Androidがあまりにも高いスペックが必要で、ローエンドマシンに向かないという話

昨日もFirefox OS関連のブログを書き、その中でAndroid 4.0があまりにも高いスペック(iOS 6を越える)を必要としていることについて紹介しました。その関連で、以下の記事を見つけましたので紹介します。

tsuchitani氏による「【メモリ256MB】この軽さが実現するとは…Firefox OSが示すスマートフォンOSの新機軸」

Androidは元々組み込み機器で広く用いられているARMやMIPS、そしてパソコンで用いられているx86、と異なった命令セットを備えた機種で同じアプリが動作するように、Dalvik VMという仮想マシンをOS本体に内蔵し、その上で様々なアプリを動作させる一方で、それぞれのハードウェアに搭載されているCPUの命令セットを直接実行して高速動作するアプリも許容するなど、込み入った構造になっていて、しかもOSの進化の過程で様々な新機能や、アプリが新しい機能を利用可能とするための新APIを追加するなど、元々複雑なOS構造をさらに複雑化させるような方向で機能強化が進められてきた結果、高機能化の代償として必要となるメモリ容量はOSのバージョンアップの度にどんどん増大してきました。

Android搭載スマートフォンの場合、搭載されるメインメモリ(RAM)はバージョン1.xで256メガバイト、バージョン2.xで512メガバイト、バージョン4.0.xで1ギガバイト、バージョン4.1/4.2で2ギガバイトといったところで、事実上バージョン4.x搭載端末のみとなっている現行製品では、1ギガバイトあるいは2ギガバイト搭載(※ごく一部に継続販売中の製品でバージョン2.3搭載でメモリ512メガバイト搭載の機種が残っています)となっています。
つまり、Android バージョン1.x搭載の現行製品がまず「ありえない」現状では、端末に搭載されるRAMはどんなに削ってもバージョン2.x搭載端末で512メガバイト、バージョン4.0.xへのバージョンアップを考慮すると、せめて1ギガバイトは欲しい、ということになります。

そんなわけで、メモリ容量削減は結構スマートフォンの端末価格低減に「効く」のですが、既に記してきたように、最新版のAndroidが今更512メガバイトやそこらのメモリで動作するようになるとも思えず、512メガバイトのRAMで済ませるには「Androidではない」、RAM容量を余計に消費しない他のOSが必要になります。

画面の解像度を下げても、プロセッサグレードを下げても、OSそのものの稼動に必要なメモリ容量はそれほど変わるわけではありませんから、わずか256メガバイトのメインメモリでHTML 5対応Webブラウザまで動いてしまうこのFirefox OSは、本当にコンパクトにできていることがわかります。

未だ世界中で膨大な数の端末が稼動し続けているフィーチャーフォンを完全駆逐するとしたら、それはこのOSを搭載する端末になるのかも知れません。

結論としては私が昨日書いたブログと同じです。

Androidは進化の方向を間違えたのか?

以上のように、私は発展途上国でAndroidが下火になり、一気にFirefox OSやTizenが盛り上がってくると予想しています。もし本当にそうなったとき、Androidはなぜ失敗したのかという問題が当然ながら気になります。ずいぶん気が早いのですが、Androidの問題点は現時点で既に見えてきていますので、これについて考えたいと思います。

Java VM (Dalvik VM)という選択の誤り

AndroidはJava VM、正確には亜流のDalvik VMの上で動作します。JavaのJITコンパイラの性能が向上し、スピード的にはCで書いたプログラムに匹敵するようになったという議論はありますが、多くの場合これはRAMの使用量を犠牲になり立っている話です。確かにJava VMのJITコンパイラは高速です。しかしそれを実現するために、Cで書いたプログラムよりも遙かに多くのRAMを消費してしまいます。

携帯電話のようにハードウェアリソースが非常に制限されている状況では、Java VMという選択はある程度スペックを犠牲にしてもよいというものです。AndroidがそもそもJava VMという選択を採ったのは、その前に携帯電話の開発言語としてJava MEが使われていたことの名残だとも言えます。またハードウェアメーカーではないGoogleとしては、様々なCPUでも動作する開発環境が必要だったのかも知れません。いずれにしてもJava VMという選択はスペックを犠牲にしても良いという判断の上に成り立っていたと想像されます。

それではどうしてスペックを犠牲にしても良いという判断をしたのか?それはiPhoneを想定していなかったからです。OracleとGoogleのJavaに関する法廷闘争の中で、Androidの初期プロトタイプが公開されました。このプロトタイプは2006年のもので、iPhoneではなく、当時はやっていたBlackBerry様のデザインです。このことからわかるのは、Androidは2006年まではグラフィックス処理などをあまり必要としないBlackberry様のデバイスを想定していて、そのためならば処理能力は犠牲にしても良い判断したのだろうと思われます。

iPhoneは最初からグラフィックスをふんだんに使い、マルチタッチのUIを想定して開発されました。そのためには高い計算処理能力が必要と最初から考え、最適化された開発環境(Objective-C)を用意しました。

その一方でAndroidはガラケー並みの処理能力しか必要としないUIを想定して開発されました。一方で数多くのメーカーに採用してもらう必要がありました。そこで高い処理能力よりも移植性の高さを優先し、Java VMを採用したと思われます。

このようにAndroidがJava VMを採用した判断は、現在のスマートフォンを全く想定していない頃のものであり、今では足かせになっている感じがあります。

iPhoneと戦うことの誤り

Androidは完全にiPhoneに追いつき追い越せとやってきています。何とかiPhoneと同等のUIを手に入れたい、何とかiPhoneと同等の動作の滑らかさを手に入れたい、何とかiPhoneと同じ数だけのアプリをそろえたい、と完全にiPhoneを追いかけています。

そのためにローエンドに向けた製品を用意していません。Androidが低スペックデバイスで動作するようにはしていません。ローエンド市場は古いバージョンのAndroidでカバーするという状況になっています。

戦略としてこれは正しかったのでしょうか?

