不況でベンチャーキャピタルが犠牲になるか?

プログラマー、ベンチャー投資家として有名なPaul Grahamブログ記事

今まではベンチャー企業の成功にはベンチャーキャピタルが必要でしたが、今回の不況でこの依存関係が解消されるかもしれないという話です。そして景気が回復しても、この関係は復活せず、ベンチャーキャピタルそのものが不必要になるかも知れないという結論です。

以下ポイントの翻訳です。

VC funding will probably dry up somewhat during the present recession, like it usually does in bad times. But this time the result may be different. This time the number of new startups may not decrease. And that could be dangerous for VCs.

今回の不況で、ベンチャーキャピタルによる投資はある程度枯渇するでしょう。不況のときにこうなるのは普通です。しかし今回は結果がいつもと異なるかもしれません。今回は新規ベンチャー企業の数は減らないかもしれません。そしてこれはベンチャーキャピタルにとっては危惧されることです。

When VC funding dried up after the Internet Bubble, startups dried up too. There were not a lot of new startups being founded in 2003. But startups aren’t tied to VC the way they were 10 years ago. It’s now possible for VCs and startups to diverge. And if they do, they may not reconverge once the economy gets better.

インターネットバブル後にベンチャーキャピタルによる投資が枯渇したときは、ベンチャー企業の数も減りました。2003年に設立されたベンチャー企業は多くありませんでした。しかしベンチャー企業とベンチャーキャピタルは、もはや10年前のときのような依存関係にありません。今ではベンチャー企業とベンチャーキャピタルの関係が解消される可能性があります。そしてもし解消されれば、景気が回復しても関係が復活しないかもしれません。

The reason startups no longer depend so much on VCs is one that everyone in the startup business knows by now: it has gotten much cheaper to start a startup. There are four main reasons: Moore’s law has made hardware cheap; open source has made software free; the web has made marketing and distribution free; and more powerful programming languages mean development teams can be smaller. These changes have pushed the cost of starting a startup down into the noise. In a lot of startups—probaby most startups funded by Y Combinator—the biggest expense is simply the founders’ living expenses. We’ve had startups that were profitable on revenues of $3000 a month.

ベンチャー企業がベンチャーキャピタルに依存しなくなった理由は、ベンチャー業界にいる人であれば既に知っています。つまり、ベンチャー企業を設立するのが非常に安くなったのです。これには4つの大きな理由があります。ムーアの法則によりハードウェアが安くなりました。オープンソースソフトによって、ソフトウェアが無料になりました。ウェブによってマーケティングおよび流通が無料になりました。より強力なプログラミング言語の登場で、プログラム開発チームのサイズが小さくてもよくなりました。これらの変化により、ベンチャー企業の設立に必要な資金はほとんど無視できるレベルになりました。多くのベンチャー企業(Y Combinator (Paul Grahamのベンチャー投資会社)によって設立された企業のほとんど)において、一番大きな出費は単に創設者の生活費です。毎月$3,000 (30万円)の売り上げで利益が出たベンチャー企業もあります。

I’ve detected this “investors aren’t worth the trouble” vibe from several YC founders I’ve talked to recently. At least one startup from the most recent (summer) cycle may not even raise angel money, let alone VC.
….
If founders decide VCs aren’t worth the trouble, that could be bad for VCs. When the economy bounces back in a few years and they’re ready to write checks again, they may find that founders have moved on.

Y Combinatorが関わり、最近話をする機会があった創業者の中にも、この「投資家と関わるのは面倒な割には利益がない」という空気を感じています。最近の投資サイクル(夏)のベンチャー企業の一つは、ベンチャーキャピタルどころかエンジェル投資も必要としないかもしれません。
….
ベンチャー企業の創業者がベンチャーキャピタルの関わるのが面倒だと感じるようになれば、ベンチャーキャピタルにとっては問題です。景気が数年後に回復して、ベンチャーキャピタルが再び投資できる環境になっても、創業者はもう彼らを必要としてないかもしれません。

Castle104合同会社の場合

バイオの買物.comを運営しているCastle104合同会社でも同じように考えています。非常に少ない資金で会社を運営しながら、様々なビジネスモデルをじっくりと試して、短期の収益を追求するよりも真に顧客が必要とするサービスを見つけ出そうというのが戦略です。

