在宅勤務について。エコノミスト誌の記事

エコノミスト誌に在宅勤務(テレワーク)の利点と問題点について書いた英文記事がありましたので、要点を紹介します。

  • アメリカの全会社員の1/4は、昨年のうち少なくとも1週間を在宅勤務しました。そして過半数の企業で何らかの形の在宅勤務が許容されています。ヨーロッパはこれよりさらに進んでいます。
  • アメリカの3,300万人は在宅勤務可能な職に就いています。この人たちが在宅勤務をすれば、石油の輸入は1/4減らせ、二酸化炭素の排出は年間6,700万トン減らせます。通勤時間で言えば、25日間の有給休暇相当を在宅勤務によって得ることができます。
  • オフィススペースなどは社員一人当たり年間$10,000に上ると見積もられますが、在宅勤務によりこれを半分に減らせます。
  • 在宅勤務を許容することにより、より能力が高い社員をより安い給料で雇うことができます。
  • American ExpressやBritish Telecomなどの経験によると、オフィスで働く社員よりも在宅勤務の社員の方が30-40%ほど多くの仕事ができたそうです。
  • 孤独感を感じること、および仕事・家庭生活のバランスが崩れることが在宅勤務のマイナス面としてクローズアップされています。
  • 電子メール、留守番電話、電話会議とチャットが多く利用されていますが、これではぎりぎりなんとか間に合っているにすぎません。「存在感」を電子的に実現する必要があります。
  • 幸いに、ビデオ会議システムなどが安価に使えるようになってきているので、これも広く使える状態になってきています。(ここのあたりで、なんだかうさんくさいスポンサー記事に聞こえてきますが)

さて僕の感想ですが、アメリカでこれだけ利点があるんだったら、東京はなおさらだよねって思いました。根拠はざっとこんな感じです。

  • オフィススペースは東京の方が高い
  • 東京でつとめている社員は1時間を超える通勤時間で疲れきってしまうので、在宅勤務に変更することによる生産性のプラスは大きいはず(2時間半の通勤時間は、就業時間(8時間)のなんと28%です!!)
  • 東京は他の都道府県よりも社員の給料が総じて高い

日本では朝日新聞にこんな記事が載っていますが、とても面白いのが人事院のテレワーク研究会の報告書の要点。「上司が部下と直接顔を合わせないことに、幹部職員らが抵抗感を抱いていることが障害となっていることも想定される」、「幹部の意識改革が必要」。

それは幹部の意識の問題なのか、幹部が新しい通信技術の活用法を理解できていないのか。僕は断然後者だと思いますね。平成19年度年次経済財政報告「−生産性上昇に向けた挑戦−」にもありますが、日本は経営幹部のITレベルが低すぎる。

日本の企業幹部のITリテラシーのなさが、ここでも日本の未来の足かせになっている、と僕は感じました。

あるベンチャーの7つの決定的失敗

Wall Streetの元投資家で、複数のベンチャー企業の取締役になっている Roger Ehrenbergが、Monitor110という投資情報を集積する技術を開発していたベンチャー企業の失敗について語っているブログがありましたので、一部紹介します。(翻訳調で書きますが、実際には一部分のみを書き出しています)

Rogerは7つの決定的失敗 (Seven Deadly Sins) があったと解説しています。

  1. 最後の決断を下す、一人のリーダーが欠けていたこと(リーダー2人体勢の問題)
  2. 技術を担当する組織と、製品を担当する組織の区別が曖昧だったこと
  3. PR を早くやりすぎた、多くやりすぎたこと
  4. お金がありすぎたこと
  5. 顧客との距離が十分に近くなかった
  6. 市場の現実に対応するのに遅すぎた
  7. 会社と取締役会とで、戦略の不一致があったこと

リーダー2人体制について

Jeffという技術出身の人が技術と製品を担当し、RogerはWall Street投資家の経験を生かして資金集めをするという体制でした。でも結局、本当に難しい決断はこの体制では下せませんでした。JeffもRogerも組織の方向性を変える権限が無かったのです(失敗#1)。

