カニバリゼーションという考え方はもう捨てよう

いま最も成功している、最もイノベーティブな会社の一つとなったApple社はカニバリゼーションを全く気にしていません。

このことは以前にもiPod Touchに関してこのブログで紹介しましたが、先日発表された新しいMacBook AirとiPadのカニバリゼーションの可能性についても同じ立場をApple社は取っています。

New York Timesの記事より;

Analysts said that the new computers were so light and priced so aggressively that they could compete with the iPad for the same customers.

In a conversation after the announcement, Mr. Cook said he was unconcerned by that risk. “If one cannibalizes the other, then so be it,” he said. He said it was better for Apple to cannibalize its own business than for another company to do so.

カニバリゼーションを全く気にしないのは、新しいMacBook Airと既存のMacBookやMacBook Proとのカニバリゼーションの可能性にも及んでいます。

PRスローガンでは明確に “The next generation of MacBooks” としています。本当に既存のMacBookと入れ替わるような存在になるかどうかは今後の製品展開を見ていかなければなりませんが、iPhone/iPadで新しい製品カテゴリーの開拓に自信をつけたAppleはかなり本気だと思います。

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Galaxy TabのUS価格(Verizon)

アップデート 10/22
Verizonが発表した価格について、インターネット上でいろいろな議論が起こってきました。
Googleで”galaxy tab price”と検索すると出てくるのが以下のページです。

  1. Verizon tries to justify crazy $600 Galaxy Tab price
  2. Verizon Backs Up $600 Galaxy Tab Price, But Is It A Lost Cause?
    (A smaller, less well-known iPad for the same price as an iPad?)
  3. Galaxy Tab price too high

ドコモがGalaxy Tab単独では売らずに、2年契約とひも付け手しか売らない理由がよくわかりますね。

Steve Jobs氏も先日語っていて、私もこのブログで何回も話してきましたが、

… our potential competitors are having a tough time coming close to iPad’s pricing, even with their far smaller, far less expensive screens.

これががそろそろみんなにも理解してもらえそうです。

Samsung Galaxy TabのUSでの正式価格が出ました。Verizonから発売されるもので、Verizonとの契約を必要としないバージョンです(つまりキャリアからの補填がない)。

この状態でSamsung Galaxy Tabは$600になるそうです。

iPadのWi-Fi + 3G, 16GBが$629なので、ギリギリこれを下回ることができました。UK海外からの輸入の情報を見る限り、かなりがんばったと言っていいのではないかと思います。

画面の面積が半分な上、Wi-Fiのみのバージョンはやはりありません。がんばったとはいえ、この程度の価格差でそもそもiPadと勝負になるかどうかはなんとも言えないですね。

Appleの企業文化はiPhoneに不利か

New York Timesの記事に“Will Apple’s Culture Hurt the iPhone?”というのがありました。

割とバランスが取れた記事です。MacintoshがWindows PCに追いやられたのと同じように、iPhoneがAndroidに追いやられるかどうかについて議論しています。

Openが必ずしも勝利するかどうか分からないと言ったことだとか、Appleにスケールメリットがあることとかに言及しています。

ただ非常に大きなポイントを忘れています。

iPhoneがAT&Tのネットワークにしか載っていないこと。そして最初からiPhoneがVerizonに載っていれば、Androidの躍進はかなり抑制されただろうということ。つまりオープンとかクローズドが問題ではなく、Appleとキャリアの権力闘争が一番の背景にあることがこの記事からすっかり忘れられています。

みんな、オープンvsクローズドが好きなんですよね。

Steve Jobs が喋る!