以下にCastle104合同会社の費用の内訳を簡単に紹介します。いかに少ない資金で運営できているかがわかると思います。

  • インターネットサーバ:毎月1万円。2 GigabyteのRAMと40 Gigabyteのディスクスペースが使え、なおかつカーネルアップグレード以外はほとんど何でもできます。
  • ソフトウェア:サーバのソフトはLinux, Apache, Ruby on Rails, Mongrelと完全にオープンソースで無料です。開発とかプロジェクト管理用に、毎月数千円のソフトウェア使用量は支払っています。
  • メールサーバなど、基本ITインフラ:こういうのは最近グーグルで全部できます。@castle104.comのアドレスのメールも、グーグルのGMailで動いています。無料です。
  • オフィス:自宅です。一時期外部の人に作業を委託したことがありますが、そのときもチャットでこまめに連絡をしていたので、オフィスの必要性は感じませんでした。(逆にチャットを通してその人の働きが悪いことがわかったので、打ち切りました)
  • マーケティング:グーグルのAdWordsが非常に効果的です。無名のウェブサイトでも、簡単にアクセス数を稼ぐことができています。費用は毎月数万円です。
  • プログラム開発:バイオの買物.comを動かしているプログラムはすべて一人で書いています。Ruby On Railsというオープンソースのフレームワークを使用しているため、非常に効率よく開発ができています。PHPとかで同じものを開発していたら、とてもじゃないですけど間に合いません。

その他、eMobileの通信費などをすべて合わせても毎月10万円以下です。また職場は自宅なので、実質的には経費はかかっていません。

バイオの業界はもともとそれほど大きなものではありませんし、インターネットマーケティングの活用もまだ十分に進んでいません。消費者である研究者と、広告主となるメーカーがお互いに満足できるビジネスモデルを探すには時間がかかります。このように経費が少ないからこそ、これが見つかるまでいろいろ試せるだろう考えています。

ベンチャーキャピタルの終焉という記事

ハイテクの情報をたくさん紹介しているTechCrunchでの記事。

“The End Of Venture Capital As We Know It?”
「現在の形のベンチャーキャピタルは終焉をむかえるか?」

議論しているポイントは以下の通り

  1. ベンチャーキャピタルのファンドに資金を提供しているパートナー(大学基金、年金基金、投資銀行、裕福な投資家)の資金が枯渇しているため、ベンチャーキャピタルが投資できる資金が減っている
  2. 今のIT系のベンチャーは、ベンチャーキャピタルからの資金がなくても成功できる。オープンソースソフトウェアクラウドコンピューティング、ウェブ上でコミュニケーションがとれるバーチャルチームなどのおかげで、ベンチャー企業の運営はものすごく安くなっている。

2番目のポイントは今回の経済危機とは関係なく、ここ数年のITベンチャー企業のトレンドです。僕のやっているCastle104合同会社もこの2番目のポイントに基づいて設立しています。このトレンドについては、プログラマー、ベンチャー投資家として有名なPaul Grahamが詳細に書いていますので、近いうちにこのブログで取り上げます。

Update
Paul Grahamの記事を紹介したブログを書きました。

次世代シークエンサーは結局ABIか

The Scientistという雑誌でTop Innovations of 2008が発表され、ABIのSOLiDシステムが一番になりました。

さて、僕は市場に最初に出た454 Life Sciences社の次世代シークエンサーをロシュ経由で国内で発売開始するときに多少関わっていました。そこでそのときの社内の雰囲気を紹介しながら、お金でベンチャーを買っただけではなかなかトップの会社には勝てないことを話したいと思います。またトップの会社が入れ替わるようなイノベーションについて研究していることで有名なClayton Christensen氏の理屈を簡単に紹介したいと思います。

ただし、僕は最近の次世代シークエンサーの動向はほとんどフォローしていませんので、現時点でどの技術が勝ちそうかは全く判断がつきません。予めご了承ください。ただ、どの技術が勝つかということと、どの会社が勝つかというのは全く別だということにも注意してください。

