Google社内でSamsungの強さを危惧している?

タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状という書き込みをしたばかりですが、The Wall Street Journalに“Samsung Sparks Anxiety at Google”という記事が掲載されましたので紹介します。

Google executives worry that Samsung has become so big—the South Korean company sells about 40% of the gadgets that use Google’s Android software—that it could flex its muscle to renegotiate their arrangement and eat into Google’s lucrative mobile-ad business, people familiar with the matter said.

But Mr. Rubin also said Samsung could become a threat if it gains more ground among mobile-device makers that use Android, the person said. Mr. Rubin said Google’s recent acquisition of Motorola Mobility, which makes Android-based smartphones and tablets, served as a kind of insurance policy against a manufacturer such as Samsung gaining too much power over Android, the person said.

Several people familiar with the relationship between the companies said Google fears that Samsung will demand a greater share of the online-advertising revenue that Google generates from its Web-search engine.

Samsung in the past has received more than 10% of such revenue, one of the people said. Samsung has signaled to Google that it might want more, especially as Google begins to produce more revenue from apps such as Google Maps and YouTube, another person familiar with the matter said.

Samsungが具体的にどのような要求をAndroidに押しつけてくるかはまだ見えてきていません。しかし特にGalaxy Noteシリーズではマルチウィンドウやスタイラスなどの独自機能をかなり前面に出しており、Google
が提供するAndroidだけではタブレット市場で勝つには不十分だと考えていることが強く示唆されています。

FireFox OSも予想以上にメーカーやキャリアからの協力を取り付けている印象で、思いの外にAndroidに対するメーカー、キャリアの不満があるのではないかという気もします。2013年はその姿が少しずつ見えてきそうな気配があります。

大切なことは、マーケットシェア的にはAndroidとiOSが市場を二分しているとはいえ、新規参入の余地がまだあるということです。新規参入の余地は、既存の製品に顧客がどれぐらいの不満を持っているかによって決まるのであって、マーケットシェアによるのではありません。スマートフォンの場合、キャリアは通信料の増大に不満を持っているし、ユーザは電池の持ちに大きな不満があります。両者ともに、今までよりも良いものを求めています。SamsungがGalaxy Sを売り出してスマートフォンのシェア拡大を開始したのはまだ2年ちょっと前です。まだまだいろいろなことが変化し得ます。

タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状

iPadが圧倒的に強いタブレット市場において、それでも徐々にAndroid陣営は勢力を伸ばしつつあります。とはいえ、状況はGoogleにとってかなりまずいように思えます。なぜならAndroidを前面に出して売れている気配が全くありません。

iOS vs. Android

という構図ではなく、

Apple vs. Amazon

もしくは

Apple vs. Samsung

という状況になっています。テクノロジーブロガーはGoogleに注目しています。しかし実際の販売状況および利用状況を見る限り、Googleは「蚊帳の外」感すら漂っています。

以下データを見ていきます。

Millennial Mediaというモバイルの広告事業を展開している会社が発表したデータをまず紹介します(Apple Insider経由)。ここで見ている数字は広告がどれぐらい多く閲覧されたかを示すもので、広告はアプリなどに埋め込まれて表示されます。

まずはスマートフォンを含むデータ。Appleが2012年にシェアを25.36%から31.20%に伸ばしている結果となっています。Samsungも同様に16.80%から22.32%に伸ばしています。

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タブレットに限ったのが以下のデータです。Androidがシェアの41%を握るまでに成長しているものの、その原動力は圧倒的にSamsungによるものであり、次いでAmazonとなっています。GoogleがブランディングしているNexus 7はAsusのシェアに含まれていますが、Androidのうちのわずか5%です。

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AmazonのKindle Fireは、OSとしてはGoogleのAndroidを使っていますが、激しくカスタマイズされていてAndroidの存在感を消しています。それどころか、メーカー保証を損なうような改造を行わない限りGoogle PlayストアなどのGoogleのサービスを利用することができなくなっています。

SamsungはAndroidをそこまで改造しておらず、普通のGoogle Playを使うことができます。しかしスマートフォンでもタブレットでも圧倒的に強いSamsungはAndroidを脅かす動きが顕著に出てきています。独自のモバイル用OS Tizenを2013年中に発表予定していることもそうですが、スタイラスによるペン入力やマルチウィンドウの独自ソフトを組み込んで、Samsungだけの機能を強化しようとしている点も見逃せません。

