Androidの方向転換予想:Andy Rubin氏の降格を受けて

アップデート
2013/4/14: 破壊的イノベーションとの関連についての考察を追加しました。

3月の初旬に、最新のAndroidがローエンドマシンに向かないという話をしました。そして今では古いバージョンのAndroidで満たされているローエンドマシンの市場にFirefox OSなどが食い込む余地があることを紹介しました。

特に「Firefox OSって破壊的イノベーションになるかもと思う理由」の書き込みでは、AndroidチームのリーダーであったAndy Rubin氏の次の言葉を引用しました。

There are places where Android can’t go,” he said, referring to memory and other hardware requirements. Firefox can help reach those. “For certain markets, it makes sense.

そしてこれをもとに私はこう結論しました。

つまりFirefox OSはローエンド市場にとって魅力のある製品であり、なおかつAndroidは(このままだったら)このローエンド市場に入り込む予定がなさそうです。

完璧に破壊的イノベーションの要件、a) ローエンド市場から入ること、b) 既存のプレイヤーが危機を感じていないこと、が満たされています。

しかし3月13日にAndy Rubin氏がGoogleの人事異動で事実上降格され、Androidの開発を離れることになりました(1, 2)。

問題はこの人事異動の結果、Androidはどのような方向に向かうのか、そしてFirefox OSなどの新規参入OSはどうなるのかです。またiPhoneとの関係についても気になります。それについて考えたいと思います。

Andy Rubin氏が降格された理由についてのアップデート

Andy Rubin氏が降格された理由についていろいろな憶測がありますが、現状ではNicholas Carlson氏によるこの書き込みが一番正しいように感じます。

What we heard is that Larry Page doesn’t mind employing gruff types … so long as they serve his purpose.

Page must have decided that the way Rubin was running Android no longer served his purpose, and that an Android run by Sundar Pichai would.

….

Rubin’s comments indicated a view of Android as something to preserve and protect.

Our source believes that Larry Page isn’t nearly so worried about Android itself. This source says that Page views it as a means to an end.

He says Page views Google as “a cloud services company,” built on cornerstone products like Search, Maps, Mail, and YouTube.

He says Page views Android as a way for Google to partner with hardware-makers to make these services more available to consumers.

自分なりに解釈すると、Andy Rubin氏にとってはAndroidそのものが大切で、これを発展させて守ることが一番重要でした。

それに対してGoogle CEOのLarry Page氏はAndroidそのものはあまり感心がなく、Androidは単なる手段としか考えていません。Larry Page氏はGoogleをSearch, Maps, Mail, YouTubeなどのクラウドサービス会社と位置づけていて、これをなるべく多くの人に利用してもらうための手段の一つとしてAndroidがあると考えているようです。もしAndroidではなくSamsung OSを介してGoogleのサービスを利用するユーザが多くても、それはそれで結構と。

あくまでもAndroidを発展させ、守っていきたいと考えるAndy Rubin氏と、Androidを一手段としか考えないLarry Page氏との間で埋めがたい溝があったと考えるべきでしょう。

Androidを一手段とか考えないというのはどういうことか

Androidを一手段としか考えないということは、おそらく以下のことを意味しています。

  1. Androidのマーケットシェアは重要ではない。
  2. GoogleがAndroid陣営を強くコントロールする必要はない。
  3. iPhone, Firefox OS, TizenなどのOSが勢力を伸ばすのは問題ない。ただしGoogleのサービスを載せてもらうことが大切。
  4. Androidが一番魅力的なOSである必要はない。
  5. なるべく多くの人にスマートフォンを利用してもらうことが新しいAndroidの使命。

Andy Rubin氏の元では、Androidを如何にiPhoneと同等にしていくか、如何にiPhoneに追いついて、追い越そうかが開発の主眼でした。しかしAndroidを一手段として考えると、iPhoneがカバーしているハイエンド市場はiPhoneに任せても良いのではないかという判断が可能です。あるいはSamsungが独自開発するのに任せることもできます。その代わりGoogleとしては、まだまだ未開拓なローエンド市場に目を向けるべきではないかという考えになってきます。

どんなことが予想されるか

AndroidとChrome OSの統合はもちろん重要な柱ですが、それ以外のことをここでは話します。

ネイティブアプリからHTML5にシフト

まずAndroidが一番魅力的なOSである必要はないと考えれば、ネイティブアプリへのこだわりが捨てやすくなります。ネイティブアプリの最大の特徴は滑らかで豊かなUIですが、ネイティブアプリじゃなくてもGoogleのサービスは十分に使えます。Android上でも徐々にネイティブアプリを奨励しない方向が出てくると予想されます。

Apple特許の利用を減らす

Googleのサービスを広く利用してもらうことについていえば、Appleとの競争関係はマイナスに働いています。お互いにとって、法廷争いを続けることは利益になりません。

Appleがこだわっているのはユーザインタフェースの重要な部分を真似られたからです。例えば米国で行われ、アップルの勝訴の判決が出た裁判では、”bounce-back effect”、”tap to zoom”, “home button, rounded corners and tapered edges”, “on screen icons”などの特許が争われました。このうち、スマートフォンの動作に必要不可欠なものは何一つありません。iPhoneよりも多少劣るもので良ければ、これらのAppleの特許を侵害することなくスマートフォンが作れます。

Appleの特許はまだ審査中のものもたくさんあり、これからも出てきます。しかし今後のAndroidのスタンスはおそらくAppleの特許を避け、結果としてUIが多少劣ったとしてもそれはそれでしかたないというものになるでしょう。現状でもSamsungに比べ、Googleの方がApple特許に対して慎重な姿勢を見せていますが、今後はますますそうなるでしょう。