ロシュが454 Life Sciences社の次世代シークエンサーを導入し、一気にDNAシークエンシング市場に乗り込もうとしたのは2005年の中頃です。また2007年の3月には454 Life Sciences社を1億4,000万ドルで完全に買収しました。454 Life Sciences社の従業員167名も完全統合しました。この167名は大部分が研究開発に関わっていたと思われますが、当時のロシュのバイオサイエンス部門の研究開発部門は大きくなく、454 Life Sciences社の統合でR&Dの人員は最低でも2倍に、僕の推測では3倍になったと思います。

プレスリリースにも書かれていますが、454 Life Sciences社の技術は確かに革新的なものでした。2005年にはウォールストリート・ジャーナル紙の2005年度トップ技術革新賞(top Innovation Award for 2005)を受賞し、2006年には米国技術情報誌「R&D」選による、最重要技術製品賞を受賞しました。

一方でABIのSOLiDはまだ製品化されておらず(受注開始は2007年10月)、IlluminaのGenome Analyzerは出て来たばかりでした(Solexaが一般に販売を開始したのは2007年)。

そのような状況の中、2005年および2006年のころのロシュの雰囲気はイケイケどんどんでした。「ABIの社員はもうがっかりしていて、アメリカではロシュに転職したがっている」とか「ABIには次世代シークエンサーの戦略がなさそうだ」とかいう話がしょっちゅうされていました。そしてロシュこそがDNAシークエンス市場でトップシェアを奪うだろうということが、経営者レベルでは言われていました(現場では違います。現場は世間知らずではありませんでした)。

そもそもロシュが454 Life Science社の技術導入をした背景には、DNAシークエンス市場の大きさがあります。DNAシークエンス市場は単独分野としてはライフサイエンスで最大のものであり、世界で1000億円規模です。ライフサイエンスで一番大きな市場でナンバーワンにならなければならない。そういう意識がロシュの経営者にあったと私は感じていました。

ロシュのライフサイエンス製品の大部分はベーリンガーマンハイム時代から引き継がれたもので、研究者に非常に愛用されているものが多くあります。しかし個別分野で見れば世界で高々100億円規模のものがほとんどで、ロシュのような巨大企業からみればアリのように小さなものです。製薬部門が絶好調で資金が余っているロシュとしては、ここで大きく出たかったのでしょう。DNAシークエンサー市場の1000億円のうち、将来的に最低でも半分の500億ぐらいは年間に売り上げたい。そう思ったに違いありません。

ちなみに製薬企業であれば従業員一人当たり、5,000万円以上を売り上げるというのが一般的だと思います。したがって454 Life Sciences社の167名を抱えるだけで、80億円を売りたいという計算になります。実際にはR&D費は全売上の高々20%というのがライフサイエンス業界では一般的ですので、ロシュの期待としては400億円程度を売り上げたかったのではないでしょうか。つまり40%の市場シェア。非常におおざっぱな計算ですが。

しかしSOLiDがTop Innovations of 2008に選ばれることなどからわかりますように、ロシュと454 Life Sciencesのテクノロジーは徐々に影が薄くなってきています。最近では真っ正面からのマーケティングスローガンではなく、固有のスペックに絞った宣伝文句になってきました。僕自身、技術動向に詳しい訳ではないので断言はできませんが、ロシュの当初のもくろみのような大きなシェアは、結局は奪えないのではないかと予想されます。最後はやはりABIというところで落ち着きそうな気がします。

ではどうしてこうなったのか、この結果は最初から予想できたかを考えたいと思います。そのときにはClayton Christensen氏の理論が大いに役立ちます。Clayton Christensen氏はThe Innovator’s Dilemmaという本で有名になり、イノベーションがどのように市場を変えていくか、どういうときに市場がひっくり返るかについて深く考察しています。

非常に興味深いのは、イノベーションが市場シェアをひっくり返すかどうかは技術の革新性によるのではなく、マーケットリーダーが反応できるかどうかにかかっているとしている点です。またマーケットリーダーが反応するかどうかは経営陣の有能さにかかっているのではなく、市場の力学によるのだとしています。そして市場をひっくり返すようなイノベーションは通常、低価格帯から高価格帯にシフトしながら起こると説いています。