Nexus 7はアメリカでの発売が7月で販売期間が短いという問題がありますが、機能の割には圧倒的に安い価格で提供していて、なおかつ評論家の間では非常に好評だったにもかかわらず、Samsungの遙か後方に位置しています。販売チャンネルをしっかり管理しているSamsung、独自の強力な販売チャンネルを持っているAmazonとの差がくっきり出ているように感じます。

なお同じような結果は同業者のChitikaからも発表されています。Chitikaのデータの違いは2ヶ月ごとに更新されている点で、そのため年末商戦に強いAmazonのシェアが高くなっています。

Chitika January Tablet Graphs 1 2

推察

GoogleはAndroid OS自身からは利益を取らず、Android OSを使っている利用者からの広告収入やオンラインストアで利益を得ようとしています。そのためにはAndroidがどう使われているかをある程度コントロールする必要があります。

しかしAmazonのKindle FireユーザはAmazonのオンラインストアに囲い込まれているため、Googleのストアが入り込むことができません。Kindle FireのブラウザもAmazon製ですので、Googleがコントロールできません。

SamsungはGoogleを排除していません。しかしGoogleのタブレット戦略はNexus 7後もほぼSamsung1社に依存しています。力関係は圧倒的にSamsungに傾いています。特筆するべきは、ちゃんと粗利を稼げるAndroidタブレットはSamsungしか作れていない点です。

Androidはタブレットのシェアを伸ばしました。しかしその犠牲として、Googleは市場をコントロールする力を失いました。価格崩壊も起きていて、混沌としています。2013年がどうなるか、予測不能です。

Androidばなれ

以前にSamsungがDoCoMoとTizen搭載スマートフォンを販売するという話に関連して、Android搭載スマートフォンが売れているのはGoogleの製品開発のおかげではなく、むしろSamsungのマーケティングに起因する可能性が高いこと、そして既にSamsungの方がGoogleよりも強い立場になってきているかもしれないという話をしました。

実はHTCも同じ考え方をしているかも知れないという情報が出てきました。

これは何かというと、HTC Oneの製品発表会でAndroidのことが一切語られなかったという話です。もちろんAndroidは搭載しているのですが、Androidに言及することはマーケティング上なんの利益にもならず、むしろ害があると判断したようです。

2013年はSamsung以外のAndroidメーカーが利益を確保しようと、あの手この手を使ってくるはずです。その中でAndroidのことを敢えて語らないというやり方は他のメーカーも採用するでしょう。

AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと

SamsungがiPhone, iPadのデザインを真似たとしてAppleがSamsungを訴えていたアメリカの裁判は、2012年8月24日に、Appleの勝訴でひとまず幕を閉じました。

その内容をカバーした記事はネットにあふれています。特に良いと思ったのはAllThingsDの特集でしたので、詳細を知りたい方は英語ですがご覧ください。

今回の裁判は一般人による陪審員裁判でしたので、特に興味深いのは判決の理由です。
陪審員の一人とのインタビューが紹介されていますので、ご覧ください。

陪審員の人が判決の中で一番重視した証拠を聞かれて、こう答えています;

The e-mails that went back and forth from Samsung execs about the Apple features that they should incorporate into their devices was pretty damning to me. And also, on the last day, [Apple] showed the pictures of the phones that Samsung made before the iPhone came out and ones that they made after the iPhone came out. Some of the Samsung executives they presented on video [testimony] from Korea — I thought they were dodging the questions. They didn’t answer one of them. They didn’t help their cause.

彼が言及しているのは以下の証拠と思われます。

  1. 「iPhoneとGalaxyを比較するとGalaxyのここがいけていない。よってiPhoneに似せるべし」というサムスンの内部資料。
  2. グーグルとのミーティングでグーグル側が「アップルとソックリすぎだからちょっと変えた方がいいんじゃないか?」と言ったというメール。

この判決に対する印象は様々ですが、私の印象は「相当に常識的な判断が下された」というものです。

この判決でAppleの力が強大になり、競合を閉め出し、結果としてイノベーションが停滞するのではないかという議論があります。特にネット関連の評論をしている記者やブロガーの多くがこの主張をしています。私は決してそうは思いませんが、彼らの言っていることは一理があることは否定はしません。

ただ陪審員が下した結論はもっと単純明快で

他の会社が何年もかけて苦労して開発した画期的な技術を、悪意を持って意図的に真似てはいけませんよ!

ということだと感じました。

良い判決だったと思います。

さて今後どうなるか。以下ではこっちの方を大胆に予想してみたいと思います。 Continue reading “AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと”