安価を売りにしたAndroidタブレットは年末商戦にだけ強い:その2(2013年5月の米国タブレット使用統計)

[4月の書き込み](https://naofumi.castle104.com/?p=2089)で、Chitikaのデータを使って年末商戦でシェアを伸ばしたAndroidタブレットが、徐々に使われなくなっていることを紹介しました。

そのとき、以下のように考察しました。

> iPadは顧客満足度が高いため、口コミなどでどんどん使用する人が増えます。それに対して今回のデータを見る限り、Androidタブレットではこの自己増殖的なサイクルが回っていないようです。年末商戦など、強いプッシュがあるときだけ売れているようです。特にSamsung製品だけが好調なことから見られるように、強いマーケティングやセールスインセンティブがによるプッシュが無いと、Androidタブレットは売れなさそうです。

昨日[Chitikaの5月のデータ](http://chitika.com/insights/2013/may-tablet-update)が出てきて、同じ傾向が続いていることが示されています。

1. クリスマス商戦でAndroidのWebアクセスシェアが上昇し、iPadのが下がりました。
2. 2013年に入ってからはiPadがじりじりWebアクセスシェアを伸ばしAmazon Kindle FireとGoogle Nexusは落としています。
3. Samsung Galaxy Tabは2013年に入ってからも徐々にWebアクセスシェアを伸ばしています。

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安価を売りにしたAndroidタブレットは年末商戦にだけ強い(2013年3月の米国タブレット使用統計)

Chitikaより2013年3月の米国タブレット使用統計が公開されました。

Chitikaが2013年2月に統計を公開したときにも言及しましたが、予想通りGoogle NexusやAmazon Kindle Fireの使用が落ちています。唯一堅調なのはSamsungのGalaxy Tabletシリーズです。

2月のデータの時に紹介した私の仮説を支持するデータです。

iPadは顧客満足度が高いため、口コミなどでどんどん使用する人が増えます。それに対して今回のデータを見る限り、Androidタブレットではこの自己増殖的なサイクルが回っていないようです。年末商戦など、強いプッシュがあるときだけ売れているようです。特にSamsung製品だけが好調なことから見られるように、強いマーケティングやセールスインセンティブがによるプッシュが無いと、Androidタブレットは売れなさそうです。

現時点ではまだタブレットを初めて買う顧客が多いのですが、数年後にはリピート顧客、買い換え顧客が増えます。現状が続く限り、その時のAndroidタブレットの市場は真っ暗になります。

March_Tablet_Update_Graph

27種類のスクリーンサイズを提供するSamsung、4種類を提供するApple

NewImageSamsungが提供するAndroidデバイスは実に27種類のスクリーンサイズをカバーしています。これを紹介したDerek Kessler氏のTweetがTwitterで盛んにRTされました。

これに対してAppleのiOSは3.5, 4, 7.9, 9.7インチの4つのスクリーンサイズしかありません。

どっちの戦略が正しいのか、様々な議論があると思います。しかし忘れてはならないのは、Appleも昔は目もくらむほどの多数ので製品を販売していたことです。

Everymac.comには過去に販売されたMacの情報がすべてアーカイブされています。Steve Jobs氏が復帰する前の1996-7年頃には、デスクトップだけでも以下の製品ラインがありました。

  • Macintosh Performa 5260, 5270, 5280, 5400, 5410, 5420, 5430, 5440, 6410, 6400, 6420
  • Power Macintosh 4400, 5260, 5400, 5500, 6300, 6400, 6500, 7200, 7220, 7300, 7600, 8500, 8600, 9500, 9600

それをバサッと整理して、有名な4製品グリッドに絞ったのです。

近年のマーケティング戦略に関する本を読むと、顧客の趣向が多様化し、多品種少量製品が重要になってきているという主張が多いのではないかと思います。1990年代のApple社は、当時の競合他社と同じようにこの戦略を採っていました。Samsungの現在の戦略もこれを継承しているように思います。

NewImageSteve Jobs氏の戦略はこの真逆でした。思いっきり製品を絞り込んで、少数の製品にフォーカスしました。しかも興味深いことに、一般的なマーケティングでは真っ先に登場する「予算」という切り口は使わず、プロフェッショナルとして使用するのか、およびノート型かデスクトップ型かの2つの切り口しか使いませんでした。