Appleの記録的な売上げと利益を報告したアナリストとの電話会議にスティーブジョブズ氏が参加し、いろいろな思いをぶちまけたことがウェブで話題になっています。文章に起こしたものはここで読めます。

スディーブジョブズ氏が考えるイノベーションについて、いろいろなヒントがありましたので、僕が面白いと思った箇所を取り上げたいと思います。

In reality, we think the open versus closed argument is just a smokescreen to try and hide the real issue, which is, “What’s best for the customer – fragmented versus integrated?” We think Android is very, very fragmented, and becoming more fragmented by the day. And as you know, Apple strives for the integrated model so that the user isn’t forced to be the systems integrator. We see tremendous value at having Apple, rather than our users, be the systems integrator. We think this a huge strength of our approach compared to Google’s: when selling the users who want their devices to just work, we believe that integrated will trump fragmented every time.

And we also think that our developers could be more innovative if they can target a singular platform, rather than a hundred variants. They can put their time into innovative new features, rather than testing on hundreds of different handsets. So we are very committed to the integrated approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “closed.” And we are confident that it will triumph over Google’s fragmented approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “open.”

Googleは自らオープンを戦略の柱にしていると語っています。それに対してスティーブジョブズ氏はオープンとかクローズドかというのはあまり意味がないと反論しています。そうではなく、最終顧客にとって何が一番良いか、そしてアプリを開発してくれるソフトウェアデベロッパーにとって何が一番良いか。それだけが問題だと考えているようです。

そして何が一番良いかの一つの結論として、Appleは製品ラインアップを減らし、重複する機能を削減し、常に整理整頓されたポートフォリオを持つようにしています。MacでもiPodでもそしてiPhoneでも。

(iPadとその競合について)And sixth and last, our potential competitors are having a tough time coming close to iPad’s pricing, even with their far smaller, far less expensive screens. The iPad incorporates everything we’ve learned about building high-value products, from iPhones, iPods and Macs. We create our own A4 chip, our own software, our own battery chemistry, our own enclosure, our own everything. And this results in an incredible product at a great price.

垂直統合の結果として、iPadは非常に製造コストを安くできているという話です。一般的な定説では垂直統合は高コストの製品につながります。しかしこのブログでも紹介していますように、特にイノベーションが盛んに行われている市場のステージでは垂直統合によってむしろ価格は安く抑えられます(議論が十分に練れていなくて申し訳ありませんが)。

The reason we wouldn’t make a seven-inch tablet isn’t because we don’t want to hit a price point, it’s because we don’t think you can make a great tablet with a seven-inch screen. We think it’s too small to express the software that people want to put on these things. And we think, as a software-driven company, we think about the software strategies first. And we know that software developers aren’t going to deal real well with all these different sized products, when they have to re-do their software every time a screen size changes, and they’re not going to deal well with products where they can’t put enough elements on the screen to build the kind of apps they want to build.

まず、Appleは自分たちを”software-driven company”と考えていて、何よりも最初にソフトウェアの戦略を立てているというのが面白いです。考えてみると当たり前なのですが、改めて言われるとなるほどと思ってしまいます。

そしてスティーブジョブズ氏いわく、7インチのタブレットでは有用なソフトを作成するにはサイズが足りないとのことです。興味深いことに、7インチタブレットを発売する予定のメーカーにしても、7インチのサイズを高く評価している評論家にしても、ソフトウェアの使い心地についてはほとんど語っていないように思います。そうではなくて、大きさとか重さとか持ち運びのしやすさ等を議論しています。Appleは自分たちを”software-driven company”としていますが、競合は逆にまだ”hardware-driven company”であって、評論家たちもまだ”hardware-driven critics”のように感じられます。別に”hardware-driven”であること自体には何の問題もないのですが、ただAppleやその競合を批評するときにはこの視点を忘れてはいけないと思います。

ちなみに7インチタブレットで最も話題性のあるSamsung Galaxy Tabの紹介ビデオを見る限り、掲載されているソフトのUIはsmartphone用のものを大きくしただけのように見えてしまいます。iPadのアプリの多くは画面を複数の領域に分けて、一度に多くの情報を表示するようにしています。それに対してGalaxy Tabのソフトはsmartphoneと同じように、一度に一つの情報だけを表示し、あとは画面を切り替えていくというアプローチを取っているようです。スティーブジョブズ氏の言わんとしていることはこの辺りだと思います。