例えばパソコンなどが良い例です。パソコンが出現する前はIBMなどが大型コンピュータをビジネス用に販売していて、競争相手を全く寄せ付けないほどの強さを誇っていました。そしてパソコンが出現してもなかなかそれに投資しませんでした。なぜかというとそんな低価格なものを売って大型コンピュータの代替をさせるより、大型コンピュータの性能を次から次へと高めて、これをたくさん売った方がよっぽど儲かるからです。IBMがMicrosoftの巨大化を許したもの、IBMがパソコンのプロジェクトにほとんど投資せずに、当時まだ非常に小さかったMicrosoftにアウトソーシングをせざるを得なかったからです。

気づいたときにはパソコンやUNIXのワークステーションの性能がどんどん高まって、大型コンピュータを代替できるレベルに達していました。しかし時は既に遅く、パソコンの覇権はIBMではなく、CompaqやMicrosoftに移ってしまっていました。IBMはパソコンやサーバを販売しているその他大勢の会社の一つに成り下がり、そしてついにはパソコン部門を中国のLenovoに売ってしまったのです。

それに対して、イノベーションが市場をひっくり返せない例もChristensen氏は紹介しています。航空会社です。格安の航空会社は何十年も前からたくさん出現しています。一部はある程度の成功を収めていますが、いまだにトッププレイヤーとなったことはありません。

Christensen氏は、これは主要航空会社が迅速に反応するためだとしています。航空会社の利益は搭乗率をいかに高めるかに関わっているため、高級化・高性能化で利益を高めていくことができません。格安航空会社が出現して乗客を失えば、搭乗率はたちまち低下して利益が下がってしまいます。お金持ちの高級志向の顧客をいくら引きつけて、彼らに高い料金を払ってもらっても、搭乗率が低ければ儲からないのです。実際に、主要な航空会社は格安航空会社の出現に反応し、トッププレイヤーは価格競争に参戦し、そしてどちらかが破綻するまで骨肉の争いを続けています。

Christensen氏によれば、既存のトップシェアの企業がこのように反応すれば、どのように革新的なイノベーションであっても市場をひっくり返すにはいたらないとしています。実際、どんなに特許でイノベーションを守ろうとしても、体力のある既存企業が本気で開発をすれば必ずまねをされてしまいます。重要なのは技術の革新性ではなく、トッププレイヤーが本気になるかどうかです。

DNAシークエンシングの場合、ロシュはいきなりABIのメイン顧客、超ハイスループットの顧客を狙いました。ABIとしても、これは最も収益があがる、何よりもメンツに関わる顧客層です。ABIとしては絶対に無視できない、絶対に奪われたくない顧客です。大幅な赤字を出してでも、また大量の研究開発資金を投じてでも守ろうとする顧客です。だからABIは多少時間はかかりましたが、確実に反応しました。そしてABIが本気になってしまえば、454 Life Sciences社の技術がどんなに優れていようと結果は見えていたのです。

まとめるとこういうことです

新規参入で成功したいのであれば、既存の企業が反応しないような参入の仕方をしなさい。通常、これはローエンド市場から入ることを意味します。そしてこのローエンドは、既存のトッププレイヤーとしては捨ててもいいと思っているローエンド市場でなければなりません。既存の企業が高級化路線で逃げられるようにしておきなさい。そしてローエンド市場で十分に力を蓄え、初めてメインストリームの市場に参入するべきです。

思えば日本の自動車メーカーが米国で成功したのはこのシナリオです。小さくて、パワーがなくて、壊れやすい車しか作れなかった日本のメーカーは、ビッグ3には軽蔑されながらも、それでも少しずつ力を蓄えました。その間に、小さい車を買う顧客なら魅力を感じるような低燃費技術を開発しました。ビッグ3はダイレクトに日本メーカーと戦うよりは、高い金で大型車を買う顧客に集中した方が儲かると考え、低燃費技術に本気になりませんでした。世の中が変わって、低燃費が重要になってしまったころにはもうビッグ3は対抗できなくなっていたのです。

札束にものを言わせて、いきなりトッププレイヤーを引きずりおろそうとしても、そうは簡単にはいかないのです。背面から攻撃を仕掛けないと、力のあるプレイヤーにはなかなか勝てません。

