iPhoneとAndroidに関する気になる記事

iPhoneとAndroidに関する興味深い記事が最近多いので、メモとして残しておきます。

日本でiPhoneが大人気という話

アップルが国内の10月のスマホ販売の76%獲得-カンター調査

10月に日本で販売されたスマートフォン(多機能携帯電話)のうち、米アップル社の「iPhone」(アイフォーン)が76%を占めた。

NTTドコモが販売したスマホのうち、アイフォーンは61%に上る。

情報元のKantarのTwitter上のTweetを誤訳したものがlivedoorで公開され、ネット上に話題になっていますが、あっちは誤りでこっちの情報が正しいです。

2013年の1月22日にはNTTドコモの加藤薫社長が

「スマホの総販売台数に占めるiPhoneの割合が2~3割なら取り扱いもありえる」

語っていました

2-3割のはずが、ふたを開けてみたら61%だったということです。

気になるのはNTTドコモのAndroidがどのような影響を受け、ドコモ全体のスマートフォン販売台数がどのように推移したかです。今までだったらばAndroidを買う顧客がiPhoneを買っただけで、スマートフォン販売台数としてはそれほど上がらなかったのか。それともこの61%はほとんどが上積みで、ドコモのスマートフォン販売台数が驚異的に伸びたのか。実際にはその中間のどこかに答えがあるのでしょうが、私はかなり上積みになったのではないかと予想しています。

オンライン広告はiOSの方がずっとよく見られているよという話

Apple widens lead over Android in worldwide ad impression share, now twice as large

こういう調査の絶対値はあまり信用できませんので、気にしていません。大切なのは iOSが3%上昇したのに対して、Androidが6%低下したことです。

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Black Fridayのオンラインショッピングでは、モバイルのうち82%がiOS

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これは単にページビューが多かったかどうかという話ではなく、実際にどれぐらいの売り上げが得られたかというデータです。しかもiOSユーザの方が顧客単価が高いそうです。

数字を見ていくと;
iOS全体: 17.3%
Android全体: 3.75%
Tablet全体: 13.2%
Smartphone全体: 7.8%
と紹介されいます。

iPhoneを 7.8% – 3.75% = 4.05% として計算すると、Android全体とiPhoneというのは競った数字になっています。したがっておそらくは、iOSとAndroidの差はほとんどがiPadによるものであり、Androidのタブレットがほとんど使われていないためにこのような顕著な差が生まれたのだろうと思います。

とにかくAndroidのタブレットはオンラインショッピングには使われていない。それに尽きます。

携帯電話の価格って何だろう。インドでiPhoneが2年契約で安くなる報道を受けて…

日本ではiPhoneなどは実質0円で買うことが可能です。実質0円というのは、2年間の通信料をキャリアが割引して、それで割引額の合計がiPhoneの本体価格と同じになるという仕組みです。つまり2年間キャリアと契約することを約束すれば、キャリアがiPhoneの代金を割引してくれるという仕組みです。

表題のインドの件は、いままではインドではこのような割引がなく、本体価格を丸ごと末端消費者が払わなかったのに対し、最近RComというキャリアがiPhone本体価格を割引してくれるようになったという話です。例えばインドでの iPhone 5S 16G本体価格は 53,500ルピー(約84,000円)であるのに対して、RComと2年契約(毎月2,800ルピー、約4,400円)を約束すれば実質 0ルピーになります。

「インドのような発展途上国でiPhoneを売っていくためには低価格のiPhoneモデルが必要だ」と多くのアナリストは述べていましたが、またしてもAppleは“Think Different”をしたことになります。

このようなアナリストが期待したほどにiPhone 5Cが安価ではなかったことからもわかるように、Appleの発展途上国での戦略は低価格モデルの導入ではなく、先進国で成功しているキャリア補填モデルであることは明白です。

まずRComとはどのようなキャリアか?

RComがインドでiPhoneを実質0円から提供するというのはいったいどれだけの意義があるのか。それを知るためにはRComがどのような会社かを知る必要があります。

Wikipediaによると、RComはインドで第二のキャリアで1.5億人のユーザがいます。そしてインドで4Gを提供する準備をしている2社のうちの1つだそうです。したがってインドでは相当に大きなキャリアであることがわかります。

RComがiPhoneを実質0円にするというのは相当にインパクトがありそうです。

加えて現在RComのウェブサイトに行くと、次の画面に転送されます。このことからRComがかなり本気だというのがわかります。

Reliance Communication

最初の画面の後のトップページもiPhoneばかりが目立ちます。

Reliance Communications Online Recharge Reliance Mobile India s premier GSM CDMA service provider

間違いなくRComは本気です。

iPhoneは誰が買うのか?