ポイントは

  1. iPhoneに果たして勝てるのか?本当にトップのブランドになれるのか?トップブランドになるのと2番手ブランドになるのとでは大きな違いがあります。業界をリードするトップブランドだけが本当のブランド力を手にすることは珍しくありません。Androidでそこまで勝ち切れるか、まだまだかなり疑問があります。
  2. ローエンド市場をガラ空きにしてしまっているのは大丈夫か?Androidのマーケットシェアが高いのは、かなりの部分ローエンド市場のおかげです。しかしそれをいつまでも古いバージョンのAndroidでカバーするのは危険です。
  3. ガラ空きにしてしまっているローエンド市場でAndroidがFirefox OSやTizenに負け始めるようなことがあるとどうなるでしょうか?

ここ1−2年のシナリオとして、Androidにとって最悪のシナリオはこうです。トップブランドでiPhoneに勝ちきれず、その一方でローエンド市場でFirefox OSやTizenが成功を収めはじめるシナリオです。そうなるとAndroidは中途半端な立場になってしまいます。おそらくは引き続きiPhoneに勝とうとハイエンド市場での勝負を仕掛けると思いますが、そうなるとAndroidをこれまで支えてきたローエンド市場を完全に失ってしまう危険性があります。

Clayton Christensen氏のInnovator’s Dilemma風に考えれば、上記の状況が続いているうちにFirefox OSやTizenの機能が増えて、アプリも増えてきて、そしてローエンドだけでなくハイエンドを伺うだけの能力を身につけてくるでしょう。Androidがこの時点でトップブランドになっていなければ、行き場を失います。

「ソニーも新OSスマホ 新興国向け」という記事を受けて

朝日新聞に「ソニーも新OSスマホ 新興国向け、14年発売目指す」という記事が出ました。

興味があるのは、メーカーがFirefox OSをどのようにとらえ、どのように活用しようとしているかです。

携帯のOSは現在、米アップルの「iOS」と米グーグルの「アンドロイド」が主流。ソニーはアンドロイドを使っているが、グーグルが求める仕様を満たす端末をつくるのに開発コストがかさむことがあるとされる。

まだFirefox OSの全容、特に低スペックデバイスでの動作について詳しく紹介した記事がネットに出てこないのではっきりはわかりませんが、先日のKDDIの石川雄三氏の発言と合わせると、ある程度特徴が見えてきます。

  1. 低スペックのデバイスで動作すること: これはおそらく低速のCPU (1GHzシングルコア)や512MB以下のRAMでしっかり動作することを指しているのでしょう。Android 4.0以降はRAMは1GByteが事実上の最低スペックになっており、かなり高スペックが要求されているのは事実です。
  2. バックグラウンドでのネットワーク使用が制限できる: これについては詳細はわかりませんが、KDDIの石川氏が明確に述べているので、事実でしょう。かなり興味深いスペックです。

Android 4.0以上はかなりの高スペックを要求するOS

Androidが要求するスペックがどれぐらい高いかについて考えてみます。

Androidの最新機種はクワッドコアの1.7GHzのCPUを使用しており、iPhone 5のデュアルコア 1.0-1.3GHz CPUと比較してかなり強力になっています。またAndroid 4.0へのアップグレードが提供された機種はいずれもCPUがシングルコア1GHz超(大部分はデュアルコア)、RAMが1GHzであり、RAM 512MBのものは容量不足のためアップグレードされなかったという記載があります。

それに対してiOSの場合は、2009年に発売されたiPhone 3GSもiOS6を搭載できますが、CPUは600MHz, RAMはわずか256MBです。iPhone 3GSはiOS5でのベンチマークが良好であり、おそらくiOS6になっても十分な性能が出ていると思われます(簡単なレビュー)。Appleがまだ好調に売っているiPhone 4もRAMは512MB, CPUは800MHzで、ハードウェアだけ見るとAndroid 4.0が乗らないぐらいのスペックです。

このようにAndroidはiOSと比べて高いハードウェアスペックを要求する傾向があり、低スペックマシンで最新のAndroidを動かすことは不可のな状況です。

発展途上国のスマートフォンのスペックは?

例えばブラジルでは”iPhone”の商標はAppleではなくGradiente社が持っていますが、そのGradiente社が発売する“Smartphone linha G Gradiente iphone, modelo Neo One GC 500” ($291)の性能を見てみましょう。

  1. CPU: 700MHz シングルコア
  2. OS: Android 2.3.4 Gingerbread
  3. 320 x 480 pixels
  4. タッチスクリーンはあるものの、マルチタッチはできない

相当な低スペックです。

Androidでは発展途上国のスマートフォン需要をカバーできない

はっきりしています。Android OSが今向かっているのはiPhoneとハイエンドを争うという戦略であり、発展途上国でAndroidが使われているのは主として古いGingerbread (2.3)やFroyo (2.2)の機種です。Android 4.0が無料のオープンソースであるにもかかわらずこれが使われていないのは、要求ハードウェアスペックが高すぎるからです。

低スペックのスマートフォン用でしっかりサポートされたOSが無いというのが現状です。Androidはここを全くカバーしようと考えていないのです。

ということでFirefox OSは発展途上国で成功するか

Google Androidが発展途上国の市場を半ば放棄している(古いOSでカバーしようとしている)状況を考えれば、Firefox OSもしくはSamsungのTizen OSが発展途上国でかなりの成功を収めるのは必至です。実は発展途上国のパソコンのOSがずっとWindows XPで、無料のLinuxがあってもそれに切り替わらないという状況がありますが、スマートフォンに関してはメーカーとキャリアがかなり本気です。パソコンOSのようにはならないでしょう。

Firefox OSは本当に途上国向けか?

