GizmodoのGalaxy Tab Review

GizmodoのSamsung Galaxy Tab Reviewが出ていました。かなり辛口です。

“Samsung Galaxy Tab Review: A Pocketable Train Wreck”

Samsungの技術力や製品企画力がどうのこうのではなく、そもそも7インチのタブレットは意味があるのかという観点での議論が多いです。

If you take iPhone apps and simply scale them up for the iPad, most of them don’t feel right. If you take Android apps and scale them up for the Tab, the majority of them—Twitter, Facebook, Angry Birds—work perfectly. (Except for when they don’t, like The Weather Channel.) That’s because the Galaxy Tab is small enough that apps simply blown up a little bit still fundamentally work. Which means, conversely, that there’s almost no added benefit to using the Tab over a phone. It’s not big enough. Web browsing doesn’t have greater fidelity. I don’t get more out of Twitter. A magazine app would be cramped.

現時点ではスマートフォン用のアプリを拡大表示したものしかありません。でもスクリーンが小さい分、拡大率も小さく、結果としてあまり問題がありません。議論を裏返すとスマートフォンを使うのと比べると、Galaxy Tabを使うメリットはほとんどないという結論です。

In other words, you get the worst of a phone’s input problems—amplified.

文字入力に関してはスマートフォンの入力のしにくさをそのまま引き継いでいるということです。しかも一段と悪くなっているとまで言っています。

The browser is miserable, at least when Flash is enabled. It goes catatonic, scrolling is laggy, and it can get laughably bad.

Flashをオンにしている状態では、ブラウザは惨めそのものだと言っています。技術的に言えばFlashは迷惑なんですね。マーケティング的にはiPadとの差別化のために含めたくなるのでしょう。

Typically, the point of a compromise is to bring together the best of both sides. The Tab is like a compromise’s evil twin, merging the worst of a tablet and the worst of a phone. It has all of the input problems of a tablet, with almost none of the consumption benefits.

スマートフォントとタブレットの妥協点を探った製品ゆえに、問題が噴出しているという結論です。

ただし、妥協点を探った中間的な製品が難しいというのは、現実社会でマーケティングを見つめて来た人には当然分かる話です。たぶん最初から「妥協」狙ったのではなく、以下のように製品企画の議論は進んだと思います。

  1. iPadと対抗するタブレットを作ろう
  2. まずは10インチを検討してみよう。狙いとしては、iPadより多機能で、そして価格が安いものを作りたい。
  3. 実際に製造コストを推定したら、すごく高くなってしまった。これじゃ話にならない。(シャープガラパゴス10.8インチモデルの価格が今月中に発表されると思いますので、そのときにApple以外が10インチを作るとどれぐらい高いのかが分かるかもしれません)
  4. 10インチのタブレットだとアプリを専用に開発しないといけなさそうだ。サードパーティーも10インチ用のアプリを開発してくれないと。でもGoogleですらまだタブレット用のOSを用意していない。10インチタブレット用のサードパーティーアプリはまず期待できなさそうだ。
  5. 7インチならなんとか価格的にすり合うし、Androidスマートフォンのアプリを拡大しても無様にはならない。よし7インチでいこう。
  6. マーケティング的には苦しいけど、これしか作れないのでやるしかない。

要はSamsungだってバカじゃないし、マーケティング部隊はすごいという話なので、市場からかけ離れた間抜けな発想はしないはずです。それでも7インチという中途半端な製品を作ることになったのは、iPadの価格設定が安すぎたこととGoogleの準備ができていなかったということで、Samsungには他に選択肢が残されていなかったからだと思います。

持ち運びがしやすいというメリットを最初から積極的に考えていた訳ではないと思うのです。

Samsungの人、気の毒….

「中間」カテゴリーの危うさ:Android 7インチタブレットの競合は本当にiPad。それともスマートフォン?

ようやくiPadに対応し得るタブレットとしてSamsung Galaxy Tabが注目されていますが、評論家の意見を読んでいるとなんだか論調がぶれているような気がします。

要は、Galaxy TabはiPadの競合なのか、それとも新しいカテゴリーなのか。あるいはスマートフォンと競合するのか。

New York TimesのDavid Pogue

But the Galaxy doesn’t feel like a cramped iPad. It feels like an extra-spacious Android phone.