代理店、卸や問屋を相手にマーケティングやセールスを経験したことがある人なら常識ですが、メーカーは末端ユーザに製品を売る前に、まず中間業者や小売店に製品を売り込む必要があります。中間業者は必ずしも末端ユーザの利益を最優先していません。その上、中間業者が「売りたくない」「売り場に置いてやらないよ」と言ったら製品は売れません。

これは例えば安値を武器に市場に参入しようとするときに障害になります。既に販売されている高額な製品と競合するものとして安価な製品を新規に導入しようとして、中間業者はなかなかOKしません。末端顧客にメリットがあってもです。なぜならば高額な製品を売った方が中間業者は儲かるからです。営業の人はよほどのことがない限り、わざわざ高額な製品を購入し続けているユーザに安価な製品を紹介しに行きません。自分から売り上げを落としているようなものです。

Googleが安価に販売しているスマートフォンのNexusシリーズがことごとく売れていない理由はここにあります。キャリアとしては、高額なGalaxy Sシリーズを買ってくれる顧客にわざわざ安価なGoogle Nexusを紹介することはしないのです。

それではキャリアに「売りたい」と思わせるスマートフォンとはどんなものでしょうか?それはずばり、高額なデータプランを継続して購入してくれるような上客を(他のキャリアから)引き寄せてくれるスマートフォンです。そしてロイヤルティーが高く、長期継続してくれる顧客を呼び寄せるスマートフォンです。

それをやってくれるのがiPhoneです。そして今のところiPhoneだけです。

iPhoneはキャリアにとってのマーケティングツールです。広告です。客寄せパンダです。優良な顧客が手に入るのであれば、実質0円となるように補填することは十分にペイします。だからキャリアはiPhoneを買い、優良顧客に「あげる」のです。

キャリアはiPhoneを売っているのではありません。iPhoneを買っているのです。

キャリアがそこまでして顧客を欲しがる理由は?

通信キャリアはほぼ固定費のビジネスです。無線ネットワークを一端構築すれば、パンクしない限り、利用者が増えても増設はしません。利用者が増えてもインフラは同じで済みます。

ですから利用者が増えれば増えるほどキャリアは単純に儲かります。

逆にせっかくインフラを構築しても利用者が少なければあっという間に赤字です。それが固定費ビジネスの怖さです。

4Gネットワークが普及してくると、まずキャリアはインフラ構築のために大きな支出(固定費)を強いられます。その一方で回線に余裕が生まれます。その余裕分をなるべく優良顧客で埋めておきたい。余裕が少なくなるように顧客を増やしたい。それがキャリアの本音になります。

そこでRComは世界で一番優秀なセールスマン、つまりiPhoneを採用したのです。

今後は

Androidの急成長ぶりが注目されている一方で、日本と米国では逆にAndroidのシェアが下がり、iPhoneのシェアが上がっています

日本にいるとその理由はよくわかります。iPhoneの方が品質が高く、そして本体価格そのものはAndroidよりも高価なのですが、キャリアからの補填で実質ではAndroidよりも安価だからです。

注目されるのは A) 世界でのAndroidの成長が継続し、iPhoneのシェアが下がっていくのか? それとも B) 日米を追いかけるように、他の国でも徐々にAndroidのシェアが下がり、iPhoneのシェアが上がる局面を迎えるか、です。どっちのシナリオが主になるかです。

そして上記の議論にしたがうと、Aが主になるのかBが主になるのかは直接的には携帯電話本体の価格や顧客の経済力によって決まるのではありません。むしろキャリアのビジネスの構造、例えば利益や次世代通信インフラへの投資によって決まります。例えば途上国のキャリアが積極的にデータ通信インフラに投資すれば、固定費が多くなり、それを埋めるための良質の固定客を積極的に集める必要があります。これはB)に傾くシナリオです。

A)のシナリオが主であり続けるならば、いずれAppleはiPhoneの価格を下げて、新興国での売り上げ拡大に走るでしょう。一方 B)のシナリオが多くなってくれば、AppleはiPhoneの価格を下げることなくシェアを拡大することができ、今まで以上に強い地位を築くことができるようになります。

Androidが登場して以来、A)のシナリオが特に途上国では主でした。しかしインドのキャリア補填が成功し、なおかつChina Mobileが中国でもiPhoneのキャリア補填を実施すれば、世界は急速にBのシナリオに傾くかも知れません。

その流れに注目していきたいと思います。

日本はいち早くポストPCに突入していた?

先の書き込みで、日本ではWindows XPのプライベートでの利用が多そうだという統計を紹介しました。なおかつこれが日本と韓国に固有で、その他の国ではWindows XPの企業利用は多いものの、プライベート利用は少ないと解説しました。

今回はその原因について推測してみたいと思います。

私なりに考えた結論は、これは日本(そして韓国)が世界に先駆けて、いち早くポストPCに突入していた結果ではないかということです。そして日本の現状を見ることで、ポストPC時代が理解できるのではないかと考えています。

では始めます。

プライベートでのWin XPが多いのは、7年間以上パソコンを買い換えていないから

Windows XPを使っていることの必要条件は、Windows XPあるいはそれよりも古いOSがプレインストールされたパソコンを購入したことです。Windows Vista, Windows 7がプレインストールされたパソコンをわざわざダウングレードする人は希です。したがってWindows XPを使っている人が多いと言うことは、Windows Vistaプレインストールの機種が増える前のパソコンを未だに使っている人が多いと言うことです。

Windows Vistaは2006年末から2007年はじめにかけてリリースされた、Windows XPの後継OSでした。当初は動作が重く、評判が悪かったのですが、それでもパソコンにプレインストールされたのは主にWindows Vistaでした。例外としてはNetbookがあります。Netbookは2007年末のASUS Eee PC登場から数年間人気を博しましたが、性能が低いためにWindows XPしか走らせることができませんでした。2009年の9月にWindows 7が登場するまで、NetbookはWindows XPが標準でした。