Firefox OSが破壊的イノベーションの要素を持っていることを昨日、本ブログに書きました。その続きとしていくつかの点をもう少し考えたいと思います。

Firefox OSは先進国でも登場する

Firefox OSのレビューを眺めていると、ほとんどのものは発展途上国ではある程度成功するものの、先進国では無理だろうと結論しています。つまり価格が安く、スペックが低いスマートフォンが要求される国ではFirefox OSは売れる可能性があるものの、消費者が高機能なスマートフォンに慣れてしまった先進国では無理だろうという結論です。

本当にそうでしょうか。

Firefox OSのローンチ計画を見てみると、数多くのキャリアが名前を連ねています。しかし日本の状況と異なり、ここにあげられているキャリアの大部分は国際的に事業を展開しています。そして少なくとも一部には発展途上国での事業です。したがってこれらのキャリアを眺めているだけでは、先進国にFirefox OSを投入する予定なのか、それとも途上国に限定して投入する予定なのかがわかりません。しかし日本のKDDI、韓国のKTは自国に限っているようですので、少なくとも先進国用にFirefox OSの導入を計画しているキャリアがあることは間違いありません。

確かにMobile World Congressでも発表されたように、最初のうちはブラジル、コロンビア、ハンガリー、メキシコ、モンテネグロ、ポーランド、セルビア、スペイン、ベネズエラなど、比較的所得が少ない国からの販売開始になります。しかしそういう国に限定される訳ではなさそうです。

先進国の携帯電話事業ではハイエンドとローエンドの区別が普通と異なる

通常の市場であれば、ハイエンド機種というのは顧客が高い金額を支払って入手するもので有り、ローエンド機種というのは安い金額で入手できるものを指します。しかし携帯電話事業ではスマートフォン本体の代金はかなり多くの部分をキャリアが負担し、月々の通信料で補っていく形を採っています。そのため、日本ではハイエンドのiPhone 5ですら「実質0円」で手に入ります。ハイエンドが「0円」ということは、ローエンド市場がほぼ存在しないということです。「0円」より安く売ることは、不可能では無いものの、定常的にはやりにくいからです。

そもそもどうしてここまでキャリアが頑張って値引き合戦をするかというと、顧客が支払う固定データプランの料金が、のどが出るほど利益が出て、欲しいからです。これについてはAsymcoのHorace Dediuが詳しく述べています。彼の結論は「iPhoneはネットワークサービスを販売する、超優秀なセールスマン」です。iPhoneを販売していないDoCoMoからMNPで顧客が大量に流出している点を見ても、これは納得がいきます。

iPhoneを高給取りの「ネットワークサービスの一流セールスマン」として考えると、携帯事業のローエンド製品というのは、「ネットワークサービスの凡庸なセールスマン」ということになります。

さて凡庸なセールスマンに期待される仕事はなんでしょうか?私は以下のことではないかと思っています。

それは高い固定データプランを支払うプレミアムな上客ではなく、通信料だけを払っていて、顧客単価が安いフィーチャーフォンユーザを対象とすること。そしてこのようなユーザを引き留め、場合によっては他キャリアから奪うこと。

つまり先進国のスマートフォンにおいては、ハイエンド機種とローエンド機種の違いは本体の性能の優劣の問題ではありません。ハイエンド機種は高額な固定データプランを必要とするもの。そしてローエンド機種は低価格のデータプラン、もしくはデータプラン無しで使えるものを指すと言えます。

問題はAndroidのどの機種も高額な固定データプランを必要とし、ローエンドを攻めることができなかった点です。それに対してFirefox OSはデータ使用についてかなり気を使って設計されているようですし、カスタマイズの自由度がAndroidよりも上ですので、ローエンドに最適の製品が用意できる可能性があります。

Firefox OSのおかげで、キャリアはやっとスマートフォンをローエンド市場に投入できるようになります。

Firefox OSが先進国で成功するための要件

  1. Firefox OSがローエンドを攻めること。ここで言うローエンドとは、機種本体の機能のことではなく、高額な固定データプランを必要としないという意味です。
  2. ローエンドを攻めつつも、フィーチャーフォンユーザの限定されたニーズには応えられること。これは携帯メールが見られさえすれば、十分に満たされます。例えば3GもしくはLTEの時はメールしかできず、ブラウザやアプリからはネットに接続できないようにすれば可能に思えます。WiFiに接続したときには何でもネットに接続できるように自動切り替えすれば十分です。
  3. Android, iPhoneが対抗策を打たないこと。非固定データプランに適したOSがGoogleからもAppleからも出てこないという意味です。 4. 固定データプランの料金が著しく低下しないこと。固定データプランが千円レベルに安くなると、顧客からすればこれを節約する意義がなくなってきます。

果たしてKDDIがどのような機能をもったFirefox OS携帯を開発するか、非常に楽しみです。

AndroidやiPhoneの先行者利益は大きくない

ローエンド市場を攻めている限り、先行者利益は大きな問題になりません。確かにFirefox OSはAndroidやiPhoneに比べればアプリが少ないでしょうし、アプリを開発してくれないところも多数あるかも知れません。

しかしゲームアプリやマルチメディアアプリを除けば、大部分のアプリはウェブで代用できます。例えばFacebookのモバイルウェブサイトを使えば、iPhoneやAndroidのアプリとほぼ同等に使えます。CookPadなども同様です。そもそもローエンド市場の顧客はアプリにあまり興味を示さない可能性が高いのです。

最大の難関はなんだかんだ言ってキャリア

先進国の携帯電話事業では最終的にはキャリアが端末を販売します。キャリアが本体価格を値引きするからです。そのキャリアが本気で売ってくれるか否かで、製品の売れ行きは大きく影響されます。Firefox OSも結局はKDDIが本気で売るかどうかにかかっています。

