AppleがiTunes storeで新聞を配信する意義

AppleがiTunes storeでまもなく新聞の配信を始めるのではないかと噂されています。しかし売上げ低下に喘ぐ新聞社にとっても、全面的に都合が良いわけでは無さそうです。

このブログでその問題点を詳しく解説しています。

大きく問題になるのは、購読者の情報がAppleに握られてしまうということだそうです。購読者が了解しない限り(オプトイン)、顧客情報はAppleにとどまり、新聞社までは送られないそうです。

昨今の個人情報保護を背景に、Appleが小売業をやっていると考えれば、これは当たり前のことではあります。個人情報関連の法律では、了解無しに第三者に個人情報を譲ってはならないとなっていますので、Appleはこれをやっているまでだとも言えそうです。実際、スーパーで何を買ったかの情報が食品メーカーにまで行っていると言うことはないと思います。バイオの業界はちょっと微妙だったりしますが。ただし旧来の新聞社のビジネスモデルでは小売りまでも担当していましたので、問題となったのでしょう。

NewImage.jpg恐らくAppleが新聞社に言っているのは、「うちが小売りをやるから、あなたたちは良い記事を書いて、うちに卸してください」ということに近いのでしょう。Appleが小売りであれば当然小売価格の決定権はAppleに帰属します(そうしない法律的に問題になります)。新聞への広告の掲載にしても、Appleとしては「お金を集める活動はすべてうちが担当します」というスタンスかも知れません。

要するに、新聞社は今までは記事を書くところから初めて、印刷をし、配達をし、集金をし、販促をし、広告集めの活動までも行う、完全な垂直統合のビジネスをしていました。Appleの提案は、iTunes Storeを使えば、印刷、配達、集金、販促活動はうちがやります、ということでしょう。Appleにしてみれば、新聞社はとにかく記事を書くことにだけ集中すれば良いと考えているのだと思います。

もし新聞社がいつまでも垂直統合を続けていたらどうでしょう。果たして効率が良いでしょうか。果たしてインターネット配信の価格を印刷物よりも大胆に安くできるでしょうか。残念ながらそうではなく、いつまでたっても、そして印刷物の必要がなくなっても値段は下がらないでしょう。日経新聞の有料オンライン版が毎月4,000円、紙の毎月4,400円とほとんど変わらなかったのは記憶に新しいところです。垂直統合を解かない限り、旧来の組織と社内政治が大胆な施策を阻み、インターネット版の値段を押し上げてしまうでしょう。

別に配信はAppleだけに限る必要はありません。Appleも囲い込みを狙っているようには見えません。もし新聞社がAmazonと組みたければ、それを制限するようなことはしていなさそうです。Appleは独占を狙っているのではありません。

Appleは新聞社に大胆な構造変化を促し、インターネットの時代を生き延びられるような筋肉質なコスト構造にさせたいのでしょう。そうしない限り、今のままだと遅かれ早かれ新聞社は破産してしまいます。Steve JobsはAll Things Dのインタビューで言いました。「この国がブロガーの国になってしまうのは見たくない。健全な民主主義のためには編集を経た良質な記事が必要だ。新聞社が生き残れるように最大限のことをやって行く。」

一見違うように見えるかもしれませんが、少なくともいまAppleがやっていることは、Steve Jobsのこの言葉そのとおりだと思います。

Facebookが携帯電話を開発中?

Facebookが秘密裏に携帯電話を開発しているという噂が広がっています。

多分Androidでしょうね。

そういえばVerizonのAndroid App Storeがオープンするという話もあります。VerizonのApp Storeで売れた場合の手数料等(売上げの30%)は、GoogleではなくVerizonに入ります。

Androidはオープンにしているがために、好きなだけ利用されて、Googleにはお金が入らずに、他の業者にお金を稼がれてしまう可能性がありそうです。

オープンでお金を稼ぐのは一筋縄ではいかなさそうですね。

創業者社長が良い理由

ネットスケープの創業者としても有名なMarc Andreessenと共にベンチャーキャピタル “Andreessen Horowitz”を設立したBen Horowitz氏のブログに面白い記事がありました。