このことから、未だにWindows XPを使っているユーザは、通常のパソコンであれば2006年以前に購入したものを、Netbookであれば2009年以前に購入したものを使い続けているユーザと言えます。とりあえずNetbookを除外して考えると、Windows XPを未だに使っているユーザは、2006年から2013年までの7年間の間、パソコンを買い換えていないユーザです。

つまりこうです。日本のプライベート用パソコンの多くは7年間以上買い換えられていないのです。そしてこれは日本(韓国)固有の現象で、欧米の国では起きていません。

なおGarbageNEWS.comでは内閣府の消費動向調査のデータを元に買い換えサイクルを抽出していますが、私の推測よりも若干短い結論になっています。海外の同様のデータは、私が探した限りでは見つかりませんでした。

どうして日本のプライベート用パソコンは買い換えられないのはiモードのため

日本のプライベート用パソコンが買い換えられていない理由は何でしょうか。もちろんWindows XPで十分だから買い換える必要が無かったなどと議論することもできますが、それだけでは日本(および韓国)と、それ以外の国の違いを説明することができません。日本(韓国)固有の事情が何か無いとうまく説明できません。

韓国のことはよくわかりませんが、日本の特殊事情としてはiモードが一番考えられます。iモードを使うとテキストメールはもちろんのこと、ウェブの閲覧も可能です。つまりパソコンのプライベートな使用用途は、日本ではほぼiモードでカバーされていました。特にウェブの閲覧が可能な携帯電話が2007年時点で広く普及していたのは、おそらく日本だけのことでしょう。日本だけが「プライベートではiモードがあればパソコンはいらない」時代に突入していたとも言えます。

日本ではiモードの普及によりプライベートでパソコンを使用する機会が激減したので、パソコンを買い換える必要がなくなったのでしょう。そのためにプライベート用パソコンを買い換える必要がなくなったのではないでしょうか。

iモードがもたらしたポストPC時代

前段の議論は若干乱暴ですが、仮説としては十分だと思います。つまり日本ではiモードが2007年時点で既にポストPC時代を到来させていて、そのためにプライベート用パソコンの買い換えが行われなくなってきたという仮説です。

これがポストPC時代の姿であったならば、いま欧米をはじめ、世界全体で始まっているポストPCのトレンドを先読みすることが可能です。

ポストPC時代の姿は

ポストPC時代にはタブレットがパソコンに取って代わると考えている人がいます。つまりパソコンを新たに買おうという人が代わりにタブレットを買う時代になるのではないか、という考えです。

しかし上述の議論からは違う姿が予言できます。

つまりポストPC時代ではそもそもパソコンを買い換えようとしません。したがってパソコン代わりにタブレットを買おうということも起こりません。古いパソコンはいざというときのWord、Excel、そしてスマートフォンで撮った写真の保管のためにのみ使用され、動作の快適さは要求されなくなりません。そのためいつまで経ったも買い換えられません。

日常的なメールの交換、インターネットの閲覧はすべてスマートフォンで行われるでしょう。ラップトップはおろか、タブレットすら使う必要はありません。なぜなら最近ではスマートフォン専用ウェブサイトが非常に多くなったからです。狭い画面でもウェブ閲覧は不便を感じなくなりました。最盛期のiモード専用サイト以上にスマートフォン用ウェブサイトは多くなっています。しかも大半が無料です。

最後に

最後に、ちまたのアナリストが語っているポストPCの姿と私が予想している姿の違いを挙げます。

  1. ポストPC時代の主役はタブレットではなく、スマートフォンです。タブレットの売り上げ台数がPCを超えたとしても、それは本質的には全く意味の無いデータです。
  2. タブレットはPCに置き換わりません。PCは買い換えられないまま、新しく購入されないままではありますが、家庭に残り続けるでしょう。
  3. タブレットの市場は最終的には余り大きくならないでしょう。ただし中国などではテレビの代わりに安価なタブレットを購入する動きがあり、これは大きな市場になる可能性があります。
  4. スマートフォンを中心とするならば、スマートフォンを差し込むとデスクトップパソコンに変身するようなドックが意外と人気が出るかも知れません。

Androidがいつ64bit対応するかでGoogleの戦略が見えてくる

iPhone 5sの64bit対応

iPhone 5sの新機能の一つは64bit化したCPUです。AppleはこれでCPU性能が2倍になるとしています。

これに合わせて、iOS 7も64bitに対応し、開発ツールのXCodeも簡単に64bit、32bit両対応のアプリが開発できるようにバージョンアップされます。

64bit対応は結構大変

64bit化の大きな特徴は、ソフトを書き換える必要があることです。Appleはハード、OS、そしてソフト開発環境のすべてをコントロールしているため、比較的簡単に64bitへの移行ができるはずです。実際、Macを64bit化する際も、非常にスムーズに移行できました。それに対して、ハードやデバイスドライバをコントロールしていなかったMicrosoft Windowsの場合は簡単ではありませんでした(参考に32bitから64bitへの以降に関するFAQをリンクしておきます)。