アクションへの執着:サッカーのゴールキーパー

じっとしている方がましなことが多い。エリートサッカーゴールキーパーのアクションへの執着。
@timoreillyのTweetから
PDFはこちら

Journal of Economic Psycologyに以下の記事が出版される予定です。

Action bias among elite soccer goalkeepers: The case of penalty kicks

Abstract

In soccer penalty kicks, goalkeepers choose their action before they can clearly observe the kick direction. An analysis of 286 penalty kicks in top leagues and championships worldwide shows that given the probability distribution of kick direction, the optimal strategy for goalkeepers is to stay in the goal’s center. Goalkeepers, however, almost always jump right or left. We propose the following explanation for this behavior: because the norm is to jump, norm theory (Kahneman and Miller, 1986) implies that a goal scored yields worse feelings for the goalkeeper following inaction (staying in the center) than following action (jumping), leading to a bias for action.

サッカーのペナルティーキックでは、キックの方向を明確に見極められる前にゴールキーパーはアクションを決定します。トップリーグやチャンピオンシップでの286のペナルティーキックの方向の確率分布を調べた結果、ゴールキーパーにとってのベストの戦略はゴールの真ん中にいることです。しかしほとんどの場合、ゴールキーパーは右か左にジャンプします。

我々はこの行動の根拠を以下のように分析しています。

どちらかの方向にジャンプすることが一般的ですので、norm theory (Kahneman and Miller, 1986)によると、真ん中にいてアクションを取らなかった場合の方が、どちらかにジャンプした場合よりも、ゴールを取られたときに強く後悔します。この結果、アクションに執着します。

norm theoryは、「より一般的と考えられている行動をとったときの方が後悔が少ない」というものです。アクションを取ることが一般的と考えられている場合は、それが真に有効ではなかったとしても、アクションを取った方が後悔が少なくなります。逆にじっとしていることが一般的であれば、じっとしていた方が後悔が少なくなります。

エリートのゴールキーパーのように、非常に経験と専門性が高く、成功に対する報酬が高い場合であっても、このnorm theoryの影響を受けてしまうというのがこの論文の主旨のようです。

The action/omission bias has received attention in psychology, but hardly any in economics (one exception is Patt and Zeckhauser, 2000). We think, however, that it has very important implications for economics and management. For example, the action/omission bias might affect the decision of investors whether to change their portfolio (action) or not (inaction). It can affect the choice of managers whether to leave their company’s strategy or investments unchanged (inaction), or to change them (action). The bias may also have implications for the decision of workers whether to stay in their job (inaction) or look for a better job (action), and one’s decision whether to re-locate to another city or not. In the macro-economic level, the action/omission bias may also affect decisions made by governments and central banks whether to change various policy variables (interest rates, tax rates, various types of expenditures, etc.), or leave them
unchanged.

アクション/オミッションのバイアスは心理学では注目されていますが、経済学ではほとんど注目されていません(例外としてPatt and Zeckhauser, 2000)。しかし、我々はこれが経済学および経営学に大きな示唆を与えると考えています。例えば、アクション/オミッションのバイアスは、ポートフォリオを変える(アクション)か変えないか(オミッション)と考えている投資家の判断に影響を与えます。会社の戦略や投資をそのままにするか(オミッション)、変えるか(アクション)を考えている経営者の選択に影響を与えます。従業員に取っては、会社にそのまま残るか(オミッション)、より良い仕事を探すか(アクション)にも影響するかもしれません。また別の都市に住み替えるかの判断にも影響するかもしれません。マクロ経済学のレベルでは、政府や中央銀行が金利、税金、公共支出を変えるか、それともそのままにするかにも、このアクション/オミッションのバイアスは影響を与えるかもしれません。

バイオベンチャーと金融危機

San Diegoのバイオベンチャーの話ですが、バランスシートを分析しながら、金融危機で運転資金がなくなりそうな企業をピックアップしている記事がありました。

見ているのは非常に簡単な指標で、現時点でどれだけの現金を所有しているか、そしてそれをどれぐらい使っているかです。

なお、Eun Yangが10月に発表したレポートによると、株式公開されていて利益が上がっていない248のバイオベンチャーのうち、半数の企業は1年分の運転資金が残っていないとのことです。

上述のレポートでは、San Diegoに所在地があり株式公開されているベンチャー企業のうち23の企業を分析しています。その結果、現金$100 M (約100億円)を持っている企業はわずか10社だったということです。

金融危機によって資金調達や借り入れが非常に困難になっていきますので、運転資金を自前で持っていない企業は破綻の危機に直面することになってしまいます。

私は日本のベンチャー企業の資金繰りの状況を知りませんが、アメリカ以上に利益を出しているところは少ないので、金融危機で大きな影響がでてくることが予想されます。

アップデート
ちょっとグーグルしたら、僕が知らないだけで、既にいろいろ情報がありました。

株式市場は考えるだけ無駄?

