デスクトップウェブサイトがモバイルウェブサイトから学ぶべきこと

スマートフォン、タブレット、そしてデスクトップからもアクセス可能なウェブサイトをここ1年ぐらい構築していますが、その中でウェブサイトのあるべき姿についてだいぶん考えさせられます。

特にスマートフォン用のウェブサイトを作る時に非常に考えさせられます。スマートフォンは画面のサイズがデスクトップよりも圧倒的に小さく、がらりとデザインを変えないとウェブサイトの目的が果たせません。サイズが小さいので、不要なコンテンツを容赦なく切り捨てていくことになります。

そうやって重要なコンテンツとそうでないコンテンツを厳しい目で見分けるのになれると、デスクトップのウェブサイトが非常に無駄だらけに見えてきます。

今回は“10 Ways Mobile Sites Are Different from Desktop Web Sites”というUXmattersの記事を見ながら、デスクトップウェブサイトのあるべき姿について考えてみたいと思います。

モバイルウェブサイトで重要なこと

UXmattersの記事では、モバイルウェブサイトで重要なこととして以下のことを列挙しています。

1. Content Prioritization (コンテンツの優先順位の明確化)

Mobile site designs should give priority to the features and content users are most likely to need when viewing a site using a mobile device.

要するにウェブサイトのコンテンツや機能に優先順位を付けなさいということです。

デスクトップのウェブサイトは画面のサイズが大きいので、デスクトップウェブサイトは幅広いコンテンツを入れがちです。わかりやすさの観点から、デスクトップもモバイルに習ってコンテンツの減量をするべきではないでしょうか?

2. Vertical Instead of Horizontal Navigation

vertical navigation has replaced horizontal navigation on more than 90% of the mobile sites I analyzed

デスクトップのウェブサイトでは水平なナビゲーションがよく使われます。その一方で横幅の制約のため、モバイルウェブサイトでは垂直のナビゲーションが圧倒的に多く使われいます。

ただUXmattersの記事にもリンクがありますが、実はデスクトップであっても水平なナビゲーションは垂直なナビゲーションよりも制限が多く、簡潔な言葉遣いとナビゲーション項目の優先順位の明確化が必要だとしています。

モバイルウェブサイトで垂直のナビゲーションを使ったとしても、やはり項目の簡潔さと優先順位は重要です。

3. Bars, Tabs, and Hypertext

Hypertextというのはクリック可能な文字列(ボタンではない)のことです。

We see much less hypertext on mobile pages. … Links instead appear in the form of bars, tabs, and buttons.

モバイルの場合はタッチインタフェースを使わなければならず、指は太いので、小さいhypertextはうまくクリックできません。その代わり、大きめのボタンなどが多く使われます。

こうすると必然的にリンクの数を減らさないといけなくなります。リンクの数を減らすというのは、重要なリンクとそうでは無いリンクの間の優先順位を明確化することです。

デスクトップでもリンクの数が減れば、利用者は迷うことが少なくなるはずです。

4. Text and Graphics

Designers often remove promotional or marketing graphics from the designs of mobile sites.

モバイルのウェブサイトは広告やマーケティングを目的としたグラフィックを減らしているということですが、デスクトップでも同様にすれば利用者は助かります。

5. Contextual and Global Navigation

While global navigation is common on mobile sites, contextual navigation is not.

場所の制約により、モバイルサイトではコンテキストに応じて変化するナビゲーションが付けられないとしています。

対処方法として以下のように述べています。

Therefore, it’s essential to reduce hierarchy when organizing the content on mobile sites, so users don’t have to dig too deeply to get things done. They should be able to achieve what they want to accomplish before becoming lost.

つまりサイト全体の構造を単純化しろということです。それができれば、デスクトップの利用者も大変助かります。

6. Footers

Mobile sites employ footers that provide access to content users often look for on a home page, keeping its links to a minimum, but they do not use footers containing quick links.