ローエンドマシン

より低いスペックのスマートフォンでも十分に動作するように工夫をしていくでしょう。Android 4は高いハードウェアスペックを要求するため、未だにローエンド機はAndroid 2.3を搭載して販売されています。ローエンド市場を積極的に開拓していくために、スペックの低い機種でも十分に動作する新しいAndroidが開発されると予想されます。

以上が現時点での私の予想です。大きくまとめると、今後のAndroidはiPhone, iPadと対抗することを主眼とせず、市場を広げることに注力していくだろうと思います。フォーカスを切り替えた結果、Androidはローエンドからの破壊的イノベーションに対抗できるようになります。逆にFirefox OSが成功する可能性が低くなります。

Samsungの強みと技術評論家の弱み

AsymcoのHorace Dediu氏が一端アップして、その後取り下げたブログポストにSamsungの強みについて書いてありましたので取り上げます(Horace Dediu氏もTwitterでGoogle Cacheにリンクしていましたので、別に見せたくないわけではなさそうです)。

インタビュー形式(聞き手はRafael Barbosa Barifouse氏)です。太字は私が付けています。

Rafael Barbosa Barifouse氏

Does it make sense to create a new mobile OS when it has had so much success with Android?

Horace Dediu氏

Samsung would argue that the success it’s had is not due to Android but to its products. Arguably they are right because if Android were the valuable component in a phone then buyers would buy the absolute cheapest device that runs Android regardless of brand. That is not the case. People still seek out a particular brand of phone because of the promise it offers. Consumers have been buying more Galaxies than no-name Android phones.

Rafael Barbosa Barifouse氏

Why is Samsung the most successful company between the Android devices makers?

Horace Dediu氏

In my opinion it’s due to three reasons:

  1. Distribution. Success in the phone business depends in having a relationship with a large number of operators. Samsung had these relationships prior to becoming a smartphone vendor [because it sold all other kinds of phones]. Few alternative Android vendors have the level of distribution Samsung has. For comparison Apple has less than half the distribution level of Samsung and most other vendors have less than Apple.
  2. Marketing and promotion. Samsung Electronics spent nearly $12 billion in 2012 on marketing expenses of which $4 billion (est.) was on advertising. Few Android vendors (or any other company) has the resources to match this level of marketing. For comparison, Apple’s 2012 advertising spending was one quarter of Samsung’s.
  3. Supply chain. Samsung can supply the market in large quantities. This is partly due to having their own semiconductor production facilities. Those facilities were in a large part built using Apple contract revenues over the years they supplied iPhone, iPad and iPod components. No Android competitors (except for LG perhaps) had either the capacity to produce components or the signal well in advance to enter the market in volume as Samsung did by being an iPhone supplier.

私はAsymcoを注意深く読んでいますので、その影響もあってか以前よりSamsungの強みについて同様に考えていました。

つまり、Samsungがスマートフォンで成功しているのはGoogleのAndroidのおかげではなく、Samsung自身の力によるものです。そしてSamsung自身の力というのは、単なる技術的優位性ではなく、以前からのキャリアとの関係、強力なマーケティングとプロモーション、そしてサプライチェーンの強さです。

技術評論家のほとんどは製品しか見ません。製品が技術的に優れているか、使いやすいか、デザインに優れているかだけを見ます。しかし製品が実際によく売れるかどうか、ヒットするかどうかを判断する上では、このような評論家の見方は極めて二次的です。ものが売れるかどうかの主因とはなりません。

理由は簡単です。大部分の消費者は製品そのものよりも、広告や小売店の営業担当の言葉、あるいは友人の言葉、そしてブランドを頼りに購入判断をするからです。

市場勢力の急激な変化は、末端の小売りの影響力が強いサイン

Neil Hughes氏はスマートフォン市場のシェア推移を見ています(Market shares collapse with ‘brutal speed’ in cyclical smartphone industry)。

その中でNeedham & CompanyのアナリストCharlie Wolf氏の言葉を出しています。

The most important reason for these changes, Wolf believes, is the fact that carriers have “exceptional influence” on the phones customers buy. He said this strategy has worked particularly well for Android, because Google offers carriers and their retail staff incentives to push the brand.

このような急激な変化が起こるのは、携帯電話の市場ではキャリアの影響力が極めて強いためだというのです。私もチャンネル営業を担当したことがありますので、同感です。

ブランド力は急には変わりません。また極めてインパクトのある広告で無い限り、マーケティングメッセージは通常は緩やかに浸透します。一方、市場勢力を急激に変えるポテンシャルを持つのは末端の小売りです。小売りは営業インセンティブの与え方次第で一気にひっくり返ってくれます。

ただし営業インセンティブをしっかり与えられるためには、末端の小売りとの既存のパートナーシップが不可欠です。急に登場して、大きなインセンティブを与えても小売りは動きません。ですからWolf氏のコメントは一つだけ間違っています。キャリアや小売りスタッフにインセンティブを与えたのはGoogleではありません。Googleにはインセンティブを与える力はないからです。代わりにインセンティブを強力に与えたのはSamsungなのです。

こういう営業の仕組みを全く理解できていないのが技術評論家の最大の弱みで有り、だからしばしば市場を読み間違えるのです。

NewImage

経済成長を鈍化させる政策が「成長戦略」に入っていることの不勉強

NewImage朝日新聞で安倍政権の成長戦略についての記事がありました。その中で規制改革会議で話題になっている柱について紹介されていました。

その中に「市販薬ネット販売の全面解禁」が入っていますが、これは入っていちゃいけません。

簡単に言うと、「薬がネットで買えるからといって、市場が拡大しますか?」、「薬がネットで買えるからといって、あなたはもっとたくさん薬を買うようになりますか?」ということです。

おそらくほとんどに人にとって薬は具体的なニーズ(病気だ)というのがあって初めて買うのであって、ネットで買えるからといってたくさん買うことはありません。ネットで薬が買えることで市場が拡大することはあまり考えらません。