バイオ業界との関連で思うこと

メーカーが販売しているキット製品を評して、「若い人は原理も解らずに使うから困る」とか「中身が解らないからトラブルシューティングができない」とかよく言われます。クローズドな製品であることに対する不満です。

僕も近いうちに、キット製品におけるオープンとクローズドについて考えてみたいと思います。

それと”software-driven company”ということと関連して、各メーカーおよび代理店は自分たちが何-drivenかをよく考えたら良いと思います。それは製造プロセスかも知れないし、物流システムかもしれません。新技術を発見し育てる能力かも知れないし、マーケティングや営業力かもしれません。問題解決力や製品サポート力かもしれません。何となく市場を見ていると、自社の本当の強みを理解できずに変なことに手を出しているメーカーが多いような気がしています。

Samsung Galaxy Tab 海外版の価格

Expansysのウェブサイトに、Samsung Galaxy Tabの価格が載っていました。

ドコモから発売されるものは4万円強になると言われていますので、Expansysの¥73,990よりずいぶんと安いと感じられます。しかしドコモのスマートフォンプラン2年間の縛り付きで、SIMロックもあると予想されます。Expansysの製品は香港からの輸入品ですので、SIMロック無し。その分だけ価格が高くなっているのでしょう。

galaxy tab expansys.png

同じようなスペックのiPad 3G 16GBを見ますと、Expansysのからは¥57,888で、Samsung Galaxy Tabより大幅に安くなっています。ipad expansys.png

iPad 3G 16GBはソフトバンクから実質負担金¥22,320で提供されていて、それに対してドコモからGalaxy Tabが4万円強で提供される訳ですが、この価格差はSIMロックフリーのものの価格がそのまま反映されている感じがします(SIMロックの有り無しで、互いに¥35,000ほど安くなっている)。

iPad vs Galaxy Tabの料金プラン

アップデート

ドコモが言っている2年契約で4万円強について、情報源等を追記します。
2年契約と言っているのは例えばPC Onlineの記事で確認できます。またこの場合、ドコモのスマートフォン割引価格と同様のものが適応されてはじめて4万円強の価格になるだろうとぼくは考えています。


ドコモから発売されるGalaxy Tabの本体価格も料金プランもまだ正式には発表されていませんが、本体価格がだいたい4万円強になるということ、それと料金プランがドコモの他のスマートフォンのプランに準ずること(通話料金も必要そうだということも)が言われています。

そこで予備的ではありますが、iPadとの料金プラン比較をしてみました。iPadもGalaxy Tabの2年縛りがあるので、24ヶ月使った場合の料金を比較しています。

ipad galaxy tab plans.png

なおSamsung Galaxy Tabの本体価格は¥40,000として計算し、月々の支払いはこれを単純に24等分しました。またスマートフォンの料金プランはドコモのスマートフォン料金プランイメージを使いました。3G タブレットとしての通常の使い方を想定して、パケ放題ダブルの上限価格を使いました。Galaxy Tabでは通話料金を払う必要があるという話がウェブで散見されているので、スマートフォン料金プランイメージに記載のタイプSSバリュープランを使いました。

またiPadの料金はiPad販売価格一覧表iPad専用データ定額プランを使いました。

結論

ドコモのサービスとソフトバンクのサービスは単純に比較できないのは周知のことですが、それでも2年間でそれぞれ¥214,720と¥135,720ですので、ずいぶん差があると言えます。これがiPhoneとXperiaの差とかなり似た水準だというのも興味深いです。

少なくともここの勉強不足の記者が言っているように「価格で(Galaxyタブに)軍配」とは到底、言えません。

このブログで繰り返し紹介していますよう(1, 2, 3, 4)に、世界的に見てもGalaxyタブはiPadより高くなってしまいそうで、そもそもの製造原価が高いと想像されます。

