ツートップ戦略の評価

ドコモが5月以来の「ツートップ」戦略を継承し、3機種を重点販売する「スリートップ」を行うことがロイターより報じられました(「ドコモの冬商戦、ソニー・シャープ・富士通を重点販売へ=関係筋」)。

ドコモの「ツートップ」戦略というのは、長年のパートナーであった国産メーカーを半ば切り捨ててまで敢行したものでしたので、新しい「スリートップ」の議論をする前に、ツートップの評価をするべきだろうと思います。

それで私の知る限り、最も終始するべき指標はMNPの出入りのデータではないかと思いますので、それを簡単に紹介します。

2013年6月までのデータですがHighChartsFreQuentブログにMNPの推移がまとめられています。

3社比較 MNP 携帯電話番号持ち運び 制度利用数の推移をグラフ化

その後の7月のMNPのデータは、au: +70,100, Softbank: +40,600, DoCoMo: -112,400 となっています。したがって少なくとも7月時点までは明確な改善は確認できません。

DoCoMoは業績発表でも、「ツートップ」戦略はMNP流出の改善につながっていないとDoCoMo自身が述べています。

かなり過激な戦略だった「ツートップ」でも明確な改善が見られませんし、「スリートップ」が「ツートップ」より効力がある根拠もありません。

国内メーカーにしてみれば、「スリートップ」戦略と、DoCoMoがiPhoneを導入するのと、どっちが痛いのか気になります。

Android Google Playの収益の危険な地域性(その3)

Android用のアプリを配布・販売しているGoogle Playの地域性が日本と韓国に極端に偏っており、相当に異常だと以前にもこのブログで紹介しています()。そのときに使用したのはAppAnnieのデータでしたが、先日Distimoからも同様のデータが出てきたので紹介します。

地域性のグラフは以下のものです。データは2013年7月のものです。

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このグラフからわかることは以下の通りです;

  1. 以前のブログにも紹介したとおり、App Storeの収益性は各国の人口や経済力(GDP)を考えれば納得できます。細かい順位は別として、米国が1位で、日本が2位、そして日本の半分以下で英国、オーストラリア、ドイツなどが続くのは納得がいきます。
  2. それに対してGoogle Playの収益性は日本と韓国に極端に偏っています。
  3. 日本は先進国の中でiPadの利用率がかなり低い。

以上を踏まえた上で今後のGoogle Playの収益性について考えてみます。

  1. Google Playの収益が最近6ヶ月で67%と増加したからと言って、この成長が持続する根拠はかなり薄弱です。もしGoogle Playの成長がまんべんなく起こっていて、各国でまだ伸びしろがあるのならば、成長が持続する可能性はあります。また経済成長が著しい途上国で起こっているのであれば、それもまた持続する可能性があります。しかし現実には、既に先進国の仲間入りをしている日本と韓国で、両市場をほぼ飽和するような勢いで成長したのです。日韓は急速に飽和に達する可能性が高く、増加が持続するためには日韓と同じようなことが徐々に他の先進国にも波及していく必要があります。しかしその傾向は特に見られません。
  2. 日本はドコモがiPhoneを販売していないのにもかかわらず、iPhoneのシェアが高くなっています。したがってドコモが仮にiPhoneを販売し始めれば、日本のiPhoneのシェアが激増し、Androidのシェアが激減する可能性があります。これは日本内でのGoogle Playの収益が激減することを意味します。日本の寄与が大きいだけに、日本一国での収益減少により、Google Playの全世界での収益性が減少に転じる可能性があります。
  3. Androidのシェアが高いのは、GDPが中位ぐらいの途上国です。これらの国では有料アプリは余り売れていません。Androidのシェアが高いからいずれGoogle Playのコンテンツが売れると考えるのは大きな誤りです。

i-modeがどうしてあっさりとiPhone, Androidにやられてしまったかを考える

今作っているPonzuウェブシステム(デモ解説)ではPC版、スマートフォン版、そしてi-mode版を用意しています。

開発中はi-modeの規格とかなり格闘しましたが、一つ強く感じたことがあります。

それはi-modeが項もあっさりとiPhoneやAndroidに追いやられ、ほぼ全面敗北の状況になった理由は、決してマーケティングや海外展開力、キャリアとメーカーの利権関係、あるいはガラパゴス化の問題ではなく、単純に製品が悪かったらからではないかということです。

製品が悪かったというのは、第一にi-modeブラウザのことです。i-modeブラウザは2009年にブラウザが2.0となりましたが、その特徴を一部抜粋しました(ここから);

