だったと思っています。

まだまだ試行錯誤は続きます。2009年がどのような一年になるのかは正直全くわかりませんが、貯金はまだありますので娘二人との時間が取れることだけは間違いなさそうです。それだけでも良い年になるはずですが、もっともっと良い年となるようにがんばりたいと思います。

ライフサイエンスの分野にはつくづくお世話になっています。2009年は今までできなかった恩返しの年にしたいですね。

人間が自分で進化をコントロールできたら

生物の進化と人間の愚かさについて、少し考えてみました。

生物の進化はDNAレベルでのランダムな変異・組換えが起こった後に、自然選択によって有用なものが残っていくという過程であると考えられています。45億年の歴史と、現在の非常に複雑で高度な生物という形で、このアプローチの有用性は十分に示されています。

リンクのWikipediaの記事にも強調されていますが、生物の進化には目的はなく、変異はランダムに起こると考えられています。

一見すると、これは非効率です。ランダムに頼るよりも明確に目的を持って進化した方が効率がいいように思われます。特に人間のような文明を築いて、医学が発達し、機械工学などの学問が確立していれば、自分で自分の体を作り替えてしまったほうがいいのではないかと。

しかしよくよく思い返してみると、人間が自分の手で進化させたものは必ずしも良い結果を生んでいません。例えば金融危機で問題となっている金融システム。これも長い年月をかけて人類が進化?させているもののです。あるいはビッグ3の経営だって、社員の創意工夫で組織が進化?していてもおかしくありません。いずれも霊長たる人間の中でも優秀なものが、思考力を働かせ、時間をかけながら発展させてきたものです。日本のいまの政治だって、人間が自ら作り上げて進化させてきたものです。

これらは人間が自ら目的意識を持って進化させたとしても、必ずしも良い方向には進まないことの良い例だと思います。

そういう謙虚さを持って、現代人は様々な課題にあたっていくべきだと思います。

Display conversation from Twitter

2009-04-07: Updated query to search.twitter.com so that the result is more like what TwitterFon gives you when you drill down conversations.

I wrote a simple AppleScript to display the conversation history between two people in a tweet in Twitterrific.

I often want to focus on a conversation between two people in my timeline, without the distraction of all the other tweets. This AppleScript makes this as easy as selecting a tweet with an @reply, and running the AppleScript via the AppleScript menu.

All it does is, 1) get the user names of the sender and recipient of the tweet (only of @reply tweets), 2) query search.twitter.com for tweets sent from either of the user names.


tell application "Twitterrific"
	set thisTweet to selection
	set thisUser to screen name of thisTweet
	set thisPost to post of thisTweet
end tell

set thisOffset to offset of "@" in thisPost
if thisOffset is equal to 0 then
	display alert "No recipient in Tweet"
	return
else
	set thisOffset to thisOffset + 1
	set newUser to ""
	repeat until character thisOffset of thisPost is equal to " " or character thisOffset of thisPost is equal to ":"
		set thisCharacter to character thisOffset of thisPost
		set newUser to newUser & thisCharacter
		set thisOffset to thisOffset + 1
	end repeat
	
	open location "http://search.twitter.com/search?q=from%3A" & thisUser & "+to%3A" & newUser & "+OR+from%3A" & newUser & "+to%3A" & thisUser & "&lang=all"

end if

Macの漢字Talkを思い出してしまった

Macが1992年頃まで採用していてOS、漢字Talk (System 6)のインタフェースに非常に良く似たものを久々に見ました。

iPhoneに対抗して、台湾のHTC社が開発し、DoCoMoやSoftbankで採用されている新しいタッチWindows ケータイのインタフェースでした。

ちなみにHTC社というのは「世界的に見ると、Windows Mobile搭載端末市場で約80%のシェアを誇る」ほどにすごい企業のようです。しかもWindows Mobileについて、すごく辛辣なことを言っています。

 このTouchFLOが生まれたのは、「ユーザーは、非常に高度で複雑、かつ退屈なWindows MobileのUIに対して不満を持っている」(チョウ氏)ことを認識したからだという。「多くのコンシューマーユーザーには、このままのインタフェースでは簡単には使えないと考えた」(チョウ氏)

以下の動画の30秒あたりを見ると電話帳が出てくるのですが、ここのフォントやスクロールバーの感覚が非常に懐かしいです。

var po = new PeeVeePlayer(“48004659/48004659peevee75045.flv”, 78, 480, 407 ); po.write();

アクションへの執着:サッカーのゴールキーパー

じっとしている方がましなことが多い。エリートサッカーゴールキーパーのアクションへの執着。
@timoreillyのTweetから
PDFはこちら

Journal of Economic Psycologyに以下の記事が出版される予定です。

Action bias among elite soccer goalkeepers: The case of penalty kicks

Abstract

In soccer penalty kicks, goalkeepers choose their action before they can clearly observe the kick direction. An analysis of 286 penalty kicks in top leagues and championships worldwide shows that given the probability distribution of kick direction, the optimal strategy for goalkeepers is to stay in the goal’s center. Goalkeepers, however, almost always jump right or left. We propose the following explanation for this behavior: because the norm is to jump, norm theory (Kahneman and Miller, 1986) implies that a goal scored yields worse feelings for the goalkeeper following inaction (staying in the center) than following action (jumping), leading to a bias for action.