ドコモから公式の価格と料金プランが発表されたとき、高くて愕然とする人がたくさん出てくると思うのですが、どうなるでしょうか。シャープのガラパゴスも然りです。

Galaxy Tabの正式価格

日本の価格ではなくイギリスでの価格ですが、昨日公式なものが公開されたようです。

Samsung Galaxy Tab Gets Official UK Price

正式な価格(希望小売価格: recommended retail price)は£799です。以前から公開されていたAmazon.co.ukの情報が正確だったようです。£799というのはべらぼうに高く、¥105,500 円に当たりますです。ただAmazonでは£599.99(¥79,200)で販売していますので多少はマシです。

ただそれでも同等のiPad 3G (16G )が£529.00(¥69,900)です。

先にブログに書いた通りだったようです。

GALAPGOSがガラパゴスにもなれない理由:追記

前に書いたブログに対していくつか捕捉したい点があります。

やはり「進化」の視点で。

GALAPAGOSの独自機能は強みにならないか?

GALAPAGOSにはいくつか優れた特徴があります。例えば画面の解像度がiPadよりも高いとか、あるいはXMDF規格が日本語の扱いに優れている点です。

しかし、優れた機能を持っているということと強みがあるというのは全く別の話です。なぜならばGALAPAGOSはAndroidなどの標準規格を多用しているからです。

少なくともGALAPAGOS程度の特徴であれば、標準的なAndroidタブレット(まだ販売されていませんが、近いうちに登場するでしょう)やiPadに搭載することが簡単です。XMDFについてはビューアソフトを作ればいいだけです。画面解像度の問題についてはAppleはiPhone 4で大幅に改善していますので、iPadの次期バージョンでも解像度が良くなるのはかなり確度が高いです。

つまりGALAPAGOSは「隔絶」の度合いが極端に少ないため、独自機能を進化させても、すぐに真似られます。ですから独自の進化を積み重ねることが出来ず、ガラパゴス的進化はできません。

機能を限定することにより、独自のセグメントが築けるか?

大西宏さんが言っているのが恐らくこの議論です。

大西さんも言っていますが、価格をぐっと抑えられればこの可能性はあります。価格を大きく開けることにより「隔絶」したマーケットセグメントが狙えるからです。しかし既に発表されているAndroidタブレットを見ると、価格はiPadより安いどころか、むしろ高くなりそうです。新しい抱き合わせ(例えばオンライン新聞購読とのセット販売)をしない限り、GALAPAGOSの値段も抑えられないでしょう。

そうなるとこの議論は無理になってしまいます。

僕の意見

GALAPAGOSという名前、「社員レベルでは反対の声が多かったのは確か。しかし、上層部に行くほど、このブランドに対する賛成の声が増えていった」そうです(ソース)。

マーケティングと生物の進化は共通するところは多いと思います。ガラパゴス進化なんてまさに生物学的に言うニッチですし、マーケティングのニッチ市場も言葉が同じだけでなく考え方も同じだと思います。その意味で技術のガラパゴス進化は非常に興味深い話題です。

でもシャープ上層部はガラパゴス進化を理解していないのでしょうね。

GALAPGOSがガラパゴスにもなれない理由

GALAPAGOSという名前のメディアタブレット端末がシャープから発表されました。その発表会の中で、GALAPAGOSという奇抜なネーミングの理由をこう説明したそうです。

当日行なわれた発表会でシャープ オンリーワン商品・デザイン本部長の岡田圭子氏は、「GALAPAGOS(ガラパゴス)」は、世界基準とかけ離れた日本の特異な進化と揶揄される言葉として否定的にとらえるのではなく、世界のデファクト技術をベースに日本ならではのきめ細やかなモノづくりのノウハウと高いテクノロジーを融合させ世界に通用するオンリーワンの体験を創出したいとした。

galapagos_sharp.pngしかしどう考えても、この製品はガラパゴスにもなれないでしょう。

世界基準とかけ離れた日本の特異な進化も果たせずに、瞬く間に絶滅するだけでしょう。なぜならガラパゴス的進化をするための条件が整っていないからです。

ガラパゴス的進化をするための条件

ガラパゴス的進化をするには、世界基準とかけ離れたスタンダードを作れば良いというものではありません。例えば独自のスタンダードを作ったものとして、ソニーがiPodに対抗しようとしたときのATRAC規格が記憶に新しいです。ATRAC規格はすぐさまに絶滅しました。日本国内だけを見てもすぐに絶滅しました。日本だけで生き残るガラパゴス進化もできなかったのです。