モバイルのサイトもフッターを使うけれども、quick link (ウェブサイトのコンテンツへのショートカット)を載せられないということです。

ショートカントを載せられないということに対処するためには、そもそものウェブサイトの構造を単純化し、階層を減らすべきです。それができれば、デスクトップでもショートカットが不要になるはずです。

7. Breadcrumbs

Breadcrumbs rarely appear on mobiles sites, and there is usually no necessity for them.

Limited space is one reason breadcrumbs are uncommon on mobile sites. But the main factor is that the design of mobile sites prevents users from having to go too deep into a hierarchy to find what they are looking for.

モバイルウェブサイトではサイト構造を単純にすることが非常に重要なため、そもそもパンくずが必要にならないということです。

デスクトップもパンくずがいらないぐらいに単純なサイト構造にすれば良いはずです。

8. Progress Indicator

Such progress indicators do not appear on mobile sites. Again, limited space is the main reason.

ユーザが複数ステップの作業をしているとき、どこまで進んだかをはっきりさせるために進捗インジケータが使われます。しかしモバイルでは出てこないそうです。

Use alternative approaches to make users aware of their progress without a progress indicator. For example, instead of using buttons with implicit actions such as Next or Continue, use buttons with explicit labels that inform users exactly what the next step is.

対処方法として、ボタンの名前を明確で具体的にすることを紹介しています。「次に」というボタンではなく、「支払いする」とか「届け先を指定する」とかを使いなさいと述べています。

これもデスクトップのウェブサイトでできることです。操作が分かりやすくなります。

その他

9番は電話機能との融合、10番は場所によってカスタマイズしたサーチということで、デスクトップには当てはまりません。

まとめ

モバイルウェブサイトとデスクトップのウェブサイトは大きく違います。画面サイズが小さいため、モバイルウェブサイトを作る上では、デザインだけではなく、サイト構造の単純化、コンテンツの優先順位の明確化が必要になります。

そしてそのどれもがモバイルサイトだけではなく、デスクトップサイトにも役立ちます。

モバイルサイトを作るときに考えるべきことは、モバイルサイトのことだけではありません。サイトの土台となるコンテンツと構造を見直すことです。そのとき、当然デスクトップサイトも変わります。

私が最近模索しているのは、まずモバイルサイトを考えることです。そしてデスクトップに移したときに余裕が生まれるのであれば、そこにどのようなコンテンツを持って行くかと考えるのです。

実はこうやっていくと、意外と何を載せるべきか悩みます。それこそモバイルサイトがうまくできている何よりの証拠ではないでしょうか。

Chromeが思ったほど速くないという話

ブラウザで一番高速なのはChromeじゃないかという前提でいろいろな議論がされている気がしたので、試しにベンチマークを取りました。

少なくとも私が書いているJavascriptにおいては、ChromeだろうがSafariだろうがFirefoxだろうが十分な性能が出ていますので、Android中心に話します。

下図がGalaxy SII WiMax (ISW11SC, Exynos 4210 Dual-core 1.4GHz), Android 4.0.4上でJavascriptベンチマークであるSunspider 1.0のベンチマークを実行したときの結果です。

以下のことがわかります。

  1. Chromeが一番高速とは言えない。
  2. Firefoxは独自のJavascriptエンジンを使っていますが、ChromeのV8と同等の結果が出ている。
  3. DolphinがどのようなJavascriptエンジンを使っているかははっきりわかりませんが、V8だろうとは想像しています。いずれにしてもChromeと同等の性能が出ています。

つまり、少なくともAndroid上ではChromeのJavascriptが特別に速いという感じはありません。

スクリーンショット 2013 05 14 11 03 51

ベンチマークの結果には反映されませんが、少なくとも私が書いているWebサイトを表示させる限り、AndroidのChromeはかなり遅いです。最新バージョンでも遅いです。これについては別の機会に示したいと思います。