むしろネットで買えるようになると、店舗型薬局の売り上げが低下し、店舗縮小につながり、働く人が減ります。つまり職を奪います。その分をネット薬局が雇うということは考えられません。

イノベーション論のエキスパートのClayton Christensen氏は最近「資本主義のジレンマ」を話題にしていて、薬のネット販売のようなイノベーションの問題点を指摘しています。

Christensen氏によると、イノベーションには3種類あります。

1. 人間の可能性を広げるイノベーション (Empowering innovations): これらは今まで複雑で高価だったものを大衆に広げるもの。このようなイノベーションは新規雇用を生み出しますし、新しい需要を掘り起こすので経済成長を促します。
2. 持続的イノベーション (Sustaining innovations): これらは既存の製品を新製品で入れ替えるものです。職はあまり増えませんし、経済成長にはプラスにもマイナスにもなりません。
3. 効率化イノベーション (Efficiency innovations): これらは製造、販売、物流のコストを下げるものです。これらのイノベーションは職を減らします。

「市販薬ネット販売の全面解禁」は誰がどう見ても3番目の効率化イノベーションです。経済を成長させません。

ちなみにChristensen氏が「資本主義のジレンマ」としてあげているのは、ビジネススクールなどでの教育が間違っていたために、世の中は効率化イノベーションにばかり投資するようになり、本当に必要なempowering innovationへの投資が減ったしまったことです。

それにしても成長戦略の柱はパッとしません。いろいろな有識者を集めて議論しているのでしょうが、この程度のアイデアしか出ないというのは病気です。探し方が悪いような気がします。

Christensen氏のEmpowering Innovationsの定義を見るともっとアイデアが出るはずです。Christensen氏は一貫してイノベーションを「技術」や「技術力」の問題とせず、市場の問題として位置づけています。適切な技術を市場に持ってくるためのビジネス上の問題を議論しています。今まで存在しなかったものがフッと湧いてくることを期待するのではなく、高価だったり使いにくかったりしたものが大衆向けに生まれ変わることをイノベーションとしています。

その視点が必要です。

策略論・陰謀論が好きな人は本質を見失う

策略の観点から見たスマートフォンの市場

どうしてだかわからないが、世の中の人はものすごく策略や策略が好きです。大辞林を引用すると、策略とは

物事をうまく運び,相手を巧みに操るためのはかりごと。計略。 「 -を用いる」 「 -をめぐらす」 「 -にかける」

だそうです。

ここではスマートフォン事業における各プレイヤーの戦略と、それを解説するメディアについて考えます。

例えば本日「Tizen、Firefox OS……モバイルOSで新勢力が登場する背景にあるもの」という記事を佐野正弘氏が投稿しました。その中で新勢力が登場する背景として

  1. キャリアやメーカーが端末に独自のサービスを導入したいと思った場合でも、iOSのようにプラットフォーム側の制約を強く受けることなく、自由にできる。
  2. Androidは、当初こそオープンな姿勢が強かったものの、シェアを伸ばすに従って、開発の中心的な役割を果たしているグーグルの影響力が強くなっている。その結果、提供するアプリケーション、端末などさまざまな面において、独自性が出しにくくなってきている。
  3. つまり、プラットフォームを掌握する特定企業の影響力が大きくなることで、ビジネスの根幹にかかわる部分を握られてしまうことに対するキャリアやメーカーの懸念が、新OSの台頭に結び付いているといえそうだ。

佐野氏のような人の考え方は、スマートフォン市場を群雄割拠の戦国時代と見立てて、それぞれが領土争いをしている観点に立ったものです。そして他の企業に弱みを握られてしまわないように、製品の優劣とは別のところで策略を立てるのが企業のやり方だとするものです。

マーケットと製品から見たスマートフォン市場

本来、スマートフォン市場では製品の優劣で勝負がつくはずです。裏でメーカーが勢力争いをしたり、お互いの弱みを握ろうと策略するのは関係が無いはずです。TizenやFirefox OSなどの新勢力の登場についても、まずは製品の優劣の議論をし、それでどうしても説明がつかない場合に策略による解釈を試みるべきです。それなのに現実は、最初から策略の議論をしてしまっています。これは大きな間違いです。

私がここ何日か議論しているように、TizenとFirefox OSが登場するにはマーケティング上、そして技術上の必然性があります。それに沿って、私なりに「モバイルOSで新勢力が登場する背景にあるもの」をまとめます。

  1. 今後もスマートフォンが成長していくためには、ローエンドの市場を取り込む必要がある。これは新興国のみならず、先進国においても高額な固定データプランを払いたくない人(フィーチャーフォンを継続して使っている人)が多いからである。
  2. AppleはiPhone 4などの2年前の製品を継続して販売することでローエンド市場をカバーしている。またGoogleは事実上Android 4.0の製品ではローエンド市場をカバーできず、Android 2.3でローエンド市場をカバーしている(Android 4.0以上は1GBのRAMと1GHzのCPUを必要とするため、ローエンドに向かない)。
  3. つまり、各メーカーが自由に使え、低速CPUおよび少ないRAM (256MB~)で十分に動作するスマートフォン OSが必要になってきた。それを実現しようとしているのがFirefox OSでありTizenである。

今後のマーケット展望と既存の技術のミスマッチを考えれば、Tizen, Firefox OSの登場は十分に説明できます。策略を考慮する必要はありません。

見方が違うと展望が変わる

策略の視点に立つか製品・マーケットの視点に立つかで、いろいろなものの見方が変わってきます。

性能・品質にばらつきが出るのはオープンだからではない

佐野氏は

オープン性に伴う自由度が高いだけに、Androidで問題となっている端末のサイズ・性能や、アプリ品質のばらつきなどが生まれやすい。それがユーザーの使い勝手に悪影響を与えれば支持は得られないし、提供するハードウエアやプラットフォームの分散化を嫌うアプリのデベロッパーからの支持も獲得しにくくなる。

