ニコンの修理体制に大満足

僕は昔からニコンのカメラばかり買っていますが、その理由は簡単です。朝鮮戦争、ベトナム戦争などで従軍カメラマンを支えたニコンなら、サポート体制は万全だろうと。キャノンよりはスペックが劣っても、多少カメラを雑に扱ってもカメラ自身は頑丈だろうし、修理もちゃんとしてくれるだろうと。

ここ何年間か、実際に修理に出すことは無かったのですが、先日インターネットで修理をお願いしました。そしてその修理体制に大満足。

バイオの機器メーカーもこれに近いサービスが提供できるように、IT側からサポートできることはないか。そんなことを思いました。

修理の流れはこんな感じでした。

ウェブサイトで修理依頼

ニコンイメージングのサポートページから修理受付のページに移動します。

Nikon repair2.png

ここにはなんと「修理料金目安表」がありました。これを見ると、機種ごとの平均的な修理料金がわかります。「修理しようか、それとも我慢して使おうか」と悩んでいる人にとってはとてもありがたい情報です。

Nikon repair.png

実際の修理受付は「WEB修理受付」から。

なんと修理受付では最初に見積もりを出してくれるのです。機種と故障した箇所を入力していくと、故障した実際の製品を見てもらう前に見積もりを出してくれます。

Nikon repair3.png

あとは

  1. 製品のピックアップは宅急便で。宅急便が自宅までくるので、宅急便屋さんにカメラを預けます。
  2. メールで受け取り案内が来ます。
  3. 修理完了の案内と実際にかかった修理料金の案内がメールできます。見積もりより安かったのがまたうれしいですね。
  4. 料金はカメラ受け取り時に、宅急便屋さんに支払います。

見積もりがすっと出てくるので安心ですし、こっちの手間はほとんどなく、とてもスムーズに作業が流れました。

これがあるべき姿ですね。

バイオの機器修理もこれを見習いたいものです。

成功する会社は良いアイデアを潰せる

今回もBob Suttonのブログから。

Steve Jobsは次のように語ったそうです。

The thing I remember best was that Jobs advised them that killing bad ideas isn’t that hard — lots of companies, even bad companies, are good at that. Jobs’ argument went something like this: What is really hard – and a hallmark of great companies – is that they kill at lot of good ideas. Sure, this is tough on people who have come-up with the good ideas as they love them and don’t want to see them die. But that for any single good idea to succeed, it needs a lot of resources, time, and attention, and so only a few ideas can be developed fully. Successful companies are tough enough to kill a lot of good ideas so those few that survive have a chance of reaching their full potential and being implemented properly.

私が一番良く記憶しているのは、Steve Jobsの以下のアドバイスです。悪いアイデアを潰すのは難しくありません。悪い会社を含めた多くの会社でこれはできています。非常に難しいのは、そしてこれは優れた会社の特徴ですが、多くの優れたアイデアを潰すことです。良いアイデアを思いついて人にとって、これはつらいことです。自分が愛しているアイデアが潰されていくのは見たくありません。しかし、一つの優れたアイデアが成功するためには多くのリソースと時間と注意が必要です。ですから、十分に時間をかけられるのは少数のアイデアだけです。成功している会社はたくさんの優れたアイデアを潰すだけの勇気を持っていて、生き残った少数のアイデアが潜在的ポテンシャルを十分発揮し、正しく実施されるようにできるのです。

これには全く同感です。同時に昨日ブログに書いたように、非常に多くのアイデアを出すことの重要性も感じています。非常に多くのアイデアを生み出して、そして良いアイデアを含めて非常に多くのアイデアを潰していく過程がイノベーションには必要です。

通常はそのいずれかがおかしくなって、バランスが崩れます。

私が製薬企業に入社した1994年は、一般企業のバブルははじけていたものの、製薬企業のバブルはまだまだ膨らんでいました。各企業は最高益を更新し、研究開発においては非常に高い自信を持っていました。いつかは世界の大手製薬企業に飲み込まれ、日本の企業の淘汰が始まると言われていたものの、それが実際に始まる様子はありませんでした。

私が入社した協和発酵を含めた多くの企業は、この環境の中で多角化戦略を取りました。事業の多角化もそうですが、創薬だけをとってもターゲットする疾患の数が膨らみました。さらに分子生物学や構造生物学などの基礎研究にも積極的に取りかかり、気がつくと縦方向(基礎から応用)にも横方向(対象疾患の数)にも研究分野が広がっていました。これはSteve Jobsがいう、良いアイデアが潰せない状況です。