Appleが成功し続けるためにはより大きな画面をもったiPhoneが必要だとか、低価格のiPhoneを作らないと新興国市場で勝てないという外野の意見はますます大きくなっています。しかしAppleの幹部の多くはSteve Jobs氏が4製品グリッドを導入した時期も経験しています。製品が多すぎてフォーカスを失い、死にかけたApple、そして製品ラインを4つに絞り込んで復活を遂げたAppleを知っています。

Appleは別に宗教のように少数の製品にフォーカスをしているのではありません。それほど遠くない昔には多品種少量生産をし、そして臨死体験をしたのです。Appleは実体験に基づいて、少量多品種の危険性を知っています。そう、たぶんSamsung自身よりも。

iPadに関する自分の予想を振り返る

iPad生誕3周年ということで、3年前に自分がどのような予想を立てたかを振り返ってみようと思います。

そもそもこのブログは自分の考え方がどれだけ確かなのか、自分はどれだけ世の中の流れを正確につかめているかをはっきりさせるために書き始めています。もし自分が世の中を正確に把握できているのであれば、それなりに高い確率で予言が的中するはずです。逆に予言が的中しないということは、世の中を理解できていないということです。そういう意味でもiPadの発売当初に自分が立てた予想を見返すのは重要です。

私が書いたのは以下のポストです;

  1. iPadを見て思った、垂直統合によるイノベーションのすごさとアップルの宿命
  2. iPadのこわさは、他のどの会社も真似できないものを作ったこと

その中で以下のような予想をしています。

普通に考えたら、iPadと対等な製品を開発するのに5年はかかるのではないでしょうか。そのときはもちろんiPadも進化しているはずです。

iPadのすごいのは、アイデアがすごいのではなく、アップル社以外に作れないのがすごいのです。

iPadがどれだけ売れるかはまだ分かりません。でもかなり売れる可能性もあります。売れるとしたら、その市場セグメントはしばらくアップルが何年間も独占します。iPhoneがスマートフォンを席巻しているよりもさらに激しく、そのセグメントを独占してしまうでしょう。そういう大きな構造変化を起こしてしまう危険性を、iPadは持っていると思います。

そしてその根拠としてアップル社の垂直統合のすごさをあげています。

アップル社の垂直統合というのは、CPUからハードの組み立てからOSからアプリケーションソフトからオンラインショップまでのすべてをアップル社が持っているということです。そしてiPadにおいてはこのすべてのアップル社製になっています。アプリケーションソフトは確かに3rdパーティーが作ったものが非常に多いのですが、その流通チャンネルをアップル社が完全に握っているという意味ではやはり垂直統合モデルの一部と考えても良いと思います。

3年前の言葉ですが、2013年の今の状況を正確に予測できたことがわかります。特に「iPadと対等な製品」というのを「iPadと同等の人気がある製品」と定義すれば、3年たった今も対等な製品は全く現れていないと言えます。

また多少なりともiPadの人気に食い込んでいるのがAmazon Kindle Fireですが、これが成功しているのはハードウェアとコンテンツ販売を統合しているからであって、これもまた垂直統合の一つです。つまり水平分業しているところはどこもiPad人気に食い込めず、唯一垂直統合を試みたところが一つ成功しているだけです。垂直統合に着眼したことの正しさの裏付けにも思えます。

それならこの先はどうなると予想されるのか

とりあえず3年前の予想が今のところ当たっていそうなので、私の着眼点が正しかった可能性が高いと言えます。ならば同じ着眼点でさらに先を予想してみることができます。

私は3年前に述べたことをもう少し引用します。

特に問題なのはワードプロセサーと表計算ソフト、プレゼンテーションソフトのいわゆるオフィス系ソフトです。いまのところWindowsの世界で使われているオフィス系ソフトはほとんどマイクロソフトオフィスだけです。Google Appsという選択肢はありますが、まだまだ一般化している状態ではありません。そしてフリーのOpen Officeなどもありますが、無料だという以外には魅力のない製品です。ですからiPadに十分に対抗できるような製品(iWorkが使えるという意味で)を作るには、やはりマイクロソフトオフィスを載せることが、少なくともここ数年のスパンで見たときには必要になります。

アップル社の垂直統合の中でも特に真似るのが難しいのは、OSとアプリケーションソフトの両方を作るノウハウだと述べました。3年前のブログではアプリケーションソフトとしてオフィスソフトウェアのことだけを述べましたが、これはiPhotoやiMovieなどのマルチメディア系のソフトについても当てはまります。

私の3年前の予想では、アプリケーションソフトを含めた垂直統合ができない限り、iPadに対抗できる製品は作れないとしています。そしてこれを実現できる可能性がある会社はMicrosoft社とGoogle社であるとしました。そこでMicrosoftとGoogleの現状を見てみます。