「我々がなぜ創業者社長を好むか」

ビジネスが立ち上がったら創業者CEOは退き、そして後はプロフェッショナルなCEOに経営を譲るべきだというのが一般的な常識だとした上で、その考えは誤りであると結論しています。

ポイントを以下に列挙しました;

  1. 大成功したハイテク企業の大部分は創業者社長が長く経営していました:Apple、HP、Intel、Microsoftなどは言うに及ばず、Sonyなども例として挙げています。
  2. 創業者は製品サイクルを見いだします:プロフェッショナルなCEOは製品サイクルを最大化する能力はあります。しかし製品サイクルを見いだす力はありません。製品サイクルを見いだすイノベーションはビジネスの中でも最も難しいものであり、プロフェッショナルCEOにその方法を教えるよりも、創業者社長にプロダクトサイクル最大化の方法を教える方が簡単です。
  3. 製品サイクルを見いだすためには、自社と市場と技術の深い理解が必要です:この知識が無いと、会社を全く新しい方向に向かわせる勇気が持てないとしています。
  4. Moral Authority (信望に基づいた権威):会社の根幹を築いた創業者社長には、時代に合わせてその根幹をひっくり返すだけの権威があります。外部から雇ったプロフェッショナルCEOにとっては既存のビジネスモデルを覆し、新しいものを取り込むことが非常に困難です。
  5. 長期的な展望へのコミットメント:長期的な利益にコミットすることは、しばしば短期の利益を犠牲にすることにつながります。創業者CEOは当然ながら長期にコミットしてます。一方でプロフェッショナルなCEOは短期的なゴールに影響されがちです。

全くその通りだと思います。

テレビってこのままでいいのかな… Apple TVなどに期待すること

我が家ではApple TVをそれなりに使っているのは以前にこのブログで紹介しました。ライフスタイルによりますが、結構良い製品だと思っています。

さて、Apple TVもしくはGoogle TVなどのようなデバイスは果たしてヒットするのだろうか?インターネットを観ていると多くの人がこの点を議論しています。

ほとんどの議論は細かい機能の各論です。でも多分それは意味がありません。非常に当たり前のことですが、顧客が買うのは機能ではなく、ニーズを満たすものです。どんなに優れたマーケティング活動をしても、どんなにたくさんの広告宣伝費をつぎ込んでも、どんなに優秀なセールスマンを雇っても、顧客のニーズを満たさない製品は売れません。ですからある製品がヒットするかどうかを議論するのに一つ一つの機能を比較したりするのはあまり価値がなく、ニーズがあるのかないのかを調べることが重要です。

とうことで、現在の日本のテレビシステムの問題点と満たされていないニーズを考えたいと思います。

番組がつまらない

日本のテレビは下らないコンテンツが多すぎます。もう敢えて解説するまでもないと思います。

面白いコンテンツがあれば、もっと番組を観てもらえるはずです。

東京のサラリーマンは通勤で毎日2〜4時間を過ごしている

その分、家でゆっくりテレビを見る時間がありません。ならば通勤中でも番組が観られるようになれば便利です。ワンセグはその方向に向かっていますが、完全な解答ではありません。

レンタルはネットでできるのが便利じゃない?

普通に考えれば、映画コンテンツ等のレンタルはネットでできるのが便利に決まっています。プロバイダによっては光インターネット接続を使って観られるものはあります。でも限定的です。またネット配信ではありませんが、いろいろな方法でDVDを物理的に届けてくれたりするサービスもあります。

それぞれ無いよりはマシですが、もうちょっと何とかならないのという気もします。限界の中で無理矢理やりくりをしているという感じが残ります。

今どき、なんでテレビだけオンデマンドじゃないの?

オンデマンドじゃないサービス、つまりあらかじめ決まった時間にだけ放送されるというサービスは基本的に消費者にとって不便です。ニュース番組やスポーツ生中継の場合はリアルタイムであることが重要なので、オンデマンドというわけにはいきません。しかしそれ以外のコンテンツがオンデマンドで放送されていない理由は、少なくとも消費者のニーズからはありません。

確かに20世紀は一斉に放送をする技術以外は現実的ではなく、ビデオをオンデマンドで配信することは困難でした。しかし21世紀の今、ブロードバンドインターネットがあればオンデマンドが簡単に実現できます。なのにそれがテレビで普通にできないのは明らかに問題です。

なんで録画しないといけないの?