例えば店員が「Firefox OSよりはAndroidの方がアプリが多くて安心ですよ」と言うのか、それとも「ウェブを使えばアプリはいらなくなりますよ。ですからFirefox OSで十分ですよ」と言うのか。ローエンド顧客はスマートフォンの技術や業界のことをあまり知らない人が多いので、店員の言葉は非常に重たいです。そして店員はキャリアに雇用されていたり、キャリアからコミッションをもらったりしていますので、彼らの態度はキャリアの戦略によって大方決まります。

いろいろな判断があるので、KDDIなどがこの点どう出てくるかは読めません。でもここは非常に重要です。KDDIに限って言えば、かなりやってくるような気がします。

Firefox OSって破壊的イノベーションになるかもと思う理由

イノベーション論の第一人者のClayton Christensen氏はイノベーションをひとくくりだ考えるのではなく、破壊的なイノベーション(disruptive innovation)と持続的なイノベーション(sustaining innovation)と分けて考えています。そして破壊的イノベーションは市場の構造をひっくり返す力を持ったもの、持続的イノベーションは市場の覇者がそのまま力を保ち続けるものと位置づけています。

さてMozilla Foundationが新たに開発したFirefox OSですが、これはかなり破壊的イノベーションの要件を満たしているような気がします。私自身はFirefox OSを触ったわけではないのですが、特にKDDI取締役執行役員専務の石川雄三氏のコメントを参考に考えてみたいと思います。

破壊的イノベーションはローエンドから入る

Wikipediaの記事にも書いてあるとおり、破壊的イノベーションはローエンド、つまり既存製品に比べて機能が不十分な状態で市場に入ってきます。

破壊的技術とは、従来の価値基準の下では従来製品よりも性能を低下させるが、新しい異なる価値基準のもとでいくつかの優れた特長を持つ新技術のことである。いくつかの優れた特長は低価格・シンプル・使い勝手のよさなどであることが多い。破壊的技術は優れた特長を有しながらも従来の価値基準では性能的に劣るので主流市場では地位を得られない。かわりに破壊的技術の優れた特長を高く評価する、小規模で新しい市場を創出することになる。

そしてローエンドで市場に参入するため、既存のメーカーにとっては魅力の少ない市場セグメントから入ります。そのため既存のメーカーが強力に対抗することをせず、そのままに放置してしまうのです。

さてFirefox OSの発表を受けて、Androidのリーダーとして知られるAndy Rubin氏の反応はどうだったでしょうか。

In general, I feel friendly toward them. … open is good.
There are places where Android can’t go,” he said, referring to memory and other hardware requirements. Firefox can help reach those. “For certain markets, it makes sense.

特に注目するべきなのは”There are places where Android can’t go”です。Androidの場合は高いハードウェアスペックが要求されるため、安価なハードウェアでは十分に動作できず、ローエンドの市場ではAndroidは使えないと彼自身が述べています。

つまりFirefox OSはローエンド市場にとって魅力のある製品であり、なおかつAndroidは(このままだったら)このローエンド市場に入り込む予定がなさそうです。

完璧に破壊的イノベーションの要件、a) ローエンド市場から入ること、b) 既存のプレイヤーが危機を感じていないこと、が満たされています。

Jobs to be doneの発想

上記のWikipediaの記事の引用の中に「新しい異なる価値基準のもとでいくつかの優れた特長を持つ新技術」という言葉があります。この新しい異なる価値基準とは何かが問題です。Clayton Christensenはこれを見つけ出すための考え方として“Jobs to be done”を主張しています。

“Jobs to be done”の発想では、製品の特徴を考えるのではなく、顧客が何をしたいのかを深く理解することが基本です。

例えばAndroidの場合、画面の大型化、CPUの高速化に向かって進化して行っています。またGoogle Nowなどはスマートフォンが知っている様々な個人情報を総合して、主体的に利用者に情報を提供します(例えば「3:00の予定に間に合うためには、そろそろ家を出ないと間に合いませんよ」)。問題はこれらの機能が”Jobs to be done”に合致しているかどうかです。顧客(特にローエンドの顧客)がこのような機能を必要としているのかどうかが問題です。

Firefox OSの場合、KDDIの石川氏によると以下の特徴があるようです。

  1. 今回発表された端末はシングルコア
  2. アーキテクチャーの観点では省電力性が高い
  3. バックグラウンド通信が少ないことから、現在のような半従量課金(上限を設定した定額料金)の“縛り”はなくなるかもしれない

一方で、未だにスマートフォンを購入せず、フィーチャーフォンのままで良いという人の意見は以下のようになっています。

料金の高さや、とっつきにくさでスマホを敬遠している人も多い。また携帯電話を長時間使う記者や営業マンには充電がすぐ切れてしまわないようフィーチャーフォンに戻す例も頻発する。

Firefox OSのコンセプトが、このような利用者のニーズに完璧にマッチしていることがわかります。そのままでもかなり”jobs to be done”に近いし、またFirefox OSはカスタマイズ性が高いので、「簡単携帯」などの開発を通してより一層”jobs to be done”に合致させることも可能です。

本当にFirefox OSは破壊的イノベーションになるのか

本当に破壊的イノベーションになるかならないかはかなりの部分、既存のマーケットリーダーの行動にかかっています。つまりAndroidが本気で対抗するかどうかです。そしてGoogleはAndroidの開発はするものの、実際の製造はしないので、対抗するかどうかはSamsungなどにかかっています。

そのSamsungはローエンド機にはTizen OSを使っていく予定です。Androidはハイエンドで使い続けるものの、ローエンドではTizenです。したがってSamsungはAndroidをFirefox OSの対抗とは考えていません。

そうなるとFirefox OSは(Tizenとともに)ローエンド市場を易々と奪っていく可能性があります。Googleが仮に危機を感じたとしても、メーカーではない以上、有効な対抗策が打てません。Googleが唯一できるのは、今のうちからローエンド機用のAndroidを別途開発することです。つまりローエンド用とハイエンド用のAndroidを別個に用意することです。でもただでさえフラグメンテーション問題が直面しているGoogleがこのような策に出るとは思えません。

そうこうしているうちにFirefox OSも進化して、いつの間にかハイエンドでも通用するようになるというのがChristensen氏が描く破壊的イノベーションのシナリオです。

iPhoneは?