WiredのChristopher Null

The Tab requires some retraining in the way you use a mobile device — it’s somewhere between a phone and a regular tablet — but once you get it, it’s a pleasure to use. The Tab ultimately reveals itself not as a competitor to the iPad but as a new class of mobile devices: a minitablet that is designed to go everywhere you do.

Read More http://www.wired.com/reviews/2010/11/galaxy_tab/#ixzz14zdHpWy9

「ヘー、新しいカテゴリーなの」って聞くと聞こえはいいのですが、問題はそんな新しいカテゴリーにニーズがあるのかないのかです。

Steve Jobs氏の大失敗作、G4 Cubeを思い出してみるといいと思います。Steve Jobs氏がAppleに戻ったとき、あまりにも製品ポートフォリオが訳が分からなかったのでばさっとシンプルにしました。Consumer <-> Pro, Desktop <-> Portableの軸で割って、4つのカテゴリーに区切ったのです。(YouTube Macworld NY 1999 09:30頃)

apple mac portfolio.png

なのに翌年にSteve Jobs氏は中途半端な製品を発表してしまいます。それがG4 Cubeです。

G4 cube in portfolio.png

PowerMacとiMacの良さを兼ね備えた製品というのが売りです。

Cube = Power Mac + iMac.png

でも売れなかったので、発表から1年半で販売中止になりました。

G4 Cube販売中止のプレスリリースがこれです。中間的なマーケットセグメントには熱狂的な顧客がいなかった訳ではないのですが、いかんせんマーケットサイズが小さすぎたという主旨です。

Apple® today announced that it will suspend production of the Power Mac™ G4 Cube indefinitely. The company said there is a small chance it will reintroduce an upgraded model of the unique computer in the future, but that there are no plans to do so at this time.

“Cube owners love their Cubes, but most customers decided to buy our powerful Power Mac G4 minitowers instead,” said Philip Schiller, Apple’s vice president of Worldwide Product Marketing.

The Power Mac G4 Cube, at less than one fourth the size of most PCs, represented an entirely new class of computer delivering high performance in an eight-inch cube suspended in a stunning crystal-clear enclosure.

G4 Cubeの教訓 : 新しい「中間」カテゴリーというのは危険信号

G4 Cubeの教訓は何か。それは非常に売上げが好調な2つの製品カテゴリーがあるからと言っても、その真ん中にも大きなマーケットニーズがあると思ってはいけないということだと思います。

むしろ好調な2つの製品カテゴリーに挟まれていると、顧客はどちらから一方に吸い寄せられてしまい、真ん中のセグメントはサイズが小さくなると思います。

そのとき、中途半端な製品のスペックを上げる改良を今更加える訳にもいきません。そこで結局は利益を犠牲にしてでも価格を下げ、下の方のカテゴリーの顧客に売り込むことになります。G4 Cubeもそうでした。

僕がいたバイオ業界の話になりますが、前社の新しいリアルタイムPCR装置がそうでした。ABIのフラグシップモデルを狙う訳でもなく(勝つのに必要なサポート体勢がありませんでした)、Takaraなどの安いモデルを狙う訳でもなく、真ん中のカテゴリーを目指すのが狙いだったのです。しかしふたを開けてみると中間のマーケットセグメントはわずかなサイズで、大部分の商談はTakaraとの競合になってしまい、価格をがんがん下げることになってしまいました。それはそれはもう社長まで値下げの号令を出す、本当にびっくりするような値下げの仕方でした。

新しいカテゴリーは端っこに作られる

Appleの話ばかりで恐縮ですが、Appleが新しく生み出した製品カテゴリーを思い出してみるといいと思います。成功したもので「中間」は一つもありません。

  1. Macintosh : 全く新しいユーザインタフェースを搭載した、画期的なパソコンでした。価格はべらぼうに高いものでした。
  2. iPod : ポケットの中に1,000曲。当時のMP3プレイヤーは小さなフラッシュメモリかCDにデータを焼き込んでいました。ハードディスクにデータを書き込むことによってトップスペックの1,000曲を実現し、しかもFirewireによって高速な書き込みも実現していました。
  3. iPhone : それまでのどのスマートフォンでも搭載していなかったタッチUIとJavascriptを含めたフルブラウザを兼ね備え、メールでもマーケットリーダーのBlackberryに引けを取りませんでした(Exchange互換だけは遅れましたが)。

Apple以外で言えば

  1. ネットブック : 圧倒的に安い価格でパソコンを提供。
  2. ウィンドウズパソコン : MacintoshのUIの素晴らしさを圧倒的に安い価格で提供。
  3. ソニーの薄型バイオノートブック : 当時としてはダントツの薄さでした。
  4. 電子辞書 : 紙の辞書よりは圧倒的に軽く、調べやすい。パソコンよりも軽いし、起動が速いし、安いし等々、圧倒的に便利。

成功する新しいカテゴリーは、基本的に既存カテゴリーの上位か下位のどちらかにしか生まれません。中間はうまくいかないのです。

Galaxy Tabはどうなる?