一方、製薬企業のバブルがようやくはじけた2000年前後になると、今度は極端な選択と集中が行われます。対象疾患を大幅に絞り込み、さらに基礎分野を大幅に減らしました。一見、これはSteve Jobsのいう良いアイデア潰しに見えますが、大きな問題がありました。というのは、ここまで絞り込みをした結果、発想力のある人間が力を発揮する場所がなくなってしまったのです。本来は選択と集中によって、極少数の生き残ったアイデアに優秀な人材と創造力が集中し、これが豊かに花開かなければいけません。しかし極端な選択と集中によって、アイデアが生まれる土壌すら枯れてしまい、生き残ったアイデアを膨らます補助的なアイデアも生まれない環境になってしまったのです。

大切なことは、勇気を持ってアイデアの絞り込みをしつつ、依然として様々なアイデアが涌き上がる環境を持続するでしょう。そのためにはアイデアやイノベーションが生まれる過程について十分に理解を深め、注意しながらバランスを保つことが重要だと思われます。アイデアがこんこんと涌き上がる環境を維持しつつ、適切な時期に適切な数までに絞り込みを行うことです。

さて、バイオの買物.comもそろそろアイデアの絞り込みをしないといけない時期に来ました。リソース不足でまともにサポートできない機能があり、それが放置されてしまっています。年内には大幅に見直す予定です。それについてはまたの機会にお話ししたいと思います。

不況でも良いものは売れる:アップル社の業績発表

アップル社が2008年7-9月の業績発表をしました。

アップル社の製品は品質をケチらず、比較的高価なものが多いので、不況の中で今ひとつ売り上げが伸びないのではないかという憶測がありました。しかしふたを開けてみると、Macで21%増(出荷台数ベース)、全売上で35%増という数字でした。

iPhoneはRIMのBlackberryよりも出荷台数で上回りました(日本にいるだけだとわかりませんが、海外のビジネスマンは総じてBlackberryを持っていて、すごく流行っています)。売上ではNokiaの1270億ドル、Samsungの590億ドルに次いで、460億ドルで世界第3位になったという話でした。結構すごいことだと思います。

ちなみに販売台数でいうと、Samsungは2005年時点で日本最大手のNECの10倍以上売っていたようです。

普通に高級な製品というのは、品質や機能の分だけ価格が高い製品で、実際には極めて平凡な製品です。アップル社が作る高価な製品というのは、MacにしてもiPhoneにしても、そしてiPodにしても、価格の上乗せ以上に魅力があるのでしょうね。

そしてこのような製品は不況の影響を受けず、他の高級品が売れない中でも売れ続けるのですね。

でもこれが作れるようになるためには、独自の研究開発がとても重要でしょう。アップル社のCEOのSteve Jobsは、不況のときこそ研究開発に注力し、景気が改善したときには競合に大きく差をつけている状態にするのだと、昔も言いましたし、いまも言っています。

price-feature.png

マックが売れている理由

10月14日(火曜日)に、Apple社は新しいMacBookおよびMacBook Proを公開するイベントを開催しました。(ビデオはこちらから)

そのとき、恐らく投資家の視線を意識してだと思われますが、Macが非常に売れていることを細かく紹介していました。

  1. Macの売り上げ成長率が市場の3倍であること、および
  2. USの小売において、販売台数ベースでシェアが17.6%、金額ベースのシェアは31.3%であること

景気が下降している局面では、安い製品が売れると一般に考えられます。Macのように高価なパソコンは売れずに、安売りのウィンドウズパソコンが売れるだろうと予想されます。しかしそれとは逆のトレンドです。Macの売上が下がるどころか、ますます絶好調なのです。

この原因は何でしょうか。Apple社のTim Cookは次の順番で要因を挙げています(ビデオの1分30秒あたりから)。

  1. Better Computers: 最高のパソコンラインアップを用意していること
  2. Better Software: 最高のソフトウェアを提供していること
  3. Compatibility: Intel Macによって、WindowsがMac上で走らせられるようになったこと
  4. Vista: Microsoftの新しいOSのVistaが失敗し、これを契機にMacに人が移っていること
  5. Marketing: Mac vs. PCの広告が成功していること
  6. Retail Store: Apple Storeで新規顧客開拓ができていること