GoogleはAndroid OSをかなり改善してきました。もちろんiOSという明確なターゲットがあって、基本的にはそれを真似れば良いし、それを法律ギリギリのところでやってきましたので改善は難しいことではありませんでした。その一方でアプリケーションソフト、つまりAndroid用のGoogle Docs(Google Drive)というのはあまりパッとしません。未だにプレゼンテーションソフトが無いなど、今時のオフィス業務をカバーできる状況ではありません。

MicrosoftはWindows 8の販売が不調と報じられ、また新タブレットのSurfaceもあまり売れないと言われているなど、まだ戦う体勢が整っていません。Androidと異なり、Microsoftは単にiOSを真似るのではなく、新しいアプローチを試みました。そのためにタブレット用の新OSの開発だけで時間がかかり、ようやくスタートラインにたった状況です。

このように3年たった今でも、GoogleおよびMicrosoftは未だにアプリ−ケーションソフトを含めた垂直統合でiPadに対抗できる状況にありません。したがって3年前の予想の通り、まだまだiPadの独占は続くでしょう。

予想とずれた点

私は当初はiWorksなどのオフィスアプリケーションを中心に考えていましたが、実際のiPadの使用状況を考えるとその視点は狭かったようです。iPadで実際によく使われているのはオフィスアプリケーションばかりではアンク、むしろブラウザやメール、写真、Facebook、Twitterなどです。それでも結果として予想が当たったのはなぜでしょうか。

考えてみれば当たり前ですが、スマートフォンやタブレット、そしてPCを使っているとき、私たちが実際に接するのはOSそのものではなくアプリです。アプリの善し悪しがそのデバイスのエクスペリエンスの善し悪しを決めます。オフィスアプリケーションだけでなく、すべてのアプリがそうです。

OSの主な役割は、アプリ開発の土台を提供することです。MacWrite, MacPaint以来、25年間のアプリ開発の経験を持つアップルはその土台がどうあるべきかをよく知っています。自らがOSの開発と、その上で動作するアプリの開発の両方を行っているので、アプリ開発の優れた土台が作れます。そしてサードパーティーのアプリ開発を的確に支援できます。

新しいモバイルOSはいくつも誕生しています。PalmのWebOS、FirefoxのFirefox OS、SamsungらのTizen OSなどがそうです。しかしOSの役割を考えれば考えるほど、優れたOSが作るためには豊かなアプリ開発経験が不可欠に思えます。新しいOSを作っているところが一番欠けているのは、このアプリ開発経験かも知れません。

予想の修正

2010年時点で、私は「iPadと対等な製品を開発するのに5年はかかるのではないでしょうか」と述べました。これを修正します。2013年の現時点からさらに5年かかりそうだというのが新しい予想です。本当はもっともっと時間がかかりそうな気がしていますが、ITの世界で5年以上先を予想するのはさすがに難しいので、5年に留めます。

修正の理由は以下の通り;

  1. タブレット市場はアプリの優劣が重要。その点、GoogleもMicrosoftもまだまだ戦える状況にありません。
  2. 「メディアを消費するためのタブレット」という誤った方向にシフトしつつあるAndroidが、生産性アプリなどに再び目を向けるには時間がかかります。
  3. Androidのフラグメンテーション問題は複雑なアプリの開発に相当マイナスに働きそうです。
  4. Androidタブレットの価格破壊はイノベーションを阻害します。
  5. iPadの真の対抗馬はAndroidではなくWindows 8だと私は思っていますが、出足が思った以上に遅いです。
  6. Androidそのものの方向性が変化し、「iPadと対等な製品」の開発を支援できなくなるかも知れません。

iPadの初期のレビューから破壊的イノベーションを振り返る

2013年4月3日がiPadの発売日からちょうど3年間ということで、それを振り返る記事がネットにいくつか出ていました。

iPadの発売当初は、多くの技術評論家がこれを失敗作と呼び、そしてがっかりしていました。今となってはほとんどの人が忘れてしまっていますが。

こういうのを見て、「評論家は何もわかっていない」というのは簡単です。しかしそれではプログレスがありません。しかもClayton Christensen氏は破壊的イノベーションの条件の一つが専門家に見下されることだとも語っています。

Clayton Christensen氏が言うには、破壊的なイノベーションの特徴は以下の通りです。

  • いくつかの機能が不足していて、ハイエンドユーザのニーズを満たさない。
  • 価格が手ごろでローエンドユーザや新規ユーザを取り込める。
  • 使いやすさが改善されていて、ローエンドユーザや新規ユーザを取り込める。
  • 徐々に能力を増やしていき、ハイエンドユーザにも使われるようになる。

これに着目しながら、上記の記事からiPad発売当初の評論家の意見を引用してみます。

Why is the iPad a disappointment? Because it doesn’t allow us to do anything we couldn’t do before. Sure, it is a neat form factor, but it comes with significant trade-offs, too.