その流れが今回も当てはまるのならば、Galaxy Tabの運命は割とはっきりしています。

  1. まず売れません。どうして売れないかというと、持ち運びやすさを重視する人はGalaxy SもしくはiPhoneを買い、パソコンを代替するような使い方をする人はiPadを買うからです。あるいは片手で持てるeBook Readerが欲しい人は遥かに安価なKindleを買うでしょう。Galaxy Tabは中間的な製品としては秀逸です。しかし中間的な(中途半端な)マーケットセグメントのサイズは小さいのが一般的です。
  2. 仕方なくSamsungはGalaxy Tabの価格を下げます。今でも高すぎると言われているぐらいですから、失敗の原因を当然価格に求めるでしょう。あるいはキャリアとバンドリングして、なんとか見かけだけでも値下げします。そしてどれぐらい値下げが必要かというと、スマートフォンの購入を考えている人やKindleの購入を検討している人が立ち止まって考えるレベルまでの値下げ幅です。相当な値下げが必要です。
  3. Appleの場合はG4 Cubeを売らなければならない理由がなく、iMacとPowerMacで十分だったのですぐに撤退しました。Samsungが赤字すれすれでもGalaxy Tabを売り続けるか、それともGalaxy Sなどのスマートフォンに集中するかははっきり分かりません。多分逃げずにがんばって売り続けると思います。
  4. それでも最後は何らかの形で諦めるしかありません。それがどのような形になるかはちょっと予想がつきません。

まともにiPadに勝負に挑むのならば、中間を狙うのではなく、上か下かを狙うしかありません。

上を狙うというのは圧倒的な付加価値を付けるということです。カメラ程度では厳しいでしょう(近いうちに発表されるiPad 2にはついてくるでしょうし)。Flashでもだめです(というかそもそも実現不可能みたいだし)。

いまのところはキラーアプリとしてMicrosoft Officeが動くこととかしかないと思うのですが、Android用にMicrosoftがOfficeを移植する可能性はゼロに等しいでしょう。Android用のOpenOfficeみたいなやつはありますが、それが仮にMS Officeとの互換性が100%であったとしても、Microsoft公認のOfficeがあることに比べれば末端顧客へのインパクトは全然足りません。ですからMicrosoftがタブレット用のWindowsを開発するまでは、上から狙うのは無理そうです。GoogleもAndroid限定のキラーアプリを開発して上から狙えるようにするよりは、iPadでも使えるようなウェブアプリを作って、なるべく多くの人に使ってもらうのが全社戦略にマッチするはずです。

下を狙うのであれば価格を圧倒的に安くすることです。しかしMacintoshの時と異なり、Appleは積極的な価格設定と厳密な製造コストのコントロールをしています。まず圧倒的な差をつけるのは常識的には無理です。

10ヶ月前にも言いましたが(” iPadのこわさは、他のどの会社も真似できないものを作ったこと” )、iPadの独走はしばらく続きそうです。

Android TabletのFlashが使い物になるかどうか微妙な件

著名なテクノロジー評論家のWalt Mossberg (Wall Street Journal)とDavid Pogue (New York Times)のSamsung Galaxy Tabの評価が出そろいました。

Walt Mossbergが
Samsung’s Galaxy Tab Is iPad’s First Real Rival

David Pogueが
It’s a Tablet. It’s Gorgeous. It’s Costly.

どっちもFlashについては評価が低いです。

Walt Mossberg;

I found the Web browser to be a bit jerky in zooming into text and scrolling through long pages. I tested several Adobe Flash videos and websites written in Flash. Sometimes they played and sometimes they didn’t. In all cases, they slowed the browser down. On one site written in Flash, I got a warning saying I might want to “abort” lest the computer become “unresponsive.” In another case, the Tab crashed. So I conclude that while the Tab does play Flash, it needs work on that score.