  1. Cookieに対応。以前のi-modeブラウザは非対応でした。
  2. BMP, PNGの画像表示が可能になりました。以前はGIF, JPEGのみ対応。
  3. Javascriptに対応になりました。以前は非対応。
  4. 外部CSSに対応になりました。以前は外部CSSに対応していませんでした。
  5. 準CSS2対応になりました。以前は対応していないCSSが多くありました。
  6. VGA描写モード(480×640)に対応。以前はQVGA描写(240×320)のみ。

各項目の詳細は省きますが、特筆するべきことはこれらの機能が2009年、つまりiPhoneが発表されてから2年間も経ってようやく搭載されたという事実です。

例えばCookieやCSS、PNGへの対応はi-modeが圧倒的に遅く、auやSoftbankの携帯では以前から普通に使えていました。ガラケーの世界だけを見ても、i-modeブラウザは機能的に遅れていました。

それもi-mode用サイトを作る開発者側にとっては、かなり痛いところが遅れています。例えばPonzuウェブシステムを例にとると、Cookieに対応してくれないとログインシステムが使えません。また外部CSSが使えないと、開発効率が大幅に低下します。CSS2に対応してくれないと表現力が大幅に低下します。i-modeブラウザはかなり本質的なところが遅れていました。

ドコモがi-modeブラウザの開発に真剣に取り組んでいなかったのはかなり明白です。Internet Explorerの開発を滞らせてしまったMicrosoftと完全にダブります。

i-modeがiPhone, Androidに駆逐された原因はいろいろ議論されています。議論の状況はクローデン葉子氏が良くまとめています。また小飼弾氏は良く言われるガラパゴス化の影響について、非常にわかりやすく否定しています

それぞれの議論には当たっている点もあると思いますが、不思議なことにいずれもi-modeの製品自体のクオリティーについては言及していません。あたかもクオリティーには問題は無く、戦略等に問題があったというような議論ばかりです。

でも確実にクオリティーの問題はあったのです。製品力が落ちていたのです。その点に目をつぶって議論するのは大きな間違いじゃないかって思います。

Chromeがどうしてパソコンで人気があって、Androidでは人気が無いのか

パソコン用Chromeは20%弱 – 45%の使用率

パソコンではChromeの人気はかなり高いです。

Chromeブラウザの人気はウェブ使用率の統計で見ます。ブラウザ毎のウェブ使用率を発表しているところは主に2つあって(NetMarketShareStatCounter)、それぞれ結果が大きく異なるのですが、いずれにしてもパソコン用Chromeのウェブ使用率はそこそこあります。NetMarketShareは20%弱だとしていて、StatCounterは45%程度だとしています。

Android用Chromeは14%弱の使用率

これがAndroid用Chromeになると話が違います。NetMarketShareを見ると、Androidユーザの3.75%/(3.75% + 20.58%) = 15.4%がChromeを使っていると推測できます(ただしiOS Chromeユーザを無視した場合。iOS Chromeユーザを含めた場合は、より少ない割合になります)。ただしより細かく見ていくと、Chromeユーザとなっている利用者のうち、実はGalaxy 4Sなどの標準ブラウザーユーザも含まれていますので、実際には (3.75% – 1.70%)/(3.75% + 20.58%) = 8.4%がGoogle Playからダウンロードした純正のChromeを使っていることになります。

なおChrome for AndroidはAndroid 4.0以上でしか使用できませんが、AndroidのDeveloper Dashboardを見る限り、現時点でのAndroid 4.0以上のシェアは (23.3% + 32.3% + 5.6%) = 61.2% となっています。つまりChrome for Androidが使用できる環境にあるAndroidユーザに限定すると、Chromeの使用率は 8.4% / 61.2 % = 13.7% になります。

StatCounterの場合はGalaxy 4Sなどの標準ブラウザーを切り分けるためのデータが公開されていないため、Google Play純正Chromeの使用割合が計算できません。しかし合わせたChromeの使用利はNetMarketShareと似ているので(3.75%)、同じような結果になっているのではないかと想像できます。

いったんまとめると、パソコン用Chromeのブラウザ使用率は20%弱 – 45%ですが、それに対してAndroid用Chromeのブラウザ使用率は13.7%にとどまっています。