確かに録画をすれば、見過ごした番組を後で見ることはできます。しかし録画を忘れるともう後の祭りです。なんで?

クラウドの時代なのに、そもそもなんでローカルで録画しないといけないのでしょう。どこかのサーバに保存されていれば、それを観ればいいんですよね。そんな感じでなんでできないんですか?

iPhone/iPadでなんで観られないの?

20世紀までは、動画が見られる画面はテレビしかありませんでした。パソコンでは動画の画質も悪く、観るのが大変でした。それが今では手元の100グラム強のスマートフォンで映画が見られます。しかも高画質です。

10年前の高画質テレビをしのぐ解像度のビデオが、今は手のひらの画面で鑑賞できるのです。なのにビデオコンテンツをそこに移してくるシステムが確立されていません。せっかくの高画質画面なのに、日本の場合は映像コンテンツがうまく観られないのです。

もちろんサードパーティーのソフトを使って、若干法律的にグレーな方法でDVDソフトを持ってくることはできます。でも面倒でしょう?それでは広く普及するはずがありません。

まとめ

現在のテレビシステムへの不満はまだまだあります。上に挙げたのはまだ一部ですが、それだけ見ても満たされていないニーズが多そうなのは分かります。

それにも関わらずApple TVなどがなかなか成功せず、未だにビデオコンテンツの消費の仕方が20年前から根本的に変わっていません。ですからヒットするのがApple TVなのかGoogle TVなのか、あるいは今後出てくる新しいものかどうかは分かりませんが、確実に何か根本的に新しいものが出てくるはずです。

Apple社は音楽について言えばiTunes Music Storeで音楽配信システムにかなり大きな変化を起こしました。ビデオについても何かやってくれることを期待しています。最後まで諦めなければ、いつかはヒットが生まれるでしょう。

市場の力関係とイノベーション、そして顧客の利益

「Appleは単に最高の製品を作りたいだけだ」と昨日のブログに書きました。

今日、Elia Freedman氏が書いた“Fighting The Wrong Fight”という関連する記事を見つけました。

Eliaが言っているのはこうです。

スマートフォンではAppleとGoogleの戦いが重要ではないんだと。重要なのは携帯メーカーとキャリアの間の戦いだと。そして携帯業界のイノベーションを阻害し、より優れたユーザエクスペリアンスを妨害していたのはキャリアだったとしています。

キャリアが携帯電話を販売し、通信サービスを提供します。どのようなソフトウェアがインストールされるかを決める権限を持ち、何ができて何ができないかを決定してきました。日本においてもそして米国においても、キャリアに力があったのです。それがiPhoneの場合は、力関係がひっくり返っています。Appleが決定権を持っているのです。この力関係をひっくり返してこそ、Apple流のイノベーションを携帯電話に持ち込むことができたとも言えます。キャリアにはそれだけのイノベーションをする能力もインセンティブもありませんから。

ただ残念なことにGoogleのAndroidはオープンであることを逆手に取られて、キャリアに利用されてしまっているとこの記事では解説しています。

さてバイオの買物.comとの絡みで僕がいつも考えているのは、ライフサイエンス研究用製品の市場がイノベーションを生み、そして顧客に利益をもたらす構造になっているかどうかということです。もしや従来の携帯電話市場と同じように、イノベーションを生み出さないところに力関係が傾いていて、そして顧客の利益が損なわれてしまっているのではないかと。研究の発展を促すためには、既存の市場構造を変革させ、そして顧客に力がシフトするようなものにして行かなければならないのではないか。常にそう思ってきました。