製品を出すこと vs. 研究プロジェクト

より良い製品を開発するまで待つか、それとも不十分な製品をとりあえず出して、フィードバックを集めるか。そのとき、前者を選んでしまいました。後から考えると後者を選ぶべきでした。前者を選んだことによって、顧客との距離が開いてしまいました(失敗#5)。また技術担当と製品担当の区別が曖昧だったために、技術先行の研究プロジェクトが長く続いてしまったのです(失敗#2)。何となくは気付いていたのですが、起業家としての経験不足で遠慮してしまってか、アクションを起こせなかったのです。

しかもこのときにFinancial Times紙 (世界的に権威のある英国の経済新聞)の一面に載ってしまったのです(失敗#3)。そのため、なおさら中途半端な製品を出すことが出来なくなってしまったのです。またお金も集めやすくなったので、顧客との距離を置きやすくなったのです。

お金がありすぎた

お金がありすぎたために、非効率な組織構造と的確でない決断を続けることができました(失敗#4)。ケチケチとした利益志向になるようなプレッシャーが無かったのです。お金が潤沢にあったので、製品を顧客に見せる必要がありませんでした。本質的な技術上の問題があっても、それを直視するのが遅れました。お金がありすぎたことが根本原因で、他の6つの決定的失敗を繰り返す羽目になったと言っても過言ではないでしょう。これが教訓で、いまではこの問題に非常に神経質です。ある会社が、真に必要な金額以上に資金を集めようとしていたら、強く反対します。

投資家の期待 vs. 市場の現実

失敗#6, #7に関連して。

お金を集めたときは、ウェブから自動的に情報を取り出し、それぞれの情報の信憑性と有用性を解析するシステムというビジョンを売り込んでいました。でも実際にやってみると、これは技術的に大変なことでした。信憑性の低い情報が混ざり、カテゴリー分けがおかしくなり、信憑性解析アルゴリズムがうまく当てられなかったりと散々でした。

そこで顧客に近い社員は全く違うアプローチを提案しました。情報のリアルタイム自動解析技術を売る会社としてではなくて、解析済みで品質管理も行われた情報を売るようにしたいと。

しかし、失敗#1と失敗#2の影響もあって、これは社内の分裂を招きました。何ヶ月間も社内で議論が行われ膨大なコストがかかりました。最終的には方向性を変えましたが、会社の士気は大幅に下がり、経費インパクトも大変なものでした。

BTJの「人財」サイトはまじめにやっているの?

BTJの「人財」サイトについて、Webmasterの宮田 満さんから。

情報が古いのは僕らのせいじゃないよ。掲載している人のせいだよ。彼らはけしからん。という趣旨の案内がありました。

BTJは少なくとも企業からの案内に関しては結構な掲載料をもらっているはずです。大学などからはもしからしたら無料かもしれないけど、それでも広告収入につながっているはずですから、「うちは知らんよ」という姿勢はあまりにも無責任です。

アップデート:
研究者個人が募集する場合を除いては有料らしいです。

しかも誠意やエチケットの問題と片付け、「この世界は狭いので、こうした情報は速やかに共有されてしまいます。」とBTJ Webmasterの宮田さんが脅しまで入れている始末。でも、実際にはほとんどの掲載者は単に忘れているか、もしくは面倒なだけではないでしょうか?それなのにこんなに悪者扱いするのですか?

古い情報が残ってしまわないで、常に鮮度の高い情報だけが残るようにするのは、これはメディア側の責任です。少なくとも古い情報はそれとわかるように、メディア側で工夫しないといけません。

労力をかけなくてもこれを実現する方法はいくらでもあるはずです。例えばこまめに掲載者に自動メールを送って、その返信が無ければ自動的に人材募集記事を消去するとか。

> 皆さんの誠実な対応を期待します。

この言葉はBiotechnology Japanにそのままお返ししたいと思います。

MacBookは愛着の沸くコンピュータ

Appleのウェブサイトに「東北福祉大学がWindows PCからMacBookにスイッチした理由」が掲載されていました。

利点はたくさん書かれていますが、以下に引用した言葉にAppleの魅力、そして一番大切なことが凝縮されているのではないでしょうか。

「MacBookを引き渡す際の講習会で“おおー”という感動の声が上がったんです。過去3年間、ノートパソコンを学生一人に一台配布してきましたが、これまでとは全く違う反応でしたね。女子学生なんかはやはり、箱を開けた瞬間に“かわいい!”と喜んでいました。iPodを配布するということも含めて、かなり反響は大きかったですね」