それではガラパゴス的進化をするための条件とはいったいなんでしょうか?僕は以下の2つが重要ではないかと考えています。

  1. 外部から隔絶されていること:ガラパゴス諸島の島々は海によって大陸から隔てられているため、独自の進化をすることができました。同様にテクノロジーがガラパゴス的進化をするためには、世界基準から隔絶される必要があります。
  2. 生き残ること:進化というのは、子孫が徐々に変化していって環境に適応していく過程です。子孫が生き延びないといけないのです。いきなり死んではガラパゴス的進化は起こりません。でもそのためには強力な外敵や競争相手がいないことが大切です。
  3. 独自に進化(変化)すること:ガラパゴス進化をするためには変化をするあります。生物学的には、他種と交配しても子孫が育たないレベルまで進化することです。こうすることによって外部との隔絶をより強固にできます。テクノロジーで言えば、世界規格ではもはや代替が不可能というレベルまでに独自規格が新機能を発展させなければなりません。

NewImage.jpg例えばガラパゴス携帯電話の場合、外部からの隔絶は強固でした。通信規格が違うことがまず最初のハードルでした。世界で広く使われているGSMではなくPDC方式が採用されていました。そして各社が3Gに移行するまで、これが主流の通信規格でした。世界標準規格を用いた3Gへの移行は2006年ごろまでかかりました。しかしこの頃までにはiMode等、これまた日本独自の規格が普及しており、この機に海外メーカーが入り込むことは困難でした。つまり1.の要件によってガラパゴス進化が始まり、2.の生存をしているうちに、3.の進化(変化)が行われ、隔絶が強力になったのです。

まだこの隔絶は残っていますが、iPhoneなどの出現によって携帯電話のガラパゴス的進化が終焉を迎えそうです。ただ逆に言うと、iPhoneぐらいに強力なイノベーションがない限り、ガラパゴス携帯の強固な隔絶は続いたでしょう。

ところがシャープのGALAPAGOSは、全然この要件を満たすことができていません。

GALAPAGOSは世界基準にどっぷり浸かっている

通信はWiFi(IEEE802.11b/g)、OSはAndroidと完全な世界基準です。独自なのはXMDFという電子書籍のフォーマットだけのようです。

XMDFの利用は有償ということですが、どこかがXMDFを読めるビューアをAndroidやiOS用に開発することだって十分考えられます。

コンテンツにしても、出版社はXMDFだけを使う必要がありません。シャープはPDF、Word、Excelなどの世界基準をXMDF形式に変換するツールを提供するということなので、XMDFは「隔絶」をほとんど提供することができません。

この点を考えると、GALAPAGOSは世界基準にどっぷり浸かりすぎていて、隔絶の要件を満たしてないことがわかります。

またXMDFコンテンツを作る際に利用されるのは、恐らくはAdobe InDesignなど世界基準の出版ソフトでしょう。まずこれで作っておいて、最後に変換ソフトを使ってXMDFを作ることになりそうです。こうなるとXMDFを変化させることが難しくなります。仮にXMDFに独自の機能をつけても、Adobe InDesignなどが対応してくれないとその機能が活かされません。ですから「独自の進化(変化)」の要件も満たせません。

なお、これはAppleがFlashで作ったソフトを禁止しようとしたときに使った理屈の一つです。AppleはFlashでオーサリングされると、iOSの進化が阻害されると言ったのです。