Things the iPad can’t do:

  1. No Camera, that’s right, you can’t take pics and e-mail them.
  2. No Web Cam, that’s right, no iChat or Skype Video chatting.
  3. No Flash, that’s right, you can’t watch NBC, CBS, ABC, FOX or HULU.
  4. No External Ports, such as Volume, Mic, DVI, USB, Firewire, SD card or HDMI
  5. No Multitasking, which means only one App can be running at a time. Think iPhone = Failure.
  6. No Software installs except Apps. Again think iPhone = Failure.
  7. No SMS, MMS or Phone.
  8. Only supports iTunes movies, music and Books, meaning Money, Money, Money for Apple.
  9. WAY, WAY, WAY over priced.
  10. They will Accessorize you to death if you want to do anything at all with it and you can bet these Accessories will cost $29.99 for each of them.
  11. No Full GPS*
  12. No Native Widescreen*
  13. No 1080P Playback*
  14. No File Management*

It was a bigger iPod Touch. I question whether those features would be enough to get people to buy new machines.

Not having a way to write on a pure slate device the size of piece of paper also seems pretty unnatural to me. One of the iPad demos shows a legal-pad background for note-taking, but then you have to use the on-screen keyboard.

It’s not going to revolutionize anything, it’s not going to replace netbooks, but it will find large and devoted audiences, particularly after the price drops and some features get added.

Any tablet computer, including Apple’s eagerly anticipated iPad, will face serious problems in generating big sales. Tablets look cool, but the reality is they don’t do anything new.

Fewer capabilities (than a netbook) but a similar size? Not a good start.

The tablet market has only succeeded as a niche market over the years and it was hoped Apple would dream up some new paradigm to change all that. From what I’ve seen and heard, this won’t be it.

9 Worst Things About The Apple Tablet:

  1. No Flash
  2. Its screen
  3. Its price
  4. Closed App Store
  5. Its name
  6. No multitasking
  7. No camera
  8. No USB
  9. AT&T deal

Ultimately, the iPad is a large iPod touch: a great device to draw your inspiration from, but perhaps not the seismic shift in technology that we were expecting.

でもiPadは馬鹿売れした

評論家の多数のネガティブな評価にかかわらず、iPadは爆発的に売れました。そこから読み取れるのは、以下のことです。

  1. 機能の多い少ないは、実際に売れるかどうかとは無関係
  2. 新しい機能があるかどうかも無関係
  3. ネットブックより機能が少ないのは全然問題ない
  4. 画期的な技術の変革を伴う必要も無い

つまり、大部分の技術評論家が常々着目している点というのは、製品が売れるか売れないか、破壊的イノベーションが起こるか否かにほとんど影響のない、かなりどうでも良い点なのです。少なくともiPadが馬鹿売れした事実を理解するためには、そう結論せざるを得ないのです。

ではいったい何が重要なのか。もちろん評論家に聞いても答えはわかりません。

アップルはなんと言っていたか。評論家が当てにならない以上、アップル自身の言葉しか頼りになりません。2010年のiPad発表から、Steve Jobs氏の言葉を引用します。

In order to create a new category of devices, these devices are going to have to be far better at doing some key tasks. They’re going to have to better at doing some really important things. Better than the laptop, better than the smartphone. Browsing the web, Email, enjoying and sharing photos, watching videos, enjoying your music collection, playing games, reading eBooks. If there’s going to be a third category of device, it’s going to have to better at these kinds of tasks than a laptop or a smartphone. Otherwise, it has no reason for being.
Now some people have thought, “well that’s a Netbook”. The problem is, Netbooks aren’t better at anything. …. They’re just cheap laptops. And we don’t think that they are a third category of device.