このリストの順番を見ると
自社が良いものを作っていること > 競合が駄作を作っている > 広告 > 小売り
の順番になっていることに気付きます。

バイオの業界では、ゲノムバブルがはじけたら2003年あたりから、モノ作り重視・日本語サポート重視からシフトして、マーケティング・セールスをことさらに強調する経営者が多くなってきたように思います。バイオに何の思い入れも無い、全く異なる分野出身の人が、MBAを持っているという理由だけで事業部長や社長になり始めたのもこの時期だと思います。

残念ながら、この方針がうまくいっているという話は全く聞いたことがありません。

マーケティングやセールスは確かに重要ですが、それはあくまでも優れた製品があって始めて意味を持つのであって、どんなにマーケティングやセールスが強くても、駄目な製品は駄目だと。Apple社の成功は、本当のモノ作りが最後には勝つことを我々に教えてくれているように思います。

ちなみに完全に蛇足ですが、日本でよく言っているモノ作りがApple社のモノ作りと同じかどうかははなはだ疑問のところがあります。日本のモノ作りの基本は、品質の良く、機能が多いもの(スペックが高いもの)を安く販売することがキモです。これは新興国には可能な方法ですが、人件費が安くないと破綻してしまうため、成熟した国家ではなかなか難しい戦略です(日本の製造業が派遣社員に頼ってしまっているのは、このモデルにしがみついているためとも言えます)。これに対してApple社のモノ作りは、顧客の将来のニーズを先読みし、機能を絞り込んで、使いやすいものを、比較的高い価格で売ることです。同じモノ作りでも、アプローチは全く違います。

Mac vs PC growth.png
US retail.png
Mac reasons.png

バイオ百科で抗体検索:僕が使いにくいと感じるところ

以前のブログで、バイオ百科の抗体検索が使いにくいとお話しました。

僕もいちおう科学者の端くれですので、方法および結果をちゃんと紹介し、皆様も追試できるようにしました。実際に僕が問題にぶち当たっているところをビデオにしましたので、ご覧ください。

インターネットで抗体を探す方法:抗体検索サイト vs. Google

理想の抗体検索システムを追求した新「まとめて抗体検索」サービスを始めましたので、ぜひご利用ください。

またこの記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

あなたは抗体を探すとき、抗体検索サイトに行きますか?それともGoogleでダイレクトに検索しますか?

日本国内の抗体検索サイトについては以前のブログで紹介しましたが、今回は抗体検索サイトを利用せずに、ダイレクトにGoogleで検索する方法について話したいと思います。

ここでいうGoogleで検索する方法というのは、つまり “CD4 抗体”もしくは”CD4 antibody”のキーワードでGoogleすることを指します。

面白いことに、コスモバイオのウェブサイトなどをを利用して抗体を検索するのと、Googleで直接検索するのとでは、全く異なるのです。例えば “CD4 抗体”でGoogle検索すると、Beckman CoulterのサイトやMiltenyi Biotechのサイトは出てくるのですが、コスモバイオのサイトはやっと3ページ目に、あまり関係がないと思われる「Tregマーカー 細胞表面にある4型葉酸受容体抗体:コスモ・バイオ」というページが出てくるだけです。コスモバイオが取り扱っているCD4 抗体のページは出てこないのです。

どうしてそうなってしまうのかという技術的な問題については、後で機会があれば詳細に解説したいと思います。今日はとりあえず、Googleで直接検索する人がどれぐらいいるのかを分析したいと思います。利用するのはAdwordsのキーワードツールです(Adwordsアカウントがないと、フルバージョンは使えません)。

いくつかの抗原で、”[抗原名] 抗体”もしくは”[抗原名] antibody”のGoogleでの検索回数を表にまとめました。数字は月間の平均検索回数です。

抗原名 “抗体”と組み合わせ “antibody”と組み合わせ
annexin 不明 390
Calcineurin 不明 91
Raf 不明 12
Ras 36 480
Caspase 不明 58
myc 170 91
CD20 170 不明
CCR3 不明 73
CD133 91 390

各抗原について、非常に乱暴ですが、平均で月間100回の検索が行われると想定しましょう。また抗原の種類は、割と知られているものだけでも数百はあるでしょう。仮に500種類あるとします。そうすると、直接Googleで抗体の検索を行うのは、月間50,000回あると計算されます。平日だけを考えますと、毎日2,000回の検索が行われている、非常におおざっぱに言えると思います。