ちょっと古いデータですが、Androidからのアクセスの91%は標準ブラウザからだったという報告もあります。

いずれにしても圧倒的に標準ブラウザの人気が高く、パソコンのようにChromeもしくはFirefoxの人気が高いという現象は起きていないようです。

なぜパソコン用Chromeの使用率は高いのか

上記の結果は二つの見方ができます。つまりパソコン用Chromeの使用率が高いという見方、それとAndroid用Chromeの使用率が低いという見方です。

私は今回、前者のパソコン用Chromeの使用率が高いという立場をとります。つまり、本来ならば標準ブラウザの使用率が圧倒的に高いのが当たり前なのに、パソコン用ブラウザの世界では特殊事情によりChromeやFirefoxの使用率が高くなっているという立場です。

そしてその特殊要因というのはWindows XPであり、Windows XPで稼働する一番新しいInternet Explorer 8がかなりボロいブラウザであることが原因で、FirefoxやChromeに入り込むスキが生まれたとする考えです。

実際にデータを見ていきます。

国ごとのWindows XP使用率とChrome/Firefox使用率、IE使用率の関係

私の仮説はこうです。

  1. 多くの国(特に比較的貧しい国)では未だに古いパソコンが使われており、その上でWindows XPをOSとして使用しています。
  2. Windows XPではInternet Explorer 8までしか動きませんが、IE 8は動作が遅く、バグも多いため、ブラウザとしては劣悪です。
  3. それに対して最新のFirefoxやChromeはWindows XPでも動作します。そこでWindows XPを使っているユーザの多くはInternet Explorerを捨て、FirefoxやChromeに移ったと考えられます。
  4. 逆にWindows 7を使っているユーザはIE 9もしくはIE 10が使用できます。IE9, IE10はそれより前のバージョンより大幅に改善されていて、特にIE10はChrome以上に高速なところがあります。したがってWindows 7ユーザは標準のInternet ExplorerからFirefoxやChromeに移るインセンティブが少なく、Internet Explorerを使い続けていると考えられます。

この仮説を検証するために、以下のデータを集めました。

  1. 様々な国のWindows XP使用率及び各ブラウザの使用率のデータをとりました。データはStatCounterからとりました。国はCIAが公開している各国のインターネットユーザ数のデータから上位の30国を選択しました。
  2. Windows XP使用率と各ブラウザの使用率の相関関係を確認しました。

そのデータは以下の通りです。

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Windows XP vs. Chrome + Firefox

横軸が各国のWindows XP使用率、縦軸がChromeとFirefoxの使用率の合算です。このグラフから明らかなように、Windows XP使用率とChrome、Firefox使用率には明確な正の相関があります。Windows XPのユーザは、IE以外のブラウザ(ChromeもしくはFirefox)を選択する傾向が強いようです。

なお緑の×で表したのは左が韓国、右が中国です。これらは外れ値として扱いました。韓国は国家政策の結果、Active Xの使用が半ば義務づけられ、異常にInternet Explorerの使用率が高いために除外しています。また中国はいろいろややこしいことがあり、StatCounter統計の信用度が低いと考えられます。実際に中国でのChromeのバージョンごとの使用率を見ると、古いバージョンが多く、新しいバージョンの使用率が少ない結果になっています。しかしChromeは自動アップデートがあるため、他の国ではほぼ例外なく最新ブラウザの使用率が圧倒的です。したがって中国のChrome使用率のデータはかなり怪しいです。

Windows XP vs. Chrome

先ほどのデータをChrome + Firefoxではなく、Chrome単独で見たときの結果です。相関がずいぶんと悪くなっています。これは国ごとにChromeに人気があるか、Firefoxに人気があるかがバラバラだということを表しています。

Windows XP vs. IE

これはWindows XPの使用率とIEの使用率の相関を見ています。Windows XPの使用率が高い国ではIEの使用率が下がっていることがわかります。Windows XPのユーザは、IE以外のブラウザを選択する傾向が強いようです。

考察

以上のように、Windows XPの使用率が高い国ではIEの使用率が下がり、ChromeやFirefoxの使用率が上がっています。これは上記の仮説を裏付けるものです。

もし私の仮説が正しいのならば、以下のことが言えそうです。

  1. Windows XPの使用率が高い国は、古いパソコンを使い続ける発展途上国である傾向があります。それに対してWindows 7やWindows 8の使用率が高い国は、裕福な先進国である傾向があります。したがってどのブラウザが広告媒体としての価値が高いか、あるいは電子商取引で多額のお金が使われているかという視点に立つと、IEが有利でChromeやFirefoxは不利でしょう。
  2. パソコンの買い換えによりXPの使用率が下がっていくにしたがって、ChromeやFirefoxの使用率が減少していくでしょう。
  3. MicrosoftはXPのサポート終了を宣言していますので可能性は極めて低いのですが、もしMicrosoftがWindows XP用のIE10もしくはIE11を開発すれば、ChromeやFirefoxの使用率はがくっと減るでしょう。