サッカーのペナルティーキックでは、キックの方向を明確に見極められる前にゴールキーパーはアクションを決定します。トップリーグやチャンピオンシップでの286のペナルティーキックの方向の確率分布を調べた結果、ゴールキーパーにとってのベストの戦略はゴールの真ん中にいることです。しかしほとんどの場合、ゴールキーパーは右か左にジャンプします。

我々はこの行動の根拠を以下のように分析しています。

どちらかの方向にジャンプすることが一般的ですので、norm theory (Kahneman and Miller, 1986)によると、真ん中にいてアクションを取らなかった場合の方が、どちらかにジャンプした場合よりも、ゴールを取られたときに強く後悔します。この結果、アクションに執着します。

norm theoryは、「より一般的と考えられている行動をとったときの方が後悔が少ない」というものです。アクションを取ることが一般的と考えられている場合は、それが真に有効ではなかったとしても、アクションを取った方が後悔が少なくなります。逆にじっとしていることが一般的であれば、じっとしていた方が後悔が少なくなります。

エリートのゴールキーパーのように、非常に経験と専門性が高く、成功に対する報酬が高い場合であっても、このnorm theoryの影響を受けてしまうというのがこの論文の主旨のようです。

The action/omission bias has received attention in psychology, but hardly any in economics (one exception is Patt and Zeckhauser, 2000). We think, however, that it has very important implications for economics and management. For example, the action/omission bias might affect the decision of investors whether to change their portfolio (action) or not (inaction). It can affect the choice of managers whether to leave their company’s strategy or investments unchanged (inaction), or to change them (action). The bias may also have implications for the decision of workers whether to stay in their job (inaction) or look for a better job (action), and one’s decision whether to re-locate to another city or not. In the macro-economic level, the action/omission bias may also affect decisions made by governments and central banks whether to change various policy variables (interest rates, tax rates, various types of expenditures, etc.), or leave them
unchanged.

アクション/オミッションのバイアスは心理学では注目されていますが、経済学ではほとんど注目されていません(例外としてPatt and Zeckhauser, 2000)。しかし、我々はこれが経済学および経営学に大きな示唆を与えると考えています。例えば、アクション/オミッションのバイアスは、ポートフォリオを変える(アクション)か変えないか(オミッション)と考えている投資家の判断に影響を与えます。会社の戦略や投資をそのままにするか(オミッション)、変えるか(アクション)を考えている経営者の選択に影響を与えます。従業員に取っては、会社にそのまま残るか(オミッション)、より良い仕事を探すか(アクション)にも影響するかもしれません。また別の都市に住み替えるかの判断にも影響するかもしれません。マクロ経済学のレベルでは、政府や中央銀行が金利、税金、公共支出を変えるか、それともそのままにするかにも、このアクション/オミッションのバイアスは影響を与えるかもしれません。

バイオベンチャーと金融危機

San Diegoのバイオベンチャーの話ですが、バランスシートを分析しながら、金融危機で運転資金がなくなりそうな企業をピックアップしている記事がありました。

見ているのは非常に簡単な指標で、現時点でどれだけの現金を所有しているか、そしてそれをどれぐらい使っているかです。

なお、Eun Yangが10月に発表したレポートによると、株式公開されていて利益が上がっていない248のバイオベンチャーのうち、半数の企業は1年分の運転資金が残っていないとのことです。

上述のレポートでは、San Diegoに所在地があり株式公開されているベンチャー企業のうち23の企業を分析しています。その結果、現金$100 M (約100億円)を持っている企業はわずか10社だったということです。

金融危機によって資金調達や借り入れが非常に困難になっていきますので、運転資金を自前で持っていない企業は破綻の危機に直面することになってしまいます。

私は日本のベンチャー企業の資金繰りの状況を知りませんが、アメリカ以上に利益を出しているところは少ないので、金融危機で大きな影響がでてくることが予想されます。

アップデート
ちょっとグーグルしたら、僕が知らないだけで、既にいろいろ情報がありました。

株式市場は考えるだけ無駄?