そもそも「抗体」というキーワードだけだと165,000回の検索が行われていますし、antibodyだと27,100回の検索が行われています。「抗体」で検索しているのは、研究者以外の人が多いと思われますので、僕らの目的からすると、antibodyの27,100回の方が意味があると考えています。ちなみに「コスモバイオ」は6,600回、Googleで検索されています。

‘antibody’は27,100回検索されていますが、この数を先に推定したGoogleでの直接的な抗体検索回数、月間50,000回と比べますとかなり近い数字です。そこで、論理的にはかなり乱暴ですが、インターネットで抗体を探している人はかなり高い割合で、Googleでの直接検索を行っていると言えると思います。

そう考えると、Googleで直接検索を行うユーザは多いので、彼らを対象とした対策が必要になります。しかし、極一部のメーカーを除いて、これをしっかりやっている会社はかなりの少数派のように見受けられます。

残念な話です。

収益モデルがウェブサイトの使い勝手を決める例:バイオ百科

理想の抗体検索システムを追求した新「まとめて抗体検索」サービスを始めましたので、ぜひご利用ください。

またこの記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

アップデート
バイオ百科で僕が実際に抗体を検索して、使いにくくて困っているビデオをアップロードしました。

バイオの買物.comを含め、ウェブサイトの運営資金は広告収入を当てにしていることはとても多いです。

優れてウェブサイトを作り、多くにユーザが訪問してくれれば、広告収入が増えるという形です。

しかし広告料金のプラン(つまり収益モデル)を上手に設計しないと、ユーザにとって優れたウェブサイトが作りにくくなることがあります。ユーザの要望に応えるウェブサイトにすることと、収益を得るということが、互いに矛盾するケースが生まれてしまうのです。

その例として、「バイオ百科」というウェブサイトを見ていきたいと思います。

バイオ百科は抗体メーカー(商社)数社の製品をデータベースに登録し、限定的ではありますが、横断的な検索を可能にするウェブサイトです。特に抗体を探すときに有用です。登録しているメーカーが少ないので、BioCompareの抗体検索に比べれば抗体の網羅性は低いのですが、コスモバイオとフナコシの抗体が入っているので、小さいメーカーはかなりカバーされています。

しかしこのサイトで非常に残念なのは、検索インタフェースの使い勝手です。

「CD133」で検索を行った例で解説します。

biohyakka1.png

まず気付くことは、製品が全くランダムに並んでいることです。製品名で見ても、メーカー名で見ても、包装サイズで見ても、価格で見ても、全く何で見てもランダムに並んでいます。
並べ替えるには再度検索を行う必要があるのですが、検索条件のメニューは以下の通りです。

biohyakka2.png

ユーザが一番望むであろう「価格順」というのが無いのです。

どうしてランダムに製品を並べるのか。どうして価格順に表示させないのか。

さてここからは想像になりますが、ユーザにとって不便なインタフェースのままになっている理由を考えたいと思います。どうしてバイオ百科は不便を承知で、ランダムな表示順にしたり、価格順の並べ替えを用意しなかったりしたのか。

製品を掲載するにあたり、バイオ百科ではまず比較的高額なセットアップ費用を支払う必要があります。そして小額ではありますが、毎月の固定料金を支払います。

僕はこの料金システムがバイオ百科の自由を束縛し、ユーザ本意のウェブサイトを作りにくくしていると考えています。

まずは高額なセットアップ費用です。高額な費用を支払った以上、広告主であるメーカーはバイオ百科に対して強い発言権を持つようになります。自社に都合の悪いサイトの改良をしようとすれば、拒否できるだけのパワーを広告主は持つことになります。すべての広告主が納得するような改良は簡単にはできないでしょうから、サイトの改善スピードが遅くなってしまいます。

一方、もしバイオ百科がセットアップ費用を取っていなかったとします。そのとき、広告主に都合は悪いけれども、ユーザにとっては便利な機能(例えば価格順の表示)を追加しようと考えたとします。その結果として一部の広告主の反感を買ったとしても、その広告主に外れてもらうようにするだけでいいのです。文句を言う広告主の製品は載せてあげませんよと。広告主もセットアップ費用を支払っているわけではないので、損はありません。それに対して広告主がすでに高額なセットアップ費用を支払ってしまっていると、広告主はもとをとろうと考えますので、簡単には外れてくれません。広告主は引き下がらずにしつこく文句を言う可能性がありますし、仮にそうではなくても今後のビジネスにしこりを残すことになります。