TwitterでTim O’ ReillyのTweetから。Patterns and the Stock Market

毎日、ニュース番組には株式アナリストが登場していろいろコメントしています。

「昨日行われた大統領選挙への期待感から市場は大きく値上がりをしましたが、今日は実質経済の指標が発表されたのを受けて投資家が落胆し、あわてて売りに転じる展開となりました。」などのように言っているやつです。

いつも思いますが、精神薄弱な子供の日記を読んでいるようです。

今回はあれは無駄だよという話です。

ちなみにこれは株式だけなく、例えば営業・マーケティング部が毎月の売り上げの数字を社長に報告したりするときにも、全く同じように行われています。人間は本質的にランダム性の取り扱いが苦手で、統計的に理解しようとしないようです。

The market, after all, is a classic example of a “random walk,” since the past movement of any particular stock cannot be used to predict its future movement. This inherent randomness was first proposed by the economist Eugene Fama, in the early 1960’s. Fama looked at decades of stock market data in order to prove that no amount of rational analysis or knowledge (unless it was illicit insider information) could help you figure out what would happen next.

株式市場は結局は「ランダムウォーク」の典型例です。ある銘柄の過去の動向を元の、その将来の動きを予想することは不可能だからです。このランダム性を最初に主張したのは1960年代はじめのEugene Famaです。Famaは数十年間の株式市場のデータを分析して、合理的な分析や知識(インサイダー情報以外の)をどれだけ当てはめても、次の値動きは予想できないと証明しました。

Alas, the human mind can’t resist the allure of explanations, even if they make no sense. We’re so eager to find correlations and causation that, when confronted with an inherently stochastic process – like the DJIA, or a slot machine – we invent factors to fixate on. The end result is a blinkered sort of overconfidence, in which we’re convinced we’ve solved a system that has no solution.

残念ながら、人間の脳は、物事に説明を付けないではいられません。その説明が無意味であってもです。実質的にはランダムな現象であっても、関連性や因果関係を探そうとします。それがダウ平均株価であってもスロッタマシーンであってもです。我々はいろいろな因子を発明して、それに注目します。その結果、我々は本来的には解が存在しないシステムであるにもかかわらず、解を導いたと信じ込み、一時的な自信過剰になるのです。

Look, for example, at this elegant little experiment. A rat was put in a T-shaped maze with a few morsels of food placed on either the far right or left side of the enclosure. The placement of the food is randomly determined, but the dice is rigged: over the long run, the food was placed on the left side sixty per cent of the time. How did the rat respond? It quickly realized that the left side was more rewarding. As a result, it always went to the left, which resulted in a sixty percent success rate. The rat didn’t strive for perfection. It didn’t search for a Unified Theory of the T-shaped maze, or try to decipher the disorder. Instead, it accepted the inherent uncertainty of the reward and learned to settle for the best possible alternative.

以下のエレガントな実験を紹介します。T字型の迷路にネズミをおき、右側もしくは左側にエサをおきます。エサを置く場所はランダムに決定されますが、60%の確率で左側におかれるようになっています。さてネズミはどのように反応したでしょうか。ネズミは左側の方が分がいいことをすぐに理解し、その結果いつも左側に行きました。その結果、成功率は60%です。ネズミは完璧を求めませんでした。「T字型迷路の統合原理」を発見したり、この乱雑さの裏に隠れた暗号を読み解こうとはしませんでした。ランダムさをそのまま受け入れ、そしてできうる限りの選択をしました。

The experiment was then repeated with Yale undergraduates. Unlike the rat, their swollen brains stubbornly searched for the elusive pattern that determined the placement of the reward. They made predictions and then tried to learn from their prediction errors. The problem was that there was nothing to predict: the randomness was real. Because the students refused to settle for a 60 percent success rate, they ended up with a 52 percent success rate. Although most of the students were convinced they were making progress towards identifying the underlying algorithm, they were actually being outsmarted by a rat.