Samsungはいち早く、自分たちも64bitのスマートフォンを準備していると公表しました。しかし現時点ではAndroidはまだ32bitであり、64bit対応への言及はありません。

64bit対応はハイエンド向け

一方で64bit化のメリットは限定的だという意見もあります。メモリを大量に消費するアプリや大量の計算処理を行う場合は効果があるものの、通常使用ではほとんどさが出ないという考えです。これについてはベンチマークテストを見るまでは結論が言えませんが、いずれにしても64bitはハイエンド向けであるのは間違いなさそうです。

Googleは64bit化を急がない可能性がある

さて、私はこのブログでAndroidがローエンド戦略に舵を切っているようだと推測しています。

Googleの一般的な戦略はローエンドの顧客を含め、なるべく多くの人間を取り込むことです。Chrome BrowserがWindows XPで動作すること、さらに米国の一部の田舎で高速インターネットを提供し始めているのもこの戦略に沿ったプロジェクトです。Andy Rubin時代のAndroidを除いて、Googleは元来ハイエンドにフォーカスしてきませんでした。次期バージョンのAndroid KitKatも低スペックのハードで動作するように最適化されているといわれています。

もし本当にそうであれば、Googleはわざわざ64bit化を急がないだろうと推測できます。作業的には大変だし、ユーザと開発者に負担をかける割にはハイエンドユーザにしか利点がなく、戦略に会わないためです。

ということは、Googleの64bit対応の優劣とタイミングから、本当にローエンドに絞っているのか、あるいは引き続きハイエンドに注力して行くのかが分かるということです。

注視していきたいと思います。

ドコモのiPhone発売報道を受けて

ドコモがiPhoneを発売することになりそうだという報道が出て、やっとドコモがあきらめたかと思いました。いずれiPhoneを発売するしかないだろうというのは数年前からきわめてはっきりしていて、ようやく「ツートップ戦略」の空回りを受けてあきらめたのかなと思います。

さてドコモがiPhoneを売れば、国内市場がiPhoneだらけになるのはかなり明白です。そして国内の携帯メーカーが大きな打撃を受けることも間違いありません。それはそれで、誰もが予想できることなのであまり話すことは無いと思います。

興味があるのは、今回のことがどれぐらい世界の携帯電話事情に影響を与えるかです。

スマートフォンは今や先進国だけでなく、中国やインド、インドネシアなど、人口が多い途上国でも浸透してきています。ドコモがiPhoneを売るようになっても、世界のスマートフォン シェア争いには大きな影響はありません。

しかしスマートフォンアプリの市場、特に有料アプリの市場は未だに先進国で占められていて、発展途上国はあまり有料アプリを購入していません。しかも有料アプリ市場は、おそらくオンラインゲームの人気により、日本が世界で一番大きいのです。したがってドコモがiPhoneを発売することで、有料アプリ市場の大きなシフトがおこる可能性があります。

この辺りは以前の書き込み、「Android Google Playの収益の危険な地域性(その3)」でも紹介しました。

日本はドコモがiPhoneを販売していないのにもかかわらず、iPhoneのシェアが高くなっています。したがってドコモが仮にiPhoneを販売し始めれば、日本のiPhoneのシェアが激増し、Androidのシェアが激減する可能性があります。これは日本内でのGoogle Playの収益が激減することを意味します。日本の寄与が大きいだけに、日本一国での収益減少により、Google Playの全世界での収益性が減少に転じる可能性があります。

携帯電話は24ヶ月縛りがありますので、実際に数字に影響が出てくるのはこれから1年後ぐらいからだろうと思いますが、Google Playが大きく失速し、結果としてAndroidプラットフォームの将来性を疑問視する声が大きくなる可能性があります。

iモードがiPhoneに敗北した原因はiモード ブラウザか?

「iモードがiPhoneに敗北した理由は製品にこだわらなかったから」という書き込みを先ほどしました。その中で特にiモード ブラウザを取り上げて、ドコモが製品の改良を怠ったのが主因だとしました。そしてドコモが製品改良を優先していれば、もしかすると先にiPhoneに似た端末を開発できたかも知れないと述べました。

ただし、ドコモが製品の改良を全然してこなかったかというとそういうわけではありません。ワンセグやおサイフ携帯など、世界で初めての機能をいくつも取り入れていました。問題はこれらの機能が余り重要ではなかったことです。

ワンセグもおサイフ携帯もiPhoneには搭載されていません。それでもiPhoneは日本で非常に人気があります。

ここでは、iモードの主な敗因(iPhoneの勝因)がブラウザにあったことを示す情報と、iモードのブラウザの状況が惨憺たるものであったことを示す情報を紹介したいと思います。

iPhoneと特徴はパソコンと同等のネット閲覧ができることだった

Steve Jobs氏がiPhoneを発表したとき、iPhoneを“An iPod, a Phone, and an Internet Communicator”と紹介し、“Internet Communicator”というのはSafariブラウザのアイコンを使って紹介しています。それまでに携帯電話とiPodを融合した製品は存在していましたので、iPhoneの新しかった点はまさに“Internet Communicator”の部分、つまりSafariブラウザの部分であったことがわかります。

なおかつ初代のiPhone OSではサードパーティーのアプリはインストールできませんでした。アプリはHTML, CSS, Javascriptを使って開発し、Safariブラウザ上で動作させなさいというのがメッセージでした。ここでもSafariブラウザが中心です。