バイオの買物.comはどのようなプラスの効果を生み出しうるか。僕の考えをちょっとだけ紹介します。

  1. ブランド力に関わらず、顧客のために努力している会社の製品が売れる : バイオの製品は猛烈な数がありますので、研究者はどうしてもブランドでフィルターをかけて、探すのを楽にしてしまいます。すべてのメーカーのカタログを探すよりは、馴染みのブランドに絞って探した方がずっと楽です。でも各メーカーの製品を簡単に比較できるのなら、ブランド力のフィルターはあまり必要なくなってきます。ブランド力に関わらず、適正な価格であり、十分サポートを提供し、品質の良いメーカーの製品が売れやすくなります。
  2. 営業担当者等がより充実した製品知識を入手しやすくなる : この業界の営業担当者は製品知識があまりありません。もともと製品が多いのもありますが、各メーカーが無節操に製品分野を拡大した結果、営業担当者としてはますます難しくなってきました。バイオの買物.comがそういう人の勉強のツールになれば、より顧客のニーズにあった提案ができるようになるのではと期待しています。
  3. イノベーティブな製品が売れやすくなる : メーカーが新しくて革新的な製品を開発しても、それをマーケティングして普及させるのは簡単ではありません。次世代シーケンサーほどに革新的であればNatureとかが取り上げてくれますが、例えばClontechのIn-Fusion PCRクロニングキットとか、タンパク質レベルで発現を調節できるProteoTuner Systemとかはなかなか知名度が上がりません。バイオの買物.comによってこういう製品が注目されやすくなるのではないかと期待しています。

メーカーのイノベーションが促進され、サポート力が注目され、企業努力による価格抑制が顧客の目に留まりやすい市場環境。そしてブランド力や代理店との力関係に頼った顧客の囲い込み等が行いにくく、顧客価値の創出の結果として売上げが伸びて行く市場環境。現状が果たしてそうなっているかを常に考えながら、より良い方向に持って行くために貢献できたら良いなと思っています。

GoogleのHugo Barra氏:Android 2.2はタブレット用には最適化されていない

Techradarの記事 “Google: ‘Android not optimised for tablets”より。

あれ?って感じです。だって昨日書いたようにAndroidを搭載したTabletがたくさん発売予定になっていますよ。

どうやらこれらのTabletはAndroid Market (AndroidのApp Storeみたいなもの)のアプリが使えなくなりそうです。Android 2.2はTabletサイズに最適化されていないし、そういうアプリはAndroid Marketからダウンロードできないかも知れないとのことです。

いたたたっ!ですね。

NewImage.jpgGoogleは次のバージョンのAndroid (Gingerbread)でタブレットへの対応を強化してくるでしょう。噂によるとQ4 2010に発表されるみたいですが、2010年9月になってもまだ情報は無い状況です。

いずれにしても、足並みは揃わないですね。

同じように水平分業をしているマイクロソフトWindowsの場合、マイクロソフトが完全にしきっていますので、ここまでのハチャメチャ感は無いですね。

AndroidにしてもiOSにしても、ハードもOSもアプリの供給システムも大変なスピードで進化し、変化していっています。この状況では水平分業はつらいよねって思います。垂直統合の方がよっぽど楽そうです。

NewImage.jpgそういえばGoogleはChrome OSというのも作っていましたね。こちらは基本的にはNetbookをターゲットしたOSです。Touch UIも視野には入っているということですが、Webアプリを作っているデベロッパーはTouch UI対応をやってくれるでしょうか。少なくともiOSの傾向を見ると、WebアプリをTouch UI用に作り直すよりは、iOSアプリをつくってApple App Storeに無料で載せることの方が多いようです。Touch UIに対応したWebアプリはあまり増えなさそうに思えます。

こうなるとChrome OSをタブレットに載せても、まともに動くアプリ(Webアプリ)が無いということになります。Netbookの売上げがiPadを筆頭としたタブレットに相当に食われると予想されていますので、Netbookでしか使えないChrome OSだと将来が暗いのではないでしょうか。

アップグレードする毎に速くなるOS

Mac OS X Public Betaが発売されたとき、そしてBetaから抜け出してMac OS X 10.0 (Cheetah)が発売されたとき、あまりにも処理速度が遅くてがっかりしてしまったことを先日紹介しました。

今ではOSのアップグレードにより、処理速度が向上するケースは珍しくなくなりました。例えばiPhone 3Gで特に顕著だったのですが、iOS 4からiOS 4.1にアップグレードすることによって、ほとんど実用に堪えないほどに遅かったのが、ほぼ問題の無いレベル(iOS 3レベル)に回復しました。