TwitterでTim O’ ReillyのTweetから。Patterns and the Stock Market

毎日、ニュース番組には株式アナリストが登場していろいろコメントしています。

「昨日行われた大統領選挙への期待感から市場は大きく値上がりをしましたが、今日は実質経済の指標が発表されたのを受けて投資家が落胆し、あわてて売りに転じる展開となりました。」などのように言っているやつです。

いつも思いますが、精神薄弱な子供の日記を読んでいるようです。

今回はあれは無駄だよという話です。

ちなみにこれは株式だけなく、例えば営業・マーケティング部が毎月の売り上げの数字を社長に報告したりするときにも、全く同じように行われています。人間は本質的にランダム性の取り扱いが苦手で、統計的に理解しようとしないようです。

The market, after all, is a classic example of a “random walk,” since the past movement of any particular stock cannot be used to predict its future movement. This inherent randomness was first proposed by the economist Eugene Fama, in the early 1960’s. Fama looked at decades of stock market data in order to prove that no amount of rational analysis or knowledge (unless it was illicit insider information) could help you figure out what would happen next.

株式市場は結局は「ランダムウォーク」の典型例です。ある銘柄の過去の動向を元の、その将来の動きを予想することは不可能だからです。このランダム性を最初に主張したのは1960年代はじめのEugene Famaです。Famaは数十年間の株式市場のデータを分析して、合理的な分析や知識(インサイダー情報以外の)をどれだけ当てはめても、次の値動きは予想できないと証明しました。

Alas, the human mind can’t resist the allure of explanations, even if they make no sense. We’re so eager to find correlations and causation that, when confronted with an inherently stochastic process – like the DJIA, or a slot machine – we invent factors to fixate on. The end result is a blinkered sort of overconfidence, in which we’re convinced we’ve solved a system that has no solution.

残念ながら、人間の脳は、物事に説明を付けないではいられません。その説明が無意味であってもです。実質的にはランダムな現象であっても、関連性や因果関係を探そうとします。それがダウ平均株価であってもスロッタマシーンであってもです。我々はいろいろな因子を発明して、それに注目します。その結果、我々は本来的には解が存在しないシステムであるにもかかわらず、解を導いたと信じ込み、一時的な自信過剰になるのです。

Look, for example, at this elegant little experiment. A rat was put in a T-shaped maze with a few morsels of food placed on either the far right or left side of the enclosure. The placement of the food is randomly determined, but the dice is rigged: over the long run, the food was placed on the left side sixty per cent of the time. How did the rat respond? It quickly realized that the left side was more rewarding. As a result, it always went to the left, which resulted in a sixty percent success rate. The rat didn’t strive for perfection. It didn’t search for a Unified Theory of the T-shaped maze, or try to decipher the disorder. Instead, it accepted the inherent uncertainty of the reward and learned to settle for the best possible alternative.

以下のエレガントな実験を紹介します。T字型の迷路にネズミをおき、右側もしくは左側にエサをおきます。エサを置く場所はランダムに決定されますが、60%の確率で左側におかれるようになっています。さてネズミはどのように反応したでしょうか。ネズミは左側の方が分がいいことをすぐに理解し、その結果いつも左側に行きました。その結果、成功率は60%です。ネズミは完璧を求めませんでした。「T字型迷路の統合原理」を発見したり、この乱雑さの裏に隠れた暗号を読み解こうとはしませんでした。ランダムさをそのまま受け入れ、そしてできうる限りの選択をしました。

The experiment was then repeated with Yale undergraduates. Unlike the rat, their swollen brains stubbornly searched for the elusive pattern that determined the placement of the reward. They made predictions and then tried to learn from their prediction errors. The problem was that there was nothing to predict: the randomness was real. Because the students refused to settle for a 60 percent success rate, they ended up with a 52 percent success rate. Although most of the students were convinced they were making progress towards identifying the underlying algorithm, they were actually being outsmarted by a rat.

同じ実験をYale大学の学部生で行いました。ネズミと違い、彼らのでかくなった脳みそは、褒美の位置を決定するパターンを、無駄に探そうとしました。予想を立てては、予想と現実のずれから学習しようとしました。問題は、予想するべきものが何もなく、真にランダムだったということです。学生たちは60%の成功率に満足できなかったがために、結果として52%の成功率になってしまったのです。学生たちは、裏に隠された原理の解明に向けて少しずつ前進していると確信していましたが、実際にはネズミに負けていたのです。

So don’t listen to those talking heads telling you why the market rose or fell. They’re just like those Yalies, convinced they’ve found a pattern where none exists.

ですから、株式市場が上がった原因や下がった原因をしゃべっている頭でっかちの解説者の言うことを聞いてはいけません。彼らはあのYale大学の学生と同じです。パターンが存在しないにも関わらず、パターンがあると確信してしまっているのです。