月額の固定料金も問題です。広告主は一定の費用を毎月支払うわけですから、各広告主の製品をなるべく均等に表示する義務が発生します。メーカーのアルファベット順に並べてしまうと、いつも同じ会社が上位に表示されてしまうので、広告主間で不公平が生まれます。製品名のアルファベット順に並べても、同様の問題が発生する可能性があります。価格順に並べた場合は、安売りメーカーが優先して表示されるので、高い品質とブランド力を持っていて価格を高めに設定しているメーカーは広告を出してくれなくなります。

バイオ百科で製品をランダムに表示しているのは恐らくこのためでしょう。

一方GoogleのAdwordsのように、訪問者がリンクをクリックする回数に応じて課金するシステムであればこの問題はかなり軽減されます。並べ替えの関係でたくさん表示されるメーカーは多くの広告費を支払いますし、少ししか表示されないメーカーは広告費をあまり支払いません。したがって広告主間の不公平感は生まれません。価格順に並べても問題ありません。真に高い品質とブランド力を持っているメーカーであれば、検索条件で指定してもらえるはずですから、表示してもらえるはずです。検索条件で指定してもらえないメーカーは、実はブランド力が思ったほど無かったという、それだけのことです(もちろん、ウェブサイト側は検索条件でメーカーを指定しやすいように工夫していることが前提ですが)。

また月額の固定料金の場合は、バイオ百科自身のインセンティブが低くなることが言えると思います。ユーザにとって便利なサイトを作ることよりも、広告主にとって都合のいいサイトへと重点が移ってしまう可能性があります。事実、今回紹介したもの以外にも、バイオ百科にはびっくりするような不便なところがありますが、なかなか改善されません(CD4を検索してみてください)。

以上、自分のバイオの買物.comを棚に上げて、他のウェブサイトの悪口を言ってしまいました。でも言いたかったのは悪口ではありません。

言いたかったのは、収益モデルをよくよく考えておかないと、広告主に自社の自由を束縛されてしまうということです。そして本当の顧客であるウェブサイト訪問者からフォーカスが外れてしまって、使いやすいウェブサイトが作れなくなってしまう可能性がありますよということです。

そういうことに注意しながらデザインしているバイオの買物.comの収益モデルについては、また別の機会に紹介したいと思います。

Bob Sutton: Stanford大学教授の信条

Bob Suttonというスタンフォード大学教授のブログと、そこに書いてある彼の信条が非常に面白かったので紹介します。

Bob Suttonは管理職の知識と組織のアクション、イノベーション、成果の関連性およびズレについて研究しています。

さて、ブログに書いてあった彼の15の信条です。

  1. Sometimes the best management is no management at all — first do no harm! : ときとして、最高のマネージメントとは何もしないことであるーー何よりもまずは邪魔をするな!
  2. Indifference is as important as passion : 情熱を持つのと同じぐらいに、距離を置いた冷めた視線も大切だ
  3. In organizational life, you can have influence over others or you can have freedom from others, but you can’t have both at the same time : 組織での生活においては、他者に対する強い影響力を持つか、あるいは他者からの自由を維持することができる。しかし、これは同時には持てない。
  4. Saying smart things and giving smart answers are important. Learning to listen to others and to ask smart questions is more important : 賢いことを言ったり、賢い回答をすることは大切だ。しかしそれ以上に大切なことは、他者の言うことを聞いたり、賢い質問をすることを学ぶことだ。
  5. Learn how to fight as if you are right and listen as if you are wrong: It helps you develop strong opinions that are weakly held : 戦うときは自分が絶対正しいという姿勢で、他人の意見を聞くときは自分は間違っているという姿勢でいることを覚えなさい。強い意見を持ちながら、それに固執しないことができるようになる。
  6. You get what you expect from people. This is especially true when it comes to selfish behavior; unvarnished self-interest is a learned social norm, not an unwavering feature of human behavior : 他人は悪い意味で、あなたの期待通りになってしまう。高い期待を持たなければ、低レベルのことしかしてくれないだろう。これは特に利己的な行動によく現れる。利己的な行動は社会から学習されるのであって、人間の本来的な行動ではない。
  7. Getting a little power can turn you into an insensitive self-centered jerk : 権力を持つことによって、それまでまともだった人間が、感受性の低い、自己中心的で、とても嫌な奴に変身することがある。
  8. Avoid pompous jerks whenever possible. They not only can make you feel bad about yourself, chances are that you will eventually start acting like them. : 偉そうで嫌な奴はなるべく避けろ。つきあっていると、嫌な気分になるだけでなく、彼らと同じような行動が身に付いてしまうだろう。
  9. The best test of a person’s character is how he or she treats those with less power. : 人の性格を知るのに一番良いのは、自分よりも権力の無い人をどのように扱っているかを見ることである。
  10. The best single question for testing an organization’s character is: What happens when people make mistakes? : 組織の性格を知るのに一番良いのは、間違いが起きたときに何が行われるかを観察することである。
  11. The best people and organizations have the attitude of wisdom: The courage to act on what they know right now and the humility to change course when they find better evidence : 優れた人と組織は知性的な態度を持っている。つまり、現時点で得ている限定的な知識に基づいて行動する勇気を持ち、かつより多くの情報を得た時点で方向を変える謙虚さを持っている。
  12. The quest for management magic and breakthrough ideas is overrated; being a master of the obvious is underrated : マネージメントスキルや画期的なアイデアの価値は過大評価されている。当たり前のことをマスターすることは過小評価されている。
  13. Err on the side of optimism and positive energy in all things : どうせ間違いを犯すのであれば、楽観性やポジティブな活力の方向に向かって間違えなさい。
  14. It is good to ask yourself, do I have enough? Do you really need more money, power, prestige, or stuff? : 自分が満ち足りているかどうかを顧みることは大切だ。本当にもっとお金がいるのですか?もっと名声が必要ですか?など。
  15. Work is an overrated activity : 「仕事」の重要性は過大評価されている。