いずれにしてもChromeのJavascriptは特別に速いとは限らないようです。Javascriptをたくさん使ってウェブサイトを書いている身としては、ちょっと残念な感じです。

プロ野球の勝率と年俸の関係

プロ野球の2013年平均年俸と2012年勝率をプロットしてみました。

セ・リーグとパ・リーグが全然違います。

Probaseball money vs wins

セ・リーグは平均年俸と勝率がキレイに相関しています。お金持ち球団が高年俸の選手を集めることで勝利を重ね、その一方で貧乏球団は高年俸の選手が奪われ、どんどん弱くなっています。

パ・リーグはまず平均年俸が競っています(セ・リーグの阪神レベル)。そして勝率と特に相関していません。

もう一つ、ここ数年の各球団の順位をプロットしました。パ・リーグは順位の変動が激しいのに対して、セ・リーグがかなり固定化してしまっているのがわかります。

今のセ・リーグとパ・リーグの一番の違いはこれだと思います。

スクリーンショット 2013 04 24 11 21 17

Chromebookは今どれだけ使われているのか

Chromebookは一番うまくいってもNetbookと同程度にしかならないということは以前にこのブログで書きました。

GoogleはChromebookの売り上げやChrome OSがどれだけ使用されているかについて全くデータを公開していませんが、NetMarketShareが最近、ChromebookのWeb使用統計を分析し始めたようです。

まだChromebookの使用率があまりにも低くて、NetMarketShareが一般に公開しているレポートには登場しませんが、NetMarketShareの広報の人が一部を公開したそうです。

For the week of 4/8 – 4/14, ChromeBook has 0.023 percent weighted worldwide usage. Because it rounds to less than 0.1 percent it’s not showing up in our reports.

同様のデータはStatCounter GlobalStatsからも公開されています(USのデータ)。グラフには出てきませんが、CSV形式のデータをダウンロードするとChrome OSのデータが出てきます。

数字は違いますが、Chrome OSのシェアが非常に少ないのは同じです。なおここのiOSとかAndroidのデータはスマートフォンを除いたタブレットのデータです。

Chrome OSがあまり使われていないというのは十分に想定されていたことですので、特に言うことはありません。ただ、GoogleがChrome OSという方向性を追求し続けているのは事実ですので、今後どのように展開しようとしているかは興味深いです。

Operating System Share(%)
Win7 55.49
MacOSX 11.37
WinXP 10.95
WinVista 9.16
Win8 5.07
iOS 4.87
Linux 1.11
Android 1.01
Win2003 0.49
Playstation 0.16
Unknown 0.14
Chrome OS 0.05
Nintendo 0.03
Win8 RT 0.02
Win2000 0.02
webOS 0.02
BlackBerry OS 0.02

エコノミストに許される議論の甘さ

経済学って本当に緩い学問だとつくづく感じます。

ものすごく甘い議論でも平気で許されてしまうし、少しも悪びれた様子がありません。

あくまでも一例ですが、第一生命経済研究所の主席エコノミスト、永濱利廣氏の『「異次元の金融緩和」で景気と生活はどうなる』という記事を見かけましたので、それを例に見ていきます。

「株価と企業の売上高が密接に連動しており、株価が上がってから概ね1四半期遅れて企業の売上高が伸びる傾向を見て取ることができる」

NewImage

永濱氏は「株価が上がってから概ね1四半期遅れて企業の売上高が伸びる傾向を見て取ることができる」としています。彼はいったいグラフのどこを見ているのでしょうか?