同じ実験をYale大学の学部生で行いました。ネズミと違い、彼らのでかくなった脳みそは、褒美の位置を決定するパターンを、無駄に探そうとしました。予想を立てては、予想と現実のずれから学習しようとしました。問題は、予想するべきものが何もなく、真にランダムだったということです。学生たちは60%の成功率に満足できなかったがために、結果として52%の成功率になってしまったのです。学生たちは、裏に隠された原理の解明に向けて少しずつ前進していると確信していましたが、実際にはネズミに負けていたのです。

So don’t listen to those talking heads telling you why the market rose or fell. They’re just like those Yalies, convinced they’ve found a pattern where none exists.

ですから、株式市場が上がった原因や下がった原因をしゃべっている頭でっかちの解説者の言うことを聞いてはいけません。彼らはあのYale大学の学生と同じです。パターンが存在しないにも関わらず、パターンがあると確信してしまっているのです。

売り上げ予想(売り上げ予算)は無駄だ

一般の企業で行われている売り上げ予想は相当にいい加減です。

現状分析よりも社内政治の方が幅を利かせています。会社の現状よりも社長の願望の方が強く反映されます。社長の願望に対して現場がどれだけ抵抗をするか、あるいは社長にゴマをするかで売り上げ予想や予算が決まっていきます。

これは別に社長や管理職が無能だということではなく、政治の方がしばしば現状よりも強いという世の中の仕組みによるところが大きいです。

私が経験した上述とほとんど同じことをまとめたブログがあったので紹介します。

Forecasting Can Be a Waste of Time

  • 社長は投資家向けにバラ色の売り上げ予想を見せたがります
  • そのためには、営業から上がってきた予想は無視されます
  • したがって、下から上がってきた予想を足し合わせ、経営陣と調整していくのは時間の無駄です

Why “Scientific Forecasting” Flops

  • 科学的に売り上げを予想する方法はありますが、これはたいてい無視されます
  • 科学的に売り上げ予想されると、営業は自分のノルマ(目標)を調整できなくなります(低いノルマを勝ち取ることができれば、ボーナスが弾みます)
  • 科学的に売り上げ予想されると、営業マネージャーはノルマを使って部下をコントロールすることができなくなります
  • 科学的に売り上げ予想されると、マーケティング部の活動の効果がないことがばれてしまいます
  • 製造部と経理部は長くて痛い経験より、営業部が少しでも関与した売り上げ予想は、全く信用に値しないと確信しています
  • 科学的に売り上げ予想されると、社長は投資家に対して好業績予想を示すことができなくなるのを恐れています

How to Fix Your Forecasting

  • 顧客視点で営業プロセスを見直しましょう
  • CRMで営業プロセスを管理しましょう
  • 売り上げ予想と営業のモチベーション管理は切り離しましょう
  • 正確だけど一見控えめな予想を出す人を罰するのではなく、賞賛しましょう

最後に

僕が目の当たりにした、売り上げ予想(目標)づくりの無駄

  • 二重目標:ある事業部で普通の目標と「チャレンジング目標」の二重設定しました。普通の目標を使って予算は作るし、営業のノルマを決めます。しかしこの目標は低いと社長に文句を言われてしまうので、事業部長は「チャレンジング目標」を設定してかわそうとしました。その「チャレンジング目標」は全く何にも使われませんでした
  • 過剰な時間投入:ある事業部では売り上げ目標作りだけのために何日も何日も投入していました。それも当事者を含めたミーティングをしながらではなく、数人で密室で。出てきた目標はもちろん納得性がありません。しかも、その予算をどうやって達成するかを議論する時間は完全になくなってしまいました。おかげで経費予算は単純に例年通りと自動的に決定されてしまいました。
  • 確信犯1:まだ実体のないビジネスにいきなり1億円の売り上げ目標を設定。ふたを開けてみると1円も売り上げはありません。日本の社長が本社の社長に渡すための予想で。売り上げが足りないという問題点を、数ヶ月でも先延ばしするための工作。
  • 確信犯2:事業部長が営業のノルマをこれ以上引き上げられなくなってしまったときの最後の手段です。営業部が関与していないビジネスの売り上げの水増し。このビジネスの顧客は自ら予算が昨年を下回ることを示唆しているに、対前年150%の売り上げ予想を提出しました。

アップル社をやめた役員は、その後成功しているか?