ベンチャーキャピタルが秘密保持契約(Non Disclosure Agreement)を結びたがらない理由

ベンチャー企業はベンチャーキャピタルから資金を集めるためには、当然ながらその企業のビジネスプランを見せる必要があります。そのベンチャーのビジネスプランを開示するわけですから、秘密保持契約Non Disclosure Agreement)をベンチャーキャピタルと結ぶのが一般的かと考える人が多いと思います。しかし実際には、アメリカのベンチャー投資家の大部分は、秘密保持契約の締結を拒否するそうです。

この点について、ベンチャー投資側の人が多数のブログを書いていますので、かいつまんで紹介します。

“The Fallacy Of the Non-Disclosure Agreement”「NDAの誤った認識」

エンジェル投資家 Dharmesh Shahのブログからです。

この記事では、NDAで保護する可能性のある情報を

  1. アイデア、市場におけるチャンスなど、何をしようとしているかに関するもの
  2. それをどのように実現するかに関するもの

に分けています。

Dharmeshは、1の部類のものは、そもそも機密扱いにするべきではないとしています。多くのベンチャー企業は、自分たちが市場で最初もしくは唯一の企業になれると考えています。しかしこれはたいてい間違いです。競合となりうる人を含めて、他人と議論することによって、自分と同じ考えを持っている会社の情報が入手できます。起業家が恐れるのは、アイデアを開示することによって、そのアイデアの素晴らしさが認識され、多くの人が同時にそれを追求するということですが、これは実際には非常に稀です。ですから、1の部類の情報は隠すのでなく、オープンに議論するべきです。

Dharmeshは、2の部類のもので本当に隠すべきものは、投資家とよほど議論が進んでいない限り、NDAがあろうが無かろうが隠し続けるべきだとしています。多くの場合、NDAはあっても無くても結果は同じです。ベンチャー企業の場合は、NDA違反で訴訟を起こす余裕は無いからです。

Dharmeshは最後にNDAをお願いすることのコストについて言及しています。経験豊富な投資家やパートナーは、交渉の早期にはNDAを結ばないことをポリシーとしていることが多いです。ですからNDAを要求することは、自分のことを未熟者と言っているようなものなのです。

“The cult of the NDA”「NDA崇拝」

ベンチャー企業を経営している人のブログです。投資銀行で調査を担当し、ベンチャー資金の提供をしていた経験も持っている人です。
かなり詳しく解説しています。

1990年代に投資銀行で調査を担当していたとき、ベンチャー企業を何百と訪問し、いくつかに投資しました。

これらのベンチャー企業はいずれも、自分は独自のアイデアを持っていると考えていました。それは技術であったり、製造方法であったり、ビジネスモデルであったり。みんなNDAが普通だと思っていました。

しかし、どのアイデアも独自ではありませんでした。少なくともNDAを結ぶほどの独自性はありませんでした。ほとんど同じコンセプトを持ちつつ、お互いの存在に気付いていない会社が6つあったというケースもありました。