「景気が回復し企業の売上が増えてから所定内給与が増えるまでには3年かかった」

永濱氏は他にも謎の結論を出していますが、この最後のグラフと考察はもう希望的観測を越え、宗教の領域。心の目で何かを見ようとしている状態です。

NewImage

たぶん2005年のはじめにちょろっと給料が上がった時期を見て「企業の売上が増えてから所定内給与が増えるまでには3年かかった」といっているのでしょう。このグラフを見てもその因果関係は全く見えません。なおかつその1回の現象だけを根拠に、今回も3年かかるというのは乱暴な議論を通り越して、もはや根拠がない領域。

まぁ永濱氏が悪いというよりは、このレベルの子供だましが許されてしまうのが経済メディアの現状で、こいつらに経済を任せて良いのかと思うわけです。

もちろん経済学者がみんなこんな子供だましの議論をしているわけではなく、ちゃんと議論している人もいます。ちゃんとした相関を見て議論している人たちです。

永濱氏は株価が上がれば企業収益が改善し、企業収益改善から雇用改善・給料改善が起こるとしています。ただしいずれのステップも相関はかなり怪しいのですが。

それに対してSteve Keen氏はちゃんとした相関を元に考察しています

特に近年では株価と因果関係があるのはGDPではなく、企業業績でもなく、借金のレベルです。株価はレバレッジがどれだけ使われているかと一番相関があります。

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一つ重要なポイントがあります。Steve Keen氏のようにまっとうな分析をする人は半世紀さかのぼってデータを集め、分析をします。そうやってデータ点を増やします。それに対して永濱氏をはじめとした多くのエコノミストはたかだか数十年のデータで議論をします。永濱氏はこの点特にひどく、ここ10年のデータでごまかそうとしています。

エコノミストの多くは基本ができていないように感じます。

Androidの方向転換予想:Andy Rubin氏の降格を受けて

アップデート
2013/4/14: 破壊的イノベーションとの関連についての考察を追加しました。

3月の初旬に、最新のAndroidがローエンドマシンに向かないという話をしました。そして今では古いバージョンのAndroidで満たされているローエンドマシンの市場にFirefox OSなどが食い込む余地があることを紹介しました。

特に「Firefox OSって破壊的イノベーションになるかもと思う理由」の書き込みでは、AndroidチームのリーダーであったAndy Rubin氏の次の言葉を引用しました。

There are places where Android can’t go,” he said, referring to memory and other hardware requirements. Firefox can help reach those. “For certain markets, it makes sense.

そしてこれをもとに私はこう結論しました。

つまりFirefox OSはローエンド市場にとって魅力のある製品であり、なおかつAndroidは(このままだったら)このローエンド市場に入り込む予定がなさそうです。

完璧に破壊的イノベーションの要件、a) ローエンド市場から入ること、b) 既存のプレイヤーが危機を感じていないこと、が満たされています。

しかし3月13日にAndy Rubin氏がGoogleの人事異動で事実上降格され、Androidの開発を離れることになりました(1, 2)。

問題はこの人事異動の結果、Androidはどのような方向に向かうのか、そしてFirefox OSなどの新規参入OSはどうなるのかです。またiPhoneとの関係についても気になります。それについて考えたいと思います。

Andy Rubin氏が降格された理由についてのアップデート

Andy Rubin氏が降格された理由についていろいろな憶測がありますが、現状ではNicholas Carlson氏によるこの書き込みが一番正しいように感じます。

What we heard is that Larry Page doesn’t mind employing gruff types … so long as they serve his purpose.

Page must have decided that the way Rubin was running Android no longer served his purpose, and that an Android run by Sundar Pichai would.

….

Rubin’s comments indicated a view of Android as something to preserve and protect.

Our source believes that Larry Page isn’t nearly so worried about Android itself. This source says that Page views it as a means to an end.

He says Page views Google as “a cloud services company,” built on cornerstone products like Search, Maps, Mail, and YouTube.

He says Page views Android as a way for Google to partner with hardware-makers to make these services more available to consumers.