としています。勢力争いの観点でものを見ていますので、各キャリアやメーカーを取り込むためにはオープン性が有利だし、不可欠条件だと考えています。そしてオープンさは諸刃の刃で端末のサイズ・性能のばらつき、アプリ品質のばらつきを招いていると考えています。

しかし製品視点に立つと違います。製品の優劣においてはオープンかクローズドは無関係だからです。製品視点に立てば、性能のばらつきが起きたのはAndroidの必要スペックが一気に上がったためと推察できます。tsuchitani氏の記事を引用すると

2010年春に発売されたAndroid 1.6搭載のIS01がメモリ256メガバイトで動作していたのに、約半年後発表でAndroid 2.1.1搭載のIS03以降ではメモリ512メガバイト搭載が標準となり、その後しばらくこの容量で推移したものの、2012年初頭にはAndroid 4.x系へのアップデートを睨んでISW11SC(GALAXY S II)以降メモリの1ギガバイト搭載がはじまり、年末に最初のAndroid 4.1搭載機として発売されたHTL21(HTC J butterfly)からはフルHD液晶の搭載もあって遂にメモリ2GB搭載となりました。

そして、在来機種のOSバージョンアップの可否は、ほぼ例外なく搭載メモリ容量によって決定されてしまっています。

つまりAndroidの要求スペックが急速に高くなったため、2年前に購入した人と最近購入した人の製品スペックが全く異なります。またOSのバージョンアップをしたくても、1年前に購入した人ですらAndroid 4.x系にアップデートできず、Android 2.3の製品がまだ多く使用されています。

Androidのフラグメンテーションはオープンさに起因するのではなく、急激な要求スペック向上に起因すると考えた方が良さそうです。

クローズドでも性能・品質にばらつきが出る

例えばパソコンの世界では、未だにWindows XPの使用率が高いなどの性能・品質のばらつきが出ています。日本でのWindows XPの使用率を見ると、未だに全ネットユーザの15%を越えています。特に企業ではWindows XPを使い続ける傾向が強く、数十パーセントの利用率となっています。Androidに比べて圧倒的にクローズドなWindowsの世界でもこのようなフラグメンテーションが起こります。Windowsでフラグメンテーションが起こった理由は様々ですが、一般消費者の場合は価格やアップグレードの手間の問題、さらにWindows Vistaの要求スペックが高く、ネットブックでWindows XPを使わなければならなかった問題が挙げられます。企業サイドで言えば、既存のカスタムメイドソフトとの互換性の問題がしばしば話題になりました。

一方で2009年に発売されたiPhone 3GSは最新のiOS 6が搭載できます。iPhoneもAndroid同様に製品のスペックは劇的に向上していますが、それでも要求スペックは4年前の機種をカバーできるようにしています。iOSは85%のユーザがiOS6に移行していて、OSバージョンのフラグメンテーションがほとんど起こっていませんが、これはクローズドだからではなく、効率の良いOSをしっかり作ってきたおかげ、つまり製品が良いおかげと言えます。加えてOSのアップグレードを無償にしています。

こう考えるとiOSでフラグメンテーションが起こらないのは、クローズドであることが主な要因ではなさそうです。むしろ低スペックマシンにも対応できる、しっかりしたOSの土台を持っていること、アップグレードを非常に簡単にし、かつ無償にしていることがむしろ大きい要因と考えられます。

ダメうちでもう一つ例を挙げます。Mac OS Xです。Mac OS XはOSアップグレードの価格が安く、最近はDVDを購入することなく、オンラインですべてアップグレードできるため、アップグレード率が非常に高くなっています。しかしMac OS Xのアップグレード率の問題が一つだけあります。それはMac OS X 10.6 (Snow Leopard)を使用しているユーザがまだ30%ほどいることです。理由は簡単です。PowerPC用のソフトが動くのはSnow Leopardが最後だからです。Mac OS X 10.7からはPowerPCエミュレータのRosettaが外されています。つまり既存のソフトとの互換性が、フラグメンテーションの大きい要因となっているのです。

わずか1年前のスマートフォンでもAndorid 4.0にアップグレードできないなど、既存のデバイスとの互換性を完全に無視してしまったAndroidの世界でフラグメンテーションが起こり、様々なばらつきが出てしまうのはもう完全に必然です。オープンとクローズドとは全く別の話です。

上記を考えれば、「Firefox OSやTizenはオープンだから品質確保に苦労する」というのは誤りです。そうではなく、もしFirefox OSやTizenがしっかりとしたアーキテクチャーで作り込まれていて、低スペック機種から高スペック機種までをしっかりカバーできれば、品質確保では苦労しない」というのが正しい結論です。

Firefox OSのチームが最初はローエンドを狙うそうですが、これが大正解と言えるのはこのためです。

Androidがあまりにも高いスペックが必要で、ローエンドマシンに向かないという話

昨日もFirefox OS関連のブログを書き、その中でAndroid 4.0があまりにも高いスペック(iOS 6を越える)を必要としていることについて紹介しました。その関連で、以下の記事を見つけましたので紹介します。

tsuchitani氏による「【メモリ256MB】この軽さが実現するとは…Firefox OSが示すスマートフォンOSの新機軸」

Androidは元々組み込み機器で広く用いられているARMやMIPS、そしてパソコンで用いられているx86、と異なった命令セットを備えた機種で同じアプリが動作するように、Dalvik VMという仮想マシンをOS本体に内蔵し、その上で様々なアプリを動作させる一方で、それぞれのハードウェアに搭載されているCPUの命令セットを直接実行して高速動作するアプリも許容するなど、込み入った構造になっていて、しかもOSの進化の過程で様々な新機能や、アプリが新しい機能を利用可能とするための新APIを追加するなど、元々複雑なOS構造をさらに複雑化させるような方向で機能強化が進められてきた結果、高機能化の代償として必要となるメモリ容量はOSのバージョンアップの度にどんどん増大してきました。