優れたベンチャー投資家はこのことを既に知っています。そのため、ビジネスプランを見る前にNDAを結ぶことを拒否するケースが多いのです。一方でこれを理解している企業家は少ないです。そして、誰かに盗まれないように自分のアイデアは守ることばかり考えてしまうのです。

NDA崇拝が起こる理由

ベンチャー企業の正否が、あたかも新しいアイデアの独創性によって決まるかのように言われてしまっています。残念ながら、現実はこの正反対です。NDAが必要だと思うようになってしまうのは、下記のような論理展開です。

  1. ベンチャー企業の成功には独創的な新しい製品もしくはアイデアが必要だ
  2. 新しい製品やアイデアを最初に世に出した会社が、唯一のそして持続可能なアドバンテージを得る
  3. 私は新しい製品もしくはサービスのための独創的なアイデアを持っている
  4. 私の独創的なアイデアが他人に知られると、彼らが先にそれを商品化して、アドバンテージを私から奪い去ってしまうかもしれない
  5. そこで私のアイデアを機密扱いにすることによって、自分のアドバンテージを維持できる

これらの五つのポイントはほとんどのケースですべて間違っています。

1) ベンチャー企業の成功には独創的な新しい製品もしくはアイデアが必要だ
ほとんどの製品やサービスは簡単に真似ることができるので、これが当てはまらないケースが大部分です。極めて珍しいスキルや発明が必須となる製品やサービスの場合はアイデアがキーとなることがありますが、こういうケースは稀です。

真に独創的な製品やアイデアであれば、市場は最初から作り出さなければいけません。これは既存の市場に参入し、既存の企業からシェアを奪い去るよりも難しいことです。

2) 新しい製品やアイデアを最初に世に出した会社が、唯一のそして持続可能なアドバンテージを得る

過去に成功した多くの企業は、市場に最初に参入した企業ではありません。先駆者の失敗から学ぶことで成功した企業が多いのです。

例えばMicrosoftは最初のソフトウェア会社でもなければ、最初のOSベンダーでも最初のオフィスソフトベンダーでもありませんでした。
IBMは最初のコンピューターメーカーではありませんでした。
Ciscoはルーター、スイッチ、ファイヤーウオールを発明していません。
Googleは最初の検索エンジンではありませんでした。
“Yahoo”の最初の2文字は、もとは”Yet Another”「もう一つの」の略でした。

3) 私の独創的なアイデアが他人に知られると、彼らが先にそれを商品化して、アドバンテージを私から奪い去ってしまうかもしれない

これはたぶん間違いです。私の経験では、独自のアイデアは稀で、同じアイデアに同時に挑戦しているベンチャー企業が複数あることが多いです。どのみち、製品やサービスをプロモーションするには市場に説明する必要があります。プロモーションを始めたとたん、アイデアは公開されるので、誰でも真似たり改良したりできます。

4) 私の独創的なアイデアが他人に知られると、彼らが先にそれを商品化して、アドバンテージを私から奪い去ってしまうかもしれない

仮に本当にアドバンテージがあったとしてもそうはならないでしょう。

残念ながら、あなたの一挙手一投足を見て、すぐに真似ようとしている人はまずいません。

むしろベンチャー企業が市場である程度成功するまでは、既存の企業はあまり気にしないものです。ベンチャー企業の90%は市場にインパクトを与えずに失敗するわけですから、既存の企業がすべての小企業をやっつけるのは無駄です。

5) 私のアイデアを機密扱いにすることによって、自分のアドバンテージを維持できる

非常に稀なケースを除いて、これは単純に間違っています。アドバンテージなんてそもそも無いのです。

ベンチャー企業が成功する本当の理由
ベンチャーが成功するのは、新しいアイデアとか市場に最初に参入することではありません。成功するのは以下の理由です。

  • 単純な運:これが一番大きな成功要因です。開発当初は気付かなくても、製品と市場とタイミングがぴったり一致すること。破産する2日前に入った巨大な注文。巨大な顧客をたまたま知っている人脈。そんなことです。
  • 実行:細かいことに注意すること。経費の節約。すべての顧客を満足させること。約束以上の成果を出すこと。
  • フォーカスを維持すること:顧客を獲得して利益を出すことが目的であることを忘れては行けません。内部の政治に邪魔されないように。そして失敗してもモチベーションが下がらないように。状況が悪いときに会社をまとめるには強いリーダーシップが必要ですが、これをやらないといけないのです。