自分なりに解釈すると、Andy Rubin氏にとってはAndroidそのものが大切で、これを発展させて守ることが一番重要でした。

それに対してGoogle CEOのLarry Page氏はAndroidそのものはあまり感心がなく、Androidは単なる手段としか考えていません。Larry Page氏はGoogleをSearch, Maps, Mail, YouTubeなどのクラウドサービス会社と位置づけていて、これをなるべく多くの人に利用してもらうための手段の一つとしてAndroidがあると考えているようです。もしAndroidではなくSamsung OSを介してGoogleのサービスを利用するユーザが多くても、それはそれで結構と。

あくまでもAndroidを発展させ、守っていきたいと考えるAndy Rubin氏と、Androidを一手段としか考えないLarry Page氏との間で埋めがたい溝があったと考えるべきでしょう。

Androidを一手段とか考えないというのはどういうことか

Androidを一手段としか考えないということは、おそらく以下のことを意味しています。

  1. Androidのマーケットシェアは重要ではない。
  2. GoogleがAndroid陣営を強くコントロールする必要はない。
  3. iPhone, Firefox OS, TizenなどのOSが勢力を伸ばすのは問題ない。ただしGoogleのサービスを載せてもらうことが大切。
  4. Androidが一番魅力的なOSである必要はない。
  5. なるべく多くの人にスマートフォンを利用してもらうことが新しいAndroidの使命。

Andy Rubin氏の元では、Androidを如何にiPhoneと同等にしていくか、如何にiPhoneに追いついて、追い越そうかが開発の主眼でした。しかしAndroidを一手段として考えると、iPhoneがカバーしているハイエンド市場はiPhoneに任せても良いのではないかという判断が可能です。あるいはSamsungが独自開発するのに任せることもできます。その代わりGoogleとしては、まだまだ未開拓なローエンド市場に目を向けるべきではないかという考えになってきます。

どんなことが予想されるか

AndroidとChrome OSの統合はもちろん重要な柱ですが、それ以外のことをここでは話します。

ネイティブアプリからHTML5にシフト

まずAndroidが一番魅力的なOSである必要はないと考えれば、ネイティブアプリへのこだわりが捨てやすくなります。ネイティブアプリの最大の特徴は滑らかで豊かなUIですが、ネイティブアプリじゃなくてもGoogleのサービスは十分に使えます。Android上でも徐々にネイティブアプリを奨励しない方向が出てくると予想されます。

Apple特許の利用を減らす

Googleのサービスを広く利用してもらうことについていえば、Appleとの競争関係はマイナスに働いています。お互いにとって、法廷争いを続けることは利益になりません。

Appleがこだわっているのはユーザインタフェースの重要な部分を真似られたからです。例えば米国で行われ、アップルの勝訴の判決が出た裁判では、”bounce-back effect”、”tap to zoom”, “home button, rounded corners and tapered edges”, “on screen icons”などの特許が争われました。このうち、スマートフォンの動作に必要不可欠なものは何一つありません。iPhoneよりも多少劣るもので良ければ、これらのAppleの特許を侵害することなくスマートフォンが作れます。

Appleの特許はまだ審査中のものもたくさんあり、これからも出てきます。しかし今後のAndroidのスタンスはおそらくAppleの特許を避け、結果としてUIが多少劣ったとしてもそれはそれでしかたないというものになるでしょう。現状でもSamsungに比べ、Googleの方がApple特許に対して慎重な姿勢を見せていますが、今後はますますそうなるでしょう。

ローエンドマシン

より低いスペックのスマートフォンでも十分に動作するように工夫をしていくでしょう。Android 4は高いハードウェアスペックを要求するため、未だにローエンド機はAndroid 2.3を搭載して販売されています。ローエンド市場を積極的に開拓していくために、スペックの低い機種でも十分に動作する新しいAndroidが開発されると予想されます。

以上が現時点での私の予想です。大きくまとめると、今後のAndroidはiPhone, iPadと対抗することを主眼とせず、市場を広げることに注力していくだろうと思います。フォーカスを切り替えた結果、Androidはローエンドからの破壊的イノベーションに対抗できるようになります。逆にFirefox OSが成功する可能性が低くなります。