私が見るところのポイントは“some key tasks”。つまり一般人にとって重要な機能を選び取り、それ以外の機能はとりあえず無視。その重要な機能は既存製品よりも優れたものにする。そしてそれ以外の機能とはサヨナラする。

  1. 一般人が使わないけれども、技術評論家が好むような機能があるかどうかは気にしない。
  2. 新しい機能はなくても、既存のタスクがより多くの人に簡単にできるようになればそれで十分。
  3. 一般人が使う数少ない機能は、徹底的に良くする。

こうしてみると、iPadというのはClayton Christensen氏の理論そのままの破壊的イノベーションに見えます。評論家が発売当初は揶揄していたということもまたChristensen氏の理論通り。

北米における2013年2月のタブレットの使用統計

Chitikaより北米における2月のタブレットの使用統計が発表されました。

Chitika February 2013

特に今回は2012年12月、2013年1月のデータを並べて、ここ3ヶ月の傾向を見ています。

Chitika 2013 trends february

私が思うところでは、ポイントは以下の通り;

  1. Kindle Fire, Samsung Galaxy, Google NexusおよびBarnes & NobleのNookはいずれも年末商戦で大きく使用率が向上しました。しかし、どれをとっても2月には微増または微減となっています。Androidのタブレットはなぜ年末商戦でしか売れないのか?が気になります。
  2. Google NexusはKindle Fire, Samsung Galaxyから遠く離されたままで、その差を埋める様子は特にありません。評論家からあれだけ絶賛され、Googleが赤字で売っているとも言われている機種が、どうして販売が伸びないのかが不思議です。

仮説としては以下のことが考えられます;

  1. Androidのタブレットは贈呈用には人気ではあるが、自分のために買う人はあまりいない可能性。
  2. 何かを買うとき、通常は「必要かどうか」を考えて買います。しかしクリスマス商戦というのは、「必要かどうか」または「欲しい」ではなく、「何かをプレゼントしなければならない」という状況下における購買活動です。「必要かどうか」という基準ではAndroidは弱い可能性があります。
  3. Google Nexusのブランドは評論家に絶賛されることが多く、これはNexus 7のみならず、Nexus 4についても言えます。しかし実際の購買になると、Kindle FireやGalaxy Tabに負けています。Kindle Fireはamazon.comのトップページにずっと表示されていますし、すべてのページの右上にKindle Fireの広告があります。逆に言うと、それぐらいのことをやらないとAndroidタブレットは売れないとも言えます。
    Amazon top bar 2
  4. Samsung Galaxy Tabの強みはおそらくはマーケティングとチャンネル管理の強力さだと思われます。

長期的視点では以下のことが気になります;

  1. プレゼントとして買われたものが、どれぐらいの顧客満足度を維持できるのか?
  2. 顧客満足度が高ければ、自分用に買う人が増え、年間を通して売れるようになるはずです。果たしてそうなるのか?

タブレット市場ってどうなっているんだろうについて

IDCが10-12月の世界タブレット市場調査を発表していて、前年同期比75.3%の5250万台がメーカーから出荷されたというデータを出しています。ここまでは納得なのですが、意外なデータがたくさんありますので、これについて解説しながら、タブレットの市場の真の姿について考察してみたいと思います。

データは下のグラフの通りです。

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私が見ているポイントは以下の通り;

  1. SamsungがAppleについでシェアを獲得しています。なおかつ堅調にシェアを拡大しているのはSamsungだけです。しかしSamsungはこれといった話題になるようなタブレット製品を発表しておらず、どちらかというと注目されていません。Samsungが発表した話題商品はGalaxy Noteですが、これがタブレット出荷台数に入っている様子はありません。
  2. Amazonは出荷台数を伸ばしているように見えますが、実は2011Q4の時よりもシェアを落としています。2011Q4で大量に出荷した後、2012Q1, Q2で大幅に出荷台数を落としたためです。AmazonのKindle Fireについては、クリスマス商戦で非常に好調だったものの、それ以後は大幅に売り上げが落ちたことが言われています。通年で見るとiPadよりも成長率が低く、競争力を失っているように見えます。
  3. ASUSはNexus 7の数字が含まれています。価格が安い割には性能が良いと言われ、非常に評判だったNexus 7です。2012Q3にASUSの出荷台数が大幅に伸びているのはNexus 7効果だと思われますが、2012Q4には出荷台数を落としています。Nexus 7は販売が好調だったため、11月末まで米国で在庫切れとなっていたそうです。したがって2012Q4の出荷台数の低下はGoogleの需要予測ミスの可能性があります。Nexus 7の人気そのものが陰ったわけではないと考えられます。
  4. OthersもSamsungと同様に堅調にシェアを拡大しており、全体としてのシェアは20%と非常に高いです。

それぞれについて自分なりに考察してます;