App Storeがまだできていなかった当初は、iPhoneはSafariをどうさせるためにこそ存在する端末とも言える存在でした。iPhoneで新しいのはSafari。そしてイノベーションはパソコンと同等のネット閲覧を携帯電話で実現したことでした。

スマートフォン購入の主な同期はパソコンと同等のネット閲覧ができること

まずは総務省が公開した平成24年版 情報通信白書です。この中の「スマートフォン・エコノミー」~スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化~の中で以下のように書かれています。

ウェブ調査結果に示すとおり、スマートフォンがパソコンとほぼ同等のウェブ閲覧機能等を有していることが、スマートフォン購入の重要な動機となっていると考えられる。

この根拠となるデータは「スマートフォン・エコノミー」~スマートフォン等の普及がもたらすICT産業構造・利用者行動の変化~に紹介されています。
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まず、①当てはまるもの全てに係る回答については、「パソコンと同じ画面で閲覧ができるから」との回答が57.4%(1位)に達し、「画面が大きくて見やすいから」との回答(2位、46.4%)が続き、パソコンと同等環境でのメールの使用(4位、37.2%)も上位を占めている。次に②最も決め手になった項目を1つ選択する回答についても、パソコンと同じ画面での閲覧が1位(22%)となっている。この結果を踏まえれば、スマートフォンがパソコンとほぼ同等のウェブ閲覧機能等を有していることが、スマートフォン移行の重要な動機となっていると考えられ、上記の重視度に関する分析とも符合していることがわかる。

iモードのブラウザは完全に時代遅れでした

NTT Docomoのiモードブラウザのウェブページに行くと、iモードブラウザ1.0とiモードブラウザ2.0以降の技術情報が紹介されています。

iモードブラウザ1.0は「主に2009年3月までに発売となった、ブラウザキャッシュ100KBまでのサイズに対応した機種をiモードブラウザ1.0と規定します。」となっています。

つまりiモードブラウザはiモード誕生の1999年から2009年3月までに一回も大きなバージョンアップが無かったのです。IT業界で10年というのはあまりにも長い年月です。

2009年に誕生したiモードブラウザ2.0はiPhoneの躍進に対抗して、やっとDocomoがバージョンアップを行ったものです。しかしiPhoneが搭載し、パソコン用のウェブサイトも閲覧できるSafariと比べて圧倒的に性能は低いものでした。主な特徴はブラウザのキャッシュサイズが500KBになったこと、UTF-8に対応したこと、BMPやPNGフォーマットの画像に対応したこと、Cookieに対応したこと、Javascript, CSSに限定的に対応したことだけです。これらの機能はiPhoneならずとも、AUやSoftbankの携帯電話で既に実現されていたものばかりです。

結論

今から振り返って分析すれば、答えは簡単です。

ユーザは潜在的にパソコンと同等にネット閲覧ができる携帯電話を望んでいました。

これを理解し、数々の技術革新をしながら実現したのがAppleのiPhoneでした。

ドコモはブラウザの重要性を認識していませんでした。10年前と同じ技術を使っていても問題は無いと考えていました。ドコモはiモードのブラウザを更新せず、iモードブラウザの開発を滞らせてもお財布携帯やワンセグの方を優先しました。そして10年間、iモードブラウザを大きくバージョンアップしませんでした。

iモードがなぜ敗北したかを理解するために必要なこと

上述でiモードの敗因はiモード ブラウザの開発を怠ったことだと結論しました。

次の問題は、どうしてiモード ブラウザの開発を怠ったかです。

これには技術力の問題そして既存のビジネスモデルの問題があるだろうと推測しています。また別の機会に考えたいと思います。

iモードがiPhoneに敗北した理由は製品にこだわらなかったから

i-mode(ガラケー一般)がiPhoneとそれを真似て登場したAndroidに敗北した理由はいろいろ言われていて、どちらかというと旧態依然とした組織や業界構造、ぬるま湯体質に目が向けられています(例えば日経新聞の特集)。

しかし私にはそれが釈然としませんでした。なぜならばこういう組織構造や業界体質は1990年代の半ば、i-modeが誕生し、そして躍進した時代と同じだからです。大成功から敗北という大きな変化を、固定された変数で説明することはできません。日本の組織構造や業界体質を理由に、ビジネスのダイナミックな変化を説明することはできないのです。

i-modeは技術的に停滞していた

私はi-mode用のウェブサイトを開発している経験から、i-modeの技術がiPhoneのみならず、AUやSoftbankの携帯と比べても抑制されていると感じていました。「抑制されている」というのは、ハードウェアやソフトウェアの進歩がi-mode規格に活かされていないという意味です。そしてこの状況は1990年代半ばのMac OSの状況、あるいは2010年頃のInternet Explorer 6の状況と良く似ていると感じていました。