David Pogue;

Because the Galaxy runs Android 2.2, it can also play Flash videos online (touché, iPad!). Or at least it’s supposed to. After some delay, I got Flash movie trailers and CNet videos to play, but at ESPN.com, the Play Video button just stared at me sullenly. (My Samsung rep says they play fine for him.)

Adobeとしては最後のチャンスだったと思うのですが、しくじってしまったようです。

そしてGoogleはFlashを搭載することによってiPad/iPhoneとの差別化を狙ったのでしょうが、却って悪い印象を与える可能性がありますね。サポートも大変です。

Appleの価格競争力の優位性

Appleの価格競争力がすごいことに関する解説がJohn Gruberのブログ、Daring Fireballにありました。

“Apple’s Pricing Advantage”

このブログの中で僕がずっと言ってきたことではありますし、Steve Jobs氏本人も解説しているぐらいではあるのですが、Samsungですら高品質で安価なAndroidタブレットが作れないのがはっきりしてきたということのようです。(123456789

この記事の中でJohn Gruberはパソコン市場とiPod/iPad市場の違いについて述べています。

  1. パソコン市場ではAppleの製品は割高感があるのに、iPod/iPad市場だと価格が安くなるのはなぜか。
  2. 世界で一番Flashメモリを買っていて、メーカーから安く買えることが大きな原因でしょう。
  3. パソコン市場ではひどいデザインとか低品質のパーツを使ってもパソコンが売れてしまうが、iPod/iPad市場ではAppleがスタンダードになってしまっていて、まともな競合はこのスタンダードを目指さなければなりません。そのため安いパーツでごまかすことが出来ません。

僕は3番目の視点には気付いていなかったのですが、確かにそうかもしれません。

こう考えてみると、“Back To The Mac”の戦略的意義がすごく大きいことがわかります。

つまりAppleとしては、パソコン市場をiPod/iPad市場に近いものに誘導し、変質させることができれば、パソコンの価格競争力においてもAppleが圧倒的に優位に立てる可能性があります。

一番分かりやすいのはMacBook Airでハードディスクを排して、Flashメモリ(SSD)オンリーにする戦略です。パソコン用の保存領域としてFlashメモリがスタンダードになれば、Appleのパソコンは競合他社と比較して相対的に安くパソコンが作れるようになります。

いずれFlashメモリが標準になるのは必然で、時間の問題でしかないのですが、そのスピードを加速させることによってAppleは他社に先んじて価格競争力を身につけようとしているのではないでしょうか。

アナリストからはMacBook AirとiPadがカニバライズするのではないかという心配があったのに対して、Apple自身は全く気にしてないようです。よくよく考えてみるとAppleにとって大切なのはそういうことではなく、如何にマーケットをFlashメモリに切り替えさせ、自分たちの強みを最大化するかかも知れません。そういう意味ではiPadでもMacBook Airでも何でもいいから、一刻も早くFlashメモリをスタンダードにしたいのかもしれません。

そんな気がします。

Verizon WirelessのiPad CM

Verizon WirelessのiPad CMです。John Gruberより。

  1. ルータを別途起動しないといけないけど簡単だよ
  2. ネットワークスピード速いよ
  3. 都会から離れたところでもちゃんと電波が届くよ
  4. しょぼいネットワークから解放された気分だよ

というのがよく表現された良いCMだと思いました。NT&Tのネットワークとの差別化ポイントがよく伝わる。

ダースベーダーを使ってGalaxy Sのスーパー有機ELディスプレイのことをPRしているドコモよりよっぽど分かりやすい。

Safari 5のClickToFlash拡張を使ってAdobe Flashを無くす

Daring FireballでJohn Gruber氏が“Going Flash-Free on Mac OS X, and How to Cheat When You Need It”という記事を書いて、Adobe Flashを使わないで済む方法を解説していたので、僕もやってみました。

WebKit Nightlyを主に使っていることもあると思うのですが、Safariが落ちることが割と多いし、また初代MacBook Proのファンが動くことがちょっと多い気がしていたので、Flashを使わないで済む方法はないかなと以前から思っていました。

しかし頻繁に使うGoogle Analyticsのグラフは主にFlashなので、これをどうするかがいつも悩みのタネ。それで今までFlashを使い続けていました。

使ってみたのはMarc Hoyois氏のClickToFlash Safari extensionClickToFlashのプラグインもあります(というかこっちの方がオリジナル)。