上記ではiPhoneの話をしませんでした。なぜかというとiPhoneは最初からハイエンドをターゲットしており、仮にローエンド市場にFirefox OSが入ってきてもAndroidほどにはダメージを受けないからです。そしてiPhone自身も、Androidとは違って、実はずっと消費電力や通信量の問題に正面から取り組んでいたからです。iPhoneのハードウェアスペックがAndroidよりも常に低いのはこのためです。Androidほど高いスペックが必要ないので、その分を低消費電力に回しているのです。さらにAppleはハイエンド市場を独占するためのイノベーションを非常に得意としています。

またAppleはハードの販売をしていて、端末のすべてをコントロールができるので、幅広い対抗策が打てます。

したがってiPhoneはFirefox OSの参入によってダメージを受ける可能性がありますが、まず最初にやられるのはAndroidです。iPhoneが影響を受けるとすればしばらくあとになりますが、一方でAppleは様々に対抗することもできます。

追記

同じようなことをPeter Judge氏が2012年の9月に書いていたのが見つかりました。データが無いので確認できませんが、Firefox OSが低スペックのマシンでも快適に動作することが書いてあります。そしてやはり面白いことにiPhoneのことはほとんど触れず、対Androidの論点が多いです。

Samsung Apps StoreとGoogleばなれ

Androidのバリューチェーンの中でSamsungがどんどんと力を付け、Googleよりも力を付けつつある点について何回かブログをしました (1, 2)。またAndroidで儲かっているのはSamsung1社という状態になっているため、他のメーカーもGoogleに頼らない、Androidに頼らないマーケティング戦略を打ち出さざるを得ない状況も生まれています(3)。

Samsung Appsのキャンペーン

どうやらこの動きは加速しているようです。

Samsungはモバイル用ゲームを作っているElectronic ArtsのChillingo部と提携し、“100% Indie”というキャンペーンを開始するそうです。

以下抜粋

“100% Indie” allows developers to tap into the phenomenal growth that Samsung is experiencing. – See more at: http://news.ea.com/press-release/mobile-and-social/chillingo-and-samsungs-100-indie-developer-program-offers-best-reven#sthash.S9vu3ir6.dpuf

Developers will receive 100% revenue from March 4, 2013 – September 3, 2013, 90% revenue share from September 4, 2013 – March 3, 2014, 80% revenue share from March 4, 2014 – March 3, 2015, and after March 4, 2015 on Samsung Apps, developers will receive 70% revenue share.

Kevin Tofel氏が解説していますが、Google PlayやAmazonのAppstoreでは開発者は売り上げの70%を手にします。しかし100% Indieのキャンペーンでは、まず最初の6ヶ月間は売り上げの100%が開発者に行きます。そして6ヶ月ごとにこの比率は10%ずつ下がり、2015年の3月からはGoogleやAmazonと同様の売り上げの70%になります。ゲームに限定されているようですが、新しいゲームに限定されているという記載はなく、既にGoogle Playなどで販売されているゲームでも大丈夫そうです。

目的は明白で、Samsung Appsの開発者向けプロモーションです。つまりGoogle PlayやAmazonのAppstoreでソフトを販売するよりも、Samsung Appsで売った方が儲かりますよと開発者に持ちかけ、開発者がSamsung Appsでの販売を選択するようにさせたいのです。

Kevin Tofel氏が指摘するように、Gartner Researchの調査結果によるとAndroidスマートフォンの実に42.5%がSamsung製です。Androidタブレットの世界でも、45%がSamsung製だとするデータもあります。つまりSamsung Appsの潜在的なリーチはGoogle Playには及ばないものの、脅威を与えるのに十分です。

Samsungが仕掛けられる展開

Samsungの戦略はわかりませんが、Androidの世界での圧倒的なシェアを活かせばいろいろなことができます。

  1. Google Playよりも安い値段でアプリを販売。これはAmazonと同じ戦略ですが、Amazonはタブレットしか販売していないので、マーケットがまだ小さいです。同じことをSamsungスマートフォンでやればGoogle Playばなれは加速します。
  2. 開発者の優遇。Google Playは売値の70%を開発者に還元しています。Samsung Appsは100% Indieキャンペーンでは期間限定で還元率を高くしていますが、同じような戦略を拡大することができます。

Samsungはスマートフォンで莫大な利益を得ており、Samsungのモバイル事業だけでもGoogleの全事業より儲かっています。またSamsungの携帯電話の売り上げはAmazon全体の売り上げをしのいでいます(Amazonは超薄利多売のため、ほとんど利益がありません)。Samsung Appsで仮に赤字になったとしても、その分スマートフォンが売れるのであれば、赤字分は容易に回収できます。

もしSamsungがSamsung Appsを積極的に展開し、開発者優遇策を通して独占的なタイトルを集め、かつ売値をGoogle Playよりも低くすれば、Google PlayもAmazon Appstoreも窮地に立たされます。GoogleもAmazonも自らのマージンを減らすことで対抗しようとするでしょうが、Samsungのような強力な赤字回収メカニズムがないので、まともに戦えません。