Android搭載スマートフォンの場合、搭載されるメインメモリ(RAM)はバージョン1.xで256メガバイト、バージョン2.xで512メガバイト、バージョン4.0.xで1ギガバイト、バージョン4.1/4.2で2ギガバイトといったところで、事実上バージョン4.x搭載端末のみとなっている現行製品では、1ギガバイトあるいは2ギガバイト搭載(※ごく一部に継続販売中の製品でバージョン2.3搭載でメモリ512メガバイト搭載の機種が残っています)となっています。
つまり、Android バージョン1.x搭載の現行製品がまず「ありえない」現状では、端末に搭載されるRAMはどんなに削ってもバージョン2.x搭載端末で512メガバイト、バージョン4.0.xへのバージョンアップを考慮すると、せめて1ギガバイトは欲しい、ということになります。

そんなわけで、メモリ容量削減は結構スマートフォンの端末価格低減に「効く」のですが、既に記してきたように、最新版のAndroidが今更512メガバイトやそこらのメモリで動作するようになるとも思えず、512メガバイトのRAMで済ませるには「Androidではない」、RAM容量を余計に消費しない他のOSが必要になります。

画面の解像度を下げても、プロセッサグレードを下げても、OSそのものの稼動に必要なメモリ容量はそれほど変わるわけではありませんから、わずか256メガバイトのメインメモリでHTML 5対応Webブラウザまで動いてしまうこのFirefox OSは、本当にコンパクトにできていることがわかります。

未だ世界中で膨大な数の端末が稼動し続けているフィーチャーフォンを完全駆逐するとしたら、それはこのOSを搭載する端末になるのかも知れません。

結論としては私が昨日書いたブログと同じです。

Androidは進化の方向を間違えたのか?

以上のように、私は発展途上国でAndroidが下火になり、一気にFirefox OSやTizenが盛り上がってくると予想しています。もし本当にそうなったとき、Androidはなぜ失敗したのかという問題が当然ながら気になります。ずいぶん気が早いのですが、Androidの問題点は現時点で既に見えてきていますので、これについて考えたいと思います。

Java VM (Dalvik VM)という選択の誤り

AndroidはJava VM、正確には亜流のDalvik VMの上で動作します。JavaのJITコンパイラの性能が向上し、スピード的にはCで書いたプログラムに匹敵するようになったという議論はありますが、多くの場合これはRAMの使用量を犠牲になり立っている話です。確かにJava VMのJITコンパイラは高速です。しかしそれを実現するために、Cで書いたプログラムよりも遙かに多くのRAMを消費してしまいます。

携帯電話のようにハードウェアリソースが非常に制限されている状況では、Java VMという選択はある程度スペックを犠牲にしてもよいというものです。AndroidがそもそもJava VMという選択を採ったのは、その前に携帯電話の開発言語としてJava MEが使われていたことの名残だとも言えます。またハードウェアメーカーではないGoogleとしては、様々なCPUでも動作する開発環境が必要だったのかも知れません。いずれにしてもJava VMという選択はスペックを犠牲にしても良いという判断の上に成り立っていたと想像されます。

それではどうしてスペックを犠牲にしても良いという判断をしたのか?それはiPhoneを想定していなかったからです。OracleとGoogleのJavaに関する法廷闘争の中で、Androidの初期プロトタイプが公開されました。このプロトタイプは2006年のもので、iPhoneではなく、当時はやっていたBlackBerry様のデザインです。このことからわかるのは、Androidは2006年まではグラフィックス処理などをあまり必要としないBlackberry様のデバイスを想定していて、そのためならば処理能力は犠牲にしても良い判断したのだろうと思われます。

iPhoneは最初からグラフィックスをふんだんに使い、マルチタッチのUIを想定して開発されました。そのためには高い計算処理能力が必要と最初から考え、最適化された開発環境(Objective-C)を用意しました。

その一方でAndroidはガラケー並みの処理能力しか必要としないUIを想定して開発されました。一方で数多くのメーカーに採用してもらう必要がありました。そこで高い処理能力よりも移植性の高さを優先し、Java VMを採用したと思われます。

このようにAndroidがJava VMを採用した判断は、現在のスマートフォンを全く想定していない頃のものであり、今では足かせになっている感じがあります。

iPhoneと戦うことの誤り

Androidは完全にiPhoneに追いつき追い越せとやってきています。何とかiPhoneと同等のUIを手に入れたい、何とかiPhoneと同等の動作の滑らかさを手に入れたい、何とかiPhoneと同じ数だけのアプリをそろえたい、と完全にiPhoneを追いかけています。

そのためにローエンドに向けた製品を用意していません。Androidが低スペックデバイスで動作するようにはしていません。ローエンド市場は古いバージョンのAndroidでカバーするという状況になっています。

戦略としてこれは正しかったのでしょうか?

ポイントは

  1. iPhoneに果たして勝てるのか?本当にトップのブランドになれるのか?トップブランドになるのと2番手ブランドになるのとでは大きな違いがあります。業界をリードするトップブランドだけが本当のブランド力を手にすることは珍しくありません。Androidでそこまで勝ち切れるか、まだまだかなり疑問があります。
  2. ローエンド市場をガラ空きにしてしまっているのは大丈夫か?Androidのマーケットシェアが高いのは、かなりの部分ローエンド市場のおかげです。しかしそれをいつまでも古いバージョンのAndroidでカバーするのは危険です。
  3. ガラ空きにしてしまっているローエンド市場でAndroidがFirefox OSやTizenに負け始めるようなことがあるとどうなるでしょうか?