ClickToFlashのプラグインのサイトで紹介されている機能は;

  • 悪しきAdobe Flashをブロックする
  • 必要ならクリック一つでFlashをロードできる
  • YouTubeの画質がQuickTimeになるので、画質が高くなる
  • ホワイトリストにより、特定のウェブサイトではFlashを許可できる

となっています。

使い始めたばかりなので詳細は分かりませんが、Extension版もこの機能は含まれています。

この機能拡張を入れたときのAsahi.com。左右のFlash広告がしっかりブロックできています。
asahi com.png

YouTubeはこんな感じ。動画の画質比べに慣れていないので、何とも言えませんが、まぁいいんじゃないかなという思いです。

H.264バージョン(Flashを使わないとき)
youtube.png

Flashバージョン
youtube flash.png

Google Analyticsもホワイトリストを使うことによって、ちゃんとFlashのグラフが描かれています。
blog analytics.png

あとはしばらく使って、WebKitのクラッシュが減ったりファンの回転が減ったりするかどうかです。でもAsahi.comの広告がブロックされただけで得した気分がしています。

Netscape創設者Marc Andreessen イノベーションについて

Netscape創設者の一人でインターネットブラウザの普及に決定的に大きく貢献したMarc Andreessen氏は、現在ベンチャーキャピタルの運営をしていますが、全く新しいスタイルのブラウザ、RockMelt Browserの開発会社に何億円相当ものを投資をしているそうです。

僕はTwitterは使うけどFacebookはほとんど使っていませんので、これが成功するかどうかについて語る立場には全くありませんが、Seattle Timesの記事に書かれていたAndreessen氏の言葉が非常に気に入りました。

Andreessen is convinced Internet Explorer’s lead remains vulnerable, even after more than a decade of domination and repeated upgrades.

“I don’t believe in mature markets,” he said. “I think markets are only mature when there is a lack of innovative products.”

「成熟したマーケットというのが存在しないと思っています。イノベーティブな製品がなくなるとマーケットが成熟するだけだと思います。」

product life cycle.pngマーケットが成熟したかどうかは単純にはその成長率で計ります。そして一般的な考え方ではどんな市場も次第に成熟していき、イノベーションが起こらなくなり、成長がとまり、そして価格競争等で利益が出なくなり、最後には衰退していくとしています。そしてこれを必然的なことと考えています。

ライフサイクルは必然的に進行し、その結果としていつかイノベーションが起こらなくなり、そして市場が成熟化するというのは、マーケティング等のテキストブックによく出てくるプロダクトライフサイクルの考えです。しかしAndreessen氏は因果関係が逆だと言っています。単に何らかの理由(独占・寡占による怠慢?)でイノベーションが停滞し、その結果としてマーケットが成熟するだけだとしています。マーケットの成熟ステージに関わらず、探しさえすれば常にイノベーションのチャンスは常にどこかにあり、その努力をしなくなってしまった結果がマーケットの成熟化だという考え方です。

DigitalHub.jpg2000年頃のパソコン市場は成熟化し、衰退に向かっていくマーケットだと考えられていました。インターネットの普及によって一気に盛り上がったパソコン市場ですが、2000年頃にはもうパソコンはおしまいだという論調が大勢を占めました。その代わりユビキタスコンピューティング等がもてはやされ、いずれパソコンがなくてもPalmなどのデバイスで十分だと考える評論家がほとんどでした。その結果としてパソコンメーカーは価格以外に攻め手がなくなり、価格競争が激化しているとされました。そのときにAppleのSteve Jobs氏はキーノートスピーチの中でDigital Hub戦略を発表し、パソコン市場は成熟してしまったのではなく、むしろこれからが第三の黄金時代(Digital Lifestyleの時代)を迎えると主張しました。そしてiTunes、iMovie、iPhotoなどを発表し、そしてiPodも発売しました。この戦略が見事にはまったのは、もう皆さんもご存知の通りです。

NewImage.jpgバイオの世界について言えば、2005年頃のDNAシークエンサーが成熟市場と言われていました。ゲノム解読の熱がいったん冷め、そしてキャピラリー電気泳動によるSanger法も完全に成熟した技術になりつつありました。僕も当時、アプライドバイオシステムズ社に転職するかどうかを考えてたりしていましたので面接を何回か受けましたが、話題は「あなたならうちのシークエンスビジネスをどうやって停滞から抜け出させるか」と言ったたぐいのことばかりでした。