「MacBookは触っているだけでも楽しくて、愛着の沸くコンピュータ。それはすごく大事なことだと思います。」

企業の成果主義:ダイソンのCEOのコメント

普通の掃除機の数倍の価格でもどんどん売れてしまうダイソン社のサイクロン型掃除機。

そのダイソンのCEOとのインタビュー記事がNBOnlineに紹介されていました。その中で僕の考えにぴったり一致するところがありました。

 報酬についてしつこく聞いていたところ、マコートCEOは好業績と高報酬の話をしてから、次のように続けた。

 「CEOの私が最も落胆するのは、社員の誰かが給与や処遇、認知について不平を言った時。そうならないよう、私を含む経営陣は社員とコミュニケーションを深めることにコミットしている。我々は徹底してオープン。ダイソンで今何が起きているか、これから何をしようとしているか、あらゆることを社員に伝えるよう努力している」

企業の成果主義がどうして失敗するかについて、僕自身の経験談をブログに書きましたが、考え方はとても近いように感じました。

成果主義がうまくいかない根本的な原因は、経営者がビジョンや目標をしっかり示せないことにある。僕はブログでそのように書きました。ビジョンや目標、さらにそれを実現するプロセスがしっかりと共有されていないと、社員は自分の評価の基準を知ることができません。評価基準が曖昧だと、低い評価をもらったときに納得できなくなり、不平を感じることになります。そして大きくモチベーションを下げることにつながると。

人間というのは、低い評価を簡単を受け入れることができません。自分が悪いと思う前に、必ず環境や周りのせいにしようとします。そして環境や周りのせいにしていくうちに、自分の力だけではもうどうにもならないと感じるようになり、そしてやる気を失っていくのです。

ですから、低い評価がモチベーションを下げる方向に働くのではなく、発奮する方向に働くようにするのは容易なことではありません。社員が納得できるような会社のビジョン、そしてしっかりした評価基準が共有されていないと、成果主義は単にモチベーションを下げるだけになってしまいます。これは水が高いところから低いところに流れるのと同じぐらい,必然的なことです。人間はこういう風にできている動物なのです。必ずこうなってしまうのです。

これに対してダイソンのCEOは、会社で何が起きているか、これから何を使用としているか、あらゆることを社員に伝えることが重要だとしています。そしてそれが十分にできないと、社員が給与や処遇、認知について不平を感じることにつながると考えているようです。

まさにその通りだと僕は思います。

最後にダイソンのCEOの言葉をもう少し掘り下げたいと思います。どうして多くの経営者はあらゆることを社員に伝えるどころか、わざと隠したりするのでしょうか?コミュニケーションは不必要だと思っているからでしょうか?

僕が見てきた経験から考えると、それはコミュニケーションの必要を感じていないからではありません。そうではなく、議論に負けるのが怖いのです。自分に本当の自信が無いから、社員の中にいる論客を恐れているのです。そこで情報を隠して、自分の優位性を保つのです。別に悪意をもってやっている訳ではありません。動物なら誰もがもっている、単なる自己防衛本能です。

これについては長くなってしまうので、またきっかけがありましたらブログで話します。

企業の成果主義

議場の成果主義について、主にそれが”ひどい状況”にあることを紹介した記事がNBOnlineに複数紹介されていました。

実にいろいろな視点から成果主義の問題点が取り上げられていて、逆に何が問題なのかがわからなくなってしまっている感じがします。たくさんの記事はありますが、「それでいったいどうすればいいの」が全く見えない企画になってしまったようです。
「人はどうやって人を評価するべきか」。これが如何に大きな問題かがうかがえます。

さて、僕自身は成果主義を実施している企業を2社経験していて、管理職という立場で人を評価する側にもいましたが、いずれも”ひどい状況”であったことは確かでした。ですから、上述に書かれている記事が云わんとしていることはだいたいわかります。