この技術的な停滞こそがi-modeの敗北の原因ではないかと感じていました。

IT業界の変革は、ムーアの法則と古い製品の間の活断層で生まれる

ITの世界のダイナミズムの源泉はムーアの法則です。ICが誕生して以来、コンピュータの処理能力は毎年劇的なスピードで進歩しています。そしてその進歩に合わせてハードウェアが進化し、ソフトウェアが進化し、インターネットが進化し、サービスが進化しています。ムーアの法則があるため、ITの業界では立ち止まることが許されません。仮にビジネスの中心がサービスに傾きかけていても、あるいは独占的な立場を築き上げていても、ハードやソフトの進化を止めてしまうと、後ろから来る大きな波に埋もれてしまいます。

i-modeの場合は明らかにソフトが停滞していました。それはi-modeブラウザが一番はっきりしていました。携帯電話にフルブラウザが搭載できるぐらいにハードが進歩しても、i-modeブラウザでは相変わらずCSSやJavascript、Cookieが使えませんでした。i-modeははっきりと立ち止まっていました。

ムーアの法則により新しいことが可能になっているのに、既存の製品が停滞したままだと、そこに大きなギャップが生まれます。IT業界の変革は、その間を埋めるように、活断層で地震となるように起こります。

どうしてi-modeは進歩が停滞したのか

i-modeがどうして停滞したかを考える上で、中心的な立場にいた夏野剛氏の存在が非常に気になりました。彼がビジネススクール出身で、技術よりもビジネスに感心があること、そしてITの将来を議論するにも極めてボヤボヤしていることが気になりました。そこを手がかりに調べていったところ、夏野氏がどうしてi-modeの技術的進歩を止めたのがが簡単にわかりました。

2008年にASCIIに掲載された「夏野剛氏が退社のワケを告白」を参考に議論します。

技術軽視

その後のNTTドコモの強さは周知の通り。他社が追いつきたくても太刀打ちできない「ドコモ一人勝ち」の状態が長くつづいた。iモードが強かった秘訣は、「技術」ではなく「ビジネス」に徹底的にこだわったという点にある。

「iモードはビジネス的な見地から考えてきた。社内でも、ずっとこれは技術ではないと言い続けていた。IT革命の本質は技術のコモディティ化。技術を使うことが目標になっていては最悪。何かをするために技術を持ってくるのが本筋でしょう」

「何かをするために技術を持ってくるのが本筋でしょう」というのはもっともな意見です。Appleも技術を前面に出さず、何ができるかや使い勝手、使ったときのエモーションを大切にします。

ただしAppleの場合は、裏側では相当に技術を発達させています。「IT革命の本質は技術のコモディティ化」などとは決して考えていません。例えばiPhone用のSafariブラウザはAndroid用のどのブラウザと比べてもスピードが速く、なめらかです。GoogleはiPhoneの動きのなめらかさを真似ようと相当に努力をしていますが、未だに追いつきません。加えて様々なHTMLやCSS規格をモバイルブラウザに搭載すること(バグ無しで)に関しても、Safariは常にAndroidをリードしてきました。

「高度な技術は持っているけれども表に出さない」のがAppleで、「コモディティ化した技術を発展させなかった」のがi-modeだったのではないでしょうか。

技術を発展させなかったツケ

「MNP導入以降、何がドコモの強みなのかをはっきりしないまま、料金競争に巻き込まれている。そんなドコモを見ていると、すごく心が痛み、もっといろいろなやり方があるのになあ、という悔しさがある。最近の状況は正直辛い」と

ムーアの法則のため、一時は技術的に優位に立っていても、立ち止まってしまうとすぐに追いつかれます。

なおかつ夏野氏の考える「ビジネス」、つまりコンテンツやサービスを提供するプロバイダはそもそもがi-modeだけをターゲットしているのではなく、AUやSoftbankを使っているユーザもターゲットしたいと考えています。プロバイダにとってはi-modeの差別化、ドコモの強みはどうでもよく、どちらかというと他のキャリアと区別の無い状態を望んでいるのです。

料金競争に巻き込まれたのはごく当たり前のことです。

もしi-modeがフルブラウザ志向であったならば

以降は私の推測になります。

夏野氏の方針によってi-modeの技術発展は停滞しました。しかし日本のモバイルインターネットの事実上の標準はi-modeでした。その標準が停滞したのです。

仮にSoftbankやAUが自身のブラウザに新しい機能をつけても、i-modeにその機能が無ければコンテンツプロバイダは活用しません。i-modeユーザが一番多いからです。

もし夏野氏がビジネス志向ではなく、Appleのような技術志向であったならば、i-modeをより発展させ、フルブラウザとして発展させたでしょう。CHTMLに留めることなく、パソコンと同じようなHTML, CSSが使えるように技術開発に努めたでしょう。フルブラウザは2004年に既に日本でも登場していましたし、それより以前から海外では使われ始めていましたので、i-modeがフルブラウザ化していくことは技術的には十分に可能でした。

もしi-modeのフルブラウザかを阻害している要因があったとするならば、それは夏野氏の言う「ビジネス」(つまりコンテンツやサービス)でした。

i-modeがフルブラウザ志向であったならば、ガラケーの進化の道は大きく変わったはずです。

フルブラウザはCPUパワーを消費しますし、大きな画面でこと使い勝手が良くなります。必然的に現在のスマートフォンのようなデザインを必要とします。そして矢印キーによるナビゲーションでは限界があるので、タッチも採用したことでしょう。