しかし2005年秋に454 Life Sciences社が売り出したGenome Sequencer 20によって展開はがらりと変わりました。次世代シークエンサーの開発競争が白熱化し、半導体におけるMoores Lawを遥かにしのぐ勢いで一気にイノベーションが活発化しています。成熟してしまったと思われていた市場が、一気にバイオサイエンス全体のイノベーションドライバーになりつつあるのです。

僕がメーカーで主にマーケティングを担当していたのは、主に成熟期から衰退期と言われた製品でした(454 Life SciencesのGenome Sequencer 20も短期間担当しましたが)。でも上記の事例を見ていたので、絶対に成熟し切った訳ではないはずだと信じていました。今でも強くそう思っていますし、Marc Andreessen氏の言う通り「成熟したマーケットは存在しない」と思っています。ただ何かのイノベーションが必要です。イノベーション無しではマーケットは成熟してしまいます。

バイオの買物.comはライフサイエンス製品のイノベーションの活発化を強く望んでいます。それも次世代シークエンサーのような話題を集めるけれどもユーザが少ない大型機器だけではなく、PCR酵素、クローニング酵素、細胞培養用試薬など、どっちかというと成熟したと考えられるけれども、一方で非常に多くの利用者がいる製品分野でのイノベーションです。まず製品購入の意思決定にイノベーションをもたらし、研究者とメーカーの距離を縮め、製品のイノベーションが起こりやすい環境を作れないか。そんな形で貢献できたらいいなと思っています。

カニバリゼーションという考え方はもう捨てよう

いま最も成功している、最もイノベーティブな会社の一つとなったApple社はカニバリゼーションを全く気にしていません。

このことは以前にもiPod Touchに関してこのブログで紹介しましたが、先日発表された新しいMacBook AirとiPadのカニバリゼーションの可能性についても同じ立場をApple社は取っています。

New York Timesの記事より;

Analysts said that the new computers were so light and priced so aggressively that they could compete with the iPad for the same customers.

In a conversation after the announcement, Mr. Cook said he was unconcerned by that risk. “If one cannibalizes the other, then so be it,” he said. He said it was better for Apple to cannibalize its own business than for another company to do so.

カニバリゼーションを全く気にしないのは、新しいMacBook Airと既存のMacBookやMacBook Proとのカニバリゼーションの可能性にも及んでいます。

PRスローガンでは明確に “The next generation of MacBooks” としています。本当に既存のMacBookと入れ替わるような存在になるかどうかは今後の製品展開を見ていかなければなりませんが、iPhone/iPadで新しい製品カテゴリーの開拓に自信をつけたAppleはかなり本気だと思います。

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Appleの企業文化はiPhoneに不利か

New York Timesの記事に“Will Apple’s Culture Hurt the iPhone?”というのがありました。

割とバランスが取れた記事です。MacintoshがWindows PCに追いやられたのと同じように、iPhoneがAndroidに追いやられるかどうかについて議論しています。

Openが必ずしも勝利するかどうか分からないと言ったことだとか、Appleにスケールメリットがあることとかに言及しています。

ただ非常に大きなポイントを忘れています。

iPhoneがAT&Tのネットワークにしか載っていないこと。そして最初からiPhoneがVerizonに載っていれば、Androidの躍進はかなり抑制されただろうということ。つまりオープンとかクローズドが問題ではなく、Appleとキャリアの権力闘争が一番の背景にあることがこの記事からすっかり忘れられています。

みんな、オープンvsクローズドが好きなんですよね。

Steve Jobs が喋る!

Appleの記録的な売上げと利益を報告したアナリストとの電話会議にスティーブジョブズ氏が参加し、いろいろな思いをぶちまけたことがウェブで話題になっています。文章に起こしたものはここで読めます。

スディーブジョブズ氏が考えるイノベーションについて、いろいろなヒントがありましたので、僕が面白いと思った箇所を取り上げたいと思います。

In reality, we think the open versus closed argument is just a smokescreen to try and hide the real issue, which is, “What’s best for the customer – fragmented versus integrated?” We think Android is very, very fragmented, and becoming more fragmented by the day. And as you know, Apple strives for the integrated model so that the user isn’t forced to be the systems integrator. We see tremendous value at having Apple, rather than our users, be the systems integrator. We think this a huge strength of our approach compared to Google’s: when selling the users who want their devices to just work, we believe that integrated will trump fragmented every time.