またWindowsの世界では、重すぎて古いパソコンやNetbookでは使いものにならないと言われていたVistaでしたが、新しいOSのWindows 7にするとパフォーマンスが大幅に改善するそうです。

しかしMac OS X Public Betaが発売された2000年当時はそうではありませんでした。OSのアップグレードをしたら処理速度が遅くなるのはほぼ「常識」でした。処理速度の低下がどれぐらい顕著か、そして新しい機能がどれぐらい魅力的かを天秤にかけながら、最新の高速なパソコンに買い替えるべきかどうかをアップグレードのたびに考えたものです。

NewImage.jpgMacの世界ではSystem 6の時代はOSがフロッピーディスク一枚に納まり、そして何秒かかったかは計ったことはありませんが間違いなく1分以内に再起動してくれました。MacはしょっちゅうOSが落ちたので、再起動は一日に何回もやるのが普通でした。ですから再起動が速いのはとても便利でした。

System 7になったらOSはハードディスクに載せる必要が出てきました。OSが巨大化したのです。再起動も遅くなりましたが、各種の処理も非常に遅くなりました。ただ疑似マルチタスク等、どうしても必要な機能がたくさん追加されていました。そしてMac OS 7.5, 8, 8.5, 8.6, 9と進化していきましたが、一貫してOSは重くなっていきました。

NewImage.jpgWindowsの世界ではまともなGUIベースのOSが出たのはWindows 95が最初でした。後を次いだWindows 98はまだそれほど問題がありませんでしたが、マルチメディア機能等を拡充したWindows Meは悲惨でした。OSそのものが重くて処理が遅いのはもちろんのこと、RAMと高速CPUを搭載したパソコンに買い替えても状況は改善できない決定的な欠点を持っていました。OSそのものが決定的な限界を抱えていて、ハードをどんなに良くしてもダメだったのです。そしてこれらの問題を解消したWindows 2000とWindows XPは真のマルチタスクができる等、大幅に改善されたOSではありましたが、Windows 95, 98に比べて処理速度は重く、よりパワーのあるパソコンが必要でした。

このように、OSをアップグレードしていくに従って処理速度が落ちるのは常識でした。だからこそMac OS X Public BetaやMac OS X 10.0があまりにもパフォーマンスが悪かったときに、絶望的なほどにがっかりしてしまったのです。

NewImage.jpgこの常識を覆して行ったのは、Mac OS X 10.0 Cheetahの後を次いだ Mac OS X 10.1 Puma、Mac OS X 10.2 Jaguarでした。特に10.2 Jaguarはグラッフィックスカードの処理能力を引き出すことによって、大幅なパフォーマンス改善を実現しました。この時点でMac OS Xは実用に堪える処理速度を手に入れました。そして10.3 Panther、10.4 Tiger、10.5 Leopard、10.6 Snow Leopardと、どのバージョンでもパフォーマンスは改善して行きました。Windows VistaからWindows 7に行くまでのパフォーマンス改善も、期間は短かったのですがおおよそ同じ状況だったのだろうと思います。

もちろんすべてのマシンでパフォーマンスが改善した訳ではありません。OSの機能を拡充しながらの速度改善はマジックではありません。これを実現するためには、CPUが担ってきた処理を他のハードウェアに任せる等の方法がとられましたので、対応しないハードウェアではうまくいきませんでした。しかしハードウェアが対応している限りはOSの機能拡充と速度改善は両立していました。

Mac OS X 10.0 Cheetahのパフォーマンスが遅かったときは非常にがっかりしたのですが、iPhone 3GでiOS 4の速度が遅くても安心していられました。Apple社ならOSアップグレードでパフォーマンスを改善してくれるだろうって、信じることができました。そう遠くはない過去にそれをやってのけた訳ですから。

今ではOSにしてもアプリにしても、そしてウェブサービスにしても、機能を拡充しながら処理速度を向上させることが常識になってきました。

LinuxのUbuntu 10.04は超高速で再起動できることに注力しています。Windows 7はNetbookでも軽快に動くようにすることに重点を置きました。MacはSnow Leopardで大幅な減量と最適化を実現しました。