アップル社をやめた役員が、新しく入った会社で成功しているかどうかを分析した記事です。

  • NeXT時代からSteve Jobsとともに歩んで、アップル社のハードウェアとiPodを担当し、Palm社ではR&Dとエンジニアリングを担当している John Rubinstein。
  • John Rubinsteinの後任としてアップル社のハードウェアを担当し、Dell社でiPodのコピーを作ろうとしているTim Bucher。
  • アップル社のInteractive Media Groupを担当し、ソニーに引き抜かれたTim Schaaff。

みんななかなか思うようにいかないようです。

でもこれは世の中で一般的なことだと僕は思います。

人が仕事で成功するかどうかは、その人の能力そのものよりも環境が大きな影響を与えます。なぜならば Aという環境でうまくいくことも、Bという環境ではうまくいかないことが多いからです。アップル社でうまくいった行動がソニーでうまくいくとは限らないし、Dellでもうまくいきません。

野球の野村監督は貧乏で弱小なチームを強くすることには確実に成功しています。しかし阪神のように注目度の高く、お金もある(幹部も口うるさい)人気球団では力を発揮できません。

中途入社で人を採用するとき、その人の前の会社での実績などを見ることは多いのですが、単に成功したか失敗したかを見るのではなく、その環境・コンテキストを見ることが重要です。そして何よりも、成功したか失敗したかという結果だけを見るのではなく、その人がいったいどのような価値観を持っていて、どのような行動をとったかに注目した方がいいでしょう。

同じ人であっても、得られる結果とか実績はおかれた環境によって大きく変わってしまいます。しかし、その人の価値観と行動は驚くほどかわりません。人間というのは自分の思考・行動パターンを変えるのはかなり苦手です。

野村監督であれば、自分の野球理論を授業するのはわかっています。彼はそれ以外の監督スタイルはできないのです。従ってその球団の選手がその理論を素直に受け入れるような選手かどうかで結果は大きく変わります。野村再生工場が機能することによって、野村監督は選手から大きな信頼を得ています。逆に外部からFAを取るような球団ですと、野村再生工場が不要になって、監督が選手の信頼を受けるチャンスが減ります。

逆に言えば、自社に中途採用の人を招き入れる管理職の人は、自分の会社の状況を正確に理解し、新しく雇い入れる人に何をしてもらいたいかを具体的に良く考えておかなければいけません。そして、価値観と過去の行動をベースに人を採用するべきです。

業務を理解できていない無能な管理職は実績だけで人を採用しがちですが、そういうことをすると会社の中は価値観がバラバラになり、整合性のない行動が行われるようになります。

理想の上司

毎年「理想の上司」のアンケートが行われ、星野仙一が(なぜか?)上位になります。

2008年度の新入社員に対して三菱電機が行ったものは1位が星野仙一、2位が所ジョージという感じだったようです。

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さて、オリンピックの野球の惨敗によって星野仙一が圏外に落ちるのは当然としても、2009年度のトップは誰になるでしょうか。

それはきっと

  • 渡辺久信 埼玉西武ライオンズ監督
  • デーブ大久保こと大久保博元 埼玉西武ライオンズ打撃コーチ
  • 原辰徳 読売ジャイアンツ監督

のいずれかではないでしょうか?

特にデーブ大久保のインタビューやYouTubeのビデオ(おかわり中村選手とはしゃぐサヨナラヒットで喜びすぎて両足肉離れ)を見ていると、いままでの理想の上司とはずいぶん違うように思います。

今までの理想の上司は1位から3位まではどちらかというと古いスタイルの上司で、自分で方針を決めて、下の人に従わせるタイプ。それに対して原監督も渡辺監督もデーブ大久保も、対話をしてお互いに理解し合い、お互いに喜び合おうというタイプの人間です。

僕のスタイルは対話タイプだし、とても好きです。

こういう上司たちが日本シリーズを戦っているのをとてもうれしく思っています。

Update:
理想の上司ランキングは他にも

が見つかりました。