  1. Samsungのタブレット販売数は以前から謎です。Samsungはタブレットの販売台数を発表していませんが、Appleとの裁判の中で米国での販売台数が公開されたことがあります。それによると、IDCの推測では2012Q2で2,391,000台が世界で出荷されたところ、米国では37,000台しか売られていなかったことがあります。もしIDCの推測が正しいのならば、ほとんどのSamsungタブレットは米国以外で売られたことになります。一方でタブレットの使用率は米国が圧倒的に高いというデータもあり、矛盾します。
  2. 2011年のクリスマス商戦語、Kindle Fireが急速に販売を落としたことについて、性能が悪かったことなどが言われています。それが真実だとすれば、性能が改善されたKindle Fire HDは2013年以降、大きく売り上げを落とさない可能性があります。経緯を見る必要があります。
  3. Nexus 7はKindle Fireと価格帯および製品のサイズが似ており、Kindle Fire同様の売り上げパターン(つまりクリスマス後に大幅に落ち込む)可能性が否定できません。これも経緯を見る必要があります。
  4. 中国では格安のタブレットが非常に好調に売れていると言われており、Othersの大部分はこれらだと私は想像しています。

まとめ

メディアで話題になっているKindle FireやNexus 7が思ったほどに売れていません。一方でSamsungとOthersが伸ばしています。いずれも西洋のメディアでは話題になっておらず、どうして売れているのかよくわかりません。IDCの推測がどれだけ当たっているかも含めて、タブレット市場の真の姿は見えていないのが現実ではないでしょうか。

現状ではタブレットの販売台数を発表しているのはAppleだけです。Appleの販売台数は劇的ではありませんが、出荷の伸び率が48%と高い状態を維持しています。他のメーカーはアナリストを煙に巻いていて、出荷台数も販売台数も都合の良いときにちらちら見せているだけです。この状態では何が起こっているかがわからないのも仕方ありません。

ポストPCってどんなイノベーション?

「イノベーション」という言葉はかなり意味が広くて、乱用されています。「イノベーション」という言葉は非常にイメージが良いので、ビジネスのロンダリングにも使われます。つまり本当は道徳的に問題のあるビジネスであっても、「イノベーション」という言葉を使えば良く聞こえます。ですから一年前にブログの中でGoogle、Amazon、Appleの「イノベーション」を簡単に区別し、分類しました

一年経ってまた読み直してみると、方向性は同じももの、違いがより極端になったと感じます。

Googleのイノベーション

前回のブログでは、現在のGoogleのイノベーションはかなりつまらなくなっていて、他の企業が成功させたビジネスを真似て、無償で配ることだと紹介しました。GMail, Google Apps, Androidを例に出しました。

2012年で変わったのは、「無償」では足りなくなってしまったことです。2011年の間に、「無償」だけではiPhone, iPadに対抗できないことがわかってきました。そこで2012年の後半からは「赤字で売る」ということをGoogleは始めました。Nexus 7を赤字で売って、何とかタブレット市場にAndroidを浸透させようとしています。

その一方でAndroidで直接利益が出せているのはSamsungだけという不思議な関係が生まれています。(GoogleもMotorola買収によるハードを作るようになりましたが、赤字)

Amazonのイノベーション

AmazonのイノベーションもGoogleと同じように「赤字で売る」ことにかなり注力するようになってきました。もともと超薄利多売で、会社規模の割にはほとんど利益が出ない会社ですが、それがどんどん顕著になってきています。

2012年はGoogleもAmazonも「赤字で売る」ことに懸命になっていた一年でした。

Appleのイノベーション

Appleのイノベーションは、今まで存在しなかったものを作り上げ、分かりやすく一般消費者に浸透させることです。もちろん毎年iPhone, iPadのような画期的な製品は作れませんが、驚異的に薄いiMacを発表したりするなど、今までのやり方を継承しているように見えます。また競合が「赤字」に懸命になっていても、引き続き良い製品を作ることに集中しているように思います。

本当にイノベーション?