ここ1−2年のシナリオとして、Androidにとって最悪のシナリオはこうです。トップブランドでiPhoneに勝ちきれず、その一方でローエンド市場でFirefox OSやTizenが成功を収めはじめるシナリオです。そうなるとAndroidは中途半端な立場になってしまいます。おそらくは引き続きiPhoneに勝とうとハイエンド市場での勝負を仕掛けると思いますが、そうなるとAndroidをこれまで支えてきたローエンド市場を完全に失ってしまう危険性があります。

Clayton Christensen氏のInnovator’s Dilemma風に考えれば、上記の状況が続いているうちにFirefox OSやTizenの機能が増えて、アプリも増えてきて、そしてローエンドだけでなくハイエンドを伺うだけの能力を身につけてくるでしょう。Androidがこの時点でトップブランドになっていなければ、行き場を失います。

「ソニーも新OSスマホ 新興国向け」という記事を受けて

朝日新聞に「ソニーも新OSスマホ 新興国向け、14年発売目指す」という記事が出ました。

興味があるのは、メーカーがFirefox OSをどのようにとらえ、どのように活用しようとしているかです。

携帯のOSは現在、米アップルの「iOS」と米グーグルの「アンドロイド」が主流。ソニーはアンドロイドを使っているが、グーグルが求める仕様を満たす端末をつくるのに開発コストがかさむことがあるとされる。

まだFirefox OSの全容、特に低スペックデバイスでの動作について詳しく紹介した記事がネットに出てこないのではっきりはわかりませんが、先日のKDDIの石川雄三氏の発言と合わせると、ある程度特徴が見えてきます。

  1. 低スペックのデバイスで動作すること: これはおそらく低速のCPU (1GHzシングルコア)や512MB以下のRAMでしっかり動作することを指しているのでしょう。Android 4.0以降はRAMは1GByteが事実上の最低スペックになっており、かなり高スペックが要求されているのは事実です。
  2. バックグラウンドでのネットワーク使用が制限できる: これについては詳細はわかりませんが、KDDIの石川氏が明確に述べているので、事実でしょう。かなり興味深いスペックです。

Android 4.0以上はかなりの高スペックを要求するOS

Androidが要求するスペックがどれぐらい高いかについて考えてみます。

Androidの最新機種はクワッドコアの1.7GHzのCPUを使用しており、iPhone 5のデュアルコア 1.0-1.3GHz CPUと比較してかなり強力になっています。またAndroid 4.0へのアップグレードが提供された機種はいずれもCPUがシングルコア1GHz超(大部分はデュアルコア)、RAMが1GHzであり、RAM 512MBのものは容量不足のためアップグレードされなかったという記載があります。

それに対してiOSの場合は、2009年に発売されたiPhone 3GSもiOS6を搭載できますが、CPUは600MHz, RAMはわずか256MBです。iPhone 3GSはiOS5でのベンチマークが良好であり、おそらくiOS6になっても十分な性能が出ていると思われます(簡単なレビュー)。Appleがまだ好調に売っているiPhone 4もRAMは512MB, CPUは800MHzで、ハードウェアだけ見るとAndroid 4.0が乗らないぐらいのスペックです。

このようにAndroidはiOSと比べて高いハードウェアスペックを要求する傾向があり、低スペックマシンで最新のAndroidを動かすことは不可のな状況です。

発展途上国のスマートフォンのスペックは?

例えばブラジルでは”iPhone”の商標はAppleではなくGradiente社が持っていますが、そのGradiente社が発売する“Smartphone linha G Gradiente iphone, modelo Neo One GC 500” ($291)の性能を見てみましょう。

  1. CPU: 700MHz シングルコア
  2. OS: Android 2.3.4 Gingerbread
  3. 320 x 480 pixels
  4. タッチスクリーンはあるものの、マルチタッチはできない

相当な低スペックです。

Androidでは発展途上国のスマートフォン需要をカバーできない

はっきりしています。Android OSが今向かっているのはiPhoneとハイエンドを争うという戦略であり、発展途上国でAndroidが使われているのは主として古いGingerbread (2.3)やFroyo (2.2)の機種です。Android 4.0が無料のオープンソースであるにもかかわらずこれが使われていないのは、要求ハードウェアスペックが高すぎるからです。

低スペックのスマートフォン用でしっかりサポートされたOSが無いというのが現状です。Androidはここを全くカバーしようと考えていないのです。

ということでFirefox OSは発展途上国で成功するか

Google Androidが発展途上国の市場を半ば放棄している(古いOSでカバーしようとしている)状況を考えれば、Firefox OSもしくはSamsungのTizen OSが発展途上国でかなりの成功を収めるのは必至です。実は発展途上国のパソコンのOSがずっとWindows XPで、無料のLinuxがあってもそれに切り替わらないという状況がありますが、スマートフォンに関してはメーカーとキャリアがかなり本気です。パソコンOSのようにはならないでしょう。

GoogleやAmazonが採用しているビジネスモデルの問題点

AmazonのKindle Fire、そしてGoogleのNexus 7およびNexus 4はハードウェアを赤字覚悟の値段で売って、そしてコンテンツもしくは広告で利益を確保するという戦略です。これは古くからあるビジネスモデルであり、たまには成功例があるものの、うまくいかないことも多く、またイノベーションを阻害する可能性があることをこのブログでも以前から解説しています。

ハードウェアを赤字で売って、コンテンツで儲けようというやり方はゲーム機の世界で盛んに行われています。そのゲーム機の新製品サイクルは7年のようです。

ソニーがPS4を年末に投入すると発表されました。前のPS3が2006年11月に発売されたものですので、ちょうど7年前になります。2006年と言えば、AppleがPowerPCプラットフォームを離れ、Intelに移行開始した年。この頃に発売されたマシンは当然ながら最新OSのMountain Lionが動きません。大不評だったWindows Vistaがリリースされたのもこの頃です。またiPhoneはまだ初代ですら発売されておらず、日本はまだまだガラケー全盛時代です。GoogleはまだBlackberryタイプの携帯電話を開発していました。