ただそこで何が問題だったかをいきなり話してしまうと、上の記事のように多くのバラバラな意見に単に一つ別の意見を追加するだけになってしまうので、やり方を変えます。

そこで僕は、実際に成果主義の問題が起こるメカニズムを、自分が見た通りにミクロに追跡したいと思います。

ビジョンが形成されないメカニズム

僕が経験した会社はビジョンとか企業理念がしっかりしていませんでした。ビジネスに関する書籍では繰り返しビジョンの重要性が主張されているにもかかわらず、会社の経営者はそれを実感できていないようです。その結果、ビジョンは非常に曖昧なものになってしまっています。

しかし、成果主義にはビジョンが重要です。成果主義的に人を評価するシステムは、会社のビジョンや目標に対して、個々の社員がどれだけの貢献をしたかを見ます。ですから会社のビジョンが無いと、貢献する対象が無くなってしまい、評価ができなくなってしまうのです。ですから僕が経験した人事評価システムの中には、必ず会社のビジョンや目標が記載されている欄がありました。

問題はそのビジョンとか目標が作成されるプロセスです。このプロセスは実にみっともないものでした。

会社の経営陣はビジョンの重要性を十分に認識していないため、ビジョンや目標の作成は後回し後回しにしてしまいます。そして人事評価目標の提出の直前に慌ててビジョンを作成していました。当然、関係者と対話を繰り返し、お互いが納得できる目標が出てくるはずはありません。しかも自分自身も日頃からビジョンについて考えていないので、単なる思いつきでビジョンが出来上がってしまいます。

僕自身が経験した最悪のシチュエーションは、前日の社長の話を聞いて変な刺激を受けて、「すべての社員が営業だ。私も営業だ。」というのを20時間後に事業部のビジョンにしてしまった事業部長でした。そこまで狂っている人は稀としても、ビジョンや目標がこの程度にしか重視されていないのは一般的でした。

当然ながらビジョンは突然、ほとんど一人で決まってしまいますので、そのビジョンをどのように実現するかは全く共有されないで決定されてしまいます。つまりビジョンは机上の空論でしかないのに、人事評価の目標設定に取り込まれてしまう訳です。

単なる数値目標でしか評価されなくなるメカニズム

ビジョンというのは、判断と行動の規範です。それに対して金銭的な数値目標は、その行動を実践に移したことによって生まれた結果です。

上述のようにビジョンがしっかり決定されないと、判断と行動の方向性が生まれません。そのため、成果目標に行動やプロセスを盛り込むことができなくなってしまいます。ビジョンが無いので、何をやるべきで何をやるべきでないかが定まりません。つまり、ビジョンが確立されないことによって、プロセス重視の成果目標を立てることが不可能になる訳です。

プロセス目標が立てられないので、仕方が無いから数値目標、それも売上とか利益の数値だけが立てられます。最悪のシナリオです。しかも数値目標をどのようにして実現するかが明確にされていないので、この数値目標はエイヤーと決まったものにならざるを得ません。

もう一つ数値目標重視に傾くメカニズムとしては、現場をあまりにも知らない経営陣があります。このような経営陣の場合、プロセスを全く理解できないのです。彼らが理解できるのは売り上げがどうなったか、利益がどうなったかだけなので、自然と単なる数値目標を重視してしまいます。

数値目標といっても、その目標の適切さがわからない

上述のようにビジョンが無く、目標を実現するプロセスも明確にできない状況では数値目標に頼らざるを得ませんが、こうなってしまうと頼りの数値目標だっていい加減なものになってしまいます。

何が普通の努力で実現可能で、ちょっと背伸びするとどこまでできるかがわからないのです。プロセスが見えていないから。

そこで数値目標は自然と、対前年比何パーセントアップというのはおおよそ一律に設定するにとどまります。もしくは外資系などの場合は、本社から降ってきた数字をテキトウに配分して、つじつま合わせをします。そのテキトウというのは非常に不透明なので、とてもまずいです。

このいい加減な数値目標が設定される環境というのは、ものすごくモチベーションを下げます。お互いが平等な環境の中で実力をしのぎ合って、結果としてそれぞれに差がついてくることについては、ほとんどの人は納得するものです。しかしえこひいきだとか、政治的な巧妙さとか、そういうことで目標が低くしてもらったのではないかとお互いに疑い始めたらモチベーションは地に落ちます。