GALAPAGOSは生き延びれるか

GALAPAGOSの取り囲む環境は競争相手だらけです。日本での活動は遅れていますが、AmazonのKindleAppleのiPad/iBooksなど強力なライバルがすでに日本にも浸透し始めています。

機能にしても価格にしてもGALAPAGOSがこれらのライバルに勝つのは至難の業です。何より販売スケールが違いますので、部品の調達コストが違うはずです。アセンブリにしても米国メーカーは中国等安い国で製造しますので、最終製品の価格競争力は相当なものです。

隔絶の要件が満たされず、競争相手がうようよいる環境に放り込まれたGALAPAGOSは恐らくはあった言う間に絶滅してしまうでしょう。

そして生き延びることが出来なければ、進化(変化)することもできません。

iTunesとガラパゴス

NewImage.jpg昔からのAppleユーザでなければ知らないと思いますが、iTunes Music Storeは(意図的な)ガラパゴス進化から生まれました。

iTunes Music Storeが生まれたのは2003年4月28日。このときはまだMac版のiTunesしかありませんでした。

iTunes Music Storeを実現するためには、音楽レーベルが楽曲を提供する必要がありましたが、Napsterなどで痛い目にあっていた音楽レーベルはインターネット配信に消極的でした。最終的にAppleは音楽レーベルを口説き落とす訳ですが、そのときにMacユーザが全パソコンユーザの5%に満たなかったことが有利だったと言われました。つまり音楽レーベルは実験ができたのです。仮にiTunes Music Storeが失敗で、おかげで音楽レーベルが違法コピー等で被害を受けることになったとしても、被害は全パソコンユーザの5%以内に限定されるという理屈です。

つまりMacユーザ限定というガラパゴス的に隔絶された実験環境の中からiTunes Music Storeが生まれることができたのです。

幸いにもiTunes Music Storeは成功し、Windows版のiTunesもまもなく発売されました。そうやってガラパゴスがメジャーになったのです。

GALAPAGOSの進化の(少ない)可能性

シャープのGALAPAGOSは果たして同じように発展することができるでしょうか。まぁ出版社が実験的なものとしてGALAPAGOSを見てくれる可能性はそれなりにあるとは思います。しかし全PCユーザの5%以下とはいえMacユーザは膨大に存在していて、iTunesを利用する人も多かったため、iTunesはすでに準備万端な実験環境でした。しかしシャープはこれから実験環境を構築するので難しいです。

さらにシャープはそのあとが続きません。AppleがWindows版のiTunesを作ったときは、Windows対応のiPodがすでに好調に売れていました。したがってWindows版のiTunesを作るだけですぐにiTunes Music Storeのユーザ層を急拡大できたのです。しかもWindows対応のiPodで資金回収ができるという仕掛けがありました。

その上シャープの場合、実験が成功したときに何が起こるでしょうか。ボリュームアップを狙うにはシャープはXMDFをライセンスし、AndroidやiPhoneにも対応したビューアを売るしかありません。GALAPAGOSだけだと販売台数が稼げないからです。ユーザ層を拡大できない限り出版社は離れて、AmazonやAppleにもコンテンツを配信するようになってしまうので、XMDF規格を生き残らせるには選択肢はありません。

シャープのようなハードのメーカーとしては、いずれにしてもつらいと思います。

リンク

  1. 外観とUIを速攻チェック――写真で見る「GALAPAGOS」端末
  2. シャープ、電子ブックリーダー「ガラパゴス」を発表

アップデート

ネットでいろいろ見ていると、「売れるか売れないか」関連の話題ばかりが多く、”GALAPAGOS”という名前が持つ「進化」という意味合いに言及するものを見かけませんでした。

「売れるか売れないか」についてはまぁ売れないとは思うのですが、仮にそこそこ売れたとしてもそれは「ガラパゴス進化」の要件を一つ満たした(2.の項)に過ぎず、それ以外の要件は満たしていないというのが僕の言いたいことです。ネットで「進化」が話題にならないのもうなずけます。