思い返してみると、初代のiPhoneをSteve Jobs氏が発表したとき、彼はiPhoneを“An iPod, a Phone, and an Internet Communicator”と紹介しました。iPhoneの開発目標は第一に“Internet Communicator”だったのです(当初はサードパーティアプリ開発は準備されていなかったので)。

もしi-modeがフルブラウザ志向であり、それにとことんこだわっていたならば、かなりiPhoneに近いものができたはずです。

最後に

IT業界で技術にこだわらないと敗北します。ビジネスに過度に傾き、技術革新を怠ると、ムーアの法則が定期的に生み出す大きな変化の波にのまれます。

i-modeの敗北はおそらくはこれだけで説明できます。開発当初こそは技術的に優位に立っていましたが、しばらくしたらAUやSoftbankに真似られます。そして最後には徹底した製品志向のApple iPhoneの波にのまれます。

それだけです。

i-modeがiPhoneに化ける可能性はありました。しかしそれを阻害したのは他でもなく、夏野氏自身のビジネス志向だったのではないでしょうか。

私はそう思います。

ツートップ戦略の評価

ドコモが5月以来の「ツートップ」戦略を継承し、3機種を重点販売する「スリートップ」を行うことがロイターより報じられました(「ドコモの冬商戦、ソニー・シャープ・富士通を重点販売へ=関係筋」)。

ドコモの「ツートップ」戦略というのは、長年のパートナーであった国産メーカーを半ば切り捨ててまで敢行したものでしたので、新しい「スリートップ」の議論をする前に、ツートップの評価をするべきだろうと思います。

それで私の知る限り、最も終始するべき指標はMNPの出入りのデータではないかと思いますので、それを簡単に紹介します。

2013年6月までのデータですがHighChartsFreQuentブログにMNPの推移がまとめられています。

3社比較 MNP 携帯電話番号持ち運び 制度利用数の推移をグラフ化

その後の7月のMNPのデータは、au: +70,100, Softbank: +40,600, DoCoMo: -112,400 となっています。したがって少なくとも7月時点までは明確な改善は確認できません。

DoCoMoは業績発表でも、「ツートップ」戦略はMNP流出の改善につながっていないとDoCoMo自身が述べています。

かなり過激な戦略だった「ツートップ」でも明確な改善が見られませんし、「スリートップ」が「ツートップ」より効力がある根拠もありません。

国内メーカーにしてみれば、「スリートップ」戦略と、DoCoMoがiPhoneを導入するのと、どっちが痛いのか気になります。

i-modeとChristensen氏のlaw of conservation of attractive profits

i-modeの敗北についていろいろ調べている中で、池田信夫氏の「iモードの成功と失敗」が(結論は別として)興味深かったです。

何が興味深いかというと、私が以前にも言及したClayton Christensen氏の“law of conservation of attractive profits”との関連性が見えるのです。

池田信夫氏によるとi-mode創世記にはいろいろなことが起こりました。

WAPが携帯端末の限られた能力で普通のウェブサイトなみの機能を実現しようとしてデータを圧縮し、携帯端末用に最適化した言語WMLを開発したのに対し、iモードはドコモ独自のパケットで伝送し、中央のゲートウェイでTCP/IPに変換して、HTTPやHTMLなどのインターネット標準をそのまま使う方式だ。これはドコモの電話網でインターネットのエミュレーション(模擬動作)をやっているので伝送効率は低く、機能も限られている。

ところが、iモードはドコモだけで規格が決められるため、どんどんサービスを始めたのに対して、WAPの標準化が遅れたため、ドコモ以外の各社はそれぞれ独自の「WAPもどき」の方式でサービスを始めざるをえなかった。その結果、国際標準であるはずのWAPがかえってばらばらになり、標準化をほとんど考えない「NTT規格」だったiモードが事実上の国内標準となった。2001年に発表されたWAP2.0はiモード互換となり、実質的にドコモの規格が国際標準となった。

この明暗を分けた決定的な要因は、iモードをサポートする「勝手サイト」が大量に出現したことだ。WAPで読めるようにするには、WMLで書き、特殊なWAPサーバを使わなければならなかったのに対して、iモードのコンテンツはコンパクトHTML(簡略化したHTML)で書いて普通のウェブサイトに置くだけでよいため、だれでも自分のホームページから情報を発信でき、勝手サイトは爆発的に増えた。