ウェブではGoogleがGoogle Instantを発表し、スピードへの飽くなきこだわりをまたも見せてくれました。ウェブページの速さがオンラインでの売上げに直結するというデータも出ています。

良い時代になったと思うと同時に、これを支えている多くのテクノロジーを開発した人間には本当に頭が下がる思いです。

Androidのタブレットは成功するか?

iPadと対抗すべく、多くのAndroidタブレットがまもなく発売されるそうです(“Ipad, a Wave of Android Tablets Are Gunning for You”)。

しかしAndroid携帯のマーケットシェアが拡大しているとはいえ、タブレットの世界でも成功する保証はどこにもありません。

Android携帯がシェアを拡大できているのは、Apple社がキャリアを制限していることが一番大きな理由だと考えられます。日本だったらiPhoneを売っているのはソフトバンクですが、ドコモだったらもっとたくさん売れたと考えるのは自然です。同様に米国ではAT&Tが独占的にiPhoneを売っていますが、Verizonが売ればもっともっと売れただろうと大部分の人が考えています。iPhoneがVerizonから出ていれば、Androidが入り込むスキすらなかっただろうという考えもあります。

いずれにしてもApple社はキャリアを制限することで、Androidに走り込むスペースを開けてしまったのは間違いありません。別な戦略的意図があったとは思いますが、シェア獲得という点だけ考えると、キャリアを制限したのは間違いなく不利でした。

タブレットの世界では、このキャリア問題の影響は小さくなります。WiFiだけのモデルがあることからも分かるように、携帯電話キャリアのネットワークに依存しない使い方が多いからです。

つまりAndroid携帯の最大の強みが、タブレットの場合は少ない、あるいは全く無いのです。

どっちかというと、タブレットの市場はスマートフォンのように展開するのではなく、MP3プレイヤーのように展開するだろうと僕は予想します。そう、iPodに支配されているMP3プレイヤー市場のようになるでしょう。ただ今回は最初からApp Storeが整備されているので、差はより圧倒的になるとも考えられます。

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Appleは単に最高の製品を作りたいだけだ

Steve Jobs氏はインタビュー等でしばしば “We just want to make the best products that we know how to make.” 「我々は単に自分たちが作れる限りの最高の製品を作りたいだけなんだ」と言っています。

僕はこれがApple社の偽らざる真実だと思っています。Apple社がクローズドで排他的であるとか、利幅を優先しているとか、いろいろな議論がされていますが、僕はこれは「結果」でしかないと思っています。Apple社が常に最高の製品を作ろうとしている「結果」なんだと。

今朝のブログで「一部の新しいAndroid携帯ではGoogle検索ができない?Bingしか使えない」ことを紹介しました。米国で最もネットワークが充実している携帯電話キャリアのVerizonは、自社とMicrosoft社の間の提携を優先して、自社ネットワークにつながるAndroid携帯に制限を加えているのです。そしてAndroidはオープンソースなので、Google社は全く何もできないという話です。このようにAndroidはオープンですが、オープンであることによってGoogle社は「最高の製品を作る」ことにこだわるだけの権限を無くしてしまったのです。

それはAndroid携帯のOSがおおむね古いバージョンになってしまっていることからも言えます。Android携帯のユーザがどのバージョンのOSを使っているかを紹介した記事、“Android 2.2 Finally Starts To See Wide Adoption, Now On 28.7% Of Handsets”によると、Android携帯のメーカーはなかなかアップデートを提供せず、おかげで多くのユーザは古いOSを使い続けなければならないそうです。オープンであるだけに、Google社はメーカーに対して最新のOSを使うように強く働きかけることが出来ず、おかげで最新の機能を搭載したOSをユーザは利用できないでいます。

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それに対して、クローズドで統合されたバリューチェーンのiPhoneの場合は、iOS 4を公開してからひと月で利用者が半分を越えたそうです。Android 2.2が公開から3ヶ月でやっと30%弱に届くのと比べると、ずいぶんと違います。しかも1年前に公開されたAndroid 2シリーズ以前のOSがまだ30%弱残っています。iPhoneの場合、1年以上前のOSを使っているユーザはわずかに3%です。最新のOSを使用しているユーザの割合はiPhoneの方が圧倒的に高く、逆に古いOSを使用しているユーザは圧倒的に少ないのです。