最後に

先日のGoogleのPress Eventでも、Googleの幹部はChromeが世界で一番多く使われているブラウザであることを誇っていました。

しかしこれはMicrosoftのWindowsおよびInternet Explorer戦略の失敗に起因するものです。MicrosoftはIE10からは高性能なブラウザを開発するようになっているので、失敗から十分に学んでいるようです。そこでここ数年先、Windows XPの使用者が減るのにしたがってChromeやFirefoxの使用率が下がっていく可能性が高いと言えます。

もちろんGoogleはAndroid用Chromeを提供していて、パソコン用のChromeはこれとタブがシンクロしたりするなど相乗効果があります。しかしAndroid用Chromeの人気自体が余り高くないため、相乗効果はまだ限定的です。

こう考えると、Chromeの人気も数年先まで保証されたものではないと言えます。GoogleはChromeを主要なプラットフォームと位置づけていますが、私はこの基盤は相当に弱いと考えています。

Googleのスマートフォンの次に来る狙い

Daniel Eran Dilger氏が“Google appears ready to ditch Android over its intellectual property issues”と題された記事で、GoogleがAndroidを放棄する可能性について議論しています。そして様々な状況証拠を並べ、特に新しいものとしてGoogleの新しいChromecastデバイスが、Androidからいろいろな機能をそぎ落としたものになっていることを挙げています。

私は似たような意見を持っていますが、Androidをすぐに放棄するよりは、まずはAndroidをローエンド機用に最適化し、Apple iPhoneとの競合を避けていくのではないかと考えています。

理由はChrome, Android戦略ともに足腰が弱いためです。

Chromeブラウザはパソコンでは高いシェアを獲得しています(どれぐらい高いのかはかなり議論が分かれていますが)。しかしChromeが浸透しているのはここだけです。Android上のChromeは非常に浸透率が悪く、今後大きく改善する状況にはありません。またChromebookはウェブ使用率などの統計で全く登場しないレベルであり、メジャープレイヤーになる兆しはありません。

Chromeがパソコンで高いシェアを獲得している点についても、これは主にWindows XPで動くInternet ExplorerはIE8までだというのが大きな要因だろうと私は考えています。Windows XPの使用が減ればWindows上のデフォルトブラウザはIE 10, IE 11など非常に評判の良いブラウザになってきますので、Chromeのパソコン上の浸透率に陰りが出る可能性は大いにあります。

このようにChromeブラウザ戦略の見通しは必ずしも明るくありません。

一方Android戦略についても、タブレットでiPadに大きく後れをとり、どの統計を見ても使用率で大きく劣っています(販売台数ではiPadで競っているという統計はありますが、使用率では5倍以上の差がついているレポートばかりが出てきます)。Googleは広告で収益を得ている会社ですので、使われないタブレットが市場にあふれても良いことがありません。Google Nexus 7でタブレット戦略に力を入れていますが、初代のNexus 7の販売台数は目立ったものではなく、新型を出したところでどこまで改善するかは未知数です。

この状況でGoogleが自社の戦略を優先して、AndroidからChromeへの移行を積極的に進めることはないと思います。むしろスマートフォン上のAndroidはSamsungやHTCに任せて、タブレット上のAndroidに注力するでしょう。ただタブレット戦略もやり尽くした感があり、Googleにこれ以上何ができるかはっきりしません。

それとAppleが自動車に興味を持っていることが極めてはっきりしてきたので、Google Glassへのフォーカスを切り替えて、Androidを自動車用に作り替えることに必死になるでしょう。またまたAppleの真似です。

そう。これからのGoogleの注力は自動車です(Samsungも)。なぜかってAppleがそうするから。

Android標準ブラウザがChromium Forkであるデバイスのシェア

先日、Samsung Galaxy S4の標準ブラウザが1年前のChromium 18.0のフォークである可能性が高いことを紹介しました。

そういうのが実際にどれぐらい多いのかを調べてみました。NetMarketShareのデータを使いました。

この時点での最新のChrome for Androidはversion 27.0で1.54%のシェアがあることがわかります。Chromeは自動的にアップデートするのですが、このデータにはまだ25.0、26.0のものもあり、それぞれ0.29%、0.19%となっています。合計して、2.0%のユーザが新しいChrome for Androidを使っていることがわかります。

注目するのはChrome for Android 18.0が1.70%もあることです。Chromeの自動アップデート機能のため、Google PlayからダウンロードしたChrome for Androidがバージョン18.0でとどまっている可能性は低いと考えられます。そうなるとこの1.70%というのは、Samsung Galaxy S4と同じように標準ブラウザがChromium 18.0ベースのものから来ていると推測できます。

憶測になりますが、近いうちにChromium 18.0からフォークされたバージョンがGoogle PlayのChrome for Androidを近いうちに抜かしてしまいそうな気がしています。というのもAndroidユーザの91%が標準ブラウザを使用しているというChitikaのデータがあるからです。

Windowsプラットフォームでは高いシェアを誇るChromeですが、スマートフォンではなかなかそうは行かないようです。

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なお、どうしてAndorid上でChromeの使用率が上がらないのかを考えてみると、次のことが言えると思います。

  1. Windows上の標準ブラウザの性能が劣悪でした(Internet Explorer 7, 8, 9などのことを指します)。
  2. まだまだ使用されているWindows XPでは、Internet Explorer 8までしか動かず、これもかなり性能が劣悪です。

つまり標準ブラウザであるInternet Explorerを使い続けるのがかなりつらかったから、FirefoxやChromeに乗り換える人が多かったと言えます。これはFirefoxやChromeの功績というよりも、Internet Explorerの失策と言えます。

Android上ではそこまでの失策がなかったため、Chromeが普及できなかったのです。今後もSamsungらは自分たちの力で標準ブラウザに力を入れていくようですので、Chrome for Androidが普及するスキは出てこないと言えます。

Nexus 7が今までどれぐらい売れたのかを再確認する

7月24日のGoogle Press Eventで、新型のNexus 7が発表され、その中で以前のモデルがどれだけ売れたかについて紹介されていました。

それを少し検証してみようと思います。まずはGoogle Press EventでのSundar Pichaiの言葉から。

  1. Global Annual Salesで2012年において、おおよそ110 millionのTabletが売れたというデータを紹介しています。
  2. Total Android Tablet Activationsが70 Millionとなったそうです(最新データ)。グラフを読むと、2012年末時点では50 million程度のActivationがあり、2011年末時点では13 million程度のActivationがあったことになります。すなわち2012年の間に行われたActivation数は37 million程度です。Google Nexus 7は2012年の7月に発売されていて、その時点ではので25 million程度。したがってGoogle Nexus 7が発売されてから現在までのActivation数は45 million程度です。
  3. Google Nexus 7は発売以来、Androidタブレットの10%強の販売シェア。
  4. 日本でNexus 7が一番売れた時期があったことが紹介していますが、これはおそらくBCNランキングのデータで、BCNのデータはApple StoreもAmazonも大手電気店も含まないことを知っている日本人はそんなデータは信用できないことがわかっています。

GoogleはNexusの販売台数を一切公開しません。しかしNexusを製造しているAsusはTabletの販売台数を公開しています。そのデータをBenedict Evans氏が分析しています。そして得た結論は、2012年のNexus 7の販売台数は4.5mから4.6mの間で、4.8m以下としています。

同様にBenedict Evans氏はGoogleのスクリーンサイズシェアデータを分析して、Nexus 7のスクリーンサイズが全Androidの1%であることに着眼しています。そのことから[2013年の4月時点で、Nexus 7の使用台数は6.8m](http://ben-evans.com/benedictevans/2013/4/17/nexus-tablet-sales-not-many)であるとしています。

さて最初のSundar Pichai氏がNexus 7の販売台数に言及しているのは「Androidタブレットの10%強のシェア」というところです。Android Tablet全体の販売台数に関する言及は2012年7月以来の45 millionのactivationだけですので、単純に45 millionの10%を取ると2012年7月以来の販売台数は4.5 millionとなります。これはBenedict Evans氏の推測(2012年内で4.8m, 2013年4月で6.8m)を大幅に下回っています。

もしかすると「10%強のシェア」のとき、Sundar Pichai氏は「Androidタブレット」の範疇の中にAmazonのKindle Fireや中国で売られている安いTablet (Google Playに接続できない)を含めていたのかも知れません。そうしないと「10%強のシェア」というのはとても自慢できるような数字ではありません。

そこで北アメリカ限定のデータですが、Chitikaがタブレットのウェブ使用シェアのデータを公開していますので、これを確認します。ここではiPadが全体の84.3%となっていますので、仮にiPad以外のタブレットがすべてAndroidだとして15.7%がAndroidタブレット(Amazon Kindle Fireを含む)のウェブ使用シェアになります。それに対して、Google Nexusは1.2%の使用シェアですので、Google Nexus/Androidタブレット(+ Kindle Fire) = 1.2/15.7 = 7.6%となります。一方Amazonを外すと 1.2/(15.7 – 5.7) = 10.2%となります。この数字が世界の他の地域を代表することはないでしょうが、Sundar Pichai氏の言葉とぴったり合うのは興味深いです。

またIDCの推測によると、3Q12-1Q13でiPad, Amazon以外のタブレット(大部分はAndroid)は62.8 million売れたことになっています。Google Nexus 7がその10%となると6.3 millionになりますのでBenedict Evans氏の数字と合ってきます。

なおAppleは3Q12-1Q13に54 millionのiPadを売っています。Appleのデータは実際に四半期ごとに公開しているデータですので、推測する必要がありません。

まとめ

Nexus 7が2012年7月の発売以来に売れた台数はおそらく6-7millionの間と推測されますが、先日のGoogle Sundar Pichai氏が紹介したactivation数を見る限り、もっと少ない可能性もあります。

おそらくNexusシリーズの中で一番成功したのはNexus 7です。スマートフォンのGalaxy NexusもNexus 4も大して話題になりませんでした、ましてやNexus 10は…。それがこの程度というのはあんまり良い状態ではありません。

Sundar Pichai氏が「Androidタブレットの中で10%今日のシェアを獲得した」をどうして誇らしげに紹介したのか。本来なら隠したくなるような数字ではないか。そのあたりが気になります。

GoogleはやはりAndroidに注力しなくなっているかも知れない

一月弱前に、「Androidの次期バージョン 4.3 から示唆されること」という書き込みで、GoogleがAndroidの開発スピードを落としている可能性に言及しました。

そしてこれが戦略的に意図して行っているものと考えました。その戦略は

  1. Androidが一番魅力的なOSである必要はない
  2. Androidの役割は「まだスマートフォンを買っていないユーザ、高くて買えないユーザを狙う」こと

ただしこれを実行したとしても、Googleが期待する広告収入の増大は簡単ではないと解説しました。

今日、7月24日のGoogleのPress Eventを聞いた後に書かれ、“Understanding Google”と題されたBen Thompson氏の記事を読みました。その中で以下のように彼はこのように述べています。

  1. Google isn’t that interested in phones anymore.
  2. Google is worried about the iPad dominating tablets.
  3. Chromecast is an obvious product.

スマートフォンについては私とほとんど同じ視点です。Androidに残されているのはローエンド機への対応だけです。

タブレットについては確かにGoogleは努力を継続しています。うまくいかないからです。

そしてChromecastのような製品はGoogleが無視できない市場です。Androidスマートフォンの成長ポテンシャルは主に途上国市場ですが、そこからは大きな収益が見込めないからです。Googleは途上国だけでなく先進国でも成長したいのですが、そのためにはスマートフォン以外のデバイスもカバーしないといけません。Chromecastはそういう製品です。

こうやってGoogleのAndroid、Chromeの戦略がはっきりしてきています。Andy Rubin氏がAndroidを担当していたときは戦略の一貫性が感じられませんでしたが、Sundar Pichai氏に代わってからは一貫性があります。

Google自身はこの戦略で問題はないと思うのですが、課題はSamsung、HTC、ソニーなどでしょう。iOSがiOS 7の登場で加速しつつあるいま、GoogleなしでSamsungらはハイエンドでAppleに追いつけるのか。かなり厳しい感じです。

Galaxy S4の標準ブラウザが1年前のChromiumをforkしているかも知れない件

先日、Galaxy S4の標準ブラウザのUser Agent Stringに“Chrome”の文字列が入っているのを知りました。

情報源はたかおファン氏のブログです。

Galaxy S4 (SC-04E)のChromeのUser Agent Stringは

Mozilla/5.0 (Linux; Android 4.2.2; SC-04E Build/JDQ39) AppleWebkit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/27.0.1453.90 Mobile Safari/537.36

そしてGalaxy S4 (SC-04E)の標準ブラウザのUser Agent Stringが

Mozilla/5.0 (Linux; Android 4.2.2; ja-jp; SC-04E Build/JDQ39) AppleWebkit/535.19 (KHTML,like Gecko) Version/1.0 Chrome/18.0.1025.308 Mobile Safari/535.19