Googleが怖がっているのはもっともなことです。

戦略的な話をすると

より高いレベルの戦略論で言えば、

  1. GoogleもAmazonもハードおよびOSに対する戦略は同じです。つまりハードウェアおよびOSをコモディティー化し、誰でも入手できるようにします。そしてネット広告もしくはネットでのコンテンツ販売で儲けるという戦略です。
  2. しかしGoogleやAmazonの戦略とは裏腹に、ハードウェア、OS、販売チャンネル、マーケティングの力がバリューチェーンで最大の位置を占める展開となり、それに強いAppleとSamsungだけが勝っています。
  3. 一方でコンテンツ販売に関しては、AmazonにしてもGoogleにしても優位性が出せていません。物流が重要な世界と異なり、デジタルコンテンツの販売ではAmazonですら優位性がなく、参入障壁が低くなっています。むしろハードで勝っているところがデジタルコンテンツ販売でも勝つという展開になる可能性があります。
  4. なぜそうなるかというと、スマートフォンもタブレットもまだ”Good Enough”に達していないからです。Appleが新製品のiPhoneを出したり、Samsungが新しいGalaxyを出せば飛ぶように売れます。まだまだ顧客は新しくて高機能なハードを求めているのです。これが逆に「もう古いやつでいいや」となればハードがコモディティー化していきます。
  5. ハードやOSでの差別化がバリューチェーンで大きな位置を占める限り、GoogleやAmazonが優位に立つのは難しくなります。

GoogleもAmazonも戦術レベルではなく、戦略のレベルで苦戦しており、なかなか出口が見えません。大きな転換がない限り、Apple, Samsungの優位は続くと予想され、かりにHTCが復活しても2強が3強になるだけで、Googleにとってはますます頭痛の種が増えるでしょう。

Google社内でSamsungの強さを危惧している?

タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状という書き込みをしたばかりですが、The Wall Street Journalに“Samsung Sparks Anxiety at Google”という記事が掲載されましたので紹介します。

Google executives worry that Samsung has become so big—the South Korean company sells about 40% of the gadgets that use Google’s Android software—that it could flex its muscle to renegotiate their arrangement and eat into Google’s lucrative mobile-ad business, people familiar with the matter said.

But Mr. Rubin also said Samsung could become a threat if it gains more ground among mobile-device makers that use Android, the person said. Mr. Rubin said Google’s recent acquisition of Motorola Mobility, which makes Android-based smartphones and tablets, served as a kind of insurance policy against a manufacturer such as Samsung gaining too much power over Android, the person said.

Several people familiar with the relationship between the companies said Google fears that Samsung will demand a greater share of the online-advertising revenue that Google generates from its Web-search engine.

Samsung in the past has received more than 10% of such revenue, one of the people said. Samsung has signaled to Google that it might want more, especially as Google begins to produce more revenue from apps such as Google Maps and YouTube, another person familiar with the matter said.

Samsungが具体的にどのような要求をAndroidに押しつけてくるかはまだ見えてきていません。しかし特にGalaxy Noteシリーズではマルチウィンドウやスタイラスなどの独自機能をかなり前面に出しており、Google
が提供するAndroidだけではタブレット市場で勝つには不十分だと考えていることが強く示唆されています。

FireFox OSも予想以上にメーカーやキャリアからの協力を取り付けている印象で、思いの外にAndroidに対するメーカー、キャリアの不満があるのではないかという気もします。2013年はその姿が少しずつ見えてきそうな気配があります。

大切なことは、マーケットシェア的にはAndroidとiOSが市場を二分しているとはいえ、新規参入の余地がまだあるということです。新規参入の余地は、既存の製品に顧客がどれぐらいの不満を持っているかによって決まるのであって、マーケットシェアによるのではありません。スマートフォンの場合、キャリアは通信料の増大に不満を持っているし、ユーザは電池の持ちに大きな不満があります。両者ともに、今までよりも良いものを求めています。SamsungがGalaxy Sを売り出してスマートフォンのシェア拡大を開始したのはまだ2年ちょっと前です。まだまだいろいろなことが変化し得ます。

タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状

iPadが圧倒的に強いタブレット市場において、それでも徐々にAndroid陣営は勢力を伸ばしつつあります。とはいえ、状況はGoogleにとってかなりまずいように思えます。なぜならAndroidを前面に出して売れている気配が全くありません。

iOS vs. Android

という構図ではなく、

Apple vs. Amazon

もしくは

Apple vs. Samsung

という状況になっています。テクノロジーブロガーはGoogleに注目しています。しかし実際の販売状況および利用状況を見る限り、Googleは「蚊帳の外」感すら漂っています。

以下データを見ていきます。

Millennial Mediaというモバイルの広告事業を展開している会社が発表したデータをまず紹介します(Apple Insider経由)。ここで見ている数字は広告がどれぐらい多く閲覧されたかを示すもので、広告はアプリなどに埋め込まれて表示されます。

まずはスマートフォンを含むデータ。Appleが2012年にシェアを25.36%から31.20%に伸ばしている結果となっています。Samsungも同様に16.80%から22.32%に伸ばしています。

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タブレットに限ったのが以下のデータです。Androidがシェアの41%を握るまでに成長しているものの、その原動力は圧倒的にSamsungによるものであり、次いでAmazonとなっています。GoogleがブランディングしているNexus 7はAsusのシェアに含まれていますが、Androidのうちのわずか5%です。

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AmazonのKindle Fireは、OSとしてはGoogleのAndroidを使っていますが、激しくカスタマイズされていてAndroidの存在感を消しています。それどころか、メーカー保証を損なうような改造を行わない限りGoogle PlayストアなどのGoogleのサービスを利用することができなくなっています。

SamsungはAndroidをそこまで改造しておらず、普通のGoogle Playを使うことができます。しかしスマートフォンでもタブレットでも圧倒的に強いSamsungはAndroidを脅かす動きが顕著に出てきています。独自のモバイル用OS Tizenを2013年中に発表予定していることもそうですが、スタイラスによるペン入力やマルチウィンドウの独自ソフトを組み込んで、Samsungだけの機能を強化しようとしている点も見逃せません。