いい加減な数値目標が設定され続けると、最悪の事態を招きます。

そしてもう一周

モチベーションが下がっているのを見ると、「成果主義」の幻想に取り付かれている経営者は、給与のうちの成果報酬分を増やそうとします。結果責任をもっと強く追求すれば、みんなもっと必死になってくれるのではないかという期待です。そしてこれに加えて、いろいろなコンテストをやりだして、モノで部下を引きつけようとします。このときももちろんいい加減な数値目標を基準にしたコンテストにします。

もちろんやればやるほどモチベーションが下がります。でも「成果主義」の幻想から覚めないと、経営者はこれを何回でもやってしまうのです。

最後に

これが僕が自分で見た、成果主義が最悪の事態を招く過程とメカニズムです。

成果主義が悪いのではありません。でも成果主義をやる以上、経営者はなあなあな時とは比べ物にならないほどにビジョンと目標をしっかり立てて、透明性のある評価を心がけないといけません。

残念ながら、多くの経営者はその資質を持っていません。経営者にしてはいけない人間を経営者にしてしまっていること。これが日本の成果主義が機能しない理由だと、僕は思います。

「教えない教育」が眠れる能力を目覚めさせた

自分が最初に入社した会社の話ですげ、NBonlineに非常に興味深い記事がありましたので、紹介します(無料登録必要)。
協和発酵工業の「教えない教育」が眠れる能力を目覚めさせた

協和発酵に入社する40人の新人に対するMR(医薬情報担当者)導入教育の話です。どこの会社でもそうですが、医薬営業のMRとなる新人は、入社直後に医学薬学の猛勉強をして、MR認定試験に合格する必要があります。そのため、協和発酵では4月から8月まで5ヶ月の研修を受けるそうです。今回の話は、その教育をしっかり実施し、よりレベルの高いMRを如何にして育てるかの話です。

要点は

  1. 2005年度までは受講者がひたすらノートを取るという一方通行型の、詰め込み型の教育をしていた
  2. 「知識そのものではなく、知識の習得の方法を教える」という「教えない教育」に2006年度から取り組んだ。
  3. 「教えない教育」では、受講者に自ら目標設定をさせ、様々な情報源から知識を収集させ、討論させる。
  4. 各自で調べたことはグループ内で共有した上で、他のグループにプレゼンテーションする。そうして、自分の知識を整理する。またグループごとに交代でテスト問題を作り、他のグループにテストを受けさせる。
  5. 「教えない教育」は講義形式に比べて研修時間が大幅に増える。でも一旦覚えたことは忘れにくい。
  6. 「教えない教育」の成果は、結果としての売上増という形で確認するのではなく、毎日の活動報告書を分析することによって行った。売上増が見られるのは早くて数年後だが、活動報告書の分析は短期間で成果が確認できる。

この「教えない教育」は協和発酵だけでなく、他の製薬企業でも実施しているらしいです。

僕はこの「教えない教育」が非常に優れていると思うのと同時に、バイオの業界に非常に適しているのではないかと思いました。理由としては以下の点が挙げられます。

  1. バイオの営業に適した教科書はないと言っていいと思います。私自身、何回か探したことがありますが、生物学そのものではなく、最新の研究手法の技術的側面をしっかり解説した入門書がなかなか無いのです。詰め込みをしようにも、せいぜいできるのは自社製品をすべて説明するぐらいで、より広い知識を伝えるための教材を作るのは非常に大変です。
  2. バイオの技術は日進月歩なので、技術そのものを教えるのではなく、技術を学習する方法を伝えたほうが、長い目で見たときに効率的です。
  3. 顧客である研究者も、それぞれ「教えない教育」で実験や研究の方法を学んできています。顧客の思考回路を理解するためには、営業の人が自ら「教えない教育」を受けることが近道です。

そしてバイオの買物.comがその役割の一つとして、「教えない教育」を支援するポータルになって欲しいと思っています。ウェブに散らばっている様々な情報を、一カ所に集めて整理するのがバイオの買物.comの使命です。これが陰ながら研究者、メーカー営業、代理店営業、メーカー学術の「教えない教育」をサポートすることになればいいなと。