参考にGalaxy S3 (SC-06D)の標準ブラウザのUser Agent Stringは

Mozilla 5.0 (Linux; U; Android 4.0.4; ja-jp; SC-06D Build/IMM76D) AppleWebkit/534.30 (KHTML,like Gecko) Version/4.0 Mobile Safari/534.030

さらに標準ブラウザのアドレスバーに“chrome://version/”と入力すると、Chromeに似たバージョン表皮がされるということなので、たかおファン氏はSamsungが独自にChromiumをforkしたのではないかとしています。そうなるとforkしたのはChrome 18 (2012-03-28リリース)。結構古いバージョンで、Chrome for Androidがβ版から抜ける以前のバージョンです。

ことの背景

このあたりの背景については、2013年5月にブログを書きました(英語)。それに補足する形で、背景をまとめました。

  1. “Jelly Bean” (Android 4.1)以降、GoogleはAndroidの標準ブラウザ(いわゆるAndroid stock browser)を外し、Chromeを標準ブラウザとしました。
  2. GoogleはJelly Beanのリリース以降は、Chromeを標準ブラウザとしたとされています。しかし実際にはJelly Bean搭載デバイスであっても、依然としてAndroid stock browserを標準ブラウザとしているものが大半です。Jelly BeanでもOSにはAndroid stock browserのエンジンが搭載されており、web viewを使ったときはChromeではなくAndroid stock browserのエンジンが使用されます。
  3. Android stock browserはオープンソースですが、Chromeはオープンソースではありません。ChromeはAndroid OSには含まれていませんし、Chromeをプレインストールするためには別途Googleとライセンス契約を結ぶ必要があります。Chromeのオープンソース版としてChromiumプロジェクトがあり、Chromeはこれをforkしたものです。

Samsungの判断の背景

SamsungがChromiumをforkしたのならば、それは完全に納得のいくことです。

  1. Samsungとしては単にChromeを搭載するのでは差別化ができません。Samsungは独自の機能をもったブラウザを作りたいと思っています。
  2. 独自のブラウザのベースとしては、a) Android stock browserベースのものを作る、b) Chromiumプロジェクトをベースに作り、c) 独自にWebKitベースのものを作る、が考えられます。Chromeはオープンソースではないので、これをベースにはできません。
  3. 2013年5月時点では、私はSamsungがc)を選択すると予想していました。なぜならTizen OS用ブラウザがHTML5テストで好成績を収めていたからです。TizenブラウザをベースにAndroidに移植するのではないかと予想していました。
  4. 結果的にはSamsungはb)を選択した模様です。

それでこれは良いことなのか困ったことなのか

Android stock browserはバグが多かったり、サポートしていないHTML5, CSS3の機能が多かったりしたので、Androidをサポートする場合にはもともとかなり神経を使いました。Androidは古いバージョンが依然として使われていることも多いので、Androidをサポートする限りは新しい機能があまり使えないと覚悟していました。使うにしても、実機で十分にテストする必要がありました。

今回のSamsung Galaxy S4の標準ブラウザはChromeに似ているとはいえ、バージョンが古いものです。これほど古いバージョンについては、web上で情報を見つけることができません(例えばCan I useにも古いChrome Androidの情報はありません)。しかもテストするには実際にGalaxy S4を使うしかなく、他のデバイスで代用することができません。

Chromeに似ているので、Android stock browserよりはバグが少なく、HTML5やCSS3の機能が使えるだろうと期待はできます。しかしテストが面倒になった分、開発者にしてみればSamsung Galaxy S4の標準ブラウザは迷惑です。

やはり開発者の立場でいえば、総合的にはマイナスと言えるでしょう。

今後

今後もAndroid stock browserの開発が進まなければ、Samsung同様にChromiumをforkするメーカーは出てくるでしょう。どのバージョンをforkするかはそれぞれバラバラになる可能性があり、いろいろなバージョンのChromiumが混在する事態になりかねません。来年ぐらいになれば、ちゃんとwebに情報があるChrome version 27ベースのforkになるので、安定してくると思います。しかし現状では実機でテストしなければわからない状態と言えます。

Chrome version 27以降をベースとしたforkが増えれば、AndroidのHTML5, CSS3は大きく改善します。AndroidのChromeがAndroid 4.0以降でインストール可能とはいえ、実際に使われているケースは圧倒的に少数派です。大部分のユーザはAndroid 4.0以降でも標準ブラウザを使っています。それがChromiumベースになるのはありがたいことです。