Nexus 7はアメリカでの発売が7月で販売期間が短いという問題がありますが、機能の割には圧倒的に安い価格で提供していて、なおかつ評論家の間では非常に好評だったにもかかわらず、Samsungの遙か後方に位置しています。販売チャンネルをしっかり管理しているSamsung、独自の強力な販売チャンネルを持っているAmazonとの差がくっきり出ているように感じます。

なお同じような結果は同業者のChitikaからも発表されています。Chitikaのデータの違いは2ヶ月ごとに更新されている点で、そのため年末商戦に強いAmazonのシェアが高くなっています。

Chitika January Tablet Graphs 1 2

推察

GoogleはAndroid OS自身からは利益を取らず、Android OSを使っている利用者からの広告収入やオンラインストアで利益を得ようとしています。そのためにはAndroidがどう使われているかをある程度コントロールする必要があります。

しかしAmazonのKindle FireユーザはAmazonのオンラインストアに囲い込まれているため、Googleのストアが入り込むことができません。Kindle FireのブラウザもAmazon製ですので、Googleがコントロールできません。

SamsungはGoogleを排除していません。しかしGoogleのタブレット戦略はNexus 7後もほぼSamsung1社に依存しています。力関係は圧倒的にSamsungに傾いています。特筆するべきは、ちゃんと粗利を稼げるAndroidタブレットはSamsungしか作れていない点です。

Androidはタブレットのシェアを伸ばしました。しかしその犠牲として、Googleは市場をコントロールする力を失いました。価格崩壊も起きていて、混沌としています。2013年がどうなるか、予測不能です。

Androidばなれ

以前にSamsungがDoCoMoとTizen搭載スマートフォンを販売するという話に関連して、Android搭載スマートフォンが売れているのはGoogleの製品開発のおかげではなく、むしろSamsungのマーケティングに起因する可能性が高いこと、そして既にSamsungの方がGoogleよりも強い立場になってきているかもしれないという話をしました。

実はHTCも同じ考え方をしているかも知れないという情報が出てきました。

これは何かというと、HTC Oneの製品発表会でAndroidのことが一切語られなかったという話です。もちろんAndroidは搭載しているのですが、Androidに言及することはマーケティング上なんの利益にもならず、むしろ害があると判断したようです。

2013年はSamsung以外のAndroidメーカーが利益を確保しようと、あの手この手を使ってくるはずです。その中でAndroidのことを敢えて語らないというやり方は他のメーカーも採用するでしょう。

タブレット市場ってどうなっているんだろうについて

IDCが10-12月の世界タブレット市場調査を発表していて、前年同期比75.3%の5250万台がメーカーから出荷されたというデータを出しています。ここまでは納得なのですが、意外なデータがたくさんありますので、これについて解説しながら、タブレットの市場の真の姿について考察してみたいと思います。

データは下のグラフの通りです。

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私が見ているポイントは以下の通り;

  1. SamsungがAppleについでシェアを獲得しています。なおかつ堅調にシェアを拡大しているのはSamsungだけです。しかしSamsungはこれといった話題になるようなタブレット製品を発表しておらず、どちらかというと注目されていません。Samsungが発表した話題商品はGalaxy Noteですが、これがタブレット出荷台数に入っている様子はありません。
  2. Amazonは出荷台数を伸ばしているように見えますが、実は2011Q4の時よりもシェアを落としています。2011Q4で大量に出荷した後、2012Q1, Q2で大幅に出荷台数を落としたためです。AmazonのKindle Fireについては、クリスマス商戦で非常に好調だったものの、それ以後は大幅に売り上げが落ちたことが言われています。通年で見るとiPadよりも成長率が低く、競争力を失っているように見えます。
  3. ASUSはNexus 7の数字が含まれています。価格が安い割には性能が良いと言われ、非常に評判だったNexus 7です。2012Q3にASUSの出荷台数が大幅に伸びているのはNexus 7効果だと思われますが、2012Q4には出荷台数を落としています。Nexus 7は販売が好調だったため、11月末まで米国で在庫切れとなっていたそうです。したがって2012Q4の出荷台数の低下はGoogleの需要予測ミスの可能性があります。Nexus 7の人気そのものが陰ったわけではないと考えられます。
  4. OthersもSamsungと同様に堅調にシェアを拡大しており、全体としてのシェアは20%と非常に高いです。

それぞれについて自分なりに考察してます;

  1. Samsungのタブレット販売数は以前から謎です。Samsungはタブレットの販売台数を発表していませんが、Appleとの裁判の中で米国での販売台数が公開されたことがあります。それによると、IDCの推測では2012Q2で2,391,000台が世界で出荷されたところ、米国では37,000台しか売られていなかったことがあります。もしIDCの推測が正しいのならば、ほとんどのSamsungタブレットは米国以外で売られたことになります。一方でタブレットの使用率は米国が圧倒的に高いというデータもあり、矛盾します。
  2. 2011年のクリスマス商戦語、Kindle Fireが急速に販売を落としたことについて、性能が悪かったことなどが言われています。それが真実だとすれば、性能が改善されたKindle Fire HDは2013年以降、大きく売り上げを落とさない可能性があります。経緯を見る必要があります。
  3. Nexus 7はKindle Fireと価格帯および製品のサイズが似ており、Kindle Fire同様の売り上げパターン(つまりクリスマス後に大幅に落ち込む)可能性が否定できません。これも経緯を見る必要があります。
  4. 中国では格安のタブレットが非常に好調に売れていると言われており、Othersの大部分はこれらだと私は想像しています。