安いiPhoneが出るかも知れないという話

AppleがiPhoneの廉価版を開発しているんじゃないかというウワサがあります。

投資アナリストを中心に広がっているウワサみたいなので、彼らの希望的観測にも見えますが、ちょっと気になるので自分なりに頭を整理してみます。

  1. 途上国では安いスマートフォンが売れているのは事実。特に中国がすごい。
  2. Huawei, Samsung, Nokiaなどがそこに商品を投入しているのは確か。
  3. 安いスマートフォンの市場はAndroidとSymbianが二分している。
  4. アナリストたちが安いというのは縛りなしで1-2万円の世界。
  5. Androidのバージョンは1万円(インド)だったらAndroid 2.3、2万円だったらAndroid 4.0とか。
  6. Samsungだったら2万円(インド)はGalaxy S Duosとか。Galaxy S2のようなスペック。
  7. Samsungだと1万円(インド)はGalaxy Y。画面は3インチ、RAMは190MB。Galaxy Sよりもかなり低スペック。むしろiPhone 3Gに近い。

ちなみにインドではiPhone 3Gは3万円、3GSは4万円とかの世界。iPhone 3GSはiOS 6が動くので、Android 4.0が動く2万円程度のAndorid機とその意味では同レベル。米国でもまだ好調に売れているiPhone 4は5万円弱、iPhone 4sは6万円程度です。

なので、もし単純にAppleが2万円程度の廉価のiPhoneを目指し、スペックをAndroidに合わせるのであればiPhone 4とかを安くすれば良い感じです。Appleとしては値段を既存製品より半分以下に落としていく感じです。

できるかできないかという点で言えば、iPhoneはもともと粗利が50%を越えているし、新製品の方が粗利が悪い傾向にあるのでできそうです。

でもそれでは面白くないし、Appleらしくもありません。

Samsung Galaxy S4のローンチでもAndroidのことがほとんど触れられなかったことのまずさ

Samsung Galaxy S4のローンチイベントがあまりにも退屈だったので私はちゃんと見ませんでしたが、どうやらAndroidやGoogleのことについてはほとんど触れられなかったようです。

Android携帯メーカーのGoogleばなれについてはここ数ヵ月間でかなり顕著になっていますが、私が予想していたよりも速いペースで進んでいるのが驚きです。

AndroidのリーダーだったAndy Rubin氏が降ろされましたが、Googleはこの状況にかなり危機感を抱いている可能性があります。今年の前半に具体的な策がGoogleから発表されるかも知れません。例えばスマートフォン用のChrome OSの発表などが考えられます。Samsungしか利さないAndroidの開発終了も現実的なオプションとして検討されていることでしょう。

Androidのリーダー、Andy Rubin氏が降ろされた件

アップデート: 3/19日、Satoshi Nakajimaさんのブログに関連した書き込みがありました。単純に人事を根拠に議論しています。そしてどうしてChrome OSとAndroidの統合を急ぐかについては『「すべてをウェブ・アプリケーションとして提供する」というGoogleのビジョンには Chrome OS の方が相性が良い』と書くにとどめています。しかし結論は同じです。AndroidとChrome OSは統合される予定であり、それもChrome OSを優先した形になるということです。私も同意見です。人事を見ただけで十分にこの結論に至ります。

Androidの開発を指揮していたAndy Rubin氏が役割を降ろされ、別の部署に移されることが発表されました。

5月にAndy RubinがD11会議で話す予定だったそうなので、今回の話は比較的唐突だったようです。

いまのところどうしてこうなったのかは全く情報がありません。わかっていることはAndy Rubin氏の代わりにAndroidを指揮するのがSundar Pichai氏だということだけです。Sundar Pichai氏はChromeおよびChrome OS、Google Appsを担当しています。したがって今回の人事発表を素直に解釈すると、GoogleはAndroidとChrome OSの統合を急いでいると推察ができます。それもAndroidを優先させた統合ではなく、Chrome OSを優先させた統合となりそうです。