赤字で売るというビジネスモデルは昔からあり、悪用されてきた歴史も有り、不正競争防止法などで規制の対象になっています。ハイテク分野だからGoogleやAmazonのやっていることはイノベーションと呼ばれることがありますが、かなり微妙だ思います。競合の排除をしているだけで、全体にプラスにならない可能性があります。

ポストPCについて思うこと

これだけスマートフォンやタブレットが話題になってくると、ポストPCという話題が当然出てきます。でもポストPCという言葉の定義ははっきりしていないし、「イノベーション」と同様に乱用されている言葉です。

同じような枠組みでポストPCを少し考えたいと思います。

既存の製品を代替するだけのポストPC

大半の評論家のイマジネーションはここでまでしかありません。ポストPC時代というのを、タブレットがラップトップPCに変わるものととらえています。あるいはもっとイマジネーションに乏しい人は、タブレットでメールをやったり、Facebookやったり、映画を見たりすることをポストPC時代と考えています。

でもこんなのメチャクチャつまらなくて価値のない考えです。既存のものに入れ替わるだけでは全然面白くありません。こういう評論家が考えていることは、スマートフォンもしくはラップトップで既に実現していることばかりです。ポストPC時代になれば、安価にそれを楽しむことができたり、あるいは歩きながらできたりするということだけが新しい価値です。

でもたぶんこういうことを考えているのは評論家だけではなく、Apple以外のどの会社もそうだろうと思います。どんな業界でもそうですが、独創性豊かなトップ企業と二番煎じ企業の間にはそれぐらい大きなギャップがあります。バイオの業界で言えば、ABIとRoche, Promega, Bio-Rad, Takaraらなどのギャップと同じような感じです。トップ企業がヒトゲノムをどう読むかを考えているときに、二番手以下はどうやったら価格でくぐれるかを考えています。

コンピュータの世界に戻ると、2013年はAppleが真剣にポストPCを模索し、GoogleとAmazonは「赤字販売」をどうやって継続するかを工夫していくのだろうなと思ったりしています。たぶんAppleが出していく考えは多くの人が考えているポストPCとは全く違うのだろうなと思います。

Webのフォントサイズについて

iPadのSafariはPC用のWebサイトがストレス無く閲覧できるようにデザインされていて、実際問題としてかなりその通りになっています。しかしiPad miniの登場で状況はかなり変わりました。iPadよりも画面サイズがかなり小さくなっていますので、現存のPC用のWebサイトは見づらくなっているのです。iPadだったら画面の拡大縮小をしなくても無理なく見られたものが、iPad miniだと拡大縮小が必要になってきたのです。

こうなると、PC用のWebサイトであってもフォントサイズを大きくし、PCからiPad, iPad miniのどれで見てもストレス無く閲覧できるようにした方が良さそうな気がしてきます。これについて、いくつかのポイントを挙げておきます。

  • iPadは縦向きで使った時が一番感動的に良いです。PCの画面は横長ですが、印刷された本は縦長です。目の動きの負担を考えると、各行の横幅は比較的狭い方が楽で、縦長の方がやはり読みやすいと思います。したがってiPad向きなデザインを考えるとき、特別な事情がない限り、縦向きでの使用を一番重視することになります。
  • iPad2, iPad miniの画面の縦向きの時の横幅は768pxです。一番大切な文字を読むことに関してはフォントは自動にスケールするので、実際のピクセル数はそれほど気にしなくて良いかも知れません。しかし768pxがどういう数字かはある程度考えた方が良いと思います。またiPad Safariは最大で980pxのWebサイトを自動的に縮小して768pxの実画面に納めます。最近のWebサイトは横幅が1000px以上のスクリーンを想定していますが、これらはまず第一にiPad Safariで見ると横にスクロールする必要があります。自動縮小無しiPad Safariでページを表示するためには、横幅を768pxにする必要があります。
  • Retina Displayによってフォントが鮮明になり、小さいフォントでも読みやすくなります。しかし人間の指は小さくなりません。リンクやボタンはretina displayであっても大きくしておかないといけません。
  • ボタンを快適に押すことができるサイズはAppleのiOS Human Interface Guidelinesによると44px x 44pxだそうです。例えばiPad non-retinaの実験 (横幅768px)。これはかなり大きくて、Webページのリンクは通常はテキストのフォントサイズ程度なので、前後の行間があることを考慮してもフォントサイズは15pxは最低欲しいということになります。しかし多くのWebサイトでは12px程度のサイズを使っているので、ボタンは快適に押せません。さらに横幅は1000px程度なので、これよりも20%程度画面は縮小されています。つまり既存のWebサイトのデザインでは拡大縮小しない状態ではリンクは快適に押せないのです。
  • PCの画面も最近は高解像度化が進み、画面サイズが小さくなっています。例えばMacBook Airの11インチは1366px x 768pxの解像度です。2001年から発売された白いiBookは12インチのディスプレイで1024px x 768pxだったので、同じpxサイズの文字が25%程度小さく表示されていることになります。やっぱり字が小さくなった分、読みにくくなっています。

こういう現状を考えたとき、PCのウェブデザインを考え直していった方が良いのでは無いかと思います。高解像度のノートPC画面に合わせる意味でも、iPad(特にmini)に合わせる意味でもフォントサイズを大きくしてリンクを大きくし、ボタンも大きくしていく必要があるでしょう。画面に一度に表示できる内容は少なくなりますが、現状のWebサイトの大部分はナビゲーションや広告をたくさん表示しているだけなので、工夫次第で対策が可能なはずです。

iPad miniは高すぎるのか?