And we also think that our developers could be more innovative if they can target a singular platform, rather than a hundred variants. They can put their time into innovative new features, rather than testing on hundreds of different handsets. So we are very committed to the integrated approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “closed.” And we are confident that it will triumph over Google’s fragmented approach, no matter how many times Google tries to characterize it as “open.”

Googleは自らオープンを戦略の柱にしていると語っています。それに対してスティーブジョブズ氏はオープンとかクローズドかというのはあまり意味がないと反論しています。そうではなく、最終顧客にとって何が一番良いか、そしてアプリを開発してくれるソフトウェアデベロッパーにとって何が一番良いか。それだけが問題だと考えているようです。

そして何が一番良いかの一つの結論として、Appleは製品ラインアップを減らし、重複する機能を削減し、常に整理整頓されたポートフォリオを持つようにしています。MacでもiPodでもそしてiPhoneでも。

(iPadとその競合について)And sixth and last, our potential competitors are having a tough time coming close to iPad’s pricing, even with their far smaller, far less expensive screens. The iPad incorporates everything we’ve learned about building high-value products, from iPhones, iPods and Macs. We create our own A4 chip, our own software, our own battery chemistry, our own enclosure, our own everything. And this results in an incredible product at a great price.

垂直統合の結果として、iPadは非常に製造コストを安くできているという話です。一般的な定説では垂直統合は高コストの製品につながります。しかしこのブログでも紹介していますように、特にイノベーションが盛んに行われている市場のステージでは垂直統合によってむしろ価格は安く抑えられます(議論が十分に練れていなくて申し訳ありませんが)。

The reason we wouldn’t make a seven-inch tablet isn’t because we don’t want to hit a price point, it’s because we don’t think you can make a great tablet with a seven-inch screen. We think it’s too small to express the software that people want to put on these things. And we think, as a software-driven company, we think about the software strategies first. And we know that software developers aren’t going to deal real well with all these different sized products, when they have to re-do their software every time a screen size changes, and they’re not going to deal well with products where they can’t put enough elements on the screen to build the kind of apps they want to build.

まず、Appleは自分たちを”software-driven company”と考えていて、何よりも最初にソフトウェアの戦略を立てているというのが面白いです。考えてみると当たり前なのですが、改めて言われるとなるほどと思ってしまいます。

そしてスティーブジョブズ氏いわく、7インチのタブレットでは有用なソフトを作成するにはサイズが足りないとのことです。興味深いことに、7インチタブレットを発売する予定のメーカーにしても、7インチのサイズを高く評価している評論家にしても、ソフトウェアの使い心地についてはほとんど語っていないように思います。そうではなくて、大きさとか重さとか持ち運びのしやすさ等を議論しています。Appleは自分たちを”software-driven company”としていますが、競合は逆にまだ”hardware-driven company”であって、評論家たちもまだ”hardware-driven critics”のように感じられます。別に”hardware-driven”であること自体には何の問題もないのですが、ただAppleやその競合を批評するときにはこの視点を忘れてはいけないと思います。

ちなみに7インチタブレットで最も話題性のあるSamsung Galaxy Tabの紹介ビデオを見る限り、掲載されているソフトのUIはsmartphone用のものを大きくしただけのように見えてしまいます。iPadのアプリの多くは画面を複数の領域に分けて、一度に多くの情報を表示するようにしています。それに対してGalaxy Tabのソフトはsmartphoneと同じように、一度に一つの情報だけを表示し、あとは画面を切り替えていくというアプローチを取っているようです。スティーブジョブズ氏の言わんとしていることはこの辺りだと思います。

バイオ業界との関連で思うこと

メーカーが販売しているキット製品を評して、「若い人は原理も解らずに使うから困る」とか「中身が解らないからトラブルシューティングができない」とかよく言われます。クローズドな製品であることに対する不満です。

僕も近いうちに、キット製品におけるオープンとクローズドについて考えてみたいと思います。

それと”software-driven company”ということと関連して、各メーカーおよび代理店は自分たちが何-drivenかをよく考えたら良いと思います。それは製造プロセスかも知れないし、物流システムかもしれません。新技術を発見し育てる能力かも知れないし、マーケティングや営業力かもしれません。問題解決力や製品サポート力かもしれません。何となく市場を見ていると、自社の本当の強みを理解できずに変なことに手を出しているメーカーが多いような気がしています。