なお、このブログ記事のコメントの中で、著者はベンチャー投資家がNDAを結ばない理由を具体的に示しています。

  • ベンチャー投資家がNDAを結ばないのは法的なリスクが生じるから、そして裁判において、秘密を漏らさなかったことを証明するのが難しいからです。
  • 例えばWeb 2.0とIPフォンに興味があるベンチャー投資家がいたとします。投資先を探して、4つのベンチャー企業を見つけました。これらの4つの企業はほとんど同じWeb 2.0対応IPフォンを開発しています。ベンチャー投資家がこの4つの会社とすべてNDAを結びました。そして1つの会社にだけ投資しました。そのときNDAを忠実に守り、他の3つの会社の情報はもらしませんでした。
  • これらのベンチャー企業が互いに情報を公開し、お互いの存在を確認したとき、このうちの1つはベンチャー投資家が情報を漏洩したと嫌疑をかけました。そしてベンチャー投資家をNDA違反で訴えました。
  • 裁判ではベンチャー投資家は弁護が困難です。「正しい」ことを実行し、資料をすべて破棄していればなおさらです。NDAは広く解釈できる書き方になっていることが多く、またベンチャー投資家にはNDA違反をする十分な能力と動機があります。
  • 神経質な起業家はしょっちゅうベンチャー投資家を訴えています。ですからベンチャー投資家はNDAを結ばないのです。

他にも類似の記事のリンクを以下に並べました。

まとめ

ベンチャー投資側の立場のブログをいくつか紹介し、ベンチャー投資家がNDAを結ばない理由を解説しました。

  • そもそもNDAなんて価値が無い
  • NDA違反で訴えられると大変

まとめると、これに凝縮されると思います。

ベンチャー投資家じゃなくても、NDAに百害あって一利無しというケースはしばしばあります。

アメリカのクロンテックの研究所にいた友人が、NDAに似たMTA (Material Transfer Agreement)で、やはり言いがかり的なことで訴えられてしまっていました。

NDA, MTAなどの契約を結ぶときはくれぐれも慎重にすること、そしてむやみに結ばないこと。私はその重要性をこのときに認識したわけです。

在宅勤務(テレワーク)について:経験者からのアドバイス

昨日のブログにテレワークの利点について、エコノミスト誌の記事を引用して紹介しました。

今日は実際にテレワークを長年実施している人物からのアドバイスを紹介します。WebWorkerDailyという、インターネットで仕事をしている人の情報交換ウェブサイトからの、“14 Things Corporations Can Learn from Seasoned Web Workers”(「長年ウェブで仕事をしている人から企業への、14のアドバイス」)という記事です。

以下には14ではなく、ポイントになる5つだけ抽出しました。

  1. 物理的に会社に来ているということと、仕事をしていることは関係ありません:会社に来ていたとしても仕事をしているとは限りません。逆に会社にいないからと言って、仕事をしていないという訳ではありません。様々なプロジェクト管理ツール時間管理ツールを使えば、管理職はテレワークしている社員の状況を簡単に知ることができます。(僕は個人的にはBasecampを使っています。紹介記事
  2. 一度も顔を合わせなくても、顧客と強い関係を持つことはできます:WebWorkerDailyに投稿している人の中には、一度も顧客に直接会わなくても、何年も商売をしている人がいます。ビデオ会議や電話、電子メールだけでコミュニケーションをすることはもはや「親しみが無い」というものではなくなっています。
  3. 社員はそれを望んでいます:職場での考え方は「仕事をするために生きている」というものから「生きるために仕事をしている」というものに変化しています。テレワークをし、出張を減らし、私生活のレベルをあげること。これは多くの社員の願いです。
  4. 高額なテレプレゼンス機器は不必要:無料や安価なテレカンファレンスのシステムは既にたくさんあります(FreeTeleconference.com, Skype, WebExなど。ぼくはMacのiChatを使いました)。これだけで十分に高い効果が得られます。高額なテレプレゼンスシステムは必要ありません。特にチャットやTwitter(「いまプレゼン作っている」とか「これから昼ご飯」などの小言を共有する超話題のシステム)を併せて使えば、その場にいる雰囲気があります。
  5. 電子的に記録が残る:テレワークに使われるツールは、大部分が記録機能をもっています。ミーティングから掲示板システムに切り替えることによって、組織内での知識の共有が簡単に掃かれます。