USでのiPad miniの価格は$329から。Google Nexus 7やAmazon Kindle Fireは$199から。

よってiPad miniは高すぎるのではないか?

歴史を振り返ってみましょう。iPadはどうしてNetbookに勝つことができたのか。

Netbookとは

Netbookについてまず振り返りましょう。Wikipediaより。

  1. Netbookの始まりはAsusのEee PC (2007年)。価格は$260から
  2. 典型的なNetbookは1.2-4kg, $3-400, 7-12インチの画面。
  3. 最大でラップトップ市場の20%に達し、2010年にiPadが出るとマーケットシェアを落とし始めます。
  4. 2012年になるとNetbookは年間で25%売り上げを落とし、一方でiPadの販売台数がNetbookを超えます。

iPadは一番安いモデルで$499でした。

Windowsアプリがほぼ使えるNetbookと異なり、iPadは専用のアプリも非常に少ない状況でした (iPhoneアプリなら使えましたが)。Adobe Flashも使えなかったので、ウェブでも問題がありました (PC World)。キーボードもあるので、入力は(原理的には)Netbookの方が楽です。

iPadがNetbookに勝ったのは、「使える」から

どうしてiPadが勝ったのでしょうか?

なぞ?

おそらく答えはこうです。

  1. 誰が使えるか?: iPadはすごく簡単で、幼児にも老人にも使えます。家庭でパソコンを使う人の大半は設定の仕方とかそういうのが全然わかりません。操作法もよくわかりません。iPadはそういう人にも使えるものでした。そう、iPhoneと同じように。
  2. どこで使うか?: iPadはトイレやベッドの中でも使いやすいし、ソファーでゆったりしながら使うのに最適です。タブレットを一番使うのはテレビを見ているときという調査結果もあります。Netbookだとこういう使い方ができません。また立ちながら使うのだったらタブレットしか考えられません。
  3. 何に使うか?: みんながやりたかったのはウェブを見ることとメールを確認することでした。デフラグとかしていないWindows XPでInternet Explorerを使うのに比べて、iPadは非力なCPUながら、圧倒的にウェブの表示が速かったのです。しかもスリープから起きるのが瞬間的なので、思い立ったときにすぐにウェブが見られます。

つまりiPadが勝った理由は、1) ユーザ層を拡大したから、2) 使用する場所を増やしたから、3) ウェブとメールをより快適にしたから。一言でいうと「使える」を増やしたからです。

価格はネガティブ要素でしたが、ほとんど影響がありませんでした。価格ってそんなに重要じゃないのです。それよりは「使える」ことが重要です。

iPad miniは「使える」から$329、Android 7インチタブレットは「使えない」から$199

さてiPad miniに話を戻します。

Google Nexus 7やAndroid Kindle Fireって「使う」ことをあまり考えないで作られた製品です。安くすると買う人がたくさんいたから開発された製品です。HPが当初$400で販売していたTouchPadを店じまいの大売り出しのつもりで$99, $149で販売しだしたら馬鹿売れしたので、もしかしたら低価格タブレット市場があるのかも知れないとGoogleやAmazonは思ったのです。

7インチAndroidタブレットの使い勝手の悪さについてはPhil Schillerが2012年10月のiPad mini発表会で長々と語りました。YouTube

低価格7インチタブレットが本当に使われていないのは、前のブログでも紹介したChitikaのネットアクセス統計でわかります。

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このグラフの縦軸は、iPadのインプレッション100回に対してどうかという数字です。つまりGoogle Nexus 7は約0.8%のインプレッションシェア、Kindle Fireは0.6%のインプレッションシェアということになります。市場アナリストが言うようにこれらの製品が本当に売れているのであれば、全然使われていないということになります。

簡単な話、誰も使わないタブレットを売るためには$199の価格をつける必要があります。逆にどんなに使えない役立たずの製品でも、$199を切っていて、プロモーションがしっかりしていればかなりのは数が売れます。これはNetbookと同じ価格帯です。

iPadのように「使える」タブレットを売るのであれば$300以上しても大丈夫です。