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多くのユーザが古いOSに取り残されていると、ソフトを開発するデベロッパーは最新OSの新しい機能を積極に使ったアプリが開発しづらく、常に古いOSでも動作するように機能を制限しないといけません。ですから「最高のソフト」が作れなくなってしまうのです。Apple社がクローズドなバリューチェーンを維持している理由はここにもあります。

Apple社が日本国内でドコモと組まずにソフトバンクと組んだのも、同じように「最高の製品を作りたい」からでしょう。ソフトバンクならば、Apple社流の最高の製品のコンセプトを理解し、それを実現するために共に協力してくれるとApple社は判断したのでしょう。短期的にはドコモと組んだ方が大きなマーケットシェアが獲得できるのは間違いないのですが、シェアは眼中に無かったのでしょう。それよりはイノベーションを通して「最高の製品」を作りやすいパートナーを選択したのだと思います。

Macintoshが1990年代にWindowsによって窮地に追いやられたことを引き合いに出して、「クローズドよりはオープンの方が最後には勝つ」と考えている人をしばしば見かけますが、Steve Jobs氏はそう思っていないようです。そうではなく、Macintoshが負けたのはApple社が「最高の製品を作る」ことを忘れたからだと判断しているでしょう。実際、1984年に生まれたMac OSを抜本的に書き換えることが出来ずに十何年間も引きずったわけなので、最高の製品を作ることはできていませんでした。過去の栄光にすがって、古い技術につぎはぎをしているだけでした。

iPodはiTunesと強く結びついたクローズドなシステムでした。マイクロソフト社の音楽フォーマット(WMA)などは再生できず、著作権保護された楽曲はiTunes Storeから買ったものしか再生できませんでした。それでも2009年時点のマーケットシェアは73.8%と報告されています。1990年代のMacintoshと何が違ったかというと、常に「最高の製品」を作り続けていたことです。そして値段も非常にアグレッシブでした。クローズドかどうかで言えば、むしろMacintoshよりもクローズドでした。

まとめると、重要なのはオープンだとかクローズドだとかではなく、また利益を優先しているかシェアを優先しているかとかではありません。少なくともApple社が重要だと考えているのは「最高の製品を作り続けること」であって、たまたまクローズドにした方がやりやすい場合が多いというだけだと思います。

大幅にマーケットシェアを拡大したと報じられているAndroidにしても、勝負はこれからです。短期的にシェアを拡大する道を選んだAndroidは、「最高の製品を作る」点において不利な立場に追いやられるでしょう。Apple社ではこう考えているはずです。自分たちがイノベーションのペースを緩めなければ、Androidはついて来れないと思っているのでしょう。

Mac OS X Public Beta から今日でちょうど10年

Mac OS XのPublic Betaが公開されてから今日で10年が経ちました。その歴史についてはWikipediaなどを参照するのが良いと思いますが、そのPublic Betaを新宿に行って購入した僕としては、とにかく長かったなぁ〜という気持ちです。

Wikipediaの記事も、またArs Technicaが当時書いたこの長文のレビュー記事もかなり良く書かれています。当時を知らない人、もしくはそのときはウィンドウズを使っていてマックを使っていなかった人は、せめてWikipediaの記事でも読むと良いと思います。

そこでここでは、あくまでも当時の自分の個人的な気持ちを書こうと思います。

まず当時のMacintoshの状況です。

OSはMac OS 9。1984年に発売された初代のMacintoshを継承したものでした。既に16年が経っていましたが、マルチタスクがうまく出来ないなど、1984年当時の負の遺産をそのまま継承していました。ちょっとしたことでOSごとフリーズしたりすることはしょっちゅうで、フリーズしないにしてもしばらく全く操作を受け付けないということはあっちこっちでありました。