ただ、漫画については日本はコンテンツ制作に相当に強みを持っていますので、コンテンツ制作ツールにおける「隔絶」の要件がそろい易く、「ガラパゴス進化」の可能性は残っていると思います。

アップデート2

追加したいことがいくつかあったので、追加のブログを書きました。

市場の力関係とイノベーション、そして顧客の利益

「Appleは単に最高の製品を作りたいだけだ」と昨日のブログに書きました。

今日、Elia Freedman氏が書いた“Fighting The Wrong Fight”という関連する記事を見つけました。

Eliaが言っているのはこうです。

スマートフォンではAppleとGoogleの戦いが重要ではないんだと。重要なのは携帯メーカーとキャリアの間の戦いだと。そして携帯業界のイノベーションを阻害し、より優れたユーザエクスペリアンスを妨害していたのはキャリアだったとしています。

キャリアが携帯電話を販売し、通信サービスを提供します。どのようなソフトウェアがインストールされるかを決める権限を持ち、何ができて何ができないかを決定してきました。日本においてもそして米国においても、キャリアに力があったのです。それがiPhoneの場合は、力関係がひっくり返っています。Appleが決定権を持っているのです。この力関係をひっくり返してこそ、Apple流のイノベーションを携帯電話に持ち込むことができたとも言えます。キャリアにはそれだけのイノベーションをする能力もインセンティブもありませんから。

ただ残念なことにGoogleのAndroidはオープンであることを逆手に取られて、キャリアに利用されてしまっているとこの記事では解説しています。

さてバイオの買物.comとの絡みで僕がいつも考えているのは、ライフサイエンス研究用製品の市場がイノベーションを生み、そして顧客に利益をもたらす構造になっているかどうかということです。もしや従来の携帯電話市場と同じように、イノベーションを生み出さないところに力関係が傾いていて、そして顧客の利益が損なわれてしまっているのではないかと。研究の発展を促すためには、既存の市場構造を変革させ、そして顧客に力がシフトするようなものにして行かなければならないのではないか。常にそう思ってきました。

バイオの買物.comはどのようなプラスの効果を生み出しうるか。僕の考えをちょっとだけ紹介します。

  1. ブランド力に関わらず、顧客のために努力している会社の製品が売れる : バイオの製品は猛烈な数がありますので、研究者はどうしてもブランドでフィルターをかけて、探すのを楽にしてしまいます。すべてのメーカーのカタログを探すよりは、馴染みのブランドに絞って探した方がずっと楽です。でも各メーカーの製品を簡単に比較できるのなら、ブランド力のフィルターはあまり必要なくなってきます。ブランド力に関わらず、適正な価格であり、十分サポートを提供し、品質の良いメーカーの製品が売れやすくなります。
  2. 営業担当者等がより充実した製品知識を入手しやすくなる : この業界の営業担当者は製品知識があまりありません。もともと製品が多いのもありますが、各メーカーが無節操に製品分野を拡大した結果、営業担当者としてはますます難しくなってきました。バイオの買物.comがそういう人の勉強のツールになれば、より顧客のニーズにあった提案ができるようになるのではと期待しています。
  3. イノベーティブな製品が売れやすくなる : メーカーが新しくて革新的な製品を開発しても、それをマーケティングして普及させるのは簡単ではありません。次世代シーケンサーほどに革新的であればNatureとかが取り上げてくれますが、例えばClontechのIn-Fusion PCRクロニングキットとか、タンパク質レベルで発現を調節できるProteoTuner Systemとかはなかなか知名度が上がりません。バイオの買物.comによってこういう製品が注目されやすくなるのではないかと期待しています。

メーカーのイノベーションが促進され、サポート力が注目され、企業努力による価格抑制が顧客の目に留まりやすい市場環境。そしてブランド力や代理店との力関係に頼った顧客の囲い込み等が行いにくく、顧客価値の創出の結果として売上げが伸びて行く市場環境。現状が果たしてそうなっているかを常に考えながら、より良い方向に持って行くために貢献できたら良いなと思っています。