製品サポートの最前線:コールセンターの課題

NBonlineに顧客との最前線「コールセンター」に人材危機、このままでは「顧客満足経営」も絵に描いた餅という記事がありました。

コールセンターには本来非常に高い専門性が要求され、顧客との最前線としての重要な機能があるにも関わらず、社会および社内から大切にされず、結果として人材危機になっていることが紹介されています。

この記事で紹介されているのは火災保険の保険代理店向けのコールセンターですが、1)代理店は自動車ディーラーや修理工場などで、保険に習熟していない、2)保険が複雑化している、などの理由で、かなり保険に詳しくないと勤まらないそうです。なのに十分に大切にされないために、トレーニングを受けてスキルを身につけた人材が十分に確保できないというのです。

僕もメーカーのコールセンター(テクニカルサポート)について見たり聞いたりした中で、コールセンター業務の専門性の高さが十分に認識されていないケースをいくつも見てきました。どちらかというとまだまだベンチャー企業の香りが残っているような会社、つまり研究者出身もしくは現場の営業出身の人が経営者をやっている会社ではコールセンターは大事にされます。それに対して、畑違いの人が経営者となったりするとコールセンターは軽視されていくように感じます。これは合併によって例えば診断薬出身の経営者がバイオ部門に指図をしたり、最悪のケースはどこの現場にも詳しくない企画や経理出身の人がコスト構造だけを見て経営判断したときに起こるように思います。

コールセンターがどれだけ売上に貢献するかというのは、具体的な数字になりにくいので、どうしてもコストだけが目立ってしまいがちです。そこで畑違いの経営者は合理化と称して、コールセンター業務を一カ所にまとめるなどを実施して、現場を大混乱に陥れ、サービスレベルを低下させてしまう訳です。このような経営者はたいていジェネラリストで、専門的スキルを自分自身があまり持っていないこともあり、専門性を軽視してしまう傾向があるのです。

バイオの買物.comでは様々な工夫を通して、エンドユーザの声がメーカーに伝わるように仕掛けていきたいと考えています。そうやってコールセンターを含めた全体的なサポートが、実際にどれだけ売上に貢献するかを見えるようにできれば、業界全体のサポートレベルが向上するのではないかと思っています。

ウェブサイトが顧客離れを招くとき

NBonlineにあなたの会社のサイトは、顧客離れを招いていないかという記事がありました。

テレビCMをはじめととした広告で消費者の心をつかみ、ホームページでじっくり検討してもらって消費者の頭をつかむというのが、昨今のCMとインターネットの関係であるとした上で、そのウェブサイトのインタフェースが不十分であるケースが多いと指摘しています。それにも関わらず、ウェブデザインに投じられているお金が相対的に少ないとしています(掲載されていた図を下に引用しました)。

そして、こう述べています

Webサイトは、消費者との接触時間を豊富に取れる手段である。それにもかかわらず、Webサイトのインターフェースをなおざりにしがちなサイトが多い。高額の広告費をテレビなどに投入し、Webサイトに誘導することには成功しても、それが裏目に出ている場合がある。

 Webサイトへの接触時間が長くなればなるほど、顧客のロイヤルティが低下しかねない。皮肉をこめて言えば、わざわざ顧客ロイヤルティを低下させるために、膨大な広告費を各種メディアに投じている。そういう現象に見える。ユーザーインターフェースに接触するたびに、ユーザーのロイヤルティは高くも低くもなる。ユーザーインターフェースというものを、単なる使い勝手の良し悪しとだけで捉 えてはいないだろうか。

…….

ユーザーインターフェースほど、単価コストあたりのロイヤルティ向上期待値が高い戦略手段はない。広告費、販売促進費、サイトのユーザーインターフェース投入資金を総合的に評価しながら、ロイヤルティ向上のための最適なポートフォリオを再考する時期にきているのではないだろうか。

獲得した優良顧客を、Webサイトに誘導する度に、その顧客のロイヤルティを下げてはいないか。あなたの会社のサイトは、顧客離れを招いていないだろうか。

さて、バイオの研究試薬・機器業界ではマス広告にはそれほど力を入れないで、むしろ営業に力を入れています。しかし、図式としては非常に似ています。ウェブの使いやすさに投じられるリソースはわずかです。