マイクロソフトから1995年に発売されたWindows 95も同じような問題があったので、そのときはまぁしょうがないよねって流せました。Windows 95って、要は11年かけてやっと同じところまで追いついてきたのねって。でもWindows 2000が発売されると、もうそろそろこんなのではダメだということが誰の目にも明らかになってきました。Windows 2000はマイクロソフトが長年をかけて開発した、マルチタスクができる近代型のOSでした。Windows 95に将来的に代わるものして準備されていて(実際にはWindows XPで代わった)、この近代的なOSであればフリーズの問題などが大部分なくなりそうでした。

Windows 95はMac OS 9とさほど差はなかったのですが、Windows 2000は明らかにMacを越えていました。Macのファンであっても、もうダマしが効かなくなり、かなり暗い気持ちになってきていました。

1984年以来、次世代OSの開発に失敗し続けたApple社に、ようやく引導が渡されるのかな。そんな気持ちしてした。

Steve Jobs氏は1997年にApple社に復帰していて、2000年には正式にCEOになりました。一時は破産まで残り90日間という大ピンチを乗り越えて、Apple社は利益が出る会社になっていました。1998年にはiMacも投入して爆発的に売れました。しかしこれはまだ急場しのぎでした。なぜならOSはまだ旧来のものだったからです。OSを近代的にしない限り、長期的なApple社の復活はあり得ませんでした。

Steve Jobsは復帰当初からMacの次世代OSの開発を最も重要な仕事に挙げていました。NeXTのOSをベースに、全く新しい近代的なOSを作り上げると言っていました。これがうまく開発できて、そして多くの人が使ってくれれば、Apple社に復活の道が見えます。これができなければ、長期的にはApple社は必ずしぼんでしまいます。Windows 2000、そして噂されていたWindows XPの登場までもうあまり時間は残っていませんでした。

Mac OS X Public Betaはそういうぎりぎりの状況の中で生まれた製品でした。すくなくとも私はそう感じました。

でも実際に使ってみると、全然使い物にならない。

機能がまだそろっていないのは許せました。何しろベータなので。でも何よりもパフォーマンスが遅すぎました。2001年3月に発売されたMac OS X 10.0 (Cheetah)も大してスピードは良くなりませんでした。当時はWindows 2000を仕事で使っていましたが、それと比較するともう猛烈に遅かったです。すべての操作がもたつきました。

もうがっかりです。

もうだめかなと。

僕はCheetahが出て、これもすぐに家で試してみて、あまりにも遅いのでがっかりしたので、すぐにIBMのThinkPadを買いました。Windows Meという超駄作がプレインストールされていましたが、すぐにWindows 2000を買ってインストールしました。

もうMacを仕事で使うのは無理かなと。Apple社、だめだったのかなと。

今の飛ぶ鳥を落とす勢いのApple社からするととても信じることが出来ないような、とても将来が暗い時代でした。

Mac OS X。本当に良くここまで成長してくれました。ここまで立派になるとは、Public Betaのときは夢にも思いませんでした。

仕事で使うのは一時期諦めましたが、それでもずっと信じ続けて良かったです。

Public Betaに期待を寄せたのにすごくがっかりしてしまったファンは、みんなそう思っているはずです。

最後に、Mac OS X Public Betaの冊子に書かれていたApple社からのメッセージを引用します。

あなたの力が必要です。Mac OS Xを先進的で直感的なオペレーティングシステムにするために。そう、世界で最高の。

親愛なるMac OS Xベータテスターへ

Macintoshの未来は、あなたの手の中にあります。

Mac OS Xは、Macintoshを新世紀へと導く、全く新しい、次世代のオペレーティングシステムです。根本から生まれ変わったMac OS X。それは、特にインターネットへのベストマッチを目的にデザインされ、安定性とパフォーマンスを信じられないほど向上させる先進のテクノロジーが存分に注がれています。目を見張る最新のグラフィカルユーザインタフェース、Aquaも搭載しています。

このパブリックベータは、あなたにとって、Mac OS Xをいち早く体験できるチャンスです。同時に、Appleにとって、あなたの意見を聞けるチャンスなのです。

あなたの声を、ぜひ聞かせてください。

あなたの協力とApple historyへの参加に感謝します。

これまでも、これからも。

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