果たしそんなことは合理性があるのでしょうか。

Googleの最近の動きをまとめてみる

どうしてそんなことをするのか、どんな意味があるのかは全くの推察ですが、今月のGoogleの動きをいくつか列挙して、その傾向を見てみます。

  1. Andy Rubin氏の代わりにSundar Pichai氏がAndroidの指揮することになった。
  2. Chrome for Androidにdata compression proxyという機能が追加されました。まだ試用段階ですが、実現すれば、Androidのすべてのウェブトラフィックは一端Googleのサーバを経由することになります。
  3. Google RSS Readerの廃止
  4. Google、Play Storeから広告ブロックアプリを一斉削除

3と4から読み取れるのは、Googleの収益の9割をしめる広告収入へのこだわりです。広告収入に十分に貢献しないサービスは終了させ、広告収入を脅かすアプリは排除するという動きです。Googleが広告収入に完全に依存しているのは今に始まった話ではありませんが、広告ブロックアプリを一斉削除するなどの強硬姿勢を見せたのは初めてです。

さて、この強硬姿勢と上記の1, 2には関係はあるでしょうか?

Data compression proxyがあれば、Googleはユーザが閲覧するウェブサイトをすべて把握できる

2のdata compression proxyという仕組みはChromeのネットワーク接続をすべてGoogleサーバ経由にする仕組みです。ユーザにとってはスピードの向上というメリットをうたっていますが、それ以上にGoogleにメリットがあります。Googleのサーバを経由する情報を解析すれば、Googleは各Androidユーザがどのようなウェブサイトを見てるかを完全に把握することが可能で、その情報を元にターゲティングされた広告を流すことができるようになります。これは既にGMailでGoogleが行っていることではありますが、メールだけでなく、今度はウェブも対象に含めようという話です。したがって2の動きについても、Googleの広告強硬姿勢とマッチしています。

Chrome OSとdata compression proxyの組み合わせで、Googleはスマホの全活動を把握できる

1のAndy Rubin氏降ろしはどうでしょうか。このためにはChrome OSのGoogleにとってのポテンシャルを考える必要があります。

まずは以下の思考実験をしてみます。

もしGoogleがFirefox OSのようなChrome OSをスマートフォンで普及させ、すべてのネットトラフィックがdata compression proxyを通るようになったらどうなるでしょうか?

Firefox OSではネイティブアプリもHTML, Javascriptで書きますので、ウェブアクセスは原則としてブラウザ経由となります。そのブラウザがdata compression proxyにつながっていれば、ネイティブアプリのネットワーク接続もすべてdata compression proxyを通るようにできます。

スマートフォンではウェブよりもアプリの方が話題になっていますが、モバイルアプリ上に表示される広告はGoogleの弱点です。競合にたくさん入られてしまっています。しかしモバイルアプリを含めてすべての広告がGoogleのサーバを経由し、情報がすべてGoogleに筒抜けになれば対応が可能です。

つまりこのFirefox OS的なOS、Googleの場合はChrome OSの方がGoogleの広告モデルにとって有益です。

こう考えると、1のAndy Rubin氏外しも広告強硬姿勢と一貫します。

ということはAndroidからChrome OSへの切り替えが起こる

もしもGoogleの経営陣がAndroidからChrome OSへの切り替えを考えているのならば、タイミングは今です。急がないといけません。理由はFirefox OSです。すでに多くのキャリアがFirefox OSのサポートを表明していますので、Firefox OSが成功する可能性があります。先に成功されるのはまずいのです。同じアプローチを採るChrome OSとしてはローンチで大幅に遅れるのは致命傷です。

ちなみにAsymcoのHorace Dediuも最近Androidの開発が止まることを想定し始めています