まとめ

メディアで話題になっているKindle FireやNexus 7が思ったほどに売れていません。一方でSamsungとOthersが伸ばしています。いずれも西洋のメディアでは話題になっておらず、どうして売れているのかよくわかりません。IDCの推測がどれだけ当たっているかも含めて、タブレット市場の真の姿は見えていないのが現実ではないでしょうか。

現状ではタブレットの販売台数を発表しているのはAppleだけです。Appleの販売台数は劇的ではありませんが、出荷の伸び率が48%と高い状態を維持しています。他のメーカーはアナリストを煙に巻いていて、出荷台数も販売台数も都合の良いときにちらちら見せているだけです。この状態では何が起こっているかがわからないのも仕方ありません。

Androidバリューチェーンの力の関係: DoCoMoがSamsungと組んでTizen搭載スマートフォンを販売する話を聞いて

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読売新聞がDoCoMo、Samsungと組んでTizen搭載スマートフォンの2013年リリースを目指すと報じているそうです(TechCrunch)。

いろんな意味でこれはAndroidのバリューチェーンの中で、Samsungが如何に重要な位置を占めているかを表しています。

Androidエコシステムの中で一番力があるのはSamsung

Asymcoブログで、Google vs. Samsungの利益が紹介されています。Androidエコシステムの中でSamsungの一人勝ち状態であること、そしてSamsungの利益がGoogleを既に超え、その差が加速しつつあることが示されています。

Androidを開発したのがGoogleであり、オープンソースではありつつもいろいろな形でメーカーにGoogleが制限を課していることから、Androidエコシステムの中で一番力があるのは上流のGoogleではないかと考えがちです。しかし金銭的な利益で見る限り、Androidバリューチェーンの中でのSamsungの付加価値はGoogleを圧倒していると言えます。

これは一見すると矛盾しています。Samsungの携帯が売れているのはAndroid OSが構想ので普及したこと + Samsungのハードウェア技術に起因していると考えると矛盾です。Samsungの成功の主要な要因がAndroid OSであると考える限り、例えばSamsungだけが圧倒的に一人勝ちしている状況は説明できないのです。

この矛盾に対する答えはやはりAsymcoブログの中にあり、The cost of selling Galaxiesの中でHorace DediuはSamsungのマーケティング及び販促費が桁違い多いことを紹介しています。つまりSamsungが一人勝ちしている最大の要因は力任せのセールス&マーケティングであると考えられるのです。そうなると以下の論理が成立します。

Androidが売れているのはSamsungの携帯が売れているから

これはSamsungが一人勝ちしていることから言えます。

Samsungの携帯が売れているのはSamsungのセールス&マーケティングが強力だから

これはSamsungの経費から推測できます。

そして上記の2題が成立するならば

Androidが売れているのはSamsungのセールス&マーケティングが強力だから

が成り立つのです。

別の言い方をすれば、AndroidのマーケットシェアがiOSに迫り、追い越した理由はGoogleのおかげではなく、Samsungのセールス&マーケティングが強力だからということになります。

GoogleよりもSamsungの力が強いとTizenの開発にどう影響するか

AndroidがAppleの特許を侵害したため、Samsungは巨額の賠償金、そして販売停止の可能性に直面しています。GoogleがJavaの知的所有権を侵害したのではないかという訴訟も続いています。Androidがあれだけ早く開発できたのはもちろん優秀な技術者のおかげもありますが、それに加えてAppleやSunの知的所有権をかなり盗んだことも効いています。

今度はSamsungがAndroidを真似る番です。iOSよりもAndroidを真似るでしょう。なぜならばオープンソースであることに加え、GoogleにとってはSamsungは無くてはならないパートナーであり、Googleに弱みがあるからです。加えてGoogleのスマートフォン関連の知的所有権が弱いということもあります。

AndroidがiOSに迫るまでには4年かかりました。TizenがAndroidに技術面で追いつくのは多くて2年と見積もって良い気がします。

DoCoMoとSamsungの力関係

読売新聞の記事では

グーグルのOS「アンドロイド」のスマートフォンや、アップルのiPhone(アイフォーン)=OSは「iOS」=は、それぞれの仕様に合わせた応用ソフト(アプリ)が使いやすくなっている半面、ドコモの通信販売事業のように携帯電話会社が独自サービスを提供したり、独自に安全性を高めたりするのが難しい。  これに対し、タイゼンは基本技術が公開されていることに加え、携帯電話会社による独自サービスの提供を前提に開発が進められているのが特徴だ。

と解説されています。

つまりDoCoMoの強みとされている「独自サービス」を活かすためにTizen OSに投資するのだという説明です。

しかしこの代償として、DoCoMoはSamsungに大きな力を与えることになります。巨大とは言え、数ある中の一つの供給元に過ぎなかったSamsungだったのが、Tizenを通して「独自サービス」を供給できる唯一の供給元になる可能性があるからです。

DoCoMoが意識しているか意識していないかははっきりわかりませんが、展開次第では力関係は大きくSamsungに傾いてしまう可能性があります(既にかなり傾いているのに加え)。かなり危険な賭です。

そしてTizenは売れるのか?

スマートフォン市場で将来を予想するのは難しいのですが、2013年以降大きな傾向は一つ出てきます。つまり、今までのスマートフォン市場は主にearly majorityを対象にしていたのに対して、これからはlate majorityを相手にしなければならない点です。テクノロジーに詳しい顧客ではなく、これからはテクノロジーのことがよくわからない顧客がますます増えるのです。こういう顧客は事前に調査することがあまりできないので、店頭で販売員に聞きながら機種を選定することが多くなります。そしてSamsungの強みである巨額の販売促進費用が凄く効くのです。

SamsungもiPhoneを追いかけなければならないので、最初からハイエンドをTizenで攻めることはないでしょうが、テクノロジーに詳しくない顧客を起点に徐々にTizenを普及させていくのが王道だろうと思います。

思いの外に成功するのではないかと私は予想しています。