僕自身がマーケティング・マネージャーをしていたあるメーカーでは、敢えて入社初年度はほとんど表向きのPR活動をしませんでした。その理由は他にもいろいろありましたが、大きかったのは、ウェブがまだまだ駄目だったからです。この記事に書いてあるように、駄目なウェブサイト客離れを起こすことを心配した訳です。ですから、あまり顧客をウェブに誘導するのは逆効果だなと。
そして初年度で一生懸命ウェブサイトを整備し、2年目以降は安心してPR活動をいろいろやりました。

ただ、それでもこの記事で指摘されているようなユーザインタフェースにこだわることはできませんでした。やはりリソースが全然足りなかったのです。

いま作っているバイオの買物.comでもユーザインタフェースは大切になります。その改善のツールとして使っているのが、以前も紹介しました4Qというアンケートツールです。訪問者のおかげで思いのほかにレスポンス率がよく、大変参考になっています。

でもよく考えてみると、ウェブだけじゃないですね。マニュアルや技術サポートへの投資が不足のメーカーも多いですよね。営業に力を入れている割には。

これようするに、
「釣った魚に餌をやらない」
というのが恒常化してしまっているメーカーが多いということか。

研究者向けの受託ビジネスの難しさ

研究者向けの受託ビジネスは難しいです。始めるのは簡単ですが、儲けるのは難しいです。

合成オリゴ業界の話題はしょっちゅう2chをにぎわしています。僕自身も以前にDNAアレイとかcDNAライブラリーの受託ビジネスを担当していましたので、その厳しさはよくわかります。

なんでそうなのか、ちょっと古典ですが、著名なMicheal E. Porterの5 Forces分析をするとすごくわかりやすいので紹介します。

5 Forcesでは以下の各項目がどうなっているかを市場ごとに見ていきます。

  • 新規参入業者の脅威
    • スケールメリット
    • 製品の差別化
    • 必要な投資資本
    • 製品切り替えのコスト
    • 販売チャンネルへのアクセス
    • ノウハウ、早いもの勝ち的要素など
    • 国家政策
  • 企業間の競争のし烈さ
    • 競合はドングリの背比べか
    • 市場成長は鈍っているか
    • 固定費が高いか
    • 差別化が無く、切り替えコストが低いか
    • 戦略的に重要な市場か
    • 撤退障壁が大きいか
  • 代替品の脅威
  • 買い手の交渉力
  • 供給企業の交渉力

その他、細かく書いていくと大変なのでここのあたりでとどめます。

でもこれだけ書けば、どうして研究受託ビジネスが大変かがわかりますよね。合成オリゴ業界について書きますが、多くの部分は他の受託でも同じです。

  • 超少量多品種なので、スケールメリットが出にくい。仮にスケールメリットを出すとしても、それはすべて購入している機械や試薬の性能に依存するので、結局は供給企業の交渉力を強めているだけ。供給企業はかなり寡占なので、1受託メーカーに大量に安く卸すよりも、複数メーカーに少量ずつ高く卸した方がいいので、ボリュームディスカウントはそんなに効かない。ここら辺はClayton Christensenの「イノベーションのジレンマ」の方が細かく分析しています。
  • 製品の差別化はできていない。また市場成長は鈍ってきている。
  • 国のベンチャー支援もあり、資本を調達することが簡単。
  • 日本の代理店制度のおかげで、販売チャンネルは比較的簡単に確保できる。代理店が在庫をする必要がないこともあり、代理店としてはリスクがない。
  • 撤退障壁は大きい。研究受託しかやっていないベンチャーが多いので、撤退するということは会社が無くなることを意味する。最後までついつい戦ってしまう。

ということで、5 Forces分析をすれば、参入するべき市場ではないと言えると思います。割と当たり前に。

もっとも5 Forcesは絶対的ではありませんので、これを超えたイノベーションができればうまくやれるのですが、ただ単に普通にビジネスをやっていたのでは泥沼にはまる運命にあるのはわかってもらえるかと思います。

非常に教科書的なことなので、MBAでこの泥沼にはまっている人がいたら、その人はなんちゃってMBAかもしれませんね。