7年というのはITの世界では記憶がかすむほどの大昔です。でもゲーム機の世界ではPS3のライバルのXbox 360が2005年の発売、任天堂のWiiも初代WiiからWii Uまで6年間空きました。

AmazonとGoogleが採っているビジネスモデルというのはそういうものです。ただしビジネスモデルが異なるAppleが業界を牽引しているため、イノベーションを緩めることができないのです。もしもAppleが何らかの理由でイノベーションを緩めてしまったら、AmazonもGoogleも緩めるでしょう。そうしないとコストの回収ができません。

ChromebookがNetbookと同じ道をたどるのは割と明白

AcerのChromebookのUSでの販売が好調だという記事が出てきました。

さて、関心事は果たしてMicrosoft Windowsが廃れて、代わりにGoogleのChrome OSが主流になるかどうかということです。

これに関しては数年前にNetbookの例がありますので、答えは割と簡単に出ます。

「仮にChromebookが成功しても、Netbook程度で終わる」というのはかなりの確度で言えます。

Microsoftが反撃するというのが予想されるシナリオ

今はChromebookが売れ始めたばかりなのでMicrosoftは静観しています。しかしもしも売れ続ければMicrosoftは反撃に出ます。おそらくはNetbookの時に低価格のOSを提供していたのと同じ戦略で、低価格PC用のOSを提供し始めるでしょう。

Netbookの時は、Linux搭載Netbookのシェアが増えるのを阻止するため、Netbook限定でWindows XPを提供したり、Windows 7 Starterを提供したりしました。Chromebookに対してもMicrosoftは同じ戦略をとるはずです。今話題になっているAcer C7 ChromebookはIntel Celeronが搭載されていて、RAMも2G載せています。ハードディスクも320Gあります。十分にWindows 7を動かすことができますし、Windows 8だって動きます。Windowsを搭載する上での技術的な障害はありません。ですから反撃は技術的に可能です。

残るのは価格戦略の問題です。Microsoftが反撃する上での価格戦略上の障害があるのかどうか。AcerはC7 Chromebookを$199-$229で販売するそうですが、品質的には決して十分なものではないようです。Amazon.comで見ると、例えばAcer Aspire Oneとほぼ同等の性能でこっちは定価が$330、Amazonでは$280で販売しています。価格差は大きくありません。Microsoftがより積極的な販売戦略をたて、なおかつSkyDriveの無料使用分を付ければ十分にChromebookと価格で競争できます。しかもWindows 8を搭載したまま。

したがって今回は、もしMicrosoftが反撃を開始するとすれば、Acerなどの低スペックモデルに割安でWindows 8を供給し、そしてSkyDriveの無料使用分を追加する形で反撃することが十分に予想されます。Google Docsの対抗製品であるWindows 365の無料使用分を付ける可能性もあります。

もしMicrosoftが反撃してきて、Chromebookが厳しいという状況になってくれば、Googleは最近お得意の赤字戦略に打って出るはずです。Nexus 7タブレットやNexus 4スマートフォンで見せている戦略です。特定のメーカーと組んで、赤字をかぶる価格でより積極的な低価格品を出してくるはずです。Netbookの頃との一番の違いはここです。Netbookの時は赤字をかぶる会社は通信会社でした。E-Mobileなどと契約すれば本体価格を無料にしてくれるものがありました。Googleが赤字をかぶる覚悟でいるというのはNetbookの時にはなかったものですが、この業界は常に赤字をかぶるつもりでいる会社はいますので、最終的にはNetbook時代とあまり変わらなくなる可能性があります。

結論としては、Microsoftが反撃することは十分に可能であり、Chromebookが売れ始めれば早めに反撃を開始すると予想されます。Googleは平気で赤字をかぶる会社ですが、MicrosoftもWindowsの市場を奪われるわけには行かないので積極的に最後まで戦うはずです。最終的にはChromebookを製造販売するメーカーが息切れをするだろうと予想されます。

どうしてiPadに対してMicrosoftは反撃しなかったか

iPadはかなりWindowsを脅かしていますが、Microsoftは十分な反撃ができていません。なぜならばハードウェアが全然違うし、操作性も全然違うからです。Microsoftはおそらく十分に脅威を認識していたと思います。しかし正面から反撃する手立てがなかったのです。技術的に反撃できませんでした。iPadの類似品が作れませんでした。またGoogleみたいにiPadをそっくり真似ることをしないのは、Windowsとの関係を考えなければならないからです。この面からも類似品を作るのは困難でした。

それに対してChromebookは技術的には容易に反撃できます。WindowsやOfficeなどの戦略との関係を考えても、反撃するのは整合性があります。問題は価格戦略だけですが、これは危機感の問題です。危機感を持っていれば利益を圧迫してでも反撃に出ます。

Microsoftの牙城はどうすると崩せるのか

Microsoftの牙城を崩す試みは今まで何回となく起こっています。古くはシンクライアントがありました。Netbookも当初はLinuxを搭載する動きがあるなど、Windowsに対抗する面がありました。

でもWindowsは少しも揺るぎませんでした。なぜか。

実は1984年に若かりしBill Gates自身が語っています。

To create a new standard, it takes something that is not just a little bit different. It takes something that is really new, and really captures people’s imagination.

Chrome OSはそのレベルには遠く及びませんが、iPadは届いていたということです。

MS-OfficeがLotus 1-2-3に勝ったのはなぜか?