Christensen氏の理論に従って上述の経緯を解釈すると以下のようになるのではないかと思います。

  1. WAP技術は携帯端末に最適化された新規格だったのに対して、iモードはインターネット標準をそのまま使うものでした。そして少なくともDoCoMoのキャリアネットワークでは、強いて携帯端末に最適化された新規格を採用しなくても、インターネット標準で十分でした。つまりWAP技術はそもそもがモバイルデータ通信をする上でのポイントを外していて、“attractive profits”が得られるポイントではありませんでした。iモードのインターネット標準で”good enough”だったのです。
  2. むしろモバイルデータ通信を普及させる上でのボトルネック(“not good enough”)はコンテンツを整備する環境でした。iPhoneのようにPCサイトをフルブラウザで見られるような時代ではなかったため、モバイル専用に書かれたウェブサイトが不可欠でした。WAPの場合はWMLという新しい書式でページを書く必要があり、なおかつウェブサーバも別個の設定が必要でした(WAPサーバが必要と池田氏は述べていますが、これは誤りでしょう)。WAPのコンテンツを作るのは簡単ではなかったようです。一方i-modeはコンテンツ作りを楽にしてくれたので、i-modeに“attractive profits”が集中したのだろうと考えられます。
  3. i-modeが全盛を極めている間は、携帯端末は“good enough”でした。i-mode自身が規格上「軽い」ウェブサイトしか受け付けなかったので、高性能な携帯端末は機能をもてあましました。その結果“attractive profits”は携帯端末メーカーに蓄積せず、キャリアの御用聞きに成り下がらざるを得ませんでした。
  4. 時代が変わってiPhoneが登場すると、ボトルネックはコンテンツ整備ではなくなります。なぜならパソコン用のウェブサイトがiPhoneのフルブラウザで十分に見られるようになったためです。“not good enough”はむしろスマートフォンの性能や電池の持ちに移ります。そして優れたスマートフォンを開発できる少数のメーカーに“attractive profits”が集中するようになります。なおキャリアの御用聞きに成り下がっていた国内のメーカーには、iPhoneやSamsungに対抗するだけの資金力も技術力も蓄積されていなかったと思われます。

こう考えるとi-modeの栄枯盛衰の原因はかなりわかりやすくて、「携帯端末専用の規格が必要な時代だったか否か」だけで決まっているように思えます。

WAP規格が生まれた頃は「携帯端末用の特殊な規格が必要」だと思われていたのに、実際にはi-modeの「インターネット標準」で十分でした。i-modeの強みはコンテンツの作りやすさで、それ故に最高の「携帯端末専用規格」となりました。そしてi-modeをコントロールしていたドコモに“attractive profits”が集中しました。

しかしハードウェアとソフトウェアの進歩により「携帯端末専用規格」が不要になりました。i-modeが不要になりました。それだけです。

もしi-modeが海外進出を果たしていたとしても、Nokiaの代わりになっただけでしょう。iPhoneやAndroidに駆逐されるのを防いではくれなかったでしょう。Nokiaの惨状を見れば、海外進出などを議論するのはほとんど意味が無いと思えます。

問題があるとすれば、それはi-modeが不要になる未来を描けなかった(未だに描けない)ドコモにあるのではないでしょうか。逆説的ではありますが、自らi-modeを潰し、i-modeが不要になる未来をたぐり寄せるぐらいのことをしなければ、ドコモはi-modeを救うことはできなかったでしょう。

i-modeがどうしてあっさりとiPhone, Androidにやられてしまったかを考える

今作っているPonzuウェブシステム(デモ解説)ではPC版、スマートフォン版、そしてi-mode版を用意しています。

開発中はi-modeの規格とかなり格闘しましたが、一つ強く感じたことがあります。

それはi-modeが項もあっさりとiPhoneやAndroidに追いやられ、ほぼ全面敗北の状況になった理由は、決してマーケティングや海外展開力、キャリアとメーカーの利権関係、あるいはガラパゴス化の問題ではなく、単純に製品が悪かったらからではないかということです。

製品が悪かったというのは、第一にi-modeブラウザのことです。i-modeブラウザは2009年にブラウザが2.0となりましたが、その特徴を一部抜粋しました(ここから);

  1. Cookieに対応。以前のi-modeブラウザは非対応でした。
  2. BMP, PNGの画像表示が可能になりました。以前はGIF, JPEGのみ対応。
  3. Javascriptに対応になりました。以前は非対応。
  4. 外部CSSに対応になりました。以前は外部CSSに対応していませんでした。
  5. 準CSS2対応になりました。以前は対応していないCSSが多くありました。
  6. VGA描写モード(480×640)に対応。以前はQVGA描写(240×320)のみ。

各項目の詳細は省きますが、特筆するべきことはこれらの機能が2009年、つまりiPhoneが発表されてから2年間も経ってようやく搭載されたという事実です。

例えばCookieやCSS、PNGへの対応はi-modeが圧倒的に遅く、auやSoftbankの携帯では以前から普通に使えていました。ガラケーの世界だけを見ても、i-modeブラウザは機能的に遅れていました。

それもi-mode用サイトを作る開発者側にとっては、かなり痛いところが遅れています。例えばPonzuウェブシステムを例にとると、Cookieに対応してくれないとログインシステムが使えません。また外部CSSが使えないと、開発効率が大幅に低下します。CSS2に対応してくれないと表現力が大幅に低下します。i-modeブラウザはかなり本質的なところが遅れていました。

ドコモがi-modeブラウザの開発に真剣に取り組んでいなかったのはかなり明白です。Internet Explorerの開発を滞らせてしまったMicrosoftと完全にダブります。

i-modeがiPhone, Androidに駆逐された原因はいろいろ議論されています。議論の状況はクローデン葉子氏が良くまとめています。また小飼弾氏は良く言われるガラパゴス化の影響について、非常にわかりやすく否定しています

それぞれの議論には当たっている点もあると思いますが、不思議なことにいずれもi-modeの製品自体のクオリティーについては言及していません。あたかもクオリティーには問題は無く、戦略等に問題があったというような議論ばかりです。

でも確実にクオリティーの問題はあったのです。製品力が落ちていたのです。その点に目をつぶって議論するのは大きな間違いじゃないかって思います。