まとめると、今後はAndroid stock browserが使われなくなり、Androidのブラウザ フラグメンテーションがますますひどくなります。しかしChromiumの高いバージョンがベースとなっていけば、web開発者としては実用上、負担は軽減されます。

スマートフォン市場が飽和するとどうなるか

昨日、「スマートフォン市場が飽和する予感」という書き込みをしました。

MMD研究所から出た調査結果で『フィーチャーフォンユーザーの63.0%がスマートフォンに必要性を感じていない』となっていたためです。

なお2013年5月時点のフィーチャーフォンユーザは56.7%と推定されています。したがって単純に63.0% x 56.7% = 35.7%と計算すると、携帯電話ユーザの35.7%がスマートフォンの必要性を感じていないということになります。

そうなると 100% – 35.7% = 64.3%ですので、70%あたりでスマートフォンユーザ比率が頭打ちになることが予想されます。

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もちろん単純にそうはならない理由はいくらでもあります。

  1. そもそもフィーチャーフォンが売られなくなる可能性。
  2. スマートフォンの電池の持ちが良くなり、障害とならなくなる可能性。
  3. データ通信をあまり使わない人のための、安いデータプランが登場してくる可能性。

ここでは最終的にスマートフォン比率がどうなるかの議論ではなく、市場が飽和していくことでどのような変化が起こるのか、マーケットシェアがどのように変化していくのかを考えてみたいと思います。

コモディティー化するか

市場が飽和するときに起こる変化として、よく言われるのがコモディティー化です。そしてこれが最終的に価格競争につながっていくという考えがあります。したがって市場が飽和していくと、安い方の製品が売れるようになるというものです。

しかし私が感じるのは、コモディティー化というのは市場の成熟度によって起こるものではなく、早期から既に起こっているということです。

例えば激しい価格競争に見舞われた液晶テレビについては、当初から各社間の差別化は少なく、どこのものを買っても差はありませんでした。これは市場の飽和度によって増減したのではなく、早期からそうでした。

加えて液晶パネルの製造は巨額の設備投資が必要で、一端工場を作ってしまうとなかなか生産量を減らすことができないため、決死の思いで販売数を伸ばそうとするという性質もあります。

一方で一眼レフカメラの世界は市場が飽和していっても、なかなか価格競争に見舞われません。オートフォーカスの時代も、デジタル一眼の時代でも、技術の発展により一定の低価格化は起こりますが、これは製造原価に見合ったものであり、赤字を垂れ流す状態にはなりません。

市場が飽和しても激しい価格競争に陥らない理由は、各社間の差別化がはっきりしていて、どこのものを買っても良いという状態になっていないからです。

例えばパーソナルコンピュータの世界では、1990年代前半まではNECが大きな差別化ができており、海外の安いパーソナルコンピュータが入ってきても日本市場では成功できませんでした。差別化というのは日本語処理能力の高さでした。日本のNEC以外のメーカーも、大きなシェアを取ることができませんでした。

状況が変わったのはDOS/VやWindowsなどの登場で、ハードウェアとソフトウェアの進歩により、海外の安いパーソナルコンピュータでも十分に日本語が扱えるようになりました。そうなるとNECの差別化ポイントは消え失せてしまい、一気に価格競争の波にのまれてしまいました。

こう考えるとスマートフォン市場が飽和したからといってすぐにコモディティー化が起こり、すぐに価格競争が起こるということはありません。あくまでも差別化の有無が重要です。

スマートフォンの場合、Android陣営ではGalaxyが大きな差別化を実現できており(Androidというどこでも使えるOSを使っているにもかかわらず)、またAppleのiOSは完全に独立した世界を気づき上げ、大きな差別化を実現しています。

その一方で、キャリアが製品価格を大きく補填して販売しているため、製品そのものの価格戦略が不可能になっています。

したがって現在のスマートフォンの市場は価格競争を仕掛けることが困難か不可能に近い状態です。

Late Majorityの消費性向

市場が飽和してくると購買者層が変化していきます。Early AdopterやEarly MajorityからLate Majority、Laggardsへのシフトです。飽和が見えてきた現時点ではLate Majorityの消費性向が重要になります。

問題は差別化がはっきりしているスマートフォン市場において、Late Majorityがどのような動きをするかです。特に価格競争が起きていない状況です。

顧客満足度が高く、使いやすいと定評のある製品にLate Majorityが流れるのは必然ではないでしょうか。Early Majorityなら冒険心のある顧客が多かったと思いますが、Late Majorityではそういう人はもういません。