昔はオフィスソフトウェアといえば、Lotus 1-2-3やWordPerfectが圧倒的なスタンダードでした。MicrosoftはMS-Officeでそれをひっくり返しました。したがって市場をひっくり返すことは決して不可能ではありません。

しかしそのためにはパラダイムシフトが伴う必要があります。MS-Officeがスタンダードを奪った時のパラダイムシフトはWindows 95です。GUIが一気に普及しました。それまでのDOSとは全く違う、画期的に違うUIが生まれ、そしてMacintoshでGUI開発の経験を積んでいたMicrosoftは一気にPCの世界でもオフィスソフトウェアのトップメーカーになりました。

Bill Gatesが自ら語ったように、10年後の画期的なGUIの変化にともなってMS-Officeが一躍スタンダードになったのです。

このようなパラダイムシフトは今、PCの世界では起こっていません。Chrome OSがそれを起こす力もありません。

2013年はAndroidタブレットの赤字合戦

ドコモがAmazonに対抗して9975円のタブレットを販売するという話で、もう訳がわからなくなってきました。

AmazonやGoogleが赤字で売るようになった訳ですから、Androidタブレットの値下げ合戦は歯止めが無くなっています。もともとAmazonやGoogleはコンテンツ販売で設けるという戦略を立てていたようですが、コンテンツ販売に社運をかける会社が増えれば、当然これにも値下げ合戦が飛び火します。

コンテンツ販売についてはAmazonに一日の長があるような印象を受けますが、それは送料無料や当日発送などで差別化が可能な物理的な商品の場合であって、電子的な取引では特にAmazonに利があるわけではありません。Amazonも価格で下をくぐられてしまえば、対抗せざるを得ません。

ということで2013年はAndroidタブレットの値下げ合戦を越えて、コンテンツの値下げ合戦が始まりそうです。それもGoogleと同じようにコンテンツ販売が本来の商売では無いものの、仕方なくこれに参入してくる、体力のある企業が多くなりそうです。

ポストPCってどんなイノベーション?

「イノベーション」という言葉はかなり意味が広くて、乱用されています。「イノベーション」という言葉は非常にイメージが良いので、ビジネスのロンダリングにも使われます。つまり本当は道徳的に問題のあるビジネスであっても、「イノベーション」という言葉を使えば良く聞こえます。ですから一年前にブログの中でGoogle、Amazon、Appleの「イノベーション」を簡単に区別し、分類しました

一年経ってまた読み直してみると、方向性は同じももの、違いがより極端になったと感じます。

Googleのイノベーション

前回のブログでは、現在のGoogleのイノベーションはかなりつまらなくなっていて、他の企業が成功させたビジネスを真似て、無償で配ることだと紹介しました。GMail, Google Apps, Androidを例に出しました。

2012年で変わったのは、「無償」では足りなくなってしまったことです。2011年の間に、「無償」だけではiPhone, iPadに対抗できないことがわかってきました。そこで2012年の後半からは「赤字で売る」ということをGoogleは始めました。Nexus 7を赤字で売って、何とかタブレット市場にAndroidを浸透させようとしています。

その一方でAndroidで直接利益が出せているのはSamsungだけという不思議な関係が生まれています。(GoogleもMotorola買収によるハードを作るようになりましたが、赤字)

Amazonのイノベーション

AmazonのイノベーションもGoogleと同じように「赤字で売る」ことにかなり注力するようになってきました。もともと超薄利多売で、会社規模の割にはほとんど利益が出ない会社ですが、それがどんどん顕著になってきています。

2012年はGoogleもAmazonも「赤字で売る」ことに懸命になっていた一年でした。

Appleのイノベーション

Appleのイノベーションは、今まで存在しなかったものを作り上げ、分かりやすく一般消費者に浸透させることです。もちろん毎年iPhone, iPadのような画期的な製品は作れませんが、驚異的に薄いiMacを発表したりするなど、今までのやり方を継承しているように見えます。また競合が「赤字」に懸命になっていても、引き続き良い製品を作ることに集中しているように思います。

本当にイノベーション?

赤字で売るというビジネスモデルは昔からあり、悪用されてきた歴史も有り、不正競争防止法などで規制の対象になっています。ハイテク分野だからGoogleやAmazonのやっていることはイノベーションと呼ばれることがありますが、かなり微妙だ思います。競合の排除をしているだけで、全体にプラスにならない可能性があります。

ポストPCについて思うこと

これだけスマートフォンやタブレットが話題になってくると、ポストPCという話題が当然出てきます。でもポストPCという言葉の定義ははっきりしていないし、「イノベーション」と同様に乱用されている言葉です。

同じような枠組みでポストPCを少し考えたいと思います。

既存の製品を代替するだけのポストPC

大半の評論家のイマジネーションはここでまでしかありません。ポストPC時代というのを、タブレットがラップトップPCに変わるものととらえています。あるいはもっとイマジネーションに乏しい人は、タブレットでメールをやったり、Facebookやったり、映画を見たりすることをポストPC時代と考えています。

でもこんなのメチャクチャつまらなくて価値のない考えです。既存のものに入れ替わるだけでは全然面白くありません。こういう評論家が考えていることは、スマートフォンもしくはラップトップで既に実現していることばかりです。ポストPC時代になれば、安価にそれを楽しむことができたり、あるいは歩きながらできたりするということだけが新しい価値です。

でもたぶんこういうことを考えているのは評論家だけではなく、Apple以外のどの会社もそうだろうと思います。どんな業界でもそうですが、独創性豊かなトップ企業と二番煎じ企業の間にはそれぐらい大きなギャップがあります。バイオの業界で言えば、ABIとRoche, Promega, Bio-Rad, Takaraらなどのギャップと同じような感じです。トップ企業がヒトゲノムをどう読むかを考えているときに、二番手以下はどうやったら価格でくぐれるかを考えています。

コンピュータの世界に戻ると、2013年はAppleが真剣にポストPCを模索し、GoogleとAmazonは「赤字販売」をどうやって継続するかを工夫していくのだろうなと思ったりしています。たぶんAppleが出していく考えは多くの人が考えているポストPCとは全く違うのだろうなと思います。